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桜花幻想〜桜の下にきみがいるから〜
件名 | : Re: 桜花幻想〜桜の下にきみがいるから〜 |
投稿日 | : 2024/04/02(Tue) 21:38 |
投稿者 | : 史燕 |
参照先 | : |
○tambさん
ご高覧ありがとうございます。
この作品の綾波レイは何者なのか、という点に関しましては、自分なりに答えはあるのですが、「希望」というお答えの方がしっくりくるような気がして、作者の不明を恥じるばかりです。
私の設定は書かない方が良さそうな気がしますので、この掲示板ではtamb説が真ということでここは一つご了解をいただきましょう。
梶井基次郎の「桜の下には」というお話は、数えてみればすっかり昔となってしまいましたが以前もいただいた事を憶えております。やはりさくらというモチーフを扱う以上、そういった読みは必ず想起されますよね。
その際のリンクはこちらです。
(http://ayasachi.sweet-tone.net/cgi-bin/bbs4d/patio.cgi?read=685&ukey=0)
このお話には実はkameさんの「Holiday」の影響も受けています。まさしくtambさんが看破されましたとおり、成人しても、子どもが出来ても、老いた先でも、彼女は変わらずさくらの花と一緒にこの場に来るのだと思います。
本文中で明言したように、さくらそのものではなく、さくらの不思議な力を借りて。
春の訪れ=綾波レイの来訪に合わせて、想いを込めた贈り物を持って、シンジ君はこの場所に来るのでしょう。
「すっかりおじいちゃんになっちゃった」なんて笑いながら。
あの、アスカと夫婦になったあとも、綾波レイと語り合っていた「Holiday」の最終話と同じような感じで。
(いや、私如きがあの名作を引き合いに出すのは烏滸がましいのですけどね)
綾波レイから見たこの世界の碇シンジ、というのはちょっと考えておりませんでした。穴だらけの作者です。申し訳ありません。
きっと、シンジ君から見た彼女と同じくらい大切に思ってくれているのは間違いないのかもしれませんけれど。
続編の予定はありません。本作自体が思いつきの産物ですので。
ただ、彼も彼女も、この関係で幸せなのだと勝手に思っています。
そういう風に書いてみたつもりなのですが、ちゃんとそうなっているのか不安でもあります。実力不足ですね。
ご高覧ありがとうございます。
この作品の綾波レイは何者なのか、という点に関しましては、自分なりに答えはあるのですが、「希望」というお答えの方がしっくりくるような気がして、作者の不明を恥じるばかりです。
私の設定は書かない方が良さそうな気がしますので、この掲示板ではtamb説が真ということでここは一つご了解をいただきましょう。
梶井基次郎の「桜の下には」というお話は、数えてみればすっかり昔となってしまいましたが以前もいただいた事を憶えております。やはりさくらというモチーフを扱う以上、そういった読みは必ず想起されますよね。
その際のリンクはこちらです。
(http://ayasachi.sweet-tone.net/cgi-bin/bbs4d/patio.cgi?read=685&ukey=0)
このお話には実はkameさんの「Holiday」の影響も受けています。まさしくtambさんが看破されましたとおり、成人しても、子どもが出来ても、老いた先でも、彼女は変わらずさくらの花と一緒にこの場に来るのだと思います。
本文中で明言したように、さくらそのものではなく、さくらの不思議な力を借りて。
春の訪れ=綾波レイの来訪に合わせて、想いを込めた贈り物を持って、シンジ君はこの場所に来るのでしょう。
「すっかりおじいちゃんになっちゃった」なんて笑いながら。
あの、アスカと夫婦になったあとも、綾波レイと語り合っていた「Holiday」の最終話と同じような感じで。
(いや、私如きがあの名作を引き合いに出すのは烏滸がましいのですけどね)
綾波レイから見たこの世界の碇シンジ、というのはちょっと考えておりませんでした。穴だらけの作者です。申し訳ありません。
きっと、シンジ君から見た彼女と同じくらい大切に思ってくれているのは間違いないのかもしれませんけれど。
続編の予定はありません。本作自体が思いつきの産物ですので。
ただ、彼も彼女も、この関係で幸せなのだと勝手に思っています。
そういう風に書いてみたつもりなのですが、ちゃんとそうなっているのか不安でもあります。実力不足ですね。
件名 | : Re: 桜花幻想〜桜の下にきみがいるから〜 |
投稿日 | : 2024/04/02(Tue) 19:50 |
投稿者 | : tamb |
参照先 | : |
綾波レイを異界の住人と捉えるなら、また別の物語が立ち上がる。
だがそれを読み解くにはさらに長い時間が必要になる。というか続編がないと無理が。
だがそれを読み解くにはさらに長い時間が必要になる。というか続編がないと無理が。
件名 | : Re: 桜花幻想〜桜の下にきみがいるから〜 |
投稿日 | : 2024/04/02(Tue) 12:37 |
投稿者 | : tamb |
参照先 | : |
そして、綾波レイにとっての彼は何なのかが問われることになる。
件名 | : Re: 桜花幻想〜桜の下にきみがいるから〜 |
投稿日 | : 2024/04/02(Tue) 02:36 |
投稿者 | : tamb |
参照先 | : |
さくらをモチーフにした作品は二次創作に限らず数多くあるが、ストレートにハッピーな物語はあまり記憶にない。花見で楽しく盛り上がるという話ももちろんあるけれど、それはさくらをモチーフというよりも飲み会がテーマである。
なぜストレートにハッピーにならないのかはわからない。やはり屍体が埋まっているからなのかもしれないが、まぁそれだけではなかろう。あらゆる桜の木の下に屍体が埋まっているわけではないだろうし、ついでに言うと檸檬も爆発しない。
咲くというより散るという部分に注目してしまうのはある種の文化なのかもしれないが、「サクラサク」で合格ってのもあるので一概には言いにくい。
もちろん散るから咲くわけで、そこに人生を見出すことはできる。ストレートに上がってゆく人生というのもあるのかもしれないけれど、周囲からはそう見えるだけで、程度の差こそあれ恐らく本人的には挫折なり後悔なりということもあるだろう。人はみな地獄を背負って生きている。
この物語では、碇シンジにとってこの彼女は何なのか、ということが問われている。
仮に彼女が歳を取らないとして、さらにシンジがいわゆる普通の人生を歩んでいくとするならば、恋人ができたり別れたり、結婚して子をもうけたり孫ができたりもするだろう。それでもその季節になれば彼女はそこにいるだろうし、もしかすると断続的かもしれないが彼は彼女に逢いに行くだろう。「去年はごめん、来れなくて」なんて言われて「いいの。大丈夫」とか答えながら明らかに拗ねている彼女の姿が容易に想像できる。奥さんとか子供を連れて逢いに行くこともあるだろう。だが彼女は彼にしか見えない。子供には見えている可能性はあるかもしれないが、いずれにしても彼女はシンジの子供のような年齢になり、孫に近づいてゆく。それでも彼は彼女にプレゼントを贈り続け、やがてその人生を終える。その時にようやく彼は彼女とひとつになるのであろう。これは、彼女はもはや神なのではないか。あるいは精霊でもいい。つまりシンジは、天に昇り、全能の父なる神の右に座したまえり、ということになる。
だがこれは恐らく違う。思ったより風が強くてあわてる神などおるまい。かわいすぎる。
妖精というのもあり得るけど、「さくらの精というわけではない」と否定されている。
ではなにか。
ありふれた言葉だけれど、希望、ということになるのではないだろうか。綾波レイという希望。守りたいと願い、守れなかったという地獄。絶望のなかにあって、後悔や苦悩をシンジと共に引き受け、受け止め、様々な出来事をシンジと共に喜び、たとえその季節にしか逢えなくとも寄り添い続けるという存在。それは希望と言う他にはないだろう。失敗しても、選択を誤っても、後悔の念に苛まれても、「何度でも、何度だって」。
それが「生きている意味」なのだと思う。
それは碇シンジに限った話ではない。私も、おそらくあなたも同じだろう。
どうか幸せを。
なぜストレートにハッピーにならないのかはわからない。やはり屍体が埋まっているからなのかもしれないが、まぁそれだけではなかろう。あらゆる桜の木の下に屍体が埋まっているわけではないだろうし、ついでに言うと檸檬も爆発しない。
咲くというより散るという部分に注目してしまうのはある種の文化なのかもしれないが、「サクラサク」で合格ってのもあるので一概には言いにくい。
もちろん散るから咲くわけで、そこに人生を見出すことはできる。ストレートに上がってゆく人生というのもあるのかもしれないけれど、周囲からはそう見えるだけで、程度の差こそあれ恐らく本人的には挫折なり後悔なりということもあるだろう。人はみな地獄を背負って生きている。
この物語では、碇シンジにとってこの彼女は何なのか、ということが問われている。
仮に彼女が歳を取らないとして、さらにシンジがいわゆる普通の人生を歩んでいくとするならば、恋人ができたり別れたり、結婚して子をもうけたり孫ができたりもするだろう。それでもその季節になれば彼女はそこにいるだろうし、もしかすると断続的かもしれないが彼は彼女に逢いに行くだろう。「去年はごめん、来れなくて」なんて言われて「いいの。大丈夫」とか答えながら明らかに拗ねている彼女の姿が容易に想像できる。奥さんとか子供を連れて逢いに行くこともあるだろう。だが彼女は彼にしか見えない。子供には見えている可能性はあるかもしれないが、いずれにしても彼女はシンジの子供のような年齢になり、孫に近づいてゆく。それでも彼は彼女にプレゼントを贈り続け、やがてその人生を終える。その時にようやく彼は彼女とひとつになるのであろう。これは、彼女はもはや神なのではないか。あるいは精霊でもいい。つまりシンジは、天に昇り、全能の父なる神の右に座したまえり、ということになる。
だがこれは恐らく違う。思ったより風が強くてあわてる神などおるまい。かわいすぎる。
妖精というのもあり得るけど、「さくらの精というわけではない」と否定されている。
ではなにか。
ありふれた言葉だけれど、希望、ということになるのではないだろうか。綾波レイという希望。守りたいと願い、守れなかったという地獄。絶望のなかにあって、後悔や苦悩をシンジと共に引き受け、受け止め、様々な出来事をシンジと共に喜び、たとえその季節にしか逢えなくとも寄り添い続けるという存在。それは希望と言う他にはないだろう。失敗しても、選択を誤っても、後悔の念に苛まれても、「何度でも、何度だって」。
それが「生きている意味」なのだと思う。
それは碇シンジに限った話ではない。私も、おそらくあなたも同じだろう。
どうか幸せを。
件名 | : Re: 桜花幻想〜桜の下にきみがいるから〜 |
投稿日 | : 2024/03/30(Sat) 09:24 |
投稿者 | : 史燕 |
参照先 | : |
みなさまご無沙汰しております。
史燕です。
綾波レイの誕生日ということで大急ぎで書き上げたものです。
一応誤字脱字は潰したつもりですが、生き残りがいたら教えてください。
果たしてこれはエヴァFFなのかという問題はあり、初稿ではもっと「ATフィールド」とか「サードインパクトが」とか盛り込んでいたのですが、作品としてみた場合雰囲気を毀損するということで削除しました。
結果、綾波レイと碇シンジのお話としての整合性は上がりましたが、よかったのか悪かったのか。キャラクターだけ持ってきたのならエヴァでなくてもいいという問題もありますが、私は綾波レイと碇シンジのための物語としてこのお話を上梓しましたので誕生日記念として贈り届けた次第です。
是々非々はご高覧頂いた皆様それぞれにお任せいたします。
そもそもがそこまで大した物を書いてきたわけでもないので五十歩百歩かもしれません。
お誕生日おめでとう、綾波さん。
あなたの幸せをいつまでも願っています。
史燕です。
綾波レイの誕生日ということで大急ぎで書き上げたものです。
一応誤字脱字は潰したつもりですが、生き残りがいたら教えてください。
果たしてこれはエヴァFFなのかという問題はあり、初稿ではもっと「ATフィールド」とか「サードインパクトが」とか盛り込んでいたのですが、作品としてみた場合雰囲気を毀損するということで削除しました。
結果、綾波レイと碇シンジのお話としての整合性は上がりましたが、よかったのか悪かったのか。キャラクターだけ持ってきたのならエヴァでなくてもいいという問題もありますが、私は綾波レイと碇シンジのための物語としてこのお話を上梓しましたので誕生日記念として贈り届けた次第です。
是々非々はご高覧頂いた皆様それぞれにお任せいたします。
そもそもがそこまで大した物を書いてきたわけでもないので五十歩百歩かもしれません。
お誕生日おめでとう、綾波さん。
あなたの幸せをいつまでも願っています。
Written by 史燕
――さくらの花の向こうには僕にしか見えない人が居るんだ
毎年、さくらの花が咲くのが待ち遠しかった。
さくらの木の下では、いつもあの娘に会えたから。
その娘はちょっと変わっていて、紅い瞳に空色の髪。
透き通るほど真っ白な肌に、たおやかな笑みを浮かべていた。
本人は「私、笑ってる?」なんて驚いた顔をしていたけど、穏やかに、慈しむように、優しい笑みを浮かべていたんだ。
14歳の春、僕は何もかも嫌になって――それこそ、学校も、家庭も、どこにも居場所がなくて――一人で飛び出した。実際はそんなことはなかったのだけど、両親を亡くし、人間関係をうまく構築できる器用さもなく、ただただ漫然と世間体のために養親に生かされながら、同じく世間体のために通わされている義務と定められた学校という閉鎖空間に閉じ込められることが苦痛だった。
僕よりもっと不幸な人は世の中にたくさん居るのだと思う。それでもそのときの僕には他の誰にも代わってもらえないのだから、その息苦しさは僕自身にしか理解できない物だと思う。
死にたいと思うほど積極的に世を儚むほど絶望しているわけでもなく、さりとてこの生き地獄を無思慮に邁進していけるほどの希望も持ち合わせていなかった。
そして飛び出したその先で、一面に咲き誇るさくらの下で、僕は初めて彼女と出会った。
「碇君」
彼女は鈴の転がるような声で僕の名前を呼んでくれた。
「僕を知ってるの?」
「ええ」
悔しいことに僕は彼女の名前を知らなかった。
「綾波レイ。私の名前は、綾波レイ」
そう言って教えてくれた名前を「綾波、綾波」と何度か口の中で繰り返した。
初めて声に出したはずなのに、なぜだか不思議と舌に馴染んだ。
「いつもここに居るの?」
「ええ」
「どこに住んでいるの?」
「ここに」
「なにをしているの?」
「なにも」
彼女のことを知りたいと思った。
たくさんの質問をした。
でも、具体的なことについては要領を得なかった。
だから今度は、僕のことを話した。
学校のこと、家族のこと、悩んでいること、苦しんでいること。
多弁ではないけれど、必ず相槌を打ってくれるし、あれこれ指図をするわけではないから話しやすかった。聞き上手、というのかもしれない。
一頻り話し終えると、彼女が言った。
「何もかも捨てて、私と一つにならない?」
そう言いながらも、彼女はそうして欲しそうではなかった。
穏やかな笑みが、悲しそうな、後悔を噛みしめるような、苦渋に満ちた表情に変わった。
「ううん。もう少し、がんばってみるよ」
「そう。それが碇君の選択なら」
彼女は少し残念そうな色を声に滲ませつつも、口元には笑みが戻った。
これが正解なのかはわからない。
綾波と一つになるというのはこの上なく魅力的だ。
それでも、僕は彼女の、そして僕自身のために、その選択を採らなかった。
その瞬間、突然、激しく風が吹いた。
さくらの花びらが風にいざなわれて一斉に空に広がった。
思わず目を閉じた僕が再び目を開いたときには、目の前に居たはずの少女は居なかった。
翌日、同じ時間に同じ場所へと向かった。
昨日と同じように、綾波がさくらの下に立っていた。
「よかった。もう会えないのかと思った」
彼女は普通ではない。そんなことはわかっていた。
それでもまた会いたかった。また声が聞きたかった。
「ごめんなさい。思ったより風が強かったから」
風が強かったからどうしたのか。風が強いと出てこれないのか。
そんなつまらない事が脳裏を過る。
だけど、そんなことより綾波とまた会えたことがうれしかった。
「さくらが綺麗だね」
満開の木々の下でそんなことを言った。
当たり前かもしれないけれど、当たり前のことでも彼女と共有出来るのなら特別なことに思えた。
「ええ。だけど、これから先は散ってしまうわ」
寂しそうに彼女は言った。
「散ってしまうのは寂しいけれど、また来年も咲いてくれると信じているから」
悲しむことではないのだと、四季の廻りの一部でしかないのだと。
普段はそんなことを考えもしないのに、気がつけば口から飛び出ていた。
「そうね。そうかもしれないわね」
彼女が少しだけさみしさを滲ませながら言った。
「ねえ、碇君。さくらが散ってしまったらもう会えなくなるって言ったら、どう思う?」
さくらの有無で会えなくなるなんて冷静に考えれば信じがたいことだった。でも、僕には彼女が嘘を言っているとは思えなかった。だから、僕は事実として受け止めて、真摯に答えを返した。
「本当はずっと一緒に居たいけど、それができないなら。また僕はここに来るよ。来年も、再来年も、ずっとずっと」
彼女の表情が、満開のさくらのようにほころんだ。
綾波の説明によると、さくらの咲いている間だけ、彼女はこの世界に姿を現すことができるらしい。さくらの精というわけではないらしいけれど、さくらが咲いているという事実が、世界と世界の隔たりをなくすのだとか。正直に言えば、難しいことはさっぱりわからなかった。「世界を隔てる心の壁が」とか「異界渡りのさくらの伝承」とかよくわからないけれど、僕が綾波に会うためには、さくらが咲いているこの場所である必要があることだけは理解できた。昨日のように、風のせいで花が散ってしまうと、彼女も姿を現せなくなるらしい。
この日から、雨も風も嫌いになった。少なくとも、春の嵐は大嫌いだ。
そしていよいよ最後の一輪が散るというとき彼女は今にも泣き出しそうな表情で僕の手を握りながら言ったんだ。
「また来年も来てくれる?」
それからの1年はとてつもなく退屈で、だからこそ一生懸命に過ごした。
綾波に、こんなにがんばったんだよって話をするために。
君のために、なんて恥ずかしいことは、とても口にする勇気はないけれど。
そして1年後、さくらの木の下で、僕は彼女に言ったんだ。
「おかえりなさい。会いたかったよ」
その年に再び彼女に「また来年」と告げるまでに、僕は中学を卒業し、高校生になった。
必ずしも順調とは行かないけれど、希望通りの学校に進み、養親から自立したくて、喫茶店でのアルバイトにも応募した。
卒業、進学のことも綾波には話した。受験勉強で苦しんだことも、バイトの面接で緊張したことも。
初めてバイトに採用されたことを伝えようとしたときには、花が落ちきった時期になってしまった。
そしてさらに1年が経ち、待ちに待ったさくらの時期がやってきた。
3月30日。今日は僕が初めてきみに会った日。彼女自身には誕生日と言える日がないことを、初めて彼女に会ったときにいろいろと質問した中で答えてくれたことを憶えていた。
だから、きちんと自分の力でプレゼントが用意できるようになったときには、この日を誕生日として思い切り祝うのだと決めていた。
「お誕生日おめでとう」
初めて働いた給料を1年間貯めて、この日のために用意したシンプルなペンダント。
一輪のさくらの花があしらわれたそれは専門のアクセサリーショップの物に比べると安っぽいけど、高校生の僕が用意したにしては上等な部類だという自信があった。
「誕生日、祝って貰ったのなんて初めて。他に誰もいなかったから」
僕が設定した綾波の誕生日。
他に誰も彼女と関わる人がいないのだとしたら、僕だけが綾波レイという存在を独り占めしていることになる。それは喜ばしいことのように思えたけど、今まで一度も誕生日を祝ってもらえなかったのだとしたら、申し訳ない気持ちが大きかった。
ぽつりと、「前の時も誰も祝ってくれなかった」と零したのが聞こえたけれど、何のことかはわからなかった。
「来年もまたお祝いするよ」
来年に限らず、何度でも。
「ありがとう。碇君に逢えるのが待ち遠しかったのに、素敵なプレゼントまで」
それは僕の方だと思った。綾波に会うために、僕はこの1年も頑張れる気がした。
さくらの下でのみ許される逢瀬。
僕はまた何度でも、何度だって君におめでとうを言うよ。
誕生日プレゼントなんかじゃ足りないんだ。
君は僕に生きている意味を与えてくれたんだから。