想うということ
Written By NONO
「ねえ、空の色って、なんで微妙に変化するのかな」
ぼくは、彼女に問いかけた。冗談みたいに深く、濃い青空。午後5時をすぎたばかりの、夜と昼の隙間の世界を教室の窓から眺めながら。
「さあ?」
彼女はそっけない。言外に「少しは手伝ってくれてもいいのに」と訴えかけているのは想像に難くない。
それはわかっていたけど、ほんの少し意地悪をしてみたくなって、無視してつづけ
ることにした。
「白っぱけたり、今みたいに紺色に近かったり。季節によるよね。夏にこんな濃い青空はあんまり拝めない」
がたん、と音がしたので振り向いた。彼女が僕のすぐ後ろに立っていて、小脇に抱えた日誌でぼくの頭をこづく。
「それより、ゴミ箱ひとつ持ってくれる?」
「OK」
ふたつ並んでるゴミ袋の軽いほうを迷わず持ち上げると、彼女はまた日誌を武器に使った。今度は痛い。
「んがっ」
「やさしくないんだから」
「冗談だよ、冗談」
「わかってるけど」
「でも今の、シャレにならない痛さだよ」
「わかってるけど」
「悪いヤツだなあ」
「悪くないけど」
廊下を歩きながら、くだらないやりとりをつづけた。くすくすと笑いながらそんなことを言いあう僕らは、実にわかりやすい組み合わせだと思う。
「日誌、届けてくる」
「うん、先に行ってるから」
ぼくは彼女が持っていた方のゴミ袋を持ち上げ(なんて軽い!)、廊下の先のごみ捨て場に向かった。ドアを開けて外に出て、細道を曲がった先がゴミ捨て場だ。
ゴミ袋を放り投げると、積み重なったいくつかが音を立てて崩れてしまったので、積み直して振り返ると、彼女がドアのスキ間から顔を覗かせていた。
「ありがとう」
「いえいえ」
ドアをしめて、入口へ。靴を履き替え、校門をくぐった。
靴を履き替えるとき以外は、もちろん手をつないだまま。
「ねえ」
「なに?」
「今日の夕飯、この冬はじめての鍋ものにしようと思ってるんだけどさ」
「うん」
「ひとりでやる気にもなんないし、ウチに来ない?」
「いいの?」
「うん」
「それなら、是非」
「決まりだ」
「よかった、助かるわ」
「なにが」
「今月あと五日で、千円しかないから」
「へえ?らしくもない」
「色々あるの、わたしにだって」
「ふーん……ま、ぼくもこの時期はかなりギリギリだけどね」
「の割には余裕ありそう」
「見えっぱりだからね。あ、豆腐と白菜だけ買ってくから、こっち」
商店街へ行くため、普段はまっすぐ行くところを左に曲がった。
「ねえ」
「ン?」
今度は彼女の方から話しかけてきた。
「さっきの、空がどうして色々な青空になるかっていう話だけど」
「ああ、あれ」
「そう」
「知ってるの?」
「知らない」
「は?」
「知らないけど。でも、ひとつ言えるのは、きれいな色ねってこと」
「……うん、それは間違いないや」
「でしょ?なら、それでいいと思うわ」
彼女が強く手を握ってきた。少し、体も寄せて。
なるほど、よくわからないや、女性ってのは。
でもまあ、そんなことわかってるけど、ぼくはこの子が好きなんだよな。
手を握り返し、空を見上げてなにかを想う彼女を見た。
それはもう、きれいだった。
「うん、それも間違いないや」
あとがき
こんにちは、ののです。
この話は先月に「ネタバレOK・批評用掲示板」に書き込んだものです。
その時に「これくらいならなんぼでも書ける」とか宣ったが、読み返すとちょっとビックリ。
こんなにうまいことまとまってるとは思いませんでした(爆)うはは。
こういう話、けっこう好き。
やっぱ日常ですよ、日常こそ似合います、この二人は。
なお、再投稿にあたって言い回しをちょこちょこ変えてます。
行間を空けたほうが雰囲気が出るのかもしれないけど、そのまま。
できるだけ掲示板で書いた状態を維持しようと思ったので。
でも、文字色いじってみました。シンジ君の眺める空の色。
雰囲気が命の話だけにこの色が合ってるかが気になる。個人的にはアリなんだけど。
なお、タイトルはGRAPEVINEの3rdアルバム「Here」の同名曲より。