「綾波レイの幸せ」掲示板 四人目/小説を語る掲示板・ネタバレあり注意
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fld_nor.gif 逆行したはいいけれど
投稿日 : 2009/05/31 00:00
投稿者 tamb
参照先
【タイトル】逆行したはいいけれど
【記事番号】-2147482470 (2147483647)
【 日時 】05/11/25 21:14
【 発言者 】tamb <tamb○cube-web.net>

 僕は立ちすくんでいた。
 一人で立ちすくんでいた。
 避難を促すアナウンスの中、ただ立ちすくんでいた。

 僕は赤い海を目の前にして、アスカを殺した。
 そして何もかもをやり直したいと願い、目を閉じた。
 そのはずだ。
 次の瞬間、僕はここに、ただ立ちすくんでいた。

 そうか。

 瞬間、僕は全てを悟った。
 帰ってきたんだ。
 何もかもをやり直すために、僕は帰ってきたんだ。
 時を溯ったんだ。
 逆行したんだ。
 僕は少しの間、考え込んだ。
 今の僕は全てを知っている。未来を変える力がある。
 僕は全能だ。僕を逆行させた存在は、僕に全能たる力を与えたはずだ。
 それが運命――さだめだ。
 僕はそれを知っている。
 そんな僕には、もう僕などという呼び名はふさわしくない。

 そう、俺だ。

 俺は今、この瞬間から、俺になったのだ。

「くっくっくっくっ……」

 俺は低く笑い、続けて高く、叫ぶように笑った。

「ワッハッハッハッハ!!」

 全能にして帰還者たる俺はとりあえず笑うのだ。それが決まりだ。いかに全能たるこの俺でも、決まりには逆らえない。逆らう必要もない。
 それにだ。
 これが笑わずにいられようか?
 俺は全能だ。
 そして超絶美形美少年に違いないのだ。
 中性的とも言える外観に、少し気弱な微笑みでも浮かべれば、世の女どもは一人残らず瞳をうるませ、膝をガクガクさせ、立っているだけで精一杯の身体を熱くするのだ。
 肩でも触れようものなら、そのまましゃがみこんでしまうのだ。大丈夫ですかと心配そうに声でもかければ、ああと喘いで失神してしまうのだ。
 更には超弩級絶倫美少年でもあるに違いないのだ。
 老獪かつ繊細な指技。
 柔らかく暖かく、自在に蠢く舌、唇。
 さらには魔性の微笑み。
 そして、ダイヤモンドよりも硬く、燃え盛る炎よりも熱く、想像を絶するほど長大なモノ。
 これにかかれば、ありとあらゆる女という女が以下自主規制。
 そうなのだ。
 俺は碇シンジ、全能なのだ。
 そして世界を支配するのだ。
 その能力と権利があるのだ。
 そのための道具として、ネルフという組織は有効に使える。
 とりあえずミサトさんに――いや、今の俺にはミサトさんに「さん」など付ける必要はない。なにしろあらゆる女がこの俺に跪くのだからな――ミサトという女に会わねばなるまい。そこからネルフに食い込むのだ。

 俺は記憶にある場所に立った。
 ここにミサトさんは、いや、ミサトは来るはずだ。

 あの時と同じように、綾波レイの姿が見えた。
 俺は目を閉じた。
 綾波レイ。
 俺の愛した女の名だ。
 俺は彼女を救えなかった。
 だが今度は。
 今度は同じ轍など踏まぬ。
 俺は全能なのだ。

 目を開くと、記憶にある通り戦自が使徒に無駄な攻撃を開始している。
 俺の能力を解放すれば、使徒を殲滅するなど容易いことだ。
 恐らく何人かの隊員を助けることはできるだろう。
 だが、それはしない。
 今はまだその時ではないと、俺の内なる魂が言っているのだ。

「ごめーん、おまたせ」

 ミサトさんが、いや、ミサトが来て車のドアを開けた。

「葛城さん……ですか?」

 俺は車の中をのぞき込み、気弱な笑みを浮かべた。
 とびっきりのやつだ。
 これでこの女も俺の虜だ。
 あんたの望みどおり、思いっきり甘えてやるさ。
 時には息子、時には弟、そして時には恋人のようにな。

「乗って! 早く!」

 ミサトさん……ミサトはそう言った。
 まさか! 俺の微笑みが効かないのか!
 俺の微笑みにかかれば、ありとあらゆる女が何もかも忘れて身体を熱くするはずなのに!
 こやつ、何者だ!? 魔物か?

 まさか。

 俺はあることに思い当たって戦慄した。
 まさか、ミサトさんも逆行を?
 だとすれば強敵だ。
 世界征服を狙っている可能性がある。
 「さん」を付けねばなるまい。
 場合によっては共闘することも考える必要がある。
 いずれにせよ、警戒は怠らないことだ。
 まあいい。
 今は気弱な美少年としてふるまうのだ。

――中略――

「久しぶりだな」

 ゲンドウの声が聞こえた。

「乗るなら早くしろ。でなければ、帰れ!」

 俺は怪我の痛みにうめく綾波レイを抱きかかえ、身体を震わせた。
 もう我慢ならねぇ。
 俺は気弱な美少年の仮面を捨て去った。

「条件がある!」
「条件?」
「そうだ。金だ」

 そうなのだ。
 綾波レイを、あの部屋に住まわせ続けることはできない。
 この俺がさせない。
 同じく全能である可能性のあるミサトさんと一緒に住むのも危険すぎる。
 導かれる結論は一つだ。
 俺と綾波は、一緒に暮らすのだ。
 愛の巣だ。
 俺たち二人の、愛の巣を築くのだ。
 今度こそ、俺たちは幸せになるのだ。
 待てよ?
 俺は考え込んだ。
 俺は綾波を救えなかった。
 俺の愛した綾波は、巨大化したあげくに崩壊した。
 だとすれば。
 今、目の前にいるこの綾波は、俺の愛すべき綾波なのか?

 ……ま、いっか。

 そんなことは細かいことだ。
 細かいことにこだわっていては大物にはなれぬ。
 とにかく愛の巣を築くのだ。
 それには金がいるのだ。
 俺は指を一本ビシッと立て、ゲンドウに向かって突き出した。

「1億か。かまわん。乗れ」

 あら?
 俺はたじろいだ。
 俺は1千万のつもりだったのだ。
 さらに500万まではディスカウントも可能なつもりだった。
 500万もあれば、敷金礼金を考えても、そこそこの賃貸マンションを借りて綾波と新しい一歩を踏み出せると考えたのだ。

 それにしても全能の俺をびびってたじろがせるとは。
 ゲンドウも侮れぬ。
 だが1億もあっさり払ってくれるなら、もうちょっともらえるかも。
 俺は首を振りながらゆっくりともう一本指を立てた。

「2億だな? 乗れ」

 ち。
 俺は更にたじろぎつつももう一本指を立てた。

「3億だな。いいから乗れ」

 ぬう。
 俺は震えながらもう一本立てた。

「4億。かまわん」

 くっ。
 俺は顔面蒼白になりながらももう一本立てた。

「5億。問題ない。乗れ」

 ……俺の負けだ。
 もう立てる指がない。
 つか、払う気がねぇんだな?
 だが約束は約束だ。
 その気があろうがなかろうが、むりやりにでも払わせるだけだ。
 俺は初号機に乗り込んだ。

 ピクリとも動かなかった。


 続かない。

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【タイトル】Re: 逆行したはいいけれど
【記事番号】-2147482469 (-2147482470)
【 日時 】05/11/25 21:16
【 発言者 】tamb <tamb○cube-web.net>

こういう小説(非FF)を読んでしまい、ついカッとなってやった。今は反省してる。
と、またD・Tさんのマネを(笑)。

mailto:tamb○cube-web.net


【タイトル】Re: 逆行したはいいけれど
【記事番号】-2147482467 (-2147482470)
【 日時 】05/11/26 23:25
【 発言者 】牙丸

なんか凄い。スパシンものに対しての皮肉なのか。
なんだかよく分からないけど、笑えます。
シンジが思いこんじゃってる辺りがコミカル。
それでいて、結局何も出来ないばかりか、初号機すら動かせないのもまた面白いです。


【タイトル】Re: 逆行したはいいけれど
【記事番号】-2147482466 (-2147482470)
【 日時 】05/11/27 22:24
【 発言者 】楓

お久しぶりです。
本当は他のものの感想とか書きたいのですが…。暇が無くて…もごもご。


やっぱりこういうあほらしいのが好きです。
個人的に、5億出せと言うシンジに「問題ない。乗れ」と言うゲンドウが男前に思えました(笑)


【タイトル】Re: 逆行したはいいけれど
【記事番号】-2147482465 (-2147482470)
【 日時 】05/11/27 23:56
【 発言者 】なお。

スーパーのくせに気が小さいw(結局そうでないけど)
> 今の僕は全てを知っている。
とあるけど、全てと言い切る知識はあったのでしょうか。それもまた妄想なのかw


> こういう小説(非FF)

火浦功?
……違うか。


【タイトル】Re: 逆行したはいいけれど
【記事番号】-2147482449 (-2147482470)
【 日時 】05/11/28 21:17
【 発言者 】tamb <tamb○cube-web.net>

■牙丸さん
>スパシンものに対しての皮肉なのか。

 皮肉るつもりは全然なくて、その小説を読んで、あぁこれってスパシンだよなぁと思ってしまったというだけだったりします(ほんとは全然スパシンじゃないんですけど)。例えば大藪晴彦とかのハードボイルドな超人的主人公物を読んでもあんまりスパシンとは思わないんですけど。


■楓さん
 ご無沙汰です。

>暇が無くて…もごもご。

 暇は無理矢理作るものですが、やはり限界はある(笑)。
 ちゃんとした話だと「ゆっくり読もう」とか思って後回しにして結局読まなかったりする事もありますが(爆)、こういうアホ話だと頭空っぽで読めますわな(笑)。


■なお。さん
>全てと言い切る知識はあったのでしょうか。

 ない(笑)。思い込みです。

>火浦功?

 はずれ(笑)。夢枕獏です。サイコダイバーシリーズの源流、「てめえら そこをどきやがれ!!」です(「呪禁道士」所収。祥伝社ノンポシェット)。
 私は夢枕獏さんの作品は好き嫌いが激しくて、エロス&バイオレンスものとかはほとんど読みません。サイコダイバーシリーズもエロス&バイオレンスものに分類されるのかもしれませんが、この話は雑誌掲載時に読んでいたということもあって(歳がばれる)、ちょっと好きでした。
 で、ふと文庫を買って読んでみて(主人公の名前を含めて大幅に加筆されてますが)、こんなにもスパシンだったのかと(笑)。
 ちなみに「超絶美形美少年」はオリジナルでは単に「超絶美形」です(笑)。それからギャラの交渉は500万スタート(爆)。あっさりOKが出て吊り上げるのも同じ。とまぁほとんどパクリなわけです(爆)。

 こーゆーのがおもろいと思った人は読んで損なし。話自体はちゃんとしてます。ギャグばっかりじゃない。

mailto:tamb○cube-web.net


【タイトル】Re: 逆行したはいいけれど
【記事番号】-2147482448 (-2147482470)
【 日時 】05/11/29 01:36
【 発言者 】tomo

このお話、良いですね。
最後の一行に全てをかける(?)
まさに、お笑いの鉄則、『フリは短くオチは大きく』って感じです。


【タイトル】Re: 逆行したはいいけれど
【記事番号】-2147482441 (-2147482470)
【 日時 】05/11/30 20:59
【 発言者 】tamb <tamb○cube-web.net>

>このお話、良いですね。

そうかぁ?(爆)

mailto:tamb○cube-web.net
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