石像と猫
投稿日 | : 2009/05/31 00:00 |
投稿者 | : なお。 |
参照先 | : |
件名 | : Re: 石像と猫 |
投稿日 | : 2009/05/31 00:00 |
投稿者 | : なお。 |
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【タイトル】石像と猫
【記事番号】-2147482944 (2147483647)
【 日時 】05/09/13 21:51
【 発言者 】なお。
石像と猫
容赦無く照り付ける太陽。
焼けたアスファルトの向こうに蜃気楼が浮かぶ。
吹き出す汗は、飽和した大気に溶けず流れ落ちるだけ。
心頭滅却すれど、鳴くセミに夏である事をますます実感させられ……。
「あづい」
こう呟いたのは、本日何度目だろうか。
前回発してからは、五分と経っていないのは確かだ。時計の針は今も重なっている。
暑さを、昼を告げるサイレンに八つ当たりしたのでそれだけは憶えていた。
たまのオフなのに、朝から何もする事がなかった。
友人達は一緒に出掛けたらしい。場所からして合流は出来そうになかった。
誘いは……なかった。
冷蔵庫の中が乏しくなっていたのを思い出し、買い物に出た。
それが間違いだった。
行きは良かった。スーパーまでは日向を避けて歩けた。
しかし今は正午、日陰は無いに等しい。自前の黒髪は、嫌でも光を集め熱に変える。
目が霞む。いや、見えているのは蜃気楼か……。
食材を詰め込んだ買い物袋が指に食い込む。
鬱血した指の痛みが意識を繋ぎ止めていた。
ガサッ!
クシャッ!
コスン!
それは纏まって一つの音で聞こえた。
失いそうな意識の中、聴覚だけが妙に鋭くなっていた。
いつのまにか、汗ばんだ手は軽くなっていた。
咽乾いたな……。
落ちた物はそのままに、興味は道を挟んで向こう側の自動販売機。
拾うか、飲料を買いに行くか。
どちらもする気が起きない。
それでも汗だけは流れ、足下に落ち染みて更に湿度を上昇させる。
このまま干涸びて石像にでもなってみようか……。
ガサッ、ガササッ。
足下で聞こえた音。野良猫あたりが漁っているのか。
猫
猫かな?
「はい」
赤い瞳の猫が袋を差し出した。
黙って受け取る。
「じゃあ」
「待って!」
振り返った猫に僕は言った。
「お礼に、冷たいものでもどう?」
僕達は、蜃気楼の中に歩き出した。
辿り着いた自動販売機の前、財布を探す。
取り出そうとしたそれは、汗で濡れたポケットに引っ掛かり予想以上の抵抗をする。
「ごめん、ちょっと待って」
しかしそう言っても肝心な、言葉の相手がいない。どこに行ったのか。
見渡すと、気紛れな猫は後ろ姿で隣の建物に入っていくところ。姿が消えると同時にカランコロンとベルが鳴った。
喫茶店……。
思惑は外れたが、かえって好都合。後を追い、カランコロンとペルを鳴らした。
扉を閉めると、そこは天国だった。外気との温度差もさる事、気化する汗がみるみる火照りを鎮めていった。重く纏わりつく湿気が消え体も軽い。
そして透き通って流れる自鳴琴の音色は、心を爽やかに。
「いらっしゃいませ。お連れさまですか?」
いかにも紳士といった装いの老人が、手のひらを上に奥へ差し出し尋ねる。
その先は窓の外を見つめる猫一人。
「そうです」
「ではこちらへ」
物腰の低さに恐縮しながら、導かれる程もない距離のテーブルまで案内された。
背筋を伸ばして椅子に座る。
湿ったズボンが腿の裏側で冷たかった。
コトリ。
氷りの浮かぶグラスが一つ、目の前に置かれる。 メニューの冊子もさりげなく。
テーブルには既に、半分となったものがもう一つ。
パキンと小さく氷の割れる音と、表面に浮かぶ水滴が涼さを演出していた。
「御注文がお決まりになりましたら御呼び下さい」
紳士は一礼して踵を返すとカウンターの奥に消えてゆく。
見送って肩の力を抜いた。腰も深く掛けなおす。
向き直ると正面にいる猫は、我関せずと目を閉じグラスを傾けていた。白い咽が波打ってコクコクと鳴っている。
グラスはすぐ空になった。
膨らんだ頬からポリポリと音がしていた。
「何にする?」
「いははい、ほういははいははは」(いらない、もういただいたから)
何を言っているのか……わかるけど。
ひょっとしてからかわれてる?
「それじゃお礼にならないよ……」
メニューを渡すと、思ったより素直に受け取りパラパラと捲り始めてくれた。
遠慮していたのかな?
本当に猫でも相手にしているようで、何を考えているのか掴めない。おかげで自分のペースも掴めない。
この感じ、どこかで……。
思い出そうとしても、咽の乾きがそれを許そうとしなかった。
濡れたグラスを手に取り、大きく息を吸い込み一気に煽る。
ングッ、ングッ、ングッ……。
程良く氷の溶けた水は、染み入るように咽を潤してゆく。ネバついた不快感が洗い流されてゆく。
グラスを置くまでは一瞬の出来事。コトンと音が鳴るのと同時に、プハーッと長い息を吐き出した。
生き返った。
しかし枯れ切っていた体は満足せず、口の中には不快感が少し残っていた。
さて、次は何を飲もう?
何かを思い出そうとしていたのはすっかり忘れ、僕の意識はそっちに向かっていた。
メニューは、口元に指をあてた猫に取られたまま。逆さまのままに覗き込む。
開かれていたのは……ランチの項。
そういえば、お昼だったね。
「ついでだから食べていこうか」
頷いたのが返事。
誘ったはいいが、忘れていたくらいで実のところ食欲はあまりなかった。
「で、決まった?」
今度はフルフルと頭を振る。
髪が揺れ、ふわっとシャンプーの香りが漂う。
僕は……汗臭いんだろうな。
覗き込んでいた体を少し引いた。
とりあえず軽いものを選ぼう。トーストセットでいいかな。
メニューの端にちょこんと書かれた字を見てそれに決めた。
これくらいなら入るだろう。朝もトーストだったけど。
彼女は何にするのかな?
まだ考えているようだ。
外の陽射しは強烈なままだ。暑さはもう忘れたけれど。
遠くに雲が厚い。夕方には一雨あるかもしれない。
視線を戻すと、ふと目が合った。
テーブルの上、メニューに指を差している。
「どうしたの?」
「これ……」
「それにするんだ」
シャンプーの香りも一緒に、もう一度髪も揺れる。
違うの?
「これ、なに?」
小首を傾げる仕種。
そうか、知らないんだ。アーリオ・オーリオ・エ・ペペロンチーノ。
ずいぶん悩んでると思ったら、そういう事か……。
「パスタだよ。オリーブオイルで炒めたやつで、味付けは主にニンニク…」
「これでいい」
即答。
それでいいの?
他のも説明してあげるけど……。
「飲み物は?」
「オレンジジュース」
呼び鈴を振る。適度に乾燥した空気に、軽い音が、チリン、チリンとよく響く。
元の場所に戻すとき、赤い瞳がそれを追っていた。
しばらくすると先程の紳士が現われた。いつの間にか、気配もなく幽霊のように。
おかげで、震える声を抑えながらの注文と相成った。
あとは待つだけ、のはずが……。
間が持たない。
これってデートみたいだね、とでも言うのか……。
悟られないよう俯き表情を隠す。
嫌な汗が流れる。もちろん暑くはない。むしろ寒い。それなのにせっかく補充したはずの水分が、どんどん失われてゆく。
干涸びてゆく。次第に体も硬直してゆく。今度こそ石像になってしまいそう。
爽やかだった自鳴琴の音も、今はレクイエムのよう。
どうしたらいい……。
チリン、チリン。
メデューサの呪いを打ち破ったのは、鏡だったはず……。
音に釣られて視線を上げた先に、鳴っていたのはさっき僕が振った鈴。
チリン、チリン、チリン、チリン。
チリン、チリン、チリン、チリン。
くり返し何度も振る彼女の目は興味ありげで、ねこじゃらしに飛びつく猫そのもの。
わかってるよね、その意味?
「御呼びでしょうか」
当然そうなるよね。どうするのかな?
顔を見合わせて……チリン、チリン。
そうきたか。
注文は……する訳ないよね。
仕方ないなぁ。
「あ、あのう。チョコレートパフェ、一つ」
「……以上で、よろしいでしょうか」
「はい」
「かしこまりました」
ふう、やれやれ。
ほっと一息吐くと、いつの間にかにかしこまっていた体を休めた。
そこに不意打ちの言葉。
「パフェ、食べるの?」
そうくるか!
それから間もなく食事が運ばれてきて、僕が食べているのはペペロンチーノ……。
「では、ごゆっくり」
トーストの皿は僕のところに、パスタの皿は彼女の元に。セットのコーヒーと、頼んだオレンジジュースも添えて。
パスタから漂う香りの強烈な自己主張に、食欲減退ぎみだった僕も唾液が滲み出る。
こんがりときつね色に焼けたトーストは匂いという面では負けてしまっていたが、それでも齧ると香ばしさが鼻に抜けた。
サクリとした食感も気持ち良い。足下の買い物袋にある食パンが惨めに思える程に旨い。
こっちはおそらく自家製だろう。生まれの不幸が共感できて同情してしまう。
その一口目は十分に咀嚼して味わった。
ただ、飲み込もうとしても乾いた咽を通らなかったので、コーヒーで流し込まなければならないのが残念だった。
パスタも美味しそう。食が進むのか、手も口も忙しそうに動かしている。
そんなに慌てなくても逃げないからゆっくり食べたら?
まあ、どんな食べ物なのか知らなかったようだから好みに合ったようで何よりだけど。
と思った矢先、ピタリとその動きが止まる。突然、石像にでもなったみたいに。
どうしたのかな?
「かりゃい」(からい)
小さく舌をペロリと出した。その後にオレンジジュースという流れ。
一気に食べてたから後からきたんだろう。
「辛いのダメだったんだ」
紙ナプキンで口を押さえる彼女は涙目だ。
「いひゃりふんにょイリワリュ」(いかりくんのイジワル)
「最後まで聞かないで決めるからでしょ」
「かりゃい」
ああ、そんな目で見ないでよ。
「かりゃい」
「……」
「かりゃい」
その後、無言で皿を取り替えた僕。ついでにパフェも、じっと見つめる瞳に負けて。
最初からあげるつもりだったからいいけどさ……。
で、今度は頭を押さえているよね。
これ以上は僕も面倒見切れない。自分の物になった皿に集中した。
やっぱりパスタも旨かった。スパイシーなのが幸いして今の僕にも食べやすい。
フォークに絡み付くパスタに紅の瞳にも似た輪切りの鷹の爪が見事に赤い。
あっ、これってもしかして。
「からくない?」
「う、うん。平気、カッ……ウハッ、ケホッ!」
「だいじょうぶ?」
「う、うん。なんとか」
なんで僕まで涙目にならなきゃならないのか。
あくまで自然体な彼女に、僕の馬鹿らしい考えは咽の痛み以上に痛く不様に思えた。
「1760円になります」
お釣を貰うとき触れた紳士の手は思ったより暖かかった。
外に出ると辺りは薄暗かった。今にも雨が落ちてきそうな空が重い。蒸し暑さは相変わらずで息苦しささえも感じる。
だけど直射日光がない分かなり具合はいい。これから歩いて帰るのを考えるとこれでも十分だ。雨さえ降らなければ。
「降るかな?」
「わからないわ」
聞くまでもなかった。体に冷たさを感じた瞬間パタパタと音がしだして地面に霧が生まれた。
雨に濡れた埃の匂いに包まれる。
空を仰ぐと顔に叩き付ける水滴が痛かった。
なんでこんな事をしているんだろう。
彼女も濡れてしまうのに、近くにいてくれているような気がする。
でも、こうしていたい。
こうしていると、なんだかすごく気持ちがいいんだ。
腕を引っ張られているけど。
もう少しだけ……。
チリン、チリンと鈴の音が聞こえた。
「ここは?」
見覚えは……ある。
何度か入院した病室の天井だ。
なぜこんなところに?
ふと視界の端に動くものが見えたような気がした。
猫
猫かな?
なぜかそう思った
いい匂いがする
シャンプーの香り
それも知っている香り
カーテンがはためいている
外は雨
そして埃の匂い
この感じ、どこかで……
吹っかけた雫が床を濡らし始めていた。
窓、閉めなきゃ。
体を起こそうとしたら、引っ張られたように腕が重い。
綾波?
背中を丸めてベッドの縁に頭を預ける彼女はまるで……。
クウゥー。
お腹が鳴った。僕じゃない。
あんなに食べたのに。変なの。
あれ、僕もお腹が空いているような。
窓は開けたままにしておく事にした。
チリン、チリン。
鈴の音が聞こえたような気がした。
「シンちゃん、起きた?」
「あっ、ミサトさん」
「もう、心配したん……」
口の前に人指し指を立てた僕に、ミサトさんは声を小さく聞いた。
「寝ちゃったのね」
彼女の寝顔を覗き込むミサトさんの顔はとても優しい。
「でも、なんで綾波が……」
「ヘヘ~、知りたい?」
この反応は!
はあ、覚悟しておこう。
「はい」
「シンちゃん、なんで入院したか憶えてる?」
「えっと、綾波と喫茶店から出たら雨が降ってきて……」
「何言ってんの?」
「えっ?」
「レイはシンちゃんと一緒じゃなかったみたいよ」
どういうことだ?
「まだ頭ボーッとしてない?」
「スッキリしてますよ?」
「ほんとに大丈夫?」
「ええ」
一緒じゃなかったって?
「シンちゃん道端で倒れてたのよ。それをレイが見つけて連絡してくれたの」
「そりゃ、一緒にいましたから」
「だから、そうじゃないのよ」
まさか?
「お昼を買いにコンビニへ行く途中に偶然見つけたらしいわよ。発見が早かったから大事に至らなかったんだからレイに感謝しなさいね」
「夢、だったんだ」
「そのようね」
なんでそんなにニヤニヤしているんですか?
それが顔に出ていたらしい。
「そんなにしっかり捕まえられてたら、そりゃねえ」
「ああっ!」
「シーッ!」
今度は僕が黙らさせられる番だった。
「さってと、オジャマ虫は退散しますか」
「ミサトさん!」
大声が出せないのがもどかしい。
「先生呼んでくるわ。で、もう帰れると思うから」
「そんじゃね~」
最後の一言は閉まる前のドアから手だけをヒラヒラと覗かせて。
うまく逃げられた。ほんと、しょうがない。と言いながら起していた体をペッドに倒す。
時間は16:00少し前。今日も終わったな。せっかくの休みなのに何してたんだろ。
「いかりくん……」
起きたかな。いや、寝言か。.
僕なんかよりも付き合わされた綾波の方が災難だったね。
「ごめん。ありがとう」
そっと頭を撫でようと自由な左手を伸ばす。体を捻らなければならず無理な姿勢になったけどなんとか届いた。
目を覚ましたらもう一度言おう。
頭は……撫でられないかな。
髪の感触を思い出す。サラサラと柔らかく滑らかな猫っ毛。
もう一度触れていいかな。
手を伸ばす。
でも、起こしちゃ悪いし……。
どうすることも出来ず、またと言うのは適切でないにしろ石像のように動けない。
動かない。
結局は引っ込めた。
彼女の為を思ってはいても、それも勇気を持てなかった言い訳が半分以上。
情けないな。
天井に向けた手をぎゅっと握っては開く。
この手は何か掴めるのだろうか。
大人になれば何か掴めるのだろうか。
僕は、まだまだ子供なんだよな。
早く大人になりたいな。
そうしたら……。
頭くらい撫でられるかな。
腕の力を抜く。
ゆっくりとペッドに落ちポフッと鳴った。
彼女は起きなかった。
「碇さん。気分はどうですか?」
「はい、おかげさまで」
彼女には廊下で待ってもらっている。起こすとき腕を掴まれているのを見られたのが少し恥ずかしかった。
笑顔で診察してくれて緊張はしないのが幸いといったところ。
軽い熱中症だったようで、適度に体を休めた僕の検診は事もなく終わった。
廊下で待っていた彼女におまたせと言って歩き出そうとしたら、引き止められた。
「そのまま行かない方がいいと思う」
えっと、服はちゃんと着てるよね?
「鏡、見てきたら?」
「う、うん。そうする……けど」
寝癖でも凄い事になっているんだろうか、触ってみてもそんなに変じゃなさそうなんだけど。
「ああっ、なんだコレ!」
トイレの鏡に写した顔にはデカデカと「バカシンジ」と書いてあった。しかも読みやすいよう御丁寧にも鏡文字を使って。
お医者さんが顔色を見たときに、やけに笑っていたのは……これか。
やられた。こんな事するのはアスカくらいしかいない。
お見舞いにきてくれた事を思うとお礼も言いたいけど、なんか複雑で怒れもしない。
落書きは水性マジックで書かれていたようで、水ですぐ落ちた。
ロビーを通るとき目に入った時計は17:00ちょうど。
帰ったらすぐ夕食の仕度をしなきゃ。
義務もあるけど僕自身すごくお腹が空いているし。お昼抜きだったもんな。
そういえば、彼女もお昼抜きだったんじゃ?
「あのさ、今日お昼食べた?」
「食べてない」
ああ、やっぱり。
「ごめん、僕に付き合わせちゃったみたいで」
彼女はちょっと目を合わすと俯いてしまった。頷いたようにも見えた。
ずっと傍にいてくれたんだろうか。
「今日はありがとう。お礼に夕食ごちそうしたいんだけど、どうかな?」
「いいの?」
「来てくれると嬉しいんだけど」
「わかった」
メニューは既に決まっていた。
「一つ聞いてもいい?」
「なに?」
確率は1/2。
「辛いものは大丈夫?」
「平気だと思う」
やっぱり夢だったんだ……。
なんだろうこの気持ち。残念というか未練というか、大切にしたい思い出のようで諦めがつかない。
「ごめん、もう一つだけ?」
「うん」
「ペペロンチーノって知ってる?」
「ペペロンチーノ?」
まったく一緒じゃないけど反応は同じだ!
「うん。オリーブオイルで炒めたやつで、味付けは主にニンニク…」
「おいしそう」
ここも同じ!
「今度は最後まで言わせてよ!」
これでハッキリする。
しかし彼女には“今度”の意味がわからなかったみたいで、小首を傾げてみせただけ。
このとき僕は思いっきり落胆していた。
やっぱり夢だったのか。順番は違うけど、こんなところは同じなのにね。
「ニンニクと……鷹の爪を使うんだよ」
「鷹の爪!?」
猫からしてみれば天敵みたいなものだし驚くのも無理ないか。大丈夫だよ、本当に鷹を使う訳じゃないから。
あれ、なんでこんな事を考えるんだろう?
「トウガラシの事だよ」
「そ、そう」
病室から見た雨は通り雨だったようで、傾き始めた陽が創る微妙な色加減の空が美しい。もうしばらくすれば綺麗な茜空が見られそうだ。
隣を歩く彼女の頬には少し早い夕焼けが訪れていた。
マンションに辿り着く頃、街灯が灯る頃には夕闇が迫り始めていた。
暮れゆく道を会話もなくここまで、ずっと考えていた。おそらく美しかったであろう沈む夕日を眺めるのも忘れ、匂いや味をしっかりと憶えている、あのリアルすぎて妖し気な夢の事を。
今にして思えば夢に出てきた彼女は、彼女のようで彼女にあらず。かといって夢が勝手に造り出した彼女の姿をした他人とも思えず。どこか知っている人のような。しかも親しい。
だからどうしても夢と片付けてしまうには何か引っかかり、気にしない訳にもいかず。
なんとなくだけど、どう片付けて良いかは彼女に話しても無駄だと思い、ずっと一人で。
二人きりでいて何も話さないのは常なので失礼もなかっただろうけど、彼女が時折僕の方を見ているのは気が付いていながらも敢えて無視していた。
どうしても、夢と片付けてしまうには納得ができなくて……。
それも玄関のドアを開けるまで。お礼の食事を作るのに気持ちを切り替えた。
「ただいま」
リビングには、寝そべってテレビを観るアスカがいた。
ミサトさんはまだのようだ。
「おかえり~」
こちらを見ないで、代わりに足をばたつかせ挨拶を返す。それで終わり。
短時間とはいえ入院していたのだから大丈夫の一言くらいあっても良さそうなものだけど……。
綾波がソファーに腰をかける。
気配で僕と思ったのか、アスカが振り向いて「気を付けなさいよね」と言った先にはもちろん綾波がいる。
「ファースト?」
「おじゃましてるわ」
あらためてアスカはキッチンにいた僕を探し、無言で説明を求める。
僕はパスタを取り出した戸棚を閉めながら答えた。
「助けてもらったお礼に夕食に誘ったんだ」
とくに返事はなく、アスカは興味なさげなテレビ鑑賞に戻る。
綾波は一応お客さんなので話し相手でも頼みたいところだけど、このままの方が良さそうだと思い直し開きかけた口を閉じる。
どうせウマが合わないだろうから、おとなしくしていてくれればそれでいい。アスカが不機嫌になるのだけは勘弁だ。
テーブルの上に置いてあった雑誌を読む綾波が少し心配になる。あれはアスカの雑誌だ。
そっけない態度に見えたアスカは、やはり綾波を気にしているようで、ちらりちらりと彼女の様子を窺っている。
「なに?」
気付いた綾波がアスカに尋ねる。
緊張が一気に高まる。一触即発の雰囲気。喧嘩にでもなりそうなものならすぐに止められるよう身構える。
「べつに」
流し目のまま止まっていたアスカの視線が正面に戻る。
どうやら危機は脱したらしい。心臓に悪いよ。
それからはアスカも綾波も自分だけしかいないかのように静かだった。
僕は僕で夕食の仕度を続けた。
「できたよ、二人ともおいでよ」
四人掛けのテーブルに、先に着いていた僕。ここは元々僕の席で正面に綾波。アスカは……僕の隣。
二人のうち、先に座ったのはアスカだった。呼ぶとすぐに立ち上がり、ここに座った。
綾波が座ったのは、普段はアスカの席。その隣はミサトさんの場所で今は皿を置いていない。
彼女は用意をしてあった場所に座ったに過ぎない。その皿はアスカに用意したものだったけど。
なぜもう一つは僕の隣に用意したかというと、誰の席でもない事と、アスカの隣に綾波を座らせるのはまずいと思ったからだ。
別に下心があったって訳じゃない。
「どうぞ、遠慮しないで。足りなければおかわりしてもいいからさ」
「いっただっきまーす!」
遮るようにアスカの声。
いつもはこんな大声出さないくせに……。
「さっ、食べよう」
「いただきます」
気に入ってくれるといいけど。
ただアーリオ・オーリオ(ニンニク・オイル)にペペロンチーノ(トウガラシ)だと夕食には物足りないから、タコのスライスとトマトを追加してある。いわゆるロッソ(赤)ってやつだ。
仕上げに刻みパセリを振りかけて彩りも鮮やか。なかなか良い出来だと自分でも思う。
「おいしい」
「そう、よかった」
よしっ!
反応は上々。僕もこれはイケルって一口食べて思ったもの。
程よい辛味と炒めたニンニクの香りがオイルに馴染んで後を引く旨さだ。
これはおかわりを作らなきゃならないかな。アスカも凄い勢いで食べてるし。
「かりゃい!」
「えっ!」
これって……。
でも、なんでアスカなんだ?
「アンタ、これ仕返しのつもり!?」
仕返しって、あの落書きの?
まさか。でも、アスカってそんなに辛いの苦手じゃないのに。
「水!」
「う、うん」
急いでコップに水を酌み渡すとゴクゴクと飲み始めた。
そんなに辛かったかな? 僕も綾波も平気なのに。
アスカが食べていた皿を覗き込む。
ああっ、なんて事だ! トウガラシが大量に。
「恩を仇で返すとは、なかなかやるじゃないの!」
「わざとじゃないんだよ、わざとじゃ!」
「言い訳はいらないわ!」
バチンと大きな音がした。キーンと耳鳴りがして、そのあとジンジンとした痛みが頬に。
ひどいよ。
「大丈夫?」
「う、うん」
変なところで夢と一緒。こうなると、多少違うけど正夢ってことでいいかな。もう考えるのはよそうか。
頬の痛みはこれが現実である証拠。あれが夢だったのか現実であったのか、証明するものがなければ考えたって……?
証拠!
そうだ、証拠はあるかもしれない。あの喫茶店で支払った代金を確認すれば。
家計簿を付けてるついでで小遣い帳も付けている。レシートはないけど代金は憶えている。1760円!
いてもたってもいられずに、自分の部屋に駆け込む。背中から「アンタ逃げる気!」と聞こえたけど、構ってはいられない。
引き出しを開け小遣い帳を開く。昨日の時点で残金は5126円。
財布の中は!
机の上に小銭を広げる。慌てていたので数枚が転がり床に散らばった。
ああもう!
急いで拾い集める。なくしてなければいいが、多少違っても近い金額が減っていれば良しとしよう。
そしてお札を抜く。出てきたのは千円札が3枚。これは!
小銭はどうだった?!
指で机に滑らせて数えると、あったのは366円。
ザル計算では、減っているのはだいたい同じ金額のよう。
しっかりと計算しようと暗算を試みるが落ち着かず頭が回らない。
部屋のドアをドンドンと叩く音がする。
余計集中できないじゃないか、ちょっと待ってよ!
暗算はあきらめて電卓を取り出しキーを叩く。それも何度か入力を失敗してやり直す羽目に。
落ち着け!
そして、液晶に表示された差額……1760円。
鳥肌が立った。
あれは夢なんかじゃない!
「綾波!」
「なんなのよ、もう!」
乱暴に開けたドアに跳ね飛ばされそうになったアスカがいきり立って追いかけてくる。
殴るなり蹴るなりは後で受けるから今は。
「教えて欲しいんだけど!」
一人残されたダイニングでもくもくと食べていた彼女に息も荒く詰め寄る。
必死の形相になっているのだろう、驚いた彼女は持っていたフォークを振り上げて体を仰け反らす。
その状態でコクコクと頷いた。
「今日の昼、僕と喫茶店で食事したよね?」
「してない」
「よく思い出して!」
彼女は天井に向けた目をキョロキョロと彷徨わす。考えてくれているのはいいのだけれど、待っている僕はもどかしい。考える程の事じゃないだろうに。
「やっぱりしてないと思う」
待たされた返事に、何かしら憶えがあるからだろうと期待しただけにその落胆は大きい。
ガクッと項垂れた僕に気を使い、彼女は食事を勧める。冷めてしまうわ、と。
「ごめん、食事中に。……どうかしてた」
アスカも僕の奇怪な行動には理由があったからだとわかってくれたようで何も言わなかった。
「食べようか」
ようやく落ち着いて食事を再開したものの冷めてしまったパスタはひと味物足りなく、暖め直すついでにおかわりを求める綾波の分を追加して作り直す。
ニンニクを炒めるとき、香りが夢の記憶を思い出させる。しかし手がかりはもうない。
靄のかかった気持ちのままフライパンを煽る。
トマトを切るのを忘れていた。
一旦フライパンを火から降ろし、包丁を握る。
「痛っ」
人指し指の背に、スーッと赤い線が細く浮き上がる。
僕はその鮮やかで鈍い色に見とれてしまう。
同じ色を昔見た。
どこかで……。
思い出せない。
傷口を舐めると、思い出せない記憶と同じ錆の味。
「ねえ、まだー」
「ああ、もうすぐだよ」
今度は鷹の爪が片寄らないように盛り付けた。
最初に思ったとおり、ちゃんとした物はアスカにも好評だった。
【記事番号】-2147482944 (2147483647)
【 日時 】05/09/13 21:51
【 発言者 】なお。
石像と猫
容赦無く照り付ける太陽。
焼けたアスファルトの向こうに蜃気楼が浮かぶ。
吹き出す汗は、飽和した大気に溶けず流れ落ちるだけ。
心頭滅却すれど、鳴くセミに夏である事をますます実感させられ……。
「あづい」
こう呟いたのは、本日何度目だろうか。
前回発してからは、五分と経っていないのは確かだ。時計の針は今も重なっている。
暑さを、昼を告げるサイレンに八つ当たりしたのでそれだけは憶えていた。
たまのオフなのに、朝から何もする事がなかった。
友人達は一緒に出掛けたらしい。場所からして合流は出来そうになかった。
誘いは……なかった。
冷蔵庫の中が乏しくなっていたのを思い出し、買い物に出た。
それが間違いだった。
行きは良かった。スーパーまでは日向を避けて歩けた。
しかし今は正午、日陰は無いに等しい。自前の黒髪は、嫌でも光を集め熱に変える。
目が霞む。いや、見えているのは蜃気楼か……。
食材を詰め込んだ買い物袋が指に食い込む。
鬱血した指の痛みが意識を繋ぎ止めていた。
ガサッ!
クシャッ!
コスン!
それは纏まって一つの音で聞こえた。
失いそうな意識の中、聴覚だけが妙に鋭くなっていた。
いつのまにか、汗ばんだ手は軽くなっていた。
咽乾いたな……。
落ちた物はそのままに、興味は道を挟んで向こう側の自動販売機。
拾うか、飲料を買いに行くか。
どちらもする気が起きない。
それでも汗だけは流れ、足下に落ち染みて更に湿度を上昇させる。
このまま干涸びて石像にでもなってみようか……。
ガサッ、ガササッ。
足下で聞こえた音。野良猫あたりが漁っているのか。
猫
猫かな?
「はい」
赤い瞳の猫が袋を差し出した。
黙って受け取る。
「じゃあ」
「待って!」
振り返った猫に僕は言った。
「お礼に、冷たいものでもどう?」
僕達は、蜃気楼の中に歩き出した。
辿り着いた自動販売機の前、財布を探す。
取り出そうとしたそれは、汗で濡れたポケットに引っ掛かり予想以上の抵抗をする。
「ごめん、ちょっと待って」
しかしそう言っても肝心な、言葉の相手がいない。どこに行ったのか。
見渡すと、気紛れな猫は後ろ姿で隣の建物に入っていくところ。姿が消えると同時にカランコロンとベルが鳴った。
喫茶店……。
思惑は外れたが、かえって好都合。後を追い、カランコロンとペルを鳴らした。
扉を閉めると、そこは天国だった。外気との温度差もさる事、気化する汗がみるみる火照りを鎮めていった。重く纏わりつく湿気が消え体も軽い。
そして透き通って流れる自鳴琴の音色は、心を爽やかに。
「いらっしゃいませ。お連れさまですか?」
いかにも紳士といった装いの老人が、手のひらを上に奥へ差し出し尋ねる。
その先は窓の外を見つめる猫一人。
「そうです」
「ではこちらへ」
物腰の低さに恐縮しながら、導かれる程もない距離のテーブルまで案内された。
背筋を伸ばして椅子に座る。
湿ったズボンが腿の裏側で冷たかった。
コトリ。
氷りの浮かぶグラスが一つ、目の前に置かれる。 メニューの冊子もさりげなく。
テーブルには既に、半分となったものがもう一つ。
パキンと小さく氷の割れる音と、表面に浮かぶ水滴が涼さを演出していた。
「御注文がお決まりになりましたら御呼び下さい」
紳士は一礼して踵を返すとカウンターの奥に消えてゆく。
見送って肩の力を抜いた。腰も深く掛けなおす。
向き直ると正面にいる猫は、我関せずと目を閉じグラスを傾けていた。白い咽が波打ってコクコクと鳴っている。
グラスはすぐ空になった。
膨らんだ頬からポリポリと音がしていた。
「何にする?」
「いははい、ほういははいははは」(いらない、もういただいたから)
何を言っているのか……わかるけど。
ひょっとしてからかわれてる?
「それじゃお礼にならないよ……」
メニューを渡すと、思ったより素直に受け取りパラパラと捲り始めてくれた。
遠慮していたのかな?
本当に猫でも相手にしているようで、何を考えているのか掴めない。おかげで自分のペースも掴めない。
この感じ、どこかで……。
思い出そうとしても、咽の乾きがそれを許そうとしなかった。
濡れたグラスを手に取り、大きく息を吸い込み一気に煽る。
ングッ、ングッ、ングッ……。
程良く氷の溶けた水は、染み入るように咽を潤してゆく。ネバついた不快感が洗い流されてゆく。
グラスを置くまでは一瞬の出来事。コトンと音が鳴るのと同時に、プハーッと長い息を吐き出した。
生き返った。
しかし枯れ切っていた体は満足せず、口の中には不快感が少し残っていた。
さて、次は何を飲もう?
何かを思い出そうとしていたのはすっかり忘れ、僕の意識はそっちに向かっていた。
メニューは、口元に指をあてた猫に取られたまま。逆さまのままに覗き込む。
開かれていたのは……ランチの項。
そういえば、お昼だったね。
「ついでだから食べていこうか」
頷いたのが返事。
誘ったはいいが、忘れていたくらいで実のところ食欲はあまりなかった。
「で、決まった?」
今度はフルフルと頭を振る。
髪が揺れ、ふわっとシャンプーの香りが漂う。
僕は……汗臭いんだろうな。
覗き込んでいた体を少し引いた。
とりあえず軽いものを選ぼう。トーストセットでいいかな。
メニューの端にちょこんと書かれた字を見てそれに決めた。
これくらいなら入るだろう。朝もトーストだったけど。
彼女は何にするのかな?
まだ考えているようだ。
外の陽射しは強烈なままだ。暑さはもう忘れたけれど。
遠くに雲が厚い。夕方には一雨あるかもしれない。
視線を戻すと、ふと目が合った。
テーブルの上、メニューに指を差している。
「どうしたの?」
「これ……」
「それにするんだ」
シャンプーの香りも一緒に、もう一度髪も揺れる。
違うの?
「これ、なに?」
小首を傾げる仕種。
そうか、知らないんだ。アーリオ・オーリオ・エ・ペペロンチーノ。
ずいぶん悩んでると思ったら、そういう事か……。
「パスタだよ。オリーブオイルで炒めたやつで、味付けは主にニンニク…」
「これでいい」
即答。
それでいいの?
他のも説明してあげるけど……。
「飲み物は?」
「オレンジジュース」
呼び鈴を振る。適度に乾燥した空気に、軽い音が、チリン、チリンとよく響く。
元の場所に戻すとき、赤い瞳がそれを追っていた。
しばらくすると先程の紳士が現われた。いつの間にか、気配もなく幽霊のように。
おかげで、震える声を抑えながらの注文と相成った。
あとは待つだけ、のはずが……。
間が持たない。
これってデートみたいだね、とでも言うのか……。
悟られないよう俯き表情を隠す。
嫌な汗が流れる。もちろん暑くはない。むしろ寒い。それなのにせっかく補充したはずの水分が、どんどん失われてゆく。
干涸びてゆく。次第に体も硬直してゆく。今度こそ石像になってしまいそう。
爽やかだった自鳴琴の音も、今はレクイエムのよう。
どうしたらいい……。
チリン、チリン。
メデューサの呪いを打ち破ったのは、鏡だったはず……。
音に釣られて視線を上げた先に、鳴っていたのはさっき僕が振った鈴。
チリン、チリン、チリン、チリン。
チリン、チリン、チリン、チリン。
くり返し何度も振る彼女の目は興味ありげで、ねこじゃらしに飛びつく猫そのもの。
わかってるよね、その意味?
「御呼びでしょうか」
当然そうなるよね。どうするのかな?
顔を見合わせて……チリン、チリン。
そうきたか。
注文は……する訳ないよね。
仕方ないなぁ。
「あ、あのう。チョコレートパフェ、一つ」
「……以上で、よろしいでしょうか」
「はい」
「かしこまりました」
ふう、やれやれ。
ほっと一息吐くと、いつの間にかにかしこまっていた体を休めた。
そこに不意打ちの言葉。
「パフェ、食べるの?」
そうくるか!
それから間もなく食事が運ばれてきて、僕が食べているのはペペロンチーノ……。
「では、ごゆっくり」
トーストの皿は僕のところに、パスタの皿は彼女の元に。セットのコーヒーと、頼んだオレンジジュースも添えて。
パスタから漂う香りの強烈な自己主張に、食欲減退ぎみだった僕も唾液が滲み出る。
こんがりときつね色に焼けたトーストは匂いという面では負けてしまっていたが、それでも齧ると香ばしさが鼻に抜けた。
サクリとした食感も気持ち良い。足下の買い物袋にある食パンが惨めに思える程に旨い。
こっちはおそらく自家製だろう。生まれの不幸が共感できて同情してしまう。
その一口目は十分に咀嚼して味わった。
ただ、飲み込もうとしても乾いた咽を通らなかったので、コーヒーで流し込まなければならないのが残念だった。
パスタも美味しそう。食が進むのか、手も口も忙しそうに動かしている。
そんなに慌てなくても逃げないからゆっくり食べたら?
まあ、どんな食べ物なのか知らなかったようだから好みに合ったようで何よりだけど。
と思った矢先、ピタリとその動きが止まる。突然、石像にでもなったみたいに。
どうしたのかな?
「かりゃい」(からい)
小さく舌をペロリと出した。その後にオレンジジュースという流れ。
一気に食べてたから後からきたんだろう。
「辛いのダメだったんだ」
紙ナプキンで口を押さえる彼女は涙目だ。
「いひゃりふんにょイリワリュ」(いかりくんのイジワル)
「最後まで聞かないで決めるからでしょ」
「かりゃい」
ああ、そんな目で見ないでよ。
「かりゃい」
「……」
「かりゃい」
その後、無言で皿を取り替えた僕。ついでにパフェも、じっと見つめる瞳に負けて。
最初からあげるつもりだったからいいけどさ……。
で、今度は頭を押さえているよね。
これ以上は僕も面倒見切れない。自分の物になった皿に集中した。
やっぱりパスタも旨かった。スパイシーなのが幸いして今の僕にも食べやすい。
フォークに絡み付くパスタに紅の瞳にも似た輪切りの鷹の爪が見事に赤い。
あっ、これってもしかして。
「からくない?」
「う、うん。平気、カッ……ウハッ、ケホッ!」
「だいじょうぶ?」
「う、うん。なんとか」
なんで僕まで涙目にならなきゃならないのか。
あくまで自然体な彼女に、僕の馬鹿らしい考えは咽の痛み以上に痛く不様に思えた。
「1760円になります」
お釣を貰うとき触れた紳士の手は思ったより暖かかった。
外に出ると辺りは薄暗かった。今にも雨が落ちてきそうな空が重い。蒸し暑さは相変わらずで息苦しささえも感じる。
だけど直射日光がない分かなり具合はいい。これから歩いて帰るのを考えるとこれでも十分だ。雨さえ降らなければ。
「降るかな?」
「わからないわ」
聞くまでもなかった。体に冷たさを感じた瞬間パタパタと音がしだして地面に霧が生まれた。
雨に濡れた埃の匂いに包まれる。
空を仰ぐと顔に叩き付ける水滴が痛かった。
なんでこんな事をしているんだろう。
彼女も濡れてしまうのに、近くにいてくれているような気がする。
でも、こうしていたい。
こうしていると、なんだかすごく気持ちがいいんだ。
腕を引っ張られているけど。
もう少しだけ……。
チリン、チリンと鈴の音が聞こえた。
「ここは?」
見覚えは……ある。
何度か入院した病室の天井だ。
なぜこんなところに?
ふと視界の端に動くものが見えたような気がした。
猫
猫かな?
なぜかそう思った
いい匂いがする
シャンプーの香り
それも知っている香り
カーテンがはためいている
外は雨
そして埃の匂い
この感じ、どこかで……
吹っかけた雫が床を濡らし始めていた。
窓、閉めなきゃ。
体を起こそうとしたら、引っ張られたように腕が重い。
綾波?
背中を丸めてベッドの縁に頭を預ける彼女はまるで……。
クウゥー。
お腹が鳴った。僕じゃない。
あんなに食べたのに。変なの。
あれ、僕もお腹が空いているような。
窓は開けたままにしておく事にした。
チリン、チリン。
鈴の音が聞こえたような気がした。
「シンちゃん、起きた?」
「あっ、ミサトさん」
「もう、心配したん……」
口の前に人指し指を立てた僕に、ミサトさんは声を小さく聞いた。
「寝ちゃったのね」
彼女の寝顔を覗き込むミサトさんの顔はとても優しい。
「でも、なんで綾波が……」
「ヘヘ~、知りたい?」
この反応は!
はあ、覚悟しておこう。
「はい」
「シンちゃん、なんで入院したか憶えてる?」
「えっと、綾波と喫茶店から出たら雨が降ってきて……」
「何言ってんの?」
「えっ?」
「レイはシンちゃんと一緒じゃなかったみたいよ」
どういうことだ?
「まだ頭ボーッとしてない?」
「スッキリしてますよ?」
「ほんとに大丈夫?」
「ええ」
一緒じゃなかったって?
「シンちゃん道端で倒れてたのよ。それをレイが見つけて連絡してくれたの」
「そりゃ、一緒にいましたから」
「だから、そうじゃないのよ」
まさか?
「お昼を買いにコンビニへ行く途中に偶然見つけたらしいわよ。発見が早かったから大事に至らなかったんだからレイに感謝しなさいね」
「夢、だったんだ」
「そのようね」
なんでそんなにニヤニヤしているんですか?
それが顔に出ていたらしい。
「そんなにしっかり捕まえられてたら、そりゃねえ」
「ああっ!」
「シーッ!」
今度は僕が黙らさせられる番だった。
「さってと、オジャマ虫は退散しますか」
「ミサトさん!」
大声が出せないのがもどかしい。
「先生呼んでくるわ。で、もう帰れると思うから」
「そんじゃね~」
最後の一言は閉まる前のドアから手だけをヒラヒラと覗かせて。
うまく逃げられた。ほんと、しょうがない。と言いながら起していた体をペッドに倒す。
時間は16:00少し前。今日も終わったな。せっかくの休みなのに何してたんだろ。
「いかりくん……」
起きたかな。いや、寝言か。.
僕なんかよりも付き合わされた綾波の方が災難だったね。
「ごめん。ありがとう」
そっと頭を撫でようと自由な左手を伸ばす。体を捻らなければならず無理な姿勢になったけどなんとか届いた。
目を覚ましたらもう一度言おう。
頭は……撫でられないかな。
髪の感触を思い出す。サラサラと柔らかく滑らかな猫っ毛。
もう一度触れていいかな。
手を伸ばす。
でも、起こしちゃ悪いし……。
どうすることも出来ず、またと言うのは適切でないにしろ石像のように動けない。
動かない。
結局は引っ込めた。
彼女の為を思ってはいても、それも勇気を持てなかった言い訳が半分以上。
情けないな。
天井に向けた手をぎゅっと握っては開く。
この手は何か掴めるのだろうか。
大人になれば何か掴めるのだろうか。
僕は、まだまだ子供なんだよな。
早く大人になりたいな。
そうしたら……。
頭くらい撫でられるかな。
腕の力を抜く。
ゆっくりとペッドに落ちポフッと鳴った。
彼女は起きなかった。
「碇さん。気分はどうですか?」
「はい、おかげさまで」
彼女には廊下で待ってもらっている。起こすとき腕を掴まれているのを見られたのが少し恥ずかしかった。
笑顔で診察してくれて緊張はしないのが幸いといったところ。
軽い熱中症だったようで、適度に体を休めた僕の検診は事もなく終わった。
廊下で待っていた彼女におまたせと言って歩き出そうとしたら、引き止められた。
「そのまま行かない方がいいと思う」
えっと、服はちゃんと着てるよね?
「鏡、見てきたら?」
「う、うん。そうする……けど」
寝癖でも凄い事になっているんだろうか、触ってみてもそんなに変じゃなさそうなんだけど。
「ああっ、なんだコレ!」
トイレの鏡に写した顔にはデカデカと「バカシンジ」と書いてあった。しかも読みやすいよう御丁寧にも鏡文字を使って。
お医者さんが顔色を見たときに、やけに笑っていたのは……これか。
やられた。こんな事するのはアスカくらいしかいない。
お見舞いにきてくれた事を思うとお礼も言いたいけど、なんか複雑で怒れもしない。
落書きは水性マジックで書かれていたようで、水ですぐ落ちた。
ロビーを通るとき目に入った時計は17:00ちょうど。
帰ったらすぐ夕食の仕度をしなきゃ。
義務もあるけど僕自身すごくお腹が空いているし。お昼抜きだったもんな。
そういえば、彼女もお昼抜きだったんじゃ?
「あのさ、今日お昼食べた?」
「食べてない」
ああ、やっぱり。
「ごめん、僕に付き合わせちゃったみたいで」
彼女はちょっと目を合わすと俯いてしまった。頷いたようにも見えた。
ずっと傍にいてくれたんだろうか。
「今日はありがとう。お礼に夕食ごちそうしたいんだけど、どうかな?」
「いいの?」
「来てくれると嬉しいんだけど」
「わかった」
メニューは既に決まっていた。
「一つ聞いてもいい?」
「なに?」
確率は1/2。
「辛いものは大丈夫?」
「平気だと思う」
やっぱり夢だったんだ……。
なんだろうこの気持ち。残念というか未練というか、大切にしたい思い出のようで諦めがつかない。
「ごめん、もう一つだけ?」
「うん」
「ペペロンチーノって知ってる?」
「ペペロンチーノ?」
まったく一緒じゃないけど反応は同じだ!
「うん。オリーブオイルで炒めたやつで、味付けは主にニンニク…」
「おいしそう」
ここも同じ!
「今度は最後まで言わせてよ!」
これでハッキリする。
しかし彼女には“今度”の意味がわからなかったみたいで、小首を傾げてみせただけ。
このとき僕は思いっきり落胆していた。
やっぱり夢だったのか。順番は違うけど、こんなところは同じなのにね。
「ニンニクと……鷹の爪を使うんだよ」
「鷹の爪!?」
猫からしてみれば天敵みたいなものだし驚くのも無理ないか。大丈夫だよ、本当に鷹を使う訳じゃないから。
あれ、なんでこんな事を考えるんだろう?
「トウガラシの事だよ」
「そ、そう」
病室から見た雨は通り雨だったようで、傾き始めた陽が創る微妙な色加減の空が美しい。もうしばらくすれば綺麗な茜空が見られそうだ。
隣を歩く彼女の頬には少し早い夕焼けが訪れていた。
マンションに辿り着く頃、街灯が灯る頃には夕闇が迫り始めていた。
暮れゆく道を会話もなくここまで、ずっと考えていた。おそらく美しかったであろう沈む夕日を眺めるのも忘れ、匂いや味をしっかりと憶えている、あのリアルすぎて妖し気な夢の事を。
今にして思えば夢に出てきた彼女は、彼女のようで彼女にあらず。かといって夢が勝手に造り出した彼女の姿をした他人とも思えず。どこか知っている人のような。しかも親しい。
だからどうしても夢と片付けてしまうには何か引っかかり、気にしない訳にもいかず。
なんとなくだけど、どう片付けて良いかは彼女に話しても無駄だと思い、ずっと一人で。
二人きりでいて何も話さないのは常なので失礼もなかっただろうけど、彼女が時折僕の方を見ているのは気が付いていながらも敢えて無視していた。
どうしても、夢と片付けてしまうには納得ができなくて……。
それも玄関のドアを開けるまで。お礼の食事を作るのに気持ちを切り替えた。
「ただいま」
リビングには、寝そべってテレビを観るアスカがいた。
ミサトさんはまだのようだ。
「おかえり~」
こちらを見ないで、代わりに足をばたつかせ挨拶を返す。それで終わり。
短時間とはいえ入院していたのだから大丈夫の一言くらいあっても良さそうなものだけど……。
綾波がソファーに腰をかける。
気配で僕と思ったのか、アスカが振り向いて「気を付けなさいよね」と言った先にはもちろん綾波がいる。
「ファースト?」
「おじゃましてるわ」
あらためてアスカはキッチンにいた僕を探し、無言で説明を求める。
僕はパスタを取り出した戸棚を閉めながら答えた。
「助けてもらったお礼に夕食に誘ったんだ」
とくに返事はなく、アスカは興味なさげなテレビ鑑賞に戻る。
綾波は一応お客さんなので話し相手でも頼みたいところだけど、このままの方が良さそうだと思い直し開きかけた口を閉じる。
どうせウマが合わないだろうから、おとなしくしていてくれればそれでいい。アスカが不機嫌になるのだけは勘弁だ。
テーブルの上に置いてあった雑誌を読む綾波が少し心配になる。あれはアスカの雑誌だ。
そっけない態度に見えたアスカは、やはり綾波を気にしているようで、ちらりちらりと彼女の様子を窺っている。
「なに?」
気付いた綾波がアスカに尋ねる。
緊張が一気に高まる。一触即発の雰囲気。喧嘩にでもなりそうなものならすぐに止められるよう身構える。
「べつに」
流し目のまま止まっていたアスカの視線が正面に戻る。
どうやら危機は脱したらしい。心臓に悪いよ。
それからはアスカも綾波も自分だけしかいないかのように静かだった。
僕は僕で夕食の仕度を続けた。
「できたよ、二人ともおいでよ」
四人掛けのテーブルに、先に着いていた僕。ここは元々僕の席で正面に綾波。アスカは……僕の隣。
二人のうち、先に座ったのはアスカだった。呼ぶとすぐに立ち上がり、ここに座った。
綾波が座ったのは、普段はアスカの席。その隣はミサトさんの場所で今は皿を置いていない。
彼女は用意をしてあった場所に座ったに過ぎない。その皿はアスカに用意したものだったけど。
なぜもう一つは僕の隣に用意したかというと、誰の席でもない事と、アスカの隣に綾波を座らせるのはまずいと思ったからだ。
別に下心があったって訳じゃない。
「どうぞ、遠慮しないで。足りなければおかわりしてもいいからさ」
「いっただっきまーす!」
遮るようにアスカの声。
いつもはこんな大声出さないくせに……。
「さっ、食べよう」
「いただきます」
気に入ってくれるといいけど。
ただアーリオ・オーリオ(ニンニク・オイル)にペペロンチーノ(トウガラシ)だと夕食には物足りないから、タコのスライスとトマトを追加してある。いわゆるロッソ(赤)ってやつだ。
仕上げに刻みパセリを振りかけて彩りも鮮やか。なかなか良い出来だと自分でも思う。
「おいしい」
「そう、よかった」
よしっ!
反応は上々。僕もこれはイケルって一口食べて思ったもの。
程よい辛味と炒めたニンニクの香りがオイルに馴染んで後を引く旨さだ。
これはおかわりを作らなきゃならないかな。アスカも凄い勢いで食べてるし。
「かりゃい!」
「えっ!」
これって……。
でも、なんでアスカなんだ?
「アンタ、これ仕返しのつもり!?」
仕返しって、あの落書きの?
まさか。でも、アスカってそんなに辛いの苦手じゃないのに。
「水!」
「う、うん」
急いでコップに水を酌み渡すとゴクゴクと飲み始めた。
そんなに辛かったかな? 僕も綾波も平気なのに。
アスカが食べていた皿を覗き込む。
ああっ、なんて事だ! トウガラシが大量に。
「恩を仇で返すとは、なかなかやるじゃないの!」
「わざとじゃないんだよ、わざとじゃ!」
「言い訳はいらないわ!」
バチンと大きな音がした。キーンと耳鳴りがして、そのあとジンジンとした痛みが頬に。
ひどいよ。
「大丈夫?」
「う、うん」
変なところで夢と一緒。こうなると、多少違うけど正夢ってことでいいかな。もう考えるのはよそうか。
頬の痛みはこれが現実である証拠。あれが夢だったのか現実であったのか、証明するものがなければ考えたって……?
証拠!
そうだ、証拠はあるかもしれない。あの喫茶店で支払った代金を確認すれば。
家計簿を付けてるついでで小遣い帳も付けている。レシートはないけど代金は憶えている。1760円!
いてもたってもいられずに、自分の部屋に駆け込む。背中から「アンタ逃げる気!」と聞こえたけど、構ってはいられない。
引き出しを開け小遣い帳を開く。昨日の時点で残金は5126円。
財布の中は!
机の上に小銭を広げる。慌てていたので数枚が転がり床に散らばった。
ああもう!
急いで拾い集める。なくしてなければいいが、多少違っても近い金額が減っていれば良しとしよう。
そしてお札を抜く。出てきたのは千円札が3枚。これは!
小銭はどうだった?!
指で机に滑らせて数えると、あったのは366円。
ザル計算では、減っているのはだいたい同じ金額のよう。
しっかりと計算しようと暗算を試みるが落ち着かず頭が回らない。
部屋のドアをドンドンと叩く音がする。
余計集中できないじゃないか、ちょっと待ってよ!
暗算はあきらめて電卓を取り出しキーを叩く。それも何度か入力を失敗してやり直す羽目に。
落ち着け!
そして、液晶に表示された差額……1760円。
鳥肌が立った。
あれは夢なんかじゃない!
「綾波!」
「なんなのよ、もう!」
乱暴に開けたドアに跳ね飛ばされそうになったアスカがいきり立って追いかけてくる。
殴るなり蹴るなりは後で受けるから今は。
「教えて欲しいんだけど!」
一人残されたダイニングでもくもくと食べていた彼女に息も荒く詰め寄る。
必死の形相になっているのだろう、驚いた彼女は持っていたフォークを振り上げて体を仰け反らす。
その状態でコクコクと頷いた。
「今日の昼、僕と喫茶店で食事したよね?」
「してない」
「よく思い出して!」
彼女は天井に向けた目をキョロキョロと彷徨わす。考えてくれているのはいいのだけれど、待っている僕はもどかしい。考える程の事じゃないだろうに。
「やっぱりしてないと思う」
待たされた返事に、何かしら憶えがあるからだろうと期待しただけにその落胆は大きい。
ガクッと項垂れた僕に気を使い、彼女は食事を勧める。冷めてしまうわ、と。
「ごめん、食事中に。……どうかしてた」
アスカも僕の奇怪な行動には理由があったからだとわかってくれたようで何も言わなかった。
「食べようか」
ようやく落ち着いて食事を再開したものの冷めてしまったパスタはひと味物足りなく、暖め直すついでにおかわりを求める綾波の分を追加して作り直す。
ニンニクを炒めるとき、香りが夢の記憶を思い出させる。しかし手がかりはもうない。
靄のかかった気持ちのままフライパンを煽る。
トマトを切るのを忘れていた。
一旦フライパンを火から降ろし、包丁を握る。
「痛っ」
人指し指の背に、スーッと赤い線が細く浮き上がる。
僕はその鮮やかで鈍い色に見とれてしまう。
同じ色を昔見た。
どこかで……。
思い出せない。
傷口を舐めると、思い出せない記憶と同じ錆の味。
「ねえ、まだー」
「ああ、もうすぐだよ」
今度は鷹の爪が片寄らないように盛り付けた。
最初に思ったとおり、ちゃんとした物はアスカにも好評だった。
【記事番号】-2147482944 (2147483647)
【 日時 】05/08/23 00:45
【 発言者 】なお。
石像と猫
容赦無く照り付ける太陽。
焼けたアスファルトの向こうに蜃気楼が浮かぶ。
吹き出す汗は、飽和した大気に溶けず流れ落ちるだけ。
心頭滅却すれど、鳴くセミに夏である事をますます実感させられ……。
「あづい」
こう呟いたのは、本日何度目だろうか。前回発してからは、五分と経っていないのは確かだ。時計の針は今も重なっている。
暑さを、昼を告げるサイレンに八つ当たりしたので、それだけは憶えていた。
たまのオフなのに、朝から何もする事がなかった。
友人達は一緒に出掛けたらしい。場所からして合流は出来そうになかった。
誘いは……なかった。
冷蔵庫の中が乏しくなっていたのを思い出し、買い物に出た。
それが間違いだった。
行きは良かった。スーパーまでは日向を避けて歩けた。
しかし今は正午。日陰は無いに等しい。
自前の黒髪は、嫌でも光を集め熱に変える。
目が霞む。いや、見ているのは蜃気楼か。
食材を詰め込んだ買い物袋が指に食い込む。
鬱血した指の痛みが意識を繋ぎ止めていた。
ガサッ!
クシャッ!
コスン!
それは纏まって一つの音で聞こえた。
失いそうな意識の中、聴覚だけが妙に鋭くなっていた。
いつのまにか、汗ばんだ手は軽くなっていた。
咽乾いたな……。
落ちた物はそのままに、興味は道を挟んで向こう側の自動販売機。
拾うか、飲料を買いに行くか。
どちらもする気が起きない。
それでも汗だけは流れ、足下に落ち染みて更に湿度を上昇させる。
このまま干涸びて、石像にでもなってみようか……。
ガサッ、ガササッ。
足下で聞こえた音。野良猫あたりが漁っているのか。
猫
猫かな?
「はい」
赤い瞳の猫が袋を差し出した。
黙って受け取る。
「じゃあ」
「待って!」
振り返った猫に僕は言った。
「お礼に、冷たいものでもどう?」
僕達は、蜃気楼の中を歩き出した。
【タイトル】Re: 石像と猫
【記事番号】-2147482943 (-2147482944)
【 日時 】05/08/23 12:46
【 発言者 】あやきち
うみゅ、微妙なw
終わっていると言えば言えるし、続けられると言えば続くだろうし、みゅみゅみゅ、てーことで続きをプリーズw
判断つかんw
オイラの頭に浮かんだイメージとしては
顔からだらだらと汗を流して、しかも鼻から上は影になって見えない。そんな少年がスーパーの袋をもてあますように、仕方なく持って歩いている感じ。
そして視界が段々とレンズを通してみているかのように丸くなっていくなかで目の前に猫が現れたって感じかにゃ?
そんな絵が浮かびました。
でも、読んでいてあんまり暑いって感じはしなかったっす。涼しい部屋にいるからかもしれんがw
あれだ、イライラするくらいの中途半端な暑さのほうが暑いと感じるのかもしれない。
ある一定の厚さを越えると、もうここまでくるといっそ気持ちいいねって開き直っちゃうような感じになるのかな?
そんな感じです
よし、頑張ってabaさんの作品を読むぞ~
【タイトル】Re: 石像と猫
【記事番号】-2147482942 (-2147482944)
【 日時 】05/08/23 21:49
【 発言者 】牙丸
すっごい暑そうですね・・・(^^;)
夏の正午に買い物って、かなり怠いんですよね。
お店の中は冷房とか効いてるので、外に出ると暑さが倍に感じたりとか・・・
見えた猫は蜃気楼なのか、実物なのか。
この続きが気になります。
【タイトル】Re: 石像と猫
【記事番号】-2147482941 (-2147482944)
【 日時 】05/08/23 22:11
【 発言者 】なお。
久しぶりの投稿でした。
たまには何かしとかないととやってみたのですが中途半端にしかなりませんでした。
はじめまして牙丸さん。なお。と申します。
こんなものにわざわざ感想下さってどうもです。
最初に謝っておきます。すみません。
書いたのは気紛れにだったんでこれで終わりだったんです(^_^;)
実はコレ修正してまして、その時に書いてあった
> おしまい
> 書いた理由
> 暑かったから(爆)
> めんどくさくなったので無理矢理終わらせました。
ってのが消えちゃってましたw
一応ですが、続きを書いてみようと思います。
しかし完成するかはノリ次第。
掲示板に投稿できるレベルにはしたいけど、気に入らなければボツにするかもしれません。
> てーことで続きをプリーズw
これはきっと仕返に違いないだろうw
>お店の中は冷房とか効いてるので、外に出ると暑さが倍に感じたりとか・・・
それ、入れれば良かった。
【タイトル】Re: 石像と猫
【記事番号】-2147482936 (-2147482944)
【 日時 】05/08/24 21:57
【 発言者 】D・T
ちょっと出遅れちゃったね。
今更だけど、こういう話凄く好きです。
【タイトル】Re: 石像と猫
【記事番号】-2147482927 (-2147482944)
【 日時 】05/08/25 21:02
【 発言者 】tamb <tamb○cube-web.net>
雰囲気はいい。いかにもD・Tさんが好きそうな感じ(笑)。
でも問題はここからどうするかなんだよな。
山野浩一という作家に「メシメリ街道」という話があって(「殺人者の空」所収。1976
年仮面社)、これはニューウェーブ系のSFなんだけど、ひとつの答えなんじゃないかと思
う。でも入手は非常に困難。あっても高い。私も図書館で読んだっきり。つまりほとんど
売れなかったということで、全然答えじゃないのかもしれない(^^;)。
山野浩一氏についてはこのへんを参照。
http://www5b.biglobe.ne.jp/~pocapoca/sub143.htm
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【タイトル】Re: 石像と猫
【記事番号】-2147482925 (-2147482944)
【 日時 】05/08/27 15:55
【 発言者 】D・T
先生! 「殺人者の空」が手に入りませーん。
あと、山野浩一さんの最近の著作は、なんで全部競馬関係なんだーだーだー(エコー)。
古本屋を巡る冒険に出ます。
【タイトル】Re: 石像と猫
【記事番号】-2147482924 (-2147482944)
【 日時 】05/08/27 19:38
【 発言者 】tamb@aba-m.a-kkvさん召還 <tamb○cube-web.net>
>「殺人者の空」が手に入りませーん。
日本の古本屋(http://www.kosho.or.jp/)で検索すると、
西村文生堂(http://home.a07.itscom.net/bunseido/)に一冊あることが判る。
でも五千円もする。
>あと、山野浩一さんの最近の著作は、なんで全部競馬関係なんだーだーだー(エコー)。
競馬評論家だから(笑)。
ハヤカワから文庫で出てた「鳥はいまどこを飛ぶか」と「X電車で行こう」は比較的入手しやすいかと思われます。あくまでも比較の問題だけど(^^;)。特に「X電車で行こう」はOVA化された時(!)に増刷かかってますし。たまに見かけます。
あとD・Tさんにお勧めなのが山尾悠子。これはaba-m.a-kkvさんにもお勧めしたんだけど。
ハヤカワ文庫の短編集「夢の棲む街」が手に入ればベストなんだけど、これも入手困難。現行では「山尾悠子作品集成」ってのがあって、「夢の棲む街」も全部再録されてる。でも9,240円もする(^^;)。図書館でどうぞ。これも現行で買える「ラピスラズリ」は異様に難解でした。
では、山尾悠子についてはaba-m.a-kkvさんコメントをお願いします(笑)。
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【タイトル】続き
【記事番号】-2147482896 (-2147482944)
【 日時 】05/08/30 22:15
【 発言者 】なお。
辿り着いた自動販売機の前、財布を探す。
取り出そうとしたそれは、汗で濡れたポケットに引っ掛かり予想以上の抵抗をする。
「ごめん、ちょっと待って」
しかしそう言っても肝心な、言葉の相手がいない。どこに行ったのか。
見渡すと、気紛れな猫は後ろ姿で隣の建物に入っていくところ。姿が消えると同時にカランコロンとベルが鳴った。
喫茶店……。
思惑は外れたが、かえって好都合。後を追い、カランコロンとペルを鳴らした。
扉を閉めると、そこは天国だった。外気との温度差もさる事、気化する汗がみるみる火照りを鎮めていった。重く纏わりつく湿気が消え体も軽い。
そして透き通って流れる自鳴琴の音色は、心を爽やかに。
「いらっしゃいませ。お連れさまですか?」
いかにも紳士といった装いの老人が、手のひらを上に奥へ差し出し尋ねる。
その先は窓の外を見つめる猫一人。
「そうです」
「ではこちらへ」
物腰の低さに恐縮しながら、導かれる程もない距離のテーブルまで案内された。
背筋を伸ばして椅子に座る。
湿ったズボンが腿の裏側で冷たかった。
コトリ。
氷りの浮かぶグラスが一つ、目の前に置かれる。 メニューの冊子もさりげなく。
テーブルには既に、半分となったものがもう一つ。
パキンと小さく氷の割れる音と、表面に浮かぶ水滴が涼さを演出していた。
「御注文がお決まりになりましたら御呼び下さい」
紳士は一礼して踵を返すとカウンターの奥に消えてゆく。
見送って肩の力を抜いた。腰も深く掛けなおす。
向き直ると正面にいる猫は、我関せずと目を閉じグラスを傾けていた。白い咽が波打ってコクコクと鳴っている。
グラスはすぐ空になった。
膨らんだ頬からポリポリと音がしていた。
「何にする?」
「いははい、ほういははいははは」(いらない、もういただいたから)
何を言っているのか……わかるけど。
ひょっとしてからかわれてる?
「それじゃお礼にならないよ……」
メニューを渡すと、思ったより素直に受け取りパラパラと捲り始めてくれた。
遠慮していたのかな?
本当に猫でも相手にしているようで、何を考えているのか掴めない。おかげで自分のペースも掴めない。
そういえば、咽が乾いていた。
濡れたグラスを手に取り、大きく息を吸い込み一気に煽る。
ングッ、ングッ、ングッ……。
程良く氷の溶けた水は、染み入るように咽を潤してゆく。ネバついた不快感が洗い流されてゆく。
グラスを置くまでは一瞬の出来事。コトンと音が鳴るのと同時に、プハーッと長い息を吐き出した。
生き返った。
しかし枯れ切っていた体は満足せず、口の中には不快感が少し残っていた。
さて、次は何を飲もう?
メニューは、口元に指をあてた猫に取られたまま。逆さまのままに覗き込む。
開かれていたのは……ランチの項。
そういえば、お昼だったね。
とりあえずここまで。
先は考えてないので未だ完結のメド立たず……。
【タイトル】Re: 石像と猫
【記事番号】-2147482890 (-2147482944)
【 日時 】05/08/31 21:41
【 発言者 】牙丸
おお~!続編が!!
喫茶店にはいるとはちゃっかりしてますね。
一応遠慮はするけど、計算してるような気がしないでもないです。
そこら辺が、なんだか可愛いです。
あと、描写が凄くリアル。
喉乾いてる時って水を飲んでるのが一瞬に感じますよね。
水の中の氷の表現も思わずそうだよな~って共感出来る感じです。
【タイトル】Re: 石像と猫
【記事番号】-2147482888 (-2147482944)
【 日時 】05/09/01 23:15
【 発言者 】tomo
D・Tさんとおんなじで、私もこういう雰囲気が好きです。私も電車の中とか、そういうちょっとした空き時間のときにこんな感じのお話を思いついては、いつも一人で楽しんでます(爆)
でも、tambさんもおっしゃっていた通り、このあとどうするかが難しいですよね。何気ない日常なだけに、お話としてクライマックス(?)が作りにくい。それでも、このお話は牙丸さんのおっしゃっているようにリアルなだけに、読んでいて共感する部分があって、うまいなって思いました。
最後に、一つだけ質問です。
>テーブルには既に、半分となったものがもう一つ。
これ、何が半分になったのですか?私の力量ではよみとれませんでした。よろしければ教えてくださいな。
【タイトル】Re: 石像と猫
【記事番号】-2147482887 (-2147482944)
【 日時 】05/09/01 23:31
【 発言者 】aba-m.a-kkv
召還されましたw
■なお。さん
石像と猫、すごく面白いです。
こういう雰囲気好きですね。
猫をテーマにしたSSが書きかけで止まっているんですが触発されそうw
続き楽しみにしています。
■山尾悠子「夢の棲む街」
D・Tさんにはぜひ読んでいただきたいですね。
最近はネットで図書館予約できるらしいので、ぜひ借りてみてください。
さて、コメントですが、この作品集成は、違う時間、違う空間が流れているような感じがしました。あの独特な世界観は驚異です。最初は入りにくい感じですが、引き込まれたら宇宙に落とされたような感じですね(笑)なかなか言葉にするのが難しいのですが、すごく面白いと思います。
時間が出来たらまた借りて、第二章を読まなければと思う今日この頃。
【タイトル】Re: 石像と猫
【記事番号】-2147482886 (-2147482944)
【 日時 】05/09/02 00:07
【 発言者 】なお。
D・Tさん、tomoさん、aba-m.a-kkvさん
雰囲気を気に入っていただいたようで、こちらとしてもうれしいです。
> いかにもD・Tさんが好きそうな感じ(笑)。
tambさんが書かれてますが、これを書いているときにD・Tさんを意識しなかったといえば嘘
になりますw
普段と違った書き方をしてみようとしたらこんな感じになってきて、なんとなくD・Tさんっぽ
いかなって思ってました。真似したってわけでもありませんけど、何かしら影響は受けている
かもしれません。
> 問題はここからどうするかなんだよな。
> このあとどうするかが難しいですよね。
いつも行き当たりばったりです。きっとなんとかなるでしょう。
この雰囲気のまま続けるのが難しいところではありますけど。
> これ、何が半分になったのですか?
ああ、やっぱり疑問に思っちゃいましたか。
ここはグラスの中身(お冷)の量です。
これの前にメニューなんて余計な物を書いてしまったので、ちとまずいかなとその後ろにもう
一度グラスの描写を入れて誤魔化してます。
これでわかってもらえると思ったのは浅はかでしたね。
めんどくさくなってきたけど完結させないと怒られそうなので、がんばってみます。
【タイトル】Re: 石像と猫
【記事番号】-2147482877 (-2147482944)
【 日時 】05/09/02 20:31
【 発言者 】tamb <tamb○cube-web.net>
個人的にはもう少し不条理感が欲しいところ(笑)。下手を打つと収拾がつかなくなるけど。
続きに期待。
mailto:tamb○cube-web.net
【タイトル】Re: 石像と猫
【記事番号】-2147482873 (-2147482944)
【 日時 】05/09/04 23:58
【 発言者 】パッケラ
ああ、たしかにでーちゃんの作風に似ている
抽象的で比喩とかが
真似てみてみたけど続いて書けないだよな~
テンション維持できるのはすごい
私としてはなおさんには、なにゃ~ん萌えを書いてほすいかなw
【タイトル】Re: 石像と猫
【記事番号】-2147482872 (-2147482944)
【 日時 】05/09/05 01:53
【 発言者 】なお。
> 真似てみてみたけど続いて書けないだよな~
> テンション維持できるのはすごい
いや維持できてないですから。
よってtambさんの指摘は正解。
> 個人的にはもう少し不条理感が欲しいところ(笑)。
自分でも弱いと思っています。
そんなそつないツッコミがステキで流石ですw
> なにゃ~ん萌え
なにゃ~ん萌えって何?
【タイトル】Re: 石像と猫
【記事番号】-2147482871 (-2147482944)
【 日時 】05/09/05 01:59
【 発言者 】パッケラ
> >なにゃ~ん萌え
すまにゅ、はにゃ~んだ
だから通じないってばw
【タイトル】Re: 石像と猫
【記事番号】-2147482852 (-2147482944)
【 日時 】05/09/05 20:09
【 発言者 】tamb <tamb○cube-web.net>
>抽象的で比喩とかが
>真似てみてみたけど続いて書けないだよな~
>テンション維持できるのはすごい
破壊なくして創造なしじゃないけど(^^;)、不条理全開でぶっ壊す事はできるのね。D・
Tさんレベルには及ばないんだけどさ。で、どうするって思うと書けなくなる。創造がで
きないわけね。
なお。さんはいい線行ってるような気がする。続き待ちね(笑)。それからD・Tさんは
「ここはどこだ?」の続きを待ってます(笑)。
なお。さんとD・Tさん、北野勇作の「昔、火星のあった場所」って読んだ事ある?
mailto:tamb○cube-web.net
【タイトル】またまた続き
【記事番号】-2147482847 (-2147482944)
【 日時 】05/09/05 22:17
【 発言者 】なお。
「ついでだから食べていこうか」
頷いたのが返事。
誘ったはいいが、忘れていたくらいで実のところ食欲はあまりなかった。
「で、決まった?」
今度はフルフルと頭を振る。
髪が揺れ、ふわっとシャンプーの香りが漂う。
僕は……汗臭いんだろうな。
覗き込んでいた体を少し引いた。
とりあえず軽いものを選ぼう。トーストセットでいいかな。
メニューの端にちょこんと書かれた字を見てそれに決めた。
これくらいなら入るだろう。朝もトーストだったけど。
彼女は何にするのかな?
まだ考えているようだ。
外の陽射しは強烈なままだ。暑さはもう忘れたけれど。
遠くに雲が厚い。夕方には一雨あるかもしれない。
視線を戻すと、ふと目が合った。
テーブルの上、メニューに指を差している。
「どうしたの?」
「これ……」
「それにするんだ」
シャンプーの香りも一緒に、もう一度髪も揺れる。
違うの?
「これ、なに?」
小首を傾げる仕種。
そうか、知らないんだ。アーリオ・オーリオ・エ・ペペロンチーノ。
ずいぶん悩んでると思ったら、そういう事か……。
「パスタだよ。オリーブオイルで炒めたやつで、味付けは主にニンニク…」
「これでいい」
即答。
それでいいの?
他のも説明してあげるけど……。
「飲み物は?」
「オレンジジュース」
呼び鈴を振る。適度に乾燥した空気に、軽い音が、チリン、チリンとよく響く。
元の場所に戻すとき、赤い瞳がそれを追っていた。
しばらくすると先程の紳士が現われた。いつの間にか、気配もなく幽霊のように。
おかげで、震える声を抑えながらの注文と相成った。
あとは待つだけ、のはずが……。
間が持たない。
これってデートみたいだね、とでも言うのか……。
悟られないよう俯き表情を隠す。
嫌な汗が流れる。もちろん暑くはない。むしろ寒い。それなのにせっかく補充したはずの水分が、どんどん失われてゆく。
干涸びてゆく。次第に体も硬直してゆく。今度こそ石像になってしまいそう。
爽やかだった自鳴琴の音も、今はレクイエムのよう。
どうしたらいい……。
チリン、チリン。
メデューサの呪いを打ち破ったのは、鏡だったはず……。
音に釣られて視線を上げた先に、鳴っていたのはさっき僕が振った鈴。
チリン、チリン、チリン、チリン。
チリン、チリン、チリン、チリン。
くり返し何度も振る彼女の目は興味ありげで、ねこじゃらしに飛びつく猫そのもの。
わかってるよね、その意味?
「御呼びでしょうか」
当然そうなるよね。どうするのかな?
顔を見合わせて……チリン、チリン。
そうきたか。
注文は……する訳ないよね。
仕方ないなぁ。
「あ、あのう。チョコレートパフェ、一つ」
「……以上で、よろしいでしょうか」
「はい」
「かしこまりました」
ふう、やれやれ。
ほっと一息吐くと、いつの間にかにかしこまっていた体を休めた。
そこに不意打ちの言葉。
「パフェ、食べるの?」
そうくるか!
引っぱれるけどこれからどうするか。なにも変わっていないもんね。
完結させる自信がなくなってきました。
【タイトル】Re: 石像と猫
【記事番号】-2147482846 (-2147482944)
【 日時 】05/09/06 00:31
【 発言者 】D・T
■tambさん
>北野勇作の「昔、火星のあった場所」って読んだ事ある?
北野勇作さんは、興味はあったのだけれど縁が無くて結局読んでいません。
読みたい本の数が多すぎます。
>「ここはどこだ?」の続きを待ってます(笑)。
2015年までにはなんとか(と言いつつ結局書かない気もしますよね)。
■なお。さん
>完結させる自信がなくなってきました。
困ったときは夢オチを使えば略。
嘘です。ヒィヒィ言いながら完結させてください(笑)。
■山尾悠子の本が馬鹿みたいに高価な件について。
高いなぁ。しかし、図書館に行くのが面倒くさいのでついつい買ってしまうかもしれないD・Tの思考が恐ろしい。
というより、もはやD・Tにとっての図書館とは、商売敵になってしまった昔の恋人のようなモノです。
それでは。チャオ。
【タイトル】またまたまた続き
【記事番号】-2147482844 (-2147482944)
【 日時 】05/09/06 19:00
【 発言者 】なお。
それから間もなく食事が運ばれてきて、僕が食べているのはペペロンチーノ……。
「では、ごゆっくり」
トーストの皿は僕のところに、パスタの皿は彼女の元に。セットのコーヒーと、頼んだオレンジジュースも添えて。
パスタから漂う香りの強烈な自己主張に、食欲減退ぎみだった僕も唾液が滲み出る。
こんがりときつね色に焼けたトーストは匂いという面では負けてしまっていたが、それでも齧ると香ばしさが鼻に抜けた。
サクリとした食感も気持ち良い。足下の買い物袋にある食パンが惨めに思える程に旨い。
こっちはおそらく自家製だろう。生まれの不幸が共感できて同情してしまう。
その一口目は十分に咀嚼して味わった。
ただ、飲み込もうとしても乾いた咽を通らなかったので、コーヒーで流し込まなければならないのが残念だった。
パスタも美味しそう。食が進むのか、手も口も忙しそうに動かしている。
そんなに慌てなくても逃げないからゆっくり食べたら?
まあ、どんな食べ物なのか知らなかったようだから好みに合ったようで何よりだけど。
と思った矢先、ピタリとその動きが止まる。突然、石像にでもなったみたいに。
どうしたのかな?
「かりゃい」(からい)
小さく舌をペロリと出した。その後にオレンジジュースという流れ。
一気に食べてたから後からきたんだろう。
「辛いのダメだったんだ」
紙ナプキンで口を押さえる彼女は涙目だ。
「いひゃりふんにょイリワリュ」(いかくんのイジワル)
「最後まで聞かないで決めるからでしょ」
「かりゃい」
ああ、そんな目で見ないでよ。
「かりゃい」
「……」
「かりゃい」
その後、無言で皿を取り替えた僕。ついでにパフェも、じっと見つめる瞳に負けて。
最初からあげるつもりだったからいいけどさ……。
で、今度は頭を押さえているよね。
これ以上は僕も面倒見切れない。自分の物になった皿に集中した。
やっぱりパスタも旨かった。スパイシーなのが幸いして今の僕にも食べやすい。
フォークに絡み付くパスタに紅の瞳にも似た輪切りの鷹の爪が見事に赤い。
あっ、これってもしかして。
「からくない?」
「う、うん。平気、カッ……ウハッ、ケホッ!」
「だいじょうぶ?」
「う、うん。なんとか」
なんで僕まで涙目にならなきゃならないのか。
あくまで自然体な彼女に、僕の馬鹿らしい考えは咽の痛み以上に痛く不様に思えた。
「1760円になります」
お釣を貰うとき触れた紳士の手は思ったより暖かかった。
外に出ると辺りは薄暗かった。今にも雨が落ちてきそうな空が重い。蒸し暑さは相変わらずで息苦しささえも感じる。
だけど直射日光がない分かなり具合はいい。これから歩いて帰るのを考えるとこれでも十分だ。雨さえ降らなければ。
「降るかな?」
「わからないわ」
聞くまでもなかった。体に冷たさを感じた瞬間パタパタと音がしだして地面に霧が生まれた。
雨に濡れた埃の匂いに包まれる。
空を仰ぐと顔に叩き付ける水滴が痛かった。
なんでこんな事をしているんだろう。
彼女も濡れてしまうのに、近くにいてくれているような気がする。
でも、こうしていたい。
こうしていると、なんだかすごく気持ちがいいんだ。
腕を引っ張られているけど。
もう少しだけ……。
チリン、チリンと鈴の音が聞こえた。
喫茶店のシーン終了。
もうしばらく付き合っていただきます。
【タイトル】Re: 石像と猫
【記事番号】-2147482836 (-2147482944)
【 日時 】05/09/07 20:42
【 発言者 】tamb <tamb○cube-web.net>
正しく読めてるかどうか不安になってきたので今回はパス(爆)。もし読めてるとしたら,
これは相当いけるような気がする。ポイントは「猫」でしょう。やっぱり。
mailto:tamb○cube-web.net
【タイトル】Re: 石像と猫
【記事番号】-2147482835 (-2147482944)
【 日時 】05/09/07 21:15
【 発言者 】あやきち
段々、今の形式だと読みづらくなってきた(爆)
掲示板に直接投下は読みづらいのが難点だわな。
>「いひゃりふんにょイリワリュ」(いかくんのイジワル)
脱字ハケーン ☆-(ノ゚Д゚)八(゚Д゚ )ノイエーイ
段々長くなってきたのでまともな感想がかけませんw
【タイトル】Re: 石像と猫
【記事番号】-2147482834 (-2147482944)
【 日時 】05/09/07 23:16
【 発言者 】牙丸
ずいぶんと長くなってきましたね。
>「かりゃい」
すっごい可愛いです。
抵抗出来ないシンジの気持ちがすごくわかる。
なんだか、読むのが少し難しくなってきている。
>今度は頭を押さえているよね。
とか、なんでだか解らないです。
うーん・・・読解力無いなぁ・・・orz
【タイトル】Re: 石像と猫
【記事番号】-2147482833 (-2147482944)
【 日時 】05/09/07 23:44
【 発言者 】なお。
> 正しく読めてるかどうか不安になってきたので
頭から読んでみると、なんとなく流れが見えてきます。
しかしうまく書けないので、自分の想像と似た様な展開であっても違ったものなりそうです。
> 脱字ハケーン ☆-(ノ゚Д゚)八(゚Д゚ )ノイエーイ
えっ、なになに脱字って。
いかくんはいかくんですよ(エッ
いかはおいしいよね。捨てちゃったりするけどワタのところがいちばんうまい。
> なんでだか解らないです。
あっ、ここね。説明足りないかとは思ったけどわかってもらえるかなって放置したとこ。
ペペロンチーノを一気に食べて辛いという失敗のあとトーストと取り替えたけど、ここ
ではパフェがメインです。だからわざと直前にパフェを入れました。そしてパフェでも同
じ失敗をしているわけです。
冷たいものを一気に食べると……。
というわけです。
やっと終わらせ方が見えてきました。でも難しいところでなかなか書けないでいます。
【タイトル】Re: 石像と猫
【記事番号】-2147482832 (-2147482944)
【 日時 】05/09/08 16:13
【 発言者 】北並
猫な綾波とは・・・私を萌え殺す気ですか!?なお。さんは!(核爆
それはともかく、マイペースな綾波さんに逆らえないシンジ君がいいです(笑)。
>そしてパフェでも同じ失敗をしているわけです。
こういう子供っぽいレイちゃん、好きです(笑)
ほんとにめんこい。
シンジ君も振り回されるわけです(笑)
>やっと終わらせ方が見えてきました。でも難しいところでなかなか書けないでいます。
ここまできたら続きが気になりますね(笑)
がんばってください。
【タイトル】またまたまたまた続き
【記事番号】-2147482831 (-2147482944)
【 日時 】05/09/08 22:25
【 発言者 】なお。
「ここは?」
見覚えは……ある。
何度か入院した病室の天井だ。
なぜこんなところに?
ふと視界の端に動くものが見えたような気がした。
猫
猫かな?
なぜかそう思った
いい匂いがする
シャンプーの香り
それも知っている香り
カーテンがはためいている
外は雨
そして埃の匂い
この感じ、どこかで……
吹っかけた雫が床を濡らし始めていた。
窓、閉めなきゃ。
体を起こそうとしたら、引っ張られたように腕が重い。
綾波?
背中を丸めてベッドの縁に頭を預ける彼女はまるで……。
クウゥー。
お腹が鳴った。僕じゃない。
あんなに食べたのに。変なの。
あれ、僕もお腹が空いているような。
窓は開けたままにしておく事にした。
チリン、チリン。
鈴の音が聞こえたような気がした。
「シンちゃん、起きた?」
「あっ、ミサトさん」
「もう、心配したん……」
口の前に人指し指を立てた僕に、ミサトさんは声を小さく聞いた。
「寝ちゃったのね」
彼女の寝顔を覗き込むミサトさんの顔はとても優しい。
「でも、なんで綾波が……」
「ヘヘ~、知りたい?」
この反応は!
はあ、覚悟しておこう。
「はい」
「シンちゃん、なんで入院したか憶えてる?」
「えっと、綾波と喫茶店から出たら雨が降ってきて……」
「何言ってんの?」
「えっ?」
「レイはシンちゃんと一緒じゃなかったみたいよ」
どういうことだ?
「まだ頭ボーッとしてない?」
「スッキリしてますよ?」
「ほんとに大丈夫?」
「ええ」
一緒じゃなかったって?
「シンちゃん道端で倒れてたのよ。それをレイが見つけて連絡してくれたの」
「そりゃ、一緒にいましたから」
「だから、そうじゃないのよ」
まさか?
「お昼を買いにコンビニへ行く途中に偶然見つけたらしいわよ。発見が早かったから大事に至らなかったんだからレイに感謝しなさいね」
「夢、だったんだ」
「そのようね」
なんでそんなにニヤニヤしているんですか?
それが顔に出ていたらしい。
「そんなにしっかり捕まえられてたら、そりゃねえ」
「ああっ!」
「シーッ!」
今度は僕が黙らさせられる番だった。
「さってと、オジャマ虫は退散しますか」
「ミサトさん!」
大声が出せないのがもどかしい。
「先生呼んでくるわ。で、もう帰れると思うから」
「そんじゃね~」
最後の一言は閉まる前のドアから手だけをヒラヒラと覗かせて。
うまく逃げられた。ほんと、しょうがない。と言いながら起していた体をペッドに倒す。
時間は16:00少し前。今日も終わったな。せっかくの休みなのに何してたんだろ。
「いかりくん……」
起きたかな。いや、寝言か。.
僕なんかよりも付き合わされた綾波の方が災難だったね。
「ごめん。ありがとう」
そっと頭を撫でようと自由な左手を伸ばす。体を捻らなければならず無理な姿勢になったけどなんとか届いた。
目を覚ましたらもう一度言おう。
頭は……撫でられないかな。
髪の感触を思い出す。サラサラと柔らかく滑らかな猫っ毛。
もう一度触れていいかな。
手を伸ばす。
でも、起こしちゃ悪いし……。
どうすることも出来ず、またと言うのは適切でないにしろ石像のように動けない。
動かない。
結局は引っ込めた。
彼女の為を思ってはいても、それも勇気を持てなかった言い訳が半分以上。
情けないな。
天井に向けた手をぎゅっと握っては開く。
この手は何か掴めるのだろうか。
大人になれば何か掴めるのだろうか。
僕は、まだまだ子供なんだよな。
早く大人になりたいな。
そうしたら……。
頭くらい撫でられるかな。
腕の力を抜く。
ゆっくりとペッドに落ちポフッと鳴った。
彼女は起きなかった。
終わりの方を先に書いているので、この続きはちと時間がかかるかもしれません。
> がんばってください。
励みになります!
【タイトル】Re: 石像と猫
【記事番号】-2147482827 (-2147482944)
【 日時 】05/09/11 18:58
【 発言者 】北並
「石造と猫」シリーズ(?)はこれで完結、ですね。
かなり面白かったです。
>「鷹の爪!?」
この驚き具合がいい。
数歩飛び退ってるような気がします(笑)。
>猫からしてみれば天敵みたいなものだし驚くのも無理ないか。
そしてあっさりと「猫」扱いするシンジ君。
でも、
>あれ、なんでこんな事を考えるんだろう?
ということは、夢の中でさんざ猫扱いしたことを憶えてないんでしょうか。
都合のいいやつ(笑)
>「トウガラシの事だよ」
>「そ、そう」
これは確実に
>大丈夫だよ、本当に鷹を使う訳じゃないから。
これ思ってましたね?
そういう純粋さがめんこいんですね。
>隣を歩く彼女の頬には少し早い夕焼けが訪れていた。
勘違いしていたことからなのかそれ以外なのか、どちらとも取れるこの書き方は
素直に「うまいっ!」と思いました。
前半(と言うか、夢の中)ではマイペースな「猫」にシンジ君が振り回されてましたが、
最後にちょっとだけお返しした感じですね。
本当に面白かったです。
【タイトル】Re: 石像と猫
【記事番号】-2147482826 (-2147482944)
【 日時 】05/09/11 19:02
【 発言者 】なお。
いや、そのう。
夢落ちにはしてますけど、これで終わりじゃありません。
ねこねこ書いてるのはちゃんと理由がありまして、それをはっきりさせないうちは終わらせられません。
てなわけで、もう少し続きます。
【タイトル】終わりまで、あとどれくらい?
【記事番号】-2147482825 (-2147482944)
【 日時 】05/09/11 21:36
【 発言者 】なお。
マンションに辿り着く頃、街灯が灯る頃には夕闇が迫り始めていた。
暮れゆく道を会話もなくここまで、ずっと考えていた。おそらく美しかったであろう沈む夕日を眺めるのも忘れ、匂いや味をしっかりと憶えている、あのリアルすぎて妖し気な夢の事を。
今にして思えば夢に出てきた彼女は、彼女のようで彼女にあらず。かといって夢が勝手に造り出した彼女の姿をした他人とも思えず。どこか知っている人のような。しかも親しい。
だからどうしても夢と片付けてしまうには何か引っかかり、気にしない訳にもいかず。
なんとなくだけど、どう片付けて良いかは彼女に話しても無駄だと思い、ずっと一人で。
二人きりでいて何も話さないのは常なので失礼もなかっただろうけど、彼女が時折僕の方を見ているのは気が付いていながらも敢えて無視していた。
どうしても、夢と片付けてしまうには納得ができなくて……。
それも玄関のドアを開けるまで。お礼の食事を作るのに気持ちを切り替えた。
「ただいま」
リビングには、寝そべってテレビを観るアスカがいた。
ミサトさんはまだのようだ。
「おかえり~」
こちらを見ないで、代わりに足をばたつかせ挨拶を返す。それで終わり。
短時間とはいえ入院していたのだから大丈夫の一言くらいあっても良さそうなものだけど……。
綾波がソファーに腰をかける。
気配で僕と思ったのか、アスカが振り向いて「気を付けなさいよね」と言った先にはもちろん綾波がいる。
「ファースト?」
「おじゃましてるわ」
あらためてアスカはキッチンにいた僕を探し、無言で説明を求める。
僕はパスタを取り出した戸棚を閉めながら答えた。
「助けてもらったお礼に夕食に誘ったんだ」
とくに返事はなく、アスカは興味なさげなテレビ鑑賞に戻る。
綾波は一応お客さんなので話し相手でも頼みたいところだけど、このままの方が良さそうだと思い直し開きかけた口を閉じる。
どうせウマが合わないだろうから、おとなしくしていてくれればそれでいい。アスカが不機嫌になるのだけは勘弁だ。
テーブルの上に置いてあった雑誌を読む綾波が、少し心配になる。あれはアスカの雑誌だ。
そっけない態度に見えたアスカは、やはり綾波を気にしているようで、ちらりちらりと彼女の様子を窺っている。
「なに?」
気付いた綾波がアスカに尋ねる。
緊張が一気に高まる。一触即発の雰囲気。喧嘩にでもなりそうなものならすぐに止められるよう身構える。
「べつに」
流し目のまま止まっていたアスカの視線が正面に戻る。
どうやら危機は過ぎたらしい。心臓に悪いよ。
それからはアスカも綾波も自分だけしかいないかのように静かだった。
僕は僕で夕食の仕度を続けた。
「できたよ、二人ともおいでよ」
先に席に着いていた僕。ここはいつもの席。正面に綾波。アスカは……僕の隣。
二人のうち、先に座ったのはアスカだった。呼ぶとすぐに立ち上がり、ここに座った。
綾波が座ったのは、普段はアスカの席。その隣はミサトさんの場所で今は皿を置いていない。
彼女は用意をしてあった場所に座ったに過ぎない。その皿はアスカに用意したものだったけど。
なぜもう一つは僕の隣に用意したかというと、アスカの隣に綾波を座らせるのはまずいと思ったからだ。
別に下心があったって訳じゃない。
「どうぞ、遠慮しないで。足りなければおかわりしてもいいからさ」
「いっただっきまーす!」
アスカの遮るような大声。
いつもはこんな大声出さないくせに……。
「さっ、食べよう」
「いただきます」
気に入ってくれるといいけど。
ただアーリオ・オーリオ(ニンニク・オイル)にペペロンチーノ(トウガラシ)だと夕食には物足りないから、タコのスライスとトマトを追加してある。いわゆるロッソ(赤)ってやつだ。
仕上げに刻みパセリを振りかけて彩りも鮮やか。なかなか良い出来だと自分でも思う。
「おいしい」
「そう、よかった」
よしっ!
反応は上々。僕もこれはイケルって一口食べて思ったもの。
程よい辛味と炒めたニンニクの香りがオイルに馴染んで後を引く旨さだ。
これはおかわりを作らなきゃならないかな。アスカも凄い勢いで食べてるし。
「かりゃい」
「えっ!」
書きっぱなしですので誤字とかかなりあるかも。ここ2、3話は推敲だってぜんぜんだし。
書いたそばから投稿していって自分を追い詰めておかないとモチベーションが上がらないようなので、これで勘弁!
【タイトル】Re: 石像と猫
【記事番号】-2147482813 (-2147482944)
【 日時 】05/09/13 19:36
【 発言者 】tamb <tamb○cube-web.net>
■D・Tさん
>>北野勇作の「昔、火星のあった場所」って読んだ事ある?
> 北野勇作さんは、興味はあったのだけれど縁が無くて結局読んでいません。
機会があって読んだら感想教えて下さい。私にはとても難解でした。
>図書館に行くのが面倒くさいのでついつい買ってしまうかもしれない
とりあえず異様に高いですし、面白くなくても責任は取れませんので、少なくとも立ち
読みはされた方がいいでしょう。
■なお。さん
続き待ち。猫だよ、猫(笑)。
>「かりゃい」
>「えっ!」
この「かりゃい」はアスカ?
mailto:tamb○cube-web.net
【タイトル】tambさん当たり
【記事番号】-2147482807 (-2147482944)
【 日時 】05/09/13 21:49
【 発言者 】なお。
これって……。
でも、なんでアスカなんだ?
「アンタ、これ仕返しのつもり!?」
仕返しって、あの落書きの?
まさか。でも、アスカってそんなに辛いの苦手じゃないのに。
「水!」
「う、うん」
急いでコップに水を酌み渡すとゴクゴクと飲み始めた。
そんなに辛かったかな? 僕も綾波も平気なのに。
アスカが食べていた皿を覗き込む。
ああっ、なんて事だ! トウガラシが大量に。
「恩を仇で返すとは、なかなかやるじゃないの!」
「わざとじゃないんだよ、わざとじゃ!」
「言い訳はいらないわ!」
バチンと大きな音がした。キーンと耳鳴りがして、そのあとジンジンとした痛みが頬に。
ひどいよ。
「大丈夫?」
「う、うん」
変なところで夢と一緒。こうなると、多少違うけど正夢ってことでいいかな。もう考えるのはよそうか。
頬の痛みはこれが現実である証拠。あれが夢だったのか現実であったのか、証明するものがなければ考えたって……?
証拠!
そうだ、証拠はあるかもしれない。あの喫茶店で支払った代金を確認すれば。
家計簿を付けてるついでで小遣い帳も付けている。レシートはないけど代金は憶えている。1760円!
いてもたってもいられずに、自分の部屋に駆け込む。背中から「アンタ逃げる気!」と聞こえたけど、構ってはいられない。
引き出しを開け小遣い帳を開く。昨日の時点で残金は5126円。
財布の中は!
机の上に小銭を広げる。慌てていたので数枚が転がり床に散らばった。
ああもう!
急いで拾い集める。なくしてなければいいが、多少違っても近い金額が減っていれば良しとしよう。
そしてお札を抜く。出てきたのは千円札が3枚。これは!
小銭はどうだった?!
指で机に滑らせて数えると、あったのは366円。
ザル計算では、減っているのはだいたい同じ金額のよう。
しっかりと計算しようと暗算を試みるが落ち着かず頭が回らない。
部屋のドアをドンドンと叩く音がする。
余計集中できないじゃないか、ちょっと待ってよ!
暗算はあきらめて電卓を取り出しキーを叩く。それも何度か入力を失敗してやり直す羽目に。
落ち着け!
そして、液晶に表示された差額……1760円。
鳥肌が立った。
あれは夢なんかじゃない!
「綾波!」
「なんなのよ、もう!」
乱暴に開けたドアに跳ね飛ばされそうになったアスカがいきり立って追いかけてくる。
殴るなり蹴るなりは後で受けるから今は。
「教えて欲しいんだけど!」
一人残されたダイニングでもくもくと食べていた彼女に息も荒く詰め寄る。
必死の形相になっているのだろう、驚いた彼女は持っていたフォークを振り上げて体を仰け反らす。
その状態でコクコクと頷いた。
「今日の昼、僕と喫茶店で食事したよね?」
「してない」
「よく思い出して!」
彼女は天井に向けた目をキョロキョロと彷徨わす。考えてくれているのはいいのだけれど、待っている僕はもどかしい。考える程の事じゃないだろうに。
「やっぱりしてないと思う」
待たされた返事に、何かしら憶えがあるからだろうと期待しただけにその落胆は大きい。
ガクッと項垂れた僕に気を使い、彼女は食事を勧める。冷めてしまうわ、と。
「ごめん、食事中に。……どうかしてた」
アスカも僕の奇怪な行動には理由があったからだとわかってくれたようで何も言わなかった。
「食べようか」
ようやく落ち着いて食事を再開したものの冷めてしまったパスタはひと味物足りなく、暖め直すついでにおかわりを求める綾波の分を追加して作り直す。
ニンニクを炒めるとき、香りが夢の記憶を思い出させる。しかし手がかりはもうない。
靄のかかった気持ちのままフライパンを煽る。
トマトを切るのを忘れていた。
一旦フライパンを火から降ろし、包丁を握る。
「痛っ」
人指し指の背に、スーッと赤い線が細く浮き上がる。
僕はその鮮やかで鈍い色に見とれてしまう。
同じ色を昔見た。
どこかで……。
思い出せない。
傷口を舐めると、思い出せない記憶と同じ錆の味。
「ねえ、まだー」
「ああ、もうすぐだよ」
今度は鷹の爪が片寄らないように盛り付けた。
最初に思ったとおり、ちゃんとした物はアスカにも好評だった。
【タイトル】Re: 石像と猫
【記事番号】-2147482795 (-2147482944)
【 日時 】05/09/14 22:04
【 発言者 】牙丸
>「かりゃい」
がアスカだったとは・・・
ものの見事に引っかかりました(汗)
>「今日の昼、僕と喫茶店で食事したよね?」
>「してない」
>「よく思い出して!」
この必死さがツボ。
本当に、あの喫茶店での出来事が楽しかったんでしょうね。
代金もしっかり覚えてるぐらいですし。
・・・にしても、あの減った金額は何なんだろう?
>傷口を舐めると、思い出せない記憶と同じ錆の味。
こっちも気になるところです。
【タイトル】Re: 石像と猫
【記事番号】-2147482793 (-2147482944)
【 日時 】05/09/15 22:21
【 発言者 】なお。
早速ですが、続きは新スレで。
【タイトル】Re: 石像と猫
【記事番号】-2147482738 (-2147482944)
【 日時 】05/09/23 20:12
【 発言者 】tamb <tamb○cube-web.net>
上げておこう
mailto:tamb○cube-web.net