「綾波レイの幸せ」掲示板 四人目/小説を語る掲示板・ネタバレあり注意
TOP
> 記事閲覧
未完成の絵
投稿日
: 2009/05/31 00:00
投稿者
:
aba-m.a-kkv
参照先
:
【タイトル】未完成の絵
【記事番号】-2147481267 (2147483647)
【 日時 】07/03/30 21:28
【 発言者 】aba-m.a-kkv
未完成の絵
「綺麗だね……」
そう囁くように呟いたのは、一枚の絵画の前に立ち止まった黒髪の少年
やつれた様な華奢な身体に幾つもの包帯を巻いているのは、あの戦争から幾許も経っていない証
でも、その表情が安堵を帯びて優しいものなのは、それが確かに終わった証
そして、その声は今、二つの影しか作らないこの静まり返った美術館の中にあってただ一つの方向、一つの影へと向けられていた
この建物の外を覆う、春先の雨音に邪魔されることなく
「……ええ、綺麗ね」
透き通るような落ち着いた声でそう返したのは、蒼銀の綺麗な髪を纏った少女
少年の前にあって車椅子に座る彼女の華奢な姿は、あの運命から幾許も経っていない証
でも、その声が外の雨とは逆に澄み切って優しいのは、それが確かに過ぎ去った証
そして、紅い双眸は少年が見るものと同じところに向けられている
展示ホールに満ちる静けさに満たされながら
「でも、何故、かな……? この絵は何処か違う気がするわ」
見つめていた数瞬を越えて、紅い眸の少女はその口に疑問を点す
そして、この美術館に連れ出してくれた少年へと少し振り返り、仰ぎ見た
そんな少女の視線を受けながら、黒髪の少年は絵を見つめて答えを紡ぐ
「知ってた、綾波……この絵はまだ完成していないって」
まだ未完成、その言葉に少女は絵画の方へと目を向けた
綺麗な色合い、明るい情景、でも何処か欠けている様な気もする
そして、それから少年の方へと目を向けるが、その表情は変わらず優しいものだった
「そうなの? でも、何故……?」
問いから紡がれる少しの空白を経て、「この絵は最後に描かれた作品なんだって」そう少年は解説を始めた
この絵が完成を見る前に、描いていた画家が亡くなってしまったこと
それゆえに、未完成のまま残されていること
そこから、何処か欠けた印象を抱かせること
「でも、僕はこの絵が好きなんだ
この絵は、今でもその画家の心と繋がっているように感じるんだよ
未完成だから、欠けているから、この絵だけは他の絵と違って、画家といつまでも一緒に在るような気がする
永遠に訪れない完成へ向かって
いつまでも、いつまでも一緒にいる
そこに、もう描けないという隔たりがあったとしても
そして、僕はそれでもいいと思ったんだ」
静穏が走った
絵だけではない、この未完成の欠けた絵の向こうをこの少年は見ている
少年の漆黒の瞳を見つめながら、少女はそう思った
そして、その見ているものは自分があの世界の最後で見たいと誓ったものと同じだろう、とも
だから、自分たちはここにいる
「……私も、それでいいと思ったわ」
そう言葉を乗せる
あの時の想いを、いまここに居る貴さを、そしてここに二つの影が一緒に在る嬉しさを込めて
そして、少女は未完成の絵を見つめながら微笑んだ
その笑顔に、少年は嬉しそうに頷いた
「ねえ、碇くん、ありがとう
ここに、碇くんと一緒に来られてよかった」
緑の公園の中に佇む小さな美術館を覆っていた雨は、いつの間にか上がっていた
そして美術館の入り口に立てかけられた一つの大きな傘
その先に広がった水溜りは綺麗な青色を映しこんでいた
それは、二人が選んだ色
いつまでも一緒にいると決めた証
レイへ、1年間ありがとう
そして、これからの1年もよろしく
【タイトル】Re: 未完成の絵
【記事番号】-2147481262 (-2147481267)
【 日時 】07/04/10 23:31
【 発言者 】tamb
反応が著しく遅れました。ローレライを読み耽っていて(^^;)。まぁ半分は嘘ですが。ということは、半分は本当だと(爆)。
さてこの作品、aba-m.a-kkvさんの持ち味とも言うべきか、体言止めと脚韻の多用、そして句点の省略によってポエティックな雰囲気を出すことに成功しているかと。嫌みはないし。
でも、レイが車椅子に乗り、シンジが幾つもの包帯を巻くような苛酷な「運命」を乗り越えてきた「物語り」を読みたいと思うのは贅沢というものでしょうか。
例えば、世に出した小説は既に読者の物であり嫁にやった娘のようなものだから――急に思ったけど、これってものすごい古風な家族主義だよな。美しい国か?(笑)――煮るなり焼くなり自由にしていい、みたいな言い方があるわな。逆に言えば、未完成で世に出していないうちは作者の物だということだ。そりゃそうだ。
では何らかの理由により――例えば作者の死、あるいは放棄――未完成の内に世に出てしまった作品の場合はどうなのだろうか。これは若くして親と死に別れてしまった子供、あるいは棄てられた子供とたとえることができるかもしれない。即ち、レイとシンジである。
そして、たとえ親がいなくとも子供は生き延びなければならない。生きて行こうとするならば。
二人はこの絵から、生きる意志のようなものを感じ取ったのかもしれない。そして、たとえ共に在らずとも繋がりえる心というものを。更に言えば、この絵は恐らく、この絵のみがこの美術館に置かれているのでは、ない。
というわけで、こういうことを書こう、と思って書き始めたこととは異なった結論に達したわけですが(^^;)、そんなことでaba-m.a-kkvさん、この絵、描いてみませんか?
などと無謀なリクエストをしてみるテスト。あ、縁起でもないな(爆)。
【タイトル】Re: 未完成の絵
【記事番号】-2147481251 (-2147481267)
【 日時 】07/04/15 04:04
【 発言者 】tama
未完成なものとか、欠けたものとか、そういうの。
そこには何があったのだろうとか、なにを足そうとか想像をかきたてられます。
ない、からこそ、そこには無限なものがあるんだと思います。
ぶっちゃけ、シンジとレイにいまもこんなに描きたいなと思うことがあるのは、たぶんそういうのが源にあるのだと思います。
だから読んでて、なんとなくたとえ話にも読み取れました。
このふたりもそうやってお互いが必要だったのかなと。
欠けてしまっていた家族を得たとかそういう感じ。
しあわせな気持ちです。
主に読んでいる私が(笑)
足りてないものを補充していただいたような・・・
・・・というわけで、シンジとレイをaba-m.a-kkvさん、これからもかきつづけてください。
楽しみにしています☆
編集
件名
スレッドをトップへソート
名前
メールアドレス
表示
非表示
URL
画像添付
暗証キー
画像認証
(右画像の数字を入力)
コメント
-
WEB PATIO
-
【記事番号】-2147481267 (2147483647)
【 日時 】07/03/30 21:28
【 発言者 】aba-m.a-kkv
未完成の絵
「綺麗だね……」
そう囁くように呟いたのは、一枚の絵画の前に立ち止まった黒髪の少年
やつれた様な華奢な身体に幾つもの包帯を巻いているのは、あの戦争から幾許も経っていない証
でも、その表情が安堵を帯びて優しいものなのは、それが確かに終わった証
そして、その声は今、二つの影しか作らないこの静まり返った美術館の中にあってただ一つの方向、一つの影へと向けられていた
この建物の外を覆う、春先の雨音に邪魔されることなく
「……ええ、綺麗ね」
透き通るような落ち着いた声でそう返したのは、蒼銀の綺麗な髪を纏った少女
少年の前にあって車椅子に座る彼女の華奢な姿は、あの運命から幾許も経っていない証
でも、その声が外の雨とは逆に澄み切って優しいのは、それが確かに過ぎ去った証
そして、紅い双眸は少年が見るものと同じところに向けられている
展示ホールに満ちる静けさに満たされながら
「でも、何故、かな……? この絵は何処か違う気がするわ」
見つめていた数瞬を越えて、紅い眸の少女はその口に疑問を点す
そして、この美術館に連れ出してくれた少年へと少し振り返り、仰ぎ見た
そんな少女の視線を受けながら、黒髪の少年は絵を見つめて答えを紡ぐ
「知ってた、綾波……この絵はまだ完成していないって」
まだ未完成、その言葉に少女は絵画の方へと目を向けた
綺麗な色合い、明るい情景、でも何処か欠けている様な気もする
そして、それから少年の方へと目を向けるが、その表情は変わらず優しいものだった
「そうなの? でも、何故……?」
問いから紡がれる少しの空白を経て、「この絵は最後に描かれた作品なんだって」そう少年は解説を始めた
この絵が完成を見る前に、描いていた画家が亡くなってしまったこと
それゆえに、未完成のまま残されていること
そこから、何処か欠けた印象を抱かせること
「でも、僕はこの絵が好きなんだ
この絵は、今でもその画家の心と繋がっているように感じるんだよ
未完成だから、欠けているから、この絵だけは他の絵と違って、画家といつまでも一緒に在るような気がする
永遠に訪れない完成へ向かって
いつまでも、いつまでも一緒にいる
そこに、もう描けないという隔たりがあったとしても
そして、僕はそれでもいいと思ったんだ」
静穏が走った
絵だけではない、この未完成の欠けた絵の向こうをこの少年は見ている
少年の漆黒の瞳を見つめながら、少女はそう思った
そして、その見ているものは自分があの世界の最後で見たいと誓ったものと同じだろう、とも
だから、自分たちはここにいる
「……私も、それでいいと思ったわ」
そう言葉を乗せる
あの時の想いを、いまここに居る貴さを、そしてここに二つの影が一緒に在る嬉しさを込めて
そして、少女は未完成の絵を見つめながら微笑んだ
その笑顔に、少年は嬉しそうに頷いた
「ねえ、碇くん、ありがとう
ここに、碇くんと一緒に来られてよかった」
緑の公園の中に佇む小さな美術館を覆っていた雨は、いつの間にか上がっていた
そして美術館の入り口に立てかけられた一つの大きな傘
その先に広がった水溜りは綺麗な青色を映しこんでいた
それは、二人が選んだ色
いつまでも一緒にいると決めた証
レイへ、1年間ありがとう
そして、これからの1年もよろしく
【タイトル】Re: 未完成の絵
【記事番号】-2147481262 (-2147481267)
【 日時 】07/04/10 23:31
【 発言者 】tamb
反応が著しく遅れました。ローレライを読み耽っていて(^^;)。まぁ半分は嘘ですが。ということは、半分は本当だと(爆)。
さてこの作品、aba-m.a-kkvさんの持ち味とも言うべきか、体言止めと脚韻の多用、そして句点の省略によってポエティックな雰囲気を出すことに成功しているかと。嫌みはないし。
でも、レイが車椅子に乗り、シンジが幾つもの包帯を巻くような苛酷な「運命」を乗り越えてきた「物語り」を読みたいと思うのは贅沢というものでしょうか。
例えば、世に出した小説は既に読者の物であり嫁にやった娘のようなものだから――急に思ったけど、これってものすごい古風な家族主義だよな。美しい国か?(笑)――煮るなり焼くなり自由にしていい、みたいな言い方があるわな。逆に言えば、未完成で世に出していないうちは作者の物だということだ。そりゃそうだ。
では何らかの理由により――例えば作者の死、あるいは放棄――未完成の内に世に出てしまった作品の場合はどうなのだろうか。これは若くして親と死に別れてしまった子供、あるいは棄てられた子供とたとえることができるかもしれない。即ち、レイとシンジである。
そして、たとえ親がいなくとも子供は生き延びなければならない。生きて行こうとするならば。
二人はこの絵から、生きる意志のようなものを感じ取ったのかもしれない。そして、たとえ共に在らずとも繋がりえる心というものを。更に言えば、この絵は恐らく、この絵のみがこの美術館に置かれているのでは、ない。
というわけで、こういうことを書こう、と思って書き始めたこととは異なった結論に達したわけですが(^^;)、そんなことでaba-m.a-kkvさん、この絵、描いてみませんか?
などと無謀なリクエストをしてみるテスト。あ、縁起でもないな(爆)。
【タイトル】Re: 未完成の絵
【記事番号】-2147481251 (-2147481267)
【 日時 】07/04/15 04:04
【 発言者 】tama
未完成なものとか、欠けたものとか、そういうの。
そこには何があったのだろうとか、なにを足そうとか想像をかきたてられます。
ない、からこそ、そこには無限なものがあるんだと思います。
ぶっちゃけ、シンジとレイにいまもこんなに描きたいなと思うことがあるのは、たぶんそういうのが源にあるのだと思います。
だから読んでて、なんとなくたとえ話にも読み取れました。
このふたりもそうやってお互いが必要だったのかなと。
欠けてしまっていた家族を得たとかそういう感じ。
しあわせな気持ちです。
主に読んでいる私が(笑)
足りてないものを補充していただいたような・・・
・・・というわけで、シンジとレイをaba-m.a-kkvさん、これからもかきつづけてください。
楽しみにしています☆