ペニー・レイン
                                           Written By NONO








雨に合わせてリズムを刻む。

雨に遭わせてくれよと願う。


雨だ。

雨の中だ。

雨粒がそこらじゅうを濡らしていく、その中にいた。

小雨だったのは救いなのか。そのわりには物足りなさを感じるけど、どうなの?

ブランコに乗ってるからって、楽しそうなフリをしてるわけじゃない。


ただ、どうでもよくなった。


なんでもいいや、誰でもいいや。


そんな風に思ってしまってる自分に気づいてしまった。

だから歩かない。急いで帰っていいことはない。

雨に降られながら待っている。なにを待っているか、わかっちゃいないのに。

遠くで、誰かが手を振っているような気がした。


そうあってほしいと、願ってるだけだった。


この灰色の空の向こうから、彼が笑って手招きしてくれていればいいのに。


現実は甘くない。

お腹が鳴った。最後にご飯を食べたのはいつだったっけ。

ぱさついたサンドイッチを半分食べたきりか。それだって、丸一日前の話だ。

このまま死ねれば、どれだけ楽だ?

その怖さよりも魅力が勝った。


そうだ、死んでしまえばいい。

そうすれば、もう苦しい思いはしないで済む。

楽しいことは、もう訪れそうにないし。


どうやって、死のうか。オーソドックスに首でも吊ろうか。

それとも、同居人の引き出しにある黒い武器で頭をぶち抜いてしまおうか。

その方が、確実かな。

でも、もうここを立つのも億劫だ。ここに座ったまま死ぬ方法を考えよう。



「ははっ」



ずいぶんあっさり死に方を考えられるもんだなあ。

肩を揺らして、笑った。



「なにが可笑しいの?」



その透き通った声に、顔を上げた。



「なんでもないよ」



それだけ言うのが精一杯だった。

僕を包んでくれていた雨が、はぎとられた。

彼女が傘を差している所為だ。

「なにか用?」

最後に会うのが彼女というのも、なにかの運命か。

綾波レイ。

エヴァに乗ることをためらわず、父さんのことを酷く言うと怒ってきて。

そして、月明かりに照らされた笑顔は月よりもきれいで愛らしかった。


僕には彼女がわからない。


一万回に一回だけ模様が変わる万華鏡みたいなものだ。そのくせその一回が驚くほど美しくて。

その一回を見てから、彼女は実はもっと沢山の模様を持っていることを知った。



「あなたがここにいたから」



僕の問いに対し、彼女は機械のように正確に言葉を造り出す。

僕が濡れないように傘を出しているせいで、彼女が濡れてしまっていた。



「三人目なんだろ、憶えてないんだろ、こんなこと、いいよ。やめてよ」



僕も機械のようだ。

声が震えているのを除きさえすれば。

彼女の様に完璧にとはいかなかった。



「だからって、わたしは機械じゃない」



彼女が、機械のように言葉を紡ぎ出す。



「碇くんが濡れていたから、こうしているわ」



「わたしは三人目だけど、綾波レイだから、こうしているの」



僕はどこを見るわけでもなくふらふらとさせていた視線を、彼女に合わせた。

彼女は最初からちゃんと僕を見ていたのに。

しばらくこうしているのだろうかと思うと、そうではなかった。彼女が言った。



「行きましょう」

「どこに?」

「このままだと、風邪をひくわ」



「……そうだね」



僕は立ち上がった。まだ、立ち上がることができた。

彼女が右肩を濡らして、歩く。僕は左肩を濡らして、彼女と並ぶ。

視界がにじむのは雨の所為ではないかと思ったが、濡れた頬の暖かさが、それを否定した。




































あとがき

ども、こんにちは。
この話はパッケラさんがぶっとんだ話を書いたのに対し、
僕はその反動で重い話を思いついて三人目の掲示板に投下したものです。この度正式投稿しました。
ぱっと思いついてぱっと書いたから誤字があったし、いまひとつの言葉遣いがあったのでそこを修正。

フェードアウトしないで終わる曲の雰囲気か。そういう風に仕上がってればいいなと思ってます。
タイトルは「ポーの一族」の話の一つから拝借。
だからビートルズかと思った人は残念ながら外れです。



ぜひあなたの感想をののさんまでお送りください >[nono0203@po1.dti2.ne.jp]


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