それは19歳の夏の記憶・・・


















私の生まれ変わった日・・・



















心の日記に刻み込まれた、1ページ







































「僕はここに居るよ」


written by 綾吉








私は1年前にリツコ母さんがいなくなってしまった悲しみで自分を喪いかけた・・・
そんな私の為に彼は家を出て、私と暮らし始めた。





















ある夏の朝、不意に目が覚めると、隣で眠っていたはずの彼が居なかった。
隣に居るはずの彼が居ない・・・・・・それだけで私の胸はざわめき、心に走る波紋に砕け散りそうだった。


私はリツコお母さんがいなくなってしまった時の事を思い出してしまった。
もうあんな想いはしたくない・・・心に穴が空いてしまった様な、引き裂かれるような、そんな感じ。
もし、今、彼までいなくなったら、私は生きてはいけないだろう。

今の私には彼が総て・・・。
それは彼と暮らし始めて、1年経っても変わらない・・・。




彼を探しに起き出すと、リビングにあるベランダのほうから風鈴の音がした。




『クーラーはあまり身体に良くないから・・・』と言って二人で暮し始める時に彼が買ったものだ。
みんなは風流で涼しい感じがすると褒めていたが、私にはそんなことはわからなかった。
何故なら私はリツコ母さんを失ったショックで喜ぶ、笑う、嬉しいなどの正の感情を失ってしまっていたから。
まるで、彼と初めて出逢ったあの頃のように・・・
あの頃と違うのは、今は、いつも彼が隣にいてくれること・・・




ただ、何となくその音色を聞く度に胸が締め付けられる、そんな感じがした。
それを彼に言ったことはないが、風鈴の音がする度に少し困ったような、悲しそうな顔をするので気づいているのだろう。
彼もまたそれを口にすることはないが・・・







私はその時だけは何も感じずに純粋なその音色に惹かれて歩いていった。

ベランダには彼が佇んでいた。




「・・・碇君・・・」

「ん?綾波・・・起こしちゃったかな?」

「ううん、・・・でも・・・」

「どうしたの?」

「どこに行ったのかと思った・・・」

「僕はここにいるよ。どこにも行かないさ」

「碇君が隣にいないと不安で・・・眠れないの・・・」

「・・・ごめん、綾波。風鈴の音が聞こえてね・・・ベランダのドアを閉めに来たんだよ」

「・・・そう・・・」

「・・・おいで綾波、こっちに来て外を見てごらん」

「ええ」

私は彼の傍へ寄り添うに立った。

「・・・少し寒いかな?」

「平気、碇君がいればとても温かいわ」

彼が傍にいる、それだけが私のすべて。

「そう。・・・ねえ、綾波、太陽が昇るまで空を見ようよ」

「いいわ・・・碇君が望むなら」

「・・・うん」

そうは言ったが私には何故空を見たがるのか、理屈は分かっていても心では理解できなかった。







こうして、"世界"を見るのは母さんがいなくなって初めての気がした。

ベランダから見下ろした町はとても静かで、まるで誰も住んでいないかのようだった。

時が止まったかのようなその静けさが心地よかった。

その静けさはまるで私の時まで止まってしまったかのように思えた。

雲一つない空を見上げるとそこには青のグラデーションがあった。

私はそれを彼と見ていた。

時間が経つにつれ、群青から明るい青へと変わっていく空のグラデーションから目が離せなくなり、不意に意識が空に吸い込まれる様な感じがした。

空に私が溶けている、そんな感覚。

突然、胸の中に何かが湧き上がってくる

・・・喜び、悲しみ、笑顔、涙、かつて私が彼から教えてもらったもの・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・







「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「綾波?」

碇君に呼ばれ、涙を流している自分がいることに気づいた。

「私、泣いてるのね・・・何故?」

「きっと・・・あの空を見ていて、美しさに感動したからだと思うよ」

「感動、私が?・・・そう、これが感動。私にも心で感じることが出来るのね」

「出来るさ綾波、何当たり前の事言ってるんだよ。綾波にはちゃんと感じる心があるんだよ。ただ、今まで心の奥深くにあったから・・・自分でもわからないだけなんだと思う・・・」

「ありがとう、碇君」

それはこの1年間私のことをずっと見ていてくれた彼だから言えること。


「僕も昔そうだったことがあるから少しは分かるんだ。辛いこと、悲しいこと、心を自分の奥深くに埋めてしまえば何も感じなくて済むけど・・・でもそれじゃ何も変わらない」

あの頃は世界に対して関心がなかった為、彼がそんな事を考えていたなんて全く気づかなかった。

「碇君、でもそれは仕方のないこと・・・あの時は、」

「あの時、言ったこと憶えてるかな?ヤシマ作戦の終わったときのこと・・・」

彼が急に何を言い出すのか私には分からなかった。

「今は何もなくても、生きていれば何か見つかるって・・・僕は・・・君を見つけたよ。でもそれは、辛いことや悲しいことも合わせて色々あったからだと思う」

「碇君・・・」

「綾波、辛いことも、悲しいことも、嬉しいことも、楽しいことも・・・そういった心の動き全部が生きてるということなんだと思う。生きてることを感じさせてくれるって言うのかな?それも綾波と一緒だからそう思えるんだと思う」

「碇君、私は・・・」

「綾波にもそう思ってもらいたい。綾波が消えてしまうんじゃないかと思えて・・・・・・1年間、怖くてずっと言えなかった・・・けど、今なら言える・・・綾波これからは一緒に心を取り戻して行こう。僕でよければ手伝うから、綾波をずっと見てるから」

「・・・・・・・・・・・・・私も・・・碇君に見ていて欲しい・・・」







彼の言葉は私の心の奥深く闇に包まれた部分に差し込む光のようだった

それはとても柔かく、限りなく優しい光

嵐の海を行く船の行き先を照らす希望の灯火

きっと、その光が指し示す彼方にあるのは、未来(アス)

私も彼といることで心の奥深くに失くした心を見つけることが出来ると思う

今日から私は生まれ変わる

彼と二人で新しい自分を創り出そう

悲しみをこえて歩きだそう

光の射す方へと




「・・・・・・私も碇君と同じものを見て、同じ事を感じたい・・・」

「ゆっくりでいいんじゃないかな?あの空が明けるように」

「そうね・・・太陽・・・眩しいわ・・・」


私は朝日をみながら微笑んでいた。

太陽の光にさらされて心が再生されていく。


「そうだね・・・部屋に戻ろうか?・・・今日も、暑くなりそうだ」







その時、私は前から聞きたくても口に出せなったことを聞いた。

それは、リツコ母さんがいなくなってから最も聞きたかった事。


「碇君、こんな私でも、傍に、いてくれる?どこにも行かないで欲しいの・・・もう誰かがいなくなって悲しい想いをするのは、嫌・・・」


彼は振り返り強く抱きしめながら答えてくれた。


「大丈夫、僕ならここに居るよ。僕は、何があっても綾波と一緒だから・・・」

「碇君・・・私も・・・」



彼は優しくキスをしてくれた








私は一つ心を取り戻した

それは私が生きている証

今日からは新しい私が始まる














その朝から、風鈴の音色が私の心に美しく響くようになった

















エンディングテーマ:「Blue Sunshine」By B'z(Album 「GREEN」収録)


































「楽屋」

シンジ:お疲れ様です
レイ :・・・・・スースー
作者 :レイちゃん寝ちゃってるね
シンジ:今回は朝早いシーンでしたからね。でもやっぱり可愛いな
作者 :そうだね、幸せそうなこの寝顔
レイ :・・・スースー・・・





後書き

今回は自分のサイトオープンとtambさんの「綾波レイの幸せ」開設2周年を記念して投稿しました。
というわけでtambさん、「綾波天国」オープン記念の投稿お待ちしてます(笑)

朝、段々と明るくなっていく空を見ていたら急に脳裏に浮かんで、急いで書きました。 で、それを急遽「レイの結婚シリーズ〜明日への道〜」の設定に変えてしまいました。
だから推敲部分とイメージが少しずれて変になってしまいまいした。
でも、夏の明けていく空って綺麗ですよね(汗)
一応、レイの段々と成長していく心を明けていく空で表現したかったんですが・・・
この話はEOE後の二人の物語です。
作者は静かな町並みで濃い青から徐々に明るい青に変わっていく景色を見ていると優しい気分になれます。
皆さんはどうですか?この作品を読んで(作者に対して)優しい気分になってご意見・ご感想などメールをいただけると嬉しいです(笑)


ぜひあなたの感想を綾吉さんまでお送りください >[ayaten@infoseek.jp]


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