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三度目の春
件名 | : Re: 三度目の春 |
投稿日 | : 2014/04/06 03:09 |
投稿者 | : tamb |
参照先 | : |
何となく流れがイタモノ(という言葉すら懐かしい)っぽかったのでドキドキしましたが、そんなことなくて良かった。
例えば
> 碇くんに告白をする女の子が劇的に増えたことが理由のひとつである。
こういう可愛さがとてもいいです。
> 綾波レイが帰ってきた、という話を聞きつけたNERV関係者に引き連れられ
ということは、真っ先にシンジの所に行ったみたいだし。
還ってこないレイをどうやって連れ戻すかというのは、まあある話で(例えばここだとaba-m.a-kkv氏の「Goat for AZAZEL」など)、私も次回連載長編の構想としてあった。
還ってこないのはそれなりの理由と決断があったはずで、それを転向させるにはそれなりの説得力が必要なのだけれど、「碇くんに告白をする女の子が劇的に増えた」というのは意外にも実に説得力がある。単に好きというだけではない、嫉妬という感情。彼女自身はそれを「酷く醜く滑稽な感情」というけれど、とても人間らしいし素敵なことだと思う。
あとシンジ君。
> 僕は綾波に夢中なんだって。
こういう場面で「夢中」という言葉を使える君もなかなか可愛い。綾波さんの隣にいるべきはやっぱりシンジ君だと思うね。
くろねこさんは「まとまってない」と書いてて、確かにまとまってるかそうでないかというとまとまってないですが(爆)、そのまとまりのなさ、つまりレイが自分を把握していないという部分がとても効果的で良いと思います。これ、理路整然と書かれるとたぶん魅力半減かと。
とてもよい作品でした。
最後にひとつ。
> 雪を一緒に見たかったの、と静かに答えた。
これは!(笑)
例えば
> 碇くんに告白をする女の子が劇的に増えたことが理由のひとつである。
こういう可愛さがとてもいいです。
> 綾波レイが帰ってきた、という話を聞きつけたNERV関係者に引き連れられ
ということは、真っ先にシンジの所に行ったみたいだし。
還ってこないレイをどうやって連れ戻すかというのは、まあある話で(例えばここだとaba-m.a-kkv氏の「Goat for AZAZEL」など)、私も次回連載長編の構想としてあった。
還ってこないのはそれなりの理由と決断があったはずで、それを転向させるにはそれなりの説得力が必要なのだけれど、「碇くんに告白をする女の子が劇的に増えた」というのは意外にも実に説得力がある。単に好きというだけではない、嫉妬という感情。彼女自身はそれを「酷く醜く滑稽な感情」というけれど、とても人間らしいし素敵なことだと思う。
あとシンジ君。
> 僕は綾波に夢中なんだって。
こういう場面で「夢中」という言葉を使える君もなかなか可愛い。綾波さんの隣にいるべきはやっぱりシンジ君だと思うね。
くろねこさんは「まとまってない」と書いてて、確かにまとまってるかそうでないかというとまとまってないですが(爆)、そのまとまりのなさ、つまりレイが自分を把握していないという部分がとても効果的で良いと思います。これ、理路整然と書かれるとたぶん魅力半減かと。
とてもよい作品でした。
最後にひとつ。
> 雪を一緒に見たかったの、と静かに答えた。
これは!(笑)
件名 | : Re: 三度目の春 |
投稿日 | : 2014/03/30 00:42 |
投稿者 | : 史燕 |
参照先 | : |
レイのために桜を持ってくるシンジ、いいなあ
そして甘い、甘い、甘すぎる~(byケンスケ)
はい、そういうことです
くろねこさん、いつも素敵な作品をありがとうございます
そして甘い、甘い、甘すぎる~(byケンスケ)
はい、そういうことです
くろねこさん、いつも素敵な作品をありがとうございます
季節が帰ってきた。
そうして二度目の春に、儚く淡い花弁が咲いた。
□□□□□
一度目の春には、私はこの世界にいなかった。
私の中の迷いと戸惑いと諦めが、私の歩む足を阻んでいたのだ。否、怖かっただけかもしれない。
天でもなく地でもない、何もない場所でただぼんやりと、日々戻っていく人々を眺め、再建されていく都市を見守り、そして彼らを想った。
それだけを繰り返す日々だった。寂しい気もしたし、楽しい気もする時間だった。それだけで良かった。
けれどその年の冬、私は唐突に一歩踏み出した。
一二月が近くなるにつれて、碇くんに告白をする女の子が劇的に増えたことが理由のひとつである。
たかが嫉妬。我ながら酷く醜く滑稽な感情だと思った。
「綾波、今までなにしてたの」
久しぶりに間近で見た碇くんは、月日が経ってもあの日と変わらない優しい声で、柔らかな瞳を持っていた。目尻に光る涙がとても、愛おしかった。
「内緒…」
私は小さく笑った。きちんと表情が作れていたかは分からない。けれど彼も笑ってくれた。
どうして今、帰ってきたの、と彼が聞く。
雪を一緒に見たかったの、と静かに答えた。また彼は笑った。
□□□□□
二度目の春、私は病室にいた。
綾波レイが帰ってきた、という話を聞きつけたNERV関係者に引き連れられ、たどり着いた先が赤木博士の研究室だった。
異常がないか、遺伝子情報はどうか、危険性はあるのか、等々の情報を得るために三日に渡るテストと検査があった。それ以後もあまり、暫くの間外に出しては貰えなくて悲しかった。
それに検査は、言うと怒られるだろうが、とても面倒くさい作業だった。
「これ、僕達もみんなしてるから」
椅子に座って待機している私の横で、彼はこっそり教えてくれた。ならば我慢しようと思った自分の軽さを知った。なんとなく、こんな自分が嫌だった。
「綾波、あのさ、後でさ……」
きょときょとと目を泳がせながら桜を観に行かないか、という誘いを受けた。胸が高鳴った気がした。それと同時に、酷く冷たくて痛くなった。
「ごめんなさい。この診断後に一時的に入院することになってるの……」
「えっ?入院?」
俯く私を見て慌てだす彼。大丈夫、一週間もすれば退院だから、と付け足す。彼はいつも優しくて、心配性なのだ。私に限らず。そう、誰に対しても。
「そうなんだ……。それは大変だね。
あの、よかったらお見舞い来てもいいかな、することもないし……」
別に怪我をしているわけではないのだから、という考えもあったが、彼に会いたかった。私に会いに来てほしかった。私はただ、いいわ、と小さく答えた。
碇くんが好き。好き、とはどういう感情でどういうものなのかは分からなかったが、きっとこのどうしようもない苦しさと切なさと甘美な胸の高鳴りは、恋と呼べるのではないかとこの時思った。
誰かに相談しようにも、そんな人物はどこにもいない。ふと、ドイツに戻っている赤い少女を思い浮かべた。
また次に会う機会があるならば、沢山の事を謝りたかった。
私は目を閉じ、名前が呼ばれるのを待った。
□□□□□
小さく扉をノックする音が聞こえた。
「碇です。綾波、入ってもいい?」
「どうぞ」
静かに扉が開き、それと同じように閉じる。彼の足音が真っ白な室内に響き、吸い込まれる。静寂が生まれた。
「あ、あの……」
暫くそわそわと窓の外を見ては私を見、後ろに組んだ腕をもぞもぞと動かしていた彼が、思い切ったように声を発した。
普段より大きな声に感じられ、私は少し驚いた。
びくりとした私を見て、ごめんと彼らしい表情で謝る。それがとても可笑しくて可愛らしかった。
「あの、外に桜が咲いてて、綾波に見せたくて……」
「さくら…?」
後ろに組んでいた手を解いた彼が差し出したものは、初めて見る小さな桜の枝だった。咲いたばかりの小さな花が揺れる。可憐な色と匂い。
「可哀想……」
ぽつり、最初に出た言葉。可哀想。風で折れてしまったのだろうか。
「ち、違うんだ……あの、来るときにたまたま見つけて、それで綾波に見せたくて…」
桜はすぐに散ってしまうから、と困ったように彼は話す。貴方が折ってきた訳ではないことくらい、私分かるわ。そう言うとどことなく安心したように表情を和らげた。
「去年は全然咲かなかったんだけど、今年は沢山咲いてるんだ。あ、綾波が帰ってきたからかな」
「それは、関係ないと思うわ」
くすっ。自然に笑みが零れる。初めての事だった。
碇くんは驚いたように私を見つめていた。彼だけではなく、自分自身でも驚き、戸惑った。
でも、嫌じゃない。
暫く彼の持ってきてくれた桜を二人で眺め、他愛のない話をした。普段の内気な彼に似合わず、沢山の話をしてくれた。声を聞くのが、不思議なくらい心地良かった。もっともっと、私に話をしてほしい。
ずっと二人でいれたらいいのに。浅はかな想いが芽生えた。
「綾波は、綺麗に笑うよね」
唐突に彼はこう言った。
「そうかしら」
私はどちらかと言えば、否、どちらと言わなくとも、笑顔が得意な人間ではない。
にっこり笑うセカンドの表情が浮かび、消えた。
再び沈黙。一秒が酷く長く感じられる、そんな沈黙。
口を開いたのは、また彼の方からだった。今度は視線は、彷徨ってはいなかった。私を射抜く、力強い瞳だった。
「僕、綾波の事が好きだ」
一瞬、耳を疑った。予想だにしていなかった言葉。
唐突に訪れ、叶った私の想い。言葉どころか、息も詰まった。
「わたし…」
「ずっと考えてた。綾波がいない間、ずっと。
迷ってたし逃げもした。だって待っても君が戻ってきてくれないから。でも、そういう時間を過ごして思ったんだ、僕は綾波に夢中なんだって。
きっと、僕は恋してるんだって。綾波の傍にいたい、ずっと一緒にいたいって。
だから、君が帰ってくるのを信じて待とう、そしてちゃんと伝えようって思った」
逃げちゃダメだって自分に言い聞かせたんだ、と笑う。ぽたりと、雫が私の頬を伝う。涙。
「私も、ずっと、碇くんのことが好き」
言語がおかしかった気もするが、想いを声にするのが精いっぱいだった。
「寂しかった。ずっと。戻っても、受け入れてもらえないと思ってた。だから帰れなかった。碇くん――」
今までごめんなさい。その言葉ごと、彼の唇に吸い込まれた。涙で滲む視界いっぱいに、愛しい人。愛しい匂い。温かな感触。
「これからも、ずっと一緒にいてくれる……?」
唇を離した彼が言う。頬が、耳が、真っ赤に染まっていた。頬に熱を感じるのだから、きっと私も今こんな顔をしているに違いない。
「宜しくお願いします……」
静かに、けれどはっきりとした声で答える。
十分な笑顔も、甘い言葉も言えないけれど、今の私の全ての想いを込めた。もう一度、唇を寄せる。
ここから、表現しきれない気持ちがすべて、彼に伝わりますようにと願った。
開いていた窓から風が舞い込み、カーテンを小さく揺らす。桜の花びらが数枚、白く温かな空間を舞った。
□□□□□
寒さに耐えた木々が揺れる。
桃色の蕾が息吹き、時間をかけてゆっくりと、愛らしい顔を覗かせる。
咲いては散る儚い命だけれど、私を、多くの人を魅了する。
強く美しい、淡い花弁が舞う。
三度目の春が来た。