Re: Growing Comedian ( No.1 ) |
- 日時: 2021/03/31 19:53
- 名前: のの
- 書いてる途中。
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Re: Growing Comedian ( No.2 ) |
- 日時: 2021/04/04 10:17
- 名前: のの
- 綾波レイの家は、ここから歩いて20分、第三新東京市が現在の実験都市――もちろん実際には使徒迎撃用要塞都市として――として再開発されるセカンドインパクトより前からあった、第二次ベビーブームの頃に建てられた団地の一棟の一室にある。シンジたちの住んでいるマンションはその未開発区画の手前にあり、再開発の手が入った最後の区画でもあるため、都市全体からすれば同一区画に入る。それでも人の少ない、セカンドインパクトの爪痕が残る区域に足を踏み入れるのは気が滅入る。仮にその行き先が彼女の家だとしても、それとこれとは話が別だ。
前に彼女の家に入ったのも、もう半年近く前のことかと思うと、この間にあった様々な出来事、戦いの数々に目がくらみそうになる。日差しはきついほどでもなく、山肌から降りてくる風は最初に思ったよりも涼しかった。もしかしたら長袖を着てくるべきだったのかもしれない。 赤信号だが車が通らなさそうだったのでそのままの歩みを止めずに横断歩道を渡った。巨大な使徒をエヴァ3機で受け止めたりしたのはいつだったっけ。帰りに食べたラーメンは美味しかった。父さんに褒められた喜びは、今思い出しても胸に興奮が広がって目が覚めるような感覚がよみがえる。 それに比べて、たどり着いたマンションの思い出は最悪だ。できることなら消し去りたい。消し去りたいのに、脳裏に焼き付いて離れない、白い肌に残る水滴と香り。叩かれた頬の痛み。間違っていたのだろう、あんな父親なんて、と言った言葉が「よくやったな、シンジ」という言葉と隣り合って恥じた。
403のチャイムを押すが、鳴っている気がしない。これは前の通りだ。扉をたたいてみても反応がない。ドアを開けようとすると鍵がかかっていた。これは前の通りじゃない。郵便ポストにたまったチラシを見る限り、ここにIDを差しておくのは最悪だろう。そもそも手渡しでしか支給されないIDだ。 仕方がないので、携帯電話を鳴らしてみる。彼女に電話するなんて初めてだった。 電話はすぐに出た。
『はい、綾波です』 「あの、碇だけど」
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Re: Growing Comedian ( No.3 ) |
- 日時: 2021/04/18 12:28
- 名前: のの
- 葛城ミサトが想定する基本戦術は、エースであるアスカの弐号機を他両機がフォローする形となっている。故にアスカは基礎・操縦どちらの訓練でも近接戦闘の得物を重視している。方や初号機はエヴァと使徒の戦いの最重要事項であるA・Tフィールドが強く、使徒のA・Tフィールドに干渉、中和すると同時に、アスカの盾ともなる動きを求められる。防御寄りの立ち居振る舞いと機動力を損なわない射撃専用武器の取り扱い、近接戦闘時にはコンバットナイフによる防御と距離の取り方などが訓練の主となっている。そして零号機はシンクロ率低いためA・Tフィールドが弱い。そのため長距離用射撃武器による後方支援と戦況をコントロールするための振る舞いが求められる。葛城ミサトのパイロットへの適性の見極めは早く、アスカ来日直後に既にその判断を下していた。訓練日は合同訓練が週に1日、個人ごとの訓練が週に4日となっている。例えば、綾波レイは月〜木の4日間が個人訓練が課せられている。
学校後の綾波レイはネルフへ直行し、個人訓練を16時半から開始する。マルチタスク処理のための状況処理や判断の速さを上げるために絵とカードを使ったトレーニングなどや身体の使い方を学ぶための体操が月曜日のメニューだった。終わると頭がくたくたになるこの訓練を終えると、シャワーを浴びたら本部の宿泊施設を使うのがいつもの彼女の定番だった。家まで帰る時間より眠る時間の方が重要だった。
眠ればまた朝になる。朝になればクリーニング済みの服に着替えて学校に行けばいいから、不都合は何もない。ただし、この日は食堂の冷房設備が故障して夜の時間の営業を停止していた。それを知らなかったレイは食堂の前まで来て初めてそのことを知り、夕飯を食べ損ねた自分を知った。腹ごしらえをして眠くなった身体をすぐにベッドに沈めることは叶わなくなったようだった。彼女は真新しい時計のウインドウからアプリを立ち上げ、自宅い一番近い出口へ移動できる軌道エレベーターの手配をかけてジオフロントへ出た。偽りの夜と風が髪を撫でる。くせの強い髪がかさかさと頬を撫でるので、彼女は髪を耳にかけて歩き出した。少し髪が伸びていることを知った。
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Re: Growing Comedian ( No.4 ) |
- 日時: 2021/05/16 22:51
- 名前: のの
- 宴のはじまり。
喜劇のはじまり。
それもこれも、所詮は児戯にすぎないけれど。
Growing Comedian EPisode 18 CHILD HOOD
翌朝も4時に起きて、早朝ランニングへ出た。 昨晩はすぐには眠れなかったが、なにしろ毎朝早いので、布団にもぐればいやでも眠気は訪れる。まだ外は真っ暗で、早朝と言うには夜が粘り強い2月だった。それでも先月よりはかすかに明るい。こうした移り変わりを日に日に感じられるので、半年前から始めた早朝欄はほとんど欠かさずやってきた。 5キロを30分かけて走った後は、200m走を10本。腿上げとスクワット、フットワークのトレーニングを終わらせてシャワーを浴びる。シャワーは裏手の工場に付いているものを使った。その方が静かだ。着替えは家を出る時に持ち出しているので問題なく、洗いざらしたシャツとジャージを着て、起きてきたと祖父と三人で朝食となった。今朝の様子は昨晩のやりとりの尾を引くことはなく、ピリピリしたムードは特に感じない。最近来た使徒は収穫物がなく、今はすでに回収した物の整理と流通経路の確保に奔走しているらしいことは理解していたので、二人の動きも比較的落ち着ている方だった。本業の鳶の仕事もある。再開発の手が伸びなかった旧市街の団地の区画整理だ。先日は弁当を忘れた二人に届けるためそこに出向いたが、その途中のコンビニで休憩中、青い髪のクラスメートが入ってきたのを見たときは驚きのあまり声が出そうになった。会ったところで話す話題もないのでそそくさと出てきてしまったが。二人に弁当を届ける時にはじめてその団地群を目にしたが、いくらか人が残っているとはいえ、朽ちかけの集合住宅の不気味さは尾てい骨あたりがむずむずするような落ち着かなさがあった。以前シンジから綾波レイが住んでいる場所の大体を聞いていたのだが、実際に足を踏み入れてはじめてそのことを思い出した。あんなところに住んでいる人がどういう神経の持ち主なのか、それこそ綾波レイであればどこ吹く風なのかもしれないが。 前日から中身を変えていない鞄を抱えて学校に向かう。朝日はすっかり上って晴天の空を青く染めている。この太陽が工場のトタン屋根を照らしている。それならばなにもかも晒してくれれば……そう思ったところで、それが実現したとして、サクラが病棟の外へ出られる希望は見えなかった。 教室に入るなり突っ伏して『朝の昼寝』と内心で名付けているひと眠りをしていると、どういうこと、という語気の荒い声が聞こえた。身体を起こしてみると、確かめるまでもなく惣流・アスカ・ラングレーの声だったので、猫のようにもう一度身体を丸めた。 「お弁当なんで作ってきてないわけ?なに、アンタはわたしを困らせたい感じ?」 「いや、そうじゃなくて、昨日は宿題やってて遅くなってさ……」 「宿題はいい、勉強は学生の務め。でもお弁当作りもアンタの務めでしょうが!」 「んな無茶苦茶な……たまにはアスカが作ってくれたって」 「なんでアタシがあんたのために昼飯作んなきゃいけないのよ!」 「僕はいいのかよ!」 「アンタはいいの!」 理不尽な喧嘩をふっかけられている友人の困った声の弱弱しさがおかしくて、眠りは妨げられてしまった。身体を起こして伸ばすと、斜め左前にいる綾波レイが眠たげな表情で二人のやりとりを聞いているのが見えた。 「なんやねん朝っぱらから……夫婦喧嘩も大概にしてほしいわ」
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Re: Growing Comedian ( No.5 ) |
- 日時: 2021/05/28 16:35
- 名前: のの
- 掃除の時間が終わるころには教室に戻ってくることができた。クラスメートからは校内放送で呼び出されたころをからかわれたが、それに応えていると気持ちは少しラクになった。こってり絞られたわ、めっちゃ怒られたわ、こないだ学校サボってゲーセン行ったんがばれてしもうたんやー、と騒いでいるうちに授業が始まってくれた。
放課後には、シンジの訓練がないから、今日はどっか遊びに行こうぜ、というケンスケの誘いを断った。今日は日直やってん、そのあとすぐ病院行かなあかんし。申し訳なさそうなシンジの顔を殴りたい衝動を抑えて笑顔で手を振る。渚カヲルが顔をのぞかせ、その飄々とした顔を蹴飛ばしてしまいたくなっても我慢した。 「全員帰ってから片付けするけえ、みんな早う帰ってや」 シッシと追い出す仕草で、女子からブーイングされる。何だよ鈴原のくせに、とかなんとか。その急先鋒であるべきはずの少女がさっさと帰ってしまっているのを見つけ、トウジは気持ちの中で手を合わせた。 全員帰って欲しかったのに、委員長の洞木ヒカリだけは、委員長の仕事で3年生への進級時に、下級生への引継ぎ事項と上級生からの引継ぎ事項を確認する作業がある、と言い、教室に残っていた。だから気にしないで、と言われたので仕方なく机の整理整頓やら、黒板けしの掃除をし始める。放っておくと動きがのろまになってしまいそうなので、いつも以上の気合いが必要だった。黒板消しをきれいにしながら思う。こんなことやっとる場合やないのにな。 スチール製のゴミ箱を抱えて学校裏の集積所へまとめて捨てて戻ってくる。洞木ヒカリはその間に帰ってしまったらしく、教室にはもう誰も残っていなかった。 感じたものにそっと蓋をする。それには慣れているはずだった。母が死んだ時もそうだった。祖母が死んだ時も。こういう時にはそうしてきた。目の前にいる自分よりか弱い存在が、くよくよした気持ちを忘れさせてくれもした。自分の荷物をまとめる。ポケットの中の名刺は鞄の内ポケットに放り込んだ。電話番号が書かれたメモの先客。そこに入れて立ち上がり、教室を出て扉を閉めた。空っぽの教室が夕日に染まりつつあった。世界は今日も太陽を中心に動き、夜の帳が下りつつある。それは肉体の活動的な世界の終わりであった。第三新東京市は夜になれば省電力モードになり、一部を除いた施設は早めに閉店してしまう。だから皆早々に家路につくので、この時間のスーパーや道は混みがちだ。今日は病院に行く時間があるだろうか、と玄関の扉の上にかかっている時計を眺めると、まだ4時半、モノレールを使えば5時すぎには着く。 下駄箱まで来ると、先に帰ったはずの少女が立っていた。彼女は自分を見るなり、目をそらした。 「なんや委員長、どないしてん」 「どうかした?校長先生」 「おお、ぎょうさん怒られた」 「そうなの?」 「そや、怒られるようなことする方が悪いんやけどな」 はっはと笑った。笑い飛ばしてみせた。
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