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ドリップ・トリップ
件名 | : Re: ドリップ・トリップ |
投稿日 | : 2021/05/27 22:29 |
投稿者 | : 史燕 |
参照先 | : |
ちゃんとした感想を申し上げていませんでした。
重複になりますが、この作品が没ネタだったとは信じられず、拝読できてよかったと思います。
tambさんが「エヴァらしい」とおっしゃった部分が、強く引き付けられるこの作品の魅力の一つだと思います。
レイが居なくなって、彼女がいないという事実から来る切なさと、ここにいない彼女をそれでも想い続けるという追憶と、それが彼だけが世界から切り離された彼女を必死に自分の中でつなぎとめようというシンジの必死さが伝わってきました。
風にさらされる砂絵のように失いつつ記憶の中で、彼女のことを少しでも形にしようとする彼の姿から、なぜかKameさんの「Portrait」を思い出しました。たぶん、レイの姿をスケッチに留めるという点からの変な連想ですので、あまり気にしないでください。
>かように、FFを書く燃料は作品ではなく自分の中にある。
>ネタ自体は外にある。
そうですね。同感です。
書きたいという意欲は内側から湧いてくる、ネタは日常の中や何でもないところから飛び出てくる、そんな感じです。
>ラストの希望のなさは、pixivでの紅茶のやりとりを見て、最後の一文を紅茶から引用することにして強固になりました。
これはすごい。ほんとに。
シンジがレイに強く執着していることがわかる部分なだけに、よく効いてる文章ですね。
重複になりますが、この作品が没ネタだったとは信じられず、拝読できてよかったと思います。
tambさんが「エヴァらしい」とおっしゃった部分が、強く引き付けられるこの作品の魅力の一つだと思います。
レイが居なくなって、彼女がいないという事実から来る切なさと、ここにいない彼女をそれでも想い続けるという追憶と、それが彼だけが世界から切り離された彼女を必死に自分の中でつなぎとめようというシンジの必死さが伝わってきました。
風にさらされる砂絵のように失いつつ記憶の中で、彼女のことを少しでも形にしようとする彼の姿から、なぜかKameさんの「Portrait」を思い出しました。たぶん、レイの姿をスケッチに留めるという点からの変な連想ですので、あまり気にしないでください。
>かように、FFを書く燃料は作品ではなく自分の中にある。
>ネタ自体は外にある。
そうですね。同感です。
書きたいという意欲は内側から湧いてくる、ネタは日常の中や何でもないところから飛び出てくる、そんな感じです。
>ラストの希望のなさは、pixivでの紅茶のやりとりを見て、最後の一文を紅茶から引用することにして強固になりました。
これはすごい。ほんとに。
シンジがレイに強く執着していることがわかる部分なだけに、よく効いてる文章ですね。
件名 | : Re: ドリップ・トリップ |
投稿日 | : 2021/05/27 21:52 |
投稿者 | : tamb |
参照先 | : |
そういう意味では住み分けられるかな、とは思います。向こうは向こうでいい部分あるし。人が多いとか(笑)。
あ、紅茶は加筆なのか。これはすごい。これがあるとないとでは全く強度が違う。うーむ。
夏への扉はね、いいですよ。猫がかわいい(笑)。そしてタイトル!
あ、紅茶は加筆なのか。これはすごい。これがあるとないとでは全く強度が違う。うーむ。
夏への扉はね、いいですよ。猫がかわいい(笑)。そしてタイトル!
件名 | : Re: ドリップ・トリップ |
投稿日 | : 2021/05/27 08:41 |
投稿者 | : のの |
参照先 | : |
>tambさん
感想ありがとうございます。
そうなんですよね、pixivでは無理なんですよ、こういうの笑
そう思うと、書いたものについて語り合うまでが二次創作なのでは、という気がしました。僕はあんまりそういうこと思ってこなかったんですけど、発表の場を移してみるとそう思う。
これ、tambさんの仰る、僕って感じですよね、これはすごいわかる。
たぶんその濃度が高すぎてうんざりもしたのかも。
歌は『ポルターガイスト』ですね。
今となっては何でこれを引用したのかは思い出せない…。
本は多分『夏への扉』ですね。
おそらく一生読むことなくカバンに入れ続ける、と想定しています。
いつか読んで、大切に本棚にしまって、時折開けるようになってほしいけれど。
ラストの希望のなさは、pixivでの紅茶のやりとりを見て、最後の一文を紅茶から引用することにして強固になりました。
視点の揺らぎも含めて脇の甘い話ですけれど、ラストの強度はお気に入りです。
感想ありがとうございます。
そうなんですよね、pixivでは無理なんですよ、こういうの笑
そう思うと、書いたものについて語り合うまでが二次創作なのでは、という気がしました。僕はあんまりそういうこと思ってこなかったんですけど、発表の場を移してみるとそう思う。
これ、tambさんの仰る、僕って感じですよね、これはすごいわかる。
たぶんその濃度が高すぎてうんざりもしたのかも。
歌は『ポルターガイスト』ですね。
今となっては何でこれを引用したのかは思い出せない…。
本は多分『夏への扉』ですね。
おそらく一生読むことなくカバンに入れ続ける、と想定しています。
いつか読んで、大切に本棚にしまって、時折開けるようになってほしいけれど。
ラストの希望のなさは、pixivでの紅茶のやりとりを見て、最後の一文を紅茶から引用することにして強固になりました。
視点の揺らぎも含めて脇の甘い話ですけれど、ラストの強度はお気に入りです。
件名 | : Re: ドリップ・トリップ |
投稿日 | : 2021/05/26 20:31 |
投稿者 | : tamb |
参照先 | : |
どう反応したらいいものか困惑する、という点も含めて、とてもののさんらしい話。書き上げてうんざりはよくわからないけれど、らしからぬ視点のブレも含め、絶望感みたいなのは良く伝わってくる。爽快感とかカタルシスみたいなものは望むべくもなく、ひたすら内向し堕ちていくというのはある意味でとてもエヴァらしいとも思う。
背筋が凍るもすごいけど、希望の欠片もないラストがすごすぎる。何もかもが時間と共に色褪せ、崩れてゆく。そこから逃れる術はない。
有名なSFは最初に「たったひとつの冴えたやりかた」が浮かんだ。セットでエリスンの名前が出てきたけど、それは「世界の中心で~」だった。次に「夏への扉」が浮かんだけど、それはまぁいいや。最近SFも読んでないな。
歌は事変か林檎か。たぶん離れ始めた頃で、あんまり聞き込んでない。
燃料、ネタはわかる気がする。ただ燃料は補給しないとガス欠になる。決して抜いてはならない懐に忍ばせた真剣も、気がつくと錆びている。忍ばせていたのが本当に真剣なのかももうわからない。実は竹光だったのかもしれない。でもそれは大した問題じゃない。
しかしこんなことpixivじゃ書けないぜ(笑)。
背筋が凍るもすごいけど、希望の欠片もないラストがすごすぎる。何もかもが時間と共に色褪せ、崩れてゆく。そこから逃れる術はない。
有名なSFは最初に「たったひとつの冴えたやりかた」が浮かんだ。セットでエリスンの名前が出てきたけど、それは「世界の中心で~」だった。次に「夏への扉」が浮かんだけど、それはまぁいいや。最近SFも読んでないな。
歌は事変か林檎か。たぶん離れ始めた頃で、あんまり聞き込んでない。
燃料、ネタはわかる気がする。ただ燃料は補給しないとガス欠になる。決して抜いてはならない懐に忍ばせた真剣も、気がつくと錆びている。忍ばせていたのが本当に真剣なのかももうわからない。実は竹光だったのかもしれない。でもそれは大した問題じゃない。
しかしこんなことpixivじゃ書けないぜ(笑)。
件名 | : Re: ドリップ・トリップ |
投稿日 | : 2021/05/26 19:42 |
投稿者 | : のの |
参照先 | : |
pixivにて公開。
もともと2015年4月ごろに書いていたものらしい。
すういちさんの『ドリップ・ドライブ』みたいな短編を書きたいと思って思うがままに書いていったらかなり深くて暗いところに来てしまったのでボツにした記憶があります。
タイミング的に、ちょうど妻の初産がボチボチだ、ということと、長期の育児休暇を僕が取ることを決意したタイミングと重なります。
出産・子育て・仕事に対する価値観のアップデートなどが津波のように押し寄せて、自分が過去に抱いていた価値が変わったり、未来の不透明性であったり、にも関わらず着現在が未来を食いつぶして過去が積み上げられていくことに対する不安が露骨に出ている。だからボツにしたのかもしれない。書き上げてうんざりした記憶がある。
かように、FFを書く燃料は作品ではなく自分の中にある。
ネタ自体は外にある。
それらは案外別々なのだと思う。
もともと2015年4月ごろに書いていたものらしい。
すういちさんの『ドリップ・ドライブ』みたいな短編を書きたいと思って思うがままに書いていったらかなり深くて暗いところに来てしまったのでボツにした記憶があります。
タイミング的に、ちょうど妻の初産がボチボチだ、ということと、長期の育児休暇を僕が取ることを決意したタイミングと重なります。
出産・子育て・仕事に対する価値観のアップデートなどが津波のように押し寄せて、自分が過去に抱いていた価値が変わったり、未来の不透明性であったり、にも関わらず着現在が未来を食いつぶして過去が積み上げられていくことに対する不安が露骨に出ている。だからボツにしたのかもしれない。書き上げてうんざりした記憶がある。
かように、FFを書く燃料は作品ではなく自分の中にある。
ネタ自体は外にある。
それらは案外別々なのだと思う。
それで止むならありがたく。
オートセーブを繰り返す。
その過去こそが、現在の自分がある証明。
ドリップ・トリップ
なくなった秋が蘇りつつある日本で、その日はそれにつけても肌寒い朝だった。夏掛けだけで済ませていた三週間前とは段違い。長袖長ズボンに毛布でくるまって、ようやく心地よく眠れるような朝だった。シンジは八時半に目をさまし、休前日にもかかわらずいつもと同じような時間に寝てしまったことと、休日にもかかわらず予定のない自分に起き抜けから少しだけ落胆するような気持ちを抱えて自室を出た。まさか寝る前に、明日になれば皆が僕を取り合っているかもしれないという願望など今更抱いてはいないのだけど、それでもひんやりとした廊下に出た時のいくばくかの寂寥が彼の胸を正しく冷たく吹き抜けていったことを彼は自覚し、静かに戸を閉めた。
「君は、ひとあし先に、微笑んで……」
ひと昔前の歌を口ずさみながら、居間を通り過ぎて洗面所で顔を洗った。鏡の前には大人ではない顔が映りこんでいる。まだ自分は子どもだという自覚を毎朝持つことの良し悪しはさておき、事実そうだと頷くように顎を下げて手近なタオルで顔を覆い尽くした。タオルを首にかけ首を鳴らす。
居間の床が廊下と同じくひんやりしている。がらんとしていてもやもやするなと、擬音ばかりの感想を頭に浮かべながら水を入れたヤカンを火にかける。ラジオをつけて新聞を取りに玄関へ行き、またすぐ戻ってソファに腰かけた。一面のニュースは東欧で起きた爆破テロで、社会面では第三新東京市でのみ向上する雇用率によって地方の過疎が更に進んでいることについて。数年前に世界の危機にさらされて、そこから脱出したと思っても毎朝こんなニュースが報じられている。テレビをつければ昨夜から何百回も流しているその爆破テロの映像が今朝も流れつづけている。「被害者の数は死者36人、負傷者25人で、日本人の被害者は0人でした」という内容は毎度のことだ。いつかの歌のように。それでいて、名古屋で起きた交通事故で一人が死んだという報道については7秒程度の時間で済まされていた。
寝間着の裾にくすぐられていた踝をばりと掻いて、沸騰しそうなヤカンのために立ち上がった。自分のためだけの紅茶のパックをひとつ用意してマグカップに落とす。金切り声をあげる笛吹ケトルからお湯を注いでから、いつかの記憶が駆け抜けていった。
一人暮らしではないが、血の繋がった家族と暮らしているわけではない。同居人の同い年の少女と元上司の保護者は、休日にも何かと用事を入れるタイプだ。平日は平日で、保護者は夜勤もある仕事ゆえにそれほど揃うことはなく、結果的に三人が顔を合わせるのは慌ただしい平日の朝だけとなる。今朝は二人そろって隣県にできたばかりのショッピングモールに行っている。廊下や居間の人気のなさを考えれば相当に速やかに出ていったのだろう。朝食もとらずというやつだ。事あるごとに「腹が減っては戦ができぬ」と口にする二人にしてはずいぶんと珍しいが、きっとコンビニで肉まんでも買っていったのだろう。それなら安心、と考えるべきなのか、毎朝食事を作ってあげている身としては寂しいような、どちらともつかない気持ちになる。随分と濃い飴色に出てしまった紅茶に砂糖を入れて流し込んだ。苦みが、何年か前に少女だった彼女が淹れてくれた、黄昏時にふさわしいのかわからない色の濃すぎる琥珀色の味を思い出させる。
何も朝からこんなことを思い出さなくても良いものなのにと、思い出した情景を頭に浮かべたまま朝食を済ませた。食器を洗っている時も、もう四年も前になるあの日のあの時の事が生々しく蘇る。瞳に映る、あの日の黄昏時。そこから目の前の現在の景色に切り替わって、目の前にある飲みかけの紅茶をひと口、またひと口と身体に取り込み彼女の声を思い出す。
『でも、あたたかいわ』
彼女はそう言っていた。蝉の鳴き声も聞こえる夏の日射しの中で。太陽の光ではまだ足りなかったのだろうか。そういう意味ではなかった、と思うことはできる。だが、そんなことを考えても、過去は一分の隙もなく過去のままで動くことはない。ただ褪せていくだけだ。現在は現在で、いつだって未来をたらふく腹に入れるごく潰しのままだ。未来はいつも過去の形でしか現れてくれやしない。それでも、と思う。それでも、それでも。もしもあの時踏み出せていれば、自分がもう少し大人であれば、力がれば、もしも、もしも、それならば、もしや。
彼女の写真を持っていない。誰も彼女の写真を持っていない。もちろん、だからというわけではないが、誰も彼女の顔を憶えていなかった。赤い海から目覚めた時から、誰も、誰も。残っているのは文書と名前だけ。共に戦った少女も上司もなぜか、彼女と彼の顔だけが思い出せず、しかもさして困りもせずに今をすごしている。
着替えて外に出る準備をした。彼女たちも夕方には戻るだろう。それまでは自由だ。いつ死んだって、いつ生きたって自由だ。それを知っているから、今日はまだ死のうとは思わずに今日も生きて歩いている。本屋で彼女が読んでいた本を探して、見つけ出しては買っていく。それが専門書だったらしかめ面して数日をかけてわかった気になり、小説ならば安心して買った後に喫茶店へ入って早速取りかかる。彼女が読んでいたとわかっている本は彼や彼女が所属していた組織の図書館のデータベースから探し出した。その数は年齢にふさわしくなく膨大なものだったのだが、しかし困ったことに今や未読の本は、あと1冊になっていた。その一冊は昨日はふらりと入った古本屋で購入した。有名なSF小説なので、あえて最後まで取っておいた一冊だった。
「これがなくなりゃいよいよだ」
鞄に入れて、外へ出る。呟いた自分の言葉に首を傾げる。いよいよなんだっていうんだ、僕は。
彼女との思い出は少ない。遊園地に行ったこともドライブをしたことも買い物に行ったことも学校から二人で手をつないで帰ったことももちろんない。それはあらゆる意味で空想上しかありえないことだ。空想して現実になるなら、いくらでも祈っている。
秋の風が吹く街を歩いていると、本当にここが四年前のあの世界と同じかどうか疑問に思えてくる。湿度の低い風、黄色く、赤く色づきはじめる木々の葉、茶色く重くなっていく人々の服装、あたたかいコーヒーにミルクが混ざり合う時のありがたさ。あのころはそのうちのひとつだって空想上の事だった。良くて昔話にすぎなかった。ところが今はこうして自分を、街を冷たい空気がつつんでいる。失ったものを取り返す戦いだったのだ、と誰かが論評していた、そういえば。
そのためだとしよう、それでもいいからそうだとして、世界は彼女を失った。皆それほど困りもしていない。それはそうなのだろう、しかし、だからといってシンジの喪失はシンジのもので、故に本を読みつづけている。一度読み終えても繰り返しつづけ、晴れた空の色を見ては目を細め、紅茶を飲んでは黄昏時を蘇らせる。黄昏時の思い出が黄昏時のように色褪せていかないようにするために。鞄に入れた本には手をつけず、昼下がりには帰宅し、もう一度湯を沸かして紅茶を淹れた。琥珀色の苦い紅茶に砂糖をひと匙、よくかきまぜて、そこにポーションミルクをたらしてみる。ぐるぐる回る紅茶に白い線が引かれて、そして溶けてゆく。混ざり合う。その光景に、背筋を凍らせた。瞳にただの紅茶を映しながら、揺れる視野の中で呟いた。
「僕は絵を描いているはずだ」
頭の中で、彼女の絵を。
「僕だけが綾波を憶えているんだ」
渦がゆるんでいった紅茶はすでに、別の色になっている。
「僕の……僕は、今も僕は」
口に出していたかどうかはわからない声だった。
荒々しい車の音が聞こえる、血の繋がっていない家族の足音。
早めのおかえり。
早めのただいま。
そのやりとりが重なるごとに、彼の中の彼女が、またひとつ、すこしずつ、紅茶の色に褪せていく。