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幸せの在り処
件名 | : Re: 幸せの在り処 |
投稿日 | : 2021/05/28 21:44 |
投稿者 | : 史燕 |
参照先 | : |
〇ののさん
ご感想ありがとうございます。
>甘酸っぱくて爆死しそう。
>『子供はわかってあげない』という漫画があってですね
この作品、甘酸っぱい、のですね。(よくわかっていない)
tambさんのお話は甘酸っぱいです。
『子供はわかってあげない』未読です。調べてみたら実写映画を8月に公開するんですね。
>ふたりを幸せにしようとする史燕さんこそ、一番に一途よね、と思う。
一途……、それしか考えていない、という意味では一途なんでしょうね、たぶん。結局、私の執筆の意欲というのは「ふたりに幸せになってほしい」というところから来ていますので、一途と言われてみれば、「そうなんだ」と思います。
本人としては「いつも変わり映えがしないもので申し訳ない」という気持ちもあるのですが。
ご感想ありがとうございます。
>甘酸っぱくて爆死しそう。
>『子供はわかってあげない』という漫画があってですね
この作品、甘酸っぱい、のですね。(よくわかっていない)
tambさんのお話は甘酸っぱいです。
『子供はわかってあげない』未読です。調べてみたら実写映画を8月に公開するんですね。
>ふたりを幸せにしようとする史燕さんこそ、一番に一途よね、と思う。
一途……、それしか考えていない、という意味では一途なんでしょうね、たぶん。結局、私の執筆の意欲というのは「ふたりに幸せになってほしい」というところから来ていますので、一途と言われてみれば、「そうなんだ」と思います。
本人としては「いつも変わり映えがしないもので申し訳ない」という気持ちもあるのですが。
件名 | : Re: 幸せの在り処 |
投稿日 | : 2021/05/28 16:34 |
投稿者 | : のの |
参照先 | : |
甘酸っぱくて爆死しそう。
『子供はわかってあげない』という漫画があってですね。
名作なのですけど、それを思い出しました。
ふたりを幸せにしようとする史燕さんこそ、一番に一途よね、と思う。すごいことだ。
『子供はわかってあげない』という漫画があってですね。
名作なのですけど、それを思い出しました。
ふたりを幸せにしようとする史燕さんこそ、一番に一途よね、と思う。すごいことだ。
件名 | : Re: 幸せの在り処 |
投稿日 | : 2021/05/22 09:42 |
投稿者 | : 史燕 |
参照先 | : |
○tambさん
ご感想ありがとうございます。
いつも丁寧に読んでいただいていて、励みになります。
>5億年くらい前
いいですね、甘酸っぱい。
素敵な青春ですね。
たしかに、そういうところにも幸せはあるのだと思います。
執筆中、くどくどといろいろ考えたのですが、「幸せの在り処」なんて、難しく考えるものじゃないのかもしれません。
>連載に二年を要する全二十四話の大長編
たしかに24話もの長編につなげることも可能なのでしょうが、私にはこれが精一杯です。
「幸せの在り処」を書き上げて、何かが足りなくて、いまひとつスッキリしなかったものが「たいせつなもの」でカチリとピースがはまったような作品です。
>だから彼の手が温かいのも、なんでもない会話が嬉しいのも、やっぱり幸せの形なのです。
幸せってなんだとうという問いに、答えを出すことが、正確には彼や彼女への答えを出すことが、難しかったのですが、なんとか二人がそれぞれで見つけてくれました。
ご感想を読んで、こんな二人を見守っていくのも幸せの形の一つなのかなと、余計なことを思ってしまいました。
ご感想ありがとうございます。
いつも丁寧に読んでいただいていて、励みになります。
>5億年くらい前
いいですね、甘酸っぱい。
素敵な青春ですね。
たしかに、そういうところにも幸せはあるのだと思います。
執筆中、くどくどといろいろ考えたのですが、「幸せの在り処」なんて、難しく考えるものじゃないのかもしれません。
>連載に二年を要する全二十四話の大長編
たしかに24話もの長編につなげることも可能なのでしょうが、私にはこれが精一杯です。
「幸せの在り処」を書き上げて、何かが足りなくて、いまひとつスッキリしなかったものが「たいせつなもの」でカチリとピースがはまったような作品です。
>だから彼の手が温かいのも、なんでもない会話が嬉しいのも、やっぱり幸せの形なのです。
幸せってなんだとうという問いに、答えを出すことが、正確には彼や彼女への答えを出すことが、難しかったのですが、なんとか二人がそれぞれで見つけてくれました。
ご感想を読んで、こんな二人を見守っていくのも幸せの形の一つなのかなと、余計なことを思ってしまいました。
件名 | : Re: 幸せの在り処 |
投稿日 | : 2021/05/21 22:56 |
投稿者 | : tamb |
参照先 | : |
はるか昔、たぶん5億年くらい前ですが、女子高生とデートしたことがあります。その時の彼女は学校帰りで、制服を着ていました。こうなると犯罪の香りすら漂い、ぶっちゃけ許せんという感じですが、私も当時は男子高校生でして、学ラン着てました。何ら問題はありません。まさにリア充という点が許し難しですが、5億年も前の話です。エヴァなどこの世になかった頃の話です。
前後の流れは忘れましたが、彼女はベンチか何かに座ってクレープを頬張り、満面の笑みで「しあわせ」と言いました。私は、あぁこういうところにも幸せはあるんだな、と思ったのを良く覚えています。
この後なにがあったのか、全く覚えていません。たぶんしばらくして帰ったのでしょう。全く残念です。非常に残念です。何やってんだよ、まったく。
幸せというのは小さなことの積み重ねです。達成感は幸福感に直結しますが、それだけではありません。
でかいプロジェクトが大成功に終わった時も、とんでもない大御所から大絶賛の感想をもらった時も、このコロナ禍の中でもマスク姿の女の子と男の子が電車の中で手を繋いでぴったりくっついて座り女の子が男の子の肩に首を預けているのを見かけた時も、幼稚園の運動会で我が子を小脇に抱えたお父さんが全力疾走するもイメージに肉体が追いつかず足が絡まってすっ転んだ時も(マジで危ない)、暑い日の昼下がりに飲む麦茶も。
全てが幸せなのです。
だから彼の手が温かいのも、なんでもない会話が嬉しいのも、やっぱり幸せの形なのです。
彼女が小さな幸せを感じる瞬間を切り取るということであれば、よく書けてるし良い作品だと思います。
ただ、このテーマは「たいせつなもの」の冒頭にあるような、そもそも人が生きる目的は何か生きる意味は何かという哲学的な命題に発展させることが容易に可能あるいは必然であり、シンジと二人でそれを探し求め二人で手を繋いでお互いの温もりを感じ合うことだけでもとても幸せ、というなんともありきたりな結論に至るだけでも連載に二年を要する全二十四話の大長編が執筆可能かと思われますので頑張って下さい(笑)。
あったかな良いお話でした。
前後の流れは忘れましたが、彼女はベンチか何かに座ってクレープを頬張り、満面の笑みで「しあわせ」と言いました。私は、あぁこういうところにも幸せはあるんだな、と思ったのを良く覚えています。
この後なにがあったのか、全く覚えていません。たぶんしばらくして帰ったのでしょう。全く残念です。非常に残念です。何やってんだよ、まったく。
幸せというのは小さなことの積み重ねです。達成感は幸福感に直結しますが、それだけではありません。
でかいプロジェクトが大成功に終わった時も、とんでもない大御所から大絶賛の感想をもらった時も、このコロナ禍の中でもマスク姿の女の子と男の子が電車の中で手を繋いでぴったりくっついて座り女の子が男の子の肩に首を預けているのを見かけた時も、幼稚園の運動会で我が子を小脇に抱えたお父さんが全力疾走するもイメージに肉体が追いつかず足が絡まってすっ転んだ時も(マジで危ない)、暑い日の昼下がりに飲む麦茶も。
全てが幸せなのです。
だから彼の手が温かいのも、なんでもない会話が嬉しいのも、やっぱり幸せの形なのです。
彼女が小さな幸せを感じる瞬間を切り取るということであれば、よく書けてるし良い作品だと思います。
ただ、このテーマは「たいせつなもの」の冒頭にあるような、そもそも人が生きる目的は何か生きる意味は何かという哲学的な命題に発展させることが容易に可能あるいは必然であり、シンジと二人でそれを探し求め二人で手を繋いでお互いの温もりを感じ合うことだけでもとても幸せ、というなんともありきたりな結論に至るだけでも連載に二年を要する全二十四話の大長編が執筆可能かと思われますので頑張って下さい(笑)。
あったかな良いお話でした。
件名 | : Re: 幸せの在り処 |
投稿日 | : 2021/05/21 18:45 |
投稿者 | : 史燕 |
参照先 | : |
昨日の投稿の派生作品ができましたので、追加で投稿いたしました。
お目汚しですが、みなさまに楽しんでいただけましたら幸いです。
お目汚しですが、みなさまに楽しんでいただけましたら幸いです。
件名 | : Re: 幸せの在り処 |
投稿日 | : 2021/05/21 18:43 |
投稿者 | : 史燕 |
参照先 | : |
たいせつなもの
Written by 史燕
私にとって、大切なもの、そんなものはなかった。
大切なものなど、なにもない。
何も持っていない。持つ必要すらない。
だって、やがては無に還るから。
それが、かつての私だった。
「幸せってなに?」
そんな疑問を持ったのも、ただ単純に言葉の意味が理解できなかったからだ。
幸せ、幸福、そういったものを、ヒトは求めるのだというけれど、私にはその意味も、その価値も理解できなかった。
いろいろと調べてみても、あいまいな表現や、比喩的な表現ばかりで、結局、満足のいく回答は得られなかった。
それからしばらくの間は、その問題について、考えることさえなかった。
それが、ふとした瞬間脳裏をよぎったのは、いったいどうしてなのか、自分でもわからない。
ただ、戯れに、単純に、隣を歩く彼にも尋ねてみたくなったのだ。
「幸せって、どういうこと?」
予想外の質問だったのだろう。
彼はしばらくうんうんうなった後、こう答えた。
「人それぞれ、かなあ。その人が幸せだと思ったら、幸せなんじゃない」
どうやら、彼自身も答えを教えてはくれないらしい。
「……そう、じゃあ、幸せって、どうしたらわかるの?」
だからこそこれは、特に深い意味があるわけではない、ちょっとしたイジワルだ。
だって、まともに回答してくれないのだもの。
碇くん。あなたはどう答えてくれるの?
碇くん。満足のいく答えじゃなくてもいいから、あなた自身の答えを聞かせて?
そう内心でつぶやきながら、彼の回答を待った。
「幸せっていうのは、心が満たされていることだと思うよ。今が充実している、満足している。そんな状態のことを言うんじゃないかな」
「……心が、満たされている」
抽象的なような、具体的なような、なんとも難しい回答だった。
でも、先ほどの、小手先でごまかしたような回答とは違って、こちらの回答はなんだか自分の中で、ストンと落ち着いたものがあった。
「心が満たされる」何が、どうやって、どのようにして、私の心を満たしてくれるのだろう。
無に還る以外の存在意義を持たなかった、空虚な私の心を。
そう考えていると、さも「僕の仕事は終わった」という風な清々した表情の彼が、少し憎らしくなってくる。
私がこんなに悩んでいるというのに。
そう思った瞬間、私は無意識に、彼の右手を両手でつかんでいた。
「わっ、とっ、とっ」
バランスを崩しそうになる彼だが、人の気も知らない彼にはいい気味だと思う。
「と、突然どうしたの、あやなみっ」
焦って、責めるように言う彼に、まともに返答してなんかあげない。
「……やっぱり、温かい」
そう思ったのに、つい、口からは本音が漏れてしまった。
「温かい? なんのこと?」
そういう反応になるのは当然ね。
「……碇君の、手」
「手?」
正直に答えたのに、うまく伝わらない。
こういう時には、口下手な自分と違って、語彙も表情も豊かなアスカがうらやましくなる。
しばらく彼の手を握って、その温かさをしっかりと感じた後、私はようやく口を開くことができた。
「碇くんの手、やっぱり温かいから」
彼は、そう言った私の手を振りほどくことは、しなかった。
「……心が」
「心?」
「ええ、心が、ポカポカするの、全然、いやじゃない。不思議と満たされていく」
「そう、なんだ」
そのまま私は、自分が今思っていることをそのまま彼に伝えてみる。
こんな私は、嫌?
「さ、さあ、帰ろう。アスカやミサトさんがお腹を空かして待っているはずだから」
慌てたような、照れたような、そんな口調で彼は歩き始めた。
歩きにくいだろうに、彼の右手は、私の胸元で、私の両手に捕まったままだ。
碇くん、碇くん、碇くん。
いつの間にか、私の中で、あなたの存在が大きくなっていたの。
気が付けば、空っぽだった私の心に、いつもあなたがいるの。
ねえ碇くん?
今の私は、寝ても覚めても、あなたのことばかり考えているのよ。
「碇くんがエヴァに乗らなくていいようにする」
果たせなかったけれど、私の中では、初めて本気で目指した目標だったの。
この気持ちは、いったい、何?
私は、私自身がわからない。
私自身が、大切なものとは思えない。
だって、たくさんの私が、私の代わりが居たのだから。
でもいいの。
たとえこの気持ちが、仕組まれたものだったとしても。
「……今日の晩御飯、なに?」
「さっき買った材料はなんでしょうか」
「……ニンジン、じゃがいも、牛肉、たまねぎ」
「大ヒント、うちの冷蔵庫に残ってた賞味期限が近いもの」
「あっ、カレールー」
「そういうこと」
取り留めのない会話が、こんなにもうれしい。
だって、私が、今の私自身が、あなたと会話して、うれしいと、悲しいと、楽しいと思っている。
この気持ちだけは、紛れもない、私だけのものだから。
だからこれからも、彼の手を取って歩こうと思う。
こんな風に、離れないようにぴったりとくっついて、しっかりと捕まえたままで。
だってそれが、私にとって、一番たいせつなものだから。
碇くん、あなたのことが、とてもとても愛おしいの。
Written by 史燕
私にとって、大切なもの、そんなものはなかった。
大切なものなど、なにもない。
何も持っていない。持つ必要すらない。
だって、やがては無に還るから。
それが、かつての私だった。
「幸せってなに?」
そんな疑問を持ったのも、ただ単純に言葉の意味が理解できなかったからだ。
幸せ、幸福、そういったものを、ヒトは求めるのだというけれど、私にはその意味も、その価値も理解できなかった。
いろいろと調べてみても、あいまいな表現や、比喩的な表現ばかりで、結局、満足のいく回答は得られなかった。
それからしばらくの間は、その問題について、考えることさえなかった。
それが、ふとした瞬間脳裏をよぎったのは、いったいどうしてなのか、自分でもわからない。
ただ、戯れに、単純に、隣を歩く彼にも尋ねてみたくなったのだ。
「幸せって、どういうこと?」
予想外の質問だったのだろう。
彼はしばらくうんうんうなった後、こう答えた。
「人それぞれ、かなあ。その人が幸せだと思ったら、幸せなんじゃない」
どうやら、彼自身も答えを教えてはくれないらしい。
「……そう、じゃあ、幸せって、どうしたらわかるの?」
だからこそこれは、特に深い意味があるわけではない、ちょっとしたイジワルだ。
だって、まともに回答してくれないのだもの。
碇くん。あなたはどう答えてくれるの?
碇くん。満足のいく答えじゃなくてもいいから、あなた自身の答えを聞かせて?
そう内心でつぶやきながら、彼の回答を待った。
「幸せっていうのは、心が満たされていることだと思うよ。今が充実している、満足している。そんな状態のことを言うんじゃないかな」
「……心が、満たされている」
抽象的なような、具体的なような、なんとも難しい回答だった。
でも、先ほどの、小手先でごまかしたような回答とは違って、こちらの回答はなんだか自分の中で、ストンと落ち着いたものがあった。
「心が満たされる」何が、どうやって、どのようにして、私の心を満たしてくれるのだろう。
無に還る以外の存在意義を持たなかった、空虚な私の心を。
そう考えていると、さも「僕の仕事は終わった」という風な清々した表情の彼が、少し憎らしくなってくる。
私がこんなに悩んでいるというのに。
そう思った瞬間、私は無意識に、彼の右手を両手でつかんでいた。
「わっ、とっ、とっ」
バランスを崩しそうになる彼だが、人の気も知らない彼にはいい気味だと思う。
「と、突然どうしたの、あやなみっ」
焦って、責めるように言う彼に、まともに返答してなんかあげない。
「……やっぱり、温かい」
そう思ったのに、つい、口からは本音が漏れてしまった。
「温かい? なんのこと?」
そういう反応になるのは当然ね。
「……碇君の、手」
「手?」
正直に答えたのに、うまく伝わらない。
こういう時には、口下手な自分と違って、語彙も表情も豊かなアスカがうらやましくなる。
しばらく彼の手を握って、その温かさをしっかりと感じた後、私はようやく口を開くことができた。
「碇くんの手、やっぱり温かいから」
彼は、そう言った私の手を振りほどくことは、しなかった。
「……心が」
「心?」
「ええ、心が、ポカポカするの、全然、いやじゃない。不思議と満たされていく」
「そう、なんだ」
そのまま私は、自分が今思っていることをそのまま彼に伝えてみる。
こんな私は、嫌?
「さ、さあ、帰ろう。アスカやミサトさんがお腹を空かして待っているはずだから」
慌てたような、照れたような、そんな口調で彼は歩き始めた。
歩きにくいだろうに、彼の右手は、私の胸元で、私の両手に捕まったままだ。
碇くん、碇くん、碇くん。
いつの間にか、私の中で、あなたの存在が大きくなっていたの。
気が付けば、空っぽだった私の心に、いつもあなたがいるの。
ねえ碇くん?
今の私は、寝ても覚めても、あなたのことばかり考えているのよ。
「碇くんがエヴァに乗らなくていいようにする」
果たせなかったけれど、私の中では、初めて本気で目指した目標だったの。
この気持ちは、いったい、何?
私は、私自身がわからない。
私自身が、大切なものとは思えない。
だって、たくさんの私が、私の代わりが居たのだから。
でもいいの。
たとえこの気持ちが、仕組まれたものだったとしても。
「……今日の晩御飯、なに?」
「さっき買った材料はなんでしょうか」
「……ニンジン、じゃがいも、牛肉、たまねぎ」
「大ヒント、うちの冷蔵庫に残ってた賞味期限が近いもの」
「あっ、カレールー」
「そういうこと」
取り留めのない会話が、こんなにもうれしい。
だって、私が、今の私自身が、あなたと会話して、うれしいと、悲しいと、楽しいと思っている。
この気持ちだけは、紛れもない、私だけのものだから。
だからこれからも、彼の手を取って歩こうと思う。
こんな風に、離れないようにぴったりとくっついて、しっかりと捕まえたままで。
だってそれが、私にとって、一番たいせつなものだから。
碇くん、あなたのことが、とてもとても愛おしいの。
Written by史燕
「幸せってどういうこと?」
突然、そう聞かれた僕は、即答できなかった。
いや、そもそも即答できる人間なんているのだろうか?
ほかの人がなんていうか、取り急ぎ脳内で整理をしてみよう。
ミサトさんなら「えびちゅとシンちゃんの手料理があれば、何もいらないわよ」と事も無げに言うかもしれない。
加持さんなら「葛城と一緒に夜景でも眺める、それだけで男冥利に尽きるさ」なんてかっこよく決めるのかもしれない。
アスカは「アンタばかあ? 世界中にアタシのことを認めさせることに決まってるじゃない」なんて言いそうだ。
トウジは「メシやメシ、それも別嬪のかみさんが作ったやつや」なんて、洞木さんのほうをちらりと覗き見ながら言うに違いない。
ケンスケは「俺の好きなものを見に行って、好きなやつとつるんで、ま、人それぞれってやつだ」と、諭してくれそうだ。
目下、僕の答えを見つけるのが喫緊の課題である。
それも、目の前で僕のことを、ひと時も視線をそらさずじっと見つめる碧い髪の少女に対して答えなければならない。
何の変哲もない一日の終わりに訪れた、突然の難問。
二人で歩く帰り道では、鉾先をそらす相手さえ介在しない。
ひとまず、僕の親友の言葉を拝借することにしよう。
「人それぞれ、かなあ。その人が幸せだと思ったら、幸せなんじゃない」
「……そう、じゃあ、幸せって、どうしたらわかるの?」
ごめん、ケンスケ。通用しなかった。
心の中で彼に詫びを入れる。
今日の彼女は、いつも以上に手ごわいようだ。
じーっと射貫くような視線で僕を見つめながら歩く彼女に対し、何と答えればいいのか返答に窮してしまった。
窮しながらも、このままでは解放されないことはよくわかった。
とはいえそれに対してとっさにうまい回答ができるなら、こんな風に困っているわけがない。
というわけで、ひとまず無難に、当たり障りのないことを話しておこう。
「幸せっていうのは、心が満たされていることだと思うよ。今が充実している、満足している。そんな状態のことを言うんじゃないかな」
「……心が、満たされている」
彼女のほうは、今度は顎に右手を当てて、歩きながら考え始めてしまった。
ひとまず、危地は脱した。
そう、ひそかに胸をなでおろして、さあ進み始めよう、とした時だった。
ぐいっ、と突然隣から強い力で引き寄せられた。
「わっ、とっ、とっ」
突然のことに、僕は転びそうになりながらも慌ててバランスを取り、何とか醜態を晒すことは免れた。
下手人は決まっている。隣の彼女だ。
「と、突然どうしたの、あやなみっ」
「……やっぱり、温かい」
「温かい? なんのこと?」
「……碇君の、手」
「手?」
気が付けば、彼女は引き寄せた僕の手を、ぎゅっと大切なものを握りしめるように、両手で包み込んでいた。
もう片方の手は、夕飯の買い出しのビニール袋を提げているためか、ターゲットからは外されたらしい。
しっかりと握った両手を胸に、瞑目する彼女。
そんな彼女に、どきり、と胸が高鳴った。
しばらくして、それが数秒のようでもあり何時間ものようにも感じられた、不思議な時間が終わりを告げた。
「碇くんの手、やっぱり温かいから」
彼女が再び口を開いたのだ。
温かいからどうしたというのだろう。
「……心が」
「心?」
「ええ、心が、ポカポカするの、全然、いやじゃない。不思議と満たされていく」
「そう、なんだ」
彼女の言葉に顔から火が出そうになる。
そんなことを言う彼女は心の底から不思議そうで、何にも裏がないみたいだから余計に質が悪い。
「さ、さあ、帰ろう。アスカやミサトさんがお腹を空かして待っているはずだから」
内心を隠して、強引に家へと歩き始める。
じっと見つめたままでいたかったけれど、そうしてしまったら、僕のほうはどうなってしまうか自分でもわからない。
「……今日の晩御飯、なに?」
「さっき買った材料はなんでしょうか」
「……ニンジン、じゃがいも、牛肉、たまねぎ」
「大ヒント、うちの冷蔵庫に残ってた賞味期限が近いもの」
「あっ、カレールー」
「そういうこと」
真っ赤になった頬がばれないように、とりとめのないことを話しながら歩き始める。
だけど、彼女の表情が気になるから、ついつい、彼女のほうを向いてしまうと――。
目線があった。
彼女の紅い瞳とばっちりと。
すると、お互い同時に明後日の方向を向き、また、相手のほうを向いた。
今度は二人ともなんだかおかしくなって、くすり、と同時に微笑んでしまった。
「綾波、歩きにくくないの?」
立ち止まったのはいい機会だと、僕は彼女に尋ねた。
「……いいの」
しかし、僕の問いに短く答え、歩きにくいだろうに、彼女のほうが足を進めた。
彼女に片手を握られたまま、僕たちの影が少しずつ伸びていく。
僕も綾波も、無言のまま、いつもより少しだけ小さな歩幅で、帰路を歩き続けた。
二つの影は、歩いている間はずっと、ぴったりとくっついて離れなかった。
幸せの在り処は、意外と身近なところにあるものらしい。