私をかえた夜


 満月の浮かぶ空の下


 月の白い光の下で








貴方が差し出した手を握り締めて…


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 『嬉しいときには……そういうときには、笑うんだよ…』



 彼の穏やかな表情を見て…

 その言葉を聴いて…

 あの時の私にはまだよくわからなかった…

 でも…いままで静寂だった私の心の海に、一粒の雫がこぼれた


 ほんの一言…

 小さな言葉……

 けれど、私の心を揺らすには十分の言葉だった…

 私の冷たい心の海に波紋を広げるには十分な暖かさだった…

 
 私が生まれて十四年…

 定められた計画のために運命の鎖で拘束されていた私の心…

 その私の心に光を射した初めての言葉

 それは、誰でもない、貴方の言葉だったから…

 私を私として、私を綾波レイとして見てくれた貴方の言葉だったから…


 嬉しいときにも涙は零れる…

 嬉しいときには微笑むことが出来る…


 初めて知ったこと

 初めてわかったこと

 初めてしてみたこと


 貴方が差し出した手を取ったとき、私の扉は開かれたのだろう

 貴方の差し出した手が、私を私の本当の扉に導いてくれたのだろう

 
 貴方が差し出した手を取ったとき、私の中からこみ上げてくるものがあった

 不思議な感覚…

 初めての感覚…

 …でも、嫌じゃない感覚……

 私の知らなかった感覚…

 でも、それは微笑みとして私の中から溢れ出た

 初めてのことなのに…本当に自然に……


 あの夜…煌々と輝く満月の下

 貴方が私にかけてくれた言葉




今、僕たちには何もないかもしれないけど…

でも…生きてさえいれば

いつか必ず

生きててよかったって思うときがきっとあるよ


それはずっと先のことかもしれないけど…


でも、それまでは生きていこう…


真っ暗で何もない道でも

二人でいけば何かみつかるかもしれない



あの空に浮かぶ月のように






 私の心に刻み込まれた言葉…

 この言葉を聴いたとき、私は私の新しい道に足を一歩踏み出したのだろう…


 『生きててよかったって思うときがきっとあるよ…
   それは、ずっと先のことかもしれないけど……』


 いいえ…

 それは、それほど遠くない未来に待っていた


 満月を見るたびに思い出す

 貴方の言葉を…

 貴方が差し出してくれた手のぬくもりを…


 貴方が私に手を差し出してくれたからこそ、私は私の扉を開くことが出来た…
 
 貴方が私に言葉をくれたからこそ、私は私の道を歩み始めることが出来た…


 私は貴方の言葉を抱いて、私の道を生きてゆく

 私は貴方のぬくもりを抱いて私の道を歩んでゆく





 貴方の差し出した手を、いつまでも握り締めながら…




 貴方と二人…手を絆いで





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