Re: バレンタインワインLRS競作企画 ( No.1 ) |
- 日時: 2022/02/14 22:45
- 名前: 史燕
- 初めてのワイン
「そういえば昨日、ワインを貰ったんだ」 唐突に、彼が言った。 「外は雪がひどいから」そんな理由で、外出を控えたその日の夜。 ワインはおろか、アルコールの類を普段嗜まないことはお互いにわかっている。だからこそ、彼がおもむろに取り出したコルク付きの瓶をこうして見るのは初めてで、もの珍しかった。 「かろん?」 大きなハートマークの中に「Calon Segur」と書かれているそれを、彼は慣れた手つきで開封した。 「綾波の口に合うかはわからないけど」 そう言いながらグラスが深紅の中身でゆっくりと満たされた。 『ガキには10年早いわ』と口にする、ビールを愛飲する10年来の友人の顔を幻視した。 「問題ないわ」 反射的に、そう口にしてしまった自分は、それこそ子供っぽいのかもしれない。だけど、せっかく碇くんが用意してくれたのだから、口を付けないという選択肢はすぐさま消え去っていたのだ。 彼に差し出されたグラスを、ゆっくりと傾け、ひと口、深紅のそれを口に含む。 鼻に抜ける芳醇な香りは嫌いではない。だけど、どことなく渋く、好んで飲みたいものだとは思わなかった。 でも、ここでそんなことを正直に口にするのは負けたような気がして。 彼と一緒にこのワインを楽しめないというのは、とてももったいないような気がした。 だから、本音を隠して声にした言葉は正反対。 「おいしかった、ありがとう」 まだ嚥下しきれていないそれを、必死に飲み下す様が目立たないよう隠しながら。 だけどそんな私の様子は彼には全部お見通しのようで。 「碇くん?」 とがめる色を乗せた台詞とともに向けた視線から、彼の双眸はそおっと脇へと逃げていった。 「何、笑ってるの?」 「……笑ってないよ」 「笑ってるでしょう?」 「いや」 「碇くん?」 どんどん険しくなる視線を意に介さず、彼は煙に巻こうとごまかし続ける。 「っ、ふふっ」 しかしその防波堤も、どうやら決壊したらしく。 「……やっぱり笑ってる」 「ちっ、違うよっ、ふふっ、あははははは」 彼の言葉と表情がこれほど合致していない姿も、初めて見たかもしれない。 わかっていたけど、わかってはいたけれど、これほどあからさまに大笑いされるのは、やはり心外。 「ちょっ、何をするんだよ綾波、あっはははは」 「悪いのはこの口ね、この口なのね」 思いっきり彼の頬を引っ張って見せた私は悪くない。あんまり痛くないように、ほんとに引っ張るだけにしてあげる。 「僕も飲んでみよう」 解放してあげた瞬間、さっと私の前のワインを手に取りひと口。 そこ、私が飲んだのと同じ場所。 「うん、やっぱり渋いね」 さんざんひとのことを笑いものにしたその口で、そんなことを言ってしまうのだからたちが悪い。 「碇くんも、苦手なんじゃないの」 「うん、ワインなんて初めてだからね」 そう言いながらふた口目を口に含み、「香りはいいんだけど、やっぱり慣れないね」なんて空になったグラスを置く。 「だけど、バレンタインにって勧められたからね」 「どういうこと?」 「昨日プレゼントしてくれた人が言ってたんだ。『バレンタインには好きな子とこいつを傾けるもの』なんだって」 ほんとうに、ほんっとうに、目の前の彼はたちが悪い。
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Re: バレンタインワインLRS競作企画 ( No.2 ) |
- 日時: 2022/02/14 22:55
- 名前: れい
- トマトジュースがお似合い
"Je fais mon vin a Lafite et a Latour, mais mon coeur est a Calon." 『ラフィットとラトゥールを造る我であるが、我が心はカロンにあり』 印象的なハートマークのエチケットを見下ろしながら栓を開けた。 途端に広がる果実の香りが鼻をくすぐる。これを僕に贈った相手の顔を思い浮かべた。あの有名なエピソードを知らないわけはないだろうに、わざわざこの銘柄を選んだのは偶然なのか、わざとなのか。 あまり深く考えないことにして、堂々と彼女との食卓に持ち込む。やましいことは何も無い。それにお酒に罪は無いしね、by葛城ミサト──っと。発言を他人に押し付けながら、一つしかないグラスが赤い液体に満たされていくのを見つめる。 「それ、なあに」 いつの間にか隣に来ていた彼女が、興味深そうにこちらを伺っていた。 「貰い物のワインだよ。……綾波の口には合わないかもしれないけど」 加工品含め、肉を全く口にしないことに始まる彼女の好き嫌いの激しさを考慮した言葉だった。しかし動きの少ない表情の中にあからさまにむっとした色が滲むのを目にすると、子供扱いしていると勘違いされたのかもしれない。 「問題無いわ」 「そう?じゃあ試してみる?」 僕は彼女の向かいに座り、小さな二人掛けのテーブルに頬杖をつく。細い指が透明な脚にかかり、透きとおる真紅がグラスの曲線に沿って形の良い唇に吸い込まれていくのを見ていた。 吸血鬼みたいだな、なんてとりとめもない考えが浮かぶ。作りもののような青白い肌に、吸い込まれてしまいそうな赤い瞳。長い睫毛が照明の光を遮り、虹彩にゆらゆらと細い影を落としていた。 いつもと何ら変わりなく見える涼しげな眉に、一瞬だけ皺が寄る。まばたきをした隙に元の澄ました顔に戻っていた。 あれ、と思った矢先に、僕は単純明快な一つの答えに気づいてしまった。 ──口の周りに力を入れて、意図して口角を水平に保つ。視線は彼女の上を離れて、机と熱く見つめあいながら押し寄せる波が収まるのを待った。 「美味しかった。ありがとう」 目を伏せながら彼女が言う。心做しか声のトーンもいつもより低い。ゆっくりと持ち上げられた瞼の奥が、僕の様子に気づいて訝しげに細められる。 「何笑ってるの、碇くん」 「……笑ってないよ」 笑ったら綾波に悪いし。 「笑ってるでしょう」 「いや、」 喉が震える。 「碇くん」 こちらに向けられる目線が険しい。尋問される容疑者はこんな気持ちなのかなあと思考を斜め上に飛ばし必死に気を逸らす。今にもボロが出てしまいそうだ。これ以上、余計な口は開けない。 綾波が、いつだって大人びた顔を崩さないあの綾波が、こんな小さな子供みたいな強がりを口にするだなんて。こういう背伸びは、いつかの赤髪の少女のやりそうなことだと思っていた。 意外な一面を覗き見ることが出来た、と緩む頬を抑えちらりと彼女の顔を伺った時、ふと頭の隅をとある考えがよぎる。 彼女の表情に、どこか寂しさが混じっているのは見間違いじゃないはずだ。てっきりワインの渋味で沈んでいるのだと思い込んでいたが、そうではないとしたら。人からの贈り物を不味いと言ったら、僕の気を悪くするかもしれないとでも考えているのだろうか。 いいや、もしもらしくない背伸びをした理由が、僕と同じ物を飲み、同じ時間を共有するためだとしたら?彼女の独特な嗜好に合わせてメニューを考えるのが僕の常だった。せっかくだから一緒にいる時くらい綾波と同じものを食べたいなと言う僕に、彼女は度々申し訳無さそうな表情を浮かべていた。 ……彼女の気遣いを無駄にしたくなくて、とにかく必死に唇を噛んだ。今、僕が彼女のためにできるのは沈黙を貫くことだけである。 「っ…………ふふ……」 五秒と保たなかった。もう何をやっても墓穴を掘るだけだ。眉を八の字に寄せて鼻を鳴らす。 先程とは打って変わって、愛しさから漏れた笑みだった。何を食べるのかなんて気にしなくていいのに。僕は綾波の為を想って──いや、綾波は僕の為を想ってるのか。 互いに気を遣って意地張り合って、なんだかひどく馬鹿みたいだ。首筋がこそばゆくざわつき、じわりと温度のあるものが胸に広がる。 「……やっぱり笑ってる」 目の前に彼女の顔があった。テーブルに身を乗り出し、表情を確認するかのように頬を引っぱり顔を覗き込まれる。 たちまち表情筋の均衡が乱され、堰を切ったように声が流れ出す。 「ち、違……ふふ……あはははは!」 「そんなに、笑うこと、ないわ」 表情は頑ななままだったが、つられたかのように彼女の声にも引き攣った震えが混じる。 「綾波もっ…あは、笑ってる、じゃないか」 「……笑ってない」 終わりのない押し問答の最中、顔を見合わせ互いに声をたてる。今この瞬間がたまらなく幸福。
はぁ、と一息ついて呼吸を整えた。どれくらいそうし続けていたのか。脳が久々の十分な酸素の供給に、少しずつ冷静さを取り戻していく。 意外と笑い上戸なのね、碇くん──という言葉と共に、今の自分の状況を理解する。 白い壁と見慣れた天井に囲まれ、呆れたような微笑んでいるような目をした彼女と狭い部屋で二人きり。つい先ほどの失態が思い起こされる。左の頬にまだ彼女につねられたひりひりとした感覚が残っていた。白い指の感触も。 「引っ張りすぎたかも」 てのひらが再び僕の頬に近づく。あの時はそれどころじゃなくて、全く気にも留めていなかったけれど。少しずつ近づく距離を意識しないように努めたが、触れた瞬間に露骨に肩が強張った。動揺すればするほど、耳朶からじわじわと赤みが差す。嘘をつくのが下手くそなのは、何も彼女だけではないらしい。 輪郭を定めるように、むき出しになった神経に彼女が触れる。ひんやりとした五指が熱を持った頬を撫でていた。僕は全ての思考が止まり、身動きも取れずされるがままに固まった。 かろうじて動かした瞳が、傍らにあるガラス瓶に歪んで映る君を見つける。赤く染まっているのは瓶の色だけが理由ではないように思えた。 こういう雰囲気には慣れていなくて、互いに話し出すタイミングが掴めない。先程の喧騒はどこへやら、照れくささと気まずさを混ぜこぜにした空気の中、口をつぐみ相手の出方を伺う。 僕らに早かったのはどうやらワインだけではなかったようだ。 一分経ったのか一時間経ったのか分からぬまま、永遠のように二人して押し黙る。 ごほん、と一つ咳払いをして不自然に沈黙を破った。やっとのことで、真正面からお互いの瞳に相手の姿を映し合う。 「慣れてないだけだよ、多分。これから美味しいって思えるようになるかも、しれないし」 ようやく出てきた遅すぎるフォローに、彼女は拗ねたようにふいと顔を逸らすもすぐにこちらを振り返り唇で緩やかな弧を描く。 いつかの彼女を思い出す微笑みにはっと目が惹かれる。瞬く間に舌の上に芳醇な香りが広がった。血液が甘く沸騰し全身に行き渡る。まだ一口も口にしていないのに、既に酔いが回ったかのような感覚。 Mon coeur est ici. 我が心此処にあり。
その日の夜は綾波の眷属になる夢を見た。相手に強く想われると夢に出るのは平安時代までだが都合よく解釈しておく。 薄く曇る空を二人占めして街灯りを眺める。夜の空は煙草と乾ききっていない土の匂いがする。手と手を取り合い、un・deux・troisとリズムを合わせて空中でステップを踏んだ。吸血鬼って、空飛べるんだ。 「一族の血を分け与えましょう」とおどろおどろしく彼女が言い、僕の手に収まるグラスに魅惑の赤い液体を注ぐ。おそるおそる口をつけたところ、口内に広がったのは鉄臭さでもアルコールの香りでもなく、最近彼女が朝食代わりにしているお子様向けのトマトの甘みだった。
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Re: バレンタインワインLRS競作企画 ( No.3 ) |
- 日時: 2022/02/15 01:53
- 名前: tamb
- ■ トマトジュースがお似合い
夜も遅いので一点だけ。
「それ、なあに」
この少し甘えた口調。 いわゆる綾波レイを描こうとした時、通常であれば、というか私なら「それ、なに?」あるいは「それはなに?」を選択する。普通だと思う。だがここで「なあに」と書くことによって、それだけで二人の親密さが表現される。意識的ではないかもしれないけれど、このセンスはすごい。感嘆に値する。あと、少し前に話題にしていた読点区切りの「いや、」ね。これも良い。
後日また書きます。漫画と史燕さんの作品も含め。
口直しにフルーチェ、というベタなネタ、ありだかなしだか。ワインの飲める歳になってもフルーチェ好きってのもかわいいけど。
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Re: バレンタインワインLRS競作企画 ( No.4 ) |
- 日時: 2022/02/15 09:15
- 名前: のの
- ◆はじめてのワイン
今回の場合はれいさんのシンジ君の一人称がめちゃくちゃ構築力があるので、その対比で綾波の一人称視点が史燕さんの柔らかい描写になっているのは、よい対比になっているなと思います。 仮にコレが僕だったら、多分ラザニアの前にピザを出すような無粋な真似になっていたことでしょう。
絵から受ける雰囲気にマッチしていて、幸せな気持ちになりましたです。 最後の一文に込めた可愛らしさ、満点!
◆よけいなはなし 共作パイセンとして言うと、 セリフ後の一文字落としたり3点リーダーのトンマナはれいさんに揃えた方がよかったかも。 絵に添えるだけなら気にならないんですけど、下のれいさんのSSを同じUIで読むことになると『れいさんのトンマナに対して』異和を覚えてしまいかねなくて、それは史燕さんも望むものではないだろう、という意味で。 なので、れいさんがTwitterに上げてた文章は独立してるので違和感なし。
こういうレベルのクオリティコントロールは僕も自分が本を作ってはじめて気にした話なので、他の方は違和感ないかもですが、一応。
◆トマトジュースがお似合い 記念すべきれいさんの初SS。 まずはお疲れ様でした。 絵を描く時とどの程度使う脳みそが違うのか、同じなのか興味は尽きませんが。
綾幸の二刀流で言えばくろねこさんですが、タイプは違えど書き手の心を成仏させかねない内容に驚くばかりです。
さて。 今作はバレンタインにあわせた内容ですが、まずワイン描写が。ワタクシ、寡聞にしりませんでしたけど、エチケットっていうのね。 エチケット袋でしか聞かないやつ。 あと、ワイングラスの細いところは、脚っていうのね。 語彙力。語彙力を感じる。
>虹彩にゆらゆらと影を〜
素敵描写その1。 シンジ君がどれだけ綾波のことを見ていて、その近視眼的な視点で、逆説的に彼が如何に盲目しているのかがわかる。
>白い壁と見慣れた天井に囲まれ、呆れたような微笑んでるような目をした彼女と狭い部屋で二人きり。
『呆れた』『微笑んでいる』を並列にできるのにびっくり。呆れるは感情に近く、微笑みは動作なんだけど、たしかに言われてみるとあり得る。 つづけて、『狭い部屋』であることで、若い二人の慎ましい暮らしぶりも微かに響かせつつ、その狭さを受けた上での『二人きり。』で言い切る、ワインが香る大人の空間。
そして最後。二人がわいわいするでもしっとり着地するでも電気を消すのでもなく、夢に入る。 それまでのことが続きつつもう終わっていて、煙草の匂いのする空で彼女の口に合う赤い液体を飲む。可愛らしい着地にも思えるけれど、そもそも空を飛んでいるのでふわりと浮かび上がるような、血と血を交わし合うようなそのやりとりの濃さを、夢というオブラートでさらりと描く。その夢は書き手の多くが彼に見せたかったものだ。 そして吸血鬼に不釣り合いな朝食の気配は、その夢の続きすら感じさせる。
これを2100字に収めている。 これは元々の構築力から必要なものを抽出し、適切な配分で描写できなければ成立しない。 しかも一人称視点でありながら、シンジ君の綾波に対する直接的な感情は一切描写されていない。それでもビッシビシに彼女への想いが伝わってくるのは、言葉と物語の妙味としか言いようがない。
大変素晴らしかったです!
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Re: バレンタインワインLRS競作企画 ( No.5 ) |
- 日時: 2022/02/15 20:43
- 名前: 史燕
- ○tambさん
読んでくださりありがとうございます。 れいさんのセンス、すごいですよね。 これは敵わないと初見で思いましたもの。
口直しにフルーチェ、アリですね。
○ののさん まずは共作企画の先達としてのアドバイス、ありがとうございます。 もう手遅れかもしれませんが、最初からこうすればよかったという自戒も込めて、私の部分は修正いたしました。
作品自体についてですが、完全にイラストありきで書きましたので、原作の雰囲気を抱えたまま書きました。 万分の1でも雰囲気が残っていたらいいなあと思っています。 また、れいさんの構築力、表現力は、初稿から目を瞠るものがあり、そこからさらにどんどんブラッシュアップされていく様は素晴らしかったです。 私はひと言もアドバイスせず「いいですねー」と言っているだけの置物でした。
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Re: バレンタインワインLRS競作企画 ( No.6 ) |
- 日時: 2022/02/19 00:42
- 名前: れい
- ●tambさん
甘えたような砕けた口調にしたくて書きましたが「それ、なに?」「それはなに?」の方が綾波度は高まるので難しい選択です。
「いや、」B市さんの表現でしたっけ…?twitterか何かでお話しなさっていたのをうっすら見た記憶があります。あの頃は自分が文字に手を出すとは思っていなかったものの、今活かせていると思うと感慨深いですね。
フルーチェ読みたいですー!
以下DMで書いたのとほぼ同じ内容になりますが、記載しておきます。
●ののさん 書いてる時間より直してる時間の方が多いという意味では絵も文字も変わりませんね。絵柄が幼いので、文体だと表現できる幅が絵とは異なる方向に広がるのが楽しいです。
細かい説明をしていなかったので誤解を招いてしまい申し訳ないのですが、これは3100字の2作品目になります。ワインも私ではなくGoogle先生の知識なのですが、レイカ先生の教えに従い私の知識ということにしておきます。
お褒めいただきありがとうございます!視点の近さ遠さから心の距離を表現する点や、感情を直接描写せず行動で見せる点はののさんの作品にも共通しているポイントだと私は思うので、感想を書く際に目を付けるポイントは作家さんの大事にしているスタンスが出るんだな…ということに気づけました。後者はレイカさんのアドバイスでもあります。
ラスト気に入ってるので言及していただき嬉しいです。当日0時頃に完成した初稿ではトマトジュースこそ登場するも表現が異なり、シンジの注いだワインを飲む綾波と綾波の注いだ血液を飲むシンジの対応した形になったのはその日の夜だったはずなので、改稿は大切ですね…。
●はじめてのワイン 《彼と一緒にこのワインを楽しめないというのは、とてももったいないような気がした。 だから、本音を隠して声にした言葉は正反対。》 ここ好きです。綾波が「美味しかった」といったのは、自分から言い出したのにという見栄と分けてくれたシンジへの気遣いであると当初設定していたのですが、彼と一緒に自分もワインを楽しみたかった…だと…いじらしい!かわいい!と思ったことから自分の作品にもお借りした部分です。
自分の作品が座礁していた時に史燕さんから『はじめてのワイン』というお手本をいただいたため、自作にも多々影響を受けています。そもそも、史燕さんに一緒に公開しましょうとお誘いいただけなければ、初作品共々お蔵入りになっていた可能性もあるので感謝です。
後半のオリジナル部分、『誰が』『どういう意図で』シンジくんにワインを贈ったのかという私の妄想に対する超王道正統派回答です。慣れない二人がワインに挑戦してみたけれどもあんまり楽しめず、やっぱり慣れないね、と言い合う…なんて初々しいシチュエーションも誕生しちゃってます。優勝です。
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Re: バレンタインワインLRS競作企画 ( No.7 ) |
- 日時: 2022/03/13 01:27
- 名前: tamb
- そうか、バレンタインだったんたな、と思いながら。
■れいさんの漫画 漫画の感想というのはとても難しい。情報量が多い上にそれを言語化しなければならないわけで、でなければ「このコマがねー、いいんだよねー、つまりその、なんつーの?」ということになるわけだ。それはそれでもいいんだろうけど。 ワインをもらったというのだから、まあ二十歳以上。お肉はやっぱりこういうのね(笑)。 お酒の美味しさっていうのは難しくて、言語化するのは不可能に近い。これは煙草もそう。もう吸わなくなって何年も経つけれど、あの旨みは言語化できない。煙草にしても酒にしても、あの味を表現する単語がないというのは不思議ですらある。深みとかコクとか、無理矢理感がある。それは味覚の先にあるものが重要な位置を占めているからかなとも思うけれど、それはまあいいや。 いずれにしても、もちろんレイに限らず、初めて口にしたときに美味しいと思う人はほとんどいないと思う。それは一種の挑戦で、小学校低学年の頃に食べた沢庵や、人類史上初めてホヤやナマコを口にした人間の勇気に近い。 たがそれはいわゆる「大人の味」であって、通過儀礼とも言える。アスカはそれを越えた。レイも二十歳になり、いつまでも無垢な少女のままではいられない。 で、口にしてみるわけだ。 最初にTwitterで見た時に、あっ!と思ったのは、最初のページの一番下の2コマ。なんとも微妙な表情で、とてつもなく萌えるのだけれど、左のコマの口元が背景のトーンを伴って少しすぼまってるのが異常にいい。なにこれ? みたいな。こういうの、小説じゃ書けないよなー。少なくとも私には。 で、大人ってこういうの? 的な感情はひとまずおいといて、見透かされたシンジくんに笑われてしまうわけだ。 バカにしないで、とシンジのほっぺをつねるレイも、たぶん笑顔を浮かべている。 こういう日常の一コマを、たぶん幸せと言うのだろう。 とても良かったです。
■ 史燕さん「初めてのワイン」 漫画をノヴェライズすることの困難さは、かつてエースで連載していた貞エヴァを毎月小説化するという、著作権的にいかがなものかという行為をしていた私にはよくわかる。困難というより不可能に近い。というか、あまり意味がない。なので、想像というか補完はされるべきだと思う。 というわけで、原作を小説化した的な形になっている。筆力は十分に高く、率直に言って上手い。外は雪とかもいいし。 なるほどアスカはビール好き。彼女は自分の出自に誇りを持っている。 レイはもしかすると、アスカにそそのかされてビールを試したことがあるかもしれない。たぶん美味しくなかったのだろう。 シンジもワインには慣れない。 目の前には恐らくチョコレートもある。 チョコにはやっぱりウイスキーなんじゃないの? という謎な常識に従って、雪を突いて買いに行き、カナディアンかなんかの口当たりの軽いやつを買ってしまい、美味しいの美味しくないの言いながら飲んで、二人で酩酊してしまいぶっ倒れる、というタチの悪い幸せもまたよし。 無駄な妄想を展開してしまいましたが、これまた良作でした。
■れいさん「トマトジュースがお似合い」 改めて読んで、なるほどシンジ一人称を選択したのか、というのがまずひとつ。 漫画の人称的な選択肢はよくわからないけれど、小説をシンジの一人称で書くなら、例えばシンジがどう笑ったかは書けないわけだ。なるほどこれは意識には上ってなかった。 でも「吸血鬼みたいだ」とか、その後に続くシンジの目に映るレイの繊細なイメージ(この繊細な表現!)は無理なく美しく書ける。シンジの恐らくは、レイのことが好きですフィルターのかかったイメージね。いちいち引用はしないけれど、この後のシンジの気持ちの動きの描写を含めて、これはすごく良い。 そして笑顔に昇華される。この幸せ。 しかしなんというかね、「ガラス瓶に歪んで映る君」とか、たまりませんね。「夜の空は煙草と乾ききっていない土の匂いがする」とかね。 ラストがまた良し。吸血鬼のイメージがここにも。 なんかもうね、素晴らしいとしか言いようがないですね。 この二人は、アルコールの力などなくても、二人でいるだけで正気ではいられない。 つまりはそういうこと。
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