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7度目は突然に
件名 | : Re: 7度目は突然に |
投稿日 | : 2021/06/15 20:33 |
投稿者 | : アールグレイ |
参照先 | : |
返信遅くなって申し訳ないです。
>史燕さん
もう貞シンレイが再開したあとは離れて欲しくないという思いで書きました。
特にシンジ君の場合はいきなり綾波が居なくなりましたからね……
>tambさん
そのラスト二つは結果的には対比してるように書きましたが、実はオマケを書いてたときに思いついたことだったりします……
再会シーンは確かにもっと混乱させるべきでしたね……何か書き足りないと思っていたのはそこでしたか。
綾波リナはリナレイが元です。最初は凄く適当に決めた脇役だったはずなのに気付いたらやたら目立つキャラになりました……リナレイ恐るべし。
それにしても考えて書いている所も感覚で書いてる所もあったのですが、実際にそれらを解説されると何ともむず痒い……笑
改めまして、皆さんよろしくお願いします。
>史燕さん
もう貞シンレイが再開したあとは離れて欲しくないという思いで書きました。
特にシンジ君の場合はいきなり綾波が居なくなりましたからね……
>tambさん
そのラスト二つは結果的には対比してるように書きましたが、実はオマケを書いてたときに思いついたことだったりします……
再会シーンは確かにもっと混乱させるべきでしたね……何か書き足りないと思っていたのはそこでしたか。
綾波リナはリナレイが元です。最初は凄く適当に決めた脇役だったはずなのに気付いたらやたら目立つキャラになりました……リナレイ恐るべし。
それにしても考えて書いている所も感覚で書いてる所もあったのですが、実際にそれらを解説されると何ともむず痒い……笑
改めまして、皆さんよろしくお願いします。
件名 | : Re: 7度目は突然に |
投稿日 | : 2021/06/09 23:30 |
投稿者 | : tamb |
参照先 | : |
処女作でこれだぜ。最近の世の中のことはまったくわからんわゴフゴフ。
この話は真っ直ぐ結末に向かって行けば良いという話なので、ある意味では二つあるラスト
>もうこの手を、僕は決して離さない。
と
> もう絶対に離さないから
が、きっちり符合しているのがとても良いです。その意味では「オマケ(その後の話 レイ視点)」という注釈はいらないかな。
シンジがどう思い出すか、というのももう一つのポイントで、少なくとも声を聞いても思い出さないわけだ。で、「手を差し伸べて、群衆から何とか彼女を引っ張りだし」た所で実際にどの程度姿が見えていたのかは微妙なんだけど、「その時触れた掌に、何故か懐かしい感触がした」で思い出し始めるわけだ。続いて「やがて彼女の顔が見えてきた」ので、最初の「彼女を引っ張りだし」の所では、彼女の姿は彼の意識には上っていないわけだ。「彼女の背後で扉が閉ま」っているにも関わらず、見えていない。視界には入っているはずなのに見えていない。それは手が触れたことによって言わばレイが流入し、記憶に混乱が生じたからに他ならない。レイが知らないベッドで目覚めて混乱したまま学校に行くあたりのプロセスが一気にシンジに襲いかかったわけで、そりゃ見えないのも無理はない。見ただけで思い出しても、「蒼銀の髪に紅い瞳」なんだから話的には無理はないんだけど、そこであえて手が触れないと、という方向に持って行ったのが抑制が効いてていいし、だからこそタイトルが生きるわけだ。いいねぇ。
そういう意味ではシンジ君にもうちょっと混乱してもらえると、混乱してる隙に逃げられた的な感じになって無理がないかも。
それからそもそも「碇くんがこれ以上何も思い出さないように」というのも「前の世界の辛い記憶を思い出す」のは良くないだろうという、読者的にみればレイの大きなお世話なわけだ。速攻で会いに行けよと突っ込みたくなる(笑)。それはそれとして、綾波と呼ばれた時点で諦めるべきで、それでも反射的に逃げたのは「彼女にしては珍しく完全に混乱している」からなので、双方混乱してわけがわからなくなってる感がもうちょっとあってもいいかもね。
なんにしてもこうしてまた逢えたのは偶然という必然なので、大切にしていただきたいです。
お母さんがお茶目すぎる(笑)。中学生のラブレターでキスマークはあり得ん。母、綾波リナ。リナレイかな?
というわけで、「綾波レイの幸せ」へようこそ。今後ともよろしくお願いします。
この話は真っ直ぐ結末に向かって行けば良いという話なので、ある意味では二つあるラスト
>もうこの手を、僕は決して離さない。
と
> もう絶対に離さないから
が、きっちり符合しているのがとても良いです。その意味では「オマケ(その後の話 レイ視点)」という注釈はいらないかな。
シンジがどう思い出すか、というのももう一つのポイントで、少なくとも声を聞いても思い出さないわけだ。で、「手を差し伸べて、群衆から何とか彼女を引っ張りだし」た所で実際にどの程度姿が見えていたのかは微妙なんだけど、「その時触れた掌に、何故か懐かしい感触がした」で思い出し始めるわけだ。続いて「やがて彼女の顔が見えてきた」ので、最初の「彼女を引っ張りだし」の所では、彼女の姿は彼の意識には上っていないわけだ。「彼女の背後で扉が閉ま」っているにも関わらず、見えていない。視界には入っているはずなのに見えていない。それは手が触れたことによって言わばレイが流入し、記憶に混乱が生じたからに他ならない。レイが知らないベッドで目覚めて混乱したまま学校に行くあたりのプロセスが一気にシンジに襲いかかったわけで、そりゃ見えないのも無理はない。見ただけで思い出しても、「蒼銀の髪に紅い瞳」なんだから話的には無理はないんだけど、そこであえて手が触れないと、という方向に持って行ったのが抑制が効いてていいし、だからこそタイトルが生きるわけだ。いいねぇ。
そういう意味ではシンジ君にもうちょっと混乱してもらえると、混乱してる隙に逃げられた的な感じになって無理がないかも。
それからそもそも「碇くんがこれ以上何も思い出さないように」というのも「前の世界の辛い記憶を思い出す」のは良くないだろうという、読者的にみればレイの大きなお世話なわけだ。速攻で会いに行けよと突っ込みたくなる(笑)。それはそれとして、綾波と呼ばれた時点で諦めるべきで、それでも反射的に逃げたのは「彼女にしては珍しく完全に混乱している」からなので、双方混乱してわけがわからなくなってる感がもうちょっとあってもいいかもね。
なんにしてもこうしてまた逢えたのは偶然という必然なので、大切にしていただきたいです。
お母さんがお茶目すぎる(笑)。中学生のラブレターでキスマークはあり得ん。母、綾波リナ。リナレイかな?
というわけで、「綾波レイの幸せ」へようこそ。今後ともよろしくお願いします。
件名 | : Re: 7度目は突然に |
投稿日 | : 2021/06/09 22:41 |
投稿者 | : 史燕 |
参照先 | : |
何度読んでも素敵な作品です。
以下も含めて、薄っぺらい感想しか書けないのですが、許してください。
>もうこの手を、僕は決して離さない。
ぜひとも離さないでいただきたいと切に願う所存です。
>そしてゆっくりと顔を見上げて耳元に近づき…小声で囁いた。
>「……全部本当の事だもの」
>「…………えっ?」
>もう絶対に離さないから
レイの覚悟が決まってることが伝わります。
以下も含めて、薄っぺらい感想しか書けないのですが、許してください。
>もうこの手を、僕は決して離さない。
ぜひとも離さないでいただきたいと切に願う所存です。
>そしてゆっくりと顔を見上げて耳元に近づき…小声で囁いた。
>「……全部本当の事だもの」
>「…………えっ?」
>もう絶対に離さないから
レイの覚悟が決まってることが伝わります。
件名 | : Re: 7度目は突然に |
投稿日 | : 2021/06/09 22:11 |
投稿者 | : アールグレイ |
参照先 | : |
初投稿なもので勝手が分かっていません。もし何か問題があったら削除します。
ちょっと小ネタを一つ。綾波が戻ってきたのが1月7日なのは旧劇のサードインパクトが12月31日、旧約聖書の天地創造が7日間というところから思いついた事だったりします。
ちょっと小ネタを一つ。綾波が戻ってきたのが1月7日なのは旧劇のサードインパクトが12月31日、旧約聖書の天地創造が7日間というところから思いついた事だったりします。
件名 | : Re: 7度目は突然に |
投稿日 | : 2021/06/09 22:01 |
投稿者 | : アールグレイ |
参照先 | : |
月日が経つのは早いもので、私が戻ってきてからもうすぐ一年が経とうとしている。そろそろ中学校生活も終わりを迎える時期だ。
以前はいずれ消える自分にとっては学校など意味がないと思っていたので、学校生活や勉強に全く関心が無かったのだが…人として生きている今は逆にとても強い興味を持っていた。
そのおかげで学校の成績は驚くほど上がった。今では必ず学年全体の10位以内に入っている程だ。
そんな私の進路についてだが……お母さんの勧めもあって東京の高校を受けることになった。
私は経済的に遠慮しようとしたのだが……
「これでも研究者として結構稼いで貯金してるんだから、あなたはお金の事なんか気にしないでいいの! ……あなたが進みたい道を選びなさい、私はそれを応援するから」
そう言ってくれた彼女にはいくら感謝しても感謝しきれなかった。ちなみにアスカも私と同じ高校を受験するらしい。
「エリートにはそれに相応しい所に行かないとね!」
との事だ、実に彼女らしい発言だと思う。
ヒカリさんはこの辺りの高校を受験するそうだ。
「別に無理に遠くに行かなくても、この辺りに充分いい高校はあるもの」
余程上を目指すとかでもない限り、それが普通だろう。普段からおとなしい彼女に私程の熱意やアスカ程の競争心があるとも思えなかった。
12月の中頃、街に再び白い雪が降り注いだ。それを見て私は碇くんを送り出したあの時のことを思い出してしまった。
彼は今何をしているだろうか……幸せに暮らしているだろうか。
……碇くんに会いたい……全てを話して楽になりたい……彼を自分だけのものにしたい。
────例えそれがイケナイ事だと分かっていても……
その日、碇くんへの想いが募りどうしても耐えられなくなった私は、一通の手紙を送る事にした。
「お母さん……」
「一体どうしたの……目の周りが赤いわよ?」
「ラブレターってどう書くの?」
「……そう、あなたもそういう人が出来たのね」
いえ、この世界に来る前からいます。
──そんな事言える訳がないのだけど。
「分かったわ、お母さんに任せなさい!」
そう言って彼女は胸に手を当てた。
……何故かやたらやる気に満ちているのが気になるのだけれど、とりあえずお母さんを信用することにした。
そうして私はラブレターを書いた。面と向かって話すと恥ずかしい内容も、自分が送っている事を相手に知られないならと思いスラスラ書けた。私はあなたの事がずっと好きですとか、そんな感じの内容だ。
差出人の欄にはR.Aとだけ書いた。いくらなんでもこれだけでは、送ったのが私だとは分からないだろう。
別に彼に気に止められなくても構わない、所詮私の自己満足だ……そう考えながら私は封筒をポストに投函した。
家に帰って来た時、お母さんが仏壇の前に座っているのが見えた。
「それにしても、あの子もそんなに好きなら直接会って言えばいいのに……」
それが出来たら苦労はしない。
私が彼に会うなんて許される筈が無いのだから……
「全くもう、あの子の奥手さは誰に似たのかしらねぇ……シンイチさん?」
お母さんは微笑みながら遺影に向かってそう言っていた。
どうやら私のお父さんも、活発な彼女と違ってかなり消極的な人だったらしい。
年が明けて、遂に高校の受験日が来た。
私はアスカと一緒に行こうとしたのだが
「レイ、今日だけはあたしにとってアンタは強力なライバルなのよ!一緒になんて行けないわ!」
「……だからってわざわざ電車の始発で行く必要があるの?」
「一番最初に余裕綽々と会場に入って、他の連中にプレッシャーをかけとくのよ!」
と前日に電話で言われ、彼女はとっくに先に行ってしまった。私にはアスカの行動の意図がよく分からなかったが、彼女なりに意味があるのだろう。
なので私は一人で行くことになった。会場には1時間前に着く予定だ。万が一何かあった時のことを考えると一般的にこの位の時間に行くらしい。
だからだろうか、目的地に近づくにつれて電車の中が混雑してきた。どんどん隙間が無くなり、場所が狭くなっていく。
アスカの乗った時間はもっと空いてたのだろうか、やっぱり彼女と行けば良かったかもしれない。
そのまま電車に揺られること数十分。ようやく私の望んでいた時がきた。
「明城学院前ー、明城学院前ー」
車掌さんのアナウンスの声が鳴り響く。
それと同時に電車が停車して、乗車口の扉が開いた……のだが、人が多すぎて上手く出口まで歩けない。
「……降ります」
そう言ったのだが、私の声は幾つもの乱雑な物音にかき消されてしまった。
このままでは降りられずに電車が発車してしまう、そう思い私は縋るように手をあげてもう一度大きな声で叫んだ。
「すみません、降りますので通してください!」
「ふう、聞いてないよ……こんなラッシュ」
僕は人の合間を縫って何とか電車の乗降口付近までたどり着いた。もう停車して結構時間が経ってしまっている……やばい、早く降りないと間に合わないな。
そう考えて急いでいると、後ろの方から女性の声が聞こえた。
「すみません、降りますので通してください!」
どうやらあの子もこの人混みに飲まれてしまったようだ。
このままでは先に扉が閉まり、彼女は乗り越してしまうだろう。
「大丈夫?」
まだここからでは声が届かない。
「君……」
そう言って僕は女の子の元へ向かっていく。
「掴まって!!」
手を差し伸べて、群衆から何とか彼女を引っ張りだした。何とか間に合ったようで、彼女の背後で扉が閉まる。
その時触れた掌に、何故か懐かしい感触がした……胸が高鳴っていくのを感じる。
この手を僕は、知っている……?
やがて彼女の顔が見えてきた。蒼銀の髪に紅い瞳の女の子。
紺色のコートを羽織っているその容姿はあまりにも細く、肌の色は透けるように白かった。僕が支えてあげないと消えてしまいそうだと感じるほどだ。
僕はこの子を知っている……? たしか彼女の名前は──
「綾波……?」
そうだ──彼女の名前は綾波レイ。以前僕と同じようにエヴァに乗って共に使徒と戦った女の子。人類が補完されたあの日に別れ、もう二度と会えないと思っていた……その彼女が今、ここにいる。
「!? ──いかり……くん…………?」
そう言って綾波は固まってしまった。その表情は驚嘆に満ちており、目を丸くしている。
「綾波……よかった……また会えて」
彼女に久々に碇くんと呼ばれた事に懐かしさを感じて、僕の目から涙が零れてきた
──しかし、彼女はハッと気付いたと思ったら…………急に後ろを向いて走り去った。虚を突かれた僕は動けず、その場に立ち尽くす。
「えっ、ちょっと……!待ってよ!!綾波っ!!!」
やっと再会出来たのに逃がす訳にはいかない、そう考えて僕も走り出す。
人が多いので彼女も身動きは取りづらいはずだ、急いで追いかければ間に合うだろう。
綾波の方を見ると、彼女が混んでいるエスカレーターを避けて人通りが少ない階段を使っているのが分かった。それに合わせて僕も階段を二段飛ばしで上って追いかける。
「わっ!?」
慣れないことをしたからか、階段に躓いて思いっきり前から転んでしまった。額の所に鈍い痛みが走り、その場に蹲ってしまう。
「痛ってて……」
「碇くん!!」
そんな僕を見た彼女が振り返ってこっちに走ってくる。
僕の元まできた彼女はカバンからハンカチを取り出して僕の額に当てた。
「ちょっ……あやなみ…………」
綾波の顔や胸の部分がすぐ目の前に来ており、思わずドキッとさせられた。顔が火照っていくのが自分でも分かる。
僕の治療の事で頭がいっぱいな彼女はそんな僕の変化に気付かず、今度は絆創膏を取り出して傷口に貼ってくれた。
「……これで多分大丈夫だから」
「ありがとう、綾波」
そう言って僕は彼女の手を掴んだ。
「あっ……」
「もう逃がさないよ……そもそも何で急に逃げたのさ?」
「それは、だって……碇くんがこれ以上何も思い出さないように……」
「あいにく僕はもう全部思い出しているよ…例えば君とこうして手を繋ぐのが7回目だって事とか……ね」
「そんな……ごめんなさい、私のせいで…一体どうしたら……」
どうやら彼女にしては珍しく完全に混乱しているようだ。
無理もない、僕だって未だに信じられないのだから……まるで奇跡が起こったようだ。
狼狽えてしまっている彼女に、僕は穏やかに、尚且つ優しい声で言った。
「ねえ、綾波……君と最後に会った時に僕がなんて言ったのか……覚えてる?」
「私と、もう一度手をつなぎたい……あなたはそう言ったわ」
「そう、僕は君にそれを望んだ。でもそれはあの時だけじゃなくて、これからは綾波と手を取り合って生きていたい……そういう意味で言ったんだよ?」
「──でも私は生きのびられる身体じゃなかった。まさかこうして再び人として生きられるなんて、思ってもいなかったから……」
「だけどそれが今、こうして叶ったんだ……僕は君と、また手をつないでいたい。それにあの時約束したじゃないか……二人で一緒に生きていこうって」
「……私は、それを望んでもいいの?」
「いいんだよ……きっと。ほら、一緒に行こう?綾波。君もここの試験を受けに来たんだろう?」
「……うん」
そう言って差し出した僕の手を、綾波はしっかりと握り返した。
生きていれば必ず、生きてて良かったと思う時が来るのだろう。
こうして彼女と再び再会する事が出来たように。
この先どんな事が僕らに起こるのかは分からない。
だけど僕と綾波の二人でなら、きっとどんな困難も乗り越えていけるはずだ。
僕達の未来は、無限に広がっている。
もうこの手を、僕は決して離さない。
オマケ(その後の話 レイ視点)
「そういえばさ、この前誰からなのか分からないラブレターが届いたんだけど……綾波は僕に送ったりしてないよね……?」
──恐らくこの前送ったラブレターの事だろう、出したのは私で間違いない。
「碇くん、それは……」
「やっぱりあの手紙を送ったのは綾波じゃないよな……あの、僕は綾波以外にはちゃんと断るからその……心配しないで!」
心配も何も、その手紙は私が送ったのだけれど……
「でも……あの手紙から伝わる熱意が凄いんだ。なにせ紙にキスマークを付けて送ってきて……」
お母さんがそうした方が良いと強く言ってきたので、口紅を借りてつけたのだけど……もしかしたら私は、参考にする人を間違えたのかもしれない。
「内容もあなたは私にとっての全てですとか、例えどれだけ離れていても私はあなたの事をずっと愛していますとか、本当はあなたとずっと一緒に居たいとか、私を月まで連れて行ってとか書いてあって……」
……そういえばそんな事を書いた気がする。どうせ誰が送ったかなんて分からないのだからと恥ずかしいことを長々と綴った記憶が蘇る……そうしたら全身が赤くなっていくのを感じた。胸が痛いほどに脈打っており、言葉が出せなくなる。
「でもイニシャルがR.Aの人って綾波以外に他に心当たりが無くって……綾波!?」
真っ赤になってしまったこんな姿を見られたくないと思い、私は彼の胸に思いっきり抱きついて顔をうずめた。
そしてゆっくりと顔を見上げて耳元に近づき…小声で囁いた。
「……全部本当の事だもの」
「…………えっ?」
もう絶対に離さないから
Fin
以前はいずれ消える自分にとっては学校など意味がないと思っていたので、学校生活や勉強に全く関心が無かったのだが…人として生きている今は逆にとても強い興味を持っていた。
そのおかげで学校の成績は驚くほど上がった。今では必ず学年全体の10位以内に入っている程だ。
そんな私の進路についてだが……お母さんの勧めもあって東京の高校を受けることになった。
私は経済的に遠慮しようとしたのだが……
「これでも研究者として結構稼いで貯金してるんだから、あなたはお金の事なんか気にしないでいいの! ……あなたが進みたい道を選びなさい、私はそれを応援するから」
そう言ってくれた彼女にはいくら感謝しても感謝しきれなかった。ちなみにアスカも私と同じ高校を受験するらしい。
「エリートにはそれに相応しい所に行かないとね!」
との事だ、実に彼女らしい発言だと思う。
ヒカリさんはこの辺りの高校を受験するそうだ。
「別に無理に遠くに行かなくても、この辺りに充分いい高校はあるもの」
余程上を目指すとかでもない限り、それが普通だろう。普段からおとなしい彼女に私程の熱意やアスカ程の競争心があるとも思えなかった。
12月の中頃、街に再び白い雪が降り注いだ。それを見て私は碇くんを送り出したあの時のことを思い出してしまった。
彼は今何をしているだろうか……幸せに暮らしているだろうか。
……碇くんに会いたい……全てを話して楽になりたい……彼を自分だけのものにしたい。
────例えそれがイケナイ事だと分かっていても……
その日、碇くんへの想いが募りどうしても耐えられなくなった私は、一通の手紙を送る事にした。
「お母さん……」
「一体どうしたの……目の周りが赤いわよ?」
「ラブレターってどう書くの?」
「……そう、あなたもそういう人が出来たのね」
いえ、この世界に来る前からいます。
──そんな事言える訳がないのだけど。
「分かったわ、お母さんに任せなさい!」
そう言って彼女は胸に手を当てた。
……何故かやたらやる気に満ちているのが気になるのだけれど、とりあえずお母さんを信用することにした。
そうして私はラブレターを書いた。面と向かって話すと恥ずかしい内容も、自分が送っている事を相手に知られないならと思いスラスラ書けた。私はあなたの事がずっと好きですとか、そんな感じの内容だ。
差出人の欄にはR.Aとだけ書いた。いくらなんでもこれだけでは、送ったのが私だとは分からないだろう。
別に彼に気に止められなくても構わない、所詮私の自己満足だ……そう考えながら私は封筒をポストに投函した。
家に帰って来た時、お母さんが仏壇の前に座っているのが見えた。
「それにしても、あの子もそんなに好きなら直接会って言えばいいのに……」
それが出来たら苦労はしない。
私が彼に会うなんて許される筈が無いのだから……
「全くもう、あの子の奥手さは誰に似たのかしらねぇ……シンイチさん?」
お母さんは微笑みながら遺影に向かってそう言っていた。
どうやら私のお父さんも、活発な彼女と違ってかなり消極的な人だったらしい。
年が明けて、遂に高校の受験日が来た。
私はアスカと一緒に行こうとしたのだが
「レイ、今日だけはあたしにとってアンタは強力なライバルなのよ!一緒になんて行けないわ!」
「……だからってわざわざ電車の始発で行く必要があるの?」
「一番最初に余裕綽々と会場に入って、他の連中にプレッシャーをかけとくのよ!」
と前日に電話で言われ、彼女はとっくに先に行ってしまった。私にはアスカの行動の意図がよく分からなかったが、彼女なりに意味があるのだろう。
なので私は一人で行くことになった。会場には1時間前に着く予定だ。万が一何かあった時のことを考えると一般的にこの位の時間に行くらしい。
だからだろうか、目的地に近づくにつれて電車の中が混雑してきた。どんどん隙間が無くなり、場所が狭くなっていく。
アスカの乗った時間はもっと空いてたのだろうか、やっぱり彼女と行けば良かったかもしれない。
そのまま電車に揺られること数十分。ようやく私の望んでいた時がきた。
「明城学院前ー、明城学院前ー」
車掌さんのアナウンスの声が鳴り響く。
それと同時に電車が停車して、乗車口の扉が開いた……のだが、人が多すぎて上手く出口まで歩けない。
「……降ります」
そう言ったのだが、私の声は幾つもの乱雑な物音にかき消されてしまった。
このままでは降りられずに電車が発車してしまう、そう思い私は縋るように手をあげてもう一度大きな声で叫んだ。
「すみません、降りますので通してください!」
「ふう、聞いてないよ……こんなラッシュ」
僕は人の合間を縫って何とか電車の乗降口付近までたどり着いた。もう停車して結構時間が経ってしまっている……やばい、早く降りないと間に合わないな。
そう考えて急いでいると、後ろの方から女性の声が聞こえた。
「すみません、降りますので通してください!」
どうやらあの子もこの人混みに飲まれてしまったようだ。
このままでは先に扉が閉まり、彼女は乗り越してしまうだろう。
「大丈夫?」
まだここからでは声が届かない。
「君……」
そう言って僕は女の子の元へ向かっていく。
「掴まって!!」
手を差し伸べて、群衆から何とか彼女を引っ張りだした。何とか間に合ったようで、彼女の背後で扉が閉まる。
その時触れた掌に、何故か懐かしい感触がした……胸が高鳴っていくのを感じる。
この手を僕は、知っている……?
やがて彼女の顔が見えてきた。蒼銀の髪に紅い瞳の女の子。
紺色のコートを羽織っているその容姿はあまりにも細く、肌の色は透けるように白かった。僕が支えてあげないと消えてしまいそうだと感じるほどだ。
僕はこの子を知っている……? たしか彼女の名前は──
「綾波……?」
そうだ──彼女の名前は綾波レイ。以前僕と同じようにエヴァに乗って共に使徒と戦った女の子。人類が補完されたあの日に別れ、もう二度と会えないと思っていた……その彼女が今、ここにいる。
「!? ──いかり……くん…………?」
そう言って綾波は固まってしまった。その表情は驚嘆に満ちており、目を丸くしている。
「綾波……よかった……また会えて」
彼女に久々に碇くんと呼ばれた事に懐かしさを感じて、僕の目から涙が零れてきた
──しかし、彼女はハッと気付いたと思ったら…………急に後ろを向いて走り去った。虚を突かれた僕は動けず、その場に立ち尽くす。
「えっ、ちょっと……!待ってよ!!綾波っ!!!」
やっと再会出来たのに逃がす訳にはいかない、そう考えて僕も走り出す。
人が多いので彼女も身動きは取りづらいはずだ、急いで追いかければ間に合うだろう。
綾波の方を見ると、彼女が混んでいるエスカレーターを避けて人通りが少ない階段を使っているのが分かった。それに合わせて僕も階段を二段飛ばしで上って追いかける。
「わっ!?」
慣れないことをしたからか、階段に躓いて思いっきり前から転んでしまった。額の所に鈍い痛みが走り、その場に蹲ってしまう。
「痛ってて……」
「碇くん!!」
そんな僕を見た彼女が振り返ってこっちに走ってくる。
僕の元まできた彼女はカバンからハンカチを取り出して僕の額に当てた。
「ちょっ……あやなみ…………」
綾波の顔や胸の部分がすぐ目の前に来ており、思わずドキッとさせられた。顔が火照っていくのが自分でも分かる。
僕の治療の事で頭がいっぱいな彼女はそんな僕の変化に気付かず、今度は絆創膏を取り出して傷口に貼ってくれた。
「……これで多分大丈夫だから」
「ありがとう、綾波」
そう言って僕は彼女の手を掴んだ。
「あっ……」
「もう逃がさないよ……そもそも何で急に逃げたのさ?」
「それは、だって……碇くんがこれ以上何も思い出さないように……」
「あいにく僕はもう全部思い出しているよ…例えば君とこうして手を繋ぐのが7回目だって事とか……ね」
「そんな……ごめんなさい、私のせいで…一体どうしたら……」
どうやら彼女にしては珍しく完全に混乱しているようだ。
無理もない、僕だって未だに信じられないのだから……まるで奇跡が起こったようだ。
狼狽えてしまっている彼女に、僕は穏やかに、尚且つ優しい声で言った。
「ねえ、綾波……君と最後に会った時に僕がなんて言ったのか……覚えてる?」
「私と、もう一度手をつなぎたい……あなたはそう言ったわ」
「そう、僕は君にそれを望んだ。でもそれはあの時だけじゃなくて、これからは綾波と手を取り合って生きていたい……そういう意味で言ったんだよ?」
「──でも私は生きのびられる身体じゃなかった。まさかこうして再び人として生きられるなんて、思ってもいなかったから……」
「だけどそれが今、こうして叶ったんだ……僕は君と、また手をつないでいたい。それにあの時約束したじゃないか……二人で一緒に生きていこうって」
「……私は、それを望んでもいいの?」
「いいんだよ……きっと。ほら、一緒に行こう?綾波。君もここの試験を受けに来たんだろう?」
「……うん」
そう言って差し出した僕の手を、綾波はしっかりと握り返した。
生きていれば必ず、生きてて良かったと思う時が来るのだろう。
こうして彼女と再び再会する事が出来たように。
この先どんな事が僕らに起こるのかは分からない。
だけど僕と綾波の二人でなら、きっとどんな困難も乗り越えていけるはずだ。
僕達の未来は、無限に広がっている。
もうこの手を、僕は決して離さない。
オマケ(その後の話 レイ視点)
「そういえばさ、この前誰からなのか分からないラブレターが届いたんだけど……綾波は僕に送ったりしてないよね……?」
──恐らくこの前送ったラブレターの事だろう、出したのは私で間違いない。
「碇くん、それは……」
「やっぱりあの手紙を送ったのは綾波じゃないよな……あの、僕は綾波以外にはちゃんと断るからその……心配しないで!」
心配も何も、その手紙は私が送ったのだけれど……
「でも……あの手紙から伝わる熱意が凄いんだ。なにせ紙にキスマークを付けて送ってきて……」
お母さんがそうした方が良いと強く言ってきたので、口紅を借りてつけたのだけど……もしかしたら私は、参考にする人を間違えたのかもしれない。
「内容もあなたは私にとっての全てですとか、例えどれだけ離れていても私はあなたの事をずっと愛していますとか、本当はあなたとずっと一緒に居たいとか、私を月まで連れて行ってとか書いてあって……」
……そういえばそんな事を書いた気がする。どうせ誰が送ったかなんて分からないのだからと恥ずかしいことを長々と綴った記憶が蘇る……そうしたら全身が赤くなっていくのを感じた。胸が痛いほどに脈打っており、言葉が出せなくなる。
「でもイニシャルがR.Aの人って綾波以外に他に心当たりが無くって……綾波!?」
真っ赤になってしまったこんな姿を見られたくないと思い、私は彼の胸に思いっきり抱きついて顔をうずめた。
そしてゆっくりと顔を見上げて耳元に近づき…小声で囁いた。
「……全部本当の事だもの」
「…………えっ?」
もう絶対に離さないから
Fin
漫画版準拠のお話です。ついでに言うと私が人生で初めて書いた小説です。
一面真っ白な空模様、そんな日に私は狭い空間にたゆたっていた。
ここはまるで鮨詰めのように見渡す限り人で埋め尽くされており、誰もが窮屈そうな顔をしている。
ガタン、 ゴトン……と時折金属が軋る様な音がするが、今は規則的なその音に耳を傾ける余裕はない。
「……狭い」
東京の朝の電車は混むと聞いてはいたけれど、ここまで混むとは知らなかった。
車両の中は学生も多く見かけた。この人たちは多分、私と同じ目的でこの列車に乗っているのだろう。
早く目的地に着いて欲しいと望みながら、私はこの息苦しい空間を揺られ続けた。
七度目は突然に
Written by アールグレイ
人類が補完されてしまったあの日、私はLCLの海の中で碇くんと別れて白い世界へ彼を見送った。
そのままもう目覚めることはないと思っていたのだが、気が付いたら私は知らないベッドの中にいた。
「ここは……?」
周りを見渡すと、誰かの部屋のようだった。
白い壁紙に本棚や机などがあり、シンプルな感じでまとまっているが、ところどころに幾つか小物が置いてある。
「レイ、早く起きなさい」
誰かの声がして、私は視線をそちらに移すと、面識の無い人が立っていた。
蒼くて長い髪に赤い眼をした色白の女性…少し私に似ている印象を受ける。
「……あなた、誰?」
「まだ寝ぼけてるの?あまり母さんを困らせないでちょうだい」
「…………かあさん?」
お母さん──母親、つまり女親の別称。一般的に血の繋がっている子供を産んだり育てたりする人に使われる言葉、たまに血が繋がっていない人が育て親になる場合もあるらしい。
以前の世界で碇司令に母親とはどんな人か聞いてみたら、子供や父親に対してとても愛情を持って優しく接する、まるで光みたいな人だと教わった。
では彼女の子供や夫に当たる人物は一体誰なのか?この場所には私と目の前の人の二人しか居なくて、彼女はどうやら私に対して言っているようだ。
────つまり、この人は私の母親?
どういうことなのか、何が起こっているのか全く分からない。まさか碇くんがこれを望んだとでもいうの……?
「もう、いつまでそうしてるの?早く顔を洗ってらっしゃい」
ずっとベッドの上で考え込んでしまった私に対して彼女はそう言った。
とりあえず起き上がり、顔を洗って服を着替える……とここでも驚いた。制服だけでなく、色々な服が並んでいたのだ。
私にはその手の知識が無いのでさっぱり分からないが、水色やピンクや白色など様々な色の服がかけられている。
その中で前の世界で着ていたのと同じ制服があったので、とりあえずそれに着替えてリビングに向かった。
そのまま朝食を取った時に自分の事を母親だと名乗る女性と話したが、状況を理解するのにかなり時間がかかった。
とりあえずこの世界の私は彼女の娘……という事らしい。
他にも今日の日付は1月7日だということ、現在の私は前と変わらず中学二年生…という事などが分かった。
そんな事を色々聞いていたらそろそろ学校に間に合わなくなるんじゃない? と窘められてしまった。
時計をみると7時45分だ、確かに学校に行くならのんびり出来ないだろう。
別に行かなくてもいいのではと思ったが、何かこの世界について分かるかもしれないと考え直し、そっちを優先させる事にして私はカバンを持って玄関の扉を開けた。
マンションから出てその建物の名前を確認したところ、コンフォート17と書いてあった。
たしか葛城三佐が住んでいたところだ…かつて碇くんが住んでいたところでもある。
ここから第壱中学校までの道のりなら分かっている、そう遠くはないはずだ。
「レイ、おはよっ!」
「おはよう、レイさん」
不意に二人の人から声がかけられたので振り返ると、かつてのクラスメイトが立っていた。
「惣流さんと……洞木さん?」
「なーに他人行儀な呼び方してんの! アスカでいいっていつも言ってるじゃない!」
と笑いながら彼女がポンと肩に手を当ててきた。
……この時ばかりは普段表情が崩れない私も頭がガンと殴られるような衝撃を受けた。
この人は私の事を避けていたはずだが、その彼女がこんなに親しく話してくるとは……
私が呆気に取られて口を開けたまま二の句が継げずにいると、彼女は怪訝な表情を浮かべた。
「どうしたのよ、変な顔して……もしかして、今日あの日?」
「ちょっとアスカ……」
「ジョーダンよ、冗談」
何故か洞木さんが恥ずかしそうに顔を赤らめている。急にどうしたのだろうか?
「とにかくレイ、早くしないと置いてくわよ?」
そう言ってさっさと行ってしまう彼女を私は洞木さんと一緒に急いで追いかけた。
学校は以前通っていた頃となんら変わりはなさそうだった。
下駄箱も以前の位置と変わらない。
さっそく開けて靴を入れようとしたら…たくさんの手紙が中から出てきた。
「これは……?」
「今日もいっぱい来てるわねー、こっちは相手にもしてないってのに」
どうやら彼女のところにも来てるらしい……丁度いい、彼女に聞いてみよう。
「惣──アスカ、これは何?」
「はぁ? ラブレターでしょ、いつも貰ってるじゃない」
私もあんたも全部見ずに処分してるけど、と彼女はそう言いながら落ちた手紙を足で踏み潰した。
ラブレター、好きな人に送る手紙の事。
そういえば前の世界でも学校に登校し始めた時に同じように貰った事がある気がする。最もあの時は自分には関係ないものだと気にしなかったが。
「何で私に手紙がこんなに来てるの?」
「……アンタ本気で言ってんの? もしあたしが男だったら、レイみたいな可愛い子が身近にいたらほっとかないわよ」
実際前の世界では殆どもらってなかったのだが……あの頃と状況が違うのだろうか?
「まあ万年仏頂面のアンタに好きな人が出来るなんて思えないけど」
「好きな人……」
そう言われて私はつい碇くんの顔を思い出してしまった。顔が耳まで熱くなっていくのを感じる。
……その反応がいけなかった。
「あの、綾波さん……?」
「えっ、アンタにそんな人いたの!?全く水臭いわね……早く教えなさいよ!」
急に二人が目の色を変えて私を見てくる。だが碇くんの事を言う訳にはいかない。
「…………何でもないわ」
何とか落ち着きを取り戻してそう言ったのだが、全く信じて貰えなかった。
「……ただいま」
学校が終わって家に帰った私はそう言ったが、まだこの家の主は帰ってきていないようだ。
結局あの後1日中ずっと彼女達の追求を受ける事になり、疲れてしまった。
まさかこんなことになるなんて……碇くん、あなたは私に何か試練を与えることでも望んだというの……?
……だけどまあ、こういう生活も案外悪くないのかもしれない。
部屋に戻って荷物を置いた私は、朝はバタバタしてろくに見れなかった部屋を見渡した。
リビング、キッチン、風呂場とトイレに個室が2部屋に物置が1つ……二人暮らしには申し分ない広さだ。
ふとリビングの隅の方を見てみると、小さい仏壇が置いてあった。中央には穏やかな雰囲気の男性が写っている。
これはもしかすると────
「ただいまー」
「……おかえりなさい」
夜になるとあの人が帰ってきた。
彼女は帰ってきてすぐに晩御飯の支度に取りかかった。母性というものなのだろうか?台所に立つ彼女からは優しい雰囲気がしていた。
暫く待っていると、刺激的なスパイスの匂いが辺りを包み込んだ……どうやらカレーを作っているらしい。
それから少しして、私は彼女の作った野菜カレーを食べながら疑問に思っていた事を尋ねた。
「……亡くなった私の父親は、どんな人でしたか?」
恐らくさっきの遺影の人が私の父に当たる人なのだろう……そう思いカマをかけてみた。
「急にどうしたの?」
「お父さんがどんな人か知りたくて……」
「……そうよね、小さい頃に亡くなったから覚えてないわよね」
そう言うと、彼女はその人について語り始めた。
誰よりも人一倍優しかった事、いざと言う時には自分から行動してくれて頼りになった事、元気な妻に振り回されても嫌な顔を一切せずに笑っていた事、いつも妻と娘を愛していた事……
「病気で亡くなる直前でも君と出会えて本当に良かったとか僕の分までレイを頼むとか言ってきて……ほんと、あの人はいつも自分より私やあなたの事ばかり……」
彼女は少し嗚咽が混じった声でそう言った。
その人は彼女の大切な人だったのだろう……私にとっての碇くんのように。
「……そんな大切な人を失ってしまって、寂しくないのですか?」
「そうね、確かに結構寂しい気持ちもあるけれど……今はあなたがいるから1人じゃないわ。それに、私が笑っていないと、天国のお父さんも悲しむでしょう?」
そう言って少し泣き顔になっていた彼女が微笑む。私は彼女の事をとても強い人だと思った。
亡くなった妻をいつまでも求めていた碇司令とは大違いだ。碇ユイを失った司令が碇くんを育てる事を放棄して親戚に預けたから、彼は辛い思いをしてしまった……そう考えると、私はあの男の身勝手さに腹が立ってきた。
あんな人間に世界を委ねるなんて事はしたくない。やはり、あの時裏切って正解だったと思う。
「……再婚とかする気は?」
「全くないわ。この私、綾波リナが愛した男性は彼だけだもの」
彼女は強い意志を持った声でそう言った。
「……ご馳走様、とても美味しかったです」
私はそう言って食器を台所の流し台の所に持っていった。
綾波リナ──お母さんと話した後、部屋に戻った私は持っている情報を元に考え事をしていた。
そもそもなぜリリスだった私が普通の人間の姿で生きているのか…その答えは最初から分かっていた。
碇くんが私にも人として生きてほしかったのだろう。私もそれを望んではいたが、まさか叶うとは思いもしなかった。
しかも存在しなかった親までいるとは…つくづく予想外な事だらけだ。
そして今、私が一番悩んでいたこと…それは碇くんに会いに行くかどうかだ。
今の彼の居場所は叔父と叔母の家のはずだ、この眼で見届けたので間違いない。
以前の世界で住所は把握していたので、会おうと思えば会いには行ける。
……だが、私はそれをしない事にした。
恐らくこの世界の彼は私のことを覚えていない。
仮に彼に会った時に全くの初対面として赤の他人のように扱われたら私はそれに耐えられるだろうか?
それにもし万が一彼が私と会って全てを思い出してしまってはまずいだろう。
前の世界の辛い記憶を思い出すことになってしまう。
だから碇くんの幸せを本当に願うのなら、私は彼ともう会わない方がいいだろう。
頭ではそれを分かっているはずなのに……
「碇くん……」
彼に会いたい、ずっと一緒にいたい……どうしてもそれを望んでしまう。
そう思うと涙は絶え間なく溢れ出し、いつまで経っても止まらなかった……