「綾波レイの幸せ」掲示板 四人目/小説を語る掲示板・ネタバレあり注意
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またさらに誕生日
投稿日
: 2013/03/30 01:37
投稿者
:
tamb
参照先
:
またも誕生日がやってきた。
誕生日がやってきて、わたしはいったい何歳になったのだろうという疑問が毎度のごとく、でも今回はより強く浮かび上がる。が、今度ばかりはそんな疑問がちっぽけな物に思えるほど大きく高く大質量な疑問がわたしたちの前にそびえ立っていた。
アスカとマリである。
エヴァの呪縛が解け、彼女たちも外見はその年齢相応に一気に老け込み――もとい、その年齢にふさわしいものになった……などということは全くなく、何ら変化はなかった。
彼女たちの口腔上皮細胞を分析していた赤木博士が、悪魔のような微笑みを浮かべて宣告した。
「結果がでたわ。あなたたちの肉体年齢」
「どうなのよ」
「45歳、プラスマイナス5歳ってとこね。ぴちぴちに見えるのは今だけよ。ちょっと我慢すればすぐそれなりになるわ。実年齢が28でお肌年齢が45ならそれなり以上かしら?」
「嘘ね」
「あら、わかる?」
「あたりまえでしょ! ぶっ殺すわよ」
「嫌よ。せっかく生き残ったのに」
「いいわよ。冬月翁に分析をお願いするから」
「翁と呼ぶのはやめなさい。マジで殺されるわよ。本人、あれで気にしてるんだから」
「じゃあ本当のことを言いなさいよ」
「14歳、プラスマイナス2歳ね」
「何でそんなに悔しそうに言うのよ」
「別に」
「何だか得したにゃ」とこれはマリ。
「あたしたちはどうなのよ?」
割り込んだのは葛城さんだ。
「あたしたちはエヴァの呪縛とか関係ないもの。主観年齢と肉体年齢に差はないわ」
「釈然としないわね」
「全くだわ。この14年間、アスカたちとは苦楽を共にして来たのに、何だか裏切られた気分だわ」
「文句はエヴァに言いなさいよ。あたしたちに責任はないわ」
「それにしても姫」
「なによ」
「あたしたち、合法ロリコンだにゃ」
「くだらないことを言うなこの28歳が」
「姫だって28じゃん」
果てしなく平和な会話を聞くでもなく聞かないでもなく。
碇くんもわたしも肉体年齢は14歳程度という結果が出ていた。自分のイメージ、ということなのだろう。これから時間を重ねて成長して行くことになる。今はこれでいい、と思う。ずっとこうじゃ困るけど。
人々は戻って来た。LCLから、あるいはインフィニティから、14年前の自分をイメージして、あの頃の姿のままに。
彼らには重要な使命が、望むと望まざるとに関わらず課せられることになる。即ち、社会と文明、文化の再構築。
まずは状況の説明とリハビリが必要で、ヴィレはそのための組織になった。戦艦に乗ってるよりみんなよほど生き生きしてるとアスカは言う。
クラスのみんなもほとんど還って来た。洞木さん、相田君、鈴原君。
様々な作業をこなしながら人々の中に目を凝らしていたサクラさんは、人目もはばからず叫んだという。
「お兄ちゃん!」
妹の声に振り向いた鈴原君は、わずかな沈黙の後に口を開いた。
「……サクラか。おおきゅうなったなあ」
ぼろぼろと涙を流す歳上の妹を、兄は困ったように見つめるばかりだった。
あたしも泣いたわよ、さすがに、とその時その場にいたアスカは言っていた。
渚カヲルという使徒もどきというかヒトもどきというか、そういう少年も還って来た。全くご都合主義なことに。
「渚君……!」
碇くんが驚愕の表情を浮かべて叫ぶ。
「言っただろう? また逢えるよって」
碇くんは凄まじい速度で渚君に胴タックルを放った。碇くん的には抱きつきに行ったのだろうけれど、それは胴タックル以外の何物でもなかった。渚君は全く反応できず、後頭部を強打して失神した。
碇くんは目がくるくるになっている渚君にすがって叫んだ。
「僕のせいなのか……!」
微塵の疑いもなく全くその通りです。
とまあこんなことが数日の間に一気に起きたわけで、正直わたしの誕生日どころではなかった。
でも碇くんは言ってくれた。
「綾波、誕生日だよね」
こんな状況でわたしの誕生日を憶えていてくれたのが嬉しくて、わたしはただ黙ってうなずいた。何か話をしたら、それだけで泣いてしまいそうだった。
「世の中、こんな感じだからさ」碇くんは空を見上げて言った。ポケットに手を入れて、ちょっとかっこつけて。「何か気のきいた物を買ってあげるのは難しいかもしれないけど。何が欲しい? 何か欲しいものはない?」
恥ずかしくて言えない。でも今しか言えない。
「……キス」
見上げた空はどこまでも高く、めまいを覚えるような青空だった。
目を閉じてそれが夜空になり、すぐに何もわからなくなった。
くぇ、とペンペンの声が遠くに聞こえた。
編集
件名
:
Re: またさらに誕生日
投稿日
: 2013/04/06 08:05
投稿者
:
のの
参照先
:
こんなにあっさりQ準拠でやられてしまうとぐうの音も出ねえぜ、ってとこですかなー、うー、くそーう。
編集
件名
:
Re: またさらに誕生日
投稿日
: 2013/04/03 02:11
投稿者
:
tamb
参照先
:
よくわかんないけど勝ったw
編集
件名
:
Re: またさらに誕生日
投稿日
: 2013/03/31 23:55
投稿者
:
のの
参照先
:
近年、これほどの敗北感を味わったショートショートはない。
くそううう、ぐやじいいい。
編集
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誕生日がやってきて、わたしはいったい何歳になったのだろうという疑問が毎度のごとく、でも今回はより強く浮かび上がる。が、今度ばかりはそんな疑問がちっぽけな物に思えるほど大きく高く大質量な疑問がわたしたちの前にそびえ立っていた。
アスカとマリである。
エヴァの呪縛が解け、彼女たちも外見はその年齢相応に一気に老け込み――もとい、その年齢にふさわしいものになった……などということは全くなく、何ら変化はなかった。
彼女たちの口腔上皮細胞を分析していた赤木博士が、悪魔のような微笑みを浮かべて宣告した。
「結果がでたわ。あなたたちの肉体年齢」
「どうなのよ」
「45歳、プラスマイナス5歳ってとこね。ぴちぴちに見えるのは今だけよ。ちょっと我慢すればすぐそれなりになるわ。実年齢が28でお肌年齢が45ならそれなり以上かしら?」
「嘘ね」
「あら、わかる?」
「あたりまえでしょ! ぶっ殺すわよ」
「嫌よ。せっかく生き残ったのに」
「いいわよ。冬月翁に分析をお願いするから」
「翁と呼ぶのはやめなさい。マジで殺されるわよ。本人、あれで気にしてるんだから」
「じゃあ本当のことを言いなさいよ」
「14歳、プラスマイナス2歳ね」
「何でそんなに悔しそうに言うのよ」
「別に」
「何だか得したにゃ」とこれはマリ。
「あたしたちはどうなのよ?」
割り込んだのは葛城さんだ。
「あたしたちはエヴァの呪縛とか関係ないもの。主観年齢と肉体年齢に差はないわ」
「釈然としないわね」
「全くだわ。この14年間、アスカたちとは苦楽を共にして来たのに、何だか裏切られた気分だわ」
「文句はエヴァに言いなさいよ。あたしたちに責任はないわ」
「それにしても姫」
「なによ」
「あたしたち、合法ロリコンだにゃ」
「くだらないことを言うなこの28歳が」
「姫だって28じゃん」
果てしなく平和な会話を聞くでもなく聞かないでもなく。
碇くんもわたしも肉体年齢は14歳程度という結果が出ていた。自分のイメージ、ということなのだろう。これから時間を重ねて成長して行くことになる。今はこれでいい、と思う。ずっとこうじゃ困るけど。
人々は戻って来た。LCLから、あるいはインフィニティから、14年前の自分をイメージして、あの頃の姿のままに。
彼らには重要な使命が、望むと望まざるとに関わらず課せられることになる。即ち、社会と文明、文化の再構築。
まずは状況の説明とリハビリが必要で、ヴィレはそのための組織になった。戦艦に乗ってるよりみんなよほど生き生きしてるとアスカは言う。
クラスのみんなもほとんど還って来た。洞木さん、相田君、鈴原君。
様々な作業をこなしながら人々の中に目を凝らしていたサクラさんは、人目もはばからず叫んだという。
「お兄ちゃん!」
妹の声に振り向いた鈴原君は、わずかな沈黙の後に口を開いた。
「……サクラか。おおきゅうなったなあ」
ぼろぼろと涙を流す歳上の妹を、兄は困ったように見つめるばかりだった。
あたしも泣いたわよ、さすがに、とその時その場にいたアスカは言っていた。
渚カヲルという使徒もどきというかヒトもどきというか、そういう少年も還って来た。全くご都合主義なことに。
「渚君……!」
碇くんが驚愕の表情を浮かべて叫ぶ。
「言っただろう? また逢えるよって」
碇くんは凄まじい速度で渚君に胴タックルを放った。碇くん的には抱きつきに行ったのだろうけれど、それは胴タックル以外の何物でもなかった。渚君は全く反応できず、後頭部を強打して失神した。
碇くんは目がくるくるになっている渚君にすがって叫んだ。
「僕のせいなのか……!」
微塵の疑いもなく全くその通りです。
とまあこんなことが数日の間に一気に起きたわけで、正直わたしの誕生日どころではなかった。
でも碇くんは言ってくれた。
「綾波、誕生日だよね」
こんな状況でわたしの誕生日を憶えていてくれたのが嬉しくて、わたしはただ黙ってうなずいた。何か話をしたら、それだけで泣いてしまいそうだった。
「世の中、こんな感じだからさ」碇くんは空を見上げて言った。ポケットに手を入れて、ちょっとかっこつけて。「何か気のきいた物を買ってあげるのは難しいかもしれないけど。何が欲しい? 何か欲しいものはない?」
恥ずかしくて言えない。でも今しか言えない。
「……キス」
見上げた空はどこまでも高く、めまいを覚えるような青空だった。
目を閉じてそれが夜空になり、すぐに何もわからなくなった。
くぇ、とペンペンの声が遠くに聞こえた。