「綾波レイの幸せ」掲示板 四人目/小説を語る掲示板・ネタバレあり注意
TOP
> 記事閲覧
赤いOpen Carでトンネルを抜けると……
投稿日
: 2009/05/31 00:00
投稿者
:
aba-m.a-kkv
参照先
:
【タイトル】赤いOpen Carでトンネルを抜けると……
【記事番号】-2147481543 (2147483647)
【 日時 】06/09/13 11:09
【 発言者 】aba-m.a-kkv
流線型のフォルム、赤い、赤い塗装。
それは太陽の下、眩しいほどに輝いている。
その赤は彼女の赤。
僕の愛しくて大切な彼女の赤。
僕を引きずり出してくれた彼女の、赤。
赤いOpen Carでトンネルを抜けると…… aba-m.a-kkv
カーテンに締め切られた部屋は外の明かりを差し込ませない。
たった数ミリの遮光カーテンはこの部屋を光から、たった数ミリの窓硝子はこの部屋を外から隔絶している。
その薄暗い部屋にあるベッド。
そこで微かに蠢く影があった。
銀色の髪も紅い瞳も、照らす明かりのないこの部屋の中にあっては輝くことを知らない。
何度か寝返りをうった影はタオルケットを跳ね除けて仰向けになり、天井を見上げた。
暗闇に染まる真っ平らな見知った天井。
紅い瞳は暫くの間それを見つめて、それからすっと瞼を閉じた。
「ああ、今ここは、あの頃に、あの空間の中に似ている。
独りぼっちだったあの場所に、独りで十分だったあの場所に、独りしかいなかったあの頃に。
闇が満ちていた、どこもかしこにも。
ここよりももっと暗い闇が。
長い、長いトンネル中を、途切れることのないトンネルの中を走っているかのように……」
瞼を開ける。
暗い天井、暗い部屋。
「あの時は、それが当たり前だった。
それが僕たちの、僕の存在であり命だった。
そして、それが使命であり、運命だった……」
掌をかざす。
暗闇の中に輪郭がぼんやりとしている。
その存在はトンネルの中のように曖昧だった。
「でも、今考えたら、それは怖いことだ。
だから、求めた、他の存在を。
それは使命であり、本心だった。
そして今、僕はここにいる。
でも、あの空間から、あのトンネルから引きずり出してくれたのは……」
ガチャガチャ
カタン
バン!
ドタドタドタ
ノブを回す音、鍵がかかっていると知って開錠する音、扉を蹴り破る音。
そして足音が誰もいなかった部屋に響いて近づいてくる。
仰向けで横になっている渚カヲルは瞼を閉じ、微かにアルカイックスマイルを浮かべてじっと待つことにしていた。
バタン!!
部屋の扉がノックも無く勢い良く開け放たれる。
足を踏み入れたその人物は薄暗い部屋をキョロキョロと見回して目的の人を見つけると、ドシドシと入ってきてカーテンに手をかけた。
そして、躊躇うことなくそれを開け放つ。
光が差し込む。
重ねて、窓を開け放った。
薄暗い部屋の中に、太陽の明かりと新鮮で暖かい空気が流れ込む。
正反対の世界がそこにあった。
「カヲル!! 起きなさい!
出かけるわよ!!」
明かりの入り込む部屋の中で亜麻色の髪が輝きなびいた。
カヲルの瞼が光を恐る恐る受け入れながら開いていき、紅い瞳が愛しい人の姿を映す。
キラキラ光る亜麻色の髪、元気な青い眸。
ひまわり色のワンピース姿で、赤が良く似合う大切な人。
「おほよう……アスカ」
「え、あ……」
カヲルはアスカの手を掴んで引きこむ。
バランスを崩して倒れこむアスカをカヲルは受け止め、そっと口唇を重ねた。
そして、抱きしめる。
「んっ……」
そのまま止まる時間と空間。
窓から差し込む光の下、幾許の時が重なって過ぎ、それから動き出した。
ゆっくりと離れていく二人の口唇。
吐息が二人の頬を掠めた、その刹那、アスカは真っ赤な顔でカヲルのパジャマの胸倉を掴み引きずり起こした。
「ば、バカカヲル!
おはよう、じゃないの、もう昼よ!
で、出かけるんだから、さあ、着替えた、着替えた!」
真っ赤な表情を隠すことなく、アスカは起きぬけに弱いカヲルのパジャマを脱がせていく。
「約束なんかしていたっけ?」
「いいえ、さっき思いついたのよ」
「何処に出かけるんだい?」
「私についてくればいいの、アンタは車を運転しなさい。
ナビゲートはあたしがするから」
たたき起こされたカヲルはアスカの着せ替え人形と化し、十数分の後マンションの部屋から引きずり出された。
一式の荷物を持たされて。
「さっ! いくわよ!」
カヲルのマンションの地下で赤いオープンカーのエンジンに火が点り、秋に入りながら残暑の厳しい太陽の下、走り出した。
それから二時間、目的地間近の最後の長いトンネルの中で、カヲルは遅い目覚めに考えていた続きを思い浮かべていた。
トンネルにつけられた黄色いライトが点々と高速に過ぎていく。
外の空間と隔絶されたトンネル。
長い、長い終わらないかのようなトンネル。
“こんなトンネルを僕は走っていたな。
あのまま、何も無ければ、独りでは恐ろし過ぎるトンネルを走り続けていただろう。
気づいたなら自らをも滅ぼしていくトンネルを。
時に使徒、時に滅び、時に孤独、時に宿命という名を冠したトンネルを”
ハンドルを握りながら横目で隣の人を見た。
観光ガイドブックやの地図といった本を見て嬉しそうにしている彼女を見て、カヲルはふと思い出していた。
終わりなきトンネルの出口の先で見たものを。
『来なさい! あたしと一緒に!』
“その言葉と共に、差し出されたアスカの手、それだけじゃなく僕の胸倉を掴んでどのトンネルからも引きずり出してくれた。
太陽のように、暗闇の中の僕を照らしてくれた。
闇を喰らい尽すような明るさをもって。
アスカが隣にいれば、僕はトンネルの中ではなく、太陽の下を歩いていられる。
いつも、僕の身を引っ張って、僕を明かりの下に連れて行ってくれる”
「ねえ、アスカ、今回は何処に連れて行ってくれるんだい?」
「サードインパクトのあと四季が戻ってからの日本有数の避暑地よ。
自然も綺麗だし、観光もいいって書いてあったわ。
夏真っ盛りは混んでたみたいだけど、九月に入って人は少なくなってるみたいだしね。
久々のデートだもの、少し遠出もいいじゃない。
明日は休みだから、なんなら一泊してもいいしね!」
「ふふ、なるほど、なるほど」
彼女の赤を纏った赤いオープンカーが長いトンネルを抜ける。
一気に視界が開け、緑の双璧に澄んだ青空が広がる中に白い雲がたゆたう。
そして、その真ん中に太陽が燦燦と光を降らしていた。
「んー! いいわね、カヲル!
やっぱり綺麗だわ!」
明るい声が風に乗る。
明るい世界、美しい世界。
歩んでいる世界。
“これからも、アスカはどんなところへ僕を引きずり出してくれるのかな?”
自然に囲まれた道路を走る赤いオープンカー。
その中で笑顔をたたえるアスカ。
そんな愛しい人の姿を見て、カヲルはアルカイックスマイルを浮かべ、アクセルを踏む力を微かに増した。
誕生日とはあまり関係がない内容な気もしますが(苦笑)記念SSとして。
最近、時の壁に追われていまして、危うくカヲルくんの日を忘れるところでした(苦笑)
さて、カヲル君へ、今年一年とてもお世話になりました。
この一年もよろしく。
【タイトル】赤いOpen Carでトンネルを抜けると……
【記事番号】-2147481543 (2147483647)
【 日時 】06/09/13 10:46
【 発言者 】aba-m.a-kkv
流線型のフォルム、赤い、赤い塗装。
それは太陽の下、眩しいほどに輝いている。
その赤は彼女の赤。
僕の愛しくて大切な彼女の赤。
僕を引きずり出してくれた彼女の、赤。
赤いOpen Carでトンネルを抜けると…… aba-m.a-kkv
カーテンに締め切られた部屋は外の明かりを差し込ませない。
たった数ミリの遮光カーテンはこの部屋を光から、たった数ミリの窓硝子はこの部屋を外から隔絶している。
その薄暗い部屋にあるベッド。
そこで微かに蠢く影があった。
銀色の髪も紅い瞳も、照らす明かりのないこの部屋の中にあっては輝くことを知らない。
何度か寝返りをうった影はタオルケットを跳ね除けて仰向けになり、天井を見上げた。
暗闇に染まる真っ平らな見知った天井。
紅い瞳は暫くの間それを見つめて、それからすっと瞼を閉じた。
「ああ、今ここは、あの頃に、あの空間の中に似ている。
独りぼっちだったあの場所に、独りで十分だったあの場所に、独りしかいなかったあの頃に。
闇が満ちていた、どこもかしこにも。
ここよりももっと暗い闇が。
長い、長いトンネル中を、途切れることのないトンネルの中を走っているかのように……」
瞼を開ける。
暗い天井、暗い部屋。
「あの時は、それが当たり前だった。
それが僕たちの、僕の存在であり命だった。
そして、それが使命であり、運命だった……」
掌をかざす。
暗闇の中に輪郭がぼんやりとしている。
その存在はトンネルの中のように曖昧だった。
「でも、今考えたら、それは怖いことだ。
だから、求めた、他の存在を。
それは使命であり、本心だった。
そして今、僕はここにいる。
でも、あの空間から、あのトンネルから引きずり出してくれたのは……」
ガチャガチャ
カタン
バン!
ドタドタドタ
ノブを回す音、鍵がかかっていると知って開錠する音、扉を蹴り破る音。
そして足音が誰もいなかった部屋に響いて近づいてくる。
仰向けで横になっている渚カヲルは瞼を閉じ、微かにアルカイックスマイルを浮かべてじっと待つことにしていた。
バタン!!
部屋の扉がノックも無く勢い良く開け放たれる。
足を踏み入れたその人物は薄暗い部屋をキョロキョロと見回して目的の人を見つけると、ドシドシと入ってきてカーテンに手をかけた。
そして、躊躇うことなくそれを開け放つ。
光が差し込む。
重ねて、窓を開け放った。
薄暗い部屋の中に、太陽の明かりと新鮮で暖かい空気が流れ込む。
正反対の世界がそこにあった。
「カヲル!! 起きなさい!
出かけるわよ!!」
明かりの入り込む部屋の中で亜麻色の髪が輝きなびいた。
カヲルの瞼が光を恐る恐る受け入れながら開いていき、紅い瞳が愛しい人の姿を映す。
キラキラ光る亜麻色の髪、元気な青い眸。
ひまわり色のワンピース姿で、赤が良く似合う大切な人。
「おほよう……アスカ」
そして、カヲルはアスカの手を掴んで引きこむ。
バランスを崩して倒れこむアスカをカヲルは受け止め、口唇を重ねた。
そのまま止まる時間と空間。
窓から差し込む光の下、幾許の時が重なって過ぎ、それから動き出した。
ゆっくりと離れていく二人の口唇、その刹那、アスカは真っ赤な顔でカヲルのパジャマの胸倉を掴み引きずり起こした。
「ば、バカカヲル!
おはよう、じゃないの、もう昼よ!
出かけるんだから、さあ、着替えた、着替えた!」
真っ赤な表情を隠すことなく、アスカは起きぬけに弱いカヲルのパジャマを脱がせていく。
「約束なんかしていたっけ?」
「いいえ、さっき思いついたのよ」
「何処に出かけるんだい?」
「私についてくればいいの、アンタは車を運転しなさい。
ナビゲートはあたしがするから」
たたき起こされたカヲルはアスカの着せ替え人形と化し、十数分の後マンションの部屋から引きずり出された。
一式の荷物を持たされて。
「さっ! いくわよ!」
カヲルのマンションの地下で赤いオープンカーのエンジンに火が点り、秋に入りながら残暑の厳しい太陽の下、走り出した。
それから二時間、目的地間近の最後の長いトンネルの中で、カヲルは遅い目覚めに考えていた続きを思い浮かべていた。
トンネルにつけられた黄色いライトが点々と高速に過ぎていく。
外の空間と隔絶されたトンネル。
長い、長い終わらないかのようなトンネル。
“こんなトンネルを僕は走っていたな。
あのまま、何も無ければ、独りでは恐ろし過ぎるトンネルを走り続けていただろう。
気づいたなら自らをも滅ぼしていくトンネルを。
時に使徒、時に滅び、時に孤独、時に宿命という名を冠したトンネルを”
ハンドルを握りながら横目で隣の人を見た。
観光ガイドブックやの地図といった本を見て嬉しそうにしている彼女を見て、カヲルはふと思い出していた。
終わりなきトンネルの出口の先で見たものを。
『来なさい! あたしと一緒に!』
“その言葉と共に、差し出されたアスカの手、それだけじゃなく僕の胸倉を掴んでどのトンネルからも引きずり出してくれた。
太陽のように、暗闇の中の僕を照らしてくれた。
闇を喰らい尽すような明るさをもって。
アスカが隣にいれば、僕はトンネルの中ではなく、太陽の下を歩いていられる。
いつも、僕の身を引っ張って、僕を明かりの下に連れて行ってくれる”
「ねえ、アスカ、今回は何処に連れて行ってくれるんだい?」
「サードインパクトのあと四季が戻ってからの日本有数の避暑地よ。
自然も綺麗だし、観光もいいって書いてあったわ。
夏真っ盛りは混んでたみたいだけど、九月に入って人は少なくなってるみたいだしね。
久々のデートだもの、少し遠出もいいじゃない。
明日は休みだから、なんなら一泊してもいいしね!」
「ふふ、なるほど、なるほど」
彼女の赤を纏った赤いオープンカーが長いトンネルを抜ける。
一気に視界が開け、緑の双璧に澄んだ青空が広がる中に白い雲がたゆたう。
そして、その真ん中に太陽が燦燦と光を降らしていた。
「んー! いいわね、カヲル!
やっぱり綺麗だわ!」
明るい声が風に乗る。
明るい世界、美しい世界。
歩んでいる世界。
“これからも、アスカはどんなところへ僕を引きずり出してくれるのかな?”
自然に囲まれた道路を走る赤いオープンカー。
その中で笑顔をたたえるアスカ。
そんな愛しい人の姿を見て、カヲルはアルカイックスマイルを浮かべ、アクセルを踏む力を微かに増した。
誕生日とはあまり関係がない内容な気もしますが(苦笑)記念SSとして。
最近、時の壁に追われていまして、危うくカヲルくんの日を忘れるところでした(苦笑)
さて、カヲル君へ、今年一年とてもお世話になりました。
この一年も、またよろしく。
【タイトル】Re: 赤いOpen Carでトンネルを抜けると……
【記事番号】-2147481535 (-2147481543)
【 日時 】06/09/16 21:54
【 発言者 】tamb <tamb○cube-web.net>
ゲロ甘だ(笑)。
常軌を逸して快活なアスカを「おほよう……アスカ」だけで受け止めて、すっかり受け止められてしまったアスカが健気にも立ち直るのがいいです(笑)。
行き先は軽井沢かな。となると、電車で出かけているレイとシンジにばったりと会うという可能性も。
片岡義男の小説で、ちょっとディティールは忘れましたが、オープンカーでとにかく走るという小説があるんですよ。彼女を隣に乗せて。たしかそれが誕生日プレゼントだったと思うんだけど、彼女はシートを倒した助手席で、ずっと空を見てるんですよ。Tバールーフで、それが空を切り取っているというシーンが印象的だったのを覚えてます。
車は何だろう。アスカってポルシェのイメージがあるんだけど、この話だとBMWかなという気も。
鍵は開けたんだから、ドアを蹴破るのは止めたほうがいいと思います(笑)。
mailto:tamb○cube-web.net
【タイトル】Re: 赤いOpen Carでトンネルを抜けると……
【記事番号】-2147481533 (-2147481543)
【 日時 】06/09/25 02:03
【 発言者 】tama
ドアを蹴破るのがアスカです(笑)
赤いオープンカーはアスカが運転席でもよかったかもと思いました。なんかかっこよくて彼女らしいかなと。
しかしその場合、カヲルが万が一にも助手席で寝たら恐ろしい制裁がありそうですが;
作品自体は確かにあまく、冒頭のき、スシーンらへんに恥ずかしさにもだえながら読みました。息絶え絶えです。いつまでたっても慣れません;;はぁはぁ。
でもここまでLAKを読めるサイトは少ないと思うと、すごい希少価値な気持ちがしますね。ありがたし。
カヲルのみならず、aba-m.a-kkv さんも今年1年(だけじゃないけど)お世話になりました!(主に萌え補充)という気分です。
・・・そんなわけですっかり aba-m.a-kkv さんがLAK作家になって嬉しい限りですが(爽)、時々これだけ多彩に書けるならば(嫌いな話をとか)オリジナルもどうですか?と思います。
書いてたら読ませてくださいね~
【タイトル】Re: 赤いOpen Carでトンネルを抜けると……
【記事番号】-2147481524 (-2147481543)
【 日時 】06/09/26 01:03
【 発言者 】なお。
アスカといえばドイツで、車もドイツ車のような気がするけど、ここはアルファのスパイダーあたりで。澄んだ青空の下に完熟トマトのような真っ赤な車。髪をなびかせひたすら走る。オーバーヒートで止まっても気にしない。冷めるまで夕日を眺めながら時間を潰す。もちろんそこでもイチャつくわけですな。ラテン系のノリで。
編集
件名
スレッドをトップへソート
名前
メールアドレス
表示
非表示
URL
画像添付
暗証キー
画像認証
(右画像の数字を入力)
コメント
-
WEB PATIO
-
【記事番号】-2147481543 (2147483647)
【 日時 】06/09/13 11:09
【 発言者 】aba-m.a-kkv
流線型のフォルム、赤い、赤い塗装。
それは太陽の下、眩しいほどに輝いている。
その赤は彼女の赤。
僕の愛しくて大切な彼女の赤。
僕を引きずり出してくれた彼女の、赤。
赤いOpen Carでトンネルを抜けると…… aba-m.a-kkv
カーテンに締め切られた部屋は外の明かりを差し込ませない。
たった数ミリの遮光カーテンはこの部屋を光から、たった数ミリの窓硝子はこの部屋を外から隔絶している。
その薄暗い部屋にあるベッド。
そこで微かに蠢く影があった。
銀色の髪も紅い瞳も、照らす明かりのないこの部屋の中にあっては輝くことを知らない。
何度か寝返りをうった影はタオルケットを跳ね除けて仰向けになり、天井を見上げた。
暗闇に染まる真っ平らな見知った天井。
紅い瞳は暫くの間それを見つめて、それからすっと瞼を閉じた。
「ああ、今ここは、あの頃に、あの空間の中に似ている。
独りぼっちだったあの場所に、独りで十分だったあの場所に、独りしかいなかったあの頃に。
闇が満ちていた、どこもかしこにも。
ここよりももっと暗い闇が。
長い、長いトンネル中を、途切れることのないトンネルの中を走っているかのように……」
瞼を開ける。
暗い天井、暗い部屋。
「あの時は、それが当たり前だった。
それが僕たちの、僕の存在であり命だった。
そして、それが使命であり、運命だった……」
掌をかざす。
暗闇の中に輪郭がぼんやりとしている。
その存在はトンネルの中のように曖昧だった。
「でも、今考えたら、それは怖いことだ。
だから、求めた、他の存在を。
それは使命であり、本心だった。
そして今、僕はここにいる。
でも、あの空間から、あのトンネルから引きずり出してくれたのは……」
ガチャガチャ
カタン
バン!
ドタドタドタ
ノブを回す音、鍵がかかっていると知って開錠する音、扉を蹴り破る音。
そして足音が誰もいなかった部屋に響いて近づいてくる。
仰向けで横になっている渚カヲルは瞼を閉じ、微かにアルカイックスマイルを浮かべてじっと待つことにしていた。
バタン!!
部屋の扉がノックも無く勢い良く開け放たれる。
足を踏み入れたその人物は薄暗い部屋をキョロキョロと見回して目的の人を見つけると、ドシドシと入ってきてカーテンに手をかけた。
そして、躊躇うことなくそれを開け放つ。
光が差し込む。
重ねて、窓を開け放った。
薄暗い部屋の中に、太陽の明かりと新鮮で暖かい空気が流れ込む。
正反対の世界がそこにあった。
「カヲル!! 起きなさい!
出かけるわよ!!」
明かりの入り込む部屋の中で亜麻色の髪が輝きなびいた。
カヲルの瞼が光を恐る恐る受け入れながら開いていき、紅い瞳が愛しい人の姿を映す。
キラキラ光る亜麻色の髪、元気な青い眸。
ひまわり色のワンピース姿で、赤が良く似合う大切な人。
「おほよう……アスカ」
「え、あ……」
カヲルはアスカの手を掴んで引きこむ。
バランスを崩して倒れこむアスカをカヲルは受け止め、そっと口唇を重ねた。
そして、抱きしめる。
「んっ……」
そのまま止まる時間と空間。
窓から差し込む光の下、幾許の時が重なって過ぎ、それから動き出した。
ゆっくりと離れていく二人の口唇。
吐息が二人の頬を掠めた、その刹那、アスカは真っ赤な顔でカヲルのパジャマの胸倉を掴み引きずり起こした。
「ば、バカカヲル!
おはよう、じゃないの、もう昼よ!
で、出かけるんだから、さあ、着替えた、着替えた!」
真っ赤な表情を隠すことなく、アスカは起きぬけに弱いカヲルのパジャマを脱がせていく。
「約束なんかしていたっけ?」
「いいえ、さっき思いついたのよ」
「何処に出かけるんだい?」
「私についてくればいいの、アンタは車を運転しなさい。
ナビゲートはあたしがするから」
たたき起こされたカヲルはアスカの着せ替え人形と化し、十数分の後マンションの部屋から引きずり出された。
一式の荷物を持たされて。
「さっ! いくわよ!」
カヲルのマンションの地下で赤いオープンカーのエンジンに火が点り、秋に入りながら残暑の厳しい太陽の下、走り出した。
それから二時間、目的地間近の最後の長いトンネルの中で、カヲルは遅い目覚めに考えていた続きを思い浮かべていた。
トンネルにつけられた黄色いライトが点々と高速に過ぎていく。
外の空間と隔絶されたトンネル。
長い、長い終わらないかのようなトンネル。
“こんなトンネルを僕は走っていたな。
あのまま、何も無ければ、独りでは恐ろし過ぎるトンネルを走り続けていただろう。
気づいたなら自らをも滅ぼしていくトンネルを。
時に使徒、時に滅び、時に孤独、時に宿命という名を冠したトンネルを”
ハンドルを握りながら横目で隣の人を見た。
観光ガイドブックやの地図といった本を見て嬉しそうにしている彼女を見て、カヲルはふと思い出していた。
終わりなきトンネルの出口の先で見たものを。
『来なさい! あたしと一緒に!』
“その言葉と共に、差し出されたアスカの手、それだけじゃなく僕の胸倉を掴んでどのトンネルからも引きずり出してくれた。
太陽のように、暗闇の中の僕を照らしてくれた。
闇を喰らい尽すような明るさをもって。
アスカが隣にいれば、僕はトンネルの中ではなく、太陽の下を歩いていられる。
いつも、僕の身を引っ張って、僕を明かりの下に連れて行ってくれる”
「ねえ、アスカ、今回は何処に連れて行ってくれるんだい?」
「サードインパクトのあと四季が戻ってからの日本有数の避暑地よ。
自然も綺麗だし、観光もいいって書いてあったわ。
夏真っ盛りは混んでたみたいだけど、九月に入って人は少なくなってるみたいだしね。
久々のデートだもの、少し遠出もいいじゃない。
明日は休みだから、なんなら一泊してもいいしね!」
「ふふ、なるほど、なるほど」
彼女の赤を纏った赤いオープンカーが長いトンネルを抜ける。
一気に視界が開け、緑の双璧に澄んだ青空が広がる中に白い雲がたゆたう。
そして、その真ん中に太陽が燦燦と光を降らしていた。
「んー! いいわね、カヲル!
やっぱり綺麗だわ!」
明るい声が風に乗る。
明るい世界、美しい世界。
歩んでいる世界。
“これからも、アスカはどんなところへ僕を引きずり出してくれるのかな?”
自然に囲まれた道路を走る赤いオープンカー。
その中で笑顔をたたえるアスカ。
そんな愛しい人の姿を見て、カヲルはアルカイックスマイルを浮かべ、アクセルを踏む力を微かに増した。
誕生日とはあまり関係がない内容な気もしますが(苦笑)記念SSとして。
最近、時の壁に追われていまして、危うくカヲルくんの日を忘れるところでした(苦笑)
さて、カヲル君へ、今年一年とてもお世話になりました。
この一年もよろしく。
【タイトル】赤いOpen Carでトンネルを抜けると……
【記事番号】-2147481543 (2147483647)
【 日時 】06/09/13 10:46
【 発言者 】aba-m.a-kkv
流線型のフォルム、赤い、赤い塗装。
それは太陽の下、眩しいほどに輝いている。
その赤は彼女の赤。
僕の愛しくて大切な彼女の赤。
僕を引きずり出してくれた彼女の、赤。
赤いOpen Carでトンネルを抜けると…… aba-m.a-kkv
カーテンに締め切られた部屋は外の明かりを差し込ませない。
たった数ミリの遮光カーテンはこの部屋を光から、たった数ミリの窓硝子はこの部屋を外から隔絶している。
その薄暗い部屋にあるベッド。
そこで微かに蠢く影があった。
銀色の髪も紅い瞳も、照らす明かりのないこの部屋の中にあっては輝くことを知らない。
何度か寝返りをうった影はタオルケットを跳ね除けて仰向けになり、天井を見上げた。
暗闇に染まる真っ平らな見知った天井。
紅い瞳は暫くの間それを見つめて、それからすっと瞼を閉じた。
「ああ、今ここは、あの頃に、あの空間の中に似ている。
独りぼっちだったあの場所に、独りで十分だったあの場所に、独りしかいなかったあの頃に。
闇が満ちていた、どこもかしこにも。
ここよりももっと暗い闇が。
長い、長いトンネル中を、途切れることのないトンネルの中を走っているかのように……」
瞼を開ける。
暗い天井、暗い部屋。
「あの時は、それが当たり前だった。
それが僕たちの、僕の存在であり命だった。
そして、それが使命であり、運命だった……」
掌をかざす。
暗闇の中に輪郭がぼんやりとしている。
その存在はトンネルの中のように曖昧だった。
「でも、今考えたら、それは怖いことだ。
だから、求めた、他の存在を。
それは使命であり、本心だった。
そして今、僕はここにいる。
でも、あの空間から、あのトンネルから引きずり出してくれたのは……」
ガチャガチャ
カタン
バン!
ドタドタドタ
ノブを回す音、鍵がかかっていると知って開錠する音、扉を蹴り破る音。
そして足音が誰もいなかった部屋に響いて近づいてくる。
仰向けで横になっている渚カヲルは瞼を閉じ、微かにアルカイックスマイルを浮かべてじっと待つことにしていた。
バタン!!
部屋の扉がノックも無く勢い良く開け放たれる。
足を踏み入れたその人物は薄暗い部屋をキョロキョロと見回して目的の人を見つけると、ドシドシと入ってきてカーテンに手をかけた。
そして、躊躇うことなくそれを開け放つ。
光が差し込む。
重ねて、窓を開け放った。
薄暗い部屋の中に、太陽の明かりと新鮮で暖かい空気が流れ込む。
正反対の世界がそこにあった。
「カヲル!! 起きなさい!
出かけるわよ!!」
明かりの入り込む部屋の中で亜麻色の髪が輝きなびいた。
カヲルの瞼が光を恐る恐る受け入れながら開いていき、紅い瞳が愛しい人の姿を映す。
キラキラ光る亜麻色の髪、元気な青い眸。
ひまわり色のワンピース姿で、赤が良く似合う大切な人。
「おほよう……アスカ」
そして、カヲルはアスカの手を掴んで引きこむ。
バランスを崩して倒れこむアスカをカヲルは受け止め、口唇を重ねた。
そのまま止まる時間と空間。
窓から差し込む光の下、幾許の時が重なって過ぎ、それから動き出した。
ゆっくりと離れていく二人の口唇、その刹那、アスカは真っ赤な顔でカヲルのパジャマの胸倉を掴み引きずり起こした。
「ば、バカカヲル!
おはよう、じゃないの、もう昼よ!
出かけるんだから、さあ、着替えた、着替えた!」
真っ赤な表情を隠すことなく、アスカは起きぬけに弱いカヲルのパジャマを脱がせていく。
「約束なんかしていたっけ?」
「いいえ、さっき思いついたのよ」
「何処に出かけるんだい?」
「私についてくればいいの、アンタは車を運転しなさい。
ナビゲートはあたしがするから」
たたき起こされたカヲルはアスカの着せ替え人形と化し、十数分の後マンションの部屋から引きずり出された。
一式の荷物を持たされて。
「さっ! いくわよ!」
カヲルのマンションの地下で赤いオープンカーのエンジンに火が点り、秋に入りながら残暑の厳しい太陽の下、走り出した。
それから二時間、目的地間近の最後の長いトンネルの中で、カヲルは遅い目覚めに考えていた続きを思い浮かべていた。
トンネルにつけられた黄色いライトが点々と高速に過ぎていく。
外の空間と隔絶されたトンネル。
長い、長い終わらないかのようなトンネル。
“こんなトンネルを僕は走っていたな。
あのまま、何も無ければ、独りでは恐ろし過ぎるトンネルを走り続けていただろう。
気づいたなら自らをも滅ぼしていくトンネルを。
時に使徒、時に滅び、時に孤独、時に宿命という名を冠したトンネルを”
ハンドルを握りながら横目で隣の人を見た。
観光ガイドブックやの地図といった本を見て嬉しそうにしている彼女を見て、カヲルはふと思い出していた。
終わりなきトンネルの出口の先で見たものを。
『来なさい! あたしと一緒に!』
“その言葉と共に、差し出されたアスカの手、それだけじゃなく僕の胸倉を掴んでどのトンネルからも引きずり出してくれた。
太陽のように、暗闇の中の僕を照らしてくれた。
闇を喰らい尽すような明るさをもって。
アスカが隣にいれば、僕はトンネルの中ではなく、太陽の下を歩いていられる。
いつも、僕の身を引っ張って、僕を明かりの下に連れて行ってくれる”
「ねえ、アスカ、今回は何処に連れて行ってくれるんだい?」
「サードインパクトのあと四季が戻ってからの日本有数の避暑地よ。
自然も綺麗だし、観光もいいって書いてあったわ。
夏真っ盛りは混んでたみたいだけど、九月に入って人は少なくなってるみたいだしね。
久々のデートだもの、少し遠出もいいじゃない。
明日は休みだから、なんなら一泊してもいいしね!」
「ふふ、なるほど、なるほど」
彼女の赤を纏った赤いオープンカーが長いトンネルを抜ける。
一気に視界が開け、緑の双璧に澄んだ青空が広がる中に白い雲がたゆたう。
そして、その真ん中に太陽が燦燦と光を降らしていた。
「んー! いいわね、カヲル!
やっぱり綺麗だわ!」
明るい声が風に乗る。
明るい世界、美しい世界。
歩んでいる世界。
“これからも、アスカはどんなところへ僕を引きずり出してくれるのかな?”
自然に囲まれた道路を走る赤いオープンカー。
その中で笑顔をたたえるアスカ。
そんな愛しい人の姿を見て、カヲルはアルカイックスマイルを浮かべ、アクセルを踏む力を微かに増した。
誕生日とはあまり関係がない内容な気もしますが(苦笑)記念SSとして。
最近、時の壁に追われていまして、危うくカヲルくんの日を忘れるところでした(苦笑)
さて、カヲル君へ、今年一年とてもお世話になりました。
この一年も、またよろしく。
【タイトル】Re: 赤いOpen Carでトンネルを抜けると……
【記事番号】-2147481535 (-2147481543)
【 日時 】06/09/16 21:54
【 発言者 】tamb <tamb○cube-web.net>
ゲロ甘だ(笑)。
常軌を逸して快活なアスカを「おほよう……アスカ」だけで受け止めて、すっかり受け止められてしまったアスカが健気にも立ち直るのがいいです(笑)。
行き先は軽井沢かな。となると、電車で出かけているレイとシンジにばったりと会うという可能性も。
片岡義男の小説で、ちょっとディティールは忘れましたが、オープンカーでとにかく走るという小説があるんですよ。彼女を隣に乗せて。たしかそれが誕生日プレゼントだったと思うんだけど、彼女はシートを倒した助手席で、ずっと空を見てるんですよ。Tバールーフで、それが空を切り取っているというシーンが印象的だったのを覚えてます。
車は何だろう。アスカってポルシェのイメージがあるんだけど、この話だとBMWかなという気も。
鍵は開けたんだから、ドアを蹴破るのは止めたほうがいいと思います(笑)。
mailto:tamb○cube-web.net
【タイトル】Re: 赤いOpen Carでトンネルを抜けると……
【記事番号】-2147481533 (-2147481543)
【 日時 】06/09/25 02:03
【 発言者 】tama
ドアを蹴破るのがアスカです(笑)
赤いオープンカーはアスカが運転席でもよかったかもと思いました。なんかかっこよくて彼女らしいかなと。
しかしその場合、カヲルが万が一にも助手席で寝たら恐ろしい制裁がありそうですが;
作品自体は確かにあまく、冒頭のき、スシーンらへんに恥ずかしさにもだえながら読みました。息絶え絶えです。いつまでたっても慣れません;;はぁはぁ。
でもここまでLAKを読めるサイトは少ないと思うと、すごい希少価値な気持ちがしますね。ありがたし。
カヲルのみならず、aba-m.a-kkv さんも今年1年(だけじゃないけど)お世話になりました!(主に萌え補充)という気分です。
・・・そんなわけですっかり aba-m.a-kkv さんがLAK作家になって嬉しい限りですが(爽)、時々これだけ多彩に書けるならば(嫌いな話をとか)オリジナルもどうですか?と思います。
書いてたら読ませてくださいね~
【タイトル】Re: 赤いOpen Carでトンネルを抜けると……
【記事番号】-2147481524 (-2147481543)
【 日時 】06/09/26 01:03
【 発言者 】なお。
アスカといえばドイツで、車もドイツ車のような気がするけど、ここはアルファのスパイダーあたりで。澄んだ青空の下に完熟トマトのような真っ赤な車。髪をなびかせひたすら走る。オーバーヒートで止まっても気にしない。冷めるまで夕日を眺めながら時間を潰す。もちろんそこでもイチャつくわけですな。ラテン系のノリで。