「綾波レイの幸せ」掲示板 四人目/小説を語る掲示板・ネタバレあり注意
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fld_nor.gif ひさしぶり
投稿日 : 2018/09/15 00:14
投稿者 tomo
参照先


 どこかで見たことがあると感じた。

 記憶の奥底にかろうじて引っかかっているそのイメージは、集中すればするほど、形を、輪郭を、存在を失っていく。

 勘違いだといっそ思えるのなら、こんな違和感を抱えなくて良いのに。

 視覚にとらえられた刹那に浮かぶ彼女が、私の心をかき乱す。


 白と紅と蒼。


 思い出すのは彼女の持つ色とりどりの色彩のあと。

 そして。

 リノリウムに固い足音を響かせて、月が上り始めるそのときに、薄暗い廊下を進む彼女の残像。

 多分それは、私の記憶の中で一番鮮明に残っている彼女の姿なのだろう。

 おぼろな心象は、かえって、私を突き動かし、ほとんど故意的に視線を誘導させる。


 そうやって、私は彼女を数舜見つめていた。


 「…………」


 ふっと。


 プラットホームの向こう側に座っていた彼女が、視線を向ける。

 私の心を彼女の瞳が射貫いてとまる。


 「……っ!」


 悲鳴を上げなかったのは僥倖だろう。

 こんな多くの電車が発着するプラットホームで、こんな人が大勢いるなかで、女性が悲鳴を上げれば大事だ。

  
 「……………………」  


 彼女が、私を見つめる。

 私が誰かわかるのだろうか。

 そもそも。

 彼女は、私を覚えているのだろうか。

 高校の最後の1年を同じクラスで過ごしたというだけの私を。

 ただの、何の変哲もない、物語をもっていない、どこにでもいる女子高生だった私を。


 (…ひ)


 (…さ)


 (…し)


 (…ぶ)


 (…り)


 私の予想を裏切って。

 ゆっくりと、はっきりと。

 彼女の口は音にならない言葉を紡いだ。

 それは、声の届かないことを認識しつつ、それでも私に思いをつたえるために、

 意思をもって紡がれた無音のメッセージだった。


 「あ…………」


 ひとことそう呟いて。私は何も言えなくなった。

 何も言えない私を彼女はじっと見つめていた。

 彼女の視線が、さらに私の言葉を奪った。

 絡み合う視線。

 気が付くと、彼女顔は、少し微笑んだように見えた。

 その笑みに背中を押され、何か言おうと決めた心を、無常にも、プラットホームに侵入した
電車がかき消した。


 「…………あ……」


 私の落胆に、声帯が即座に反応する。

 落胆は後悔に変わり、後悔は瞳を固定する。

 もう見えなくなってしまった彼女の姿を、それでも、視線は追い続ける。


 何かを、言えばよかった。

 それは何でもよかったはずだ。

 ずっと昔に彼女は近くにいて、時間と場所が経過しても、彼女はいなくなったわけではない。

 私は変わり、きっと彼女も変わっただろう。

 それでも、彼女は、そこにいたのだ。

 年月が彼女をぼやかしてしまっても、彼女と過ごした感情は、残滓のように私にあるのだ。

 記憶の中でぼやけてしまった彼女は、きっと、私の思いとともに、私の一部になったのだ。

 だからこそ。

 私は何かを言えばよかったのだ。

 
 「‥‥え?」


 後悔が嫌悪へと変わるその刹那、彼女を求めていた視線は、電車のドアに映る彼女を見つけて止まる。


 (……またね……)


 先ほどよりは口早に。
 
 それでも十分伝わるように。

 彼女の口は、再び、声にならない言葉を紡ぎだす。


 と、同時に。


 重い音をたてて、電車が動き出し、彼女を運んで行ってしまう。

 見間違いでない、はっきりとした笑顔の彼女を乗せて。

 その笑みは、きっと、私を許すためのものなのだろう。

 彼女を記憶の奥底に封印してしまった私を。


 なんてことはない。それは単純なことだったのだ。

 私には彼女とともに流した時間がある。それは、私が生きている限りずっと失われることはない。

 私が彼女を忘れ去ってしまわない限り、彼女もまた、きっと私を忘れないのだろう。

 それどころか。

 彼女に会いに行くことだってできる。

 私と彼女が過ごした時間は、彼女が私と過ごした時間でもあるのだから。

 時間を共に過ごすというのは、きっと、そういうことなのだろう。


 「……またね」


 もうずいぶん小さくなった電車に向けて、物理的には聞こえるはずのない声を、
それでも、きっと彼女に届くであろう声を、今度こそ私ははっきりと口にする。

 この次はちゃんと彼女と言葉を交わそうと誓いながら。


あとがき

おはこんばんちわ。
ええ、そうです。来てみました。
本当に長い間全く訪れていなかったので、サイトがまだあってすごく感動しました。
感動したついでに、数年ぶりにSSを書いてみました。
10年以上たってしまって、昔の自分の文章は全く書けません。
それでも、時間の経過で変わってしまった今の私の文書をお読みいただければと思います。
楽しんでいただければ幸いです。

それでは、また。
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件名 Re: ひさしぶり
投稿日 : 2021/05/15 00:23
投稿者 tamb
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おかえり。いってらっしゃい。またね。
出会いがあれば別れもある。たぶんそれが、生きているということなんだと思う。
でも、例えば10年後。
生きてさえいれば、誰かがここにいる、それだけで十分なんじゃないかと思う。
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件名 Re: ひさしぶり
投稿日 : 2018/09/20 21:18
投稿者 tomo
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>ののさん

お久しぶりです! 
ののさんが、未だに現役で活動されてるのを見て、なんだか私までうれしくなりました。

私もあえてうれしいかったです。
だから、本当にありがとうございます!

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件名 Re: ひさしぶり
投稿日 : 2018/09/20 07:58
投稿者 のの
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おかえりなさい。

邂逅があって、また別れて。
だからまた、会うこともあるでしょう。
だからまた、会えたらうれしいなと思っています。
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