「綾波レイの幸せ」掲示板 四人目/小説を語る掲示板・ネタバレあり注意
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生きる音
投稿日
: 2009/05/31 00:00
投稿者
:
aba-m.a-kkv
参照先
:
【タイトル】生きる音
【記事番号】-2147482110 (2147483647)
【 日時 】06/03/30 01:15
【 発言者 】aba-m.a-kkv
私が見たかったのは、肩越しに見える未来。
私が解きたかったのは、貴方を縛る夜の祈り。
私が集めたかったのは、譲れない光。
私が欲しかったのは、貴方を守る力。
変わっていく私、変わらない想い。
私が本当に欲しかったのは…………
生きる音 written by aba-m.a-kkv
紅い眸が見つめる先には、一本の樹が幹を伸ばし緑の葉を視界一杯に広げていた。
そこから木漏れ日が降り、その先には青よりも青い空が広がって、雲がそこに絵を加えている。
全天には青、地面には見渡す限りの緑の草原。
平らな土地には遠くに360度を囲む丘があり、その中のくぼ地であるここには広大な草原、そしてその真ん中には一本の小さな樹。
そこに、私は寝転んで、木漏れ日と、その先に見える青空と、この場所の和やかな雰囲気を楽しんでいた。
緑の草原のところどころにある白い残骸や紅い塔は、昔を証しする残骸の欠片。
ここがそういう場所であったという、数少ない要の一つ、この樹も含めて。
穏やかな、柔らかい風が草原の緑の海をなびかせながら進み、私の蒼銀の髪を揺らす。
すこし伸ばし始めた髪がゆらゆら揺れるごとに、視界に入り込んでくる木漏れ日も光の加減をかえてきらきらと揺れていた。
『こんなにも、穏やかに過ごせると、あの時の私は思ってもいなかった……』
今まで開いていた眸を隠し、視覚を消して、他の感覚を世界に開く。
風が運ぶ草葉の重なる音、春の混じる空気の匂い、大地のはぐくむ味、ぬくもりをつたえる感触。
すべてが愛しく、すべてが優しい。
そんなものたちに包まれて、力を解く。
支えるものが、私をゆったりと受け止めてくれていた。
『あの時の私は、ただ一つを欲していた……』
どこか遠くの空で、鳥たちの遊ぶさえずりが聞こえてくる。
天井を覆う樹の枝葉からも、鳥たちが休息をとっては飛び立ち遊んでいる。
優雅な可愛らしさを、その枝葉全体に広げて、静穏だけでなく、動を含んだあたたかさを伝えていた。
適度な音、適度な静寂、すべてが自然のゆっくりとした歯車のもとに進んでいる。
時間が、まるで電池の切れ掛かっている時計の針のように、ゆったりと動いていた。
『私は生きるすべてを諦めていた……私の未来も……
でも……ただ一つだけ願った。
私の欲しいものとして……
貴方を守る力が欲しい、と』
ぬくもりが、あたたかさが、日の掌と共に、私の前髪を撫でる。
それが、優しく、あたたかくて、私はまどろんでしまうのを抑えながら、心地よさを巡らせていた。
『それが叶うなら……
私に貴方を守る力が与えられ、貴方が生きるのなら、私は何も要らない。
私の日数に、もうそれ以上の月日が重ねられなくなっても……
かまわない、と。
でも、 』
手を伸ばして、届いたものを掴む。
瞼を閉じたまま、身を起こし、掴んだものを頼りに、私は身体を動かした。
そして、寄り添う。
私が、本当に欲しかったものに。
そして、感じたかったものに。
『本当に欲しかったのは、生きる音。
そして、それを聞くこと、触れること、感じること。
そのために、貴方を守る力が欲しかった。
自分を、最後の使徒としての権威に昇華してまで。
ヒトが言う、神に近いものへと、変わってまで』
耳を寄せる。
とくん…とくん…とくん…
心地よい音が、止まることも、短くなることも、長くなることもなく、定められた周期にしたがって刻んでいく。
私が守りたかった音が。
聞きたかった、触れたかった、感じたかった、その音が。
生きる音が。
貴方が、生きる音が。
『そんな私を……
変わってしまった私を、貴方は求めてくれた。
私の変わらない想いを、貴方は抱きしめ続けてくれた。
だから、私は、本当に欲しかったものを手にすることが出来た。
この終わりにして始まりの場所で。
本当に欲しかったもの……私と貴方が生きる音を』
私は瞼を開ける。
紅い眸を、空でもなく、緑でもなく、日の光でもなく、私の夢見た未来へと。
私が見たかったものへと向けた。
黒い瞳が私を見つめて、すこしはにかみながら優しく微笑んでくれている。
その手が、昔に比べてとても大きくなった掌が、私の前髪をそっと撫でてくれている。
寄り添うそこには、守りたかったもののぬくもりが。
耳を傾けるそこには、守りたかったものの音が。
見つめるそこには、守りたかったものの瞳が、そしてその瞳の映し出す先には私がいる。
そのすべてが愛しくて、うれしくて、心地いい。
『時を、重ねることが、こんなにも幸せなことなんて……』
巨大なわっかのような丘に囲まれた円形状に開けた草原。
その真ん中に生える一本に樹の下。
二人寄り添うぬくもりの中に、穏やかさと、風の音と、春の声が、ゆったりと行き巡っている。
樹の下の少し離れたところには小さな車。
樹の根元から白い敷物を広げて、バケットや水筒が並ぶ。
その端には、大きなスニーカーと小さなスニーカーが、ちょこんと並んで置かれている。
そんな3月30日。
レイへ、この一年間ありがとう。
そして、また一年間、よろしく。
【タイトル】Re: 生きる音
【記事番号】-2147482105 (-2147482110)
【 日時 】06/04/01 00:13
【 発言者 】なお。
れいたん。すっかり忘れてました(^_^;) でも、あいださんの書き込みに乗じて自分の誕生
日の一月前をしっかりアピールしておきながら、当日自分で忘れてたようなやつなんで、それ
は問題だという突っ込みは無しという方向でお願いしますw
調べてないけど、aba-m.a-kkvさんって、チルドレンの誕生日には必ずショートを投下して
くれてるような気がします。誕生日を憶えてるだけでも凄いというのに、遅れずに間に合わせ
て書いてくるのだから、その執筆速度には毎度の事ながら驚かされます。ほんとうに、いつも
どれくらいのペースで書いているのでしょうね。これくらいの長さで、早くて数時間、遅くて
も二~三日ってところじゃないかと私は予想してますけど、これは一週間かかって早い方でし
た、なんて返事が返ってくるかもしれません。完成度を考えると、それでも早いとは思うけど。
まあ、早かろうが遅かろうが努力の賜物だって事にはかわりがなく、お疲れさまです、って
それを言いたかったのです(爆)
では、前置きはこれで十分かと思いますので、感想いきます。
ここの舞台になってる丘やらくぼ地は、おそらく零号機の爆発跡にできたクレーターでしょ
う。そして真ん中の樹は二人目のレイの墓標というか生まれ変わりみたいな感じでしょうか。
自然が回復しているのと「時を、重ねることが~」というレイの言葉から、EOE後、そこそこ
の年月が経っているものだと思います。しかしあまり年輩といった感じはしませんでしたから、
あれから十年そこそこ、といったくらいかと想像して読みました。
愛する人を護りたい。その為には自己犠牲さえ厭わない。まこと、美しいじゃありませんか。
でもそれは、その相手からするとエゴでしかなく、自分一人生き残ったところで嬉しくはない
でしょう。
この話では、レイは自分の存続を諦めていたようですが、シンジがレイを想う気持ちによっ
てレイも生き残ったようです。自分を取り戻した、と言った方が適切かもしれません。まあ、
どちらにせよ助かった訳で、それは何より。でも、どうして最初は諦めてしまっていたのか。
本当に欲しかったもの。確かに二人で生き残るのが理想ですが、どうしてそれを最初から求め
ようとしなかったのだろうか。
私が思うに、これは諦めではなく、悲しみだったんじゃないかと。人と掛け離れた存在。忌
むべき力。そういったものは消えてしまった方がいいだろう、という滅びを願う気持ちがあっ
たのだろうと考えた。でも、それでもシンジはレイを求めた。どのような存在だろうと求めて
くれた。
そして、本当に欲しかった『私と貴方が生きる音』を手にした訳です。音、というのは息づ
かいであったり、鼓動であったり、そういったものでしょう。どちらか片方ではけっして手に
入れる事のできない安息、または充実感。だからこそ思ったのだけど、諦めていた事への反省
みたいなものがあったりしても良かったかもしれない。希望は捨ててはいけない、みたいな感
じと、これからの未来に向けても前向きであるようにといった願いをです。
ああ、でも蛇足か。さすがというか、とてもよく纏まってますから。それくらいいいお話で
した。ありがとうございました。
【タイトル】Re: 生きる音
【記事番号】-2147482104 (-2147482110)
【 日時 】06/04/01 10:52
【 発言者 】なお。
> あれから十年そこそこ、といったくらいかと想像して読みました。
こうは書いたんだけど、樹が育つには十年では足りなかった。木陰で休むくらいの樹が育つには三十年といったところか。植樹という手もあるけど、そんなエピソードがあれば本文に入れてるだろう。だから自然に生えてきた樹だ。
実は最初読みはじめたとき実体をあまり感じなかった。レイは、風のような空気みたいな存在になってしまったんじゃないかって、そんな印象を受けた。ちゃんと聞いたり感じたりしてるけど、そういう印象だった。だからシンジ(貴方)が出てきたときも、それが実体を持った人間に見えなかった。最後に樹の周りの風景が出てきて、それでそこに存在しているのはわかるんだけど、それが彼等の物じゃなく、ただレイから見た情景を描いたもので、それはいかにも平和そうな感じで、その平和を間接的に喜んでいる。喜べるのは、どのような存在になっても貴方と一緒だから。そんな読みもしました。これだとちょっと悲しいですね。誕生日を祝う意味もないから全然ちがうのはわかってるけど。
【タイトル】Re: 生きる音
【記事番号】-2147482101 (-2147482110)
【 日時 】06/04/01 17:04
【 発言者 】tamb <tamb○cube-web.net>
これもいいね。生きてて良かった、二人で生きていられて良かったって話だよな。タイトルが「生きる音」だし。
>> あれから十年そこそこ、といったくらいかと想像して読みました。
解釈論というか雰囲気なんで、あんまり重要じゃないかもしれないし外してるかもしれないけど、「昔に比べてとても大きくなった掌」だから1年や2年ではないですわな。車の運転もするみたいだし。で、
>樹の根元から白い敷物を広げて、バケットや水筒が並ぶ。
>その端には、大きなスニーカーと小さなスニーカーが、ちょこんと並んで置かれている。
このフレーズから、私にはミニスカートのレイが見えたんだよ(爆)。だって、スニーカーがちょこんと並んで置かれてるんだぜ? いや、ちょこんと置かれてるからミニスカートだって話にもならないんだけど(^^;)、私には見えたんですよ。ミニスカートで、穏やかに微笑んでいるレイが。
ということを前提にすると(笑)、子供が独立して久々に二人っきりでデートって可能性もあるけど、まぁ二十代前半くらい。ギリギリで三十。ミニスカートだから(笑)。
ということは植樹です。くぼ地はクレーターかジオフロント跡地。第3新東京市全体が広大な公園になっていて、「昔を証しする残骸の欠片」もあえてそのまま残してあると。原爆ドームみたいなもんです。木は平和と生命の象徴として植えたと。ちょっと歩くと何か彫刻というかオブジェとかもあるかもしれません。そういう公園。
ダメかな?(^^;)
何にしても、幸せそうでいいです。うん。
mailto:tamb○cube-web.net
【タイトル】Re: 生きる音
【記事番号】-2147482091 (-2147482110)
【 日時 】06/04/01 21:38
【 発言者 】aba-m.a-kkv
なお。さん、tambさん、感想ありがとうございます。
なんだか、久々にLRSを書いた気がします(笑)
このSSは大体一日くらいで書きました。
なお。さんの二番目のレスは、私としては喜んでいます。
最初はレイの存在を薄く書き、シンジや風景の挿入でレイの存在をだんだん濃くしていき、最後の情景で現実を表わす。
そんな風に書きたかったので、なお。さんが、そう感じてくれたということは、けっこう書き表せたのかなと思います。
でも、「生きる音」ですから、二人はちゃんと現実の世界で幸せでしょう。
疑問の樹のことや、年代のことについてですが、サードインパクトから10年前後。
tambさんの指摘どおり20代前半ぐらいを設定しています。
ミニスカートかどうかは、当局のほうは感知しておりませんが(笑)
場所は黒き月の跡地。
サードインパクトで広大なクレーターになっています。
赤い塔は量産型のロンギヌスの槍の残骸です。
で、問題の「真ん中に生える樹」ですが、実はこれは本物のロンギヌスの槍。
生命の樹がサードインパクトを越え、レゾンデートルを失った後の姿です。
>ここがそういう場所であったという、数少ない要の一つ、この樹も含めて。
サードインパクトの後、普通の樹として根を下ろした、という感じです。
最初から成長している樹なので、年月に矛盾はしないかな、と。
最後のスニーカーはとても加えたかったものです。
昔、ののさんが、レイがシンジのスニーカーをだぼだぼになりながら履いて~、というような言葉を掲示板かに書いていたんですよね。
その言葉が、うる覚えながら、とても良くて、加えてみたかったんです。
どこに書いてあるかわかりませんかね?
それと、もう一つ。
このSSは、COCCOの「もくまおう」という曲をもとに書いたものです。
【タイトル】Re: 生きる音
【記事番号】-2147482090 (-2147482110)
【 日時 】06/04/02 03:54
【 発言者 】tamb <tamb○cube-web.net>
>ミニスカートかどうかは、当局のほうは感知しておりませんが(笑)
関知して下さいよ(笑)。たぶんデニムだと思うんだけどな(爆)。
>で、問題の「真ん中に生える樹」ですが、実はこれは本物のロンギヌスの槍。
>生命の樹がサードインパクトを越え、レゾンデートルを失った後の姿です。
絶対に読み取れないけど、このイマジネーションはすごい。ある意味こんなのは伝わらなくてもバックグラウンドとしてあれば良くて、こういう場とかでネタばらしする機会があればすればいいんだろうなと思った。もっと長い話なら書いてもいいんだろうけど。
>どこに書いてあるかわかりませんかね?
みれちゃんとこ(新世紀ヤナイの巣)の「企画」の「師弟(及びゲスト1)対決」の中にある「月と狗、あるいはこの星」じゃないかな。aba-m.a-kkvさんも一票入れてるみたいだけど(笑)。
>COCCOの「もくまおう」という曲をもとに書いたものです。
COCCOには一時期入れ込んでて全曲知ってるはずなのに覚えがない、と思ったらベストのみに収録されてる未発表曲なんですな。聞いてみよう。
mailto:tamb○cube-web.net
【タイトル】Re: 生きる音
【記事番号】-2147482087 (-2147482110)
【 日時 】06/04/03 00:36
【 発言者 】aba-m.a-kkv
>関知して下さいよ(笑)。たぶんデニムだと思うんだけどな(爆)。
当区域は地上、空域、宇宙空間まで関係者以外の立ち入りを制限されていますので、
関知しきれる範囲でも、感知しきれる範囲でもありません、残念ながら(笑)
でも、デニムのミニスカートで、シンジに寄り添って、微笑みながら目をつぶって、ぬくもりと音とを感じているレイの姿。
これはマズイですね(笑)
「ロンギヌスの槍」のエピソードも「もくまおう」の歌詞も、改めてちゃんと構築して、サードインパクトを主軸に書いてみたいですね。
10巻を読んでなおさらにそう思いました。
>みれちゃんとこ(新世紀ヤナイの巣)の「企画」の「師弟(及びゲスト1)対決」の中にある「月と狗、あるいはこの星」じゃないかな。
>aba-m.a-kkvさんも一票入れてるみたいだけど(笑)。
そうでした、みれちゃんとこでしたね。
ありがとうございます。
【タイトル】Re: 生きる音
【記事番号】-2147482081 (-2147482110)
【 日時 】06/04/03 22:07
【 発言者 】牙丸
すごくゆったりした感じの話ですね。
情景はすぐに思い浮かんだのですが、まさかそんな裏設定があったとは……
とても驚愕しました。脱帽ものです。
そのことを加えて情景を考えてみると、また違った風景になったような気がします。
静かな感じの雰囲気の中で、「生きる音」という表現がまたいい。
エヴァ本編自体は戦闘だの何だのと、目まぐるしいうるささというか、都会の忙しさの中の喧噪っぽい感じを受けていたので、自分や自然の生きる音をしっかりと感じれるほど静かな雰囲気というのは、本当に穏やかで平和なんだなぁと思えます。
【タイトル】Re: 生きる音
【記事番号】-2147482080 (-2147482110)
【 日時 】06/04/04 05:21
【 発言者 】なお。
> 赤い塔は量産型のロンギヌスの槍の残骸です。
実は、ここ。まったく理解してませんでした。言われてみれば、ロンギヌスの槍、生命の樹、ああ、わからなくもないってところです。
クレーター状になっているのはちょっと考えてわかりました。でも黒き月だとはわかりませんでした。
いずれにせよ、もう少しヒントが欲しかったです。
でもそこは、誕生日記念として一日で書いたもの。
後書き風に種明かしてくれてると親切だったかも。
もしかしたらこっちが試されてたなんて可能性もw
> けっこう書き表せたのかなと思います。
存在が希薄なのは故意でしたか。私はそれを悲しみと捉えたようですね。最後には幸せそうなんですが。私には、ちょっと悲しすぎたようです。
【タイトル】Re: 生きる音
【記事番号】-2147482066 (-2147482110)
【 日時 】06/04/09 02:05
【 発言者 】なお。
今さらだけど、嫌味な書き方してる気がする……
私の受けた印象って最終的に一枚の絵画なんですよね。
それはあくまで風景画で、人物が見えないんです。
バスケットやスニーカーがあってもです。
だからミニスカートも見えない(爆)
だから楽しいようで淋しい。そう書きたかったのです。
【タイトル】Re: 生きる音
【記事番号】-2147482033 (-2147482110)
【 日時 】06/04/11 23:54
【 発言者 】仙人たむ <tamb○cube-web.net>
頭で考えるんじゃない、心の目で見るのじゃ!<ミニスカート
mailto:tamb○cube-web.net
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WEB PATIO
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【記事番号】-2147482110 (2147483647)
【 日時 】06/03/30 01:15
【 発言者 】aba-m.a-kkv
私が見たかったのは、肩越しに見える未来。
私が解きたかったのは、貴方を縛る夜の祈り。
私が集めたかったのは、譲れない光。
私が欲しかったのは、貴方を守る力。
変わっていく私、変わらない想い。
私が本当に欲しかったのは…………
生きる音 written by aba-m.a-kkv
紅い眸が見つめる先には、一本の樹が幹を伸ばし緑の葉を視界一杯に広げていた。
そこから木漏れ日が降り、その先には青よりも青い空が広がって、雲がそこに絵を加えている。
全天には青、地面には見渡す限りの緑の草原。
平らな土地には遠くに360度を囲む丘があり、その中のくぼ地であるここには広大な草原、そしてその真ん中には一本の小さな樹。
そこに、私は寝転んで、木漏れ日と、その先に見える青空と、この場所の和やかな雰囲気を楽しんでいた。
緑の草原のところどころにある白い残骸や紅い塔は、昔を証しする残骸の欠片。
ここがそういう場所であったという、数少ない要の一つ、この樹も含めて。
穏やかな、柔らかい風が草原の緑の海をなびかせながら進み、私の蒼銀の髪を揺らす。
すこし伸ばし始めた髪がゆらゆら揺れるごとに、視界に入り込んでくる木漏れ日も光の加減をかえてきらきらと揺れていた。
『こんなにも、穏やかに過ごせると、あの時の私は思ってもいなかった……』
今まで開いていた眸を隠し、視覚を消して、他の感覚を世界に開く。
風が運ぶ草葉の重なる音、春の混じる空気の匂い、大地のはぐくむ味、ぬくもりをつたえる感触。
すべてが愛しく、すべてが優しい。
そんなものたちに包まれて、力を解く。
支えるものが、私をゆったりと受け止めてくれていた。
『あの時の私は、ただ一つを欲していた……』
どこか遠くの空で、鳥たちの遊ぶさえずりが聞こえてくる。
天井を覆う樹の枝葉からも、鳥たちが休息をとっては飛び立ち遊んでいる。
優雅な可愛らしさを、その枝葉全体に広げて、静穏だけでなく、動を含んだあたたかさを伝えていた。
適度な音、適度な静寂、すべてが自然のゆっくりとした歯車のもとに進んでいる。
時間が、まるで電池の切れ掛かっている時計の針のように、ゆったりと動いていた。
『私は生きるすべてを諦めていた……私の未来も……
でも……ただ一つだけ願った。
私の欲しいものとして……
貴方を守る力が欲しい、と』
ぬくもりが、あたたかさが、日の掌と共に、私の前髪を撫でる。
それが、優しく、あたたかくて、私はまどろんでしまうのを抑えながら、心地よさを巡らせていた。
『それが叶うなら……
私に貴方を守る力が与えられ、貴方が生きるのなら、私は何も要らない。
私の日数に、もうそれ以上の月日が重ねられなくなっても……
かまわない、と。
でも、 』
手を伸ばして、届いたものを掴む。
瞼を閉じたまま、身を起こし、掴んだものを頼りに、私は身体を動かした。
そして、寄り添う。
私が、本当に欲しかったものに。
そして、感じたかったものに。
『本当に欲しかったのは、生きる音。
そして、それを聞くこと、触れること、感じること。
そのために、貴方を守る力が欲しかった。
自分を、最後の使徒としての権威に昇華してまで。
ヒトが言う、神に近いものへと、変わってまで』
耳を寄せる。
とくん…とくん…とくん…
心地よい音が、止まることも、短くなることも、長くなることもなく、定められた周期にしたがって刻んでいく。
私が守りたかった音が。
聞きたかった、触れたかった、感じたかった、その音が。
生きる音が。
貴方が、生きる音が。
『そんな私を……
変わってしまった私を、貴方は求めてくれた。
私の変わらない想いを、貴方は抱きしめ続けてくれた。
だから、私は、本当に欲しかったものを手にすることが出来た。
この終わりにして始まりの場所で。
本当に欲しかったもの……私と貴方が生きる音を』
私は瞼を開ける。
紅い眸を、空でもなく、緑でもなく、日の光でもなく、私の夢見た未来へと。
私が見たかったものへと向けた。
黒い瞳が私を見つめて、すこしはにかみながら優しく微笑んでくれている。
その手が、昔に比べてとても大きくなった掌が、私の前髪をそっと撫でてくれている。
寄り添うそこには、守りたかったもののぬくもりが。
耳を傾けるそこには、守りたかったものの音が。
見つめるそこには、守りたかったものの瞳が、そしてその瞳の映し出す先には私がいる。
そのすべてが愛しくて、うれしくて、心地いい。
『時を、重ねることが、こんなにも幸せなことなんて……』
巨大なわっかのような丘に囲まれた円形状に開けた草原。
その真ん中に生える一本に樹の下。
二人寄り添うぬくもりの中に、穏やかさと、風の音と、春の声が、ゆったりと行き巡っている。
樹の下の少し離れたところには小さな車。
樹の根元から白い敷物を広げて、バケットや水筒が並ぶ。
その端には、大きなスニーカーと小さなスニーカーが、ちょこんと並んで置かれている。
そんな3月30日。
レイへ、この一年間ありがとう。
そして、また一年間、よろしく。
【タイトル】Re: 生きる音
【記事番号】-2147482105 (-2147482110)
【 日時 】06/04/01 00:13
【 発言者 】なお。
れいたん。すっかり忘れてました(^_^;) でも、あいださんの書き込みに乗じて自分の誕生
日の一月前をしっかりアピールしておきながら、当日自分で忘れてたようなやつなんで、それ
は問題だという突っ込みは無しという方向でお願いしますw
調べてないけど、aba-m.a-kkvさんって、チルドレンの誕生日には必ずショートを投下して
くれてるような気がします。誕生日を憶えてるだけでも凄いというのに、遅れずに間に合わせ
て書いてくるのだから、その執筆速度には毎度の事ながら驚かされます。ほんとうに、いつも
どれくらいのペースで書いているのでしょうね。これくらいの長さで、早くて数時間、遅くて
も二~三日ってところじゃないかと私は予想してますけど、これは一週間かかって早い方でし
た、なんて返事が返ってくるかもしれません。完成度を考えると、それでも早いとは思うけど。
まあ、早かろうが遅かろうが努力の賜物だって事にはかわりがなく、お疲れさまです、って
それを言いたかったのです(爆)
では、前置きはこれで十分かと思いますので、感想いきます。
ここの舞台になってる丘やらくぼ地は、おそらく零号機の爆発跡にできたクレーターでしょ
う。そして真ん中の樹は二人目のレイの墓標というか生まれ変わりみたいな感じでしょうか。
自然が回復しているのと「時を、重ねることが~」というレイの言葉から、EOE後、そこそこ
の年月が経っているものだと思います。しかしあまり年輩といった感じはしませんでしたから、
あれから十年そこそこ、といったくらいかと想像して読みました。
愛する人を護りたい。その為には自己犠牲さえ厭わない。まこと、美しいじゃありませんか。
でもそれは、その相手からするとエゴでしかなく、自分一人生き残ったところで嬉しくはない
でしょう。
この話では、レイは自分の存続を諦めていたようですが、シンジがレイを想う気持ちによっ
てレイも生き残ったようです。自分を取り戻した、と言った方が適切かもしれません。まあ、
どちらにせよ助かった訳で、それは何より。でも、どうして最初は諦めてしまっていたのか。
本当に欲しかったもの。確かに二人で生き残るのが理想ですが、どうしてそれを最初から求め
ようとしなかったのだろうか。
私が思うに、これは諦めではなく、悲しみだったんじゃないかと。人と掛け離れた存在。忌
むべき力。そういったものは消えてしまった方がいいだろう、という滅びを願う気持ちがあっ
たのだろうと考えた。でも、それでもシンジはレイを求めた。どのような存在だろうと求めて
くれた。
そして、本当に欲しかった『私と貴方が生きる音』を手にした訳です。音、というのは息づ
かいであったり、鼓動であったり、そういったものでしょう。どちらか片方ではけっして手に
入れる事のできない安息、または充実感。だからこそ思ったのだけど、諦めていた事への反省
みたいなものがあったりしても良かったかもしれない。希望は捨ててはいけない、みたいな感
じと、これからの未来に向けても前向きであるようにといった願いをです。
ああ、でも蛇足か。さすがというか、とてもよく纏まってますから。それくらいいいお話で
した。ありがとうございました。
【タイトル】Re: 生きる音
【記事番号】-2147482104 (-2147482110)
【 日時 】06/04/01 10:52
【 発言者 】なお。
> あれから十年そこそこ、といったくらいかと想像して読みました。
こうは書いたんだけど、樹が育つには十年では足りなかった。木陰で休むくらいの樹が育つには三十年といったところか。植樹という手もあるけど、そんなエピソードがあれば本文に入れてるだろう。だから自然に生えてきた樹だ。
実は最初読みはじめたとき実体をあまり感じなかった。レイは、風のような空気みたいな存在になってしまったんじゃないかって、そんな印象を受けた。ちゃんと聞いたり感じたりしてるけど、そういう印象だった。だからシンジ(貴方)が出てきたときも、それが実体を持った人間に見えなかった。最後に樹の周りの風景が出てきて、それでそこに存在しているのはわかるんだけど、それが彼等の物じゃなく、ただレイから見た情景を描いたもので、それはいかにも平和そうな感じで、その平和を間接的に喜んでいる。喜べるのは、どのような存在になっても貴方と一緒だから。そんな読みもしました。これだとちょっと悲しいですね。誕生日を祝う意味もないから全然ちがうのはわかってるけど。
【タイトル】Re: 生きる音
【記事番号】-2147482101 (-2147482110)
【 日時 】06/04/01 17:04
【 発言者 】tamb <tamb○cube-web.net>
これもいいね。生きてて良かった、二人で生きていられて良かったって話だよな。タイトルが「生きる音」だし。
>> あれから十年そこそこ、といったくらいかと想像して読みました。
解釈論というか雰囲気なんで、あんまり重要じゃないかもしれないし外してるかもしれないけど、「昔に比べてとても大きくなった掌」だから1年や2年ではないですわな。車の運転もするみたいだし。で、
>樹の根元から白い敷物を広げて、バケットや水筒が並ぶ。
>その端には、大きなスニーカーと小さなスニーカーが、ちょこんと並んで置かれている。
このフレーズから、私にはミニスカートのレイが見えたんだよ(爆)。だって、スニーカーがちょこんと並んで置かれてるんだぜ? いや、ちょこんと置かれてるからミニスカートだって話にもならないんだけど(^^;)、私には見えたんですよ。ミニスカートで、穏やかに微笑んでいるレイが。
ということを前提にすると(笑)、子供が独立して久々に二人っきりでデートって可能性もあるけど、まぁ二十代前半くらい。ギリギリで三十。ミニスカートだから(笑)。
ということは植樹です。くぼ地はクレーターかジオフロント跡地。第3新東京市全体が広大な公園になっていて、「昔を証しする残骸の欠片」もあえてそのまま残してあると。原爆ドームみたいなもんです。木は平和と生命の象徴として植えたと。ちょっと歩くと何か彫刻というかオブジェとかもあるかもしれません。そういう公園。
ダメかな?(^^;)
何にしても、幸せそうでいいです。うん。
mailto:tamb○cube-web.net
【タイトル】Re: 生きる音
【記事番号】-2147482091 (-2147482110)
【 日時 】06/04/01 21:38
【 発言者 】aba-m.a-kkv
なお。さん、tambさん、感想ありがとうございます。
なんだか、久々にLRSを書いた気がします(笑)
このSSは大体一日くらいで書きました。
なお。さんの二番目のレスは、私としては喜んでいます。
最初はレイの存在を薄く書き、シンジや風景の挿入でレイの存在をだんだん濃くしていき、最後の情景で現実を表わす。
そんな風に書きたかったので、なお。さんが、そう感じてくれたということは、けっこう書き表せたのかなと思います。
でも、「生きる音」ですから、二人はちゃんと現実の世界で幸せでしょう。
疑問の樹のことや、年代のことについてですが、サードインパクトから10年前後。
tambさんの指摘どおり20代前半ぐらいを設定しています。
ミニスカートかどうかは、当局のほうは感知しておりませんが(笑)
場所は黒き月の跡地。
サードインパクトで広大なクレーターになっています。
赤い塔は量産型のロンギヌスの槍の残骸です。
で、問題の「真ん中に生える樹」ですが、実はこれは本物のロンギヌスの槍。
生命の樹がサードインパクトを越え、レゾンデートルを失った後の姿です。
>ここがそういう場所であったという、数少ない要の一つ、この樹も含めて。
サードインパクトの後、普通の樹として根を下ろした、という感じです。
最初から成長している樹なので、年月に矛盾はしないかな、と。
最後のスニーカーはとても加えたかったものです。
昔、ののさんが、レイがシンジのスニーカーをだぼだぼになりながら履いて~、というような言葉を掲示板かに書いていたんですよね。
その言葉が、うる覚えながら、とても良くて、加えてみたかったんです。
どこに書いてあるかわかりませんかね?
それと、もう一つ。
このSSは、COCCOの「もくまおう」という曲をもとに書いたものです。
【タイトル】Re: 生きる音
【記事番号】-2147482090 (-2147482110)
【 日時 】06/04/02 03:54
【 発言者 】tamb <tamb○cube-web.net>
>ミニスカートかどうかは、当局のほうは感知しておりませんが(笑)
関知して下さいよ(笑)。たぶんデニムだと思うんだけどな(爆)。
>で、問題の「真ん中に生える樹」ですが、実はこれは本物のロンギヌスの槍。
>生命の樹がサードインパクトを越え、レゾンデートルを失った後の姿です。
絶対に読み取れないけど、このイマジネーションはすごい。ある意味こんなのは伝わらなくてもバックグラウンドとしてあれば良くて、こういう場とかでネタばらしする機会があればすればいいんだろうなと思った。もっと長い話なら書いてもいいんだろうけど。
>どこに書いてあるかわかりませんかね?
みれちゃんとこ(新世紀ヤナイの巣)の「企画」の「師弟(及びゲスト1)対決」の中にある「月と狗、あるいはこの星」じゃないかな。aba-m.a-kkvさんも一票入れてるみたいだけど(笑)。
>COCCOの「もくまおう」という曲をもとに書いたものです。
COCCOには一時期入れ込んでて全曲知ってるはずなのに覚えがない、と思ったらベストのみに収録されてる未発表曲なんですな。聞いてみよう。
mailto:tamb○cube-web.net
【タイトル】Re: 生きる音
【記事番号】-2147482087 (-2147482110)
【 日時 】06/04/03 00:36
【 発言者 】aba-m.a-kkv
>関知して下さいよ(笑)。たぶんデニムだと思うんだけどな(爆)。
当区域は地上、空域、宇宙空間まで関係者以外の立ち入りを制限されていますので、
関知しきれる範囲でも、感知しきれる範囲でもありません、残念ながら(笑)
でも、デニムのミニスカートで、シンジに寄り添って、微笑みながら目をつぶって、ぬくもりと音とを感じているレイの姿。
これはマズイですね(笑)
「ロンギヌスの槍」のエピソードも「もくまおう」の歌詞も、改めてちゃんと構築して、サードインパクトを主軸に書いてみたいですね。
10巻を読んでなおさらにそう思いました。
>みれちゃんとこ(新世紀ヤナイの巣)の「企画」の「師弟(及びゲスト1)対決」の中にある「月と狗、あるいはこの星」じゃないかな。
>aba-m.a-kkvさんも一票入れてるみたいだけど(笑)。
そうでした、みれちゃんとこでしたね。
ありがとうございます。
【タイトル】Re: 生きる音
【記事番号】-2147482081 (-2147482110)
【 日時 】06/04/03 22:07
【 発言者 】牙丸
すごくゆったりした感じの話ですね。
情景はすぐに思い浮かんだのですが、まさかそんな裏設定があったとは……
とても驚愕しました。脱帽ものです。
そのことを加えて情景を考えてみると、また違った風景になったような気がします。
静かな感じの雰囲気の中で、「生きる音」という表現がまたいい。
エヴァ本編自体は戦闘だの何だのと、目まぐるしいうるささというか、都会の忙しさの中の喧噪っぽい感じを受けていたので、自分や自然の生きる音をしっかりと感じれるほど静かな雰囲気というのは、本当に穏やかで平和なんだなぁと思えます。
【タイトル】Re: 生きる音
【記事番号】-2147482080 (-2147482110)
【 日時 】06/04/04 05:21
【 発言者 】なお。
> 赤い塔は量産型のロンギヌスの槍の残骸です。
実は、ここ。まったく理解してませんでした。言われてみれば、ロンギヌスの槍、生命の樹、ああ、わからなくもないってところです。
クレーター状になっているのはちょっと考えてわかりました。でも黒き月だとはわかりませんでした。
いずれにせよ、もう少しヒントが欲しかったです。
でもそこは、誕生日記念として一日で書いたもの。
後書き風に種明かしてくれてると親切だったかも。
もしかしたらこっちが試されてたなんて可能性もw
> けっこう書き表せたのかなと思います。
存在が希薄なのは故意でしたか。私はそれを悲しみと捉えたようですね。最後には幸せそうなんですが。私には、ちょっと悲しすぎたようです。
【タイトル】Re: 生きる音
【記事番号】-2147482066 (-2147482110)
【 日時 】06/04/09 02:05
【 発言者 】なお。
今さらだけど、嫌味な書き方してる気がする……
私の受けた印象って最終的に一枚の絵画なんですよね。
それはあくまで風景画で、人物が見えないんです。
バスケットやスニーカーがあってもです。
だからミニスカートも見えない(爆)
だから楽しいようで淋しい。そう書きたかったのです。
【タイトル】Re: 生きる音
【記事番号】-2147482033 (-2147482110)
【 日時 】06/04/11 23:54
【 発言者 】仙人たむ <tamb○cube-web.net>
頭で考えるんじゃない、心の目で見るのじゃ!<ミニスカート
mailto:tamb○cube-web.net