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はじめての稲刈り
件名 | : Re: はじめての稲刈り |
投稿日 | : 2021/05/09 01:03 |
投稿者 | : 史燕 |
参照先 | : |
もう一ネタですか(絶句)。
いや、もうほんとに逆さに振ってもなにもでないです。
仮に出てきたとしても連続性は皆無でしょうね。
(出てきたら奇跡、あればもう書き始めます)
うーん、うーん、これはまた難しい。
いや、もうほんとに逆さに振ってもなにもでないです。
仮に出てきたとしても連続性は皆無でしょうね。
(出てきたら奇跡、あればもう書き始めます)
うーん、うーん、これはまた難しい。
件名 | : Re: はじめての稲刈り |
投稿日 | : 2021/05/09 00:36 |
投稿者 | : tamb |
参照先 | : |
全くもって誠に平和で、ぶったゃけ他に何もないのだが(笑)、それが実に良いわけだ。
「おかえりなさい」と組み合わせて、さらにもうひとネタあればそこそこの短編にはなる。
問題はその「もうひとネタ」なんだが。
時系列的に「おかえりなさい」では落とせなくなる。あの鳥肌もののラストを越えるもうひとネタとなると、かなりの脳汁を絞らないといかん。
湖の底に冬眠状態にある未知の使徒が発見され、なんて話になると収拾がつかないくらいの大長編になるしな(笑)。
「おかえりなさい」と組み合わせて、さらにもうひとネタあればそこそこの短編にはなる。
問題はその「もうひとネタ」なんだが。
時系列的に「おかえりなさい」では落とせなくなる。あの鳥肌もののラストを越えるもうひとネタとなると、かなりの脳汁を絞らないといかん。
湖の底に冬眠状態にある未知の使徒が発見され、なんて話になると収拾がつかないくらいの大長編になるしな(笑)。
Written by 史燕
雲一つない青空の下で、僕は恐る恐る鎌を引く。
若干の引っ掛かりを覚えながらも、すうっと、予想より素直に、鎌の刃はそれを両断した。
「シンジ、意外とうまいじゃないか」
そう言うのは、僕の、僕より少しだけ早く大人になった友人、相田ケンスケだ。
村の何でも屋の彼は、一年で最も忙しいこの時期ばかりは、普段は免除されている農作業にも参加をするという。
天高く馬肥ゆる秋、今日からは、第三村の一大イベント、稲刈り作業が始まるのだ。
あのフォースインパクト/アディッショナルインパクトを経て、僕たちはまた、自分たちの足で大地を歩き始めた。
上位存在であるアダムスの、或いは神の福音たるエヴァンゲリオンに依存したゆりかごではなく、僕たち人類が、自分自身の選択をもって、荒れ果てた大地を生きていく。
改めて、ケンスケたちと一緒に村の一員として暮らすようになった、僕たちにとって初めての秋が、ついにやってきた。
「……碇君、刈り終わったらこっち」
そう言う彼女の方に目を向けると、小母さま方と並んで、バラバラの稲をまとめている綾波の姿が目に入った。
その隣では、別の列を刈り終えた加持リョウジ君(加持さんとミサトさんの息子だ)は、さっそく「お願いします」と小母さま方のもとに稲を運んでいた。
「シンジ君、ぼうっとしてると、みんなに取り残されてしまうよ」
そう言って手許から目を離さずに僕をからかうのは、三つ隣の列で、僕と同じく鎌を手にしているカヲル君だ。
「みんなと一緒に作業するのは、やっぱりいいものだねえ」
と感想を述べながらも、作業を正確にこなしているのは、さすがだと思う。
僕も含め、チルドレンやヴィレの面々は、この第三村で共同生活を始めた。
サードインパクトで見たヴィジョンでは、すっかり世界は元通りになっていたけれど、実際にはそんな甘いことは無くて、僕がトリガーとなったニアサードで荒廃してしまった世界だけど、そこで必死に歯を食いしばりながら、みんな一生懸命生きている。僕自身の落とし前も、ここで、みんなと一緒に生きていくことで、少しずつだけど、ケリをつけることができるのかなと考えている。
「ごめんカヲル君、遅れないようちょっとスピード上げるね」
「いかりー、無理しなくていいからな。むしろそれで長さがまちまちになったら、後で綾波たちが苦労するぞ」
「わかったよ、ケンスケ。もう少し慣れるまで気を付けて進むよ」
「おう、それがいいぞ」
二人のアドバイスを受けて、もう一度僕は目の前の稲に目を向ける。
間違っても稲穂を切り落とさないよう、稲の間に鎌の刃を通し、奥から手前に一気に引く。
この時、あらかじめ刈り取る稲を左手で掴み、その下へ刃を通すようにして、ケガを防ぐ。この際に、稲自体を少しだけ横に傾けるのがコツだ。そうしないと、どこに刃が入っているかわからないし、稲穂を鎌から安全圏へと離すことにもつながる。
刈り取った稲は左手でまとめて掴んだままなので、ひとまずその場に同じ方向に揃えて寝かせて置き、後でまとめて綾波たちのもとへ運ぶ。
目安としては、一人当たり往復して2列分刈り取ったら、女性陣のもとへ。
今日のノルマは田んぼ2枚、ケンスケが言うには約五反の広さだというけれど、正直僕にはあ馴染みのない単位で、「こことこことこの田んぼだ」と教えてもらって初めて、自分たちの今日の作業範囲がわかったくらいだ。
不慣れであっても男手というのは重宝されるものみたいで「あの子と一緒であんたもよく働くじゃない、助かってるよ」と小母さんたちからお褒めの言葉をいただいた。
正直、畑仕事なんて加持さんのスイカ畑以外にやったことはなかったんだけど、ケンスケやリョウジ君が丁寧に教えてくれるおかげでなんとか様にはなってきた。
「碇さん、もうすこし稲は軽く掴まないと、折れ癖がついちゃいますよ」
「うん、ありがとうリョウジ君」
ほら、さっそく指導が入った。
「お父さんの加持さんにも、一緒に水やりなんてしたっけ」
親子二代とお付き合いしていることを、感慨深く呟く。
そう言うと、ずいぶんと自分が年を取ったように感じる。
肉体年齢は、リョウジ君と同じなんだけど。
「へえ、父ともですか」
やっぱり気になったのか、作業をしながらリョウジ君が反応した。
ご両親に似て、素直ないい子に育ったよ。ミサトさん。
「うん、ここは、そこで教えてもらった土の匂いと、同じ匂いがするよ」
「土の匂い」
「そう、僕はあんまり、そういうのに縁がなかったから」
そう言う僕の声は、どうしてもしんみりとしてしまった。
「はいはい碇、ここじゃもうそんなわがままは通用しないよ」
「わかってるよケンスケ」
「まあまあ、ケンスケ君。シンジ君もだいぶ慣れてきたみたいだよ」
カヲル君がフォローしてくれた通り、最初に比べて随分と鎌の扱いにも慣れてきた。
最初はバラバラだった稲の長さも、均一に揃えることができるようになった。
「おっ、もう二往復目に入るのか。初めてにしては、確かに筋がいいかもな」
「ケンスケに褒められるなら、なんだか自身が付きそうだよ」
「ま、その前に一往復目の稲を運ぶのを忘れるなよ」
「わかってるって」
そして僕は、同じ向きに寝かせた稲を揃えて一塊にして、綾波たちのもとへ持って行く。
結局二列で六束くらいになった。
「はい、綾波。これをよろしく」
「ええ、そこに順番においてくれる?」
「わかったよ」
綾波がやっている作業は、刈り取った稲を藁で結び、一つの束としてまとめる作業だ。
これが意外と難しいようで、彼女は先ほどから悪戦苦闘していた。
隣のおばさんがもう四つほど束を作っているのに、まだ二つ目だ。
くるくるとひも状にした藁をひねりながら結び付ける小母さんの手さばきは、正直目が追い付かない。
「レイちゃん、ちょっと刈り取りが遅れてるみたいだし、シンジ君を手伝ってあげて。結ぶのはその後からでもできるんだし」
隣の小母さんが、助け舟を出してくれた。
綾波に見えないよう、僕にウインクをして(出汁にしたけど、合わせてね)と伝えてきた。
僕も、すかさずフォローに入る。
「そうなんだよ、やっぱり僕がまだ慣れてなくてさ。さっきもケンスケにどやされたくらいで。アイチあれで厳しいんだよね」
(こんな感じでどうですか?)
(ばっちりよ、少年)
「そう、じゃあ、碇君を手伝う」
「そうしてあげて」
「綾波は、エヴァでも使ってたし、僕よりも鎌がうまいんじゃないかな」
というのは、はじめは彼女を乗せるための方便だったのだけど
「……こうして、こう?」
「そうそう」
「……じゃあ、次も」
「うんうん」
「おや、案外うまいじゃないか。シンジも筋が良かったけど、それ以上じゃないか」
すぐにケンスケの太鼓判が押されたほど、彼女は要領がよかった。
見る見るうちに、僕の倍の速さで刈り取りが進んでいく。
「じゃあ、僕は刈り取った稲を集めよう」
少なからず悔しさを覚えたけど、夢中になって刈り取りを進める綾波が、あんまりにも楽しそうで、とても水を差す気にはならなかった。
逆に、僕はそのまま綾波と入れ替わる形で、稲束づくりを担当することにした。
「あら、今度はアンタがこっち? あの子には少し難しかったんだけど」
小母さんは改めて、僕に、束の作り方を教えてくれた。
「ぐるっと藁を回すでしょ、そしたら両端を揃えて右にこう、左にこう、で最後にこう、これでわかる?」
「ごめんなさい、最後がよく見えませんでした」
「あら、じゃあわかるとこまでやってごらん。間違ったらそこで教えてあげるから」
「はい。ええっと、藁を回して、右に、次が左、最後が、ええと」
「最後にこうして一回転、わかった?」
「あ、今度はわかりました」
結局、ここでマスターした僕は、こちらで即戦力として、稲束づくりをメインとすることになった。
「あんた筋がいいねえ。でも、もたもたしてる時間はなさそうよ?」
「えっ?」
「あの子、もう八往復目が終わったみたいよ」
「碇君、これ」
「綾波、早いね」
「大丈夫?」
「うん、このくらいすぐさ」
そう言いながら、彼女が並べた稲の塊の列に冷や汗を覚えてしまった。
「ケンケーン、お昼持ってきたわよー」
「アスカがケンスケを呼ぶ声が、お昼の合図なんだって教えてもらったよ」
カヲル君が、汗を拭きながらさわやかな笑顔でそう言った。
僕たちも昼食だ。
午前中でこの一枚目の田んぼは刈り終わり、僕たちもなんとか稲束にしてしまうことができた。
その間に、刈り取り部隊は落ち穂拾いを終わらせていたみたいだ。
第三村に来て意外だったのは、アスカがケンスケの世話を焼くようになったことだろうか。
元々一緒に暮らしたりしていて、トウジたちはみんな自然と受け入れていたけど、僕にとってはやっぱり予想外で、でも、不思議と二人が並んでいるのを見るとしっくりきていて、なんというか整理がつかない。
(初恋、だったからなあ)
僕は明確に振られちゃったし、お似合いの二人に水を差すつもりもないけど、どこか大人になったみんなに置いていかれてしまったような気分が拭いきれない。
実際、十四年という歳月は、それだけ軽いものではないということだろう。
「碇君も、綾波さんも、おかわりもちゃんとあるからね」
僕たちのお昼ご飯は、委員長(結婚して子供もいるけど、ケンスケも僕も、ついこう呼んでしまうんだ)が、ツバメちゃんをおんぶしながら持ってきてくれた。
トウジは回診でここにはいないけど、子育て中のお母さんたちが交替で、お昼ご飯を用意してくれるのだ。
村が総出で行う大仕事だから、村中のみんなが協力してくれる。
昼食は、決まっておにぎりとお漬物。
それに大きな水筒に入ったお茶があれば、腹ペコの僕らはもうごちそうだ。
綾波は「この梅干しは」「うん、家で漬けたあの梅干しよ」と、僕の知らない話で、委員長と盛り上がっている。
「おにぎりはいいねえ、リリンが生み出した食事の極みだよ」
カヲル君もご満悦だ。
「碇さん、お茶のお替り、貰ってきましょうか?」
「リョウジ君、ありがとう」
第三村のみなさんは、とても懐が深くて、とても温かい。
「……碇君」
「どうしたの、綾波」
「これが、稲刈り。これが、楽しいということなのね」
綾波に言われて、僕も初めて気づいた。
「楽しい。うん、これが、楽しいってことだと思う」
午後の作業は、ケンスケやカヲル君たち2枚目の田んぼに向かうグループと別れ、僕とリョウジ君と、綾波や小母さんたちの三分の一のメンバーと、稲を乾燥させるための作業を行うことになった。
田んぼの両端に三本の木でできた支柱を立て、その上に長い竿状の木を乗せる。
この木で作った仕掛けを稲架と呼び、長い竿をまたぐように、午前中に頑張って結んだ稲束を端から順番に架けていく。最終的に、三週間ほど風と天日で乾燥させるのが目的だ。
この稲架を立てるのがこれまた重労働で、僕たち男性陣三人は、そのために残留を命じられたようなものだった。
稲架を三列設置したら、それぞれ順番に稲束を架ける。
小母さんたちが、「はいっ、はいっ」と次々に渡してくる稲束を、順番にテンポよく架けて行かないと、いつの間にか順番待ちの列ができてしまう。
僕にとっては、作業よりもここで待たせた小母さんたちのプレッシャーの方が辛かった。
唯一綾波だけが「碇君、大丈夫? 無理しないでね」と言ってくれたのが救いだった。
結局終わったときには、次の田んぼでまた稲架を設置するタイミングで、休憩なしで、日が沈むまでの作業だった。
「はあー、やっと終わったよ」
「碇、お疲れ様」
「ありがとうケンスケ」
「帰ったら、あの場所で集合な」
家に戻ると、ケンスケの提案で、みんなで風呂に入ることになった。
「風呂はいいねえ。体が一気に癒される時間だと思わないかい、シンジ君」
「カヲル君の言う通りだよ。疲れがお湯に溶けていくみたいだ」
「お二人とも、初めてにしてはお上手でしたよ」
「ありがとう、リョウジ君。やっぱり、慣れないことだから難しかったよ」
「ま、その辺は経験がものをいうからな。直に慣れるさ」
「ケンスケ君の言葉は、実感がこもってるねえ」
お風呂を上がると、出口で女性陣と鉢合わせした。
「あ、ケンケンたちもお風呂だったんだ」
「ああ、碇達との裸の付き合いだ」
「ふーん、じゃあさじゃあさ。ケンケンも一緒に帰ろ」
「式波がそう言うなら……。じゃあな碇、渚、加持。今日はここで」
「うん、ありがとうケンスケ」
「また明日」
「また明日」
ケンスケとアスカは僕たちと別れて、自分たちの家へと戻っていく。
「それじゃあシンジ君。僕とリョウジ君もここで」
「マリさんも、今晩には戻ってくるそうですからね。渚さんと二人で、夕食の準備をしてあげる予定なんです」
「うん、マリさんにもよろしく。と言っても明日は顔を合わせるはずだけど」
「わかったよ」
「……いつも通り帰り道は二人ね」
「いつも通りだから、いいじゃないか」
「……夕飯、どうするの?」
「今日は僕が作ろうかな。みそ汁の具は、何がご希望?」
「……お豆腐」
「了解しました、お姫様」
こうして僕は、綾波と二人で帰路に就く。
変わらないメンバーと、変わらない日常。
だけど、今日もまた、みんなで経験した“はじめて”があった。
これからも繰り返す日々の中で、たくさんの“はじめて”に出会うことになると思う。
だけど、僕たちならきっと乗り越えていけるから。
だから一緒に、“はじめて”を出迎えたいんだ。