CONTROL COMMITTEE of EXSITENCE ETHICS 

 DEPARTMENT of AYANAMI

 CASE FILES − GAJERGOAT COMPANY










 西暦2030年

 七月三十一日

 現地時刻 01:55

 米国アラスカ――カナダ国境350km

 針葉樹林地帯

 の、上空600km



 キュインッ


 二又の槍と赤い眸の徽章が浮かぶ偵察衛星

 その高性能カメラが地上部を映し出した


 キュインッ


 画像は拡大され、アラスカ半島からカナダ国境までが映し出される


 キュインッ


 カメラの倍率がさらに上げられ、画像が拡大する

 カナダ国境350km付近の針葉樹林帯が映し出される

 まだ画像は緑でいっぱいだ


 キュインッ


 さらに範囲が狭められ、望遠に切り替えられる

 緑の森の中に白い物体の集まりが見えてきた


 キュインッ


 その白い物体は、建物の集合体だった

 広大な敷地
 
 森をくりぬいたような地形に立てられた建物郡はまるで要塞だった

 十近い建物があり、それが連絡路で繋がれて一つの街と化している

 画像がコンピュータ解析にかけられ処理されると、それは鮮明に浮かび上がってきた

 夜、ほとんどが休止している中で動きのあるところを探索する

 すると最高視認度0.1m、最新鋭の偵察衛星の目は建物から出る数台のトラックを確認した

 この施設の警備部隊を運ぶトラックで、その動きは今しがた交代が行われたことを示した

 辺り一帯は漆黒の闇

 まるでライトの光をも飲み込みそうなくらい

 赤外線スコープを使わなければ何も見えないほどだ

 交代を終えて都市部に戻る警備部隊の人間は、長い勤務時間に疲弊して着いたらすぐベッドの中だ

 交代した警備の人間も夜間の仕事のため、まだ完全には覚醒しきっていない状態にある

 対外諜報部隊の報告と心理解析部の調査から、今までの行動パターンだと、事務所でひと時の休憩を取ってから警備が始まるのが常だった

 
 時刻 01:59

 セキュリティーセンターと警備管理事務所の明かりがついたことを確認した

 衛星の情報からだけでなく、地上部からも

 
 衛星の目が動き、この施設の入り口部分を拡大した

 大げさすぎるほどの厳重なフェンスで覆われた施設入り口


 「ガジェルゴート・カンパニー カナダ支部総合検査研究所」


 ここは多国籍複合企業「ガジェルゴート・カンパニー」の研究施設

 この企業は食品、医療関係品などを製造する世界的企業の一つだ

 設立初期は食料部門で優勢を誇っていたが、現在では重点を医療関係に移し変え、世界に展開している

 そしてここは、表向き食品や医療関係品の安全検査などを実施する研究所だ

 この交通も不便な自然の真ん中に検査・研究施設

 “表向き”は、だ

 

 

 時刻 02:04

 警備部隊のメンバーは数名がセキュリティーセンターに向かい、残りは警備管理事務所で濃いめのコーヒーを啜っていた

 巡回前に頭を覚醒させるためだ

 タバコをふかしているものも多い

 そうやっているメンバーの装備を見ると、通常の警備人とは違うのが一目瞭然だ

 肩には5,56mmアサルトライフル、サブに45Calハンドガン

 中には12ゲージショットガンや9mmサブマシンガンなどで武装しているものもいる

 夜間活動していない研究所にこの人員

 これを見れば、ここがただの検査研究所だとは誰も思わないだろう

 そんな事務所の中、彼らは五分ほどの時間を和気藹々と過ごしていた

 勤務の前のひととき

 その中の一人が席を立った


 「主任、まだ早いですよ」

 
 主任と言われた中年の男性

 だが、周りの若者も圧倒する体格と雰囲気をもった、ベテランといった男は少し照れたように答えた


 「いやなぁ、カミサンに出発前、寝ないようにってコーヒーをがぶ飲みさせられたんだよ

  三杯目の付けがまわってきたってところさ」


 部隊員の間に笑いが溢れる

 すこし茶目っ気がある、ガジェルゴート・カンパニー特殊警備部第四課第一主任ドリトル・サザーランドはそういって事務所を出た

 独りで

 ほかの隊員は事務所の中だ

 彼が事務所を出た姿も暗視スコープに捉えられていた

 サザーランド主任が部屋を出て十五秒後、彼の姿が忽然と消えた

 それと同時に、事務所の警備部隊員がコーヒーの目覚め効果とは逆に、眠気を感じるようになった頃、事務所内に無色無臭のガスが漂い始めた









生命倫理統制委員会    
  綾波機関 aba-m.a-kkv  











 時刻 02:09

 闇の中に蠢く影がある

 一つや二つではない

 音もなく、気配もなく、まさに闇夜のカラスだ

 
 「RAより

  無線封鎖一時解除

  C3C(第三特殊通信中隊)ディスターブ(妨害工作)開始」

 『C3Cより、RA

  ディスターブ開始、180秒間』

 「了解」


 横につく通信部隊員に全チャンネルを開けるように手で合図をする

 彼が親指を立てると同時に通信を再開した


 「RAより全部隊へ

  敵部隊規模、一個中隊

  SS(セキュリティーセンター)−15

  CO(管理事務所)−45

  無線封鎖と同時に行動を開始

  シャットダウンを合図に作戦を敢行する

  A1〜4P(第一〜第四攻撃小隊)は制圧行動

  C1C、C2Cは施設内情報端末制圧、及び情報回収

  C3Cは対外隔離

  S1〜5P(第一〜第五捜索小隊)は私と共に内部調査をする

  DEB(破壊工作大隊)は二個にわかれ、SP及びCCに随行し工作を展開

  各部隊作戦完了後、想定ポイントNにて撤収する

  各員、健闘を祈る

  以上だ」


 僅か一分程の通信


 「180秒もいらなかったわね」


 そう言った部隊指揮(コード:RA)の声は氷のように澄んだものだった

 腕のクロノグラフが180秒を過ぎたと同時に、APの影が動き始めた





 時刻 02:11

 施設内セキュリティーセンター

 沢山のモニターがひかり、施設内の映像を映し出している

 360度監視型のカメラは常に動き、死角を潰している

 交替した部隊員は眠気とまだ慣れない目に、シパシパと瞼を動かし、目覚ましコーヒーを口に含んでいた

 セキュリティーセンターは24時間体制、施設内に五ケ所あり、不審な動きを監視する

 一つのセンターに三人の要員を配置し、いつでも事務所と連絡が取れる

 第一監視センターのモニターに人の影が映った

 隊員は仲間だろうと思いながら、事務所への内線を取った

 もう一人がカメラを動かし影を追おうとするが、その人影はもう移動していた

 その際モニターに歪みが走ったが、点検間近のシステムに別に気に止めなかった

 受話器をあてた耳にコールが一回、二回、三回となる

 もう三回待ったが出ないので、第二監視センターに繋ごうとしたときだった


 『こちら、警備管理事務所

  第一、 何かあったか?』


 隊員は聞き知る声に変更ボタンから手を引いた


 「サザーランド主任、出るのが遅いですよ」

 『そういうなよ

  これから臨戦体制ってところだったんだから』

 「はいはい、皮肉りませんよ、主任

  モニターに影が出たので誰か出たのかと思いまして

  一応確認です」

 『第一のほうならティモシーの班だろう

  定刻よりも早いがな

  外は雨か?』

 「ははは、了解」


 笑いながら内線を切る




 時刻 02:13

 地下通信基盤室

 その中、外部回線を繋ぐメインコード、そして、内線用回線にそれぞれ油圧式ニッパーが当てられる


 バチンッ!!

 バチンッ!!


 それで通信回線が切られた


 連絡路に規則正しい音が響く

 とはいっても、その音はとても静かなものだ

 各場所に備えつけられたカメラは動きを止めていた

 各セキュリティーセンター繋がるカメラの回線は切断され、そこから違う配線が伸びる

 施設の外、C3Cの印があるトラックの一つへと


 換気ダクトはもう一つの道と化す

 第一から第三の換気孔には赤い点光が輝いていた

 換気口の蓋が音もなく外れる

 下にいる部隊員は気づかない


 第四、第五の監視センターの入口の蝶番には粘土状のものが取りつけられ、コードが二本伸びる

 その先にも赤い光が




 時刻 02:14:57

 そして地下配電室で堰が切られた

 配電コードとは違うタイプの線が配電室の床を這う

 片端は各配電盤に付けられた黒いケースに

 もう片端はずっと伸び、配電室を出たところの赤い光の手に

 もう一つの赤い光が腕のクロノグラフをもとに指でカウントをはじめる

 3

 2

 1

 シャットダウン

 首を切る仕草とともに有線の起爆誘導装置のトリガーが引かれた



 ドンッ!!



 施設内に爆音が響き、全電源が落ちる

 モニターと照明が落ち、混乱に陥った監視要員は気配に気づいた瞬間には幕を閉じていた

 第一から第三は電気が落ちた瞬間、天井から急襲され制圧された

 天井部を破壊して三人のAPが降り立ち、監視者に電気衝撃弾を打ち込んだ

 開始から三秒前後の制圧だった


 換気ダクトが直接通らない第四、第五は、爆音と同時に扉の蝶番を無音プラスティック爆薬で吹き飛ばした

 APの一人がドアを剥がし、二名が室内の監視者に発砲し制圧した

 抵抗する暇も、銃に手をかける暇も与えなかった


 作戦開始から五秒で監視所制圧

 その報告はすぐに警備管理事務所に仮設された現地司令部に送られ、無線封鎖が解除された


 「APからRAへ

  第一から第五の全ての監視センターの制圧を完了

  制圧15、射殺0、損害0

  APは作戦を終了する」

 「了解

  APはその任をDP(防衛任務)へと移行せよ」



 時刻 02:17
 
 事務所はうって変わって現地司令部として機能していた

 パソコンや通信装置等の機器が運び込まれていた

 CCの隊員が中心だが、全員防毒マスクを着用した姿だ

 事務所内には警備部隊の姿はない

 この時すでに拘束されMP(保安部隊)によって搬送されたところだった

 監視要員も同じく拘束後に本部に搬送される

 ガスメーターが二回なり、安全値を計測した

 作業していた隊員がマスクを外す

 これは中隊規模の警備部隊との交戦を避けるために、空調に睡眠ガスを使用したためだ

 強行制圧の案もあったのだが、この狭い空間内で中隊規模の制圧となると、双方への重大損害に繋がる可能性が高いためこの方法がとられた


 「RA、施設内の調査を開始します

  C3Cの情報通信管制は完了しましたが、三時間以内で通信途絶に支部からの部隊が到着すると思われます」

 「わかったわ

  調査、回収、工作の開始を許可します

  二時間以内に完了しなさい」


 司令部が動き出す


 『電源供給車両に接続

  供給を開始!』

 『内部通信を再接続』


 施設内に電気が戻った


 「さて」


 RAがマスクを外す


 「ご協力感謝いたします

  サザーランドさん」


 そう呼ばれた男はマスクを外す

 ドリトル・サザーランド警備主任だった


 「私の身柄は?」

 「情報秘守は徹底いたします

  身柄は一時的に本部のほうへ移動させていただきますが、ご了承ください

  貴方とご家族に対する保安は保証いたします」

 「それは覚悟しています

  私のIDを使えばLV3まで進めますが」

 「それには及びません

  貴方の協力には感謝いたしますが、ここから先は個人としての影響がありますから、私達が行います」

 「わかりました」


 RAは部隊副管理補佐を呼ぶ


 「三佐、サザーランド氏を本部へお送りしてください

  それではまたお会いしましょう」


 互いに敬礼をかわし、サザーランドはNポイントへと向かった

 その姿を見送ってから、RAは装備を取って司令部を出た

 蒼銀の髪がなびいた




 時刻 02:25

 研究所の外は、森、闇に包まれ静寂で満ちる

 建物の外観も至って静かだ

 窓も連絡路も黒いカーテンに覆われ光はない

 だが、内部は戦場だった

 特殊暗号解析器を部屋のカードキーに差込み、ロックを解除していく

 部屋内の端末を起動させ、パスワードを特殊プログラムで突破し、保存されたデーターを調べていく

 五人一組のC1C分隊が端末解析にあたり、独立回線に繋ぎ、本部へと送信する

 工兵分隊と通信小隊の統合隊は施設のメインコンピューターの陥落に奔走していた


 SPは施設内の技術面の調査を行う

 RAが直接指揮を執った

 この研究施設は表層部と地下部に分かれていることが判明した

 表層部は情報管理部門とダミー施設

 地下部は、配電通信基盤などの機関部と開発部とがあった

 機関部はLV3のIDで進入できるが、LV4からはそうは行かない

 機関部と開発部との間は分厚いシャッターで隔離されていた

 DEBの突破専任部隊がシャッターの破壊工作を開始する

 簡易型内部調査器で構成を調べ効果的な地点に爆薬を配置していく

 作業が完了すると一時退避勧告が出された


 爆音


 建物が揺れた

 破壊した入り口を確保しSPが進入する

 それに続き、C2CとDEBが攻集した

 地上部とは一挙に変わる環境

 そこにはバイオテクノロジー開発工場施設が連なっていた

 工場や研究部はそれぞれに隔離された部門構成をとっていた

 SP−C2C連携の調査隊が内部捜索に当たる

 DEBはその間に基軸部にはC・TNT、重要施設部にフレアナパームを設置していく

 
 『S3P−C2C合同からRAへ

  違法技術1561、0231、3432号確認

  違法施設−複合631号項目に指定します』

 『未登録LV4特殊隔離施設確認

  衛生総局施設法違反ですね、管轄外ですが一応』

 『違法サンプル−25号33号確認』


 調査開始から間もないうちからたくさんの報告が飛び交った


 「RAより各隊へ

  サンプル及び情報は回収、施設、技術に関しては映像にて保存せよ

  DEBは統合隊の誘導に従い、工作を展開せよ」


 腕のクロノグラフを見る

 時刻 03:32

 作戦開始から77分

 外部通信回線切断から80分

 RAは司令部に通信をつないだ

 
 「RAから司令部へ

  首尾は?」

 『現在調査進行状況74%

  表層部の調査はほぼ完了、DEB分隊が処理中

  残り23分で撤収開始予定です

  それとNポイントにて航空移動軍が待機中』

 「ガジェルゴート・カンパニーの動きは?」

 『通信途絶の技術的調査の開始を確認

  C3Cがディスターブを展開中

  カナダ支部にはいまだ動きはありません

  最低でも35分は問題ありません』

 
 通信を切る

 手元のPDAには通信の変わりに違法技術、施設、サンプルのデーターが送られて来ている

 複合的なものをあわせて総数は400を超えた

 
 「サザーランド氏の告発は正確だったわね」

 
 今回の成果に感謝する


 時刻 03:47

 各作業が終わり始めたそんな時、緊急通信が割り込んだ

 最深部を調査中のS5P−C2Cからのものだった


 『RAに緊急

  ブロック14にお越しください

  違法技術−0007号に抵触するかもしれません』

 「3−0ナンバーですって

  今から向かいます

  
  各隊、迅速に行動し20分以内に完遂せよ

  DEB一個分隊、私と共にきなさい

  プラズマナパームを準備せよ」


 分隊数名が装備を持って集まるとRAは走り出す

 時間がないだけではない

 その紅い眸にはかすかに怒りの色が見えていた




 時刻 03:53

 ブロック14

 開発施設最深部

 そこは他のブロックのように研究開発施設はない

 広い空間

 片角にコントロールブースがあるだけだった

 だが、足元にある円形上の溝に気付き、そこに乗らないようにブースに向かった


 「一尉、どう?」


 S5P小隊長は敬礼すると、ブースのコンピュータを見せた

 C2Cの部隊員が操作すると、緑の3Dで水槽のような装置がモニターに映し出された

 さまざまな形状のこの装置を見てきたが、一目で用途が判別出来る


 「RA、この区画は独立回線を使用していますし、保安レベルも最高のLV6でした

  このフロアそのものがシステムですね」


 一尉がもう一つのコンピュータを操作すると画面に膨大なデーターが走った


 「今CCの方で直接、回線を接続して移送しているデーターです

  これだけでも違法技術項目の高レベルですが…

  これを見てください」

 「……操作プログラム…

  ………動かせる?」

 「少しお待ちください

  ………司令部のほうから電源を回してもらえれば…

  起動ぐらいならいけます」

 
 一尉はC2Cの部隊員数名に指示を出し、プログラムの解析を始めた




 時刻 03:56

 作戦開始から101分

 外部通信回線切断から104分

 RAはクロノグラフの経過時間を見ると、マイクに手を掛けた


 「RAから司令部へ

  現状を報告せよ」

 『司令部からRAへ

  表層部の情報回収、及びDEBの処置は全て完了

  表層部担当班はNポイントへ撤退中

  地下の情報回収もほぼ完了、DEBの作業が終了しだい施設を離れます

  報告ではあと五分前後です』

 「了解した

  Nポイントに集結した部隊から帰還を開始せよ

  司令部も最低限の機材、人員まで縮小して撤収

  残存司令部も二分以内に移動できる状況に整えよ

  私とS5P−C2C−DEB分隊、20名はブロック14にて作業中、もう少し時間が掛かる

  それからカナダ支部の動きが予想される時刻だ

  監視及びディスターブを強化しなさい」

  
 マイクの通信を切ると管理ブースから離れ、フロアの中心部−円形状の溝があるところの前に立った

 直径5、6メートルはあるだろうか


 「RA、プログラム解析終わりました

  ユニットを起動できます」


 RAは手で起動開始の合図をすると溝が光を放ち、動き始めた

 溝はユニットとフロアの境目
 
 円形状のそれは、円柱状のユニットが地下に収納されていたものだ

 フロアに機械音が響き、鈍い振動と共にユニットがゆっくりと姿を現していく


 「どれくらいかかる?」

 「ユニットの完全露出まで七分」

 「データーの移送は?」

 「もう終了します」


 突然司令部からのアラームが鳴った


 『RAへ!司令部から緊急報告!

  04:01 衛星がカナダ支部の動きを感知

  無線傍受の結果、警備保安部隊規模−戦闘車両、機動装甲兵を含む一個大隊

  一分前に支部警備事務所を出たのを確認しました

  高速で移動中、ここまでの到着時間はあと17分から19分ほどです

  早急に作業を終了、撤退してください』


 足元を見るとユニットは40cmほど昇り出ていて、機械部分が見え始めた

 
 「DEB、プラズマナパームをセットしなさい

  大まかな効果配置でかまわないが、装填量は1.7倍にするように」


 DEB分隊長が頷くと、彼の指示で分隊員は四方に走り、プラズマナパームのボックスをセットしていく

 RAの傍、ユニット付近にも四つのボックスが置かれ、それぞれ遠隔、タイマーの両方で起爆準備が進められていく

 
 「RAから

  現地司令部は解散

  Nポイントへ全力で移動せよ

  ただし司令部としての機能は失うな

  また四分ごとに状況をレポートすることを忘れるな」

 『了解

  二分以内に施設を離れます』


 ユニットは一メートルほどまでに姿を見せ、機械部から下、水槽上の部分が見えてきた

 
 「RA!

  データー移送完了です」

 「RA!

  起爆準備完了」

 「一尉、ユニット起動にほかの作業はあるか?」

 「いいえ、ありませんが」

 「なら、貴方たちも施設を離れなさい」

 「RA、貴方は?」

 「私はユニット全体を確認してから離れます」

 「しかし…」

 「作戦地点を最後に離れるのは指揮者としての務めです

  移動用の車両一台を確保しなさい

  私も八分以内に撤退する」


 RAの指示に、部隊が動き出す

 端末から回線を外し、機材を片付け、それぞれ分担してフロアを出て行く

 最後に一尉がRAに近づいた

 
 「待機中の航空移動軍からヘリを一機向かわせるよう要請します

  御武運を」

 
 一尉は敬礼する


 「貴方たちも気をつけて

  任務遂行、ご苦労」


 RAが敬礼を返すのを見て、一尉は足早にフロアを後にした

 
 『RAへ

  04:04 司令部は施設を離れます

  ガジェルゴートは現在R地点

  到着予想16分後です』

 
 現地司令部からの最後の通信が来た

 それを聞くとRAはイヤホンとマイクを外した

 ホンをオープン、最大音量にして足元から少し離れたところにおいた

 ガジェルゴートの部隊が迫る中、彼女はいたって冷静な雰囲気をまとう

 目の前のユニットは彼女の身長を越えていた

 円柱でガラス張りの水槽がそそり立つ

 起動から五分が経ったとき、新しい変化が起こった

 ユニットの直情、天井部が開き、接合部をつけた装置が降りてきた

 水槽は上昇、天上部からは接合部が下降していく

 RAは装置から目を離し、フロア全体を見回した

 照明のない広い空間

 管理ブースとユニット以外は何もない閑散としたフロア

 水槽部にだけ光が灯り、黄色みのある光がユニットを薄暗い中に浮かび上がらせている

 彼女は拳を握り締めた




 起動から六分 時刻 04:06

 ガジェルゴート、部隊到着まで予想14分

 水槽部と接合部が接触し、接合部が回転して繋がっていく

 
 「ガジェルゴート……

  まさかここまで手を出しているとは」


 起動から七分

 ついに水槽部は完全に露出し、天井部からの機械も接合を完了し、ユニットが起動した

 天井から一つに繋がるユニット

 中央に人一人がゆうゆう入ることの出来る水槽部がある

 だが、まだそこには何も満たされておらず、水槽部にはまだ何も入っていない

 装置の開発だけ、それだけでも彼女の心は怒りに震えるが、それがまだ使用されていないのがせめてもの救いだった


 『移動司令部からRA!

  司令部及び最終部隊Nポイントに到着、これより帰還します

  定時レポート

  ガジェルゴートは現在、Tポイント付近

  予想到着時刻、04:20

  残り13分です

  航空移動軍より輸送ヘリ一機を施設へ向かわせます

  ヘリの通信周波数は特殊3番回線−141592です

  場所は管理事務所前、三分で到着予定

  急いでください』

 「RAから司令部へ

  了解した

  これより撤収する」


 通信終了後、周波数をヘリへの回線へ合わせ、身に着けた

 それから一歩離れて、ユニットのほうを向く

 彼女の身体が光を放った

 その眸のように紅く

 カッ!という閃光がフロアを行き巡ったかに見えた直後に、ユニットはバラバラに破砕された


 「人は、人を造ってはならない

  人の存在は神聖にして、人はそれを侵してはならない」


 時刻 04:09 彼女はブロック14を離れた

 双又の槍と紅い眸の徽章を床に残して





 地下部開発部、14あるブロック

 生体技術関係がひしめき合う

 大量のコンピュータ、さまざまな種類の機器、隔離ブース

 今はそこには大量のボックスが積み上げられている

 薬品、生体サンプル、データー、資料に対してはフレアナパーム

 ブースや大型機器、地下部を支える支柱等にはC-TNT

 そしてそれらの目的を完全に補完するために要局点にプラズマナパーム

 それぞれにタイマー起爆、遠隔起爆がセットされ、タイマー起爆は、順に 04:30:00、04:30:30、 04:31:00に定められていた

 床には起爆配線が這い、RAはそれを避けながら地上部へ走った

 開発部−−表層部の連絡口を抜けた時、通信が入った

 撤退用のヘリパイロットからだった

 その間も施設出口へ向かい、第一監視センターをそして警備管理事務所を抜けた

 防音加工されたヘリのローター音が聞こえてくる

 扉を開けるとステルス使用の戦闘ヘリがスライドを開けはなったまま、地上一メートルをホバリングして待機していた


 04:11

 RAがスタンドに足をかけたと同時に離陸し超低空で施設を離れた


 「遅い!

  れ、じゃなくてRA!

 このアタシが迎えに出てやったのに」

 「驚いたわ

  まさか貴方が来てくれるなんてね、SAL大佐」

 「なんかあれね、日本語意味を知ってるから嫌なのよ、その名前

  まあ、何はともあれ、ギリギリだったわね

  敵さんは現在Yポイント、残り7〜8分よ

  何かあったの?」

 「……生命倫理法指定違法技術及び施設第0007号 生体器官完全体培養成長槽==人工子宮

  それがあったわ…」


 RAは冷徹な声で言った

 SALは驚きに顔を歪めた


 「なんですって!?

  人工子宮、旧NERV技術開発部レベルの違法技術じゃない

  何故そんなものが?」

 「わからない

  でも確かにそれはあったわ

  これから調べてみなければいけない

  ガジェルゴート独自の開発技術なのか、それとも既存の技術から流出したものなのか」


 SALは言葉が出てこなかった

 ヘリを操作しながら後ろを振り向く

 栗色の髪が揺れた

 彼女の心を心配して


 「……レイ………」

 「ありがとう、アスカ

  禁断の技術はあった

  でも作戦は遂行された

  せめてもの救いよ

  私のような存在がなかったことは……」





 時刻 04:20

 ガジェルゴート・カンパニー・カナダ支部特殊警備部がカナダ総合検査研究所前に到着した

 通信途絶から127分が経過してからの到着という大失態を演じたのだ

 原因はいくつかあるが、保安ネットワークの隙が大きな要因だ

 軍事組織とは違う構成もあるだろう

 もちろんそういったものも作戦のポイントの一つになった

 ドリトル・サザーランド警備主任率いる一個中隊が数分で全滅するような状況を想定していなかったこと

 部隊交替時の隊員の行動を把握していなかったこと

 そして特殊通信部隊の存在

 到着した部隊は装甲車を中心に出口をかため、機動部隊を突入させた

 総指揮はカナダ支部安全保障管理官

 支部のナンバー2が現地指揮を取るということからも、この施設が同社の重要拠点だったことが伺える

 突入部隊はまず表層部の索敵を行い、敵部隊が居ないことを確認すると地下部へと索敵行動を移した

 彼等の抜かりは、人の存在を捜していたことであろう


 「第一班より報告

  施設内索敵終了

  侵入者は発見できず

  ただし警備部隊のメンバーもいません

  また破壊行動の痕跡あり

  管理官の監査を進言します」


 突入部隊は施設内の構造は把握しているが、何が置いてあるかまでは知らされていない

 管理官が呼ばれるのは当然のことだった

 この施設の真の姿を知る数少ない人間だからだ


 時刻 04:25

 護衛部隊に伴われて地下部に降りた管理官は愕然とする

 開発部を隔てる特殊装甲隔壁が破壊されていたからだ

 この瞬間、ただの侵入事件でないことが判明した

 補佐官に本社への報告を送るように言うと、開発部に入る

 中で見たのは予想を越える最悪の状況だった

 それは最高機密レベルの施設が明らかに調査を受けた痕跡だった

 そして最悪の事態は重なる

 施設内に警告アラームが鳴り響く


 『警告、警告、本施設は300秒で完全に破棄されます

  施設内の作業員は速やかに施設の半径1km以内から避難してください

  繰り返します―』


 警告が放送されると同時に端末の全ての画面にカウントダウンが表示された

 すぐさま確認が行われ、カモフラージュした爆薬のボックスが大量に見つかる

 現場はパニックに陥り、撤退がはじまった


 「管理官!

  退避してください!

  管理官!」


 護衛部隊の兵士が叫ぶ中、管理官は走り出した

 彼の中には、まさか、という否定したい気持ちで一杯だっただろう

 ブロック13にたどり着く

 目の前はブロック14、施設最深部、この施設の最重要機密が置かれる場所

 確かめておかなくてはならなかった

 けたたましくなる警報音の中、フロアに入った

 目の前にあるのは破壊されたユニットの残骸

 彼の足が重くなる

 警報が最終警告を発し、保安部隊が施設から撤退していく無線が遠くに聞こえた

 ユニットに近づくと足もとのものに気付き足を止める

 双又の槍と紅い眸の徽章

 拾い上げ、刻まれた機関名を見た瞬間、全てが理解出来た

 そしてこの先の破滅も

 支部管理官は打ち震えるように言葉を絞り出し、最後には爆発した


 「なんということだ…

  我が社の科学と資本と労力の粋を集め、ガジェルゴート・カンパニー第二世代躍進をかけたこの施設が…

  生命という禁断の領域に足をかけ、あの亡霊どもに魂を売ったこの技術を…

  この短時間の作戦、行動力、そして成しうる動機

  あの組織か

  生命倫理の監視者、あの非公開特務機関…


  綾波機関!!」





 時刻 04:30:00 第一波起爆

 フレアナパームが起爆して施設のフロアというフロアを高温の炎でなめ尽くし、焼き尽くしていく

 ありとあらゆる資料、端末、データー何もかも

 炎の濁流はついには窓ガラスを突き破り、そとの世界へ火柱を上げた

 森を赤く染める

 その後 04:30:30 第二波起爆

 C-TNTが起爆した

 高速衝撃波と高い破砕力をもつこの爆薬は、施設の基盤を打ち砕いていく

 フロアの床、それを支える柱、頑強な外郭それらをことごとく

 耐え切れなくなった建物は崩壊を始めた

 施設が炎に包まれ崩れていく中、地下部のプラズマナパームが最後に産声を上げた

 04:31:00 第三波起爆

 表層部、地下部の区別なく、その火は全てをえぐり取り、全てを灰燼に帰す

 施設を飲み込み、巨大な火柱が森の中に聳えたった

 暗い夜空を赤く染める



 時刻 04:32 全作戦終了

 ヘリに付けられた双又の槍と紅い眸の機関徽章が火の光に照らされて輝いていた











 2030年

 八月十五日

 時刻 09:00

 日本国第三新東京市

 森林公園

 の上空600km 


 キュインッ


 二又の槍と赤い眸の徽章が浮かぶ偵察衛星

 その高性能カメラが地上部を映し出した


 キュインッ


 画像は拡大され、日本列島が映し出される


 キュインッ


 カメラの倍率がさらに上げられ、画像が拡大する

 第三新東京市が映し出される

 中央部は森林公園となっており緑が綺麗に整えられている

 その森林公園の中心を拡大していく


 キュインッ


 さらに範囲が狭められ、望遠に切り替えられる

 緑の森の中に白い物体の集まりが見えてきた


 キュインッ


 その白い物体は、建物の集合体だった

 森林公園の中にあるそれらは、森と川とよく調和するようにデザインされ建設されていた

 だが、その建物は表層部のものでしかない

 主要機関部はどんな高精度の衛星でも透視できない地下深くに建設されていた

 旧ジオフロントを再建した空間が地下に広がる

 そこもまた緑の森と青い水と白い建物で構成されている

 
 生命倫理統制委員会−綾波機関本部


 その本部の一室

 後ろは整えられた庭園が見えるようにガラス張りにされ、淡いベージュを基調とした部屋

 室内はけっこう広く、窓際に執務用のデスク、その横に大きなソファーが置いてある

 中央にテーブルと椅子が置かれ、ちょっとした会議が出来るようになっている

 室内の壁には幾つかの風景画がかけられていたり、植物が置かれたりして部屋を柔らかくしている

 デスクには先の作戦関連の書類が置かれているほか、本が二冊

 また、友人や家族と写した写真が幾つか置かれていた

 そしてこの部屋の主は椅子に深くもたれたまま、外の景色を楽しんでいた

 
 コンコンコン


 木製で作られた扉が抜けるように響いた


 「どうぞ」


 透き通った声、とても暖かいものだ

 扉が開かれると、そこには一人の男性が立っていた

 
 「ようこそ、お越しくださいました

  ドリトル・サザーランドさん

  また会うことが出来ましたね」


 椅子を立ち、招き入れると、中央のテーブルに案内した


 「コーヒーでよろしいですか?」

 「いえ、どうかお構いなく」


 カップを二つだし、コーヒーそそぎ入れる

 シュガースティックとミルク、スプーンを添えると、一つは彼に、そしてもう一つは自分の座る席の前に置いた


 「ドリトル・サザーランドさん

  貴方には生命倫理統制委員会を代表してお礼申し上げます

  貴方の情報によって、作戦を円滑に進めることが出来、ガジェルゴート・カンパニーの違法も摘発することが出来ました」

 「私は、私のために行ったのです

  正義うんぬんを言うつもりはありません

  ただ、私が知った社の目的が、どうしても許せなかっただけです」

 「それが大切なんです、サザーランドさん

  貴方が抱いた気持ち、それは人を守るものとなります

  貴方の行動のお陰で、生命の絶対的な領域が侵されずにすんだのです」

 「そういっていただけるなら

  あるいは私の子供達の未来のためになったのかもしれない」

 「今日はご家族で?」

 「ええ、いままで忙しい生活をしていた分、妻にも子供たちにも息抜きを、と

  ここの自然はいい

  子供たちも喜んでいますよ

  職を離れているこの期間はゆっくりと過ごすつもりです」

 「こういう一時を楽しむことが出来る

  人の特質ですね」

 
 お互い微笑み、少しの会話のあと、敬礼を交わしてドリトル・サザーランドは執務室を出た

 執務室の机の上にはガジェルゴート・カンパニーの資料が置かれていたが、最後まで見せることはなかった
  
 彼の内部告発よってガジェルゴート・カンパニーの生命倫理法違反が機関の知るところとなった

 彼にはもう重荷を持たせる必要はない

 机の上には幾つかの書類が置かれその中には彼の資料もあった

 
 『ドリトル・サザーランド

  カナダ在住

  ガジェルゴート・カンパニー・カナダ支部、特殊警備部第四課第一主任

  委員会の強制調査後、同社を辞職

  九月より連邦機構の保安部門に籍を移す』


 書類には彼が家族と共に写る写真が添えられていた

 彼の処遇に関して委員会が手を回したかは不明

 彼の情報提供に関しては、一切が闇に葬られた

 
 そしてもう一つ

 ガジェルゴート・カンパニーに関する分厚い報告書が置かれていた

 それには既に機関総責任者の判が押されていた

 
 『ガジェルゴート・カンパニーに対する制裁処置決定報告書−概要

 ガジェルゴート・カンパニー(本社フランス・パリ)

 同社カナダ支部管轄カナダ総合検査研究所において、生命倫理法の禁ずる技術、情報、施設等の保持、開発、運営が確認された

 生命倫理統制委員会監査部の調査により、15642点の証拠物件を回収

 総計263種の違法を確認

 12件の準一級違反、121件の二級違反、669件の三級違反、8617件の四級違反、衛生総局法違反等6322件の違反

 これにより同社に対して生命倫理法第202条「制裁処置」を適応するものとする

 ただし、この制裁は生命倫理法に準ずる違法項目9419件に対するものとし、6322件の衛生総局法等違反は含まない

 これに関しては衛生総局を含む関係機関が管轄する

 制裁処置内容に関しては生命倫理法を基に生命倫理統制委員会裁定部が判断し、同委員会第零号会議会が決定する


 制裁処置:

 ガジェルゴート・カンパニー・バイオテクノロジー部門の32%縮小

 バイオテクノロジー開発範囲50項目の3年間期限付き制限

 2030年度同社純益の11%の賠償



執行機関:生命倫理統制委員会  
  
総括責任者:生命倫理統制委員会委員長  
  
    碇 レイ』












  
 CONTROL COMMITTEE of EXSITENCE ETHICS 

 DEPARTMENT of AYANAMI

 CASE FILES − GAJERGOAT COMPANY







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