ありがとうございました!


そんな声を後ろに、光の溢れる店内から、外の暗闇へと足を向ける 








残酷さを隠さない  aba-m.a-kkv 









暗い夜の道、コンビニの袋を抱えた銀色の髪の人が家路に向かう 

切れ掛かった街灯がそのままの、人気のない暗闇道 

その途中、突然彼は立ち止まった 



出てきたらどうだい?


突然の言葉に暫くの沈黙が流れた後、数人の人影がカヲルの周りに踊りでた 

隙のない身のこなし 

この時間何処にでもいそうな服装をした人間たちにしては、その手に持つものは普通でない 



渚、カヲルだな


統率者と思われる人間の低い声が夜の道に響く 




いかにも、僕だけど


涼しげな顔で答えるカヲルはゆったりと構えていた 



共にきてもらおうか


嫌だといったら?


そうは言えない筈だ


統率者が目配せで合図をすると街路樹の陰から三つの影が現れた 

二つは同じ部隊のメンバー 

もう一つはその二人に抱えられた状態だった 

月の光が少しだけ雲から顔を出す 

カヲルの表情が一瞬変わった 



アスカ…


支えられる亜麻色の髪の人は眠ったまま 



何をした?


薬で眠ってもらっているだけだ

危害を加えるつもりはない

客人は丁重に扱うように言われている

だが、貴様が従わない場合にはそれ相応の手段をとる

静かに拘束されてもらおう


カヲルは空を仰いで息をついた 

彼は自分の中にある青い血の存在を許した 



アスカが、僕の愛しい人が眠ったままでよかった

カヲルはアスカの寝顔を見て一瞬だけ柔らかい表情を浮かべる 



それは君たちにとっては地獄のような不運であり、僕にとっては幸いといえる

再びそれは冷たいアルカイックスマイルへと変わった 


アスカには、血なまぐさい光景を見せたくないからね


状況を理解しているのか?


統率者が問う 



では尋ねるが、君たちは彼女に触れることができると思っているのかい?


瞬間、アスカの周りを薄い赤い壁が覆う 

アスカを支えていた二人がはじき飛ばされ、アスカはゆっくりと宙に浮く 

部隊内に不安の色が浮かんだ 



君たちは、僕の大切な妻を盾にして、僕を制圧できると本気で思っていたのかい?


カヲルの周りの景色が微かに歪む 

その紅い瞳が闇の中にあって血のように光を持った 



そうだとしたら、君たちは、君たちの人生の中でもっとも愚かな間違いを犯した

僕の存在を理解しているのかい?

僕を誰だと思っている?

我は壱拾七番目の使徒、最後の使者にして、自由を司る天使、タブリスの名を冠していたもの、渚カヲル

我に立ちはだかったこと、そして、何よりも我が最愛の人に手を向けたことを後悔するがいい


カヲルが残酷なアルカイックスマイルを浮かべた 



安らかな死が、君たちに訪れることはない









この世で最も鋭利な赤い光が、空間を走った 













だが、放たれた瞬間、二つの影がその先を行った 

蒼銀の影が舞うと同時に、カヲルの赤い光が、同じ赤い光に壁に食い込んで止まる 

そして、漆黒の影が、次の瞬間には部隊を制圧し、赤い壁に覆われて眠りにつく亜麻色の髪の人を支えていた 





何故止めたんだい?


すこしの怒気の混じった冷静な声でカヲルは尋ねる 



カヲル君の手を、血塗られたものにするわけにはいかないからね


貴方は、アスカのことになると残酷さを隠さないから

二つの影が、カヲルに近づく 

カヲルは肩をすくめてすぐに柔らかくなった 



ふふ、助かったよ、だけどもう少し早く来て欲しかったかな


二つの影とも苦笑いを浮かべた 



ゴメン、もう少し早く動くつもりだったんだけど


でも、間に合ったんだから


そんな二人の言い訳を聞きながら、カヲルはアスカの元に向かい赤い壁を解いた 

その重みを両腕で受け止める 

薬をかがされたせいで深い眠りに入っているアスカを抱き上げて二人に向き直った 



まあ、後は頼むよ


衛生部隊に見てもらわなくていい?


蒼銀の影が少し心配そうに問う 



大丈夫さ、それくらいはわかる

もう少しすれば目を醒ますだろうし、このまま朝を迎えたっていい

それに、アスカにとっては夢の中のほうが、「不覚を取った」なんて傷つかなくていい

それじゃあ、お休みなさい、シンジ君、レイさん


二つの影に見送られながらカヲルはアスカを抱いて、コンビニの袋を手に持って、家路に向かう 

二つの影はその姿を静かに見送ってから憲兵即応隊に連絡を入れた 








街灯の切れ掛かった暗闇道を一つの影が、もう一つの影を大切そうに抱いて歩いていく 



………

残酷さを隠さない、か

まあ、そうかもしれない

でも、アスカのためならば、それはそれでいい


少しばかりの苦笑いを浮かべながら夜の道をいく 

と、次の瞬間、空を仰いで息をついた 



あ、夜食の意味がなくなっちゃったなぁ

まあ、いいか


腕にかかったコンビニの袋がむなしく揺れる 

再び苦笑いを浮かべるも、腕の中の愛しい寝顔を眺めて、今度はあたたかいアルカイックスマイルを浮かべる 

そうして腕の中の重みを確かめるように少しだけ抱きしめる力を増した 










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