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想い届かず
件名 | : Re: 想い届かず |
投稿日 | : 2009/08/06 03:27 |
投稿者 | : tamb |
参照先 | : |
おおっ! Seven Sistersさんに続いてあいださんも復活の狼煙か!
> >> 「なあ、マナ」
> >> 「ナマだよ」
>
> > ここは重要なシーンのはずなんだけど、突き放してるのか引き寄せてるのか、あるいは
> >やり直そうとしてるのかわからないのであった。
>
> 私は二度と交錯することの無い、最後の邂逅に感じました。
> 第三進東京市で姿を隠したときと何も変わっていない、変わらないことを望んでいると、そう暗示してるように思えて。
既に何を書こうとしたのか判然としなくなってますが、ほとんど他人の文章として読み
直してみると、マナとしてはある意味ではリセットかな、と思いました。「第三進東京市
で姿を隠したときと何も変わっていない」という意味でのリセット。で、そこから前に進
もうとしている。で、ケンスケは過去を引きずりながらも先を焦っている。現時点をゼロ
として、マナがプラスマイナス5だとしたらケンスケはプラマイ10くらいを抱えている
とか、そんな感じ。
それが、ぱしゃっといったあとにどう影響するかは、私にもわかりません。というか、
プラマイどうのとかは書いてる時には考えてなかったということは明言しておきます(爆)。
> >> 「なあ、マナ」
> >> 「ナマだよ」
>
> > ここは重要なシーンのはずなんだけど、突き放してるのか引き寄せてるのか、あるいは
> >やり直そうとしてるのかわからないのであった。
>
> 私は二度と交錯することの無い、最後の邂逅に感じました。
> 第三進東京市で姿を隠したときと何も変わっていない、変わらないことを望んでいると、そう暗示してるように思えて。
既に何を書こうとしたのか判然としなくなってますが、ほとんど他人の文章として読み
直してみると、マナとしてはある意味ではリセットかな、と思いました。「第三進東京市
で姿を隠したときと何も変わっていない」という意味でのリセット。で、そこから前に進
もうとしている。で、ケンスケは過去を引きずりながらも先を焦っている。現時点をゼロ
として、マナがプラスマイナス5だとしたらケンスケはプラマイ10くらいを抱えている
とか、そんな感じ。
それが、ぱしゃっといったあとにどう影響するかは、私にもわかりません。というか、
プラマイどうのとかは書いてる時には考えてなかったということは明言しておきます(爆)。
件名 | : Re: 想い届かず |
投稿日 | : 2009/08/05 20:28 |
投稿者 | : あいだ |
参照先 | : |
お久しぶりでございます。
幽霊部員を通り過ぎてそろそろ首になりそうなあいだでございます。
皆様いかがお過ごしですか。
久しぶりに長兄の文章を読めてぼかぁ幸せです。
まさしくサイドストーリーたるSS、と言ったところでしょうか。
>> 「なあ、マナ」
>> 「ナマだよ」
> ここは重要なシーンのはずなんだけど、突き放してるのか引き寄せてるのか、あるいは
>やり直そうとしてるのかわからないのであった。
私は二度と交錯することの無い、最後の邂逅に感じました。
第三進東京市で姿を隠したときと何も変わっていない、変わらないことを望んでいると、そう暗示してるように思えて。
だから私には、この話は切なくて、月の儚い白さを感じます。
幽霊部員を通り過ぎてそろそろ首になりそうなあいだでございます。
皆様いかがお過ごしですか。
久しぶりに長兄の文章を読めてぼかぁ幸せです。
まさしくサイドストーリーたるSS、と言ったところでしょうか。
>> 「なあ、マナ」
>> 「ナマだよ」
> ここは重要なシーンのはずなんだけど、突き放してるのか引き寄せてるのか、あるいは
>やり直そうとしてるのかわからないのであった。
私は二度と交錯することの無い、最後の邂逅に感じました。
第三進東京市で姿を隠したときと何も変わっていない、変わらないことを望んでいると、そう暗示してるように思えて。
だから私には、この話は切なくて、月の儚い白さを感じます。
件名 | : Re: 想い届かず |
投稿日 | : 2009/07/27 22:16 |
投稿者 | : tamb |
参照先 | : |
みなさんどもです。
読み返すと誤字脱字誤変換のオンパレードだけど、そう悪くないな(^^;)。
マナはケンスケを「相田君」「ケロスケ」「ケンスケ」。
ケンスケはマナを「霧島」「ナマ」「マナ」。例外として「霜鳥」。
この呼び方の違いで相手を見ている時の距離感あるいはベクトルが異なる。異なるんだ
が、どう異なるかは私も把握しきれずに書いたので、読んでる人にもいまいちわからんと
思われる(爆)。だから
> 「なあ、マナ」
> 「ナマだよ」
ここは重要なシーンのはずなんだけど、突き放してるのか引き寄せてるのか、あるいは
やり直そうとしてるのかわからないのであった。
> これ、文脈通りEOEでいいのか?
です。
> そこで補完来るのか!
来ます。というか、他にタイミングはないかと。
> そして、マナも。
彼女が弾けた時、誰の姿を見たのかにかかってるかもしれません。それは私にもわから
ないのです。
読み返すと誤字脱字誤変換のオンパレードだけど、そう悪くないな(^^;)。
マナはケンスケを「相田君」「ケロスケ」「ケンスケ」。
ケンスケはマナを「霧島」「ナマ」「マナ」。例外として「霜鳥」。
この呼び方の違いで相手を見ている時の距離感あるいはベクトルが異なる。異なるんだ
が、どう異なるかは私も把握しきれずに書いたので、読んでる人にもいまいちわからんと
思われる(爆)。だから
> 「なあ、マナ」
> 「ナマだよ」
ここは重要なシーンのはずなんだけど、突き放してるのか引き寄せてるのか、あるいは
やり直そうとしてるのかわからないのであった。
> これ、文脈通りEOEでいいのか?
です。
> そこで補完来るのか!
来ます。というか、他にタイミングはないかと。
> そして、マナも。
彼女が弾けた時、誰の姿を見たのかにかかってるかもしれません。それは私にもわから
ないのです。
件名 | : Re: 想い届かず |
投稿日 | : 2009/07/25 01:52 |
投稿者 | : calu |
参照先 | : |
久しぶりのtambさんのSS。有難うございました。
『出会ってしまった』ものの『その想いを伝える事ができない』という共通項を持つ二人のストーリー。
敢えてtambさんはLMKを冒頭で否定されていますが、その展開を期待させるようなセンテンスもチラホラ
と見えるような……。
それだけにラストシーンには驚きました。
>……綾波か。碇は元気か?
ガフの部屋が開いた時、これまで見た事も無いような笑顔を浮かべて自分を見つめるレイに、
ケンスケは全てを理解したのかもしれないですね。
> なぁ綾波、俺は――。
だから届けようとした想い。結果は……でも、その瞬間、彼はこの上なく幸せだったのでしょう。
そして、マナも。
『出会ってしまった』ものの『その想いを伝える事ができない』という共通項を持つ二人のストーリー。
敢えてtambさんはLMKを冒頭で否定されていますが、その展開を期待させるようなセンテンスもチラホラ
と見えるような……。
それだけにラストシーンには驚きました。
>……綾波か。碇は元気か?
ガフの部屋が開いた時、これまで見た事も無いような笑顔を浮かべて自分を見つめるレイに、
ケンスケは全てを理解したのかもしれないですね。
> なぁ綾波、俺は――。
だから届けようとした想い。結果は……でも、その瞬間、彼はこの上なく幸せだったのでしょう。
そして、マナも。
件名 | : Re: 想い届かず |
投稿日 | : 2009/07/24 19:21 |
投稿者 | : タン塩 |
参照先 | : |
そこで補完来るのか!いつナマ(笑)が蒸発するのかとワクワクしてたオイラは
とんだおマヌケ野郎だぜ!うーん恋はタイミング♪
とんだおマヌケ野郎だぜ!うーん恋はタイミング♪
件名 | : Re: 想い届かず |
投稿日 | : 2009/07/22 22:05 |
投稿者 | : のの |
参照先 | : |
第3新東京市の暑い夏を思い出させる。
そういうSSでした。
97年の夏を何故か思い出させます。
途中の会話が確かに「LOVERS KISS」ですね。
あそこがまた切ないとこなんだよなあ、緒方がいいやつで……。
ええと、なんだっけ。
そうだ、懐かしい気がした、という話。
最後の公園のシーン、どの程度の時間が経ったのかわからないな、と思ったら最後。度肝を抜かれてしまう。
ううむ、なんだか虚実ないまぜの様な。捉えにくい。
これ、文脈通りEOEでいいのか?
少なくとも、ヱヴァンゲリヲンじゃないんだろうな。
そういうSSでした。
97年の夏を何故か思い出させます。
途中の会話が確かに「LOVERS KISS」ですね。
あそこがまた切ないとこなんだよなあ、緒方がいいやつで……。
ええと、なんだっけ。
そうだ、懐かしい気がした、という話。
最後の公園のシーン、どの程度の時間が経ったのかわからないな、と思ったら最後。度肝を抜かれてしまう。
ううむ、なんだか虚実ないまぜの様な。捉えにくい。
これ、文脈通りEOEでいいのか?
少なくとも、ヱヴァンゲリヲンじゃないんだろうな。
件名 | : Re: 想い届かず |
投稿日 | : 2009/07/18 01:40 |
投稿者 | : tamb |
参照先 | : |
「ねぇ軍事オタ。ケロスケだっけ? ちょっといい?」
「いい加減に名前くらい覚えてくれよ。霜鳥ナマ」
「霧島マナだよ。ひとつも合ってないじゃん」マナはそう言いながらケンスケの前の席に
座り、彼が眺めている雑誌を覗き込んだ。
「ハンドガンにも興味があるの?」
ケンスケは驚いたように顔を上げた。
「ハンドガンなんて言う女は初めてだ」
「普通はなんて言うの?」
「ピストルとか、拳銃とか」
「あ、そっか」
彼女は肩をすくめ、小さく舌を出した。
「お前も興味あるのか?」
「別に……。グロック、好きなの?」
「まあな。いい銃だと思うよ。でも、これがグロックだってよくわかるな」
「ここに書いてある。『GLOCK17』って」
マナはページを指差して言った。
「なるほどね」
「でもさ、グロックってリコイル強いのよね。軽い分だけ」
「良く知ってるな。……まさか撃ったこと、あんのか?」
「まさか」マナは少しだけ目を伏せた。「あるわけないじゃん。映画かなんかで見ただけ」
「そうか。そりゃそうだよな」
「何でもいいのよ、サイドアームなんて。しょせん飾りなんだし」
「ま、それは言いっこなしだ」ケンスケは雑誌を閉じ、マナに視線を向けた。「ハンドガ
ンの話がしたいわけじゃないだろ? ナマ」
「マナだってば」
ケンスケは笑顔になったマナに目で先を促した。マナはそれを避けるように目を逸らし、
笑顔を消した。
「シンジ君のことなんだけど……」
「碇がどうかしたのか?」
「綾波さんと、付き合ってるのかな……」
ケンスケは二人の方を見た。レイとシンジ。いつものように、窓際のレイの前の席にシ
ンジが座っている。シンジは笑顔で、レイも柔らかな笑みを見せている。レイの笑顔を見
ることができるのは、こんな時だけだ。
「ああ。まず間違いないだろうな」
「そっかあ……」マナは天を仰いだ。「もう、キスとかもしちゃってるのかなぁ」
「とんでもないよ」
ケンスケは苦笑してそう言った。
「そうなの?」
「そうさ。キスどころか手を繋いでるかどうかすら怪しいね。どうかすると意思確認すら
してないんじゃないかって思うよ」
「意思確認って……どっちからもコクってないってこと?」
「そう」
「それで付き合ってるって言えるの?」
「それは定義によるな。付き合うっていうことの。……お前、碇が好きなのか?」
マナはケンスケの目をちらりと見た後、うつむいてこくりと頷いた。
「そうか……。ま、止めはしないけどな」
「相田君はどうなの? 綾波さんのこと、好きなんでしょう?」
「どうしてそう思う?」
「見てればわかる。相田君が綾波さんのこと見る目って、他の人を見る目とは違うから」
「なるほどな」
ケンスケは否定も肯定もしなかった。
「それでいいの?」
「綾波が」ケンスケは再び二人の方を見た。「あんないい顔をするようになったのは、シ
ンジが転校して来てからだ。もし仮に俺がシンジよりあらゆる面で――いいか、あらゆる
面でだぞ、あらゆる面でシンジより優れていたとしても、あいつは俺を選ばないよ。俺に
はわかる。いい男とかかっこいい男じゃない、あいつにはシンジが必要なんだ。そして俺
は、必ずしもあらゆる面でシンジより優れているわけじゃない」
「……そういうの、なんて言うか知ってる?」
「なんて言うんだよ」
マナは顔を上げ、ケンスケを真っ直ぐに見て言った。
「敗北主義。隠し撮りした彼女の水着写真見ながら、毎晩ずっとベッドの中で一人でして
るつもりなの?」
「うるせぇよ。お前に関係ない。お前だって俺が撮ってやったシンジの写真でぶっかいて
んじゃねぇのかよ」
「してるよ」マナは目線を逸らさずに言った。「毎晩。パジャマの中に手ぇ突っ込んで、
足がくがくさせながら」
「……悪かった」
「あたしも、ごめん……」
しらけた空気が漂った。チャイムの音に助けられ、マナが立ち上がる。振り向きもせず、
彼女は自分の席に戻った。
放課後。ホームルームが終わるとクラスは開放感に包まれる。本部に向かうシンジたち、
妹の病院に行くトウジに手を振ってから、ケンスケはのろのろと歩き出した。ゲームセン
ターの他に彼の行き場所はない。
「ケロスケ、ちょっと」
「なんだよナマ」
二人は怒ったような表情で顔を見合わせた。
「あたしはシンジ君のこと、諦めないから」
「それはお前の自由だ。止めないよ。さっきも言ったけどな」
「でも、あたしが綾波さんからシンジ君のこと取ったら、綾波さんは不幸になるかもしれ
ないよ?」
「それは望ましいことじゃないな」ケンスケは苦笑した。「それが碇の選択ならそれでい
いのかもしれないし……その時に考えるさ。今考えてもしょうがない」
マナ黙って帰りかけ、思いついたように振り向き、笑顔を作って言った。
「ねぇ、一緒に帰ろうか。一緒に帰ってあげる」
「俺はゲーセンに寄ってくけど」
「あたしも行く。連れてって」
「ねぇ、麻雀ってどうやるの?」
「セブンブリッジみたいなもんだな」
「この女の子が脱いでくれるの?」
「たぶんな。でもそれは18歳未満のお子様はやっちゃだめなんだ」
「えー。つまんないの」
マナは周囲を見渡し、二人プレイのできるガンシューティングゲームを指差した。
「あれ、やろ」
彼女のゲームセンスは皆無に等しかった。ばりばりと撃ちまくり、「あ、民間人だった。
もお、出て来ないでよぉ。こんなとこにぃ!」などと言ってむくれている。
「あいつを撃つんだ! あいつを!」
「あーん弾切れ! アンモはどこ!」
「右下に落ちてる! 早く! あー俺も弾切れだ! うおおやられた!」
大騒ぎしながら呆れるほどお金を使い、疲れるとクレーンゲームをやった。マナはぬい
ぐるみをたくさん取ってもらってご満悦だった。
ゲームにも飽きると、マナはカラオケに行く事を提案した。
カラオケボックスで彼女は流行りのポップソングを熱唱し、ケンスケはアニソンを歌い
まくった。
レパートリーを歌い尽くしたマナは、広げた両手をソファーの背もたれに置いて座って
いるケンスケの隣にどんと腰をおろした。
「あー疲れた。あたし、こんなに歌ったのはじめてかも」
そう言ってケンスケの左肩に頭を預けた。
「俺もだ。もう唄う歌、ないよ」
マナがケンスケの肩に頬を擦りつける。ケンスケの手は動かない。
「そろそろ帰ろう。送っていくよ」
「そうね」
マナが手洗いに行っているうちに会計を済ませ、ありがとうの声を聞き流して街に出た。
もう夜だった。
「暗くなっちゃったね」
「もうすっかり夜だな」
「家の人に怒られない?」
「うちは大丈夫だよ。どうせまだ帰ってない。お前は大丈夫なのか?」
「大丈夫。いくら遅くなっても平気」
「そうか」
二人の会話はそこで途切れた。
どれくらい経った頃か、やがてマナが口を開いた。
「ねえ、相田君」
「ん?」
「相田君は、女の子と付き合ったりしたこと、あるの?」
「いや、ないよ。……どうしてそんなこと聞く?」
「別に。なんとなく」
「お前は?」
「あたし?」
「男と付き合ったこと、あんのか?」
「ない。たぶん」
「なんだよ、たぶんってのは」
マナは笑って首を振った。
「ないよ。付き合ってるって意識したことはないし。綾波さんとシンジ君が付き合ってる
って言えるのならってちょっと思ったけど、それでもやっぱり、ない」
「世の中にはさぁ」ケンスケは少し考えてから言った。「いい男もいい女も、いくらでも
いるのになぁ」
「いるのにねー」
マナが同意し、二人は顔を見合わせて笑った。
それから彼女は立ち止まって言った。
「もうここでいいわ。すぐだから」
「いいのか」
「うん。……今日はありがとう」
「いや、いいよ」
「じゃあ、またね」
「ああ」
走ってゆくマナの後姿を、ケンスケは見守った。彼に、他に出来ることはなかった。
何日か経った頃、何をするでもなく自室でぼんやりとしていたケンスケの携帯が鳴った。
知らない番号だった。
「はい、相田ですが」
「あたし。マナ。今から出て来れない?」
ケンスケは時計を見た。十時を少し回ったところだった。父親はまだ帰らない。
「別にいいけど。どこに行けばいいんだ?」
マナはレイの部屋の近くにあるコンビニの名前を言った。
「早く来て。待ってる」
「すぐ行くけど……お前、なんで俺の携帯番号知ってるわけ?」
「調べる方法はあるの。じゃ、待ってるから」
ケンスケの返事を待たず、電話は切れた。最後の方は涙声のように思えた。
彼は自転車に飛び乗り、コンビニに向かった。
マナは駐車場の輪止めに座り込んでケンスケを待っていた。
「待ったか」
「ううん。ごめんね、急に呼び出したりして」
そう答えた彼女は、泣いてこそいなかったが、目が赤いのは駐車場の暗い明かりの中で
もはっきりと見えた。
「なんだよ、そんなとこに座って。立ち上がり方によっちゃあパンツ丸見えだぜ」
ケンスケはそう言って手を差し出す。彼女は笑顔になってその手につかまり、立ち上が
った。そして、ごめんね、ともう一度言った。
「いいって」
「家まで送ってくれる?」
「ああ、いいよ。乗るか?」
ケンスケは自転車の後ろを指差す。マナは首を振った。
「少し歩きたいの」
「そうか」
自転車はコンビニに置き去りにし、ケンスケはマナに歩調を合わせて歩き出した。どち
らも黙ったままだった。マナが話はじめるのを、ケンスケはじっと待っていた。
「相田君て」やがてマナが口を開いた。「優しいのね」
「――見せかけだよ」
マナは寂しげに笑った。
「シンジ君と綾波さんがね、キスしてるとこ、見たの」
本部でのテストが終わった後、シンジはレイを送るだろう。アスカが参加しないテスト
ならまず間違いない。マナはそう考えた。二人が並んで歩いているのを見るのは嫌だった
から、レイの部屋からシンジの部屋に行く途中にあるコンビニで待っていた。偶然を装っ
て声をかけ、部屋まで送ってもらおうと思った。
だが、シンジはレイと共にコンビニに現れた。マナは店の中を逃げ惑い、ようやく見つ
からずに外に出ることができた。自分が馬鹿に思えた。
二人は買い物を済ますと、並んでレイの部屋に向かった。彼女は何も考えず二人の後を
つけた。二人はマンションに入る直前、立ち止まってキスをした。そして、部屋の中に消
えた。
「キスなんてさあ、部屋の中ですればいいのにね」
ケンスケは黙ったままその声を聞いていた。
「相田君の言ってたこと、わかる気がしたよ。キスした後の綾波さん、とっても可愛かっ
た。遠くから見てただけだけど、そう思えた。シンジ君も幸せそうだった。お似合いの二
人だって、そう思った。……でも、くやしくなかった」
マナは立ち止まり、ケンスケに一歩近づいた。
「ねぇ相田君。どうして人は、人を好きになるの?」
ケンスケは手を広げかけ、その手をポケットに突っ込んだ。
「霧島。俺は――」
「わかってる。言わないで」
「……」
「あたしはシンジ君に、ケンスケ君は綾波さんに、会っちゃったんだもんね」
「もし、先に会えてたら――」
「会えてたら?」
「いや、仕方のないことだよ。そんなこと考えても」
「……そうよね」
「でも、人の気持ちなんて、自分では――」
ケンスケは人の気配を感じて言葉を切った。マナも顔を上げ、振り返った。
「霧島マナだな?」
サングラスこそしていないが、絵に描いたような黒ずくめの男が三人、拳銃を構えて立
っていた。言葉を発しなかった二人はやや後方に立ち、周囲を警戒している。教科書通り
の相互支援に隙はなかった。ましてや向こうはプロ、こっちは素人だ。銃はH&KのUSP。同
じ物をネルフの射撃場でミサトに見せてもらったことがあった。
ケンスケは動けなかった。銃口が自分の方を向いているという恐怖を、彼は初めて味わ
っていた。
「そうだけど?」
マナは静かにそう答え、一歩前に出た。
月光に濡れた彼女の後姿が、やけに寂しそうに見えた。
「ネルフ保安諜報部だ。同行してもらいたい」
「いや、と言うわけにはいかないみたいね」
「気分は悪くない方がいいだろう。お互いにな。二人とも手を上げてくれ。悪いがチェッ
クさせてもらう」
男がマナに手を伸ばした。ケンスケは恐怖を忘れた。
「マナに触れるな!」
そう叫び、男を突き飛ばした。予想しなかったケンスケの動きに、マナから男たちの目
線が切れた。
その瞬間、マナは腰を落としてスカートの中に手を入れた。スカートから出した手には
拳銃が握られていた。その動きを視界の隅に捉え、男たちがマナに目線を戻そうとしたと
き、マナは既に発砲していた。六発。長く尾をひいた発射音がほとんど一発に聞こえるほ
どの速射だったが、三発の弾丸は男たちの大腿を正確に射抜いていた。残りの三発はUSP
に着弾し、薬室内の.45ACPを暴発させた。
「悪いけど、同行するわけにはいかないの。帰って上官にそう伝えてくれる?」
「きさま……」
「デート中なの。邪魔しないで。それとも、もう片方の足も撃たれたい?」
「――」
「警察が来るわよ。行きなさい、早く」
マナの静かだが威圧感のある声に、男たちは足を引きずりながら去っていった。
「グロック26だよ」
マナは男たちが消えるのを見届け、散らばった薬莢を拾いながら言った。
「そうだな。見ればわかる」ケンスケもマナを手伝いながら言う。
「さすが。……いくつ拾った?」
「三つだ。そっちは?」
「あたしも三つ。これで全部だね」
彼女はケンスケから薬莢を受け取り、それから恥ずかしそうな笑顔を浮かべて言った。
「あたしの目、見てて。下、見ちゃダメだよ」
マナはそう言ってケンスケに近づいた。ケンスケの視界の隅で彼女はスカートをめくり、
内腿につけたホルスターに銃を収めた。
「熱くないのか?」
自分でも変なことを言うなとケンスケは思う。
「大丈夫。厚手の革で出来てるから。グロックってポリマーフレームだしね。知ってるで
しょ?」
「そうだな」
「……変なとこ、見せちゃったね」
「いや、いいよ」
「助かったわ。ありがとう。あたし、ネルフ諜報部に捕まるわけにはいかないの」
「そうか」
「逃げないと、警察が来たら話がややこしくなっちゃうね」
「そうだな」
「ケロスケってば、さっきから生返事ばっかり」
「ケンスケだよ」
マナは笑い、ケンスケの手を取ると歩き出した。
「こういう時はね、走ったりしちゃダメなのよ」
しばらく無言で歩いた後、ケンスケが意を決したように言った。
「……なあ、霧島」
「――」
「何か、俺に出来ることはないか? 俺が、お前にしてやれることは」
マナは立ち止まった。
遠くから、今さらのようにサイレンの音が聞こえた。
「……ありがとう。何かあったら遠慮なくお願いするから」
「お前、こないだからありがとうありがとうって、そればっかりだ」
「そうかな」
「そうだよ」
「ひとつ、お願いがあるの」
「何でも言ってくれ」
「ネルフに呼ばれて、いろいろ聞かれると思う。その時、変に隠したりしないで、そのま
ま話してくれていいから」
「……」
「拷問とかはないと思うけど、薬とか使われたら隠せないし。隠す必要もないけど」
「わかった」
「じゃあ、また連絡するから。……カラオケとか、また連れてってね」
「ああ。楽しみにしてるよ」
じゃあねと手を振り、走ってゆくマナの後姿をケンスケは見守った。これで二回目だな
と彼は思った。まだ二回目だ。
それきりマナは姿を消した。何の連絡もなかった。
戦自の一員である事が発覚し、名前を捨てて第3新東京市を去ったと、風の噂に聞いた。
調べる方法はある、と言った彼女の電話越しの声を思い出す。
霧島マナという名前が本名であったのかどうかすら、もう定かではなかった。
“事件”がどう処理されたのか、彼に調べる術はなかった。ネルフの尋問を受ける事も
なかったし、シンジやミサトに聞くわけにもいかない。
やがてケンスケも疎開のために第3新東京市を離れた。
公園のベンチで、ケンスケはぼんやりと空を見上げていた。父親は本部詰めのままで、
彼は遠い親戚を頼って一人でこの街に来た。学校が始まる見込みはなく、ゲームセンター
に行く気にもならない。図書館で勉強する振りをした後は、この公園で無駄な時間を過ご
すのが日課だった。
「あれ、ケロスケじゃない?」
聞き慣れたような懐かしいような声に、ケンスケは振り返った。
「よお、ナマじゃないか。お前もこの街に来てたのか」
「名前覚えてよ、ケロスケ。マナだよ」
「ケンスケだ」
お決まりの会話に笑顔を交わす。マナはケンスケの隣に座った。手を伸ばせば、ほんの
少し左手を動かせば届く距離。だが、手を伸ばさなければ決して届かない距離。
「何してるの?」
「見ての通り。なんにもしてないよ。することなんてないしな」
「そう」
「お前は?」
「おんなじ。なーんにもしてない」
「そうか」
「みんなは? 元気にしてる?」
「……ああ。何とかやってるはずだよ。連絡は取ってないけどな」
「そう……」
もう話すことはなかった。何か話したいとは思う。だが何もなかった。
「じゃ、またね」
そう言ってマナは立ち上がり、笑顔を見せた。
「なあ、マナ」
「ナマだよ」
ケンスケは吹き出し、マナも大きな声で笑った。
「カラオケ、また行こうな」
「うん。楽しみにしてる」
「じゃ、またな」
手を振る彼女に頷いて、ケンスケはその後姿を見送った。三回目だ。
携帯の番号を聞き忘れた。この街で使っているはずの名前も聞き忘れた。
だが、同じ街で暮らしているならいずれ会えるだろう。縁さえあれば。
空は抜けるような青で、いつもよりずっと高かった。マナは月光に濡れているよりも、
青空の下がずっと良く似合う。
どこかで何かが光ったような気がした。目を向けると、綾波レイの姿があった。
……綾波か。碇は元気か?
なぁ綾波、俺は――。
子供が戯れに水たまりに飛び込んだような音がした。
だが、彼はその音を聞かなかった。
「いい加減に名前くらい覚えてくれよ。霜鳥ナマ」
「霧島マナだよ。ひとつも合ってないじゃん」マナはそう言いながらケンスケの前の席に
座り、彼が眺めている雑誌を覗き込んだ。
「ハンドガンにも興味があるの?」
ケンスケは驚いたように顔を上げた。
「ハンドガンなんて言う女は初めてだ」
「普通はなんて言うの?」
「ピストルとか、拳銃とか」
「あ、そっか」
彼女は肩をすくめ、小さく舌を出した。
「お前も興味あるのか?」
「別に……。グロック、好きなの?」
「まあな。いい銃だと思うよ。でも、これがグロックだってよくわかるな」
「ここに書いてある。『GLOCK17』って」
マナはページを指差して言った。
「なるほどね」
「でもさ、グロックってリコイル強いのよね。軽い分だけ」
「良く知ってるな。……まさか撃ったこと、あんのか?」
「まさか」マナは少しだけ目を伏せた。「あるわけないじゃん。映画かなんかで見ただけ」
「そうか。そりゃそうだよな」
「何でもいいのよ、サイドアームなんて。しょせん飾りなんだし」
「ま、それは言いっこなしだ」ケンスケは雑誌を閉じ、マナに視線を向けた。「ハンドガ
ンの話がしたいわけじゃないだろ? ナマ」
「マナだってば」
ケンスケは笑顔になったマナに目で先を促した。マナはそれを避けるように目を逸らし、
笑顔を消した。
「シンジ君のことなんだけど……」
「碇がどうかしたのか?」
「綾波さんと、付き合ってるのかな……」
ケンスケは二人の方を見た。レイとシンジ。いつものように、窓際のレイの前の席にシ
ンジが座っている。シンジは笑顔で、レイも柔らかな笑みを見せている。レイの笑顔を見
ることができるのは、こんな時だけだ。
「ああ。まず間違いないだろうな」
「そっかあ……」マナは天を仰いだ。「もう、キスとかもしちゃってるのかなぁ」
「とんでもないよ」
ケンスケは苦笑してそう言った。
「そうなの?」
「そうさ。キスどころか手を繋いでるかどうかすら怪しいね。どうかすると意思確認すら
してないんじゃないかって思うよ」
「意思確認って……どっちからもコクってないってこと?」
「そう」
「それで付き合ってるって言えるの?」
「それは定義によるな。付き合うっていうことの。……お前、碇が好きなのか?」
マナはケンスケの目をちらりと見た後、うつむいてこくりと頷いた。
「そうか……。ま、止めはしないけどな」
「相田君はどうなの? 綾波さんのこと、好きなんでしょう?」
「どうしてそう思う?」
「見てればわかる。相田君が綾波さんのこと見る目って、他の人を見る目とは違うから」
「なるほどな」
ケンスケは否定も肯定もしなかった。
「それでいいの?」
「綾波が」ケンスケは再び二人の方を見た。「あんないい顔をするようになったのは、シ
ンジが転校して来てからだ。もし仮に俺がシンジよりあらゆる面で――いいか、あらゆる
面でだぞ、あらゆる面でシンジより優れていたとしても、あいつは俺を選ばないよ。俺に
はわかる。いい男とかかっこいい男じゃない、あいつにはシンジが必要なんだ。そして俺
は、必ずしもあらゆる面でシンジより優れているわけじゃない」
「……そういうの、なんて言うか知ってる?」
「なんて言うんだよ」
マナは顔を上げ、ケンスケを真っ直ぐに見て言った。
「敗北主義。隠し撮りした彼女の水着写真見ながら、毎晩ずっとベッドの中で一人でして
るつもりなの?」
「うるせぇよ。お前に関係ない。お前だって俺が撮ってやったシンジの写真でぶっかいて
んじゃねぇのかよ」
「してるよ」マナは目線を逸らさずに言った。「毎晩。パジャマの中に手ぇ突っ込んで、
足がくがくさせながら」
「……悪かった」
「あたしも、ごめん……」
しらけた空気が漂った。チャイムの音に助けられ、マナが立ち上がる。振り向きもせず、
彼女は自分の席に戻った。
放課後。ホームルームが終わるとクラスは開放感に包まれる。本部に向かうシンジたち、
妹の病院に行くトウジに手を振ってから、ケンスケはのろのろと歩き出した。ゲームセン
ターの他に彼の行き場所はない。
「ケロスケ、ちょっと」
「なんだよナマ」
二人は怒ったような表情で顔を見合わせた。
「あたしはシンジ君のこと、諦めないから」
「それはお前の自由だ。止めないよ。さっきも言ったけどな」
「でも、あたしが綾波さんからシンジ君のこと取ったら、綾波さんは不幸になるかもしれ
ないよ?」
「それは望ましいことじゃないな」ケンスケは苦笑した。「それが碇の選択ならそれでい
いのかもしれないし……その時に考えるさ。今考えてもしょうがない」
マナ黙って帰りかけ、思いついたように振り向き、笑顔を作って言った。
「ねぇ、一緒に帰ろうか。一緒に帰ってあげる」
「俺はゲーセンに寄ってくけど」
「あたしも行く。連れてって」
「ねぇ、麻雀ってどうやるの?」
「セブンブリッジみたいなもんだな」
「この女の子が脱いでくれるの?」
「たぶんな。でもそれは18歳未満のお子様はやっちゃだめなんだ」
「えー。つまんないの」
マナは周囲を見渡し、二人プレイのできるガンシューティングゲームを指差した。
「あれ、やろ」
彼女のゲームセンスは皆無に等しかった。ばりばりと撃ちまくり、「あ、民間人だった。
もお、出て来ないでよぉ。こんなとこにぃ!」などと言ってむくれている。
「あいつを撃つんだ! あいつを!」
「あーん弾切れ! アンモはどこ!」
「右下に落ちてる! 早く! あー俺も弾切れだ! うおおやられた!」
大騒ぎしながら呆れるほどお金を使い、疲れるとクレーンゲームをやった。マナはぬい
ぐるみをたくさん取ってもらってご満悦だった。
ゲームにも飽きると、マナはカラオケに行く事を提案した。
カラオケボックスで彼女は流行りのポップソングを熱唱し、ケンスケはアニソンを歌い
まくった。
レパートリーを歌い尽くしたマナは、広げた両手をソファーの背もたれに置いて座って
いるケンスケの隣にどんと腰をおろした。
「あー疲れた。あたし、こんなに歌ったのはじめてかも」
そう言ってケンスケの左肩に頭を預けた。
「俺もだ。もう唄う歌、ないよ」
マナがケンスケの肩に頬を擦りつける。ケンスケの手は動かない。
「そろそろ帰ろう。送っていくよ」
「そうね」
マナが手洗いに行っているうちに会計を済ませ、ありがとうの声を聞き流して街に出た。
もう夜だった。
「暗くなっちゃったね」
「もうすっかり夜だな」
「家の人に怒られない?」
「うちは大丈夫だよ。どうせまだ帰ってない。お前は大丈夫なのか?」
「大丈夫。いくら遅くなっても平気」
「そうか」
二人の会話はそこで途切れた。
どれくらい経った頃か、やがてマナが口を開いた。
「ねえ、相田君」
「ん?」
「相田君は、女の子と付き合ったりしたこと、あるの?」
「いや、ないよ。……どうしてそんなこと聞く?」
「別に。なんとなく」
「お前は?」
「あたし?」
「男と付き合ったこと、あんのか?」
「ない。たぶん」
「なんだよ、たぶんってのは」
マナは笑って首を振った。
「ないよ。付き合ってるって意識したことはないし。綾波さんとシンジ君が付き合ってる
って言えるのならってちょっと思ったけど、それでもやっぱり、ない」
「世の中にはさぁ」ケンスケは少し考えてから言った。「いい男もいい女も、いくらでも
いるのになぁ」
「いるのにねー」
マナが同意し、二人は顔を見合わせて笑った。
それから彼女は立ち止まって言った。
「もうここでいいわ。すぐだから」
「いいのか」
「うん。……今日はありがとう」
「いや、いいよ」
「じゃあ、またね」
「ああ」
走ってゆくマナの後姿を、ケンスケは見守った。彼に、他に出来ることはなかった。
何日か経った頃、何をするでもなく自室でぼんやりとしていたケンスケの携帯が鳴った。
知らない番号だった。
「はい、相田ですが」
「あたし。マナ。今から出て来れない?」
ケンスケは時計を見た。十時を少し回ったところだった。父親はまだ帰らない。
「別にいいけど。どこに行けばいいんだ?」
マナはレイの部屋の近くにあるコンビニの名前を言った。
「早く来て。待ってる」
「すぐ行くけど……お前、なんで俺の携帯番号知ってるわけ?」
「調べる方法はあるの。じゃ、待ってるから」
ケンスケの返事を待たず、電話は切れた。最後の方は涙声のように思えた。
彼は自転車に飛び乗り、コンビニに向かった。
マナは駐車場の輪止めに座り込んでケンスケを待っていた。
「待ったか」
「ううん。ごめんね、急に呼び出したりして」
そう答えた彼女は、泣いてこそいなかったが、目が赤いのは駐車場の暗い明かりの中で
もはっきりと見えた。
「なんだよ、そんなとこに座って。立ち上がり方によっちゃあパンツ丸見えだぜ」
ケンスケはそう言って手を差し出す。彼女は笑顔になってその手につかまり、立ち上が
った。そして、ごめんね、ともう一度言った。
「いいって」
「家まで送ってくれる?」
「ああ、いいよ。乗るか?」
ケンスケは自転車の後ろを指差す。マナは首を振った。
「少し歩きたいの」
「そうか」
自転車はコンビニに置き去りにし、ケンスケはマナに歩調を合わせて歩き出した。どち
らも黙ったままだった。マナが話はじめるのを、ケンスケはじっと待っていた。
「相田君て」やがてマナが口を開いた。「優しいのね」
「――見せかけだよ」
マナは寂しげに笑った。
「シンジ君と綾波さんがね、キスしてるとこ、見たの」
本部でのテストが終わった後、シンジはレイを送るだろう。アスカが参加しないテスト
ならまず間違いない。マナはそう考えた。二人が並んで歩いているのを見るのは嫌だった
から、レイの部屋からシンジの部屋に行く途中にあるコンビニで待っていた。偶然を装っ
て声をかけ、部屋まで送ってもらおうと思った。
だが、シンジはレイと共にコンビニに現れた。マナは店の中を逃げ惑い、ようやく見つ
からずに外に出ることができた。自分が馬鹿に思えた。
二人は買い物を済ますと、並んでレイの部屋に向かった。彼女は何も考えず二人の後を
つけた。二人はマンションに入る直前、立ち止まってキスをした。そして、部屋の中に消
えた。
「キスなんてさあ、部屋の中ですればいいのにね」
ケンスケは黙ったままその声を聞いていた。
「相田君の言ってたこと、わかる気がしたよ。キスした後の綾波さん、とっても可愛かっ
た。遠くから見てただけだけど、そう思えた。シンジ君も幸せそうだった。お似合いの二
人だって、そう思った。……でも、くやしくなかった」
マナは立ち止まり、ケンスケに一歩近づいた。
「ねぇ相田君。どうして人は、人を好きになるの?」
ケンスケは手を広げかけ、その手をポケットに突っ込んだ。
「霧島。俺は――」
「わかってる。言わないで」
「……」
「あたしはシンジ君に、ケンスケ君は綾波さんに、会っちゃったんだもんね」
「もし、先に会えてたら――」
「会えてたら?」
「いや、仕方のないことだよ。そんなこと考えても」
「……そうよね」
「でも、人の気持ちなんて、自分では――」
ケンスケは人の気配を感じて言葉を切った。マナも顔を上げ、振り返った。
「霧島マナだな?」
サングラスこそしていないが、絵に描いたような黒ずくめの男が三人、拳銃を構えて立
っていた。言葉を発しなかった二人はやや後方に立ち、周囲を警戒している。教科書通り
の相互支援に隙はなかった。ましてや向こうはプロ、こっちは素人だ。銃はH&KのUSP。同
じ物をネルフの射撃場でミサトに見せてもらったことがあった。
ケンスケは動けなかった。銃口が自分の方を向いているという恐怖を、彼は初めて味わ
っていた。
「そうだけど?」
マナは静かにそう答え、一歩前に出た。
月光に濡れた彼女の後姿が、やけに寂しそうに見えた。
「ネルフ保安諜報部だ。同行してもらいたい」
「いや、と言うわけにはいかないみたいね」
「気分は悪くない方がいいだろう。お互いにな。二人とも手を上げてくれ。悪いがチェッ
クさせてもらう」
男がマナに手を伸ばした。ケンスケは恐怖を忘れた。
「マナに触れるな!」
そう叫び、男を突き飛ばした。予想しなかったケンスケの動きに、マナから男たちの目
線が切れた。
その瞬間、マナは腰を落としてスカートの中に手を入れた。スカートから出した手には
拳銃が握られていた。その動きを視界の隅に捉え、男たちがマナに目線を戻そうとしたと
き、マナは既に発砲していた。六発。長く尾をひいた発射音がほとんど一発に聞こえるほ
どの速射だったが、三発の弾丸は男たちの大腿を正確に射抜いていた。残りの三発はUSP
に着弾し、薬室内の.45ACPを暴発させた。
「悪いけど、同行するわけにはいかないの。帰って上官にそう伝えてくれる?」
「きさま……」
「デート中なの。邪魔しないで。それとも、もう片方の足も撃たれたい?」
「――」
「警察が来るわよ。行きなさい、早く」
マナの静かだが威圧感のある声に、男たちは足を引きずりながら去っていった。
「グロック26だよ」
マナは男たちが消えるのを見届け、散らばった薬莢を拾いながら言った。
「そうだな。見ればわかる」ケンスケもマナを手伝いながら言う。
「さすが。……いくつ拾った?」
「三つだ。そっちは?」
「あたしも三つ。これで全部だね」
彼女はケンスケから薬莢を受け取り、それから恥ずかしそうな笑顔を浮かべて言った。
「あたしの目、見てて。下、見ちゃダメだよ」
マナはそう言ってケンスケに近づいた。ケンスケの視界の隅で彼女はスカートをめくり、
内腿につけたホルスターに銃を収めた。
「熱くないのか?」
自分でも変なことを言うなとケンスケは思う。
「大丈夫。厚手の革で出来てるから。グロックってポリマーフレームだしね。知ってるで
しょ?」
「そうだな」
「……変なとこ、見せちゃったね」
「いや、いいよ」
「助かったわ。ありがとう。あたし、ネルフ諜報部に捕まるわけにはいかないの」
「そうか」
「逃げないと、警察が来たら話がややこしくなっちゃうね」
「そうだな」
「ケロスケってば、さっきから生返事ばっかり」
「ケンスケだよ」
マナは笑い、ケンスケの手を取ると歩き出した。
「こういう時はね、走ったりしちゃダメなのよ」
しばらく無言で歩いた後、ケンスケが意を決したように言った。
「……なあ、霧島」
「――」
「何か、俺に出来ることはないか? 俺が、お前にしてやれることは」
マナは立ち止まった。
遠くから、今さらのようにサイレンの音が聞こえた。
「……ありがとう。何かあったら遠慮なくお願いするから」
「お前、こないだからありがとうありがとうって、そればっかりだ」
「そうかな」
「そうだよ」
「ひとつ、お願いがあるの」
「何でも言ってくれ」
「ネルフに呼ばれて、いろいろ聞かれると思う。その時、変に隠したりしないで、そのま
ま話してくれていいから」
「……」
「拷問とかはないと思うけど、薬とか使われたら隠せないし。隠す必要もないけど」
「わかった」
「じゃあ、また連絡するから。……カラオケとか、また連れてってね」
「ああ。楽しみにしてるよ」
じゃあねと手を振り、走ってゆくマナの後姿をケンスケは見守った。これで二回目だな
と彼は思った。まだ二回目だ。
それきりマナは姿を消した。何の連絡もなかった。
戦自の一員である事が発覚し、名前を捨てて第3新東京市を去ったと、風の噂に聞いた。
調べる方法はある、と言った彼女の電話越しの声を思い出す。
霧島マナという名前が本名であったのかどうかすら、もう定かではなかった。
“事件”がどう処理されたのか、彼に調べる術はなかった。ネルフの尋問を受ける事も
なかったし、シンジやミサトに聞くわけにもいかない。
やがてケンスケも疎開のために第3新東京市を離れた。
公園のベンチで、ケンスケはぼんやりと空を見上げていた。父親は本部詰めのままで、
彼は遠い親戚を頼って一人でこの街に来た。学校が始まる見込みはなく、ゲームセンター
に行く気にもならない。図書館で勉強する振りをした後は、この公園で無駄な時間を過ご
すのが日課だった。
「あれ、ケロスケじゃない?」
聞き慣れたような懐かしいような声に、ケンスケは振り返った。
「よお、ナマじゃないか。お前もこの街に来てたのか」
「名前覚えてよ、ケロスケ。マナだよ」
「ケンスケだ」
お決まりの会話に笑顔を交わす。マナはケンスケの隣に座った。手を伸ばせば、ほんの
少し左手を動かせば届く距離。だが、手を伸ばさなければ決して届かない距離。
「何してるの?」
「見ての通り。なんにもしてないよ。することなんてないしな」
「そう」
「お前は?」
「おんなじ。なーんにもしてない」
「そうか」
「みんなは? 元気にしてる?」
「……ああ。何とかやってるはずだよ。連絡は取ってないけどな」
「そう……」
もう話すことはなかった。何か話したいとは思う。だが何もなかった。
「じゃ、またね」
そう言ってマナは立ち上がり、笑顔を見せた。
「なあ、マナ」
「ナマだよ」
ケンスケは吹き出し、マナも大きな声で笑った。
「カラオケ、また行こうな」
「うん。楽しみにしてる」
「じゃ、またな」
手を振る彼女に頷いて、ケンスケはその後姿を見送った。三回目だ。
携帯の番号を聞き忘れた。この街で使っているはずの名前も聞き忘れた。
だが、同じ街で暮らしているならいずれ会えるだろう。縁さえあれば。
空は抜けるような青で、いつもよりずっと高かった。マナは月光に濡れているよりも、
青空の下がずっと良く似合う。
どこかで何かが光ったような気がした。目を向けると、綾波レイの姿があった。
……綾波か。碇は元気か?
なぁ綾波、俺は――。
子供が戯れに水たまりに飛び込んだような音がした。
だが、彼はその音を聞かなかった。
バックグラウンドとしてのLRSはあるが、基本的にレイもシンジも出て来ない。
緒形ゆう氏の「アイのあいさつ」を読んで唐突に思い出した吉田秋生の「ラヴァーズ・
キス」という漫画にあった「出会ってしまった」という言葉をキーワードとして、「離脱」
というテーマで書いてみた。こういうテーマでこういうふうに書けばケンスケと作者が同
一視されるであろうという部分を避けたいという面も含めて、上手く書けなかった。なの
で掲示板投下となったのである。
とまあ以上言い訳ですが(^^;)、そんなことを踏まえて、別にいいじゃんと思う方だけ
お読みくださいませ。