ウェイトレスが紅茶を運んできて、二人の前に置く。
一礼して立ち去るのを見送り、シンジは話を再開した。
「でさ、そのtamb氏って言う人がさ、自分のサイトが18万HITしたらしいんだ」
「そう・・・よかったわね」
綾波は一言で切って捨てた。
(カメラがパンする。テーブルの影にはハンカチを噛みしめたtamb氏が映る)
「そう・・・って、それだけ?」
シンジはたじろぎつつも言葉を続ける。
「折角だし、何か記念品を上げようとか思ったんだけど・・・」
「要らないわ、そんなもの」
ピシャリとはねつける綾波。
シンジの額に、効果音と共に縦線が入った。
「・・・」
「ヤツは私の写真を相田くんから買っているのよ。しかもきわどいのとか。挙げ句に諜報員I田からの情報によれば、どうやってか知らないけれど、彼は私の裸の写真まで所持している。罰こそ与えられこそすれ、祝う必要なんて無いわ」
とりつく島もないとはこのことである(笑)
ビリッ、と言う音がどこかから聞こえた。
シンジはきょろきょろと見渡してみたが、何も見つけられず、綾波の方に向き直った。
(再びカメラがパン。ハンカチを真っ二つに引き裂いて目の幅涙のtamb氏)
「でもでも、ほら、アヤナミストだし、大事にしてくれてるじゃないか」
「・・・」
しばらく考え、妥協案を見つけたらしい。
「じゃあ、SALの写真でも贈りましょう。ヤツの完璧な私のコレクションに、SALを混ぜて汚してやるのよ」
「・・・」
今度はシンジが絶句。
「それは・・・可哀想だと・・・思うな・・・」
「そんな事より、もうそろそろ行かないと。今日は碇くんの大事な記念日よ」
シンジのツッコミはあっさりと流された。
「ああ、そうだね、ありがとう、そろそろ行こうか」
っておい、シンジよ、そんなあっさりでいいのか?(笑)
立ち上がり、精算を済ませて出て行く二人。
どうやら遊園地に向かうようだ。
(店内カメラ。こそこそとtamb氏が立ち上がり、あわてて精算して後を追う)
遊園地の入り口には、長蛇の列が出来ていた。
二人の番が来るにはもうしばらく掛かりそうだった。
さっきの話題など無かったかのように、楽しげに話す二人。
しばらく後方には、怪しげな風体の男。
tamb氏であった。
そうこうしているうちに、ようやくシンジと綾波の番が回ってきた。
シンジが先にゲートをくぐり、綾波がそれに続く。
パンパカパーーン。
ファンファーレが鳴り響く。
突然の出来事に硬直する綾波。
花束を抱えた係員が出てきて、それを彼女に差し出す。
「おめでとうございます。貴方は当園始まって以来、180万人目のお客様でございます」
きょとんとした顔の綾波がとても可愛い。
シャッターを切る音がいくつも響く。
(カメラがパンする。厳つい一眼レフを抱えたtamb氏。新たなコレクションを手に入れて満足の表情)
更に係員は二枚のチケットを取り出し、差し出してきた。
そこには、「道後温泉二泊三日の旅」と書かれている。
「そう・・・そうなのね、リリス・・・。これがあなたの意志なのね・・・」
「あ・・・綾波・・・?」
「これは婚前旅行に行け、と言う事なのね・・・」
「綾波・・・それは違うと思うな・・・」
「判ったわ、ユイお母様と司令にお願いして、学校を休校にして頂くわ・・・」
シンジのツッコミは風に乗って消えた。
即座に携帯を取り出し、電話をかけ始める綾波。
シンジはあわてて手を伸ばし、ぷちっと電源を切る。
「ほ、ほら、早く行こう、注目されちゃってるよ」
「あ・・・そうね、大げさな事されるもんだから、目立っちゃったのね」
(違うよ・・・綾波が妄想を大声で垂れ流したからじゃないか・・・)
シンジは内心で律儀にツッコミを入れつつ、手を取って走り出した。
幾つものアトラクションを楽しんだ二人は、ラストの定番とも言える観覧車に乗り込んでいた。
「いい景色だね。エヴァからの高さと同じぐらいらしいけど、こうして見るのはいいもんだね」
「そうね・・・街も人も小さいけれど、生きてるんだわ・・・」
「綾波・・・」
いい雰囲気である。
「でも、今日は碇くんの誕生日・・・。これ以上素晴らしい事なんて無いわ」
「綾波・・・ありがとう・・・嬉しいよ・・・」
綾波はバッグから小さなカメラを取り出した。
「碇くん・・・目を閉じて・・・」
「う・・・うん・・・」
左手で、カメラを彼の横顔辺りに近づける。
「碇くん、18歳の誕生日、おめでとう。これが私からの誕生日プレゼント」
ふわりと、綾波の前髪がシンジの額に触れる。
唇には、柔らかい感触。
パシャリ。
綾波は自分でシャッターを押し、写真を撮った。
「これはヤツに贈ってあげましょう。今日は記念の日で機嫌がいいから、恩赦、って所ね」
「綾波・・・その・・・僕も貰っていいかな・・・?」
「構わないけれど・・・写真なんかなくたって、いつでも私がしてあげるわ・・・」
シンジ、茹でダコ状態。
「綾波・・・絶対に幸せにしてあげるからね・・・」
「ありがとう・・・期待して待ってる・・・」
一八歳。それは日本の法律上、男子が結婚可能な年齢になった事を示す。
後日。
tamb氏の元に、一枚の写真が届いたという。
シンジとレイのキスシーンである事は明らかだが、一言、手書きの文字が書き添えられていた。