Walk to the Room
                 written by あやきち


春が過ぎ、夏が近づくにつれ日を追うごとに街が熱を帯びてゆく、そんな初夏の夕暮れ。
日中のむっとする暑さも夜を告げる先遣隊が追い払ってしまい、暑くなく寒くなく過ごしやすいこの時間帯に吹く涼しい風が頬をなでるのがいっそう心地よい。
太陽はいまだ西の彼方で粘っているが、既に月と星は姿を現している。
こどもたちも、おとなたちも家路を急ぐなか、後ろ手にバッグを持ってのんびりと景色を眺めながら歩く少女がいる。
綾波レイ。
蒼い髪に紅い瞳、世界にも極稀な外見的特徴をもつ少女だ。
かつての無関心で無愛想だった少女の面影は消えうせ、世界への好奇心が満面にあらわれている。
レイは初夏のこのほんのわずかしかない一瞬が好きだった。
昼でもない、夜でもないこの黄昏どきの時間帯が。


一歩一歩足を進めるうちにいつもと同じ場所で街灯が灯りはじめ、目的地まであと少しと告げる。
レイはいまだに一人暮らしだが、夕食は毎日シンジの家(正確には家主はミサトなのだが)に食べに通っている。
そして後片付けを手伝ってからシンジに送ってもらう。それが早くも3ヶ月近くになろうとしている。 別にレイは料理ができないわけでもないが、学校とネルフを往復する中で一人分の食事をわざわざ作るのはさすがに面倒なのでついつい手抜きをして栄養剤と水だけで済ませてしまう癖があり、それがシンジにばれて叱られてしまい、以来昼食と夕食はシンジが作ることになったのだ。
因みにお昼はシンジの手作り弁当を学校で受け取って、みんなで一緒に食べている。
夕食は、シンジがレイの家に作りに行ってもいいのだが、アスカさまとミサトさん、そしてペンペンを飢えさせると危険なのでそっちのほうの準備もしなくてはならないので、必然的にレイが移動することになる。
全員でレイの家に行けばいいじゃないかという意見もあったが、アスカさまに却下された。
シンジとしては女の子の一人歩きは危ないから、と反対していたのだが、ゆっくり歩いてもせいぜい15分の距離なのだからとレイが自発的に通うことを申し出たのだ。
この話を聞いた本来一緒に住むべき保護者はというと。
「あら、よかったわねレイ。でも毎日通うのに服がないと困るわね。お小遣いをあげるからマヤとでも一緒に可愛い服をたくさん買ってきなさい」
そう言ってミサトの一か月分の給料に近い額のお小遣いをポンとくれたのだった。
ちなみにほとんどの人間は知らないが、リツコさんはネルフで一番の高給取りで、司令、副司令よりもたくさんもらっている。しかも使っている暇がない。
本当はシンジに選んでもらいたかったが、シンジくんが喜ぶような服を一緒に選びましょうねという言葉に惹かれ素直についていった。デパートでは偶然夏服を買いに来ていたオペレーター三人娘に出会い、五人で閉店間際まで服を選んでいた。それがよほど楽しかったのか、以来レイはリツコやゲンドウ、はては冬月からも小遣いを貰い、大抵はオペレーターの誰かと一緒に、時にはアスカやヒカリ、マナ、さらにはマユミといったメンツともデパートに通うようになった。勿論一人でも行くが、不思議なことにシンジと一緒に行くということはないのである。これは「自分で自分の着るものを選んでセンスを磨いたほうが男は惹かれるのよ」というオペレーターの一言を真に受けたためだ。実際、初めてレイが私服を着て葛城家を訪れたときシンジは心から喜んで笑ってくれて、褒めてくれた。今も鮮明におぼえている。「似合ってるね」ではなく、「綾波は何を着ても可愛いね」と言ってくれたのだ。もっとも、その直後三人の視線に耐えられず、真っ赤になってキッチンに逃げていったが、それもまたシンジだと思った。


通い始めた頃は景色など目に入る余地もなく、ただただシンジに会うために急いでいたレイだったが、最近はこの15分を心から楽しんでいた。
まわりを見る余裕ができたのかもしれない。いや、以前は単に見る必要がないと思っていたから目には映っても心には何も映らなかったのだろう。そもそもこんなことを考えたためしもない。友達とのおしゃべりも、シンジに見せるために始めたおしゃれも楽しく思えてきたし、景色を楽しむこともできる。自分の中でなにかが変わっているのがわかるけれど、それをうまく説明することはまだできなかった。
けれど、それでいいと思う。
わからなくてもいい。
今の自分が好きだから。


今日も今日とて歩いていると、ふと誰かに見られている気がした。
目立つ外見のために注目を浴びることはわかっているが、これはそういったものとは違うように感じた。
尾行されている? レイは携帯を見る振りをして立ち止まり視線の位置を探す。
レイが鋭いと言うよりも隠れてみている人間が下手なためにすぐにわかった。
公園の植え込みだ。
こちらが尾行に気付いているとわかれば相手が逃げてしまうので注意しながら近づいていく。
こういうとき、携帯の写真機能は便利だ。景色を撮影しているふりをすれば油断するだろう。
逃げようとしても無駄な距離まで近づくと携帯をマヤからもらったバッグにしまい、まっすぐ植え込みに向かって歩く。
「誰? なぜわたしを尾行するの?」
そういって手を伸ばすと植え込みがガサガサと動き、隠れていた人間が飛び出してきた。反射的に手を引いたレイの視界に入ったのはよく見知った人物だった。
「・・・・碇くん」
「ぐ、偶然だねぇ、綾波」
なんと植え込みの影に隠れていたのはシンジだった。決まりが悪そうに、多少ひきつりながらの愛想笑いを浮かべるシンジにレイはちょっとばかりいじわるしてみようと思った。つとめて無表情を装い、できるだけ冷たく、感情を込めないように話す。
「・・・・何をしていたの?」
「いや、別に、なにも」
「うそ」
「・・・う」
レイはシンジに対してだけは嘘をつけないが、シンジも同じだった。
「何をしていたの?」
結局シンジは白状してしまう。いつもよりも夕食の準備が早く終わったのでレイを迎えに行ったところ、丁度マンションから出てくるところだったので、遊び半分で後からこっそり見ていたのだと。
無言で見つめるレイのプレッシャーに負けてシンジは手を合わせて頭を下げる。
「その、ごめん!」
ややあって、レイが小さくふきだす。恐る恐る頭を上げると笑顔のレイがいた。
「別に怒ってなんかないのに」
「綾波ぃ〜」
「さ、行きましょ。きっとアスカが待ちくたびれてるわよ?」
シンジの左腕にその細くて白い、きゃしゃな右腕を絡ませると引っ張るようにレイは歩き出した。
大切な人たちが待っている部屋へ。





後書き
あ〜全然夕涼みじゃねーなー(^^;
すんまそん、二日間に渡って書いたので何を書こうとしていたのか忘れてしまいこげな中途半端なものになってしまいました・・・_| ̄|○
暇つぶしにでも(って暇がないんですよね(^^;)なってくれれば幸いなんです(^^;。
野球の方も書こうと思いましたが、ののさんが既に書かれたので辞めておきます。もともと、野球の方はあまり具体的なストーリーが思い浮かばなかったし。
それでは、今後もCG期待してますYO〜☆-(ノ゚Д゚)八(゚Д゚ )ノイエーイ




この作品は、tamaさんのイラスト『夕涼み』にインスパイアされて書かれたものです。

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