「綾波レイの幸せ」掲示板 四人目/小説を語る掲示板・ネタバレあり注意
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おそらくは、世界一退屈なバレンタインデー
投稿日
: 2009/05/31 00:00
投稿者
:
クロミツ
参照先
:
【タイトル】おそらくは、世界一退屈なバレンタインデー
【記事番号】-2147481312 (2147483647)
【 日時 】07/02/15 10:20
【 発言者 】クロミツ
バレンタインを明日に控え、世間はチョコレートを売りつけるのに忙しい。俺がいまバイトしているコンビニも
便乗商品をずらりと前面に並べているが、売れ行きはすこぶる悪い。常々思うが、コンビニのチョコで済まされる
ヤツってどんな関係なんだろう?ま、義理だろうな。中途半端に包装が凝ってるぶん、本命と勘違いして喜ぶヤツ
はいるだろうが、ある意味、貰わないより憐れだ。
しかしこないねぇ、客が。昔、近所のマンモス団地を当て込んでマンションの近場に作ったらしいが、その団地
の取り壊しが決定されてから人が来なくなり、いまじゃ閑古鳥が一番のお得意さまってな感じだ。当然バイトの数
も少なく、5時開始の夕方シフトに俺ひとりだけ、それでも暇なんだからこの店も長くないな。
もっとも、本来の時間割通りならもうひとり居たんだがそいつ、7時になっても来やしねえ。ちゃらんぽらんな
ヤツだしもう慣れっこになってしまったが、とりあえず店長に告げ口だけしておこう。
コンビニの自動ドアがグワァッと開き、効きすぎの冷房に生ぬるい夜風が混じった。退屈しのぎに携帯の動画を
観ていた俺は、顔を向けないでモゴモゴと挨拶した。
「っしゃいませえ・・・。」
入ってきたのは、この辺じゃ割りとお目にかかる中学の制服を着た女だった。めったに見ない水色の髪。更に
ありえねぇ真っ赤な目。夏からこの店でバイトを始めた俺も、何度かこのコンビニで顔を合わせていた。半月に
一、二回程度だから、常連ってほどでもない。俺のシフト以外にもっと来ているのかもしれんが。
中坊のくせに妙に大人びた、近寄りがたい雰囲気を持っていた。顔はまあ整っているが、笑顔どころか表情らし
い表情を浮かべたことがない。いつも店へ入るとすぐ直角に曲がり、雑誌には目もくれず、ペットボトルの水と、
何かしら弁当を買っていく。一歩店に入ってからレジに来るまで30秒くらいか。毎回、ビデオを再生するように
ほぼ同じ動作で動くので、最初アンドロイドか何かと思ってた。
だが、今日は違った。雑誌のコーナーでじっと立ち止まり、おもむろに雑誌を手に取る。たしかあの辺は女性誌
とか置いてたっけ。
女はあるページを開いたままじっと見入ってる。珍しい、いや、初めてだ。ずいぶん熱心に読んでいるようだっ
たがやがて本を戻すと、今度はバレンタインチョコの前でうろうろ迷っていた。これも驚きだ。
店に入って10分以上という新記録を達成した後、レジに持ってきた。
「・・・義理チョコかい?」
初めて声を掛けたが、相手は無言でカードを差し出した。持ち主の目と同じくらい真っ赤な色。どこのキャッシュ
カードだっけか?
「ひょっとして、本命とか?」
まったく無反応だ。おい、耳ついてないのか?
「何が言いたいの?」
俺がムッとしてるのを知ってか知らずか、平然と視線を返してきた。しかも俺をオレとして見てないというか、
妙なたとえだが自分が壁とか電柱のような気がした。
「・・・ゃ・・・別になんかあるわけじゃねえけど・・・。」
「そう。」
感情のかけらもないその一言で会話終了かよ。俺は商品をガサリとビニール袋につめ、つっけどんに渡した。
女は相変わらず無表情で会釈もせず、幽霊みたいにスウッと店から出て行った。チッ、イケ好かねえガキだ。
あいつが帰ってから一人も客がこない。レジに居ても仕方ないので休憩室へひっこんで、タバコに火を点けた。
時計に目をやったがまだ8時にもなってない。これから12時までやり過ごす時間の無意味さにうんざりしつつ、
他にワリのいいバイトねえかなぁと思う。親を説き伏せて都会の大学に入ったはいいが、仕送りだけじゃ遊ぶ銭
が足りやしねえ。今日サボったアイツも、いまごろ合コンに行ってんだろな、ムカつく。
****
翌日の夕方シフトはまた俺ひとりだった。相方は『わりい、デート入れてたのすっかり忘れてた』とかなんとか
言い訳しつつ、今日もバックレやがった。おおかた昨日キープしたんだろうが、俺が今日予定無かったことに感謝
しろよ。言っとくが予定のない日がたまたまバレンタインデーなだけだから、そこ勘違いすんなよ。
昼シフトのおばはんが帰って少ししてから、例のあの女が来やがった。しかもビックリ、男連れだぜ。二人とも
同じ中学の制服着ているから一目で分かる。おいおい、あいつも昨日のチョコでゲットした口か?
野菜がはみ出たビニール袋を男の方が持っているところを見ると、ていのいいパシリだな、あいつ。軟弱そうな
外見で気も小さそうだし、どう見ても隣の女とつり合わねえ。おまけにさっきから男の方が女に色々話しかけてる。
中坊、気を引こうと必死なんだろうな。貰ったのがウチで買ったチョコだと知らねえでよ、滑稽を通り越して憐れ
に思えるぜ。
そのボウズがレジ袋片手に買い物カゴを持ってきた。紙コップやらお茶やらフォークやら、弁当は入ってない。
「綾波、あと必要なもの、ある?」
「大丈夫・・・これで充分。」
俺がバーコード通してる間も二人は喋ってた。へぇ、綾波って名前か・・・けどなんかいつもと、感じが違うな。
少しして気付いた。俺が話しかけたときと違い、造り物のように硬かった顔が微妙に揺れ、わずかに表情を作って
いる。特に、隣の男に注ぐ視線が人間を相手にしてるっていうか、昨日の無感動な目とまるで違う。
くそっ、つまり俺はこのボウズ以下ってことかよ。
「なあキミ、ひょっとして彼女にチョコもらったのかい?」
精算を済ませてレジ袋を掴んだ中坊に、耳打ちするマネをして話しかけた。
「は、はあ?・・・あの~、どうしてそれを・・・?」
「知ってるか?そのチョコ、昨日ここで買ってったんだぜ。他の買い物ついでのお義理って感じだったな。」
「・・・・・・え・・・・・・?」
他のものなんて買ってないが、こいつが知るわけない。
「本命相手なら普通、もうちょいマシな所で買わないか?あ、そっちは別の店で調達してんのか。」
表情が目に見えて曇った。分かりやすいヤツだぜ。
「いやスマン。キミが貰ったのって緑のラッピングに青色のリボンじゃないよね?わりぃ、俺の勘違いだわ。
昨日買ってったヤツはたぶん、別の誰かにあげたんだろ。」
「・・・・・・そんな・・・・・・。」
しょぼくれる小僧の様子が面白くて調子にのってたのか、とっくにヒソヒソ声をやめていた。
パシッ!
青色の髪が視界の隅に入ったと思う間もなく、飛んで来た平手をもろに食らった。
「あ、綾波ッ!?」
『コノヤロウッ!』と叫ぼうとしたが、熱と痛みでジンジンする。殴られた頬が半端なく痛い。
「ッツ・・・・!ィテェなこのッッ―――。」
ギッと睨みつけようとすると、物を見るよりもなお冷ややかな、あの赤い目が俺を射抜いていた。
「・・・なっ・・・なにするんだよ、テメエッ!」
「あなたが彼を傷つけたから。」
「なんだとぉ?本当のことを言ったまでじゃねえか。」
「バレンタインデーにバレンタイン用のチョコを買って、何がいけないの?」
「開き直りかよ?安っぽいチョコで済ます程度のダチってわけか。」
思いっきり嘲笑ってやろうとしたが、真っ直ぐ俺をみたときの顔に、うまく口が動かなかった。
「私は、命に代えても彼を守る。」
大声で叫んだわけでも、悲壮感たっぷりに語ったわけでもない。当たり前のことを当たり前に言った
だけみたいな、淡々とした口調。なのになぜか、一言も言い返せなかった。
女はそれっきり、興味を失ったようにすっと視線を外し、店を出て行った。
「綾波!あ・・・あの・・・すみませんでしたっ!」
すっかり存在を忘れていた男の方が勢いよく頭を下げ、出て行った女の後を追っかけた。
店にひとりだけになってやっと、云いようの無いプレッシャーから解放された気分になった。と同時に、
むしょうに腹が立った。
くそっ!!くそっ!!くそっ!!
何が命に代えてだ!テメエに酔ってんじゃねえぞ。ガキが命なんて台詞、軽々しくほざくなよ!!
休憩室に引っ込む際、パイプ椅子を思い切り蹴り飛ばした。あまりムカつくから商品のビールをクーラー
から出し、ぐいっとあおった。どうせ商品の数が合わねえなんていつもだし、飲まなきゃやってらんねぇ。
在庫の中から酒のツマミを物色し、適当に開いた。バイトが終わるまでまだまだ長い。
ちきしょう!今日なんざさっさと終わりやがれ。
*******
【タイトル】Re: おそらくは、世界一退屈なバレンタインデー
【記事番号】-2147481311 (-2147481312)
【 日時 】07/02/15 10:21
【 発言者 】クロミツ
その日以降、あの女をぱったり見なくなった。他のシフトには来てるのかと何気に訊ねてみたが、どうも
来てないらしい。あんなことしたからさすがに気まずく思ったのかどうか。ただ、俺だけ殴られ損ってのが
気に食わない。
そのままバイトを続けてれば或いは顔を合わせたかもしれないが、生憎と俺のキャンバスライフの雲行き
が怪しくなってきた。第三新東京都市に住み始めるまでまったく予想だにしなかったことだが、この街では
何かトンでもないヤツが暴れまわってるのだった。
デカい怪物が街を襲うなんて、最初はなんの冗談かと思った。真面目に言っても正気を疑われるだけだし、
実際、どんなに街がぶっ壊されても絶対ニュースには流れない。だが、住人にとっては公然の秘密だ。一度
だけ俺もこの目で見たことがある。気色悪いバケモノと、それと戦うロボットを。
被害さえ及ばなきゃアニメみたいでカッコいいじゃんと思いもしたが、そうも言ってられなくなった。だ
んだん吹っ飛ばされる建物が広範囲におよび、味方のはずの自衛隊までが容赦なくミサイルをぶっ放す。
マジに生命の危険を感じた俺は、学校が全生徒を疎開させる前に田舎に戻った。
結果的には、俺の判断は正しかった。それからも第三新東京の戦いは激化し、ついに隠しきれなくなった
のか、全世界へ情報が流されたときは既に、あの最終戦に突入していた。
だがその戦いがどんなものだったのかは、俺は良く知らない。重要なのはNERVという組織があのロボットを
使って戦い、人類が勝利したこと。戦いの中心部だった第三新東京以外は、さほど被害がなかったこと、そし
て俺が無事だったことだ。
都会生活にピリオドを打った俺は地元の大学に編入し、生活パターンだけ見ればあの頃と同じことをやって
いる。知合いのおじさんが経営するコンビニで、またバイトを始めた。その店は以前居たところに輪をかけて
客が来ず、店が持ってるのが不思議なくらいだった。従業員は叔父夫婦と俺とあとひとりの計四名。身内のよ
しみで融通は利くが、労働基準法を無視したシフトが俺に廻ってくることが多い。今日も夕方6時から、翌日
の朝7時というシフトだ。ちなみに今日は2月14日。今年もまた、予定のない日がたまたまバレンタインデー
だったってことだけさ。
しかし退屈だ。もう少しで0時だってのに俺が交代してから4人しか客が来やしねえ。一人は立ち読みだけ
して帰ったしな。いくら田舎だからって、この客の来なさかげんは異常だぜ。
亀の散歩よりトロい時間の歩みをちょっとでも紛らわせようと、14インチしかないテレビのスイッチを入れた。
「…次のトピックです。本日2月14日は、昨年の人類存亡を賭けた戦いから数えて初めてのバレンタイン・
デーとなりますが、破滅の危機から世界を救ったパイロットに対し、各地から沢山のチョコレートが送られま
した。」
ボロいスピーカーから抑揚の無い男の声が流れてきた。深夜の情報番組らしい。アナウンサーが言ってるの
は言うまでも無く、第三新東京であのロボットを操縦してたヤツである。
あの戦いの後、その功績は政府を通じて全世界に報道され、やれ救世主だのハルマゲドンの勝利者だのマス
コミがこぞって持ち上げてたが、肝心のパイロットについては顔も年齢も、何一つ明かされなかった。
「現在判明しているだけでも、贈られたチョコレートは4tトラックで10台以上にも及び、NERV当局はこれらの
チョコを恵まれない子供のいる施設に寄付する意向を示しております。」
「すご~い!トラック10台以上って、数えたら何個くらいになるんですかねぇ~。」
「そうですねえ。ちょっと把握出来ないですよね。」
ワザとらしい合いの手は、バラエティでもよく出るタレントの声だ。顔はまあまあだが天然系っていうか、
お世辞にもニュース番組のレギュラーが勤まるほど賢そうに見えない。
「わたしチョコ大好きなんですよ、羨ましい~。ところで△△さんはた~くさんチョコを貰えましたかぁ!?
わたし?へへ、いーぱいあげちゃいましたよっ!下手なテッポもなんとやら、てねっ!」
「ほぉ、○○さんにとっては、有意義なバレンタインデーだったんですね。」
ウザいほどタメ口な喋り方はまあ、この女のキャラクターかもしれんが、無駄に律儀な男のアナウンサーの
喋りと根本的に噛みあってない。番組にもミスマッチと思うけどな。
「そうなんです~。実は今回ぃ、すっごい冒険しちゃいました~。」
「ほう、どのような?」
「へへ、どっしよっかなぁ~。ちょっと恥ずかしいけどぉ、カミングアウトしちゃいま~す。」
胸焼けしそうな喋り方だ。自分をアイドルか何かと勘違いしてんじゃねーだろうな。
「実はあたしも、思い切って勇者さまにチョコ渡したんです~。」
「ほぉそうですか。勇者さまというのは、あの・・・」
「そーそー!なんてったって、あたし達がこうして居られるのは、勇者さまのおかげなんですからぁ~。」
いい歳こいて『勇者さま』かよと内心突っ込みを入れる。
「別の番組で突撃レポやったとき、ちょっとムリヤリだったけど、TVに流さないなら会ってもいいってOK
取れたの。なんと本人に、直接渡したんですよ~。すごいでしょ!」
「・・・はぁ・・・。あ、でも、ちょっとマズいのでは・・・?」
微妙な合いの手。今でも『パイロットの人権、個人の自由を尊重』するという名目で、あのロボットの操縦者
の性別さえ不明なのである。それをこのアーパー女、あっさりスッ飛ばしやがった。ま、聞いてて面白れーけど。
「だいじょ~ぶ、喋ったりしませんよぉ~。わたしと彼だけの秘密、なんてねっ。」
「・・・いや・・・その『彼』という時点で、報道規約上ちょっと・・・。」
「あれっ、NGでしたっけ?とっておきの話なのになぁ~。」
直後、モニターが切り替わり、突然CMが流された。生放送なのか?これ。
「・・・・・・はい。では引き続き、○○さんのエピソードなど。」
数分後、番組が再開した。どうやら視聴率を取ったらしい。
「それでね、彼にチョコレートを渡したとき、ズバリ訊いちゃったんですよ、本命居るの?ってね。」
「・・・ほぉ。」
「うふふ~っ、そしたらねぇ~、あのコったら顔まっ赤にして、『え、ええ、一応・・・』って肯いたの。」
おいおい、『あのコ』ってのはアンタより年下ってことだろ?
「でねでねっ!じゃあもう、チョコ貰った?って訊いたら、『はい。今年は手作りのを・・・』ですって!」
「・・・・・・あ、はぁ・・・・・・。」
心底呆れたようなアナウンサーの地の声に、つい吹き出した。
「それがまた可愛いのなんのって!あーアタシ役得役得って、幸せだったわぁ。」
「・・・そうですか。今年のバレンタインデーは皆さん、とても楽しい思いをされてたということですよね。」
無理やり過ぎるまとめだ。苦労してるねぇ、アンタも。
そういえばまだ第三新東京にいた頃、聞いたことがあった。あのロボットを操縦してるのは、実は子供だって
噂。以前一緒にバイトしてたサボリ魔のツレのツレの弟が中学生で、同じ学校にパイロットが通ってたらしい。
いろんな意味でちゃらんぽらんなヤツの話だから半分以下にも聞いてなかったが、あんがいホントかもしれん。
ふと、あの女を思い出した。そういやアイツ、どっか普通じゃなかったな。浮世離れしてるつーか、人間らしい
顔を見せたのは後にも先にもあれっきりだし、『命に代えても』なんてあんなガキが言う言葉じゃねえな。本当に
あいつ、死んだんかな?いけ好かねぇ女だったが、見てくれは良かったから、ちょっと惜しい気はする。
なんて考えてたら去年殴られたことまで思い出し、ムカッ腹がぶりかえしてきた。けっ、知ったことか。いまの
テレビで男って分かったんだし、そりゃねえわな。大体、勇者だか救世主だか知らえねが、そいつがしっかり守れ
なかったからオレの都会生活がパァになったんだ。終わりよけりゃ街の一つや二つ、すっ飛ばしてもノープロブレム
なんかよ、勇者さまは。
テレビのスイッチを消して、店のほうへと顔を出した。相変わらず客はいない。フロアの一角を陣取るバレンタ
インのコーナーに向かい、ほとんど減ってないチョコレートに手を伸ばした。ま、かまうもんか。どうせあと数分で
バレンタインデーも終りだし、そしたらこのチョコみんな、一挙にお役ご免だ。
ナリだけは上品な包装を解いて、値段の割りに少ししか入ってないチョコを一粒、口に放り込んだ。
「なーんだ・・・フツーにうめぇじゃん。」
そりゃそうだよな、いつも売ってるチョコの数倍の値段付けしてんだ。マズかったら詐欺だぜ。
チョコ貰ったあのガキも、ウマいって思いながら食べたんかな。所詮チョコなんて高いのも安いのも、たいして
変わんねえや。あいつはまだ、生きてるかな?なんか軟弱そうだったし、ひょっとして自分ひとりトンズラしたん
じゃねーだろな?だとしたら最低だな。もし抜け抜けと顔出したりしやがったら、ボロクソいじめてやろーか?
『おいテメェ、おんなタテにしてまーだ生き伸びてんのかよ?』とかなんとか言ってちっとばかし睨みきかしゃあ、
心底ビビるだろうぜ、あの小僧。
まてよ、あの女がコンビニに現れなくなったのは、オレよか先にどっかへ引っ越したのかもしれないな。えらそうに
啖呵切っといて、万が一俺の目の前に現れてみろ、腹の底から笑ってやる。身の程しらずに説教垂れやがって、いい
気味だぜ、クソガキ。
「・・・・・・なーんてな・・・・・・来るわきゃねえかぁ・・・・・・。」
黙ったまま開かない自動ドアから目をそらし、タバコを灰皿に押し付けた。壁掛けの時計の長針が12時を廻り、
日付がもはや、2月15日に変わったことを告げた。
今年も、チョコを貰えなかった。
【タイトル】Re: おそらくは、世界一退屈なバレンタインデー
【記事番号】-2147481310 (-2147481312)
【 日時 】07/02/15 10:23
【 発言者 】クロミツ
…というバレンタインネタでした。
15日に投下ししたのは予定通りでしたが、話に合わせて0時に書き込むつもりが寝てしまった……orz
【タイトル】Re: おそらくは、世界一退屈なバレンタインデー
【記事番号】-2147481307 (-2147481312)
【 日時 】07/02/17 12:45
【 発言者 】あいだ
なんか新鮮です。
コレが第一印象ですね。
第三者視点での話というのは他にもあるんだろうけど、文体のこなれ方などから、至極上質なSSに出会えたと感じました。
前半パートと後半パートで時期が異なる事をうまく使っている気がします。
一本のSS中でこういう時期の切り替わりを表現するのは難しい気がします。
気になった点。
つっけどん。私の中ではつっけんどん、なんだけど、調べてみると、つっけどん、という表現方法もあるらしい。
でも何となく違和感。
ほぼ完璧に徹底して、特定して彼らを表す言葉を使っていないのに、一言だけシンジに「綾波」と言わせているところ。
これはコレでこの一言だけだからこそ効果的と言えなくはないし、逆にあのシーンで綾波の名前を呼ばないシンジというのも考えにくいのだけど、なんとなく気になるかな。
せっかくなら全てのシーンにおいて彼らを表さない、という方法も良かったかなー、なんて思ったり。
戯言ですので気にしないで下さいね。
ひとこというなら、おお。と唸ってしまうぐらい楽しみました。
【タイトル】Re: おそらくは、世界一退屈なバレンタインデー
【記事番号】-2147481306 (-2147481312)
【 日時 】07/02/17 14:50
【 発言者 】tamb <tamb○cube-web.net>
なんかちゃんとした話だな。もっとネタっぽい話かなと思った。投下された日は、時間
もなかったし数行読んでスクロールして、なげぇな、と思って後回しにしたんだけど(爆)。
シンジとレイが部屋に帰ってからの会話が気になりますね。「俺」の「安っぽいチョコ
で済ます程度のダチってわけか。」っていうセリフが、一年間レイの心の中に残ってたと
したら、かなり萌えるわけだが(笑)。
mailto:tamb○cube-web.net
【タイトル】Re: おそらくは、世界一退屈なバレンタインデー
【記事番号】-2147481288 (-2147481312)
【 日時 】07/03/02 03:51
【 発言者 】クロミツ
■ あいださん
>つっけどん。私の中ではつっけんどん、なんだけど、調べてみると、つっけどん、という表現方法もあるらしい。
>でも何となく違和感。
>
……あー。ごめんなさい、ただの入力ミスです……orz。私も普通はつっけんどんなんだけど。
ネタを思いついてからバレンタインまであまり時間がなかったので、後で見直すとかなり推敲漏れがあります。
>ほぼ完璧に徹底して、特定して彼らを表す言葉を使っていないのに、一言だけシンジに「綾波」と言わせているところ。
>
お察しの通り、最初は二人を特定する名前を出さないでおこうと思ってました。
ただ、あのシーンでシンジが何を言うか考えたんですけど、やっぱり「綾波」しか思いつかなかったんですよね。
けっきょく、一回書けば同じかと思って何箇所か綾波と入れました。
お褒めくださりありがとうございます。楽しんでいただいて何よりです。
■ tambさん
> シンジとレイが部屋に帰ってからの会話が気になりますね。「俺」の「安っぽいチョコ
>で済ます程度のダチってわけか。」っていうセリフが、一年間レイの心の中に残ってたと
>したら、かなり萌えるわけだが(笑)。
>
それもあって翌年は手作りにしたという設定ですが、まあ、本文中だと分かりにくいですよね。
レイ、またはシンジ視点の話もあったほうがいいのかな。
【タイトル】Re: おそらくは、世界一退屈なバレンタインデー
【記事番号】-2147481223 (-2147481312)
【 日時 】07/04/28 20:54
【 発言者 】tama
時期はずれのコメントですみません;
あえて最後までシンジたちと「俺」が第3者同士なところが大人だなぁと思いましたし、巧いなと感じました。
こういう話を作ると、つい「あっ、あのときの!」みたいなオチをつけたくなりませんか?
それなしで、いい立ち居地で話を締められるのがすごいです。
・・・それにしてもレイ、いきなり平手はすごいぞ!
いろんな意味であぶないからやめようね!って老婆心的な心配を(爆
【タイトル】Re: おそらくは、世界一退屈なバレンタインデー
【記事番号】-2147481209 (-2147481312)
【 日時 】07/06/04 03:54
【 発言者 】クロミツ
>tamaさん
レスありがとうございます。こちらも時期はずれの返信ですみません。
>こういう話を作ると、つい「あっ、あのときの!」みたいなオチをつけたくなりませんか?
>
今回の話は、作中の主人公は最後まで正体がわからないけど呼んでる人には分かる、といった
書き方を狙ってました。第三新東京で暮らしている人の認識って、意外とこんな程度じゃないか
なかろうか、と思います。
>・・・それにしてもレイ、いきなり平手はすごいぞ!
>
アニメではいきなりシンジにビンタしてましたしね。(笑
自分も実はアニメのあのシーンは違和感あるというか、そんなアグレッシブな娘だったっけ?
と思いました。コミック版の優越感を含んだ冷ややかな視線を送るほうがイメージに合ってる。
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WEB PATIO
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【記事番号】-2147481312 (2147483647)
【 日時 】07/02/15 10:20
【 発言者 】クロミツ
バレンタインを明日に控え、世間はチョコレートを売りつけるのに忙しい。俺がいまバイトしているコンビニも
便乗商品をずらりと前面に並べているが、売れ行きはすこぶる悪い。常々思うが、コンビニのチョコで済まされる
ヤツってどんな関係なんだろう?ま、義理だろうな。中途半端に包装が凝ってるぶん、本命と勘違いして喜ぶヤツ
はいるだろうが、ある意味、貰わないより憐れだ。
しかしこないねぇ、客が。昔、近所のマンモス団地を当て込んでマンションの近場に作ったらしいが、その団地
の取り壊しが決定されてから人が来なくなり、いまじゃ閑古鳥が一番のお得意さまってな感じだ。当然バイトの数
も少なく、5時開始の夕方シフトに俺ひとりだけ、それでも暇なんだからこの店も長くないな。
もっとも、本来の時間割通りならもうひとり居たんだがそいつ、7時になっても来やしねえ。ちゃらんぽらんな
ヤツだしもう慣れっこになってしまったが、とりあえず店長に告げ口だけしておこう。
コンビニの自動ドアがグワァッと開き、効きすぎの冷房に生ぬるい夜風が混じった。退屈しのぎに携帯の動画を
観ていた俺は、顔を向けないでモゴモゴと挨拶した。
「っしゃいませえ・・・。」
入ってきたのは、この辺じゃ割りとお目にかかる中学の制服を着た女だった。めったに見ない水色の髪。更に
ありえねぇ真っ赤な目。夏からこの店でバイトを始めた俺も、何度かこのコンビニで顔を合わせていた。半月に
一、二回程度だから、常連ってほどでもない。俺のシフト以外にもっと来ているのかもしれんが。
中坊のくせに妙に大人びた、近寄りがたい雰囲気を持っていた。顔はまあ整っているが、笑顔どころか表情らし
い表情を浮かべたことがない。いつも店へ入るとすぐ直角に曲がり、雑誌には目もくれず、ペットボトルの水と、
何かしら弁当を買っていく。一歩店に入ってからレジに来るまで30秒くらいか。毎回、ビデオを再生するように
ほぼ同じ動作で動くので、最初アンドロイドか何かと思ってた。
だが、今日は違った。雑誌のコーナーでじっと立ち止まり、おもむろに雑誌を手に取る。たしかあの辺は女性誌
とか置いてたっけ。
女はあるページを開いたままじっと見入ってる。珍しい、いや、初めてだ。ずいぶん熱心に読んでいるようだっ
たがやがて本を戻すと、今度はバレンタインチョコの前でうろうろ迷っていた。これも驚きだ。
店に入って10分以上という新記録を達成した後、レジに持ってきた。
「・・・義理チョコかい?」
初めて声を掛けたが、相手は無言でカードを差し出した。持ち主の目と同じくらい真っ赤な色。どこのキャッシュ
カードだっけか?
「ひょっとして、本命とか?」
まったく無反応だ。おい、耳ついてないのか?
「何が言いたいの?」
俺がムッとしてるのを知ってか知らずか、平然と視線を返してきた。しかも俺をオレとして見てないというか、
妙なたとえだが自分が壁とか電柱のような気がした。
「・・・ゃ・・・別になんかあるわけじゃねえけど・・・。」
「そう。」
感情のかけらもないその一言で会話終了かよ。俺は商品をガサリとビニール袋につめ、つっけどんに渡した。
女は相変わらず無表情で会釈もせず、幽霊みたいにスウッと店から出て行った。チッ、イケ好かねえガキだ。
あいつが帰ってから一人も客がこない。レジに居ても仕方ないので休憩室へひっこんで、タバコに火を点けた。
時計に目をやったがまだ8時にもなってない。これから12時までやり過ごす時間の無意味さにうんざりしつつ、
他にワリのいいバイトねえかなぁと思う。親を説き伏せて都会の大学に入ったはいいが、仕送りだけじゃ遊ぶ銭
が足りやしねえ。今日サボったアイツも、いまごろ合コンに行ってんだろな、ムカつく。
****
翌日の夕方シフトはまた俺ひとりだった。相方は『わりい、デート入れてたのすっかり忘れてた』とかなんとか
言い訳しつつ、今日もバックレやがった。おおかた昨日キープしたんだろうが、俺が今日予定無かったことに感謝
しろよ。言っとくが予定のない日がたまたまバレンタインデーなだけだから、そこ勘違いすんなよ。
昼シフトのおばはんが帰って少ししてから、例のあの女が来やがった。しかもビックリ、男連れだぜ。二人とも
同じ中学の制服着ているから一目で分かる。おいおい、あいつも昨日のチョコでゲットした口か?
野菜がはみ出たビニール袋を男の方が持っているところを見ると、ていのいいパシリだな、あいつ。軟弱そうな
外見で気も小さそうだし、どう見ても隣の女とつり合わねえ。おまけにさっきから男の方が女に色々話しかけてる。
中坊、気を引こうと必死なんだろうな。貰ったのがウチで買ったチョコだと知らねえでよ、滑稽を通り越して憐れ
に思えるぜ。
そのボウズがレジ袋片手に買い物カゴを持ってきた。紙コップやらお茶やらフォークやら、弁当は入ってない。
「綾波、あと必要なもの、ある?」
「大丈夫・・・これで充分。」
俺がバーコード通してる間も二人は喋ってた。へぇ、綾波って名前か・・・けどなんかいつもと、感じが違うな。
少しして気付いた。俺が話しかけたときと違い、造り物のように硬かった顔が微妙に揺れ、わずかに表情を作って
いる。特に、隣の男に注ぐ視線が人間を相手にしてるっていうか、昨日の無感動な目とまるで違う。
くそっ、つまり俺はこのボウズ以下ってことかよ。
「なあキミ、ひょっとして彼女にチョコもらったのかい?」
精算を済ませてレジ袋を掴んだ中坊に、耳打ちするマネをして話しかけた。
「は、はあ?・・・あの~、どうしてそれを・・・?」
「知ってるか?そのチョコ、昨日ここで買ってったんだぜ。他の買い物ついでのお義理って感じだったな。」
「・・・・・・え・・・・・・?」
他のものなんて買ってないが、こいつが知るわけない。
「本命相手なら普通、もうちょいマシな所で買わないか?あ、そっちは別の店で調達してんのか。」
表情が目に見えて曇った。分かりやすいヤツだぜ。
「いやスマン。キミが貰ったのって緑のラッピングに青色のリボンじゃないよね?わりぃ、俺の勘違いだわ。
昨日買ってったヤツはたぶん、別の誰かにあげたんだろ。」
「・・・・・・そんな・・・・・・。」
しょぼくれる小僧の様子が面白くて調子にのってたのか、とっくにヒソヒソ声をやめていた。
パシッ!
青色の髪が視界の隅に入ったと思う間もなく、飛んで来た平手をもろに食らった。
「あ、綾波ッ!?」
『コノヤロウッ!』と叫ぼうとしたが、熱と痛みでジンジンする。殴られた頬が半端なく痛い。
「ッツ・・・・!ィテェなこのッッ―――。」
ギッと睨みつけようとすると、物を見るよりもなお冷ややかな、あの赤い目が俺を射抜いていた。
「・・・なっ・・・なにするんだよ、テメエッ!」
「あなたが彼を傷つけたから。」
「なんだとぉ?本当のことを言ったまでじゃねえか。」
「バレンタインデーにバレンタイン用のチョコを買って、何がいけないの?」
「開き直りかよ?安っぽいチョコで済ます程度のダチってわけか。」
思いっきり嘲笑ってやろうとしたが、真っ直ぐ俺をみたときの顔に、うまく口が動かなかった。
「私は、命に代えても彼を守る。」
大声で叫んだわけでも、悲壮感たっぷりに語ったわけでもない。当たり前のことを当たり前に言った
だけみたいな、淡々とした口調。なのになぜか、一言も言い返せなかった。
女はそれっきり、興味を失ったようにすっと視線を外し、店を出て行った。
「綾波!あ・・・あの・・・すみませんでしたっ!」
すっかり存在を忘れていた男の方が勢いよく頭を下げ、出て行った女の後を追っかけた。
店にひとりだけになってやっと、云いようの無いプレッシャーから解放された気分になった。と同時に、
むしょうに腹が立った。
くそっ!!くそっ!!くそっ!!
何が命に代えてだ!テメエに酔ってんじゃねえぞ。ガキが命なんて台詞、軽々しくほざくなよ!!
休憩室に引っ込む際、パイプ椅子を思い切り蹴り飛ばした。あまりムカつくから商品のビールをクーラー
から出し、ぐいっとあおった。どうせ商品の数が合わねえなんていつもだし、飲まなきゃやってらんねぇ。
在庫の中から酒のツマミを物色し、適当に開いた。バイトが終わるまでまだまだ長い。
ちきしょう!今日なんざさっさと終わりやがれ。
*******
【タイトル】Re: おそらくは、世界一退屈なバレンタインデー
【記事番号】-2147481311 (-2147481312)
【 日時 】07/02/15 10:21
【 発言者 】クロミツ
その日以降、あの女をぱったり見なくなった。他のシフトには来てるのかと何気に訊ねてみたが、どうも
来てないらしい。あんなことしたからさすがに気まずく思ったのかどうか。ただ、俺だけ殴られ損ってのが
気に食わない。
そのままバイトを続けてれば或いは顔を合わせたかもしれないが、生憎と俺のキャンバスライフの雲行き
が怪しくなってきた。第三新東京都市に住み始めるまでまったく予想だにしなかったことだが、この街では
何かトンでもないヤツが暴れまわってるのだった。
デカい怪物が街を襲うなんて、最初はなんの冗談かと思った。真面目に言っても正気を疑われるだけだし、
実際、どんなに街がぶっ壊されても絶対ニュースには流れない。だが、住人にとっては公然の秘密だ。一度
だけ俺もこの目で見たことがある。気色悪いバケモノと、それと戦うロボットを。
被害さえ及ばなきゃアニメみたいでカッコいいじゃんと思いもしたが、そうも言ってられなくなった。だ
んだん吹っ飛ばされる建物が広範囲におよび、味方のはずの自衛隊までが容赦なくミサイルをぶっ放す。
マジに生命の危険を感じた俺は、学校が全生徒を疎開させる前に田舎に戻った。
結果的には、俺の判断は正しかった。それからも第三新東京の戦いは激化し、ついに隠しきれなくなった
のか、全世界へ情報が流されたときは既に、あの最終戦に突入していた。
だがその戦いがどんなものだったのかは、俺は良く知らない。重要なのはNERVという組織があのロボットを
使って戦い、人類が勝利したこと。戦いの中心部だった第三新東京以外は、さほど被害がなかったこと、そし
て俺が無事だったことだ。
都会生活にピリオドを打った俺は地元の大学に編入し、生活パターンだけ見ればあの頃と同じことをやって
いる。知合いのおじさんが経営するコンビニで、またバイトを始めた。その店は以前居たところに輪をかけて
客が来ず、店が持ってるのが不思議なくらいだった。従業員は叔父夫婦と俺とあとひとりの計四名。身内のよ
しみで融通は利くが、労働基準法を無視したシフトが俺に廻ってくることが多い。今日も夕方6時から、翌日
の朝7時というシフトだ。ちなみに今日は2月14日。今年もまた、予定のない日がたまたまバレンタインデー
だったってことだけさ。
しかし退屈だ。もう少しで0時だってのに俺が交代してから4人しか客が来やしねえ。一人は立ち読みだけ
して帰ったしな。いくら田舎だからって、この客の来なさかげんは異常だぜ。
亀の散歩よりトロい時間の歩みをちょっとでも紛らわせようと、14インチしかないテレビのスイッチを入れた。
「…次のトピックです。本日2月14日は、昨年の人類存亡を賭けた戦いから数えて初めてのバレンタイン・
デーとなりますが、破滅の危機から世界を救ったパイロットに対し、各地から沢山のチョコレートが送られま
した。」
ボロいスピーカーから抑揚の無い男の声が流れてきた。深夜の情報番組らしい。アナウンサーが言ってるの
は言うまでも無く、第三新東京であのロボットを操縦してたヤツである。
あの戦いの後、その功績は政府を通じて全世界に報道され、やれ救世主だのハルマゲドンの勝利者だのマス
コミがこぞって持ち上げてたが、肝心のパイロットについては顔も年齢も、何一つ明かされなかった。
「現在判明しているだけでも、贈られたチョコレートは4tトラックで10台以上にも及び、NERV当局はこれらの
チョコを恵まれない子供のいる施設に寄付する意向を示しております。」
「すご~い!トラック10台以上って、数えたら何個くらいになるんですかねぇ~。」
「そうですねえ。ちょっと把握出来ないですよね。」
ワザとらしい合いの手は、バラエティでもよく出るタレントの声だ。顔はまあまあだが天然系っていうか、
お世辞にもニュース番組のレギュラーが勤まるほど賢そうに見えない。
「わたしチョコ大好きなんですよ、羨ましい~。ところで△△さんはた~くさんチョコを貰えましたかぁ!?
わたし?へへ、いーぱいあげちゃいましたよっ!下手なテッポもなんとやら、てねっ!」
「ほぉ、○○さんにとっては、有意義なバレンタインデーだったんですね。」
ウザいほどタメ口な喋り方はまあ、この女のキャラクターかもしれんが、無駄に律儀な男のアナウンサーの
喋りと根本的に噛みあってない。番組にもミスマッチと思うけどな。
「そうなんです~。実は今回ぃ、すっごい冒険しちゃいました~。」
「ほう、どのような?」
「へへ、どっしよっかなぁ~。ちょっと恥ずかしいけどぉ、カミングアウトしちゃいま~す。」
胸焼けしそうな喋り方だ。自分をアイドルか何かと勘違いしてんじゃねーだろうな。
「実はあたしも、思い切って勇者さまにチョコ渡したんです~。」
「ほぉそうですか。勇者さまというのは、あの・・・」
「そーそー!なんてったって、あたし達がこうして居られるのは、勇者さまのおかげなんですからぁ~。」
いい歳こいて『勇者さま』かよと内心突っ込みを入れる。
「別の番組で突撃レポやったとき、ちょっとムリヤリだったけど、TVに流さないなら会ってもいいってOK
取れたの。なんと本人に、直接渡したんですよ~。すごいでしょ!」
「・・・はぁ・・・。あ、でも、ちょっとマズいのでは・・・?」
微妙な合いの手。今でも『パイロットの人権、個人の自由を尊重』するという名目で、あのロボットの操縦者
の性別さえ不明なのである。それをこのアーパー女、あっさりスッ飛ばしやがった。ま、聞いてて面白れーけど。
「だいじょ~ぶ、喋ったりしませんよぉ~。わたしと彼だけの秘密、なんてねっ。」
「・・・いや・・・その『彼』という時点で、報道規約上ちょっと・・・。」
「あれっ、NGでしたっけ?とっておきの話なのになぁ~。」
直後、モニターが切り替わり、突然CMが流された。生放送なのか?これ。
「・・・・・・はい。では引き続き、○○さんのエピソードなど。」
数分後、番組が再開した。どうやら視聴率を取ったらしい。
「それでね、彼にチョコレートを渡したとき、ズバリ訊いちゃったんですよ、本命居るの?ってね。」
「・・・ほぉ。」
「うふふ~っ、そしたらねぇ~、あのコったら顔まっ赤にして、『え、ええ、一応・・・』って肯いたの。」
おいおい、『あのコ』ってのはアンタより年下ってことだろ?
「でねでねっ!じゃあもう、チョコ貰った?って訊いたら、『はい。今年は手作りのを・・・』ですって!」
「・・・・・・あ、はぁ・・・・・・。」
心底呆れたようなアナウンサーの地の声に、つい吹き出した。
「それがまた可愛いのなんのって!あーアタシ役得役得って、幸せだったわぁ。」
「・・・そうですか。今年のバレンタインデーは皆さん、とても楽しい思いをされてたということですよね。」
無理やり過ぎるまとめだ。苦労してるねぇ、アンタも。
そういえばまだ第三新東京にいた頃、聞いたことがあった。あのロボットを操縦してるのは、実は子供だって
噂。以前一緒にバイトしてたサボリ魔のツレのツレの弟が中学生で、同じ学校にパイロットが通ってたらしい。
いろんな意味でちゃらんぽらんなヤツの話だから半分以下にも聞いてなかったが、あんがいホントかもしれん。
ふと、あの女を思い出した。そういやアイツ、どっか普通じゃなかったな。浮世離れしてるつーか、人間らしい
顔を見せたのは後にも先にもあれっきりだし、『命に代えても』なんてあんなガキが言う言葉じゃねえな。本当に
あいつ、死んだんかな?いけ好かねぇ女だったが、見てくれは良かったから、ちょっと惜しい気はする。
なんて考えてたら去年殴られたことまで思い出し、ムカッ腹がぶりかえしてきた。けっ、知ったことか。いまの
テレビで男って分かったんだし、そりゃねえわな。大体、勇者だか救世主だか知らえねが、そいつがしっかり守れ
なかったからオレの都会生活がパァになったんだ。終わりよけりゃ街の一つや二つ、すっ飛ばしてもノープロブレム
なんかよ、勇者さまは。
テレビのスイッチを消して、店のほうへと顔を出した。相変わらず客はいない。フロアの一角を陣取るバレンタ
インのコーナーに向かい、ほとんど減ってないチョコレートに手を伸ばした。ま、かまうもんか。どうせあと数分で
バレンタインデーも終りだし、そしたらこのチョコみんな、一挙にお役ご免だ。
ナリだけは上品な包装を解いて、値段の割りに少ししか入ってないチョコを一粒、口に放り込んだ。
「なーんだ・・・フツーにうめぇじゃん。」
そりゃそうだよな、いつも売ってるチョコの数倍の値段付けしてんだ。マズかったら詐欺だぜ。
チョコ貰ったあのガキも、ウマいって思いながら食べたんかな。所詮チョコなんて高いのも安いのも、たいして
変わんねえや。あいつはまだ、生きてるかな?なんか軟弱そうだったし、ひょっとして自分ひとりトンズラしたん
じゃねーだろな?だとしたら最低だな。もし抜け抜けと顔出したりしやがったら、ボロクソいじめてやろーか?
『おいテメェ、おんなタテにしてまーだ生き伸びてんのかよ?』とかなんとか言ってちっとばかし睨みきかしゃあ、
心底ビビるだろうぜ、あの小僧。
まてよ、あの女がコンビニに現れなくなったのは、オレよか先にどっかへ引っ越したのかもしれないな。えらそうに
啖呵切っといて、万が一俺の目の前に現れてみろ、腹の底から笑ってやる。身の程しらずに説教垂れやがって、いい
気味だぜ、クソガキ。
「・・・・・・なーんてな・・・・・・来るわきゃねえかぁ・・・・・・。」
黙ったまま開かない自動ドアから目をそらし、タバコを灰皿に押し付けた。壁掛けの時計の長針が12時を廻り、
日付がもはや、2月15日に変わったことを告げた。
今年も、チョコを貰えなかった。
【タイトル】Re: おそらくは、世界一退屈なバレンタインデー
【記事番号】-2147481310 (-2147481312)
【 日時 】07/02/15 10:23
【 発言者 】クロミツ
…というバレンタインネタでした。
15日に投下ししたのは予定通りでしたが、話に合わせて0時に書き込むつもりが寝てしまった……orz
【タイトル】Re: おそらくは、世界一退屈なバレンタインデー
【記事番号】-2147481307 (-2147481312)
【 日時 】07/02/17 12:45
【 発言者 】あいだ
なんか新鮮です。
コレが第一印象ですね。
第三者視点での話というのは他にもあるんだろうけど、文体のこなれ方などから、至極上質なSSに出会えたと感じました。
前半パートと後半パートで時期が異なる事をうまく使っている気がします。
一本のSS中でこういう時期の切り替わりを表現するのは難しい気がします。
気になった点。
つっけどん。私の中ではつっけんどん、なんだけど、調べてみると、つっけどん、という表現方法もあるらしい。
でも何となく違和感。
ほぼ完璧に徹底して、特定して彼らを表す言葉を使っていないのに、一言だけシンジに「綾波」と言わせているところ。
これはコレでこの一言だけだからこそ効果的と言えなくはないし、逆にあのシーンで綾波の名前を呼ばないシンジというのも考えにくいのだけど、なんとなく気になるかな。
せっかくなら全てのシーンにおいて彼らを表さない、という方法も良かったかなー、なんて思ったり。
戯言ですので気にしないで下さいね。
ひとこというなら、おお。と唸ってしまうぐらい楽しみました。
【タイトル】Re: おそらくは、世界一退屈なバレンタインデー
【記事番号】-2147481306 (-2147481312)
【 日時 】07/02/17 14:50
【 発言者 】tamb <tamb○cube-web.net>
なんかちゃんとした話だな。もっとネタっぽい話かなと思った。投下された日は、時間
もなかったし数行読んでスクロールして、なげぇな、と思って後回しにしたんだけど(爆)。
シンジとレイが部屋に帰ってからの会話が気になりますね。「俺」の「安っぽいチョコ
で済ます程度のダチってわけか。」っていうセリフが、一年間レイの心の中に残ってたと
したら、かなり萌えるわけだが(笑)。
mailto:tamb○cube-web.net
【タイトル】Re: おそらくは、世界一退屈なバレンタインデー
【記事番号】-2147481288 (-2147481312)
【 日時 】07/03/02 03:51
【 発言者 】クロミツ
■ あいださん
>つっけどん。私の中ではつっけんどん、なんだけど、調べてみると、つっけどん、という表現方法もあるらしい。
>でも何となく違和感。
>
……あー。ごめんなさい、ただの入力ミスです……orz。私も普通はつっけんどんなんだけど。
ネタを思いついてからバレンタインまであまり時間がなかったので、後で見直すとかなり推敲漏れがあります。
>ほぼ完璧に徹底して、特定して彼らを表す言葉を使っていないのに、一言だけシンジに「綾波」と言わせているところ。
>
お察しの通り、最初は二人を特定する名前を出さないでおこうと思ってました。
ただ、あのシーンでシンジが何を言うか考えたんですけど、やっぱり「綾波」しか思いつかなかったんですよね。
けっきょく、一回書けば同じかと思って何箇所か綾波と入れました。
お褒めくださりありがとうございます。楽しんでいただいて何よりです。
■ tambさん
> シンジとレイが部屋に帰ってからの会話が気になりますね。「俺」の「安っぽいチョコ
>で済ます程度のダチってわけか。」っていうセリフが、一年間レイの心の中に残ってたと
>したら、かなり萌えるわけだが(笑)。
>
それもあって翌年は手作りにしたという設定ですが、まあ、本文中だと分かりにくいですよね。
レイ、またはシンジ視点の話もあったほうがいいのかな。
【タイトル】Re: おそらくは、世界一退屈なバレンタインデー
【記事番号】-2147481223 (-2147481312)
【 日時 】07/04/28 20:54
【 発言者 】tama
時期はずれのコメントですみません;
あえて最後までシンジたちと「俺」が第3者同士なところが大人だなぁと思いましたし、巧いなと感じました。
こういう話を作ると、つい「あっ、あのときの!」みたいなオチをつけたくなりませんか?
それなしで、いい立ち居地で話を締められるのがすごいです。
・・・それにしてもレイ、いきなり平手はすごいぞ!
いろんな意味であぶないからやめようね!って老婆心的な心配を(爆
【タイトル】Re: おそらくは、世界一退屈なバレンタインデー
【記事番号】-2147481209 (-2147481312)
【 日時 】07/06/04 03:54
【 発言者 】クロミツ
>tamaさん
レスありがとうございます。こちらも時期はずれの返信ですみません。
>こういう話を作ると、つい「あっ、あのときの!」みたいなオチをつけたくなりませんか?
>
今回の話は、作中の主人公は最後まで正体がわからないけど呼んでる人には分かる、といった
書き方を狙ってました。第三新東京で暮らしている人の認識って、意外とこんな程度じゃないか
なかろうか、と思います。
>・・・それにしてもレイ、いきなり平手はすごいぞ!
>
アニメではいきなりシンジにビンタしてましたしね。(笑
自分も実はアニメのあのシーンは違和感あるというか、そんなアグレッシブな娘だったっけ?
と思いました。コミック版の優越感を含んだ冷ややかな視線を送るほうがイメージに合ってる。