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向いてないけど
件名 | : Re: 向いてないけど |
投稿日 | : 2009/12/24 23:21 |
投稿者 | : JUN |
参照先 | : |
やっぱり小説の投下が続くと、嬉しいものがあります。クリスマスパワーか(違)
すねてるレイというシチュはいつ見ても萌えます。というか、ぽかぽかします(爆)
やっぱり精進しなきゃな
書くぞーーーーー
すねてるレイというシチュはいつ見ても萌えます。というか、ぽかぽかします(爆)
やっぱり精進しなきゃな
書くぞーーーーー
件名 | : Re: 向いてないけど |
投稿日 | : 2009/12/24 01:48 |
投稿者 | : tamb |
参照先 | : |
「綾波って、料理は向いてないのかもしれないなぁ」
彼の些細なひとことが私を怒らせた。
「どうして?」
「だってさ、お味噌汁を作ってるんだろ? それなのにそんなに怪我してさ」
私の指に巻きつけられている絆創膏は日々増えてゆく。
それは事実だし、お味噌汁一つまともに作れないのも事実だ。血まみれのお豆腐でお味
噌汁を作るわけにはいかない。寸胴鍋一杯にお味噌汁を作っても、飲みきるのに何日かか
るかすら言われるまで気づかなかった。
でも、物には言い方があると思う。私が碇くんに美味しいお味噌汁を飲んでもらいたい
一心で料理の練習に励んでいる事に、彼は気づかないのだろうか。
「碇くんの言う通り。私は料理には向いてない」
私はそう言ってぷいと横を向いた。
「あ、い、いや、そういう意味じゃなくってさ」
今さら慌ててももう遅い。私の作ったお味噌汁を飲んで心から美味しいって言うまで、
もう口をきいてあげない。
「今度の日曜、綾波の部屋に行くよ。作り方、ちゃんと教えてあげるからさ」
「いい。お料理向いてないから」
「そんなことないって」
「さっき碇くん自身がそう言ったわ。向いてないって」
「ごめん。謝るよ」
「謝ることなんてない。事実だから」
「ほんとにごめん。許してよ」
「許すも許さないもない。事実だから」
「ごめん! この通り!」
「さよなら」
土下座せんばかりに頭を下げる碇くんを一瞥して、私は席を立った。
帰り道に赤木博士の所によって、傷の消毒と絆創膏の交換をして貰う。指に絆創膏を巻
くのはどんなに器用な人でも難しいから気にしなくていいと言ってくれる。そう言われる
と私も安心する。
「それにしても」と赤木博士が笑顔で言う。「ちょっと怪我しすぎよね」
「そう思います。自分でも」
赤木博士の前だと素直になれる。それが不思議だった。
「当面の目標はお豆腐のお味噌汁よね?」
「はい」
「ちょっとお豆腐切る真似してみて」
「……はい」
私は頭の中でお豆腐とまな板と包丁を思い浮かべ、仮想の包丁を持って想像のお豆腐を
切った。
「まず」赤木博士は少し呆れ気味に言った。「包丁はプログレッジブ・ナイフとは違うか
ら、突き刺すんじゃなくて切ればいいのよ。こんな風にね」
赤木博士は手で包丁の形を作り、小指の方に向かって動かして見せた。
目からウロコだった。
「普通は素材によって押すとか引くとかしながら切るんだけど、お豆腐はそんなことしな
くてもきれいに切れると思うわ。手のひらの上で切るっていう話もあるけど、最初のうち
はやめた方がいいわね。プロっぽくは見えるでしょうけど」
「手の上で?」
私の驚いたような顔を見て、赤木博士はまた笑った。
「それから、左手はこんな風にして」そう言いながら左手の指を曲げ、中指の関節部分を
指差した。「ここをこんな風に包丁にあてがって切ると、怪我しないで上手に切れるわよ。
やってみて」
私は言われた通りに真似をしてみた。そうそう上手、と誉めてくれた。嬉しかった。
「あとは、本屋さんで家庭料理の本でも買って、分からないことはシンジ君に――」そこ
まで言って、赤木博士は言葉を切った。「あなた、今日これから何か予定は?」
「いえ、特にありません」
「あたしの家で一緒に料理して、食事しない?」
断る理由はなかった。
「はい」
「じゃあ少し待ってて。仕事を終わらせるから」
赤木博士と一緒にスーパーに行って、買い物をする。
「お味噌汁に入れるお豆腐って、絹ごしでも木綿でも好みでいいんだけど、シンジ君はど
っちかしら?」
これは最初にお豆腐を買った時に迷いに迷ったから良く憶えている。
「絹ごしです」
「そう」
赤木博士は満足そうに頷いた。他に、ワカメと野菜と、私には何か良く分からない魚を
買った。
「ちょっとそこで見てて」
部屋着に着替えてエプロンをつけた赤木博士は、私に向かってそう言った。
干した魚を煮るところから始めて、あっという間にお味噌汁が出来上がった。あまりの
手際のよさに私は目を見張った。
「飲んでみて」
お味噌汁は、自分が作るものを除いては、碇くん、葛城さん、アスカさんが作ったもの
を飲んだことがある。
私は思った通りのことを口にした。
「全く同じ味ではないけれど、碇くんの作るお味噌汁と、どこか深いところで繋がってい
るような、そんな味がします。少なくとも、葛城さんやアスカさんが作るものとは違う味
です」
「やっぱりね」赤木博士は大きく息をついた。「これね、碇家の味なのよ」
「碇家の……味?」
「そう。碇家の味」
そして、赤木博士はこんなことを話してくれた。
赤木博士のお母さんは仕事がとても忙しく、赤木博士に料理を教えることはなかった。
もちろんお母さんの手料理を食べて育ってきたのだし、長じてからは自分の食事は自分で
作ることも多く、その味は必然的に赤木家の味だったはずだ。
ネルフに入り、赤木博士のお母さんが亡くなったあと、碇司令と親しくなった。碇司令
は意外に料理が上手で、自己流でしかなかった赤木博士に碇家の味を教えた。この豆腐の
味噌汁も碇司令に教わった。
「だしに煮干と干し椎茸を使うことと、お酒を大さじ一杯入れてひと煮立ちさせるのがポ
イントみたいね」
私はもう一口お味噌汁を飲んだ。
「これが碇家の……味……」
「シンジ君がどこでお料理を覚えたのかは知らないわ。もちろんユイさんの手料理は食べ
ていたはずだけど、ユイさんや、まさか碇司令がお料理を教えたとも思えないし。幼い頃
の記憶か……あるいはそれが“血”というものなのかもしれないわね」
食事を済ませたあと、包丁の使い方の特訓を受けた。それからお味噌汁の詳細な作り方
をメモしてもらい、何回失敗してもいいくらいたくさんの食材を抱え、帰途に着いた。
部屋に戻ると、ポストにお味噌汁の作り方のレシピを書いた紙が入っていた。他には手
紙も何もなかったけれど、字は碇くんのものだった。その内容は、赤木博士に書いてもら
ったものとほぼ同じだった。ただ、例えばだしはパックを使うという風に、なるべく簡単
に作れるように書いてあった。何故だか分からないけれど自然と笑顔になって、そして涙
がこぼれた。
結局、一睡もすることなく朝になった。
赤い目で――私の目はいつも赤いけれど、いつもよりもっと赤かったはずだ――学校に
行くと、もう碇くんは来ていた。
「お、おはよう」
碇くんが声をかけてくる。私は聞こえない振り。
「あ、綾波。あのさ……」
「なに?」
私は頑張ってそっけなく答える。
「昨日、綾波の部屋に行ったんだけど、その、いなかったみたいで……だからその、レシ
ピを書いて――」
私は碇くんを遮るように言った。
「それが、どうかしたの?」
「……いや、なんでもないよ。ごめん、変なこと聞いて」
碇くんの落ち込みように、私も少しかわいそうになった。もうそろそろいいだろう。
「今日の夜」私は怒った顔を作って、碇くんを真っ直ぐに見て言った。「お豆腐のお味噌
汁に合うおかずの用意をして、私の部屋に来て。お味噌汁とご飯は用意しておく」
「……え?」
「聞こえなかったの?」
私は同じセリフを繰り返した。
「あ、う、うん。わかった……」
碇くんは、私の怒った顔と要求とのギャップの大きさに、意図を計りかねているようだ
った。私はそっぽを向き、碇くんに見えないように堪えていた笑顔を弾けさせた。肩が震
えていたかもしれない。
「そこに座って」
「……はい」
「キッチンに来てはダメ。わかった?」
「わかりました」
私は部屋に来た碇くんに指示を出し、ベッドに座ってもらった。
今からお味噌汁を作る。赤木博士のように手際良くは行かないかもしれないが、徹夜ま
でしたのだ。それなりの自信はある。包丁を見つめる私の瞳は、たぶん光っていたと思う。
「私、お料理に向いてないから」私はお味噌汁をよそいだお椀を差し出した。「美味しく
ないと思うけど、飲んでみて」
彼は黙って受け取り、一口飲んで目を閉じた。
自信はあった。味見もした。それでも不安だった。
「……美味しいよ。僕が作るのなんかより、ずっと」
なるべく不機嫌な顔をしていようと思っていたけれど、やっぱり嬉しかった。笑顔にな
ってしまった。
「僕が書いたレシピで作っても、こうはならないと思うんだ。もし良かったら、誰に教わ
ったのか教えてくれないかな?」
「赤木博士に」
「リツコさん?」
赤木博士に聞いた話を、そのまま碇くんに伝えた。
「そうなんだ。父さんがリツコさんに……」
「うん」
「……それにしても」碇くんは気を取り直すようにして言った。「綾波は料理の天才だよ」
「天才?」
向いてないのと天才では方向がまるで逆だ。
「お味噌汁って、これで結構難しいんだ。レシピ通りに作っても、同じ味にはならないん
だよね。美味しかったり、美味しくなかったり。一回教わっただけでこんなに美味しく出
来るんなら、やっぱり天才だと思うよ」
すねている私のご機嫌をとるためにお世辞を言っているのかと、彼の顔色をうかがう。
お世辞や冗談とは思えなかった。
「……もう一度」
「すごく美味しいよ、このお味噌汁」
「もう一度」
「綾波は料理の天才だよ」
「もう一度」
「僕のために、毎日でも作って欲しい」
「もう一度」
「綾波のこと、好きだ」
「――もう、一度」
彼はお椀を置き、私を抱き締めて言った。
「綾波が世界で一番だ。綾波のこと、幸せにするよ」
「……ごめんなさい、すねたりして」
「いいんだ。僕の方こそ、ごめん。悪かったのは僕の方だから。……今度、前に開けなか
った食事会をやろうよ。僕も手伝うから。父さんもきっと喜んでくれる」
私は何も言うことができなかった。何か言えば泣いてしまいそうで。だから黙ってうな
ずき、目を閉じた。
初めてのキスは、お味噌汁の味だった。
彼の些細なひとことが私を怒らせた。
「どうして?」
「だってさ、お味噌汁を作ってるんだろ? それなのにそんなに怪我してさ」
私の指に巻きつけられている絆創膏は日々増えてゆく。
それは事実だし、お味噌汁一つまともに作れないのも事実だ。血まみれのお豆腐でお味
噌汁を作るわけにはいかない。寸胴鍋一杯にお味噌汁を作っても、飲みきるのに何日かか
るかすら言われるまで気づかなかった。
でも、物には言い方があると思う。私が碇くんに美味しいお味噌汁を飲んでもらいたい
一心で料理の練習に励んでいる事に、彼は気づかないのだろうか。
「碇くんの言う通り。私は料理には向いてない」
私はそう言ってぷいと横を向いた。
「あ、い、いや、そういう意味じゃなくってさ」
今さら慌ててももう遅い。私の作ったお味噌汁を飲んで心から美味しいって言うまで、
もう口をきいてあげない。
「今度の日曜、綾波の部屋に行くよ。作り方、ちゃんと教えてあげるからさ」
「いい。お料理向いてないから」
「そんなことないって」
「さっき碇くん自身がそう言ったわ。向いてないって」
「ごめん。謝るよ」
「謝ることなんてない。事実だから」
「ほんとにごめん。許してよ」
「許すも許さないもない。事実だから」
「ごめん! この通り!」
「さよなら」
土下座せんばかりに頭を下げる碇くんを一瞥して、私は席を立った。
帰り道に赤木博士の所によって、傷の消毒と絆創膏の交換をして貰う。指に絆創膏を巻
くのはどんなに器用な人でも難しいから気にしなくていいと言ってくれる。そう言われる
と私も安心する。
「それにしても」と赤木博士が笑顔で言う。「ちょっと怪我しすぎよね」
「そう思います。自分でも」
赤木博士の前だと素直になれる。それが不思議だった。
「当面の目標はお豆腐のお味噌汁よね?」
「はい」
「ちょっとお豆腐切る真似してみて」
「……はい」
私は頭の中でお豆腐とまな板と包丁を思い浮かべ、仮想の包丁を持って想像のお豆腐を
切った。
「まず」赤木博士は少し呆れ気味に言った。「包丁はプログレッジブ・ナイフとは違うか
ら、突き刺すんじゃなくて切ればいいのよ。こんな風にね」
赤木博士は手で包丁の形を作り、小指の方に向かって動かして見せた。
目からウロコだった。
「普通は素材によって押すとか引くとかしながら切るんだけど、お豆腐はそんなことしな
くてもきれいに切れると思うわ。手のひらの上で切るっていう話もあるけど、最初のうち
はやめた方がいいわね。プロっぽくは見えるでしょうけど」
「手の上で?」
私の驚いたような顔を見て、赤木博士はまた笑った。
「それから、左手はこんな風にして」そう言いながら左手の指を曲げ、中指の関節部分を
指差した。「ここをこんな風に包丁にあてがって切ると、怪我しないで上手に切れるわよ。
やってみて」
私は言われた通りに真似をしてみた。そうそう上手、と誉めてくれた。嬉しかった。
「あとは、本屋さんで家庭料理の本でも買って、分からないことはシンジ君に――」そこ
まで言って、赤木博士は言葉を切った。「あなた、今日これから何か予定は?」
「いえ、特にありません」
「あたしの家で一緒に料理して、食事しない?」
断る理由はなかった。
「はい」
「じゃあ少し待ってて。仕事を終わらせるから」
赤木博士と一緒にスーパーに行って、買い物をする。
「お味噌汁に入れるお豆腐って、絹ごしでも木綿でも好みでいいんだけど、シンジ君はど
っちかしら?」
これは最初にお豆腐を買った時に迷いに迷ったから良く憶えている。
「絹ごしです」
「そう」
赤木博士は満足そうに頷いた。他に、ワカメと野菜と、私には何か良く分からない魚を
買った。
「ちょっとそこで見てて」
部屋着に着替えてエプロンをつけた赤木博士は、私に向かってそう言った。
干した魚を煮るところから始めて、あっという間にお味噌汁が出来上がった。あまりの
手際のよさに私は目を見張った。
「飲んでみて」
お味噌汁は、自分が作るものを除いては、碇くん、葛城さん、アスカさんが作ったもの
を飲んだことがある。
私は思った通りのことを口にした。
「全く同じ味ではないけれど、碇くんの作るお味噌汁と、どこか深いところで繋がってい
るような、そんな味がします。少なくとも、葛城さんやアスカさんが作るものとは違う味
です」
「やっぱりね」赤木博士は大きく息をついた。「これね、碇家の味なのよ」
「碇家の……味?」
「そう。碇家の味」
そして、赤木博士はこんなことを話してくれた。
赤木博士のお母さんは仕事がとても忙しく、赤木博士に料理を教えることはなかった。
もちろんお母さんの手料理を食べて育ってきたのだし、長じてからは自分の食事は自分で
作ることも多く、その味は必然的に赤木家の味だったはずだ。
ネルフに入り、赤木博士のお母さんが亡くなったあと、碇司令と親しくなった。碇司令
は意外に料理が上手で、自己流でしかなかった赤木博士に碇家の味を教えた。この豆腐の
味噌汁も碇司令に教わった。
「だしに煮干と干し椎茸を使うことと、お酒を大さじ一杯入れてひと煮立ちさせるのがポ
イントみたいね」
私はもう一口お味噌汁を飲んだ。
「これが碇家の……味……」
「シンジ君がどこでお料理を覚えたのかは知らないわ。もちろんユイさんの手料理は食べ
ていたはずだけど、ユイさんや、まさか碇司令がお料理を教えたとも思えないし。幼い頃
の記憶か……あるいはそれが“血”というものなのかもしれないわね」
食事を済ませたあと、包丁の使い方の特訓を受けた。それからお味噌汁の詳細な作り方
をメモしてもらい、何回失敗してもいいくらいたくさんの食材を抱え、帰途に着いた。
部屋に戻ると、ポストにお味噌汁の作り方のレシピを書いた紙が入っていた。他には手
紙も何もなかったけれど、字は碇くんのものだった。その内容は、赤木博士に書いてもら
ったものとほぼ同じだった。ただ、例えばだしはパックを使うという風に、なるべく簡単
に作れるように書いてあった。何故だか分からないけれど自然と笑顔になって、そして涙
がこぼれた。
結局、一睡もすることなく朝になった。
赤い目で――私の目はいつも赤いけれど、いつもよりもっと赤かったはずだ――学校に
行くと、もう碇くんは来ていた。
「お、おはよう」
碇くんが声をかけてくる。私は聞こえない振り。
「あ、綾波。あのさ……」
「なに?」
私は頑張ってそっけなく答える。
「昨日、綾波の部屋に行ったんだけど、その、いなかったみたいで……だからその、レシ
ピを書いて――」
私は碇くんを遮るように言った。
「それが、どうかしたの?」
「……いや、なんでもないよ。ごめん、変なこと聞いて」
碇くんの落ち込みように、私も少しかわいそうになった。もうそろそろいいだろう。
「今日の夜」私は怒った顔を作って、碇くんを真っ直ぐに見て言った。「お豆腐のお味噌
汁に合うおかずの用意をして、私の部屋に来て。お味噌汁とご飯は用意しておく」
「……え?」
「聞こえなかったの?」
私は同じセリフを繰り返した。
「あ、う、うん。わかった……」
碇くんは、私の怒った顔と要求とのギャップの大きさに、意図を計りかねているようだ
った。私はそっぽを向き、碇くんに見えないように堪えていた笑顔を弾けさせた。肩が震
えていたかもしれない。
「そこに座って」
「……はい」
「キッチンに来てはダメ。わかった?」
「わかりました」
私は部屋に来た碇くんに指示を出し、ベッドに座ってもらった。
今からお味噌汁を作る。赤木博士のように手際良くは行かないかもしれないが、徹夜ま
でしたのだ。それなりの自信はある。包丁を見つめる私の瞳は、たぶん光っていたと思う。
「私、お料理に向いてないから」私はお味噌汁をよそいだお椀を差し出した。「美味しく
ないと思うけど、飲んでみて」
彼は黙って受け取り、一口飲んで目を閉じた。
自信はあった。味見もした。それでも不安だった。
「……美味しいよ。僕が作るのなんかより、ずっと」
なるべく不機嫌な顔をしていようと思っていたけれど、やっぱり嬉しかった。笑顔にな
ってしまった。
「僕が書いたレシピで作っても、こうはならないと思うんだ。もし良かったら、誰に教わ
ったのか教えてくれないかな?」
「赤木博士に」
「リツコさん?」
赤木博士に聞いた話を、そのまま碇くんに伝えた。
「そうなんだ。父さんがリツコさんに……」
「うん」
「……それにしても」碇くんは気を取り直すようにして言った。「綾波は料理の天才だよ」
「天才?」
向いてないのと天才では方向がまるで逆だ。
「お味噌汁って、これで結構難しいんだ。レシピ通りに作っても、同じ味にはならないん
だよね。美味しかったり、美味しくなかったり。一回教わっただけでこんなに美味しく出
来るんなら、やっぱり天才だと思うよ」
すねている私のご機嫌をとるためにお世辞を言っているのかと、彼の顔色をうかがう。
お世辞や冗談とは思えなかった。
「……もう一度」
「すごく美味しいよ、このお味噌汁」
「もう一度」
「綾波は料理の天才だよ」
「もう一度」
「僕のために、毎日でも作って欲しい」
「もう一度」
「綾波のこと、好きだ」
「――もう、一度」
彼はお椀を置き、私を抱き締めて言った。
「綾波が世界で一番だ。綾波のこと、幸せにするよ」
「……ごめんなさい、すねたりして」
「いいんだ。僕の方こそ、ごめん。悪かったのは僕の方だから。……今度、前に開けなか
った食事会をやろうよ。僕も手伝うから。父さんもきっと喜んでくれる」
私は何も言うことができなかった。何か言えば泣いてしまいそうで。だから黙ってうな
ずき、目を閉じた。
初めてのキスは、お味噌汁の味だった。
85~95。確かスレに出てた喧嘩で言い合いってお題から書いたはず。怒るレイだったかも
しんない。というか、怒るレイだと思ってたんだけど、自分で「喧嘩の言い合いってのを
書こうと思ってたんだが、書いてるうちにこんな話にw」とか書いてる。わけわからんw
スレの皆様に感謝します。