蝉の鳴く声。

太陽がジリジリと照りつけ、地面を焼き尽くす。



立ち上る熱。ゆらゆらと揺れる蜃気楼。

蒸気のように、あたしも空に連れてってくれればいいのに。

透明になって、すぅっと溶けられたらどんなにいいだろう?

そこはきっと、誰もが自由な世界。

何物にも縛られず、ただ漂うだけの世界。



そこまで考えたとき、無くなったはずの左目が疼き、痛みが走った。

現実に引き戻される意識。

同時に聞こえる彼の声。呼んでいる。

呼んでいる、あたしを。



そう。あたしはまだ、消えるわけにはいかない。約束をまだ果たしてないから。

彼の口癖、「逃げちゃダメだ」。きっとそういうこと。

返事を返し、青い空の下を駆ける。

何度も彼と通った道。今日で通るのは最後の道。



でも、まだ道は終わっていない。

あたしたちは、まだそこにいる。


時を止めてしまった、夏という名の終わらない道の上に――――
















叙情詩篇

夏章 〜Endless summer〜


written by 牙丸















あの日、サードインパクトは確かに起きた。これはあたしも解ってること。

でも、何故か人はまだ生きていた。

海から戻り、地を歩き、生きていた。

世界は何も変わらなかった。

街もほとんど元のままだったし、復興だって時間はかからなかった。

地軸も戻り、セカンドインパクト以前の気候に戻ったらしい。




一度滅んだはずの人が何故生きているかは、あたしには解らないこと。

きっと、それを知っているのはシンジ。そしてファースト。

でも聞いたって、教えてくれない。

あたしも、それはもう聞かない。

彼が教えたくないのなら、私は知らないままでいい。

真実は忘れ去られた闇の中。たぶんそれでいいのだろう。














ネルフで戻ってきたのは、マヤと、青葉さんと、日向さん。

そしてシンジとあたし。ファーストも戻ってきた。

だけど彼女は目覚めなかった。

安らかに眠ったまま、今は病院にいる。

シンジとあたしはマヤに引き取られて、面倒を見てもらっている。

青葉さんと日向さんは、色々とネルフの後処理で忙しいらしい。




そう。サードインパクト直後、ネルフは責任を問われていた。

そりゃ、当たり前よね。なんてったって、世界を滅ぼそうと考えていたに等しかったし。

ゼーレが無くなった今、その矛先がネルフに向かうのは当然だった。

……あたしたちは、何も知らなかったのに。



政府がネルフを訴え、裁判がいくつも起き、正直かなり危なかった。

だけど二人が、あたしたちを守ってくれた。

あたしたちの無罪を証明するため、戦自がネルフを攻めてきたときの記録を見つけ出した。

それが世間に発覚するのを恐れた政府は、ネルフの裁判を全て取り下げた。

その時の言い訳が、これまたお粗末なもので

「悪いのはゼーレと、ネルフの上層部であり、何も知らされていなかったネルフ職員は無実である」だってさ。

最初はそうと全然思ってなかったくせに。

何はともあれ、今、あたしたちが普通に暮らせるのも二人のおかげだ。




























高校の授業が終わったら、ファーストのところへお見舞いに行く。

三年間ずっと続けてきた、あたしたちの習慣。

いつもこの道を、二人で通ってきた。



そして病院に入ると、シンジは彼女の部屋でただ目覚めを待つ。

あたしは部屋の外で、ただ彼を待つ。

変わらない日々は流れるままに。



いくつも季節は過ぎ去っていったのに、印象に残っているのは夏のことだけ。

そのたびに、ああ。やっぱり縛られてるのねと思う。

あの夏から、あたしたちの時間は止まっている。

時間を取り戻すことなんてできない。あたしのぽっかり空いた左目のように。



あの時潰された、聖痕とでもいうべきこの傷は、今じゃ義眼が入っている。

透き通ったただのガラス玉。それでも光に透かすと、とても綺麗。

たとえ偽物であっても、とても綺麗に輝くもの。彼女と同じ。

本来なら義眼を縫いつけて、目の筋肉と連動して動くようにするらしい。

だけど、この呪われた眼窩は日ごとに少しずつ大きくなっていくから、それは出来ない。

医者もこれには頭を悩ませていて、結局未だにあたしの義眼は取り外し可能のまま。



でも、あたしは予感がする。

この呪いは、夏の呪縛から解放されたときに、解けるのだと。


彼女が目覚めたとき、呪いはきっと解ける。




















そういえば、ファーストのことをシンジに聞かされたのも夏だった。


















去年の夏。高二のあたしたち。

初めてこの気持ちを自覚したのも、その頃だった。

淡い淡い、まるで風船のような恋心。



でも、あたしは何も言わなかった。

シンジの気持ちを知っているから。

彼は、逞しくなっていた。信じられないぐらいカッコよくなった。

言い寄る女の子も決して少なくなかった。



でも、シンジはそれを全て断っている。

理由はただ一つ。

「待つべき人がいるんだ」

真剣な瞳で、いつも述べられるその言葉。

彼はずっと待っている。夏の終わる日を。

一途なまでに待っている。この終わらない道の果てから、彼女がやってくることを。




ずるい。




ファーストはずるい。




勝った負けた以前の話。同じ土俵に立つことすら許されない。




彼の視線は、眠ったままの彼女にしか向けられていないから。







ずるい。ずるいよ……レイは……

















風船のような恋心。いつ破裂したっておかしくなかった。


その薄い膜の中に入れられていたのは、空気ではなく狂おしいほどの憎悪なのだから。
























そして、あたしはその日を迎える。

ただの、ある夏の暑い日の夜だった。

帰りが遅くなるというマヤと、珍しくあたしを連れずに病院へ行ったシンジ。

お腹すいたな、とか思いつつあたしは一人で、ボーッとしながらテレビを見ていた。

放送されているのは、安っぽい恋愛ドラマ。

「あなたが好きです」「僕もだ」

ドラマの世界は、誰かの手の上で、思い通りに転がされていく。

現実ではそんな簡単に、世界は動いてなんかくれないのに。

そして物語がクライマックスにさしかかったとき、玄関で物音がした。



「……ただいま」



シンジの声。「おかえり」と返事をする。

だけど、何故か反応がない。いつもなら何かと話してくるのに。

背後に近づく足音。伸びてきた手は、あたしの肩を通り過ぎてリモコンへ。

そして、いきなりスイッチを切った。



「何するのよ!?」

せっかくいいところだったのに。

あたしは怒って振り向いた、けどその先にいたシンジはどこか思い詰めた表情だった。

久しぶりに見た表情。あの頃の、エヴァに乗っていたシンジに似ていた。

あたしはシンジに何があったのか判らなかった。

ただ尋常じゃないことが起こりそうだという予感だけはあった。



「アスカ……」

「何よ?」

あたしを呼ぶ声に含まれた響きが、心の中に波紋を描く。

「……そうと思うんだ」

「え……?」

上手く聞き取れなくて、聞き返す。






「……来年の春。綾波の17歳の誕生日に、延命装置を外そうと思うんだ」






悲しそうに言ったシンジ。時間が止まる。

沈黙。



















「……どうして?」

声を振り絞る。ようやく時が動く。

「……担当医に言われたんだ。『目覚める可能性は、ほとんど無い』って」

「でも、どうして……?」



そう。それはシンジらしくない決断だった。

毎日のように病院に通い、あいつの側に行っていた。

少しばかりの変化を期待して、変わることのなかった習慣。

「諦めようと思うんだ。きっと綾波は……この世界に帰ってきたくないんだよ……」

「諦めるって……」

シンジは悲しそうに笑って、それっきり何も言わなかった。

















それに嫌気がさした。


















気がついたら、シンジの頬をぶん殴って、押し倒していた。

自分でも何でそんなことしたのか、わからない。

ただ、無性に憎々しかったのだけは覚えている。

あたしの中で、何かが破裂した。

どす黒い感情に翻弄されて、自分が自分でなくなっていった。

シンジの首に両手を添えて力をこめる。

喉笛に指が食い込んで、ぎりりと音を立てた。

もがくシンジに倍増する憎悪。力を込めた指が白くなっていく。

その時、彼の瞳に黒く映ったあたしがいた。

憎悪と殺意に爛々と輝く、あたしの醜い顔が見えた。








「嫌い! 嫌い! だいっ嫌い!」



「あんたがあたしのものにならないなら、あんたなんていらない」



「……どうして、あいつばっかり」



「あんな人形なんか、いなければよかったのに……」



……違う。



あたしがホントに望んでたのは……









死ぬギリギリのところで、あたしは指を離した。

咳き込むシンジ。馬乗りになったまま、呆然としているあたし。

心だけが呆然としていた。

自分の体なのに、頭がついていってなかった。



いつの間にか、あたしの口はあたしの制御を離れ、勝手に言葉を紡ぐ。

「あんた見てるとムカツクのよ! いつも全部一人で抱え込んで!」



こみ上げてくる激情に突き動かされるあたしと、それについて行けずただ見ているしかないあたし。

「あんたレイのこと待つべき人だって言ってたんでしょ!? それなら最後まで待ちなさいよ! 諦めずにいなさいよ!」

気がつけば手もすでに言うことを聞いていなくて、ポカポカと力なくシンジの胸を叩いている。



「レイが帰ってきたくないってどういうことよ!? そんなこと誰が判るのよ!?」

そこまで言葉を紡いで、ようやくあたしはあたしが何を言いたかったのかに気付く。

なんで憎く思えたのかに思い当たる。

その理由は……



「あんたのこと思っている人が何人いると思ってるの!? 少しはその人のことも考えなさいよ!」

少し息を吸う。次の言葉に想いを込めた。

「あんたが諦めたら、あんたが振った子はどうだっていうのよ?」



ハッとしたようにシンジがこちらを覗く。

黒い瞳に映し出された、青い瞳とガラス玉。

それを見つけて、あたしの心の中のモヤモヤがだんだん消えていくような気がした。

薄い膜の下の黒い固まりの中から、淡い本当の色が見え始める。

澄んだ透明色。それは何かを溶かして、流れ落ちていく。













――――そうよ。あんたは待つって決めたんでしょ?

それなら、きちんとけじめはつけなさいよ。

ここであんたが諦めるんだったら、犠牲になっているたくさんの人の想いは……

犠牲になっているあたしの気持ちは……












いつの間にか、あたしの右目は泣いていた。左目の義眼は泣けなかった。

それはまるで、あたしのちぐはぐな想いを映し出しているみたいだった。

しゃくり上げる声が聞こえて、シンジも泣いていることに気がつく。

黒い瞳を子犬のように濡らし、昔のような、気弱な声でこう言った。



「……怖いんだ。怖いんだよぉ……アスカ……」

「何が怖いのよ?」

「綾波が目覚めないかもしれないことが。綾波が目覚めないかもしれないと思う自分が」

「……」

「本当は諦めたく無い。だけど、綾波が帰ってきたくないって思えて仕方がないんだ。綾波が帰ってきたくないなら僕は……僕は……」

どうすればいい? とその瞳が語る。



「……どうして、レイが戻ってきたくないって思うの?」

あたしは小さな子をあやすような声で、シンジに訪ねる。

そして彼は、ようやくあたしに教えてくれた。

レイの真実を。























再び沈黙に包まれる。

聞こえるのは冷房のうなる音と、シンジのしゃくり上げる声だけ。

さっきの話があたしの頭の中で、何かを形作っていく。

左目が疼く。でもいつもの痛みは襲ってこなかった。

自慢の脳がフル回転を始め、そしてあたしは何かを感じた。



きっと、そうか。

サードインパクトは、そうして回避されたのかもしれない。

レイだけが目覚めない理由は、そういうことなのかもしれない。



一人、納得する。

もう、そうなら。それならば……

一瞬の躊躇。

あたしの中の二つの想いが、天秤にかけられる。

だけど、あたしは迷わず決意した。



「ねぇ、シンジ」

「……」

「賭けしない? あたしとあんたとで」

「……賭け?」

「そう。延命装置を外すのは再来年、18歳になってからにしましょ」

「どうしてさ?」

「だから賭けよ。あんたは17歳で外すって言ったのよね?」

「……うん」

「あたしは18歳まで待つに賭ける。17〜18歳の間にレイが目覚めたらあたしの勝ち」



18歳というのは、あたしのカンだ。

根拠も全くない、ただの女のカン。

首を傾げつつ、シンジは聞く。

「もし、17歳前に目覚めたり、18歳になっても目覚めなかったときは?」

「そしたら、あんたの勝ち」

「……勝ったらどうなるのさ?」

「そうね……あんたが勝ったら、あたしは何でも言うこと聞くわ」

「もしアスカが勝ったら?」

「決まってるじゃない。そんなの!」



そこで息を吸う。あたしの決断。

そう。そんなの決まりきっている。



「レイを幸せにしなさい。たったそれだけよ」

シンジの目が驚きに見開かれる。

予想通りの反応に、少しだけ笑ってしまいそうになった。



前から解っていたわよ。あたしの出る幕なんて無い。

どうせあんたは、レイ無しじゃきっと生きていけない。

もしレイの代わりにあたしを見るようになったとしても、そんなシンジなんかいらない。

レイがいなくなって、あたしに縋るようなシンジなら、あたしが殺してレイのところに贈ってやる。





――――そう。あたしなんかじゃ、敵わない。





不思議と恨む気持ちはなかった。

シンジを諦めることは出来ない。だけどこの淡い淡い恋心は、そっと心の奥に仕舞うことにした。




































それから季節は一巡りしていく。

レイに対する恨みや憎しみは、もうとっくに無くなっていた。

シンジのことで悔しくないわけは無い。羨ましいとすら思う。

だけど、レイなら仕方ないかな。とも思う。



あたしたちは、ただ待ち続けた。

……夏の、終わりを。














だけど、簡単にいかないのが世の中ってもので。

ついこの間、あたしはドイツに帰ることが決まった。

帰る日は夏休みのはじめの日。すなわち明日。

どうやら夏の終わりをこの目では見れないようね。

片方だけになってしまったこの目で、しっかりと見たかったのに。















終業式が終わって、あたし達は並んで歩く。

これが最後に、シンジと一緒に病院に行く道。

相変わらず暑くて、蝉が鳴いていた。

アスファルトが照り返して、さながら鉄板の上のよう。





――彼は隣にいて、あたしはただ触れ合うことのない右手を握りしめていた。
























白い部屋。

あいつは今日も目覚めない。

安らかな呼吸音と、規則正しい機械音だけが響く。

あたしは、部屋の外で彼を待っていて。

彼は、目覚めることのない彼女を、ずっと待っていた。














「アスカ。おいでよ」

シンジがあたしを呼ぶ。

変声期も終わり、低くなった声。

彼の隣へ歩いていく。

「最後ぐらい、声でもかけていきなよ?」

言われて、ベットの中の彼女をのぞき込む。

安らかな寝顔の彼女は、本当に眠っているだけのように見える。

蒼銀の髪が、輝いていた。

「髪、伸びてるのね」

「一応、定期的に切ってるんだけどね」

あの頃短かった髪は、肩のあたりまで伸びていた。



「生きているのね……」

本当に、他意もなく思ったままに言った。

でも、シンジは首を振る。

「生きてるんじゃない。生かされているんだよ」

悲しそうに、機械のほうに目を向ける。

規則正しく紡がれる音。

訝しむあたしに、いや、自分自身に言い聞かせるようにシンジがつぶやく。

「そうだよ。生かされているんだよ? ほら……」

うつむいたまま、シンジの手が、レイのシーツを除ける。

シーツの下の体を見て、あたしは言葉が出なかった。



死人に似た、抜けるような白い肌。



細く、弱ってしまった腕、足。



繋がれた数々のコード。



シンジがあたしの手を取る。レイの肌に触れさせる。

その肌は、投薬の跡で固くなっていた。

そこにいる少女は、ただ儚い。









それでも、彼女はそこにいた。

消えることなく、そこに存在した。

それだけは、まぎれもない事実だった。











だから。










シンジは待ってる、レイを。

目覚めることのない、彼女を。

ただひたすら、一途なまでに。






あたしも待ってる、シンジを。

決してこちらを向くことのない、彼を。

本当の気持ちをそっと心の奥にしまって。

向き合うことのない関係。














諦めたくて、諦めて。

でも、ホントは諦められなくて、諦めたくなくて。

だからあたしたちは、ひたすらあなたを待ち続ける。



















でも、それでもいい。


それで、いい。


















きっと、ずっと待ってるのがシンジだから。


そして、ずっと待ってるのもあたしだから。





















その小さな事実こそが、きっと奇跡を生み出す力になる。



あたしは、そう信じてる。

























「ファースト……いえ、レイ。あんた、早く起きなさいよ?」

彼女に呼びかけるのは、これが最初で最後。

寝ている子供に言い聞かせるように、優しく言葉をかける。



「あたし、あんたに伝えることがたくさんある。言わなきゃいけないこともあるわ」

今までの日々を思い返す。

ただ過ぎていくだけの日々と、流されていくだけのあたし。



「あんたとは一度、じっくり話がしたいわね」

あの頃は、ひどいこと言ってごめんなさい。

あんたはあたしに似てる。人形みたいなところが特に。

でも、あんたは最後に糸を切ったんでしょ?

あたしのように縛られっぱなしじゃなかったでしょ?



「ねぇ、レイ。シンジ、カッコよくなったわよ……? 早く見てカッコいいって言ってあげてよ」

そうよ。

あんた、私からシンジを取ったんだから、このまま目覚めないなんて許さないわよ?

このアスカ様が、シンジを譲ってあげたんだから。



だから、目ぇ覚ましなさいよ……レイ……

シンジの面倒は、あんたに任せるから。

早く目を覚ましてよ。待ってるのはもう辛い。



変わらない日々に流されるまま流されて、このままじゃあたしには何も残らない。

全部流されてしまう前に、あんたがこの無気力な流れを止めてよ。



あんたが目覚めなきゃ、あたしたちはずっと、あの夏に縛られたままなのよ?

終わらない夏なんて、終わらない夏なんて……





何かが吹っ切れたように、あたしは泣いた。




































空港。あたしは荷物を引っ張って歩く。

見送りに来たシンジが、言った。

「僕、諦めないように頑張るよ。綾波のこと」

「そう。そんならいいわ」

「アスカ、元気でね。賭けの結果はちゃんとメールするから」

「わかってるわよ。そんなの。それとシンジ」

最後に聞きたかったこと。最後ぐらい、いいよね?

あの日封じ込めた扉を、少しだけそっと開く。

「なに?」

「あたしは、あんたのこと好きよ?」

実を結ぶことのない、言葉。

「……ゴメン。知ってた」

悲しそうに、謝るシンジ。

やっぱりか、と内心思いつつ笑う。

それでも別に、かまわなかった。

「それならいいわ。あたしを振るんだから、レイのこと諦めたらそれこそ殺すわよ」

「わかってるよ。最後まで諦めないさ。そしてアスカが賭けたとおり綾波を幸せにするから」

「よし! じゃあ、あんたも元気で」

「うん」













飛行機が来た。あたしはシンジに手を振る。

青い空。入道雲がもくもくと広がっていく。

ドイツに行っても、心のどこかであたしはずっと待ってる。レイを、そしてシンジを。

待つだけ待って、何も得ることが出来なくても、とにかく待つのだろう。

だってあたしを繋ぐ鎖はまだ消えていない。ずっと消えない。夏が終わるまでは。

そして次に会うときは笑いあって、楽しく三人でしゃべって、いい友達になりたいわね。

なんとなく義眼を外して、光に透かしてみた。

透明なガラス玉。偽物であっても、綺麗に輝くもの。

……ううん、違うわね。

最初が偽物だったとしても、輝けるもの。それはきっと本物と変わらない。

今のあたしのこころは、それと同じく透明で澄んでいたと思う。
















































……さよなら。シンジ。





















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