「綾波レイの幸せ」掲示板 四人目/小説を語る掲示板・ネタバレあり注意
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siren&silent
投稿日
: 2005/03/27 00:00
投稿者
:
のの
参照先
:
【タイトル】siren&silent
【記事番号】-2147483505 (2147483647)
【 日時 】05/03/27 22:03
【 発言者 】のの
siren&silent - のの 05/02/12-23:58 No.687
siren&silentについて。 - のの 05/02/13-00:00 No.688
Re: siren&silent - なお。 05/02/13-21:30 No.694
サイレンとサイレント - D・T 05/02/13-23:55 No.697
Re: サイレンとサイレント - なお。 05/02/15-01:54 No.714
Re^2: サイレンとサイレント - D・T 05/02/16-20:10 No.733
サイレンとサイレントについて - D・T 05/02/14-00:00 No.698
Re: サイレンとサイレントについて - のの 05/02/14-00:07 No.699
Re: siren&silent - tamb 05/02/15-13:23 No.725
Re^2: siren&silent - のの 05/02/18-20:06 No.737
Re^3: siren&silent - tamb 05/02/19-02:23 No.740
---------------------------------------------------------------------
タイトル : siren&silent
記事No : 687
投稿日 : 2005/02/12(Sat) 23:58
投稿者 : のの
こちら心臓、脈拍上昇の命を受けた。
こちらの表情、悟られないように。
警報、警報、警報。
静寂、静寂、静寂。
サイレン&サイレント
私が「それ」に気がついたのは、碇君が手を上げた時だった。
冷や水を浴びせられたような感覚を覚える。今ならわかる。あれはそういう感覚。
脈拍が急激に上昇した。顔面の筋肉が硬直していくのが手に取るようにわかる。
「少し、あがってけば?」
気がついたらそう言っていた。表情をいつも通りに保ちながら。
「え……うん」
入ってきてくれたことは、よかった。
碇君は、私の部屋に一つしかないイスに座っている。
私は普段あまり使わない台所に立って、お湯を沸かしている。紅茶を淹れるために。
「紅茶って……どれくらい、葉っぱいれるのかな。あっても、使ったことないから……」
紅茶の缶には使うべき量が書いていなかった。
「え、あ、いいよ、気を使ってくれなくても」
「これくらい?」
私は調味料用スプーンに一杯すくって碇君に訊いてみた。
「それじゃ、多すぎじゃないかな……」
一度葉っぱを缶に戻すと、碇君が私の持っていたスプーンを受け取り、さっきより少ない量の葉っぱをポットに入れた。
しゅん、しゅん。お湯が沸いたのでヤカンに手を伸ばす。
見間違いかもしれないと思って、碇君の肩についていた髪の毛を横目で見ながらだったので、取っ手を掴み損なってヤカンに触れてしまった。
「熱っ!」
手を引いた。中指の第二関節のあたりが熱く、感覚がなくなってしまっている。
「どうしたの!?」
「少し、ヤケドしただけだから」
これくらいの怪我はあまり気にしこなかったけれど、碇君はちがった。あわてて私の手を掴んで、
「早く冷やさないと!」
水道の蛇口をひねって、患部を水で冷やす。ヤケドをした部分だけ冷たくなかった。
碇君の手が、私の腕を掴んでる。
だから、掴まれている部分が温かいのはわかる。でも、顔が熱くなるのは理解できなかった。
横目で碇君を見る。少し顔を赤くしている。たぶん、私も同じような色をしてる。
私の視線に気づいた碇君は手を放した。それから慌てた様子で「こ、紅茶は僕が淹れるから……綾波は、しばらくそうしてなよ」
「うん……」
頷いた。それだけじゃ足りないような気がして、頭の中で言うべきことばを探す。
「ありがとう」
使ったことのない、感謝のことば。はじめてのことば。あの人にも言ったことなかったのに。
「夕べさ、パーティーやったんだ」
「パーティー?」
「うん。ミサトさんが三佐に昇進にしたからウチで、焼き肉パーティー。ケンスケとトウジと、委員長、リツコさんに、加持さんも。リツコさんはわりとすぐ帰っちゃったんだけど。あの、綾波も呼ぼうと思ったんだけど、電話つながらなくて……実験だったなんて、知らなかったし……」
「いいの。そういうの、好きじゃないから」
「そうなの?」
「……肉も、嫌い」
「そう、なんだ……。でも、僕は楽しかったんだ。みんなでわいわいやって、笑って……今まではそういうの、くだらないって笑ってきたんだけど……今度そういう機会があったら、綾波も来なよ。綾波が食べられるもの作っておくから。そうしたら――」
「碇君、今日はすごくおしゃべりみたい」
横目で碇君を見る。肩についている、長い赤茶色の髪の毛はやっぱりついたままだった。
「あ……ごめん」
言いながら、碇君は熱いお湯を注いだポットから紙コップに紅茶を少し注ぐ。
「綾波、父さんてどんな人?」
唐突な質問だった。
「どうして?」
「もし、そういう場に父さんがいたら、少しは話せたかなと思って……」
「お父さんと話がしたいの?」
「……うん。話して、何かが変わるわけじゃないと思うけど、でも……今のまま、父さんを信じられないままエヴァに乗り続けるのは、つらいんだ」
碇君は、怒ったり、泣いたりはしていなかった。
でも、悲しそう。
静かに、あくまで静かに、碇君は自分の心に響く警告を口にしていた。
「そう……言えば、いいのに」
「え?」
「思っている本当のこと、お父さんに言えばいいのよ。そうしなければ、何も始まらないわ」
◆
落ち着かなかった。
私の胸の中で、サイレンが鳴り響いている。碇君が部屋に入ってきて、途中少しはやんだけれど、2人で紅茶を飲んでいる今、また鳴り出していた。
碇君の肩についていた長い、赤茶色の髪の毛は、彼のカバンの上に落ちた。
どうしてあの人の髪の毛が?私にはわからなかった。
でも、たったそれだけのことが、私はどうしてこんなに気になるの?どうして。
髪の毛が、身体につくくらい、近くに。
さっきの私と碇君くらい、近くに。碇君が私の手を握った、あれくらいの近さ。
彼女も、そのくらい近くに。
私が眠っている間、彼女と碇君は、そんなに近くにいた。どうして?
「……」
「……」
紅茶を飲む私達は、一言も話さない。完全なサイレント。だけど、私の頭の中ではことばの渦が、「どうして」と問い続ける声が鳴り止まないサイレンのように響いていた。
(どうしてこんなに、気持ち悪いの?そのことが)
不快感ばかり胸に渦巻いた。
(弐号機パイロットと、碇君が近くにいるのがそんなに嫌なの?)
そうかもしれない。
碇君が隣にいて、2人が何をしているのか、気になる。
さっきの私は、碇君が私に気を使ってくれただけ。怪我をしたから。
でも、弐号機パイロットは違う。いつも2人は一緒にいる。
家も同じ。同じ家に住んでいる。
同じ家に住んで、どんなこと話をしているの?どんなことを、しているの?
「あ、あの……どうか、したの?」
「え?」
いきなり声をかけられて驚いた。
「あの、じっとしたまま、動かないから……あの、ゴメン、さっきは変なこと聞いちゃって。綾波にも、気を使わせちゃったみたいだし……」
「そんなこと、ないわ……」
(思っている本当のこと、お父さんに言えばいいのよ。そうしなければ、何も始まらない)
さっき私自身が言ったことば。
(わたしも、何も始まってない)
あの人は碇君の隣にいるとどんな気持ちになるのか、気になった。
碇君はあの人と一緒にいるとどんな気持ちになるのか、聞きたかった。でも、聞きたくない。
わたしは、碇君の隣にいたら、どんな気持ちになれるだろう。今は、向かい合って座っているけど。
「それじゃあ、僕、そろそろ行くよ」
「……そう」
言わなければ、始まらない。
「今日はありがとう。なんだか、意外だったな……綾波があんなこと言ってくれると思わなかったから」
「……」
ちがう。私は私の言いたいことを言えてない。
「じゃ、じゃあ、帰るから……」
碇君が立ち上がる。私は頷いて玄関まで見送った。
わたしは何をしてるんだろう。
もう一度、手を握ってほしいのに。その一言が言えないで、苦しんで。
「じゃあまた、学校でね」
碇君の浮かべる笑顔に心拍数をこんなにあげてるのに。
「……うん」
碇君が振り返って、歩きはじめる。距離が遠くなる。あの人がいる家に帰る。
それでも私にはどうすることもできない。
碇君がいなくなって、ようやく私は部屋に戻った。
頭の中でサイレンは鳴り続けている。
静かな部屋のうるさいサイレンを消すために、私はベッドにもぐって目を閉じた。
To Be Continued By "Wind Machine"
【タイトル】Re: siren&silent
【記事番号】-2147483504 (-2147483505)
【 日時 】05/03/27 22:04
【 発言者 】tamb
タイトル : siren&silentについて。
記事No : 688
投稿日 : 2005/02/13(Sun) 00:00
投稿者 : のの
D・Tさんの日記に列挙されていた仮タイトル「サイレンとサイレント」に惹かれて書いた短編です。
お許しをいただいたので投下します。
部屋は静かだけど、心ではサイレンが鳴り響いてる。そういう話。
とにかくレイの一人称――シンジを相手に悩むレイの一人称は難しい。
セリフに悩む。話し方に悩む。独白に悩む。つまり「綾波レイの話し方」に悩む。
まあ思いつきで書いたヤツなんで、これくらいで許してたもれ(笑)
【タイトル】Re: siren&silent
【記事番号】-2147483503 (-2147483505)
【 日時 】05/03/27 22:04
【 発言者 】tamb
タイトル : Re: siren&silent
記事No : 694
投稿日 : 2005/02/13(Sun) 21:30
投稿者 : なお。
感想はほとんどチャットでしちゃったので、とくに加える感想はないんだけど。
修正して最後の一行が消えただけなのに、「早く続きを読みたいぞー!」って気がますます出てきた。
ののさんは表現しきれてないってみたいだし、このまま長篇になったりしてw
【タイトル】Re: siren&silent
【記事番号】-2147483502 (-2147483505)
【 日時 】05/03/27 22:04
【 発言者 】tamb
タイトル : サイレンとサイレント
記事No : 697
投稿日 : 2005/02/13(Sun) 23:55
投稿者 : D・T <dogura-magura○maia.eonet.ne.jp>
参照先 :
http://www.eonet.ne.jp/~dogura-magura/index2.htm
間隔を保って打ちつけられる音。それは地面を打ちつける音だ。
それは静寂の中に、何かの印を告げる警笛のように響いている。
僕は少し躊躇してから、ゆっくりとドアを叩いた。
サイレンとサイレント
「少し、あがってけば?」と綾波は言った。
「え……うん」と僕は答えた。
綾波は台所に立ってお湯を沸かしている。綾波のブラウスの裾からは白く長い脚が伸びている。その白を確認して、僕は綾波がスカートを履いていないことを認識した。
綾波の後姿と白から目を逸らす。部屋の中は薄暗く、窓から入り込む日の光が室内を曖昧に映し出していた。
家具は少ない。ベッド、チェスト、冷蔵庫、そして僕が座っている椅子。それでほとんど全てだった。
断続的に響く金属音。シャフトを打ち込んで地面を掘る音だ。騒音が静かに部屋を満たしている。
音を辿って窓の外を見る。青い空が見える。暗い室内から見えるそれは、どこか異国の空のように見える。
空気は乾いて、音を伝えている。一定のリズムで。
「紅茶って……どれくらい、葉っぱいれるのかな。あっても、使ったことないから……」
綾波の声を聞いた気がして窓から視線を戻す。紅茶の缶を持ってこちらを見ている綾波が見える。
「え、あ、いいよ、気を使ってくれなくても」
「これくらい?」
綾波が小さなスプーンにすくった茶葉の量は少し多すぎた。
「それじゃ、多すぎじゃないかな……」
僕は椅子から立ち上がって綾波に近づいた。缶を受け取って茶葉をすくい直した。
ポットに葉っぱをいれる。お湯が沸いた音がして、綾波がそちらへ手を伸ばす。
「熱っ!」
「どうしたの!?」僕は驚いて綾波を見た。綾波は自分の指を眺めていた。
「少し、ヤケドしただけだから」と綾波は言った。
綾波の白い指は薄く色づいていた。それは血のような赤に見えた。
「早く冷やさないと!」
蛇口を捻って、綾波の手を引っ張った。赤い指に水を当てた。
少しの間同じ姿勢でいた。綾波の手と指は白く、その白い肌は僕に色々なことを思い出させた。
綾波が近い。微かに薫る。それは綾波の香りだ。僕に詰め寄るアスカとは少し違う、少女の匂いだった。
綾波の紅い瞳がこちらを見ていることに気付く。僕は綾波の手を離す。
「こ、紅茶は僕が淹れるから……綾波は、しばらくそうしてなよ」
「うん……」と綾波は頷いた。「ありがとう」
静かで薄暗い部屋。地面を掘る遠い音と、流れて冷やす水の音。
「夕べさ、パーティやったんだ」ポットにお湯を注ぎながら言った。
「パーティ?」
「うん」湯気が昇るポットの蓋を閉める。「ミサトさんが三佐に昇進したからウチで、焼肉パーティ。ケンスケとトウジと、委員長、リツコさんに、加持さんも。リツコさんはわりとすぐ帰っちゃったんだけど。あの、綾波も呼ぼうと思ったんだけど、電話つながらなくて……実験だったなんて、知らなかったし……」
「いいの。そういうの、好きじゃないから」
「そうなの?」
「……肉も、嫌い」
「そう、なんだ……」透明なポットの中で、お湯は少しずつ色を得て存在を変えていく。「でも、僕は楽しかったんだ。みんなでわいわいやって、笑って……今まではそういうの、くだらないって笑ってきたんだけど……今度そういう機会があったら、綾波も来なよ。綾波が食べられるもの作っておくから。そうしたら――」
「碇君、今日はすごくおしゃべりみたい」
「あ……ごめん」と僕は言った。紅茶はその色を濃くしていく。
言いながら紙コップに紅茶を注ぐ。暖かな湯気が昇る。
注ぎながら僕は綾波がパーティに来るところを想像してみる。きっと皆、驚くだろう。
「綾波、父さんてどういう人?」
「どうして?」
「もし、そういう場に父さんがいたら、少しは話せたかなと思って……」きっと皆、驚くだろう。
「お父さんと話がしたいの?」と綾波が聞いた。
「……うん」僕は少し考えてから答えた。僕は綾波に心の窓を開きすぎている気がしているけれど、言葉は止まらなかった。
「話して、何が変わるわけじゃないと思うけど、でも……今のまま、父さんを信じられないままエヴァに乗り続けるのは、つらいんだ」
「そう……言えば、いいのに」と綾波は言った。
「え?」
「思っている本当のこと、お父さんに言えばいいのよ。そうしなければ、何も始まらないわ」
紅茶は少し苦かった。
窓の外では地面を穿つ機械の音。セミの声。音を含んだ静寂。風が微かな流れを作っている。
僕は紅茶を飲みながら父さんのことを考える。父さんと屈託無く話せる僕を想像してみる。それはとても存在することが可能な光景には思えない。それは砂漠の蜃気楼のようなものだろう。その幻影を追ってしまうと、乾いて死ぬことになるのだろう。
僕は蜃気楼から目を逸らす。ざわざわと内側で蠢く渇きを無視する。僕が作り上げた警報装置が、嫌な音を立てて思考を邪魔した。
紅茶を飲む。それは苦い。部屋の中は静かで、そして暗い。
僕は綾波を見る。綾波はベッドに座って紅茶を飲んでいる。白いブラウス。白い脚。僕はその白から目を逸らす。
「あ、あの……どうかしたの?」僕は何かを誤魔化すために口を開く。
「え?」
「あの、じっとしたまま、動かないから……あの、ゴメン、さっきは変なこと聞いちゃって。綾波にも、気を使わせちゃったみたいだし……」
「そんなこと、ないわ……」
どこかで警報が鳴っている。おい、やめろ、心を開くな、何も感じるな、乾いて死ぬぞ。
僕はカラカラに乾いた白い骨を想像する。砂に埋もれた白い骨を思い浮かべる。それは何の骨だろう?
それはだれの骨だろう?
「それじゃあ、僕、そろそろ行くよ」と僕は言った。
「……そう」と綾波は言った。
「今日はありがとう。なんだか、意外だったな……綾波があんなこと言ってくれると思わなかったから」
綾波はじっと口を噤んだままこちらを見ている。紅い瞳。
「じゃ、じゃあ、帰るから……」
僕は椅子から立ち上がる。綾波は小さく頷いて、それからゆっくりと立ち上がった。
玄関まで歩いて、ドアのノブを回す。ドアを開けると外の強い光が差し込んでくる。
「じゃあまた、学校で」僕は少し笑ってそう言った。
「……うん」
僕は振り返って、ドアの外に出た。ドアを閉めた。
光が強い。風は弱い。遠くで地面を掘る音が聞こえている。それは僕の何かに訴えかける音に思える。
静寂は広がる。僕はどこかで鳴っているその音にじっと耳を澄ませる。
静かな空に、音は響いている。
了
【タイトル】Re: siren&silent
【記事番号】-2147483501 (-2147483505)
【 日時 】05/03/27 22:04
【 発言者 】tamb
タイトル : サイレンとサイレントについて
記事No : 698
投稿日 : 2005/02/14(Mon) 00:00
投稿者 : D・T <dogura-magura○maia.eonet.ne.jp>
参照先 :
http://www.eonet.ne.jp/~dogura-magura/index2.htm
ののさんに便乗しました(笑)。
【タイトル】Re: siren&silent
【記事番号】-2147483500 (-2147483505)
【 日時 】05/03/27 22:05
【 発言者 】tamb
タイトル : Re: サイレンとサイレントについて
記事No : 699
投稿日 : 2005/02/14(Mon) 00:07
投稿者 : のの
感動である。
返歌みたいだ。「わたしの髪も長くなって~」ってやつだよ兄さん!
【タイトル】Re: siren&silent
【記事番号】-2147483499 (-2147483505)
【 日時 】05/03/27 22:05
【 発言者 】tamb
タイトル : Re: サイレンとサイレント
記事No : 714
投稿日 : 2005/02/15(Tue) 01:54
投稿者 : なお。
チャットで
>空気は乾いて、音を伝えている。一定のリズムで。
に、ついて
エヴァ世界の夏って蒸し暑そうだから違和感が、って書いたんだけど
シンジが緊張して咽が乾いている、一定のリズムの音は心音だとすれば立派な比喩なんじゃないかと気がつきました。
D・Tさんは、寒いんで夏は忘れました、って返したけど
実のところどうなんでしょ(;^_^A
【タイトル】Re: siren&silent
【記事番号】-2147483498 (-2147483505)
【 日時 】05/03/27 22:05
【 発言者 】tamb
タイトル : Re: siren&silent
記事No : 725
投稿日 : 2005/02/15(Tue) 13:23
投稿者 : tamb
――思ってる本当のこと、お父さんに言えばいい。
――そうしないと何も始まらない。
私は彼にそう言った。何も始まっていないのは自分の方だ、と知っていながら。
彼は私の言葉を聞いて意外そうな顔をした。私の脈拍が上昇し、表情をいつも通りに保つのが難し
くなる。それはどうしてだろう。初めて自分の想いを彼に伝えたことに、気づいたからだろうか。
紅茶入れるの、上手ね。私は自分をごまかすようにそう言った。同時に、それが彼の肩についてい
た髪の毛と同じ色だということにも気づいた。
彼が言うように、紅茶は少し苦かった。でも……暖かかった。まるで、彼と弐号機パイロットの距離み
たいに。
サイレンはいつまでも鳴りやまない。
私はベッドの中で願う。
無に還りたい――。
【タイトル】Re: siren&silent
【記事番号】-2147483497 (-2147483505)
【 日時 】05/03/27 22:05
【 発言者 】tamb
タイトル : Re^2: サイレンとサイレント
記事No : 733
投稿日 : 2005/02/16(Wed) 20:10
投稿者 : D・T <dogura-magura○maia.eonet.ne.jp>
>シンジが緊張して咽が乾いている、一定のリズムの音は心音だとすれば立派な比喩
それナイス(林原めぐみの声で)。
【タイトル】Re: siren&silent
【記事番号】-2147483496 (-2147483505)
【 日時 】05/03/27 22:05
【 発言者 】tamb
タイトル : Re^2: siren&silent
記事No : 737
投稿日 : 2005/02/18(Fri) 20:06
投稿者 : のの
tambさんまでもが書いてくれた。なんかもう嬉しすぎる。
>D・Tさん
わーおです。
まさかD・Tさんの「サイレンとサイレント」がこんな風に来るとは思いませんでした。
感動だ(しつこい)。
書き方が当然ちがうから、そこがまた僕が書いたレイオンリーの視点からシンジの視点も、ということだけでない広がりを感じます。
う、うれしひ。
>なお。さん
つづきは考えてますが、それ以上は言えません(笑)
>tambさん
最初に間違えて投下した「siren&silent」は最後の一文に「碇君と一緒になりたい」という言葉をつけてたんですが、tambさんは「無に還りたい」ですよ(笑)
こういうギャップがたまらなく面白い。
その調子で新作よろしくおねがいしますと言ってみる(笑)
【タイトル】Re: siren&silent
【記事番号】-2147483495 (-2147483505)
【 日時 】05/03/27 22:06
【 発言者 】tamb
タイトル : Re^3: siren&silent
記事No : 740
投稿日 : 2005/02/19(Sat) 02:23
投稿者 : tamb
着地点が決まっている以上、「碇君と一緒になりたい」だと終わるけど、「無に還りたい」なら
続くわな(笑)。その意味では最後の一行を削ったのは正解だと思います。はい。
> その調子で新作よろしくおねがいしますと言ってみる(笑)
まぁぼちぼちと(^^;)。
【タイトル】Re: siren&silent
【記事番号】-2147483338 (-2147483505)
【 日時 】05/04/08 23:58
【 発言者 】D・T
『幻想日和』で公開したわけですけど、わざわざ新スレ立てるのもアレだし、ageて使っちゃいます。
『幻想日和』公開版はこれね。
http://www.eonet.ne.jp/~dogura-magura/siren&silent.htm
ののさんの『サイレン&サイレント』は、あとがきに書いてある通り、ちょっとした言葉の使い方とかが変わってたり、最後の文章が少し変更されてより一層続編への繋がり方というか、「引き」みたいなものが強調されてる感じ? このスレッドで既に読んだ人も、とりあえず幻想日和版のそこだけでも読むが吉。
D・Tさんのは、何も加筆されて無いのでどうでもよろしい。
『サイレンとサイレント』という題名を思いついたときは、たしかアジアン・カンフー・ジェネレーションの『サイレン』という曲を聴いていたと記憶しています。
「一晩降り続いた雨が止んだ、夜明けの港」みたいな曲です。
静かなんだけど、シュッと鋭い何かがある。そんな感じの話を書けたら良いなとか思ってたんですが、ののさんが良い話を書いてくれて嬉しかったです。
んで、まあ、せっかく仮タイトル使ってくれたんだから俺も何かやりたいよな。じゃあ書くか。俺の『サイレンとサイレント』をよお! 見せてやるぜ! うおぉぉぉおおおお!! って感じで(嘘)、急いで書きました。
そいでは。
ピース。
【タイトル】Re: siren&silent
【記事番号】-2147483337 (-2147483505)
【 日時 】05/04/09 01:04
【 発言者 】のの
えーと、「幻想日和」でサルベージされました。
修正して、できるだけ透明度を増したつもりです。
「サイレンとサイレント」というのは非常にカッコイイタイトルで、
なんかピンとくるものがありました。
僕自身アジカン(といってもアジカンすごく好きってことではないんだけど)の「リライト」というタイトルから
「リライト&リトライ」というタイトルでなにか一本作れないかと思ってて、そういう語感に惹かれたのであります。
いやしかし、D・Tさんもアジカンからつけてたとは、僕らはなかなかいいシンクロ率を出せてるかもしれません(笑)
【タイトル】Re: siren&silent
【記事番号】-2147483336 (-2147483505)
【 日時 】05/04/09 02:21
【 発言者 】tamb
私の「Re: siren&silent」(>>7)がスルーされているのはなぜかと問いたいところではある(笑)。
【タイトル】Re: siren&silent
【記事番号】-2147483331 (-2147483505)
【 日時 】05/04/10 01:16
【 発言者 】D・T
>>13
だって、短いんだもん(私がそれを言うのか・笑)。
【タイトル】Re: siren&silent
【記事番号】-2147483330 (-2147483505)
【 日時 】05/04/10 10:10
【 発言者 】のの
>>13
それは、無茶言わないでくださいとしか言いようがない(爆)
-
WEB PATIO
-
【記事番号】-2147483505 (2147483647)
【 日時 】05/03/27 22:03
【 発言者 】のの
siren&silent - のの 05/02/12-23:58 No.687
siren&silentについて。 - のの 05/02/13-00:00 No.688
Re: siren&silent - なお。 05/02/13-21:30 No.694
サイレンとサイレント - D・T 05/02/13-23:55 No.697
Re: サイレンとサイレント - なお。 05/02/15-01:54 No.714
Re^2: サイレンとサイレント - D・T 05/02/16-20:10 No.733
サイレンとサイレントについて - D・T 05/02/14-00:00 No.698
Re: サイレンとサイレントについて - のの 05/02/14-00:07 No.699
Re: siren&silent - tamb 05/02/15-13:23 No.725
Re^2: siren&silent - のの 05/02/18-20:06 No.737
Re^3: siren&silent - tamb 05/02/19-02:23 No.740
---------------------------------------------------------------------
タイトル : siren&silent
記事No : 687
投稿日 : 2005/02/12(Sat) 23:58
投稿者 : のの
こちら心臓、脈拍上昇の命を受けた。
こちらの表情、悟られないように。
警報、警報、警報。
静寂、静寂、静寂。
サイレン&サイレント
私が「それ」に気がついたのは、碇君が手を上げた時だった。
冷や水を浴びせられたような感覚を覚える。今ならわかる。あれはそういう感覚。
脈拍が急激に上昇した。顔面の筋肉が硬直していくのが手に取るようにわかる。
「少し、あがってけば?」
気がついたらそう言っていた。表情をいつも通りに保ちながら。
「え……うん」
入ってきてくれたことは、よかった。
碇君は、私の部屋に一つしかないイスに座っている。
私は普段あまり使わない台所に立って、お湯を沸かしている。紅茶を淹れるために。
「紅茶って……どれくらい、葉っぱいれるのかな。あっても、使ったことないから……」
紅茶の缶には使うべき量が書いていなかった。
「え、あ、いいよ、気を使ってくれなくても」
「これくらい?」
私は調味料用スプーンに一杯すくって碇君に訊いてみた。
「それじゃ、多すぎじゃないかな……」
一度葉っぱを缶に戻すと、碇君が私の持っていたスプーンを受け取り、さっきより少ない量の葉っぱをポットに入れた。
しゅん、しゅん。お湯が沸いたのでヤカンに手を伸ばす。
見間違いかもしれないと思って、碇君の肩についていた髪の毛を横目で見ながらだったので、取っ手を掴み損なってヤカンに触れてしまった。
「熱っ!」
手を引いた。中指の第二関節のあたりが熱く、感覚がなくなってしまっている。
「どうしたの!?」
「少し、ヤケドしただけだから」
これくらいの怪我はあまり気にしこなかったけれど、碇君はちがった。あわてて私の手を掴んで、
「早く冷やさないと!」
水道の蛇口をひねって、患部を水で冷やす。ヤケドをした部分だけ冷たくなかった。
碇君の手が、私の腕を掴んでる。
だから、掴まれている部分が温かいのはわかる。でも、顔が熱くなるのは理解できなかった。
横目で碇君を見る。少し顔を赤くしている。たぶん、私も同じような色をしてる。
私の視線に気づいた碇君は手を放した。それから慌てた様子で「こ、紅茶は僕が淹れるから……綾波は、しばらくそうしてなよ」
「うん……」
頷いた。それだけじゃ足りないような気がして、頭の中で言うべきことばを探す。
「ありがとう」
使ったことのない、感謝のことば。はじめてのことば。あの人にも言ったことなかったのに。
「夕べさ、パーティーやったんだ」
「パーティー?」
「うん。ミサトさんが三佐に昇進にしたからウチで、焼き肉パーティー。ケンスケとトウジと、委員長、リツコさんに、加持さんも。リツコさんはわりとすぐ帰っちゃったんだけど。あの、綾波も呼ぼうと思ったんだけど、電話つながらなくて……実験だったなんて、知らなかったし……」
「いいの。そういうの、好きじゃないから」
「そうなの?」
「……肉も、嫌い」
「そう、なんだ……。でも、僕は楽しかったんだ。みんなでわいわいやって、笑って……今まではそういうの、くだらないって笑ってきたんだけど……今度そういう機会があったら、綾波も来なよ。綾波が食べられるもの作っておくから。そうしたら――」
「碇君、今日はすごくおしゃべりみたい」
横目で碇君を見る。肩についている、長い赤茶色の髪の毛はやっぱりついたままだった。
「あ……ごめん」
言いながら、碇君は熱いお湯を注いだポットから紙コップに紅茶を少し注ぐ。
「綾波、父さんてどんな人?」
唐突な質問だった。
「どうして?」
「もし、そういう場に父さんがいたら、少しは話せたかなと思って……」
「お父さんと話がしたいの?」
「……うん。話して、何かが変わるわけじゃないと思うけど、でも……今のまま、父さんを信じられないままエヴァに乗り続けるのは、つらいんだ」
碇君は、怒ったり、泣いたりはしていなかった。
でも、悲しそう。
静かに、あくまで静かに、碇君は自分の心に響く警告を口にしていた。
「そう……言えば、いいのに」
「え?」
「思っている本当のこと、お父さんに言えばいいのよ。そうしなければ、何も始まらないわ」
◆
落ち着かなかった。
私の胸の中で、サイレンが鳴り響いている。碇君が部屋に入ってきて、途中少しはやんだけれど、2人で紅茶を飲んでいる今、また鳴り出していた。
碇君の肩についていた長い、赤茶色の髪の毛は、彼のカバンの上に落ちた。
どうしてあの人の髪の毛が?私にはわからなかった。
でも、たったそれだけのことが、私はどうしてこんなに気になるの?どうして。
髪の毛が、身体につくくらい、近くに。
さっきの私と碇君くらい、近くに。碇君が私の手を握った、あれくらいの近さ。
彼女も、そのくらい近くに。
私が眠っている間、彼女と碇君は、そんなに近くにいた。どうして?
「……」
「……」
紅茶を飲む私達は、一言も話さない。完全なサイレント。だけど、私の頭の中ではことばの渦が、「どうして」と問い続ける声が鳴り止まないサイレンのように響いていた。
(どうしてこんなに、気持ち悪いの?そのことが)
不快感ばかり胸に渦巻いた。
(弐号機パイロットと、碇君が近くにいるのがそんなに嫌なの?)
そうかもしれない。
碇君が隣にいて、2人が何をしているのか、気になる。
さっきの私は、碇君が私に気を使ってくれただけ。怪我をしたから。
でも、弐号機パイロットは違う。いつも2人は一緒にいる。
家も同じ。同じ家に住んでいる。
同じ家に住んで、どんなこと話をしているの?どんなことを、しているの?
「あ、あの……どうか、したの?」
「え?」
いきなり声をかけられて驚いた。
「あの、じっとしたまま、動かないから……あの、ゴメン、さっきは変なこと聞いちゃって。綾波にも、気を使わせちゃったみたいだし……」
「そんなこと、ないわ……」
(思っている本当のこと、お父さんに言えばいいのよ。そうしなければ、何も始まらない)
さっき私自身が言ったことば。
(わたしも、何も始まってない)
あの人は碇君の隣にいるとどんな気持ちになるのか、気になった。
碇君はあの人と一緒にいるとどんな気持ちになるのか、聞きたかった。でも、聞きたくない。
わたしは、碇君の隣にいたら、どんな気持ちになれるだろう。今は、向かい合って座っているけど。
「それじゃあ、僕、そろそろ行くよ」
「……そう」
言わなければ、始まらない。
「今日はありがとう。なんだか、意外だったな……綾波があんなこと言ってくれると思わなかったから」
「……」
ちがう。私は私の言いたいことを言えてない。
「じゃ、じゃあ、帰るから……」
碇君が立ち上がる。私は頷いて玄関まで見送った。
わたしは何をしてるんだろう。
もう一度、手を握ってほしいのに。その一言が言えないで、苦しんで。
「じゃあまた、学校でね」
碇君の浮かべる笑顔に心拍数をこんなにあげてるのに。
「……うん」
碇君が振り返って、歩きはじめる。距離が遠くなる。あの人がいる家に帰る。
それでも私にはどうすることもできない。
碇君がいなくなって、ようやく私は部屋に戻った。
頭の中でサイレンは鳴り続けている。
静かな部屋のうるさいサイレンを消すために、私はベッドにもぐって目を閉じた。
To Be Continued By "Wind Machine"
【タイトル】Re: siren&silent
【記事番号】-2147483504 (-2147483505)
【 日時 】05/03/27 22:04
【 発言者 】tamb
タイトル : siren&silentについて。
記事No : 688
投稿日 : 2005/02/13(Sun) 00:00
投稿者 : のの
D・Tさんの日記に列挙されていた仮タイトル「サイレンとサイレント」に惹かれて書いた短編です。
お許しをいただいたので投下します。
部屋は静かだけど、心ではサイレンが鳴り響いてる。そういう話。
とにかくレイの一人称――シンジを相手に悩むレイの一人称は難しい。
セリフに悩む。話し方に悩む。独白に悩む。つまり「綾波レイの話し方」に悩む。
まあ思いつきで書いたヤツなんで、これくらいで許してたもれ(笑)
【タイトル】Re: siren&silent
【記事番号】-2147483503 (-2147483505)
【 日時 】05/03/27 22:04
【 発言者 】tamb
タイトル : Re: siren&silent
記事No : 694
投稿日 : 2005/02/13(Sun) 21:30
投稿者 : なお。
感想はほとんどチャットでしちゃったので、とくに加える感想はないんだけど。
修正して最後の一行が消えただけなのに、「早く続きを読みたいぞー!」って気がますます出てきた。
ののさんは表現しきれてないってみたいだし、このまま長篇になったりしてw
【タイトル】Re: siren&silent
【記事番号】-2147483502 (-2147483505)
【 日時 】05/03/27 22:04
【 発言者 】tamb
タイトル : サイレンとサイレント
記事No : 697
投稿日 : 2005/02/13(Sun) 23:55
投稿者 : D・T <dogura-magura○maia.eonet.ne.jp>
参照先 : http://www.eonet.ne.jp/~dogura-magura/index2.htm
間隔を保って打ちつけられる音。それは地面を打ちつける音だ。
それは静寂の中に、何かの印を告げる警笛のように響いている。
僕は少し躊躇してから、ゆっくりとドアを叩いた。
サイレンとサイレント
「少し、あがってけば?」と綾波は言った。
「え……うん」と僕は答えた。
綾波は台所に立ってお湯を沸かしている。綾波のブラウスの裾からは白く長い脚が伸びている。その白を確認して、僕は綾波がスカートを履いていないことを認識した。
綾波の後姿と白から目を逸らす。部屋の中は薄暗く、窓から入り込む日の光が室内を曖昧に映し出していた。
家具は少ない。ベッド、チェスト、冷蔵庫、そして僕が座っている椅子。それでほとんど全てだった。
断続的に響く金属音。シャフトを打ち込んで地面を掘る音だ。騒音が静かに部屋を満たしている。
音を辿って窓の外を見る。青い空が見える。暗い室内から見えるそれは、どこか異国の空のように見える。
空気は乾いて、音を伝えている。一定のリズムで。
「紅茶って……どれくらい、葉っぱいれるのかな。あっても、使ったことないから……」
綾波の声を聞いた気がして窓から視線を戻す。紅茶の缶を持ってこちらを見ている綾波が見える。
「え、あ、いいよ、気を使ってくれなくても」
「これくらい?」
綾波が小さなスプーンにすくった茶葉の量は少し多すぎた。
「それじゃ、多すぎじゃないかな……」
僕は椅子から立ち上がって綾波に近づいた。缶を受け取って茶葉をすくい直した。
ポットに葉っぱをいれる。お湯が沸いた音がして、綾波がそちらへ手を伸ばす。
「熱っ!」
「どうしたの!?」僕は驚いて綾波を見た。綾波は自分の指を眺めていた。
「少し、ヤケドしただけだから」と綾波は言った。
綾波の白い指は薄く色づいていた。それは血のような赤に見えた。
「早く冷やさないと!」
蛇口を捻って、綾波の手を引っ張った。赤い指に水を当てた。
少しの間同じ姿勢でいた。綾波の手と指は白く、その白い肌は僕に色々なことを思い出させた。
綾波が近い。微かに薫る。それは綾波の香りだ。僕に詰め寄るアスカとは少し違う、少女の匂いだった。
綾波の紅い瞳がこちらを見ていることに気付く。僕は綾波の手を離す。
「こ、紅茶は僕が淹れるから……綾波は、しばらくそうしてなよ」
「うん……」と綾波は頷いた。「ありがとう」
静かで薄暗い部屋。地面を掘る遠い音と、流れて冷やす水の音。
「夕べさ、パーティやったんだ」ポットにお湯を注ぎながら言った。
「パーティ?」
「うん」湯気が昇るポットの蓋を閉める。「ミサトさんが三佐に昇進したからウチで、焼肉パーティ。ケンスケとトウジと、委員長、リツコさんに、加持さんも。リツコさんはわりとすぐ帰っちゃったんだけど。あの、綾波も呼ぼうと思ったんだけど、電話つながらなくて……実験だったなんて、知らなかったし……」
「いいの。そういうの、好きじゃないから」
「そうなの?」
「……肉も、嫌い」
「そう、なんだ……」透明なポットの中で、お湯は少しずつ色を得て存在を変えていく。「でも、僕は楽しかったんだ。みんなでわいわいやって、笑って……今まではそういうの、くだらないって笑ってきたんだけど……今度そういう機会があったら、綾波も来なよ。綾波が食べられるもの作っておくから。そうしたら――」
「碇君、今日はすごくおしゃべりみたい」
「あ……ごめん」と僕は言った。紅茶はその色を濃くしていく。
言いながら紙コップに紅茶を注ぐ。暖かな湯気が昇る。
注ぎながら僕は綾波がパーティに来るところを想像してみる。きっと皆、驚くだろう。
「綾波、父さんてどういう人?」
「どうして?」
「もし、そういう場に父さんがいたら、少しは話せたかなと思って……」きっと皆、驚くだろう。
「お父さんと話がしたいの?」と綾波が聞いた。
「……うん」僕は少し考えてから答えた。僕は綾波に心の窓を開きすぎている気がしているけれど、言葉は止まらなかった。
「話して、何が変わるわけじゃないと思うけど、でも……今のまま、父さんを信じられないままエヴァに乗り続けるのは、つらいんだ」
「そう……言えば、いいのに」と綾波は言った。
「え?」
「思っている本当のこと、お父さんに言えばいいのよ。そうしなければ、何も始まらないわ」
紅茶は少し苦かった。
窓の外では地面を穿つ機械の音。セミの声。音を含んだ静寂。風が微かな流れを作っている。
僕は紅茶を飲みながら父さんのことを考える。父さんと屈託無く話せる僕を想像してみる。それはとても存在することが可能な光景には思えない。それは砂漠の蜃気楼のようなものだろう。その幻影を追ってしまうと、乾いて死ぬことになるのだろう。
僕は蜃気楼から目を逸らす。ざわざわと内側で蠢く渇きを無視する。僕が作り上げた警報装置が、嫌な音を立てて思考を邪魔した。
紅茶を飲む。それは苦い。部屋の中は静かで、そして暗い。
僕は綾波を見る。綾波はベッドに座って紅茶を飲んでいる。白いブラウス。白い脚。僕はその白から目を逸らす。
「あ、あの……どうかしたの?」僕は何かを誤魔化すために口を開く。
「え?」
「あの、じっとしたまま、動かないから……あの、ゴメン、さっきは変なこと聞いちゃって。綾波にも、気を使わせちゃったみたいだし……」
「そんなこと、ないわ……」
どこかで警報が鳴っている。おい、やめろ、心を開くな、何も感じるな、乾いて死ぬぞ。
僕はカラカラに乾いた白い骨を想像する。砂に埋もれた白い骨を思い浮かべる。それは何の骨だろう?
それはだれの骨だろう?
「それじゃあ、僕、そろそろ行くよ」と僕は言った。
「……そう」と綾波は言った。
「今日はありがとう。なんだか、意外だったな……綾波があんなこと言ってくれると思わなかったから」
綾波はじっと口を噤んだままこちらを見ている。紅い瞳。
「じゃ、じゃあ、帰るから……」
僕は椅子から立ち上がる。綾波は小さく頷いて、それからゆっくりと立ち上がった。
玄関まで歩いて、ドアのノブを回す。ドアを開けると外の強い光が差し込んでくる。
「じゃあまた、学校で」僕は少し笑ってそう言った。
「……うん」
僕は振り返って、ドアの外に出た。ドアを閉めた。
光が強い。風は弱い。遠くで地面を掘る音が聞こえている。それは僕の何かに訴えかける音に思える。
静寂は広がる。僕はどこかで鳴っているその音にじっと耳を澄ませる。
静かな空に、音は響いている。
了
【タイトル】Re: siren&silent
【記事番号】-2147483501 (-2147483505)
【 日時 】05/03/27 22:04
【 発言者 】tamb
タイトル : サイレンとサイレントについて
記事No : 698
投稿日 : 2005/02/14(Mon) 00:00
投稿者 : D・T <dogura-magura○maia.eonet.ne.jp>
参照先 : http://www.eonet.ne.jp/~dogura-magura/index2.htm
ののさんに便乗しました(笑)。
【タイトル】Re: siren&silent
【記事番号】-2147483500 (-2147483505)
【 日時 】05/03/27 22:05
【 発言者 】tamb
タイトル : Re: サイレンとサイレントについて
記事No : 699
投稿日 : 2005/02/14(Mon) 00:07
投稿者 : のの
感動である。
返歌みたいだ。「わたしの髪も長くなって~」ってやつだよ兄さん!
【タイトル】Re: siren&silent
【記事番号】-2147483499 (-2147483505)
【 日時 】05/03/27 22:05
【 発言者 】tamb
タイトル : Re: サイレンとサイレント
記事No : 714
投稿日 : 2005/02/15(Tue) 01:54
投稿者 : なお。
チャットで
>空気は乾いて、音を伝えている。一定のリズムで。
に、ついて
エヴァ世界の夏って蒸し暑そうだから違和感が、って書いたんだけど
シンジが緊張して咽が乾いている、一定のリズムの音は心音だとすれば立派な比喩なんじゃないかと気がつきました。
D・Tさんは、寒いんで夏は忘れました、って返したけど
実のところどうなんでしょ(;^_^A
【タイトル】Re: siren&silent
【記事番号】-2147483498 (-2147483505)
【 日時 】05/03/27 22:05
【 発言者 】tamb
タイトル : Re: siren&silent
記事No : 725
投稿日 : 2005/02/15(Tue) 13:23
投稿者 : tamb
――思ってる本当のこと、お父さんに言えばいい。
――そうしないと何も始まらない。
私は彼にそう言った。何も始まっていないのは自分の方だ、と知っていながら。
彼は私の言葉を聞いて意外そうな顔をした。私の脈拍が上昇し、表情をいつも通りに保つのが難し
くなる。それはどうしてだろう。初めて自分の想いを彼に伝えたことに、気づいたからだろうか。
紅茶入れるの、上手ね。私は自分をごまかすようにそう言った。同時に、それが彼の肩についてい
た髪の毛と同じ色だということにも気づいた。
彼が言うように、紅茶は少し苦かった。でも……暖かかった。まるで、彼と弐号機パイロットの距離み
たいに。
サイレンはいつまでも鳴りやまない。
私はベッドの中で願う。
無に還りたい――。
【タイトル】Re: siren&silent
【記事番号】-2147483497 (-2147483505)
【 日時 】05/03/27 22:05
【 発言者 】tamb
タイトル : Re^2: サイレンとサイレント
記事No : 733
投稿日 : 2005/02/16(Wed) 20:10
投稿者 : D・T <dogura-magura○maia.eonet.ne.jp>
>シンジが緊張して咽が乾いている、一定のリズムの音は心音だとすれば立派な比喩
それナイス(林原めぐみの声で)。
【タイトル】Re: siren&silent
【記事番号】-2147483496 (-2147483505)
【 日時 】05/03/27 22:05
【 発言者 】tamb
タイトル : Re^2: siren&silent
記事No : 737
投稿日 : 2005/02/18(Fri) 20:06
投稿者 : のの
tambさんまでもが書いてくれた。なんかもう嬉しすぎる。
>D・Tさん
わーおです。
まさかD・Tさんの「サイレンとサイレント」がこんな風に来るとは思いませんでした。
感動だ(しつこい)。
書き方が当然ちがうから、そこがまた僕が書いたレイオンリーの視点からシンジの視点も、ということだけでない広がりを感じます。
う、うれしひ。
>なお。さん
つづきは考えてますが、それ以上は言えません(笑)
>tambさん
最初に間違えて投下した「siren&silent」は最後の一文に「碇君と一緒になりたい」という言葉をつけてたんですが、tambさんは「無に還りたい」ですよ(笑)
こういうギャップがたまらなく面白い。
その調子で新作よろしくおねがいしますと言ってみる(笑)
【タイトル】Re: siren&silent
【記事番号】-2147483495 (-2147483505)
【 日時 】05/03/27 22:06
【 発言者 】tamb
タイトル : Re^3: siren&silent
記事No : 740
投稿日 : 2005/02/19(Sat) 02:23
投稿者 : tamb
着地点が決まっている以上、「碇君と一緒になりたい」だと終わるけど、「無に還りたい」なら
続くわな(笑)。その意味では最後の一行を削ったのは正解だと思います。はい。
> その調子で新作よろしくおねがいしますと言ってみる(笑)
まぁぼちぼちと(^^;)。
【タイトル】Re: siren&silent
【記事番号】-2147483338 (-2147483505)
【 日時 】05/04/08 23:58
【 発言者 】D・T
『幻想日和』で公開したわけですけど、わざわざ新スレ立てるのもアレだし、ageて使っちゃいます。
『幻想日和』公開版はこれね。
http://www.eonet.ne.jp/~dogura-magura/siren&silent.htm
ののさんの『サイレン&サイレント』は、あとがきに書いてある通り、ちょっとした言葉の使い方とかが変わってたり、最後の文章が少し変更されてより一層続編への繋がり方というか、「引き」みたいなものが強調されてる感じ? このスレッドで既に読んだ人も、とりあえず幻想日和版のそこだけでも読むが吉。
D・Tさんのは、何も加筆されて無いのでどうでもよろしい。
『サイレンとサイレント』という題名を思いついたときは、たしかアジアン・カンフー・ジェネレーションの『サイレン』という曲を聴いていたと記憶しています。
「一晩降り続いた雨が止んだ、夜明けの港」みたいな曲です。
静かなんだけど、シュッと鋭い何かがある。そんな感じの話を書けたら良いなとか思ってたんですが、ののさんが良い話を書いてくれて嬉しかったです。
んで、まあ、せっかく仮タイトル使ってくれたんだから俺も何かやりたいよな。じゃあ書くか。俺の『サイレンとサイレント』をよお! 見せてやるぜ! うおぉぉぉおおおお!! って感じで(嘘)、急いで書きました。
そいでは。
ピース。
【タイトル】Re: siren&silent
【記事番号】-2147483337 (-2147483505)
【 日時 】05/04/09 01:04
【 発言者 】のの
えーと、「幻想日和」でサルベージされました。
修正して、できるだけ透明度を増したつもりです。
「サイレンとサイレント」というのは非常にカッコイイタイトルで、
なんかピンとくるものがありました。
僕自身アジカン(といってもアジカンすごく好きってことではないんだけど)の「リライト」というタイトルから
「リライト&リトライ」というタイトルでなにか一本作れないかと思ってて、そういう語感に惹かれたのであります。
いやしかし、D・Tさんもアジカンからつけてたとは、僕らはなかなかいいシンクロ率を出せてるかもしれません(笑)
【タイトル】Re: siren&silent
【記事番号】-2147483336 (-2147483505)
【 日時 】05/04/09 02:21
【 発言者 】tamb
私の「Re: siren&silent」(>>7)がスルーされているのはなぜかと問いたいところではある(笑)。
【タイトル】Re: siren&silent
【記事番号】-2147483331 (-2147483505)
【 日時 】05/04/10 01:16
【 発言者 】D・T
>>13
だって、短いんだもん(私がそれを言うのか・笑)。
【タイトル】Re: siren&silent
【記事番号】-2147483330 (-2147483505)
【 日時 】05/04/10 10:10
【 発言者 】のの
>>13
それは、無茶言わないでくださいとしか言いようがない(爆)