ハートの在り処
                                             Written By NONO








「私見で悪いんですけど」
 やたらと他人行儀な言葉づかいで彼女が言う。

「うん?」
「こういう「輪つなぎ」って、飾れば飾るほど貧相な気がするのはわたしだけなの?」
 彼女が嘆くように言う。
 お茶をいれるために立っていた僕は、振り返って湯飲みの載ったお盆を運んで、テーブルの定位置に座った。ベッドを背にして玄関まで見渡せる場所。ここなら部屋全体が見渡せて、必ず彼女を視界に納められる。

「まあまあ」
「そう思わない?」
 はぐらかそうとする僕に、輪つなぎをつまんで繰り返し訊ねる彼女に、思わず苦笑い。

「まあ、思わないでもないけど」
「思うのね?」
「どうしたんだよ、いきなり」
「だって、不毛なんだもの。キレイにすればするほどみずぼらしくなるんだから、わたしにしてみれば」
「うーん、そこまで言わなくても。私見ながら、いささか大袈裟な気もしますが」
「だって」
「どのみち実行委員の不手際の尻拭いなんだから、耐え難きを耐え、忍び難きを忍び、粛々と輪をつなげつづければよいのです。怒る方が徒労」
「アスカ、こういうのはどう思うのかしら」
「ていうか、海の向こうの人たちって言うのはさ、飾り付けってどういうのにするんだろう。やっぱりギラギラしてるのかな」
「たぶん、こんなのではないと思う」
「それは、単に綾波の希望だと思う」
「わたしもそう思う」
 ちゃちな言葉遊びで笑いあった。

「高校に入って始めての文化祭なのに、今一つ盛り上がらないわね」
「それは、学校自体が?僕たちが?」
「どっちも」
「まあまあ」
「……」
 じとり、と彼女が僕を見る。
「な、なんだよ」
「私見ながら、あなたが「まあまあ」って言うときって大体コトをはぐらかすときね」
「そう?」
「そうよ」
 少し渋い緑茶を飲み干し、彼女は作業を再開する。折り紙に引いた線に沿ってハサミを入れていく。僕は彼女が切り落としていく細い折り紙に手早く糊をつけて、輪をつなげる。
「あ、三時だ」
「どうかしたの?」
「スペイン対デンマークの親善試合を衛星で放映するんだ」
 サッカーの話だ。
「手を止めないでね。造花も作らなきゃいけないから」
「了解」
「それと、わたしの部屋は衛星放送は入らないから」
「そ、それを最初に言うべきかと」
「すこし、いじわるしたくなったの」
 彼女は実に可笑しそうだった。

 私見ながら、今の君はすごくかわいい。
 そう言える関係になれればいいと思っている。
 最初に君の笑顔を見たのは、二年前、月明かりの中でだったっけ。

「もう、二年以上になるんだ」
「え?……そうね」
「想像もできないや、きっと。あの頃の僕にはね。こんな風になってるなんて」
「わたしの方が、きっと、もっと想像できないと思うわ」
「かもね」
「きっとそう。ねえ、碇くんの……」
 ここで、彼女は言葉を切った。
「どうかした?」
「いえ、なんでもないわ。ただ、こんな風ってどんなかなと思っただけだから」
「こんな風……って」
 いま、こうしてこんなことしゃべってることがだよ。
 わかってるだろ?

「確かに色々変わったけど、わたしはもっと変わりたい」
「それは、僕だってそうだよ」
「どう変わりたいの?」
「どう……って」
 彼女が聞き返す。ずいぶん早口で。
 そんなの、照れくさくて言えない。
 君ともっと仲良くなりたいなんて。
 僭越すぎて言えなかった。
 僕って存在が、君にとってすごい影響力を持つヤツでいたいなんて。

「けっこう、漠然としてて」
 咄嗟に嘘をついた。
「そうなの」
「う、うん……」
「わたしは、あるわ」
「どんな?」
「たとえば……」

 君が考える仕草をする。
 それを見た瞬間に、君に恋してんだと思う。いつもそうだ。
 僕はエヴァに乗る前も後も大して変わっちゃいないけど、これだけは言えるな。
 ハートの在り処がどこにあるかわかっているってこと。
 それは確かなんだ。



 君がテーブルに金属製の何かを置いた。かちゃん、という音。
 新たな一歩の足音のように思えた。
 気のせいじゃなかった。







































あとがき

ショートショート。
最近ホントに多いなこういうの。
タイトル「ハートの在り処」というポップ感が好き。

でも手法は最近よくやるやり方。そろそろ進歩したいとこです。
まあ、でもそういうのは全部一歩一歩だよな。
綾波さんが成長した口調って難しい。

ちなみにレイが最後に置いたモノは……秘密。
各自ご想像ください。
ここをどうするかは悩むところでしたが。

○○○○を渡してます。
漢字だと二文字。なんでしょね?



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