「綾波レイの幸せ」掲示板 四人目/小説を語る掲示板・ネタバレあり注意
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無意識メール 綾幸6周年記念
投稿日
: 2009/05/31 00:00
投稿者
:
aba-m.a-kkv
参照先
:
【タイトル】無意識メール 綾幸6周年記念
【記事番号】-2147481167 (2147483647)
【 日時 】07/08/20 06:57
【 発言者 】aba-m.a-kkv
吹き上げる風が、蒼銀の髪を揺らしていく
視界いっぱいに広がるのは、青とも赤ともつかない紫と淡い緑とが折り重なったセカイ
夜でも朝でもない境界線
そして、その景色を遮るものはひとつもない
空は夜明けの雰囲気を伝え、大地は黒いシルエットの中に街並みや山並みを沈めている
足元にあるのは固いコンクリートの縁
第一の境界線となるステンレス製の欄干は私のずっと後ろに固定されている
欄干の先に広がった空間の一段高くなった外縁部に私は立っていた
そして、私の目の前、私の爪先には第二の境界線がある
高さ150メートルの落差を持つ境界線が
私は足元を見下ろす
爪先は境界線に沿うようにくっつき、その先には未だ薄闇に沈むこの街の、普段見られない姿が広がっている
そこを歩くときは広く感じる幹線道路も、ここに立つ私の紅い眸には鉛筆で描いた線のようにしか見えない
そこを歩くときには大きく見える一般構造物も、ここに立つ私の紅い眸には玩具のブロックのヒト欠片くらいにしか見えない
私が立っているのは、この街でもっとも背の高い迎撃システムビル
このビル群も、いまではその兵装に存在意義を失った
屋上全体に取り付けられたソーラー発電システムやレーダーユニットも、いまは微細な働きしか保っていない
全て、仕組まれたもののために存在意義を与えられ、全ての仕組まれたものが終幕した今、その存在に意味を見出せるのだろうか
それでも、迎撃システムビル群はここにある
私も、いま、ここに立っている
街を一望し、街を見下ろすことの出来るこの場所に
この街も、目的となる一つの名を失った
このビル群も、目的となる一つの名を失った
なら、この私はどうなんだろう?
私の存在意義、生存目的、レゾンデートル、そう呼ばれる全てを失った私は
でも、それでも、この街がここにあるように、このビルがここにあるように、私の身体もここにあっていいんだろうか?
私の心も、ここにあっていいんだろうか?
私は私を、理解してるんだろうか?
私は、このビルの境界線のようなところに、“意識”と“無意識”隔てて立ち尽くしているのかもしれない
私の手首から携帯がぶら下がる、ストラップに吊られて私と繋がるそれが摩天楼に揺れる
私は境界に立っている、確固とした足場と、何もない奈落とのハザマに
「私の意識と無意識はどこにあるのだろう……?」
夜明けが近い、虚空の足場を作る境界のずっと向こう、空と大地とを隔てる境界線にオレンジが走る
私の“意識”が、紡いだ
「……碇、くん」
無意識メール aba-m.a-kkv
「もしも、綾波が翼を持つ鳥だったとして、それでも僕はそんなところに立ってほしくないな」
東の空が赤く染まりだす、染めるものの姿は未だ見えないまま
風が後ろから吹き付けて、私を境界の先へと押し出そうとするかのようになびき、そして、声を届ける
私は東の空を見つめたまま、目を見開いた
驚きが身体を走り、息が止まる
私の“意識”が紡ぎ望んだものの声に
こんな時と、こんな場所にあって、それを聞くことなど予想も切望もしなかったから
でも、いままで浮遊しそうなくらい軽くなっていたのに、今は根を下ろしたように地に足が着く感触が私に伝わっていく
ぎこちない足を小さく動かして半分振り返り、視線を落とす
そこには優しい笑顔と少しの心配を浮かべた黒髪の少年の姿が、第一の境界である欄干を越えて振り返った私の眸の先に立っていた
私の“意識”が紡いだ名を持つものの姿が
「碇、くん……?」
私の口唇からその人の名前が再び紡がれる
それは私の“意識”の中で今まで描き出していた人、今私の眸の先にいる人
私が望み、私が唯一この世界でその隣いて、生きたいと思った人
この人の隣で生きるためなら、この人がここで生きることを望むなら、私のレゾンデートルを掛けてもいいと思った
そのために私は完全で絶対なる無のセカイを捨てた
私に植え付けられた目的の先にある全ての仕組まれた世界を葬った
ただ、手を差し出して、差し出してくれている手を赤い海で掴んだ
だから、今ここに目的とそれに属する名を失ったセカイがあり、街があり、私がいる
そう、私の“意識”はこの人を求めていた
そして、今も求めている
なら、私を形作るもう一つの自分、私の“無意識”は何処にあるのだろう、何を求めているんだろう?
でも、そんな“無意識”を私は知覚することなんて出来るんだろうか?
私の手首にぶら下がった開かれたままの携帯が境界線の上に揺れる
「何故……?」
何故、彼がここにいるのだろう? その問いが私の口唇から呟きとなって漏れる
それは、たぶん彼のところには届かない小さな、小さな、私に対する問い
私の“意識”がこの人を求めていたとしても、それは“意識”の中で思い描き求めたものに過ぎない
それが現実世界で彼が今ここにいる理由にはならない
何故、私の“意識”が求めた人がここに来てくれたのだろう、ここにいてくれるのだろう?
「どうして……?」
今度は私の“意識”が求めた人に向かって尋ねる
風が吹いた
今度は東の空から、境界線の内側、彼がいる場所へと吹きぬけて私の背中を押す
そして、私の言葉を運んでいく
そんな私の言葉に、彼は少しだけ驚いたような不思議そうな表情を浮かべて、それから悟ったように微笑んだ
「綾波が……綾波が呼んだんだよ」
風が凪いだ
背中に温かいものを感じ、彼を見つめる私の視界の端に光が差し込んでくる
夜明けを前に、私を前に、彼はそれ以上言葉を紡がない
その代わりに全てを示すように、私の数歩前まで近づき、その手に持った携帯を掲げた
差し出されたそこ映っているのは一通のメール画面
それは彼のことを呼ぶ私のメール
私の記憶にない私のメール
「私……」
覚えてない、そう言いかけて、私はふと気づき自らの手首にぶら下がった開かれたままの自分の携帯を掴んだ
そこには送信済みのメール表示
確かに私が彼に送った私のメールが示されている
でも、それは私の“意識”に属さないメール
「そっか……綾波の“無意識”が、僕を呼んだんだね」
私ははっとする
ああ、“無意識”のうちに送っていたんだ
私の“無意識”も求めていたんだ
同じものを、碇くんを
境界に立っていながら、私は、いつもそこに居たんだ
私の“意識”と“無意識”が重なり合っていく
そんな感覚に、私は境界線の上で身を廻らした
“意識”と“無意識”の領域を行ったりきたりするように、いま立つ境界線の上を幾許か
そして、倒れこむように、彼のいる一段下のバルコニーへと降り立った
彼がそっと肩に手を置いて支え止めてくれる
すぐ目の前に降り立って、彼の漆黒の瞳と視線が絡まる
「どうしたの、綾波?」
彼が覗き込むようにして尋ねてくる
その声は、私を拒絶しない声
私の存在がここにいることを認めてくれている、受け入れてくれる、そんな優しい声だった
あの時、赤い海で私に手を差し出してくれたときと変わらずに
「私は、ここにいるんだな、って」
私はそう呟く
広がった地面に、境界線から離れた場所に降り立って、私の居場所にちゃんと二つ揃った根を下ろして
そのことを自分に確かめるように
そんな、私の言葉に、彼が笑みを浮かべながら、少し首を傾けて不思議そうにする
「ちゃんと、いつもいるじゃない」
「いえ、そこじゃなくて」
私は一歩足を踏み出して最後の間隔を縮める
心の壁ほどの隙間だけが私と彼とを隔てるだけ
そして私は力を抜いて、あの時よりもずっと背の高くなった彼の胸に、こつんと頭を預けた
私の言葉が意味するものを指し示して
二つの私の居場所を指し示して
「私は、いつも、ここにいる」
私は瞼を閉じていて、重み全てを預けている
彼の表情は見えない
でも、私がいま微笑みを浮かべていられてるように、きっと彼も微笑んでくれている
私は身体を預けながら、そっと自分の手に提げた携帯を見つめる
そこにあるのは私の“無意識メール”
私の“意識”では知覚できないもうひとつの私の心
でも、彼を通して知ることの出来る私そのもの
心に安らぎが広がっていくのがわかる
私の“意識”も“無意識”もちゃんとその居場所を知っていたから、同じ居場所を持っていたから
そして、彼も私の傍にいてくれる
繋がっている、“意識”でも“無意識”でも私は、私全部は
セカイが明るくなっていく
旧世紀の名前を失ったこのセカイが、旧世紀の目的を失ったこの街が
太陽に照らされて朝に染まっていき、そして新しい一日を迎える
そこにはちゃんとセカイがあり、街があり、存在し続ける
そして、私も、私の居場所に根を下ろし、新しい一日を迎える
彼の隣にあって、私はちゃんとそこに居て、ずっとその隣を歩いていく
【タイトル】Re: 無意識メール 綾幸6周年記念
【記事番号】-2147481166 (-2147481167)
【 日時 】07/08/20 19:36
【 発言者 】aba-m.a-kkv
改めて四人目にて、6周年おめでとうございます。
これからも、さらなる発展を祈っています。
と共に、いつもお世話になってありがとうございます。
私も影ながらLRS・LAKみんな幸せ主義で書いていこうと思うので、よろしゅうお願いしますね。
さて、お祝い代わりにショート「無意識メール」を投下しました。
本当はちゃんと投稿したかったんですが、時間がなくてしっかり書けなかったので。
でも、とりあえず、投下できてよかった。
【タイトル】Re: 無意識メール 綾幸6周年記念
【記事番号】-2147481165 (-2147481167)
【 日時 】07/08/23 05:46
【 発言者 】tamb <tamb○cube-web.net>
いつも投下をありがとうございます。
今ちょっと頭が停止してるので(^^;)、まともなレスは来週くらいになりますが、ざっ
と読んで思ったことなどを以下に。
> 玩具のブロックのヒト欠片
こういうフレーズで「ヒト」という字を当てる感覚は凄い。
> このビル群も、いまではその兵装に存在意義を失った
無機物の存在意義というのもかなり凄い。兵装に意味がなくなった兵装ビルは存在その
ものに意味がない。インクの出なくなったボールペン、クラッシュしたハードディスク、
使い捨ての対空ミサイル。
死んでしまったヒトには、もう存在意義はないのだろうか?
建造物には存在そのものに歴史的価値を見出す場合もある。だがそうでなければ、取り
壊すだけだ。
> もしも、綾波が翼を持つ鳥だったとして
今書いていて、まんまと止まっている短編に、シンジの「僕は空を飛べない」というセ
リフがあったりする(使わないかもしれないけど)。
私の構想中の長編と「Goat for AZAZEL」といい、aba-m.a-kkvさんとの地味なシンクロ
ニシティには脅威を覚える事すらある。でも常に一歩先を行ってるのはaba-m.a-kkvさん
だってのがちょっと悔しい(笑)。
スレ違いになるけど、Cooperさんの「微笑みの法則」で、レイが「あれは二人目だから」
っていう冗談を言うシーンがあって、私もそんなのを考えてた。私の方は「あれは三人目
でしょ。私じゃないから」って感じだったんだけど、どっかで使ってもそれはパクリじゃ
ないのでひとつよしなに(笑)。まぁこの程度でパクったパクられたってのも変な話だけど。
> 無意識メール
私の場合、相当気合入れないと携帯で文章は打てないので、無意識にメールを打つこと
はありえません(笑)。
mailto:tamb○cube-web.net
【タイトル】Re: 無意識メール 綾幸6周年記念
【記事番号】-2147481164 (-2147481167)
【 日時 】07/09/01 04:11
【 発言者 】tamb <tamb○cube-web.net>
足場のあるところと無いところを、意識と無意識に当てはめたのが面白い。彼女はその
境界線にいて、無意識に傾いた部分からメールを出したことになる。そして、今は彼と共
に立つ。
しかし高いところが苦手な私としては、そんな所に立ったら失神するぜと思うのが正直
なところたっだりします(^^;)。それも無意識には違いない、という所まで読んで書いて
たら凄いぞ。
mailto:tamb○cube-web.net
【タイトル】Re: 無意識メール 綾幸6周年記念
【記事番号】-2147481157 (-2147481167)
【 日時 】07/09/13 23:39
【 発言者 】aba-m.a-kkv
tambさん、感想ありがとうございます。
こういう場所を提供してくださっているので、私はこうやって投下することが出来るので、ほんといつも感謝です。
>aba-m.a-kkvさんとの地味なシンクロニシティには脅威を覚える事すらある。
もしかしたら、aba-mはtambさんのネット人格から分離した亜種なのかもしれません。笑
でも、私はいつもtambさんの物語がたのしみでしょうがないのですよ。
短編も長編も期待してます!
人の思考の中で意識が占めるのは10%、残りは無意識で占められているそうなんです。
そんな話を聞いて、思いついたのが今回のショートでした。
つまりは、レイの90%はシンジで占められているという、なんともLRSなお話ということでした。笑
>それも無意識には違いない、という所まで読んで書いてたら凄いぞ。
そ、そこまでは、読めていませんでした。笑
【タイトル】Re: 無意識メール 綾幸6周年記念
【記事番号】-2147481151 (-2147481167)
【 日時 】07/09/19 01:24
【 発言者 】tama
感想えらい遅くてすみません。
すでに「無意識メール」というタイトルだけでもやもやします。
ものすごい愛を感じます。ドキドキします。
たぶん恋です。うまくいえないけど。
なんか、作品全体が「拈華微笑」っていう感覚。
こういうの文章にされると絵描きは困ります。
言葉にできないことを表現するのが絵師なのに。文にされてしまったよ、みたいな。
絵と文なんて、勝負の天秤にかけられないと思われるかもしれませんが(^^;私はものすごく敗北感でした。
でも、嬉しいんですよ、読めてすごく。すごく。
ああ、もう。
次の誕生日が待ちどおしい!(笑
ちなみに。
>つまりは、レイの90%はシンジで占められているという
・・・割合高すぎ!(萌
【タイトル】Re: 無意識メール 綾幸6周年記念
【記事番号】-2147481148 (-2147481167)
【 日時 】07/09/22 01:11
【 発言者 】aba-m.a-kkv
tamaさん、感想ありがとうございます。
愛を感じるなんて言っていただけて、嬉しい限りです。嬉
今回は、高層ビルの上という、現実ラインから離れた場所の雰囲気と、
無意識さに纏う透明感みたいなものを出したいな、と思って書いてみました。
しかし、私はいつもtamaさんの絵にノックアウトされていますよ。
こう、人には見せられない形体になっているんじゃないかと思います。笑
さて次は“アスカの日”です。
どんな話にしようかなーと、いろいろ模索しています。
アイデアあったらくださーい。
>・・・割合高すぎ!(萌
レイは、もうほとんど溶け合っているのです、シンジくんと。爆
そういえば、tamaさんに一つ質問が。
結構前、4,5ヶ月くらい前にメールを送ったんですが、届いていますでしょうか?(いまさらですが)
届いてたらいいんですが。(あたりまえか。笑)
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WEB PATIO
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【記事番号】-2147481167 (2147483647)
【 日時 】07/08/20 06:57
【 発言者 】aba-m.a-kkv
吹き上げる風が、蒼銀の髪を揺らしていく
視界いっぱいに広がるのは、青とも赤ともつかない紫と淡い緑とが折り重なったセカイ
夜でも朝でもない境界線
そして、その景色を遮るものはひとつもない
空は夜明けの雰囲気を伝え、大地は黒いシルエットの中に街並みや山並みを沈めている
足元にあるのは固いコンクリートの縁
第一の境界線となるステンレス製の欄干は私のずっと後ろに固定されている
欄干の先に広がった空間の一段高くなった外縁部に私は立っていた
そして、私の目の前、私の爪先には第二の境界線がある
高さ150メートルの落差を持つ境界線が
私は足元を見下ろす
爪先は境界線に沿うようにくっつき、その先には未だ薄闇に沈むこの街の、普段見られない姿が広がっている
そこを歩くときは広く感じる幹線道路も、ここに立つ私の紅い眸には鉛筆で描いた線のようにしか見えない
そこを歩くときには大きく見える一般構造物も、ここに立つ私の紅い眸には玩具のブロックのヒト欠片くらいにしか見えない
私が立っているのは、この街でもっとも背の高い迎撃システムビル
このビル群も、いまではその兵装に存在意義を失った
屋上全体に取り付けられたソーラー発電システムやレーダーユニットも、いまは微細な働きしか保っていない
全て、仕組まれたもののために存在意義を与えられ、全ての仕組まれたものが終幕した今、その存在に意味を見出せるのだろうか
それでも、迎撃システムビル群はここにある
私も、いま、ここに立っている
街を一望し、街を見下ろすことの出来るこの場所に
この街も、目的となる一つの名を失った
このビル群も、目的となる一つの名を失った
なら、この私はどうなんだろう?
私の存在意義、生存目的、レゾンデートル、そう呼ばれる全てを失った私は
でも、それでも、この街がここにあるように、このビルがここにあるように、私の身体もここにあっていいんだろうか?
私の心も、ここにあっていいんだろうか?
私は私を、理解してるんだろうか?
私は、このビルの境界線のようなところに、“意識”と“無意識”隔てて立ち尽くしているのかもしれない
私の手首から携帯がぶら下がる、ストラップに吊られて私と繋がるそれが摩天楼に揺れる
私は境界に立っている、確固とした足場と、何もない奈落とのハザマに
「私の意識と無意識はどこにあるのだろう……?」
夜明けが近い、虚空の足場を作る境界のずっと向こう、空と大地とを隔てる境界線にオレンジが走る
私の“意識”が、紡いだ
「……碇、くん」
無意識メール aba-m.a-kkv
「もしも、綾波が翼を持つ鳥だったとして、それでも僕はそんなところに立ってほしくないな」
東の空が赤く染まりだす、染めるものの姿は未だ見えないまま
風が後ろから吹き付けて、私を境界の先へと押し出そうとするかのようになびき、そして、声を届ける
私は東の空を見つめたまま、目を見開いた
驚きが身体を走り、息が止まる
私の“意識”が紡ぎ望んだものの声に
こんな時と、こんな場所にあって、それを聞くことなど予想も切望もしなかったから
でも、いままで浮遊しそうなくらい軽くなっていたのに、今は根を下ろしたように地に足が着く感触が私に伝わっていく
ぎこちない足を小さく動かして半分振り返り、視線を落とす
そこには優しい笑顔と少しの心配を浮かべた黒髪の少年の姿が、第一の境界である欄干を越えて振り返った私の眸の先に立っていた
私の“意識”が紡いだ名を持つものの姿が
「碇、くん……?」
私の口唇からその人の名前が再び紡がれる
それは私の“意識”の中で今まで描き出していた人、今私の眸の先にいる人
私が望み、私が唯一この世界でその隣いて、生きたいと思った人
この人の隣で生きるためなら、この人がここで生きることを望むなら、私のレゾンデートルを掛けてもいいと思った
そのために私は完全で絶対なる無のセカイを捨てた
私に植え付けられた目的の先にある全ての仕組まれた世界を葬った
ただ、手を差し出して、差し出してくれている手を赤い海で掴んだ
だから、今ここに目的とそれに属する名を失ったセカイがあり、街があり、私がいる
そう、私の“意識”はこの人を求めていた
そして、今も求めている
なら、私を形作るもう一つの自分、私の“無意識”は何処にあるのだろう、何を求めているんだろう?
でも、そんな“無意識”を私は知覚することなんて出来るんだろうか?
私の手首にぶら下がった開かれたままの携帯が境界線の上に揺れる
「何故……?」
何故、彼がここにいるのだろう? その問いが私の口唇から呟きとなって漏れる
それは、たぶん彼のところには届かない小さな、小さな、私に対する問い
私の“意識”がこの人を求めていたとしても、それは“意識”の中で思い描き求めたものに過ぎない
それが現実世界で彼が今ここにいる理由にはならない
何故、私の“意識”が求めた人がここに来てくれたのだろう、ここにいてくれるのだろう?
「どうして……?」
今度は私の“意識”が求めた人に向かって尋ねる
風が吹いた
今度は東の空から、境界線の内側、彼がいる場所へと吹きぬけて私の背中を押す
そして、私の言葉を運んでいく
そんな私の言葉に、彼は少しだけ驚いたような不思議そうな表情を浮かべて、それから悟ったように微笑んだ
「綾波が……綾波が呼んだんだよ」
風が凪いだ
背中に温かいものを感じ、彼を見つめる私の視界の端に光が差し込んでくる
夜明けを前に、私を前に、彼はそれ以上言葉を紡がない
その代わりに全てを示すように、私の数歩前まで近づき、その手に持った携帯を掲げた
差し出されたそこ映っているのは一通のメール画面
それは彼のことを呼ぶ私のメール
私の記憶にない私のメール
「私……」
覚えてない、そう言いかけて、私はふと気づき自らの手首にぶら下がった開かれたままの自分の携帯を掴んだ
そこには送信済みのメール表示
確かに私が彼に送った私のメールが示されている
でも、それは私の“意識”に属さないメール
「そっか……綾波の“無意識”が、僕を呼んだんだね」
私ははっとする
ああ、“無意識”のうちに送っていたんだ
私の“無意識”も求めていたんだ
同じものを、碇くんを
境界に立っていながら、私は、いつもそこに居たんだ
私の“意識”と“無意識”が重なり合っていく
そんな感覚に、私は境界線の上で身を廻らした
“意識”と“無意識”の領域を行ったりきたりするように、いま立つ境界線の上を幾許か
そして、倒れこむように、彼のいる一段下のバルコニーへと降り立った
彼がそっと肩に手を置いて支え止めてくれる
すぐ目の前に降り立って、彼の漆黒の瞳と視線が絡まる
「どうしたの、綾波?」
彼が覗き込むようにして尋ねてくる
その声は、私を拒絶しない声
私の存在がここにいることを認めてくれている、受け入れてくれる、そんな優しい声だった
あの時、赤い海で私に手を差し出してくれたときと変わらずに
「私は、ここにいるんだな、って」
私はそう呟く
広がった地面に、境界線から離れた場所に降り立って、私の居場所にちゃんと二つ揃った根を下ろして
そのことを自分に確かめるように
そんな、私の言葉に、彼が笑みを浮かべながら、少し首を傾けて不思議そうにする
「ちゃんと、いつもいるじゃない」
「いえ、そこじゃなくて」
私は一歩足を踏み出して最後の間隔を縮める
心の壁ほどの隙間だけが私と彼とを隔てるだけ
そして私は力を抜いて、あの時よりもずっと背の高くなった彼の胸に、こつんと頭を預けた
私の言葉が意味するものを指し示して
二つの私の居場所を指し示して
「私は、いつも、ここにいる」
私は瞼を閉じていて、重み全てを預けている
彼の表情は見えない
でも、私がいま微笑みを浮かべていられてるように、きっと彼も微笑んでくれている
私は身体を預けながら、そっと自分の手に提げた携帯を見つめる
そこにあるのは私の“無意識メール”
私の“意識”では知覚できないもうひとつの私の心
でも、彼を通して知ることの出来る私そのもの
心に安らぎが広がっていくのがわかる
私の“意識”も“無意識”もちゃんとその居場所を知っていたから、同じ居場所を持っていたから
そして、彼も私の傍にいてくれる
繋がっている、“意識”でも“無意識”でも私は、私全部は
セカイが明るくなっていく
旧世紀の名前を失ったこのセカイが、旧世紀の目的を失ったこの街が
太陽に照らされて朝に染まっていき、そして新しい一日を迎える
そこにはちゃんとセカイがあり、街があり、存在し続ける
そして、私も、私の居場所に根を下ろし、新しい一日を迎える
彼の隣にあって、私はちゃんとそこに居て、ずっとその隣を歩いていく
【タイトル】Re: 無意識メール 綾幸6周年記念
【記事番号】-2147481166 (-2147481167)
【 日時 】07/08/20 19:36
【 発言者 】aba-m.a-kkv
改めて四人目にて、6周年おめでとうございます。
これからも、さらなる発展を祈っています。
と共に、いつもお世話になってありがとうございます。
私も影ながらLRS・LAKみんな幸せ主義で書いていこうと思うので、よろしゅうお願いしますね。
さて、お祝い代わりにショート「無意識メール」を投下しました。
本当はちゃんと投稿したかったんですが、時間がなくてしっかり書けなかったので。
でも、とりあえず、投下できてよかった。
【タイトル】Re: 無意識メール 綾幸6周年記念
【記事番号】-2147481165 (-2147481167)
【 日時 】07/08/23 05:46
【 発言者 】tamb <tamb○cube-web.net>
いつも投下をありがとうございます。
今ちょっと頭が停止してるので(^^;)、まともなレスは来週くらいになりますが、ざっ
と読んで思ったことなどを以下に。
> 玩具のブロックのヒト欠片
こういうフレーズで「ヒト」という字を当てる感覚は凄い。
> このビル群も、いまではその兵装に存在意義を失った
無機物の存在意義というのもかなり凄い。兵装に意味がなくなった兵装ビルは存在その
ものに意味がない。インクの出なくなったボールペン、クラッシュしたハードディスク、
使い捨ての対空ミサイル。
死んでしまったヒトには、もう存在意義はないのだろうか?
建造物には存在そのものに歴史的価値を見出す場合もある。だがそうでなければ、取り
壊すだけだ。
> もしも、綾波が翼を持つ鳥だったとして
今書いていて、まんまと止まっている短編に、シンジの「僕は空を飛べない」というセ
リフがあったりする(使わないかもしれないけど)。
私の構想中の長編と「Goat for AZAZEL」といい、aba-m.a-kkvさんとの地味なシンクロ
ニシティには脅威を覚える事すらある。でも常に一歩先を行ってるのはaba-m.a-kkvさん
だってのがちょっと悔しい(笑)。
スレ違いになるけど、Cooperさんの「微笑みの法則」で、レイが「あれは二人目だから」
っていう冗談を言うシーンがあって、私もそんなのを考えてた。私の方は「あれは三人目
でしょ。私じゃないから」って感じだったんだけど、どっかで使ってもそれはパクリじゃ
ないのでひとつよしなに(笑)。まぁこの程度でパクったパクられたってのも変な話だけど。
> 無意識メール
私の場合、相当気合入れないと携帯で文章は打てないので、無意識にメールを打つこと
はありえません(笑)。
mailto:tamb○cube-web.net
【タイトル】Re: 無意識メール 綾幸6周年記念
【記事番号】-2147481164 (-2147481167)
【 日時 】07/09/01 04:11
【 発言者 】tamb <tamb○cube-web.net>
足場のあるところと無いところを、意識と無意識に当てはめたのが面白い。彼女はその
境界線にいて、無意識に傾いた部分からメールを出したことになる。そして、今は彼と共
に立つ。
しかし高いところが苦手な私としては、そんな所に立ったら失神するぜと思うのが正直
なところたっだりします(^^;)。それも無意識には違いない、という所まで読んで書いて
たら凄いぞ。
mailto:tamb○cube-web.net
【タイトル】Re: 無意識メール 綾幸6周年記念
【記事番号】-2147481157 (-2147481167)
【 日時 】07/09/13 23:39
【 発言者 】aba-m.a-kkv
tambさん、感想ありがとうございます。
こういう場所を提供してくださっているので、私はこうやって投下することが出来るので、ほんといつも感謝です。
>aba-m.a-kkvさんとの地味なシンクロニシティには脅威を覚える事すらある。
もしかしたら、aba-mはtambさんのネット人格から分離した亜種なのかもしれません。笑
でも、私はいつもtambさんの物語がたのしみでしょうがないのですよ。
短編も長編も期待してます!
人の思考の中で意識が占めるのは10%、残りは無意識で占められているそうなんです。
そんな話を聞いて、思いついたのが今回のショートでした。
つまりは、レイの90%はシンジで占められているという、なんともLRSなお話ということでした。笑
>それも無意識には違いない、という所まで読んで書いてたら凄いぞ。
そ、そこまでは、読めていませんでした。笑
【タイトル】Re: 無意識メール 綾幸6周年記念
【記事番号】-2147481151 (-2147481167)
【 日時 】07/09/19 01:24
【 発言者 】tama
感想えらい遅くてすみません。
すでに「無意識メール」というタイトルだけでもやもやします。
ものすごい愛を感じます。ドキドキします。
たぶん恋です。うまくいえないけど。
なんか、作品全体が「拈華微笑」っていう感覚。
こういうの文章にされると絵描きは困ります。
言葉にできないことを表現するのが絵師なのに。文にされてしまったよ、みたいな。
絵と文なんて、勝負の天秤にかけられないと思われるかもしれませんが(^^;私はものすごく敗北感でした。
でも、嬉しいんですよ、読めてすごく。すごく。
ああ、もう。
次の誕生日が待ちどおしい!(笑
ちなみに。
>つまりは、レイの90%はシンジで占められているという
・・・割合高すぎ!(萌
【タイトル】Re: 無意識メール 綾幸6周年記念
【記事番号】-2147481148 (-2147481167)
【 日時 】07/09/22 01:11
【 発言者 】aba-m.a-kkv
tamaさん、感想ありがとうございます。
愛を感じるなんて言っていただけて、嬉しい限りです。嬉
今回は、高層ビルの上という、現実ラインから離れた場所の雰囲気と、
無意識さに纏う透明感みたいなものを出したいな、と思って書いてみました。
しかし、私はいつもtamaさんの絵にノックアウトされていますよ。
こう、人には見せられない形体になっているんじゃないかと思います。笑
さて次は“アスカの日”です。
どんな話にしようかなーと、いろいろ模索しています。
アイデアあったらくださーい。
>・・・割合高すぎ!(萌
レイは、もうほとんど溶け合っているのです、シンジくんと。爆
そういえば、tamaさんに一つ質問が。
結構前、4,5ヶ月くらい前にメールを送ったんですが、届いていますでしょうか?(いまさらですが)
届いてたらいいんですが。(あたりまえか。笑)