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私だけのブラッディ オルゴールを 101204
件名 | : Re: 私だけのブラッディ オルゴールを 101204 |
投稿日 | : 2010/12/21 03:39 |
投稿者 | : tamb |
参照先 | : |
ゼンマイ仕掛けのおもちゃ、に限った話ではないけれど、いつかは必ず壊れてしまう。例え
ば、幸せに糸をつけて引きずりまわしているうちに。
君の目が笑う。なんにもおかしい事はないのに。まるでゼンマイ仕掛けのおもちゃのように
君の目が壊れた。
というのは、言うまでもないのではないだろうけれど、井上陽水の「ゼンマイ仕掛けのカブ
トムシ」から引っ張ってきたフレーズ。「幸福に糸つけ ひきずりまわしていてこわれた」と
いうフレーズの凄まじさに戦慄したものであった。
私があなたのネジを巻く、という発想そのものは比較的普遍的なものかもしれないけれど、
それを心臓の鼓動に結びつけるというのは結構すごくて、あなたによって生かされている私が
壊れることを寿命と呼ぶならば、これは悲しくも美しい物語といえる。
いつものキレがちょっとないような気もする。オルゴールって、私は手回し式の方が好きだ
ってのもあるんだけど。
ば、幸せに糸をつけて引きずりまわしているうちに。
君の目が笑う。なんにもおかしい事はないのに。まるでゼンマイ仕掛けのおもちゃのように
君の目が壊れた。
というのは、言うまでもないのではないだろうけれど、井上陽水の「ゼンマイ仕掛けのカブ
トムシ」から引っ張ってきたフレーズ。「幸福に糸つけ ひきずりまわしていてこわれた」と
いうフレーズの凄まじさに戦慄したものであった。
私があなたのネジを巻く、という発想そのものは比較的普遍的なものかもしれないけれど、
それを心臓の鼓動に結びつけるというのは結構すごくて、あなたによって生かされている私が
壊れることを寿命と呼ぶならば、これは悲しくも美しい物語といえる。
いつものキレがちょっとないような気もする。オルゴールって、私は手回し式の方が好きだ
ってのもあるんだけど。
件名 | : Re: 私だけのブラッディ オルゴールを 101204 |
投稿日 | : 2010/12/06 03:18 |
投稿者 | : tamb |
参照先 | : |
じゃあムーンサルトプレスを(笑)。
ちょっと熱っぽいので感想は後日でー
ちょっと熱っぽいので感想は後日でー
私は、メロディーを壊した。
母が好んで流していたものを、私は壊した。
その調べを奏でる小さな箱を、鉄の地面に叩きつけて。
私は耐えられなかった、母の思い出が、壊れていく母に陰影に重なるあのメロディーを耳にするのが。
いつかはゆっくりと捩じ切れて止まってしまうそれが、母の消え行く幻影のような脈動のようで。
ゼンマイと共に母が自らのメロディーを自ら捩じ切った翌日に、私はそれを打ち壊した。
それ以来私は、私の中でオルゴールを壊したまま、新世紀の扉を超えた。
私だけのブラッディ オルゴールを aba-m.a-kkv 101204
私の膝の上に、まるで銀毛の猫のように寝転がるのは、一人では開くことの出来なかった新世紀の扉に共に手を掛けてくれた存在だ。
私の光も、私の影も、彼の半分と同じで。
彼の光も、彼の闇も、私の半分と同じだ。
そんな私と彼がいるこの部屋の中は、この季節の外の世界の寒さとは対照的にぬくぬくと暖かい。
私も彼もそれぞれブランケットを羽織り、一日が捲り変わるまでのときをのんびりと過ごしている。
日々重ねるようになった、重ねられるようになった習慣どおりに。
それをはじめたのは彼で、何事もなく終わるだろうと思っていた今日という卵にヒビを入れたのも彼だった。
銀色の髪で遊ぶ私の指に、彼の指が触れてくる。
それはゆっくりとなぞるように私の腕をすべり、肩を通り越して首筋へと伸びる。
そのまま頬を包み込んでくるのだろうと、そう思った彼の手が私の首筋で止まった。
そして指の平を当て、彼は瞼を閉じて何かを感じているように静かになる。
「どーしたのよ、カヲル」
指を止めて尋ねた私に、カヲルはクスクスと笑みをたたえて瞼を開いた。
紅い瞳が私を射抜く。
幸せだな、と思う。
「いや、アスカの脈が強く鼓動しているな、と思って」
「ああ、お風呂入ったからね」
それは、なんの取り留めのない会話だ。
互いに触れ合っている、幸せな言葉の行き交いともいえる。
彼がその言葉を言わなければ。
「まるで、オルゴールみたいだね」
私の中で、何かが跳ねた。
否、弾けたのかもしれない、古い記憶を堰き止める堤防が。
私の影の記憶が、私の母の記憶が脳裏に過ぎった。
ゼンマイを巻く母の姿、メロディーに耳を傾ける母の姿、ゼンマイを捩じ切った母の姿、自らのゼンマイを捩じ切ってしまった母の姿。
そして調べを奏でる小さな箱を打ち壊した、私の姿。
あの出来事からもう長い年月が過ぎた。
自分の中で整理もつけたし、共有も出来た。
それにただの一単語に過ぎない。
よくある言葉の一つ、それが元で記憶が流れ出してもすぐに止められるはずだった。
でも、今の私は無防備だったのかもしれない、幸せすぎたのだろう。
とても広いキャンバスの小さな黒い点が目に付くように、それは私を猛烈に不安にさせた。
母の姿に、彼が重なって。
「規則正しい、定められた音が、まるでメロディーのように流れてる。
それも、愛しい存在の鼓動だったなら、なおさら心地良いと思わないかい」
「……やめて」
フッと沈んだ私の雰囲気にカヲルが首をかしげる。
そんな彼に私は言葉を漏らしてしまった。
本当に無意識に、言葉を漏らしてしまった、それが呼び水になると知っているのに。
いままでたくさん失敗してきたから知っているのに。
「アスカ?」
「やめてっ、鼓動をオルゴールなんて、そんなこと言わないで……!」
私は青い眸を手で覆う。
そうしないと零れてしまいそうだったから。
不安が、目の前の彼と重なってしまうのが怖かった。
「どうしたの、アスカ」
カヲルが心配そうに身体を起こし、そして優しい眸で私を覗き込んだ。
「思い出しちゃうのよ、ママが自分で捩じ切ったオルゴールを、ママが自分で捩じ切った鼓動を。
ママのことは、もう自分の中で納得してるわよ。
でも、それがカヲルに重なるのは、耐えられない。
だから―――」
やめて、そう零れそうになった私の三度目の小さな叫びは、彼の腕の中で掻き消された。
カヲルが私を抱きしめ、包み込む。
真っ暗になった視界の代わりに、私を埋め尽くすのは、カヲルの心臓の音。
トクン トクン トクン
カヲルの音。
カヲルの生きている音がする。
それは、嫌な音なのだと思っていた。
今のこの時には、聞きたくない音なんだと思っていた。
でも、今、確かに生きている彼の音が、私のすぐ傍に聞こえている、それはどうしようもなく心地よかった。
私のざわめいた心が落ち着いていく。
私の頭の中に浮かんだ記憶の水も蒸発して、カヲルの心臓の音だけが私を満たしていた。
「アスカ、君のための音だよ。
君がゼンマイを巻いてくれるなら、この音はいつもいつまでも君のものだ。
このメロディーは、捩じ切れたり、止まったりはしないよ」
「なんで、そんなことが言えるのよ……」
胸の奥に響くようなカヲルの言葉に、私はくぐもった声で尋ねる。
カヲルの包み込む力が増した。
「ゼンマイを巻くのは僕じゃない、君だからだよ、アスカ。
確かに、僕も自らこのメロディーを捩じ切ろうとしたこともあったけれど。
でも、いま僕をここに繋ぎとめているのはアスカだ。
君が傍にいてくれる限り、君が僕のレゾンデートルでいてくれる限り、この音は途切れない、君だけの音になる。
それを僕は知っているんだよ」
カヲルが私の亜麻色の髪を優しく撫でる。
そうやって撫で刷り込まれるように、カヲルの言葉が、その意味が、私の奥底へ沁み込んでいく。
また一つ欠けそうになった、半分違う色の私の心を、また満たしていく。
ああ、そうだ、私が受け取ったのは、もう壊れている小さな箱だった。
でもここにあるのは、今も強い音を確かに奏でる大きな大きな存在なんだ。
それに、一度壊して、それを組み立て直して、それを忘れない二人が寄り合い互いのものを持ち合うなら、この音をいつまでも大事にしていける。
一つ一つ気がついていけばいい。
あの扉を超えるときに、掌を重ねればいいことに気が付いたように。
その後も、生きることを、二人で気がつきあってここまで歩いてきたように。
失っても、壊してしまっても、また、取り戻せるんだ。
「もう……いいわ。
もう……離しても、いい。
気がついたから、わかったから。
これ以上、聴いていたら、幸せすぎて、寝ちゃうかもしれないから」
「いいじゃないか、それも」
カヲルの音が聞こえる。
カヲルの生きている音だけで世界が満ちる。
心地良いぬくもりと、心地良いメロディー。
いつまでも奏でられるその音が、いつまでも聴いていたいと思えるその音が、私の欠けた心を撫でていく。
私は瞼を閉じ、力を抜いて、彼に寄りかかった。
そして、ゼンマイを巻く。
「なら、もうすこし、聞かせていて」
私の、世界にたった一つ私だけの、ブラッディ オルゴールを。
アスカ、一年間ありがとう、そしてまた一年よろしく。