「綾波レイの幸せ」掲示板 四人目/小説を語る掲示板・ネタバレあり注意
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fld_nor.gif サイト開設十周年カウントダウン企画・十月
投稿日 : 2010/09/30 03:10
投稿者 tamb
参照先
月々のお題に沿って適当に書いて投下して頂こうという安易な企画です。作品に対するものは
もちろん、企画全体に対する質問や感想等もこのスレにどうぞ。詳細はこちらをご覧下さい。
http://ayasachi.sweet-tone.net/kikaku/10y_anv_cd/10y_anv_cd.htm

今月のお題は

・一番大切なこと
・わたしのお尻は喋らない
・Knockin' On Heaven's Door

です。
八月の企画、九月の企画、1111111ヒット記念企画も鋭意継続中です(これ、ずっと書くのだ
ろうか(^^;)。八月九月十月十一月十二月一月……)。

今月中には、インフォシークiswebライトのサービス終了に伴う雑談掲示板「新・「綾波レイ
の幸せ」掲示板 二人目」移転記念企画もありますので(あるのか?)そちらもよろしくお願
いします。

では、どうぞ。

以上、ほぼコピペ(爆)。
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12>
件名 Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・十月
投稿日 : 2010/12/04 08:39
投稿者 tamb
参照先
本当にすいません。
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件名 Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・十月
投稿日 : 2010/12/04 08:39
投稿者 tamb
参照先


*****輝ける未来の果てにあるもの*****



 すぱーん。

 軽快な音がいきなりキッチンに響いた。

「なにすんのよ!」

 じゃんけんに負けてみんなの分のコーヒーを淹れていたアスカがお尻を押さえて振り返る。
 そこにはカヲルが立っていた。

「いや、君のお尻がぶってって言ってたからさ」
「アタシのお尻は喋りません!」
「喋るよ」
「喋りません!」
『ぶって』
「ほら」

 すぱーん。

 カヲルはアスカの腰に手を回し後ろを向かせてお尻を叩いた。

『いい音。ぶって。もっとぶって』

 すぱーんすぱーんすぱーん。

 実際、アスカのお尻は喋ってはいない。当然である。
 声はリビングの方から聞こえていた。
 リビングではレイが雑誌を眺める振りをしながら視界の隅でアスカの様子をうかがっていた。

 まったくコイツは――。

 妙なことばかり憶えやがってとアスカは口の中で毒づく。

『ぶってぶって』

 すぱーんすぱーん。

「いい加減にしなさいよ!」

 アスカがついに切れる。

『じゃあなでて』
「なでたら殺す!」

 ソフトに手を伸ばそうとしたカヲルに向かって、アスカはドスの効いた声で凄んだ。カヲル
もさすがに笑顔を引きつらせて思い止まる。
 睨み付けるアスカ。
 脂汗を流すカヲル。
 この状況からどうやって逃れればいいのか。
 結局、カヲルにはこうするしかなかった。

『ぶって』

 シンジは事態を打開しようと立ち上がってキッチンに向かおうとしたところだった。シンジ
はカヲルの――自らの尻の声を聞いて立ち止まった。
 レイがゆらりと立ちあがり、シンジに歩み寄る。
 そして。

 すぱーん。

 軽快な音が響いた。

 シンジは続く展開を予想した。自らの意思によらない自らの行動を。そして、彼の予想通り
に事態は展開した。

『ぶって』

 アスカの――レイのお尻の声に導かれ、シンジは行動を起こした。あたかも自動機械の如く。

 すぱーん。

「……わたしのお尻が、喋ったの?」
「う、うん……」
「……そう。なら仕方がないわね」

 そして、誰かの尻またはお尻が再び喋り始めた。

『ぶって』すぱーん。
『もっと』すぱーん
『甘く』すぱーん。
『ああ』すぱーん。
『下から』すぱーん。
『とっても』すぱーん。
『くせに』すぱーん。
『稲妻が』すぱーん。

 既に誰の尻あるいはお尻が喋っているのか判然としない状況の中、誰かの尻またはお尻の声
と軽快な音が響き続ける。

『なんだか』すぱーん。
『どうして』すぱーん。
『んぅ』すぱーん。
『すぼめて』すぱーん。
『このままじゃ』すぱーん。
『開く』すぱーん。
『ほぐれて』すぱーん。
『未知の領域に』すぱーん。

 もはや完全な無限ループ、四面楚歌というかガマの油というかそういったゾーンに突入して
おり、そこから抜け出すのは容易ではない。何とかしなければと四人が四人とも思う。このま
までは衰弱死する。愚かな話である。だがどうすれば脱出できるのかわからなかった。

『夢の中で』すぱーん。
『チャクラが』すぱーん。
『アラバマ』すぱーん。
『まばゆい閃光』すぱーん。
『枯葉よ』すぱーん。
『純白の』すぱーん。
『ほとばしる』すぱーん。
『限界が』すぱーん。

 だが全員が死を覚悟した時、奇跡は起きた。ミサトという名の生贄が能天気にも現れたのだ。

「ただいまー。あれ、みんなどうしたの?」

 四人の心がひとつになった。

『ぶって』

 完璧なユニゾンと共に四人はミサトのお尻に殺到した。
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件名 Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・十月
投稿日 : 2010/11/18 06:36
投稿者 tamb
参照先
>>9
下から六行目
×やっぱりおちうが一番。
○やっぱりおうちが一番。

なんだよ、「おちう」って(^^;)。

■一番大切なことvol.2/JUN
( No.10 )

 何というか、果てしなく安心する話。こういう話、嫌いじゃない。むしろ好き(笑)。

> 「いまさら何言ってんの」

 この一言に、レイがシンジに今までどれほどの迷惑をかけてきたかについての妄想が広がり
まくる(笑)。


■Knockin’ On Heaven’s Door/NONO
( No.12 )

 何気ない日常、あるいは何気ない非日常がとても心地よい。

 歯を磨くのは朝食の前か後か、というのは驚くべき事に家風によって異なる。周囲の人々に
聞いてみると良い。気持ち悪いので起きたらすぐ磨きたいという向きもあるだろうし、食後に
磨かないと意味がないという理論もある。結果、二回磨くことにもなる。
 翌日の支度は前日のうちにしておくべきである。
 シンジは着替えているかもしれないと思うのだが、それはそれでいいのだろうか。


■親父・出現/何処
( No.14 )

> 皆さん今晩は、碇ゲンドウです。

 って書きたかっただけだろ!(爆)

 レイの発言に意味はないけど、ある意味ではレイらしい。

 「おなかすいたうた」は映像がシュールで笑った。転調もいい感じ。
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件名 Re: サイト開設十周年カウントダ
投稿日 : 2010/11/06 08:38
投稿者 何処
参照先
『皆さん今晩は、碇ゲンドウです。』


【親父・出現】


…?…

不意に皆の会話が止まった。
不審に思い野菜炒めから視線を上に上げる。

向かいの葛城三佐は箸を焼売に…赤木博士のお土産だ…伸ばした姿勢で固まっている。隣の赤木博士は味噌汁を手に…あ、零れてる。
右側に視線を移す。アスカはご飯粒を口元に着けてポカンと口を開けている。
フィフスは…あ、未だ倒れてる。まあ仕方無いだろう。アスカのハンバーグを奪取した復報だ。あの裏拳は見事だった…
更に視線を右へ、碇君は杓文字を握りアスカのお茶碗を持ったまま妙な格好で固まっている。

…?…

ご飯を咀嚼しながら左側に視線を移す。

テレビ画面には碇司令が映っている。
どうやらコメンテーターとして番組に出演しているようだ。

…少し野菜炒めの塩効きすぎたかしら…次は気を付けよう…

自作の野菜炒めの味付けを評しながら私はご飯をもう一口食べる。


『ネルフにおいて現在開発中のS2CSについてですが…』
『画期的な技術である事は間違いありません。しかしながら核やN2の様な軍事転用をいかに防止しながら技術公開をいかに進めるかが課題です。』
『技術公開をもっと速やかに行うべきだとの論議もありますが?』
『我々ネルフは現在技術公開を試行錯誤しながら行っております。公開にあたっては慎重にならざるを得ません。』
『では技術を隠匿している訳では無いと?』
『遅かれ早かれいずれどこかの研究機関は開発に成功します。一番大切な事はその前にその利用ルールを如何にし、使用監視体制を構築するかであり、それが現在のテーマです。』
『その為のネルフだと?』
『その役割を担う一角である事は間違い無いでしょう。しかしながらネルフは国連の一機関に過ぎません。』
『と言われますと?』
『あくまで我々ネルフは開発機関としてのアドバイザー的な役割を振られる筈です。我々は政治機関ではありませんから。』
『超法規機関でありながら?』
『超法規機関だからです。何しろ我々の給料は彼等政治機関が握っていますから…超法規と言うならサービス残業は無しにして頂きたい。そちらも超法規ではね。』

“ワハハハハ!”

『いやこれは…碇司令からこの様な台詞が出るとは。今夜はわざわざのご出演ありがとうごさいました。本日のゲストはネルフ総司令、碇ゲンドウさんでした。』

「…リツコ聞いた?」
「…碇司令が…」
「…冗談を…」
「…嘘だ…」

「…みんな…ご飯冷めるわよ…」

私はこの場に置いて一番大切な事を述べてお味噌汁を口に運んだ。


【おなかすいたうた】原曲・ゲームソフト“ドルアーガの塔”OP 歌・初音ミク http://www.youtube.com/watch?v=8CjZY3pLxA8&sns=em
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件名 Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・十月
投稿日 : 2010/10/31 02:28
投稿者 ななし
参照先
□tambさん

読んでいただきありがとうございます。
自分が15年近くエヴァの世界から抜け出せないのは、その見つけられない答えをずっと探索してるからかもしれません。
人間の価値観の答えは新劇では出ないと思ってます。
絶対出ない、出るなと願う。
14歳の少年が物語の数ヶ月の間に見つけて理解して納得できる、そんな簡単な答えじゃない、うん。

視点、確かに新劇を知らない読者には不親切な流れ。これを改善するなら三人称。うむ。
アニメや劇場の流れを参考にした書き方だったのでキャラの心情を表現するのに夢中で大切な何かを放置してました。
貴重な助言に感謝、勉強になりました。
誠、ありがとうございました。
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件名 Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・十月
投稿日 : 2010/10/30 14:43
投稿者 のの
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 それは、削り取られていく感覚にも似ている。

 いや、どうだろう。それは正確ではないような。

 なぜなら、とても気持ちが良い。



Knockin’ On Heaven’s Door
Written By NONO



 その日の目覚めは最悪だった。
 わたしは液体の糊でしっかり張り付けた茶封筒のような瞼を掌で押さえ、何度か眼球周りの筋肉をほぐして、目やにを取って、それからようやくちゃんと目を開けた。止めたばかりの目覚まし時計は7時15分。いつもより遅く、それ故に遅刻ギリギリなのは、ここがわたしのベッドではないからだった。
 目を開けてまず目に入ったのは、シンプルなデザインの勉強机。焦げ茶色の天板にメタル・フレームの脚がついているだけの机の上に定位置と思われる場所にある、クランベリー・ジャムの瓶を使ったペン立て。そこにささっているペンのカラフルなこと。それでようやく、机の主がわたしと同じく女の子と判断できる。この部屋の主はわたしより三分ほど先に部屋を出た。今は洗面所を占拠しているので、わたしが起き上がるのはまだ先で良い。
 ところが時間があまりない。わたしはわたしで、着替える必要があった。掛けておいた制服にひとまず袖を通す。靴下を履いていないことと、寝癖がついていることを除けばいつものわたし。ただ、それでは困るのだった。この部屋から洗面所へ辿り着くには居間兼台所を通過する必要があり、そこには人がいるからだった。ある意味ではただの人間、わたしにとってはちっとも「ただの」では済ませられない人間がいる。
「レイー、使っていいわよー」
 どすどすと、力強い足音が部屋の奥から響いてくる。心の準備も出来てないのに、この部屋の主はガラリと引き戸を開け放った。
「お、起きてた?」
「……アスカがうるさいから」
「え、何、喧嘩したいの?」
 笑顔で握り拳を作り上げるアスカは、一昨日見た任侠映画の若頭みたいだった。
「なんでもないです、ごめんなさい」
「わかればよろしい」
 わたしは靴下を持って廊下へ出て、台所へ入ってすぐの洗面所へ身を隠した。カーテンが開けっ放しだったので急いで閉めた時、台所で料理をしていた人がこちらを振り返ったのが目に入った。なんとかほとんど姿を見られずに済んだ――とにかく、身支度を済ませよう。わずかに開いたままのカーテンの隙間から差し込む光を頼りに髪を整え、靴下を履いて出た。彼はこっちを振り向かなかった。
「……おはよう」
 それからようやく振り向いてくれた。
「おはよう」
 そっけなく言われて、そっけなく朝ご飯の支度に戻る彼。心臓が痛むのは何故だろう。
「なーに照れてんのよ、バカシンジぃ」
 部屋に入ってきたアスカが早速イライラしはじめていた。
「あたしん時は迷惑そうな顔してたクセに」
「いや、それはだって、あの時のアスカがあまりにも……」
「なによ」
「いえ……なんでもありません」
「わかればよろしい、ってもんでもないなあ」
 釈然としない顔のアスカが定位置と思われる席に着く。わたしはアスカの隣に座ると、アスカが少しわたしの顔を見て、視線を外した。なにか問題があったかもしれないけれど、いちいち聞くのも疲れると思って黙っていた。
 ピザトーストと紅茶の朝食を済ませ、わたしたちが歯磨きをしている間に冷ましておくために開けっ放しのお弁当を包んでいく碇くんをカーテンの隙間から見ていると、アスカが脇腹を小突いた。
「見すぎ見すぎ」
「ダメ?」
「……血気盛んなことで」
「アスカは毎朝見られるから良いじゃない、わたしは今日だけなんだから」
 ひそひそ話も歯磨きしながらだとモゴモゴ話になる。それが面白くなって、ついつい喋りすぎてしまった。
「また来なさいよ」
 口をゆすぎ終えたアスカがこともなげに言った。歯ブラシを持ったままのわたしを笑うアスカは少し、わたしより大人かもしれないと思った。
「その方が楽しいでしょ」
「うん」
 わたしも口をゆすいで台所へ戻ると、三色のバンダナに包まれたお弁当が置いてある。自分の準備のためにばたばたと音を立てている碇くんの慌てる様子が廊下の奥から聞こえていた。
 わたしはお弁当を詰めて、急ぎ足で廊下へ出て、さらに急ぎ足でプレートが掛かった部屋の扉をノックして、返事も待たずに扉を開けた。わたしの大好きな困り笑いが待っていることをわかっていたから、なにひとつ迷うことはなかった。
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件名 Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・十月
投稿日 : 2010/10/27 22:22
投稿者 JUN
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なんか前にも添い寝書いたなと、書き上げてから気づきました。
多分僕は好きなんです、そういうの。布団の中でいちゃいちゃ、みたいな(爆)
多分これからも何ぞ書くでしょうが、生暖かく見守ってください。
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件名 Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・十月
投稿日 : 2010/10/27 22:18
投稿者 JUN
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一番大切なことvol.2


さようなら、綾波……

碇くん……?

もう、逢えない

碇くんが言ってくれたのに。さよならなんて言っちゃ駄目って……

僕は、綾波とは一緒に生きられないよ

どうして?約束、したのに……

だって、綾波は…………











 ――――ヒトじゃないんだから






「――――っ!」

 苦しみに耐えかね、レイの意識が覚醒した。見慣れた、簡素な天井が見える。月の光は不気味な程
いつも通りに、窓から差し込んでいた。
 自分の中身を整理する。今の幻は何だったのだろう。多分夢、というやつなのかもしれない。もし
そうなら、初めての夢は最悪だった。異常にリアルだった。そして恐ろしいほどに――レイの恐れそ
のものだった。
 去ってゆく彼。追いかけられない自分。いくら幻と言い聞かせてみても、その幻影はなかなか消え
なかった。
 気持ちを落ち着けようと深呼吸をしようとしても、歯の根が合わず、上手くいかない。かちかちと
歯が震える。夢の映像が脳内に反芻される。

 大丈夫、碇くんは約束してくれた。ずっと一緒にいるって……

 幻を追い払おうと、レイは頭まで布団をかぶった。寒い。ストーブを買っておくべきだった。頭の
中でシンジの笑顔を思い浮かべようとしても、上手くいかない。靄がかかったように、シンジの笑顔
がぼやける。代わりに浮かんでくるのは、シンジの“さようなら”だった。
 いても立ってもいられなくなり、レイは枕元においてあった携帯電話をひったくった。アドレス帳
の一番上にあるシンジの名前を呼び出す。しかし右上に表示された時刻に、レイの指が止まった。
 こんな夜中に電話をかけるのは余りにも迷惑だ。シンジは早起きして皆のお弁当を作らなければな
らないのに。

 それに――

 もし電話をかけて、シンジが出なかったら。それどころかもし、シンジにあの言葉を投げかけられ
たら、自分は――どうすればいいのだろう。

 何も考えずに寝るべきなのはとうに分かっていた。現に今、そうしようと努力している。しかし、
それが出来ない。本当に夢だったのか。もしかしたら、何かの予兆なのかもしれない。思考は悪い方
悪い方へと転んでいく。シンジがいなくなり、残りの人生をこの部屋で独りきりで過ごす。そんなこ
とはしたくない。できない。

 碇くんに、会いたい――

 
 ベッドから起き上がり、寝巻き代わりのワイシャツに、学校のスカートを見につけ、鍵もかけぬま
ま、レイは玄関を飛び出した。
 真っ暗の夜道を、レイは必死に走った。走ってシンジの家まで十分ほど。耳が裂かれんばかりに痛
い。息が切れる。月明かりがレイを照らしていた。その表面に、うっすらと紅い帯が見える。

 私の血だ。リリスだった頃の。

 こらえきれなくなり、涙が溢れてくる。喉の奥が引きつり、思わず咳き込んだ。


 シンジのマンションが見えてきたときは、思わず安堵で座り込みそうになった。持ってきたセキュ
リティカードで、部屋の扉は開く。軽く深呼吸し、今になってここに来た意味を考える。迷惑だろう。
当然だ。完全に夜中。シンジが寝静まっていない筈はない。

 それでも、碇くんに逢いたい

 あの温もりがほしい。手を握ってくれるだけでいい。いっそ、顔さえ見られればそれでいい。

 カードを挿しこみ、扉を開く。足音を忍ばせ、シンジの部屋に向かう。暗いので普段と勝手が違う
が、それでも壁伝いにシンジの部屋の前にたどり着いた。
 音を立てないように襖をゆっくりと開く。シンジは――そこに、ちゃんといた。

 膝が崩れそうになるのをこらえながら、シンジの枕元に座り、布団からはみ出した手を握ろうとす
る。すると、
「誰……?」
 とても小さな声で、シンジは言った。閉じられた瞼が、薄く開かれる。
「綾波…………?」
「いかりく――」
 求めていた声に、レイの眸から涙が零れた。
「あ、綾波?」
 突然の事態に、シンジは狼狽し、布団から起き上がる。
「どうしたの、大丈夫?」
 優しい声に、レイは力の限り、シンジに抱きついた。
「碇くん…………!」
 シンジの匂いと温もり。堰を切ったように涙が流れる。温かい胸に顔を埋める。シンジはしばしう
ろたえていたが、その内レイの背中を優しくさすってくれた。

 碇くん……









 シンジはレイを同じ布団に入れてくれた。そっと背中を抱き締めたまま、シンジは言った。
「何があったの、綾波」
「碇くんが…………夢の中で、いなくなって、さよならって、一緒には生きられないって――」
 喉の奥が詰まって、そこでレイの言葉は途切れた。
「大丈夫、大丈夫だよ。約束したじゃない、一緒に生きていこうって」
「でも、私、ヒトじゃないのに、碇くんと、違うのに……」
「綾波……」
 シンジはレイの手を、そっと握った。
「冷たくなってる」
 いたわるようにそっと手をさすりながら、シンジは言う。指先に、微かに霜焼けが出来ていた。
「こんなに薄着で着たんだ」
 レイは、小さく頷いた。
「駄目だよ、綾波。綾波は綺麗なんだから、怖い人に襲われたらどうするの」
 その口調は茶化すようなものでなく、真剣だった。レイは思わず俯く。
「……だから、今度会いたくなったら、夜中でもなんでもちゃんと電話して。迎えにいくから」
「迷惑じゃない?」
「いまさら何言ってんの」
 シンジはくす、と笑って、レイのほっぺたをつねった。
「ひたい」
「僕、めちゃくちゃ眠いんだよ。今何時?三時だよ」
「ごへんなさい」
「でも、さ……」
 レイの頬を放して、ほんのり紅くなったそこにキスをした。
「あ……」
「嬉しいよ、僕。綾波が会いに来てくれたこと」
「ほんとう?」
「だから、お返ししなきゃね。してほしいこと、ある?」
「…………ぎゅって、して」
「いいよ」


 シンジは優しい。この上なく優しい。シンジの上に覆いかぶさるようになりながら、レイはそのこ
とを思った。抱き締めてくれる腕も、握ってくれる手も、全てが、レイの心を溶かしてゆく。
「僕はね綾波。綾波がヒトかどうかなんて考えたことないよ。難しいことはよく分からないけど、で
も、こうして綾波は僕の側にいてくれてる。それを嬉しいと思ってるのは、僕も綾波も、きっと一緒
だと思うんだ。違う?」
「…………」
「僕は、それで十分だよ。僕が綾波の側にいたいって思う理由は、それで十分だから」

 自分にそんなことを言ってくれる人が、果たしてどれ位いるだろうか。電車に乗っていても、街を
歩いていても好奇の目線にさらされ、クローン体ということでパイロットの中で唯一マスコミにも公
表されず、腫れ物扱いを受けてきた自分に。
 シンジは自分に沢山のものをくれた。初めて、パイロットとしてでもなく、人類補完の鍵としてで
もなく、自分の“命”そのものを重んじて、手を握ってくれた。生きるための道具でなかった食事に、
確かな意味をくれた――初めて、温もりをくれた。
 だから、自分はシンジが好きだ。誰にも渡したくない。正直に言えば、シンジを見る女の子全ての
目をくりぬいてやりたくなるような、そんな暗い想いも、自分の中には確かにあるのだ。
 もちろん、そんなことはしない。しかし、出来ることなら首輪を付けてでも、シンジを手放したく
ない。
 そんな自分が嫌いだった。シンジは自分に無償の愛を注いでくれているのに。自分が不安になった
時、そっと抱き締め、温めてくれるのに。自分はだらしない独占欲で、結局シンジに何もしてあげら
れていない。
 せめてシンジに最後の一線を越えさせてあげたいとも思う。しかし、まだ少しだけ怖かった。結局
シンジに依存することしかできないのだ。
 シンジとそうなるのが嫌、というのではない。むしろ、自分の全てを捧げたいと思っている。だが、
怖いのだ。


 唇を軽く触れ合わせるだけでも、脳髄の奥まで甘くとろけてしまうのに。


 もし余計なもの全てを取り払って、素肌で抱きあって、全身でシンジの温もりを感じて、シンジの
ものになって、今以上に深い口付けを交わしたら、――そして、キス以上のことをされたら、自分は
どうなってしまうのだろう。考えただけで恐ろしくなるほどに、それは途方もない悦楽だった。今こ
うして抱き締められるだけでも、身体の芯が熱くなっているというのに。
 シンジの前で乱れるのが怖かった。だらしない女の子だと思われたくなかった。必死で取り繕って、
シンジの前で自分を作る。シンジを放さないために。
 きっと、シンジは自分のそんな仮面などお見通しなのだろう。根拠はないが、そう感じた。



 シンジは変わらず、自分を抱き締めてくれる。



 自分は何をしてあげられただろう。料理も作れない。服に気の一つも遣えない。シンジが辛い時、
困っている時に、果たして自分が支えになれたことがあっただろうか。
 シンジは自分の支えだ。いなくなってしまったら、自分は崩壊する。
 だが、自分はシンジの支えだろうか。自分がいなくなっても、シンジは一人で生きていけるだけの
力がある。恋人だって、その気になればすぐ出来る。それは呆気ないほどに簡単なことなのだ。

 自信がない――

 シンジを自分のものにしておけるだけの魅力が、自分にあるだろうか。


「綾波」
 急に声をかけられ、我に返る。耳元に息を吹きかけるようにして、シンジは囁いた。
「僕さ、昨日告白されたんだ」
「――――っ!」
 心の奥から声にならない悲鳴が上がる。表面上は平静を装いつつ、それでも、腕は細かく震えてし
まった。
「そ、それで?」
 思いきり動揺が声色に出る。気づいているのかいないのか、シンジは答えた。
「校舎の裏で、下級生だったよ。付き合ってください、って」
 その後が尋ねられない。もし受け入れたのなら、ここでこんなことはしていないだろうというのは
分かっている。けれど、もしかしたら――
「断ったよ、もちろん」
 あっけからんと、シンジは言った。
「僕には綾波がいるから、君とは付き合えませんって。そしたら、なんて言ったと思う?」
「…………分からない」
 シンジは優しく笑った。
「綾波先輩なら仕方ないですね、って」
「え?」
 意図が掴めず、レイは首を傾げた。
「綾波は美人だよ。綺麗だよ。それに、すごく優しい。綾波は自分のことを、もしかしたら魅力的じ
ゃないって考えてるのかもしれないけど、綾波は誰よりも魅力的だよ。他の誰から見ても。もちろん、
僕から見てもね」
 どうしてシンジは、自分の心を全て見通しているのだろう、とレイは思わずにいられなかった。そ
して、どうしてこんなに――
「いかり、くん。いかり、くん――――!」

 自分を、安心させてくれるのだろう…………




 また泣きそうになる。いつの間にここまで泣き虫になってしまったのだろう。それは、シンジが泣
く場所をくれたからだ。

「だから、これだけは覚えておいて。一番大切なことだから」
「なに……?」
「綾波だけが、僕にいて欲しいって思ってるんじゃないんだ。僕も、綾波にいて欲しいって思ってる
んだ。普段あんまりこういうこと、恥ずかしくて言ってあげられないけど……いなくなっちゃ――だ
めだよ」
「うん、うん……」
 ありがとう、という言葉は、声にはならなかった。言葉などでは表しきれない。それほどまでにか
けがえのないものを、シンジは与えてくれるのだ。

「それさえ覚えててくれるなら、僕は一生側にいるよ。胸まで触っちゃったんだから、責任取らなきゃね」
 少し冗談交じりにそう言うと、レイの表情も幾分綻んだ。
「駅前にクレープ屋さんが出来たの、知ってる?」
「……アスカが言ってたわ」
「明日、食べに行こうよ。二人で。奢るからさ」
「でも……」
「ん?」
「甘いものを食べると太るって、アスカが……」
 シンジは、思わず吹き出した。
「どうして笑うの?」
 レイの咎めるような目線にも、シンジはたじろかない。
「綾波は、少々太っても大丈夫だよ。むしろもっとちゃんと食べなきゃ。間違ってもダイエットなんてしちゃだめだからね。それとも食べたくない?」
「……たべたい」
「よろしい」
 シンジが微笑みながら頭を撫でると、レイはゆらゆらと首を揺らした。
「もう、寝よっか」
「うん」

 レイの右手と指を絡めて、シンジは目を閉じた。ふとした衝動に駆られ、レイは躊躇いがちに一度
だけ唇を重ねる。
「おやすみなさい、いかりくん…………」
 レイが眠りにつくのに、さしたる時間はかからなかった。世界で唯一安心できる場所、それはシン
ジの腕の中。
 シンジが自分を求めてくれるなら、自分はそれに応えよう。焦らなくていい。少しずつ、受け取る
だけでなく、シンジにも受け取ってもらえるようになりたい。

 やっと手に入れたこの絆を、決して手放さないために――




                    FIN
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件名 Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・十月
投稿日 : 2010/10/25 21:33
投稿者 tamb
参照先
■一番大切なこと/JUN
( No.4 )

 シンジにとっての大切なことは彼がレイを世界一好きだっていうことで、レイにとってのそ
れは自分が自分であり続けることであるということ、つまりシンジに見つづけていてもらえる
自分であり続けること。その微妙な違いが美しい。例えば髪の毛の色が問題ではないというこ
とにも留意したい。黒でも青でもシンジにとってはどうでもいいのだ。外面は内面を規定しな
い。ただ、愛される自分になりたいという意識は重要だと思う。その意識そのものを、男は愛
してしまうのかもしれないと思う。

 ほっぺに手を当ててキスして、その手を肩に進め、ゆっくりと胸に向かって滑らせて、その
手を女の子が止める瞬間を待つ、というのが男のロマンだと思うのだが(爆)。もちろん止めて
もらわなくてもいいんだが(笑)。止めてもらわなかった場合に女の子がびくとかしたりすると
これはもう絶対に止まらん。えーとなんだっけ? ああ、レイがシンジの手を取ってというの
は私も書いたことがあるけど、そういう暴走具合はレイっぽいなと思う。私はその後どう書い
たんだっけかなと思い出せず、というか何の話で書いたのだかを思い出すのに苦労して、読み
返してみたりした。まぁこんなもんだ。
 勇気という点でいえば、いずれにせよここでこれ以上進むわけにはいかんので、何もせず、
つまり揉んだりさすったり(^^;)もせずに手を引き剥がすのもそれなりに勇気はいるわな。


 もしかするとわざとかもしれんけど、途中、物語が盛り上がると文章が乱れる(笑)。落ち着
け、そして一回くらいは読み直せ(笑)。

> 伊達にラミエルに茹でられていないのだから。

 おもろい(笑)。


■Knockin'On Heaven's Door/何処
( No.6 )

 オールスターな感じ。お題も含めて。
 このとてつもなく平和な感じはたまらんよね。
 雪が音もなくノック、というのは美しい。

 不思議なことだが一升瓶抱えてにこにこ笑う女の子というのは実在する。

> あいつの昔の男がストーカーになって新しい彼女と揉めててね

 難解である(爆)。

 オチはなかった(笑)。

 ED【Packeagd】歌・初音ミク。こういうのを見ると私はついつい衝突判定を見てしまうのだ
が、これは無視している。他の要素から考えて、上手くいっていないとかじゃなくて無視して
るのだと思う。それはそれで問題ないのだけれど、他の人のCGではどうやってるんだろう。そ
れとも袖の食い込みとかは難しいのかな。


■男の戰い/ななし
( No.7 )

 自分は本当の意味で誰からも必要とされていないし誰も必要としていないし、でも何らかの
場所は与えられていてとりあえずそこで生きてゆくことはできて、でもたぶん自分の代わりな
んていくらでもいて、そこから逃げ出したり放棄したりすればすぐに他の誰かがそこに座る。
 それが事実あるいは事実であると信じられる場合、彼あるいは彼女は何のためにどうやって
生きてゆけばいいのだろうか。
 自分にもできることがある。でもそれは自分にしか出来ない事じゃない。
 自分を理解してくれようとする人がいる。でもその人は自分だけを理解しようとしているわ
けじゃない。
 だとすれば、誰かを理解したい、何かをしたいという欲望のみがその人を生かす。その欲望
にすがって生きてゆける。
 だがこれは危険な道でもある。その人が理解したいと願う誰かはその人に理解されたくなく
関わりあいたくないかもしれないし、その人がしたい何かをその人にはされたくないと願う人
がいるかもしれない。あなたとだけは絶対に死んでもイヤ。
 では、どうすればいいのか? その答えは、たぶん新劇場版にはない。EOEにも、たぶんな
かったと思う。答えがいつも直接的に得られるわけではない。だから私は今でもここにいるの
かもしれないと、そんなことを思った。

 視点が動きまくって、その全てが一人称なので誰の視点かを理解するのに手間取る。マリや
破が頭の中に入ってないということも一因ではあるけれども。


■Knockin' On Heaven's Door/JUN
( No.8 )

 レイが辛いものが好きというのは意外です(笑)。
 やっぱりおちうが一番。

 生きていければどこでも天国になる、とは言うけれど、

> 「うん、一緒に頑張ろうね。僕ももっと一杯稼げるようにするから」
> 「お願い……」

 頑張って仕事しまくれば「家庭を顧みない」と言われ、じゃあセーブすれば「お金がない」
と言われる。どうしろと?w
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件名 Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・十月
投稿日 : 2010/10/20 22:21
投稿者 JUN
参照先
Knockin' On Heaven's Door


「天国って、どんなのかな……」
 寂しそうに言うシンジに、レイは困ったような顔をした。
「分からないわ、そんなこと」
「いいところだといいね」
「悪いところなら地獄じゃない?」
「あ、そっか」
 くっくっく、とシンジが喉を鳴らすと、レイもつられてくすりと笑った。
「そういえば」
 シンジが言った。
「あの紅い海は、もしかしたら天国だったのかもしれないね」
 レイは怪訝な顔をした。シンジは紅い海から戻ってきたことを、一種の誇りにしていたからだ。もしあの時決意していなければ、今の幸せはなかっただろう、と。
「どうしてそう思うの?」
「うん……僕だってあそこにずっといたいとは思わないけどさ、でも絶対に苦しむことがないっていうのは、ある意味天国だったのかもしれない。今考えても、仕方のないことだけど」
 レイは曖昧に頷いた。それは、あの時のシンジの願いでもあったことを、レイは知っている。或いはやはり未練があるのかもしれない、とレイは考えた。
「でも、私はあそこが天国だとは思わないわ」
「ん?」
 ストレートで淹れた紅茶を差し出すと、シンジはありがとう、と言って口に含んだ。淡いグリーンのソファに腰を下ろす。並んで座れるソファが欲しい、と言うのが、レイの唯一の希望だった。
「私は、シンジさんの望みどおりにあの世界を作った。でも、あそこにいたシンジさんは――なんていうか、すごく虚ろな眼をしてたから。どんなに苦しまない世界だって、楽しみがなかったらつまらないわ」
 シンジは紅茶をすすりながら、その言葉に耳を傾けていた。優しい紅茶の香りが心を癒す。レイお気に入りのアールグレイだ。
「僕も、そう思うよ。あの世界はつまらない。こうして生きているだけでも、色んな発見があるもんね。レイが意外と辛いものが好き、とかね」
「意外?」
「まあね。他にも色々あるけど。今だって、あの頃のレイならきっと、楽しみがなきゃつまらない、なんて言わないだろうし」
「シンジさんに、楽しいこと一杯教えてもらったわ」
「そうかな。でも、僕だってレイに色んな物をもらったよ。僕はレイの隣でこうしているだけで、すごく安心するよ」
 少し遠慮がちに、シンジはレイを抱き寄せた。ほとんど抵抗なく、レイがシンジのほうへ沈みこむ。
「わたしも、こうしていると……安心する。一緒に買い物したり、膝枕をしてもらったり、そんなことをしてる時が、私の天国だと思うわ」
「だったら、きっとね」
 シンジは嬉しそうに微笑みながら、レイの頬をそっと撫でた。
「天国は死んだ後だけじゃないのかも。今生きてる時にも多分、天国はあるんじゃないかな。そもそも死んだ後がどうかなんて、死んだ後じゃなきゃ分からないし」
「そうね。死んでみなきゃ」
「でも、勝手に死んじゃ、やだよ?」
 シンジは悪戯っぽく笑った。しかしその軽い口調とは裏腹に、眸は真剣だった。
「分かってる。でも、もし死んだ後の世界があったら、どうするの?」
 レイも悪戯っぽく聞き返すと、シンジは唸った。
「そうだな。味噌汁作って待っててよ。僕が来るのを」
「お味噌は?」
「もちろん、合わせ味噌。豆腐は絹ごしだよ」
「もし、シンジさんが先に死んだら?」
「そしたら、僕が味噌汁作って待ってるよ。レイの好きな白味噌」
「最近食べてないわ」
「そうだね。今夜作ろうか。初めて食べたときのレイの顔、面白かったな。お味噌汁が甘い……って。辛党なのに、そこだけは甘党なんだね。中学校の頃から変わらないよ」
 レイはぷう、と頬を膨らませた。本人は無意識的なのだろうが、どこまでも悪戯心を刺激する顔だ。
「子ども扱いしないで」
「分かってるよ」
 シンジは笑いながら、レイのお腹の辺りを撫でた。どこまでも、慈しむように。
「なに?」
「そろそろ……赤ちゃんが欲しいな」
 レイの顔がさあっ、と紅く染まった。誤魔化すようにシンジの胸に顔をこすりつけ、
「いつでも……どうぞ」
「ん?」
「二回は言わないわ」
 シンジは何も言わずに笑顔を見せ、レイの耳元で囁いた。
「三人で、あったかい家にしようね。産まれてくる子供が天国に思えるような、そんな家に」
「うん」
「部活とかから帰ってきた子供が、この家の玄関を開ける時に、天国の扉をノックしたみたいに思えるように、僕、頑張るから」
「わたしも……頑張る」
「うん、一緒に頑張ろうね。僕ももっと一杯稼げるようにするから」
「お願い……」


 いっそう強くレイを抱く腕に力をこめ、シンジはゆっくりレイをソファに横たえた。





 やっと手に入れたこの空間を、僕はなにより大事にしたいから。
 僕の全てを賭けて、君を、この場所を護るから。
 僕にとってたった一つの、この天国を。

 帰って来た時きっと笑顔で入ってこれるような天国の扉を、これからずっと護っていくから。


                   FIN
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