「綾波レイの幸せ」掲示板 四人目/小説を語る掲示板・ネタバレあり注意
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ジェンガ
投稿日
: 2009/05/31 00:00
投稿者
:
のの
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:
【タイトル】ジェンガ
【記事番号】-2147481532 (2147483647)
【 日時 】06/09/25 00:13
【 発言者 】のの
笑えるように、と。
笑い飛ばしていこう。
たまには未来志向でも、悪くないんじゃない?
ジェンガ
というわけで、彼女がジェンガを買ってきた。デパートの七階、おもちゃ売り場まで行って、わざわざ。どうにもそれは気恥ずかしいように思えて仕方ないけれど、いわく「おもちゃ売り場でおもちゃを買ったことがない」彼女にとってはそれだけでけっこうなイベントになってしまったらしく、それを下げてうちにやってきて、お茶を一杯飲み終えるころにはもう、すっかり眠たげな顔をしていた。
おたがい、寝不足がモロに顔に出ていて、彼女は白い顔をますます白くさせていたし、僕はつくりものめいたくまをこしらえていた。
「不健康だ」
僕はテーブルに突っ伏して言った。顔を見て言うのはすこしわざとらしすぎる気がするので、顔は横に向けていた。向かいのテーブルに乗せて組んだ両腕にアゴを乗せ、とろんとした顔つきでどこを見るわけでもなくぼーっとしている。お互い神経がすり減っている。けれどそれを堂々と口に出せるにはまだもうすこし勇気が足りない、そんな状況。
「…………眠い……」
彼女がぽつりと呟く。このまま寝てもらっても困る。僕は姿勢を正して彼女の頭をぽんぽん叩いて「もう一杯お茶を淹れるよ」と言い残して席を立った。三歩あるけばキッチンの、きれいなだけが取り柄の狭いアパート。窓から差しこむ光は彼岸をすぎた日本らしい陽気。少し開けてあるおかげで入る風は心地よかった。こんな気持ちのいい太陽を浴びずに家にいるのは間違っていると断言できるほどの天気だった。
お湯が沸いて急須に注ぎ、2杯目のお茶を淹れるまで、僕はガス火の前を動かなかった。戻るのはすこしだけ怖かった。仲直りできているのかできていないのかよくわからない。なにしろ、恋人とケンカらしいケンカというのもしたことがなかったし、しかも僕がしたことは、それこそ、別れたっておかしくない、ひどいことだった。いちおうの許しはもらっているけど、いざこうして会うとぎこちない。彼女もそれを感じてるんだろう。不健康だの眠いだの言って、そうやって、すこしずつ距離を縮めたがっている、と思う。でも、どの時点から「丸く収まった」ことになるのかがわからない。ケンカをしたことがないのは彼女だって同じなのだから。
「はい」
「ありがとう……」
すこし顔をあげた彼女の顔に髪がかかったから、それを払ってあげる。彼女は眠たげな顔からそのまま目をつぶった。だけど、これは別に寝るつもりがあるわけじゃないことくらい、僕にだってわかる。
「ねえ、買ってきたジェンガ、やろうよ」
僕は早速切りだした。やっぱり口火を切るのは男の役目だろう。前時代的?反吐が出る?
「……眠い」
「まあまあ」
「……」
彼女はむすっとしてるのか無表情なのか眠いのか、いよいよわからない顔で紙袋から包装された箱を出し、ゆっくりテープを剥がして、キレイに紙を取っ払った。テーブルに新品のジェンガが立てられ、思わず「なんだかなあ……」と呟いてしまう。
「どうかした?」
「まさか二十歳になって、しかもこんな風にジェンガデビューするなんて思わなかった」
彼女はようやくおかしそうに笑みを浮かべて頷いた。
ジャンケンをした。彼女がチョキで僕がパー。パーで負けるとなんだか空しい。開いた手の涼しさがそう思わせるのかどうかはわかんないけど。
「なんだか緊張する」
彼女は何度か手を握ったり開いたりして、ようやく取りかかった。最初のひとつを抜く。さあ、賽は投げられた。
僕はなにも言わずに彼女が抜いた段の反対側を抜いた。いきなりこういうことをするのは、もしかしたら大した冒険かもしれない。
「いきなり不安定……」
「まあまあ」
そろそろと二度目、三度目とブロックを抜いていく。
僕が五回目にブロックを抜こうとしたときだっただろうか。
「なんだか、子供っぽいね」
彼女が言った。意味を計りかねた。
「誰が?」
「どっちも」
「そう?」
と聞き返しながら、そうかもしれない、と思っていた。
「でも、もう子供じゃないよ。すこしはね」
「だからこうして、こんなことしてるのよ」
馬鹿みたいに、と彼女はしっかり付け加えた。僕はちょっとむっとしながら、顔はなんとなく、次はどこのブロックを抜いてやろうかという表情のままだった。
「しょうがないよ」
「なにが?」
僕の台詞は大層お気に召さなかったらしく、明らかに苛立った声で彼女は言った。それでも、通りすがりの人が聞いたらわからない程度の感情の起伏なのは、もう、彼女の癖みたいなものだ。
「こうしてここまで来たんだよ、だって。それを悔いても仕方がないだろ?」
「悔いてるとか、そういうわけじゃないわ」
「じゃあ、なに?」
「ただ……自分が馬鹿みたいに思えただけ」
「別にそんなことないと思うし……それでもいいよ。僕も負けないくらい馬鹿だってこと、わかってくれてればそれでいいよ。それにそもそも、君は僕を許さなくていいんだ。許しちゃいけないくらいだ」
「そんな風に言わなくても、いい」
「言わせてよ、これくらい。僕が馬鹿だったんだ、不注意すぎた」
「いいの、わたしの方こそ、ごめんなさい」
そのやりとりは、なんだか前にもあった気がした。そっとジェンガに手をかけながらそんなことを考える。
「あっ」
そうだ、昨日こんな話したばっかじゃないか。
「あっ」
がらがら、がしゃしゃん。間抜けなことに、手をかけていたのを忘れて動いてしまった。
「あちゃあ……」
「……フフっ」
「なんだよ……笑わないでくれる?」
と言いながらも、自分でもばかばかしすぎて笑ってしまう。彼女は今やにこにこしていた。外にでる必要はなさそうに思える笑顔。
「もう、なんだよ」
「フフっ……シンジ、子供みたい」
「っとにもう…………なんだかなあ、ほんとにバカバカしいよ」
でも、たまにはそれもいいかもしれない。僕らはどうにも真面目に、まっとうにやりすぎる。
「仲直りしよう」
「うん」
「ジェンガ崩してこんなこと言うの、ヘンな話だけど」
「うん」
「あと、ちゃんとお墓参りにいこう。みんなのぶんの花を買って」
「うん」
かちゃかちゃと、ジェンガを積み直す彼女の手が止まった。
「よかった」
「ん?」
「終わりかも、って思ったから」
「それは……うん。本当にごめん」
「もういいの。今は――」
「今は?」
「眠い」
と言って立ち上がると、僕がよりかかっていたベッドに素早く転がってしまった。
「なんだかなあ……」
僕はのろくさとジェンガを積む。彼女は僕の髪をすこしいじっていたけど、すぐにそれもやんで、ジェンガを積み終えるころにはもう、眠ってしまっていた。
「早っ」
わざとらしく呟いた拍子に、肘にジェンガをぶつけてしまった。ががしゃしゃ、ぼろん。
まったく、なんだかなあ。ほんとにバカだなあ、俺。
【タイトル】Re: ジェンガ
【記事番号】-2147481531 (-2147481532)
【 日時 】06/09/25 00:15
【 発言者 】のの
掲示板にはあんなこと言っておきながらショートショート投下。
お前なんなんだと、石を投げないでーっ。
なんとなく、ジェンガで仲直りっていうのを書きたかったです。
特別かっこいい言い回しがあるわけじゃないと思うけど、でもなんか、
こういうのを思いつけるうちは引退だとか言わなくていい気もした(爆)
【タイトル】Re: ジェンガ
【記事番号】-2147481530 (-2147481532)
【 日時 】06/09/25 01:41
【 発言者 】tama
お久しぶりです。
>引退宣言
どんなかたちで好きでいるかはいろんなかたちがあると思うのでサイトにしろ、綾波レイというキャラにしろののさんが一番いいかかわりかたのかたちでありつづければいいと思います。無理せずマイペースが一番ですよ。
tambさんはここはありますといっているわけですから、新作も気長に望みつつ、過去のののさん作品でちゃんと萌えてがんばりますよ、私は!
>ジェンガ
・・・タイトルをみて、思い出したのがフォークダンスの方であわてました。深夜にカップルが仲直りのジェンカで、右右・・・とかってすごいなっていうか、じゃんけんが一回しか出来ないから列がながくならないじゃん!とかよくわからない想像に・・・!
作品は全然ちがう素敵な作品でした。
こういう大人というかなんというか、落ち着く空気がいいですね。このかたひじをはらなくていい二人の関係はみてて幸せなきもちになります。
色違いパジャマで自分の頭のなかに画像がうかんだんですが、たぶんそこらへんが私がいまもLRSから離れられない病気にかかっている証拠のような気がして・・・ええ!
【タイトル】Re: ジェンガ
【記事番号】-2147481529 (-2147481532)
【 日時 】06/09/25 01:48
【 発言者 】aba-m.a-kkv
ののさんテイストに酔いますね。
いつもながら何とも素晴らしい。
ジェンガが散らばった小さな部屋の一コマに、
ジェンガのように積み重なった不安が瓦解して安心したレイの寝顔と、
同じように安心感を浮かべながら呆れた表情で呟くシンジの姿が映りこんでくる気がします。
どんなことがあったかなんていうのは、ジェンガが崩れた今は過ぎ去ったもので描かれなくていいのかもしれません。
温かく淡い陽気が伝わってくるような中で、良い感じに浸らせてもらいました。
のの兄さんの中にエヴァの二人が浮かぶだけ、私はこれからも書いていって欲しいです。
ゆったりゆっくり、サードインパクトで人類が溶けるまで(笑)
次回作も楽しみにしています。
【タイトル】Re: ジェンガ
【記事番号】-2147481520 (-2147481532)
【 日時 】06/09/25 20:32
【 発言者 】のの
コメントアリガットさんでーーーーーす!
■tamaさん
活動休止宣言にしようかな、いやそれともいっそハンドル変えてしまうとか…なんて、引退ニアラズ路線も
具体的に考えてしまいました、昨夜は。
ちなみにパジャマではないおですが、そういう補完作業ができるうちは暫くその病は治らないでしょう(笑)
■aba-m.a-kkvさん
毎度コメントありがとーございますっm(__)m
不安が積み上がるという発想はなかったけど、考えてみればそうですね。
この話のミソはですね、最初に「外に出ないなんてもったいない」と言ってるんだけど、レイが
にこにこしちゃったもんで、それが太陽みたいだから出なくていいやって思っちゃう、バカっぽ
いほのぼの感がカナメになっておりますです。
どうにもこの程度で形にするには淡々とした色合いでないとおさまらないんですけど、なんとい
うか、微笑ましいカップルっぽくできたかな、とは思います。はい。
この話は、彼女と喧嘩した友達が、仲直りのために金太郎飴を買って「どこを切り取ったって幸せ」
って言ってみせようとした話を聞いて、バカバカしくってしょーうもないけど、でもそういう雰囲気
って大切なとこもあるなーと思ったので、ジェンガ組んで崩して笑って、バカみたいって言いなが
ら未来志向、という話を思いつきました。
ちなみにその友人は金太郎飴が買えず、なるとを渡すという暴挙に出たのであった(爆)
【タイトル】Re: ジェンガ
【記事番号】-2147481514 (-2147481532)
【 日時 】06/09/29 19:06
【 発言者 】tamb <tamb○cube-web.net>
> 「あと、ちゃんとお墓参りにいこう。みんなのぶんの花を買って」
この辺が気になる。
> 色違いパジャマで
それは私の領分だな(爆)。
mailto:tamb○cube-web.net
【タイトル】Re: ジェンガ
【記事番号】-2147481509 (-2147481532)
【 日時 】06/10/01 23:55
【 発言者 】なお。
一応の和解をしていてもどこかぎこちないままで、手ぶらではジンジに会いに行けずわざわざ
デパートのおもちゃ売り場でジェンガを買ったレイの気持ちは複雑すぎて想像するになかなか難
しい。仲直りに使えそうな小道具を買いにいったと思えば冷静なんだろうと思えるけど、普段し
なかったことを突然行動として起したのはちょっと挙動不信的なところもある。結果的に買った
ジェンガは仲直りの道具にはなったんだけど、計算尽くで買ったものとはやはり思えない。こん
な一見不自然な行動こそ、実はとても人間臭い行動だと私は思う。
そして、そのときの様子をちゃんと説明できているのはレイっぽくも、いつもより不自然に饒
舌だったとかそんな雰囲気を想像させる。こういった描写はもちろんどこにもないんだけど、そ
れだけ二人の間によそよそしい感じが出ているんだと思う。
> でも、たまにはそれもいいかもしれない。僕らはどうにも真面目に、まっとうにやりすぎる。
シンジが起した問題も実はそれほど深刻なものではなかったのかな? わからなくはないけど
状況を考えるとちょっと開き直りぎみ(笑)
【タイトル】Re: ジェンガ
【記事番号】-2147481508 (-2147481532)
【 日時 】06/10/02 01:15
【 発言者 】のの
まさに、開き直っちゃうような軽いノリも、たまにはいいじゃんっていう話です(笑)
「一応仲直りをして、その次の日に会おうって話になった」というシチュなので、もういいじゃんって言いきれない真面目な二人。
でもいいじゃんべつにもう、っていうノリも、たまにはいいんじゃない?
そう思うのです。
多分に自戒込みです(爆)
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WEB PATIO
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【記事番号】-2147481532 (2147483647)
【 日時 】06/09/25 00:13
【 発言者 】のの
笑えるように、と。
笑い飛ばしていこう。
たまには未来志向でも、悪くないんじゃない?
ジェンガ
というわけで、彼女がジェンガを買ってきた。デパートの七階、おもちゃ売り場まで行って、わざわざ。どうにもそれは気恥ずかしいように思えて仕方ないけれど、いわく「おもちゃ売り場でおもちゃを買ったことがない」彼女にとってはそれだけでけっこうなイベントになってしまったらしく、それを下げてうちにやってきて、お茶を一杯飲み終えるころにはもう、すっかり眠たげな顔をしていた。
おたがい、寝不足がモロに顔に出ていて、彼女は白い顔をますます白くさせていたし、僕はつくりものめいたくまをこしらえていた。
「不健康だ」
僕はテーブルに突っ伏して言った。顔を見て言うのはすこしわざとらしすぎる気がするので、顔は横に向けていた。向かいのテーブルに乗せて組んだ両腕にアゴを乗せ、とろんとした顔つきでどこを見るわけでもなくぼーっとしている。お互い神経がすり減っている。けれどそれを堂々と口に出せるにはまだもうすこし勇気が足りない、そんな状況。
「…………眠い……」
彼女がぽつりと呟く。このまま寝てもらっても困る。僕は姿勢を正して彼女の頭をぽんぽん叩いて「もう一杯お茶を淹れるよ」と言い残して席を立った。三歩あるけばキッチンの、きれいなだけが取り柄の狭いアパート。窓から差しこむ光は彼岸をすぎた日本らしい陽気。少し開けてあるおかげで入る風は心地よかった。こんな気持ちのいい太陽を浴びずに家にいるのは間違っていると断言できるほどの天気だった。
お湯が沸いて急須に注ぎ、2杯目のお茶を淹れるまで、僕はガス火の前を動かなかった。戻るのはすこしだけ怖かった。仲直りできているのかできていないのかよくわからない。なにしろ、恋人とケンカらしいケンカというのもしたことがなかったし、しかも僕がしたことは、それこそ、別れたっておかしくない、ひどいことだった。いちおうの許しはもらっているけど、いざこうして会うとぎこちない。彼女もそれを感じてるんだろう。不健康だの眠いだの言って、そうやって、すこしずつ距離を縮めたがっている、と思う。でも、どの時点から「丸く収まった」ことになるのかがわからない。ケンカをしたことがないのは彼女だって同じなのだから。
「はい」
「ありがとう……」
すこし顔をあげた彼女の顔に髪がかかったから、それを払ってあげる。彼女は眠たげな顔からそのまま目をつぶった。だけど、これは別に寝るつもりがあるわけじゃないことくらい、僕にだってわかる。
「ねえ、買ってきたジェンガ、やろうよ」
僕は早速切りだした。やっぱり口火を切るのは男の役目だろう。前時代的?反吐が出る?
「……眠い」
「まあまあ」
「……」
彼女はむすっとしてるのか無表情なのか眠いのか、いよいよわからない顔で紙袋から包装された箱を出し、ゆっくりテープを剥がして、キレイに紙を取っ払った。テーブルに新品のジェンガが立てられ、思わず「なんだかなあ……」と呟いてしまう。
「どうかした?」
「まさか二十歳になって、しかもこんな風にジェンガデビューするなんて思わなかった」
彼女はようやくおかしそうに笑みを浮かべて頷いた。
ジャンケンをした。彼女がチョキで僕がパー。パーで負けるとなんだか空しい。開いた手の涼しさがそう思わせるのかどうかはわかんないけど。
「なんだか緊張する」
彼女は何度か手を握ったり開いたりして、ようやく取りかかった。最初のひとつを抜く。さあ、賽は投げられた。
僕はなにも言わずに彼女が抜いた段の反対側を抜いた。いきなりこういうことをするのは、もしかしたら大した冒険かもしれない。
「いきなり不安定……」
「まあまあ」
そろそろと二度目、三度目とブロックを抜いていく。
僕が五回目にブロックを抜こうとしたときだっただろうか。
「なんだか、子供っぽいね」
彼女が言った。意味を計りかねた。
「誰が?」
「どっちも」
「そう?」
と聞き返しながら、そうかもしれない、と思っていた。
「でも、もう子供じゃないよ。すこしはね」
「だからこうして、こんなことしてるのよ」
馬鹿みたいに、と彼女はしっかり付け加えた。僕はちょっとむっとしながら、顔はなんとなく、次はどこのブロックを抜いてやろうかという表情のままだった。
「しょうがないよ」
「なにが?」
僕の台詞は大層お気に召さなかったらしく、明らかに苛立った声で彼女は言った。それでも、通りすがりの人が聞いたらわからない程度の感情の起伏なのは、もう、彼女の癖みたいなものだ。
「こうしてここまで来たんだよ、だって。それを悔いても仕方がないだろ?」
「悔いてるとか、そういうわけじゃないわ」
「じゃあ、なに?」
「ただ……自分が馬鹿みたいに思えただけ」
「別にそんなことないと思うし……それでもいいよ。僕も負けないくらい馬鹿だってこと、わかってくれてればそれでいいよ。それにそもそも、君は僕を許さなくていいんだ。許しちゃいけないくらいだ」
「そんな風に言わなくても、いい」
「言わせてよ、これくらい。僕が馬鹿だったんだ、不注意すぎた」
「いいの、わたしの方こそ、ごめんなさい」
そのやりとりは、なんだか前にもあった気がした。そっとジェンガに手をかけながらそんなことを考える。
「あっ」
そうだ、昨日こんな話したばっかじゃないか。
「あっ」
がらがら、がしゃしゃん。間抜けなことに、手をかけていたのを忘れて動いてしまった。
「あちゃあ……」
「……フフっ」
「なんだよ……笑わないでくれる?」
と言いながらも、自分でもばかばかしすぎて笑ってしまう。彼女は今やにこにこしていた。外にでる必要はなさそうに思える笑顔。
「もう、なんだよ」
「フフっ……シンジ、子供みたい」
「っとにもう…………なんだかなあ、ほんとにバカバカしいよ」
でも、たまにはそれもいいかもしれない。僕らはどうにも真面目に、まっとうにやりすぎる。
「仲直りしよう」
「うん」
「ジェンガ崩してこんなこと言うの、ヘンな話だけど」
「うん」
「あと、ちゃんとお墓参りにいこう。みんなのぶんの花を買って」
「うん」
かちゃかちゃと、ジェンガを積み直す彼女の手が止まった。
「よかった」
「ん?」
「終わりかも、って思ったから」
「それは……うん。本当にごめん」
「もういいの。今は――」
「今は?」
「眠い」
と言って立ち上がると、僕がよりかかっていたベッドに素早く転がってしまった。
「なんだかなあ……」
僕はのろくさとジェンガを積む。彼女は僕の髪をすこしいじっていたけど、すぐにそれもやんで、ジェンガを積み終えるころにはもう、眠ってしまっていた。
「早っ」
わざとらしく呟いた拍子に、肘にジェンガをぶつけてしまった。ががしゃしゃ、ぼろん。
まったく、なんだかなあ。ほんとにバカだなあ、俺。
【タイトル】Re: ジェンガ
【記事番号】-2147481531 (-2147481532)
【 日時 】06/09/25 00:15
【 発言者 】のの
掲示板にはあんなこと言っておきながらショートショート投下。
お前なんなんだと、石を投げないでーっ。
なんとなく、ジェンガで仲直りっていうのを書きたかったです。
特別かっこいい言い回しがあるわけじゃないと思うけど、でもなんか、
こういうのを思いつけるうちは引退だとか言わなくていい気もした(爆)
【タイトル】Re: ジェンガ
【記事番号】-2147481530 (-2147481532)
【 日時 】06/09/25 01:41
【 発言者 】tama
お久しぶりです。
>引退宣言
どんなかたちで好きでいるかはいろんなかたちがあると思うのでサイトにしろ、綾波レイというキャラにしろののさんが一番いいかかわりかたのかたちでありつづければいいと思います。無理せずマイペースが一番ですよ。
tambさんはここはありますといっているわけですから、新作も気長に望みつつ、過去のののさん作品でちゃんと萌えてがんばりますよ、私は!
>ジェンガ
・・・タイトルをみて、思い出したのがフォークダンスの方であわてました。深夜にカップルが仲直りのジェンカで、右右・・・とかってすごいなっていうか、じゃんけんが一回しか出来ないから列がながくならないじゃん!とかよくわからない想像に・・・!
作品は全然ちがう素敵な作品でした。
こういう大人というかなんというか、落ち着く空気がいいですね。このかたひじをはらなくていい二人の関係はみてて幸せなきもちになります。
色違いパジャマで自分の頭のなかに画像がうかんだんですが、たぶんそこらへんが私がいまもLRSから離れられない病気にかかっている証拠のような気がして・・・ええ!
【タイトル】Re: ジェンガ
【記事番号】-2147481529 (-2147481532)
【 日時 】06/09/25 01:48
【 発言者 】aba-m.a-kkv
ののさんテイストに酔いますね。
いつもながら何とも素晴らしい。
ジェンガが散らばった小さな部屋の一コマに、
ジェンガのように積み重なった不安が瓦解して安心したレイの寝顔と、
同じように安心感を浮かべながら呆れた表情で呟くシンジの姿が映りこんでくる気がします。
どんなことがあったかなんていうのは、ジェンガが崩れた今は過ぎ去ったもので描かれなくていいのかもしれません。
温かく淡い陽気が伝わってくるような中で、良い感じに浸らせてもらいました。
のの兄さんの中にエヴァの二人が浮かぶだけ、私はこれからも書いていって欲しいです。
ゆったりゆっくり、サードインパクトで人類が溶けるまで(笑)
次回作も楽しみにしています。
【タイトル】Re: ジェンガ
【記事番号】-2147481520 (-2147481532)
【 日時 】06/09/25 20:32
【 発言者 】のの
コメントアリガットさんでーーーーーす!
■tamaさん
活動休止宣言にしようかな、いやそれともいっそハンドル変えてしまうとか…なんて、引退ニアラズ路線も
具体的に考えてしまいました、昨夜は。
ちなみにパジャマではないおですが、そういう補完作業ができるうちは暫くその病は治らないでしょう(笑)
■aba-m.a-kkvさん
毎度コメントありがとーございますっm(__)m
不安が積み上がるという発想はなかったけど、考えてみればそうですね。
この話のミソはですね、最初に「外に出ないなんてもったいない」と言ってるんだけど、レイが
にこにこしちゃったもんで、それが太陽みたいだから出なくていいやって思っちゃう、バカっぽ
いほのぼの感がカナメになっておりますです。
どうにもこの程度で形にするには淡々とした色合いでないとおさまらないんですけど、なんとい
うか、微笑ましいカップルっぽくできたかな、とは思います。はい。
この話は、彼女と喧嘩した友達が、仲直りのために金太郎飴を買って「どこを切り取ったって幸せ」
って言ってみせようとした話を聞いて、バカバカしくってしょーうもないけど、でもそういう雰囲気
って大切なとこもあるなーと思ったので、ジェンガ組んで崩して笑って、バカみたいって言いなが
ら未来志向、という話を思いつきました。
ちなみにその友人は金太郎飴が買えず、なるとを渡すという暴挙に出たのであった(爆)
【タイトル】Re: ジェンガ
【記事番号】-2147481514 (-2147481532)
【 日時 】06/09/29 19:06
【 発言者 】tamb <tamb○cube-web.net>
> 「あと、ちゃんとお墓参りにいこう。みんなのぶんの花を買って」
この辺が気になる。
> 色違いパジャマで
それは私の領分だな(爆)。
mailto:tamb○cube-web.net
【タイトル】Re: ジェンガ
【記事番号】-2147481509 (-2147481532)
【 日時 】06/10/01 23:55
【 発言者 】なお。
一応の和解をしていてもどこかぎこちないままで、手ぶらではジンジに会いに行けずわざわざ
デパートのおもちゃ売り場でジェンガを買ったレイの気持ちは複雑すぎて想像するになかなか難
しい。仲直りに使えそうな小道具を買いにいったと思えば冷静なんだろうと思えるけど、普段し
なかったことを突然行動として起したのはちょっと挙動不信的なところもある。結果的に買った
ジェンガは仲直りの道具にはなったんだけど、計算尽くで買ったものとはやはり思えない。こん
な一見不自然な行動こそ、実はとても人間臭い行動だと私は思う。
そして、そのときの様子をちゃんと説明できているのはレイっぽくも、いつもより不自然に饒
舌だったとかそんな雰囲気を想像させる。こういった描写はもちろんどこにもないんだけど、そ
れだけ二人の間によそよそしい感じが出ているんだと思う。
> でも、たまにはそれもいいかもしれない。僕らはどうにも真面目に、まっとうにやりすぎる。
シンジが起した問題も実はそれほど深刻なものではなかったのかな? わからなくはないけど
状況を考えるとちょっと開き直りぎみ(笑)
【タイトル】Re: ジェンガ
【記事番号】-2147481508 (-2147481532)
【 日時 】06/10/02 01:15
【 発言者 】のの
まさに、開き直っちゃうような軽いノリも、たまにはいいじゃんっていう話です(笑)
「一応仲直りをして、その次の日に会おうって話になった」というシチュなので、もういいじゃんって言いきれない真面目な二人。
でもいいじゃんべつにもう、っていうノリも、たまにはいいんじゃない?
そう思うのです。
多分に自戒込みです(爆)