一つだけ、たった一つだけ。
離したくないものがある。
かけがえのない、ひとがいる。
YOU ARE MY STAR
Written By NONO
「速いっ!」
ギリギリのところでしなる鞭をかわしたシンジは、さらにもう一歩後退しつつ、エヴァ専用の大型拳銃を三発牽制に撃ち、右へ曲がった。このルートに逃げ込めば弐号機との挟撃が可能だ。しかし同時に、電源ケーブルの長さが限界に達しているために、電力供給ビルからソケットを取りだし、交換しなくてはならなかった。この状況下でそれを実行するのはかなり厳しい。
角を曲がった瞬間ケーブルを外す。電力供給ビルはすぐそこだ。間に合うか――
使徒のしなる腕が輝きを増した。先程までとちがい、真直ぐ腕を突きだし、両者を隔てるビルを貫き、初号機を襲った。
「うわっ!」
胸を突かれ、後ろのビルに叩きつけられる。胸に走る激痛。つづけざまにもう片方の腕も発光し、突き出された。
ズド、ドン!
援護射撃に回っていた零号機が長距離からポジトロン・ライフルを放ち、使徒の態勢を崩す。輝く腕は見当違いの方向に流れた。A・Tフィールドを中和しきれていないため与えられたダメージは僅かだが、初号機は攻撃を逸れただけでも役目を果たしている。
この隙に初号機はケーブルを取り出した。零号機は一直線に使徒に向かって走り出す。途中の兵装ビルからパレットライフルを二丁手にして、撃ち鳴らして初号機から注意を逸らせていた。
「碇くんっ」
状況を把握して、という意味合いを込めてレイが呼びかける。使徒の体長の同じくらいの長さを持つ腕が発光する。零号機はまだその腕からは遠い。初号機へ仕掛けてくる――
しかし、使徒はレイの予想を裏切り、その光を射出した。はじめて見せる砲撃に虚を突かれ、零号機は腰にその光を受けた。直撃である。
「くうっ!」
バランスを崩して転がる零号機に追い討ちをかける使徒。
「このおっ!」
シンジは初号機にプログナイフを抜かせ、今にも光を撃ちださんとする右腕を背後から切断し、つづけざまに銃を背中に撃ち込んだ。
「アスカ!」
シンジの呼びかけにチャンスを窺っていた弐号機が飛び出し、ソニック・グレイヴを鮮やかに操り、もう片方の腕を切断し、
「もらったあっ!」
よろめいた使徒のコアをめがけ、グレイヴを突き出した。
うおおおん、と唸り声をあげ、使徒はひっくり返り、沈黙した。
「おつかれさま」
サブモニターが開き、葛城ミサトがねぎらいの言葉をかける。
「中々コンビネーションがあってきてるわ。詳しいことは後でね。三十分後に管制室へ来て頂戴」
今までの戦闘は全て実戦形式の訓練だ。シミュレーションとはいえダメージを受ければ半分以下になっているにせよ痛みを伴う。実戦ではより激しい痛みに耐えなくてはならないから、訓練でも痛みを感じるようにしてあるのだ。
パイロットはエヴァには入らずエントリープラグに入り、それをすっぽりと包み込む機械から模擬体と接続、さらにそこからエヴァへとシンクロするシステムになっている。
一番乗りでシャワーを浴び終えたシンジは、シャワー室を出てすぐの椅子に座って二人を待つ。いつものことだ。自販機でウーロン茶を買い、一気に半分近くを飲み干した。LCLに満たされているとその後はあまり気持ちのいいものではない。こうして二人を待つ間お茶を飲むのもまた、いつものことだった。
(くたびれるなあ…)
実戦形式の訓練はいつも午前十時半からはじまる。家からネルフまで行く時間を考えると学校へ行く余裕はなく、終わって昼食をとり、休んでいると二時過ぎになるからやはり学校へ行ってもほとんど意味はないため、この訓練をするということは学校を休むということになる。
(でも、学校行く時間があっても寝るだけだろうな、きっと……)
今日のような訓練が終わって家に帰ると、シンジもアスカも昼寝することが多い。いくら死ぬことがないとはいえ戦闘訓練を何回か繰り返せば、ただでさえ普段の訓練より集中するのだからその疲労はかなりのものになる。
次にシャワー室から出てきたのはアスカだった。もうじきレイも出てくるだろうが、いつも少しだけアスカの方が早い。それはアスカがレイと二人でいるのを好まないというのもあるが、主にレイの方が長くシャワーを浴びているということが原因らしい。
「おつかれさま」
「ほんとよ、まったく……」
口ぶりほどは不機嫌ではないアスカはシンジがウーロン茶を飲んでいるのを見て「あたしも何か買おうかな」と言うと紅茶を買い、シンジの隣に座った。
「今週二回もあるなんて、ずいぶん気合い入ってるわよね」
「うん、けっこうキツいよね」
二人は同時にため息をついて、肩を落とした。自分のすべきことは重々承知だが、しかしそれとこれとは話が別である。
訓練終了から二十六分後、レイが出てきた。髪を乾かす時間がなかったのか、まだ空色の髪には水分がたっぷり含まれていて、首からタオルをかけている。シャギーの入った髪が少しまっすぐになって、首に張りついていた。
そういうのもまたいつものことだが、シンジはほとんど慣れることができない。十四歳の少年にはいささか無理な話ではあるが。
(やっぱり、かわいいんだよな…)
そんな心の声を、逆側にいるアスカに気づかれたらどんな目にあうか、想像は難しくはない。だからといって考えないようにできるほど、シンジは大人ではなかった。
「おつかれさま」
管制室に着くと開口一番ミサトが手を振ってねぎらった。時刻はすでに十二時半を回っていた。
「じゃ、ちょっと聞いてちょうだいね。まず、全体的に見てのことだけど、今日はいい方だったと思うわ。なによりコンビネーションがよかったし」
シンジはミサトの話を聞きながら管制室の様子をぼんやり眺めた。昼食に出かけている人もいるのだろうか、イスに空きがある。そして、いつもはいるはずのリツコがいないことに気づいた。どうかしたのだろうか。
「まずレイね。シンクロ率は相変わらず、と言ったところだけど――」
レイのシンクロ率は零号機でも初号機でも60台後半が限界だ。一番長くエヴァに乗っていながら、一番シンクロ率が低いという事実はエヴァの特殊性の一端を表している。ミサトには当のレイがそれほどシンクロ率を気にしているようには見えない。もっとも、彼女がなにかしら感情を表に現すことがそもそも目珍しいから、想像でしかないのだが。
「でも、相変わらず判断力は優れてたわね。射撃能力の高さも随所に見せていたし。最後の最後で不意打ち喰らっちゃったけど」
「はい」
レイはいつものように小さく頷き、小さく返答を返す。
「次にシンジ君」
「はい」
「ちょーっち、近接戦闘での詰めが甘いわね。三回の模擬戦闘のうち、それぞれ一回ずつ引くべきところで突っ込んだり、その逆だったりしたことがあったから」
「…はい」
「でも、ま、たったの半年でよくやれてるわ。引き気味の点はむしろアスカとよく噛み合ってるし」
「はい」
「最後にアスカ。相変わらずね、問題ないわ」
「あったりまえじゃん!」
フフン、と鼻を鳴らすアスカにかすかに苦笑して、ミサトはつづける。
「ただ遠距離ではレイに一日の長があるわね。近接戦闘ではアスカに分があるけど。シンジ君とのコンビも板についてきてるし、上々の仕上がりって感じじゃないかしら」
その後小さな注意が二つ三つあり、解散になった。シンジは自分の足取りが重くなっているのに気がついた。疲れているはずなのに昨晩よく眠れなかったのだ。
管制室を出て、エレベーターを待っているとき、アスカが「ん?」という顔をした。その後すぐなにかを思い出したらしく、振り返ってシンジを見ると、
「ねえ、シンジ」
「なに?」
「あたし、午後ヒカリと遊ぶことになってるから、南口から帰るわ」
「あ、そうなの?」
「そ、今日五時間目で終わりでしょ?だからもう行くけど、夕ご飯は食べるからね」
「わかったよ」
「それと……」
ずい、と一歩前に出て、鬼神もかくや、と言わんばかりの笑みを浮かべると――
「あの子といちゃいちゃしてないで、さっさと帰りなさいよ」
「う、うん」
「よろしい。じゃねー」
さっきとは全く違う声で――逆に言えばどうしてあんな凄みのある声が出せるんだという話だが――晴れやかに去っていくと、台風一過と言わんばかりの静けさがエレベーターを包む。人と話すのが苦手なシンジと、人と話す気がなさそうなレイという組み合わせでは、無理もないことだが。
「碇くん」
「えっ?」
レイが沈黙を破った。それは珍しいことと言えた。
「どうかしたの、綾波」
「今日、このあと検査があるから……」
はあ、とシンジは間抜けな声を出して答えた。レイがなにを言わんとしているのか、いまいちピンと来ないらしい。
彼女は俯きがちにつづける。
「だから…」
「あ、うん、わかった」
シンジもようやく合点がいった。別に約束したわけではないが、いつも途中まで一緒に帰っていたけれど、今日はそれができない、と言っているのだった。
「ごめんなさい」
「いや、いいよ、謝るようなことじゃないよ」
(そっか。綾波、まだどっか悪いのかな)
レイはもう一度ごめんなさい、と言い残し、エレベーターの途中の階で出ていった。
「一人か……そういえば、久しぶりだな」
疲れていたし、空腹感もあったが、シンジは帰ることを選んだ。ネルフの食堂で一人で食事する気にはなれなかったし、さっさと帰って寝てしまいたいという欲求の方が勝った。地上に出ると、今日も激しく太陽が照りつけていた。
(暑いな、まったく)
なにも年中夏にならなくたっていいんじゃないか、と思った。セカンドインパクト以後に生まれたシンジに春や秋、ましてや冬の気候がどういうものか想像もつかないが、最高気温二十度という世界はさぞいいものなんだろうな、などと考えながら家路をひとり歩く。
(そういえば、綾波と一緒に帰るっていつからのことだったっけ)
もちろん訓練のある日毎回、というわけではなかったが、それは時間が違ったり、予定が狂ったりしたときくらいで、今日のようにまったく同じ事をしてたのに別々に――ましてや一人というのは最近はめったになかった。
(綾波、なんだか元気なさそうだったけど)
どうかしたのかな。シンジは胸の奥でざわめくものを自覚しながら。
「ちょっと淋しいな、やっぱり…」
ごぽん。
空気が漏れる音を聞いた。すぐ側でだ。その空気は、自分の口が漏らした呼吸だった。彼女はLCLが満たされている人間一人がすっぽり入る程度のシリンダーのような容れ物に、力を抜いてたゆたっていた。圧縮濃度を変えてあるので、そうすると勝手に浮くことができた。
暗い、暗い部屋である。シリンダーは上部に背骨にそっくりのパイプがまっすぐ天井に伸び、それを追っていくと、天井部に取りつけられた脳のように複雑に絡み合ったパイプが伸びているものだとわかる。そんな「不気味な代物」にいつも通りの様子で入っているレイであった。
そして、それを見つめるオレンジ色のサングラスをした大男が、碇ゲンドウであった。ここはターミナル・ドグマ。ネルフ組織内でもここに入れる人間はごく少数であり、パイロットの権限で入れる領域ではない。しかし、綾波レイはそこにいた。
ターミナル・ドグマでの「定期検査」は必要不可欠であった。そうしなくてはならない。綾波レイが綾波レイである以上、それは仕方のないことだった。
そして、現在進められているダミー・システム――エヴァを無人で操作するシステム――のために必要なパーソナルデータの更新を済ませると、レイはシリンダーから出て、ゆっくり熱いシャワーを浴びていた。一度は洗い落としたLCLの臭いをもう一度きれいに落とすために。
備え付けのシャンプーのポンプを押した。これからいつものように碇ゲンドウと食事をするから、あまりのんびりしているわけにはいかない。かと言って適当に済ませられるわけでもないので、レイは普段通りのペースでシャワーを浴びる。
(碇司令…)
彼女は、なぜ、と自分に問いかけた。
どうして。
絶対的存在。彼女にとっての神に等しい。
それなのに、今は……そうは、思えない。
(碇くん)
なぜ、己に問いかけた。
碇くん、どうして?
彼女にとって、異質な存在。
気がつけば、彼を目で追っている自分がいる。
どうして今は、司令のことを考えても心が軽くならないのか。
どうして今は、彼のことを考えると心が温かくなるのか。
今までの自分なら、あの人と食事をすることは「嬉しい」ことだったのに。
どうして、碇くんと一緒に帰れないからといって、胸が痛くなるのだろう。
「わたし……」
彼女の頭に反芻される上司の言葉。
「シンジ君とのコンビも板についてきてるし…」
弐号機パイロット。七番目の使徒との戦いの後、一人で戦うことを止めた。碇くんと少しずつシンクロしてきている動き。
「嫌」
泡だらけの手を握りしめた。吹きつける湯がうっとうしくて背を向けた。
「嫌」
胸の奥からぐるぐると湧き上がってくる重い感情。
(なに?)
重いものが、胃の中からせり上がってくる。
「わたし……」
握りしめた手をゆるめると、小刻みに震えているのを知った。寒くもないのに。
(怖い?)
背中から感じる寒気、重苦しい胃、震える手。弐号機パイロットと一緒にいる碇くん。なぜか、遠く感じる。近くにいるのに、自分の側にいない感じ。
「碇くん」
気づいてほしかった。自分がそう思ってること。
口はおろか、態度にも出してないのに。
わがままを言っている。わかっていた。
それでも、気づいてほしかった。
「本当なら、一緒に……」
シャワーの音にかき消されて、その言葉は消滅していった。
「ただいまー」
六時ちょうどに再び聞こえたアスカの声にシンジは小さな笑みを漏らした。ほんとにこういう時は時間に正確なんだ、と感心しつつ、炊飯器のボタンを押す。
「あー暑い暑い。毎日こうベタベタすると、イヤんなるわ」
とボヤきつつ部屋に入ってカバンを放り投げ、部屋着を選ぶとさっさと風呂場に向かってしまった。あの暑い盛り、よく遊ぶ気になるな、とシンジは感心しつつ煮干しの頭を取って小さい鍋に入れた。
本屋で立ち読みしたのといつだったかミサトに連れていってもらった中華料理屋で食べただけの曖昧な記憶で、新しい料理に挑戦していた。
まな板に居座る鳥のもも肉を前にうーん、と頭を捻りつつ、とりあえず、と包丁を握った。確か、けっこう薄かったよな…と呟きつつゆっくり包丁を滑らせる。分厚い肉を薄くしていく。いつのまにかすっかり主夫の顔になっていることに本人は気づいていない。
下ごしらえを済ませたころ、ミサトが帰ってきた。
「お帰りなさい」
「おかえりー」
「ただいまあ。あー暑い、ホントにまったくイヤになるわね」
アスカと同じこと言ってる。シンジは少しだけ笑みを浮かべ、白髪ネギを作った。水につけておく。
ミサトがシャワーを出るのに合わせて肉を揚げはじめる。暑くて仕方ないが、まあ料理する人は誰だって暑いんだろうし、と割り切って支度を進めていく。7時になるころにはすべての支度が整った。
「あれ、シンちゃん、はじめてね、こんなの」
テーブルに並べられたメインの料理を見るなり、ミサトが言った。
「ええ、うろ覚えで作ったからあんまり味の保証は出来ないですけど」
ミサトがでは早速、と口に運ぶ。
「うん、おいしいじゃない!」
「そうですか?」
照れ隠しに笑みを浮かべて、シンジも箸を進めていく。
「アンタ、ほんとに主夫ね」
「好きでやってるんじゃないんだけど」
「そう言いながらやっちゃううちはあんたの負けよ」
「そんな……」
「でもこれ、おいしいわね。どこで知ったの?」
「前、ミサトさんと食べに行った中華料理屋で出てきたんだ。それと本をちょっと読んで作ってみたんだけど」
「大したもんね」
という言葉には嘘はない。
食事が終わったころ、ミサトが「あ」と間抜けな声を出した。
「あ、そだ!ちょっと予定変更があったの」
「なんの?実験中止ってことなら喜んであげるわ」
「いや、それが……」
ミサトの持ちだした話はつまり、中止どころか明日も試験をやるというのである。弐号機と初号機の連携をさらに進めておきたい、ということだ。
「えええ!?またやんのお?ただでさえ今週は土日をシンクロテストで潰されちゃってるんでイヤになってんのよ、こっちは!」
「いや、まあ気持ちはわかるけどそこをなんとか。その代わり土曜日は短めに切り上げるって事になってるから」
「そういう問題じゃないわよ!」
シンジは黙って冷蔵庫からお茶をとりだし、二人分をコップに注いで席についた。
「ぼくたちだけですか?綾波は?」
という何気ない質問でさえ今のアスカには逆鱗に触れるのである。
「なによアンタ!向こうの都合で勝手に決められちゃってイヤじゃないの!?」
「そりゃ、気分がいいことじゃないけど……仕方ないかな、と思って」
「バカねえ、ここで意思表示をハッキリさせとかないと後々つけ込まれんのよ」
まあまあ、とミサトがなだめる。
「それと、レイは明日はないの。あくまで近接戦闘を担当する二人のことだから。ま、愛しのレイに会えなくてシンちゃんが残念なのはわかるけどぉ」
「な、なに言ってんですか」
「なーに照れてんのよ。まさか……図星ってんじゃあないでしょうね」
御機嫌斜めのアスカはシンジの些細な反応にも敏感だ。
シンジはいちいち相手にしてらんないよ、と再び箸を進める。白髪ネギのシャリ、という音とともに、かすかにため息をついた。
明日は会えないのか……。
次の日、綾波レイはいつものようにホームルームの合図のチャイムが鳴る五分前に教室に入った。いつもの顔ぶれ。変化なし。彼女は窓際の、前から二番目の席に着いて、カバンを脇のフックにかけた。
チャイムが鳴り、その少し後に教師が入ってくる。彼女はいつもはいるはずのシンジがまだ来ていないことに気づいた。
(碇くん)
どうかしたのか。弐号機パイロットもいないとなると、急遽訓練が入ったのだろうか。そういう連絡は聞いていない。
「綾波、綾波。返事は」
定年間近の教師の声に気づいて、返事をする。クラスメートの数人の視線が彼女に向けられた。珍しいな、綾波レイがぼんやりしてるなんて。そんな反応。
「碇……碇は休みか」
「シンジ、今日訓練のある日だったっけ?」
後ろの方で聞き慣れた声がする。
「いや、昨日あったやないか。二日連続っちゅうのは今までないなあ」
「だよな。惣流もいないし…」
「大方、夫婦ゲンカでもしとるんやろ」
というとその周囲で忍び笑いが広がった。
「ソーセージは二本って言ったでしょ!とか?」
笑いの輪はさらに広がった。
(……)
昨日と同じく、彼女の胃の奥から重たいものが這い上がってくる。好きになれない感覚。
(碇くん……)
今日は会えない。
そう思うと、あまりいい気分にはなれなかった。
(わたし、会いたいの?碇くんに)
(どうして、会いたいの?)
(胸が……)
苦しい。
「そこお!」
昨日とはまた違う設定の使徒と戦う弐号機と初号機はかなりの苦戦を強いられていた。特に変わった動きをするわけではない、第三使徒に近い敵だが、基本的な能力の高さにアスカも舌を巻く思いだ。攻撃に対する反応が昨日より速い。
「くっ!」
突き出された掌を肩で防ぐ。ガードしたつもりが、あまりの衝撃にバランスを崩した。
「ったく!」
まったく追試にこんな難しいのなんて、聞いてないわよ!口の中で叫んだ彼女は初号機を相手にしている使徒をコンマ数秒観察した。弱点は見当たらない。
「こんのお!」
ソニック・グレイヴを袈裟斬りに見舞った。背後からの一撃。仕留められるはずだった。しかし、刃が肉に食い込む直前に使徒がぐるりと振り向くと、仮面のような顔にぽっかり開いた両眼から光線が発射され、グレイヴどころか弐号機の手首を貫き、さらに前蹴りを喰らって背後のビルに叩きつけられた。
「くぅ……!」
やられる!?そう思った瞬間、初号機が使徒を吹っ飛ばした。初号機はライフルを弐号機の手元に捨て、自身は刃のなくなったグレイヴとプログナイフを構えて突進する。
「バカ、もっと慎重に――」
アスカが慌ててパレットライフルを握り、寝転んだまま撃った。両足に命中し、かすかに隙が生まれる。が、光線を放とうと両眼を光らせた。初号機の間合いの外だ。
「シンジ!」
「っ!」
シンジはこの時を待っていた、とばかりにグレイヴの柄を投げつけ、使徒の顔面に突き刺すと、ナイフをコアに突き立てた。
「ナイス、シンジ、下がって!」
立ち上がった弐号機が傍らの兵装ビルからポジトロン・ライフルを取り、連発する。かなり近い距離からの集中砲火にさすがの強敵も耐えられず、爆発した。
「お疲れ様、二人とも。今日はここまでよ。上がっていいわ」
ミサトの声が入り、二人は同時に肩の力を抜いた。
「りょーかい。あぁー疲れた」
「了解」
シンジはアスカの声を聞いて、苦笑混じりに答える。
(今日は、うまくやれたのかな…)
昨日と同じく管制室に上がった二人をミサトが迎えた。今日はリツコも立ち去ることなく隣にいる。
(そっか、昨日は綾波の検査とかのためにいなかったのかな)
納得し、ミサトの話に耳を傾けた。
「シンジ君、今日は昨日に比べてうまく判断できていたわ。その調子で頑張って」
「はい」
「アスカも、シンジ君の動きに合わせて援護をしていたのは上出来よ。バランサーとしての動きの質の高さ、見せてもらったわ。レイもいないし、そういう慎重さを出していけたのが大変よろしい。んじゃ、今日はこれまで」
「あれ、早いわね」
アスカが皮肉混じりに言った。彼女はこの急に決められた訓練にまだ不満があるらしい。
「訓練中に注意したことを忘れないでいてくれれば、今日は文句なしの出来だったわ。だからよ」
「そお?ならいいわ」
アスカは鼻を鳴らし、振り返った。
「いくわよ、シンジ」
「う、うん……」
次の日。
金曜日は学生にとって一週間で最も授業を長く感じる日でもあり、また「明日は休みだ」という希望に繋がる日でもある。
しかし疲労は溜まっているから、眠たげな顔をする生徒も多い。シンジも退屈な理科の授業を聞き流しながら窓の景色を眺めたり、うつらうつらしていた。
「……じゃあ、今日はこんなところだな。あ、そうだ。今朝ある程度受け取ったが、出してない者は今日中に昨日配った出欠表を出しておけよ」
委員長が号令をかけ、4時間目の授業が終了した。
「さあーて、メシや!」
のびをしつつ大声で空腹を主張するトウジの隣に座り、シンジは訊ねた。
「トウジ、さっきの先生が言ってた「出欠表」って?」
「ああ、そや、忘れとった!」
あちゃあ、という顔をしてトウジが慌ててカバンから手紙を二枚取り出した。
「昨日配られたんや。これ、惣流とお前の分。届けるつもりがすっかり忘れてしもた」
「なに?理科の先生が出欠表ってあんまりないと思うけど…」
手紙の内容は、明後日の夜行われる予定の特別授業の出欠表だった。使徒襲来のために潰れてしまった家庭科と理科の授業を兼ねていて、夕食を作った後に星の観察をするというもので、早い話が授業の名を使ったイベントである。
「あー、そう言えばそんな話あったね」
「そう、それの出欠。まあ用事のないヤツは行かなあかんみたいやで。欠席の場合はちゃんと理由を保護者が書くようなっとるし」
「そうだろうね。トウジたちは?」
「ヒマやし、参加せんと別の日に一人で観察してレポート書くはめになるしな。それに面白そうやないか、そういうの」
「そうだね。アスカ」
教室の端で委員長と話しているアスカに手紙を見せると、丁度その話をしていたのか、早足で近寄ってきて受け取った。
「ったく、こういうのは忘れていいもんじゃないでしょーが!」
「う、うるさいわい!」
素早くかみつくアスカに負けじとトウジも立ち上がり切り返す。しかしどう考えてもトウジが悪い。本人も勿論それをわかっているから今一つ覇気がないのがシンジにはおかしかった。
「この日はなにもなかったよね、確か……アレ?」
おかしい、なにかあったような気もする。
「……あるのよ」
用紙を持って震えるアスカ。
「でも、日曜日は休みじゃ」
「あたしだけあんのよ」
「え」
「シンクロテスト。六時から……」
「あ、そ、そうなんだ……」
「なんで、なんで今週に限ってこんなことに……」
ぐぐ、と拳に力が入るのをシンジ、トウジは見た。ぐしゃり、と手紙が潰れる。
((ヤバい))
無言で震えるアスカは、数秒後に噴火というのが経験に基づいた予測である。物にあたるだけでなく、自分だけ休み=他の人は参加できる、という図式が成り立つ今回のような場合、誰かに当たる可能性は高い。誰かとはもちろん、同居人であり同じパイロットであり、そのくせ日曜が休みの少年のことだ。
「ま、まあ授業が休めると思えば……」
身の安全を考えて、なんとかなだめようと声を書けてみる。
「うるさいバカシンジ!!」
どげし、と一蹴されるシンジ。
「ああーもう、なんでこんなことになんのよ、まったく!」
ただでさえ訓練つづきでストレスのたまっている彼女の怒りはとうとう許容量をオーバーしたらしく、イスを蹴っ飛ばしながら戻っていった。
「シンジ……改めて思うけど、難儀やな、あんなんと同居しとるっちゅうのは」
「……まあ、疲れるには疲れるね」
「でも、そない程度か。せや、シンジはどうなんや。出られるんやろ?」
「うん」
「そか、せやけど違う班やからなあ。ケンスケが羨ましいわ」
肩を落とすトウジにシンジは苦笑して、
「ケンスケはどうなんだろ?今日、いないけど」
「ああ、今朝たまたま来る途中会うてな、手紙渡されたわ。あいつも出席や」
「そうなんだ。じゃあ僕、書いて出してくるよ」
「ほな、待っとるわ」
素早く出席をマルで囲み、職員室に向かった。
階段を下りると、見慣れた後ろ姿を見つけた。晴れた空の色の髪の少女。手には、今シンジが持っているのと同じ紙を持っている。
「綾波」
呼びかけると、レイは振り返った。少しだけ、目を細めるような表情を作った。それがどういう意味なのか、シンジにはわからない。
「綾波もコレ、提出しに?」
「ええ」
「綾波はどうするの?」
「出るわ」
期待していた答えが返ってきて、思わず笑みがこぼれた。
「碇くんも?」
「うん。こういうイベントっていうか…僕たちは大掛かりになると参加できないから、こういうのがあるといいよね」
それは素直な感想だった。修学旅行のときは無理だろうと予想していたが、期待していたわけではない。
「よく、わからないわ」
「嬉しくないの?」
その問いに答えは返ってこなかった。職員室に辿り着いてしまったからだ。シンジはノックをしてドアをくぐった。
「失礼します」
「……失礼します」
理科の先生を探し、手紙を渡す。
「お、綾波も出るのか?」
「はい」
「ふうん……」
教師は探るような視線をレイに送る。三十代半ばのこの男は、時折レイやアスカにそういう視線を送ることがあるのをシンジは知っていた。それが性的なものなのかそうでないのかを伺い知る術はないが、およそ気分のいいものではない。
しかしレイはそんな教師の様子を知っているのか知らないのか、いつもの表情を全く崩すことはない。
「珍しいなあ、ん?一年の時は休んでいたじゃないか」
にやり、と男は笑った。秀才さを覗かせるような笑みはシンジを不愉快にさせるには十分といえた。
「行こう、綾波」
思わず手を取っていた。
(なんだ?まるでバカにするみたいに)
職員室のドアをぴしゃりと閉めて、それが強すぎたせいか、レイが怪訝そうな表情を向けた。
「……碇くん?」
「え?あ……ご、ごめん!」
声をかけられ、レイの手を握っていたことをようやく自覚した。それを咎められているのだと思ったシンジは、慌てて手を離す。
「その、ごめん」
今度は黙ってしまったレイがどう思っているのか皆目見当がつかずに思わず謝った。
「どうして、謝るの」
「どうして、って……その、手、握ったりなんかして」
「別に、痛くはなかったわ」
「いや、そうだろうけど、その……」
そういうことじゃなくて、と言いかけて、やめた。これ以上は無意味なやり取りになるだろうことは簡単に予想できた。
戻る場所は同じだが、それまでの距離をいやに長く感じた。レイといるときに感じる気まずさ。言葉を探すのに必死になるけど、それがすべて空回りするような気がして、結局は沈黙ばかりが自己主張する。
教室に戻ると、「それじゃ」と一言かけることもなくトウジのところに戻った。
「なんや、綾波と一緒やったんか」
「うん、綾波も来るってさ」
「へえ、珍しいなあ。確か一年の時に似たようなんあったけど、欠席やったで」
「先生もそう言ってた」
「せやろ?まあ、なんぞネルフがらみのことがあったんかもしれんけど」
さあて、と言うとトウジはコロッケパンの袋を開けた。シンジが席を空けていたのはほんの五分足らずがよっぽど待ち遠しかったのだろう。嬉々とした顔でかぶりついた。
昼食が済み、一休みするともう五時間目が近づいていた。
「あれ、午後ってなんだっけ」
「家庭科。どんなカレー作るか決めるんやて。んで、そのまま材料買いに行くっちゅう話やったな、たしか」
「あ、そうだ。そっか……」
「まあ、どんなもナニもないけどな。違うことなんて、精々肉の種類くらいなもんや」
「んー……まあね」
家庭科の調理実習ははじめてだが、出席番号で区切っているはずだ。確か四人一組。ということは――
(綾波と一緒なのか)
「なんや、凝ったモン作る気か、センセは。ヤラしいのお、こんなとこで差ァつけようなんて」
「そんなんじゃないよ」
自分は食べるのが仕事で作るのは任せる、と言いそうなトウジは恨めしそうな声で文句を言いつつ、牛乳を飲み干した。
「ほな、そろそろ行こか」
「うん」
と返事をしつつ、シンジの思考は別のことに意識がいっていた。
(うーん、和風カレー、となると他の人が反対しそうだし、僕だってそんな好きじゃないし……)
(魚なら、大丈夫なのかな……)
チラリと窓際の席に目をやると、レイは教科書とペンケースを持って立ち上がったところだった。
(知ってるのに放っておくのもね……)
作ったことはないけど、やってみよう、と心に決め、トウジの後をついていった。
「それじゃあ、まず最初にどんなカレーを作るか予定を立てて、それができ次第各班買い物に行って、予算内で材料を揃えてきてください。三時までに買い出しを終えて帰ってくること。いいわね?」
はい、と不揃いの返事があって、各班がどうするかを言い合いはじめた。とは言えまじめに話しあっている班はないに等しく、「カニを入れよう」だの「ネコの肉を使おう」だのと冗談を言い合っている。
シンジの班も似たようなもので、隣の班と混じっておしゃべりに興じていた。とは言えレイはまったく喋らず、シンジもあまり喋ることはなかった。頭の中で必要な材料や手順を考えていたのだ。
五時間目が半分終わると、まじめにやる班が出てきた。なんとなく全体的に「そろそろやりますか」という雰囲気になると、シンジが「あのさ」と切り出した。ケンスケがいないために班にはシンジとレイを含めて三人しかいない。
「なに、碇君?」
班長の女の子が相槌を打つ。
「シーフードカレーを作る、っていうのどうかな」
「ええ?」
「綾波、魚介類なら食べられる?」
突然訊かれて虚を突かれたのか、少し驚いた顔を見せた。そんな表情をはじめてみた班長の女の子は半ばぎょっとする。
「どう?」
「……ええ、大丈夫」
「よかった。上野さん、綾波は肉が食べられないから、いいかな」
「え、ええ、いいわよ、全然」
(これでムリって言われたらさすがに困るとこだったけど)
「それならイカ、ホタテ、エビを買って、あとは野菜なんだけど」
「シーフードカレーって、そう言えば野菜って入ってるのかしら。ほとんど食べたことないからわからないけど……」
「そこなんだけど……確か、タマネギだけだったと思うよ。あとはショウガ、ニンニクを先に炒めて、小麦粉とカレー粉を入れて……」
「あ、プリントに書かなきゃ」
渡されたプリントには手順や必要な材料などを書く欄が設けられている。それを見せてようやく買い物に行けるという寸法だ。
「魚介類は固くなっちゃうから別に炒めて、カレーに投入するやり方だったと思うんだ。だからカレーソースを作ってから魚介類をバターで炒めて……」
とシンジが説明し、他の二人はプリントに書き込んでいく。
「不合格だったら、先生に聞けばいいと思うけど」
「そうね、とりあえず出してみましょう」
プリントを提出すると、二度三度と頷いて、「これでいいわ」と言ってもらえた。
「やったぁ!」
「手順までよく知ってたわね。これ、上野さんのアイディア?」
「いえ、碇君です」
「すごいわね、中々ここまでちゃんとは書けないわよ」
「ありがとうございます」
「じゃあ、三人は買い物に行ってきていいわ」
(よかった、この間立ち読みした本に乗ってて…)
夕食に作った鳥肉の料理を確かめるために読んだ本に載っていたので、なんとなく作り方を眺めていたのがこんなところで役に立つとは思っていなかったので、思わず苦笑いを浮かべた。
その晩。
レイは夕方に家に帰ってシャワーを浴びてベッドに寝転がると、寝返りを打つ以外にはそこから動かなかった。辺りがいよいよ暗くなっても、ため息と思考を繰り返す。
(碇くん)
彼女がため息をつく理由は、ここ数日は同じ内容だ。
「綾波、魚介類なら食べられる?」
いつだったか肉が嫌いだと言ったのを憶えていてくれたのだろう。別にカレーくらい煮込んであればそれほど気にならずに食べられるが(それでも大きなサイズのは食べる気になれない)、何故か言わなかった。普通に作るよりも面倒だろうことはわかっていたのに。
(どうして?)
あの時、断らなかったのだろう。
(気づかってくれた?)
それを思うと、胸がスッとなるような、それでいてなにか強くしめつけられるような感情が湧き上がってくるのを感じる。昨日や一昨日体験した重苦しさとはまったく別種のもの。
レイはようやく立ち上がって、割れたメガネの隣に置いてある薄いノートを手に取った。文房具屋の日記帳コーナーにあった、乳白色の表紙に金色で「Diary」とだけ書かれてあるシンプルな日記帳。まだほとんど埋まっていない。
それを胸に抱いて、もう一度呟いた。「碇くん」
(うれしい……?わたし、嬉しいの……?)
土曜日。毎週土曜は夕方からシンクロテストだ。ここ最近シンクロ率が右肩上がりのシンジは密かに楽しみにしていた。今日はどうだろう、と少し考えたが、再び意識を集中させるため目を閉じた。
「今日の調子はどう?」
ミサトがリツコに訊ねる。
「……」
リツコは頷き、満足げな顔で振り返ると、
「上々ね。特にシンジ君はアスカとシンクロ率の差が3.2%まで縮まったわ」
「へえ、どれどれ」
プラグ深度を限界まで下げた時点での値がモニターに表示されている。そこにはいつものように2、1、0の順でメーターが伸びていたが、確かに1と2の差がなくなりつつあった。
「あれ、レイもちょい高くない?」
「そうね、それがちょっと気になるわね」
なにかあったのかしら?と首をかしげるリツコに同調し、ミサトも首をひねる。
「いきなりよね」
「そうね。レイのシンクロ率は安定感は抜群だから下がることはほとんどないけど、代わりに上昇することも最近はほとんどないから、いきなり4%も上がるのは、なにかあったと見るべきでしょうね」
「でも別に、なにか変わった様子があるわけでもないし」
「まあ、上がってくれるなら構わないわ、別に。あまり気にしても仕方のないことだし」
「まあね……いいわよ三人とも。上がってちょうだい」
いつもの手順でエヴァとのシンクロをカットすると、管制室に移っていたパイロットのモニターも消えた。
「……」
シンジはサブウインドウを開き、零号機の様子を窺ってみる。レイは目を閉じて上を向き、ゆっくりと気泡を吐きだしていた。
「おつかれさま」
シャワーを浴びて現れた三人をいつものようにミサトがねぎらう。もっとも、これ以上はあまり喋ることはない。この仕事の総責任者はあくまでリツコだからだ。
「おつかれさま。さて……今日は三人とも調子がよかったわ。特にシンジ君、自己記録更新ね。シンクロ率が81.1%まで伸びたわ」
「はい、ありがとうございます」
手ごたえはあった。それが確かな結果になって返ってきたことに喜ぶシンジの顔が、アスカの表情を曇らせる。なにか言えば負けると思っているのか、努めて表情を変えまいとしているが、それが逆に心情を吐露しているとは気づいていない。
「アスカも相変わらずの高い数値ね。84.3%」
「そんなの、当然の数値よ。今度はもっとやってみせるわ」
不敵に笑ってみせるアスカに一瞬目をやり、リツコはレイの方を振り向いた。
「それとレイ、今日はずいぶんシンクロ率が上がったわ。70.2%。70台ははじめてね。その調子で頑張ってちょうだい」
「はい」
リツコは喋りながらレイに強い視線を送る。なにかあったのか、探るような目線に気づいたミサトが微かに表情を曇らせた。声は明るいが、目の奥の感情は決して軽いものではなかった。
(上昇の原因は、シンジ君かしら……?)
誰よりも確かに綾波レイを見続けたリツコにはとうに察しがついていた。誰よりも彼女を見ているはずの碇ゲンドウはその実、彼女を通して別のものを見ていた。だから、気づかない。支配という名の絶対的な自信のせいなのか。碇ゲンドウがレイに対した抱く自信(信頼とはちがうと、リツコは判断している)ゆえに、赤木リツコは綾波レイを見つめることが多い。なぜこの子が、という感情があるからだ。ゆえに、赤木リツコは知っている。綾波レイの変化に、ゲンドウよりも早く。
「今日はこれで終わりよ。おつかれさま」
まあ、いい。不愉快だが、今はいい。リツコは胸の中で一人ごちた。
碇ゲンドウが気づき、焦るまでは黙っていればいい。
その方が、いい気味だ。
「先に帰るわ」
「え?」
「じゃ」
イスに座って待っていたシンジは矢継ぎ早にそう言われて、半ば呆然とアスカの後ろ姿を見送った。いやに抑揚された声。アスカが「本気」の時に放つ声であることを経験上知っていた。そして、なぜ怒っているのかの見当もつく。アスカがエヴァに賭けている情熱が並々ならないものだということも知っているからだ。
「でも……」
そんなこと言われたって、僕にどうしろって言うんだよ?小さくこぼした。ただ意識を集中させていたら、手ごたえを感じた。結果、シンクロ率は上がっていた。それだけのことだ。アスカが怒る理由はわかるが、シンジ自身が納得できるわけではない。
シュン、とさっきと同じドアが開く。下を向いて考え込んでいたシンジはその微かな音に気づかず、いきなり目の前にレイの白い足が見えた。
「……碇くん?」
「え、あ、ごめん。考えごとしてて」
慌てて立ち上がると、レイはその様子を見て、歩き出す。シンジもその歩調に合わせながら歩き出した。
ゲートをくぐり、地上に出た。六時を少し回っている。歩いて数分のところにあるバス停に向かう。アスカの姿はなかった。電車で帰ったのだろうか。
アスカとレイ、三人で帰るときには電車に乗った。三つ目の駅がシンジとアスカの最寄り駅で、レイはその次で降りる。
ただ、電車だとレイの歩く時間が長くなるのをシンジは知っていた。だからレイと二人で帰るときは――それは稀だが――バスで帰るようにしている。それならレイも降りればすぐアパートに戻ることができるからだ。
バスには相変わらず客はごく少なく、前の方に三人座っているだけだった。シンジとレイはそれぞれネルフのカードを差し込んで料金を払い、後ろの二人がけの席に座った。
(いつものことだけど、落ち着かないんだよな……)
窓から見える風景を眺めることで気をそらせた。どうしても当たってしまう足とニノウデの感触がいやに生々しく感じられる。それは、いつだったか誤って裸のレイを押し倒してしまったときのことを思い出させた。横目でレイを見ると、もろに視線が合ってしまった。
「あ…な、なに?」
「なんでも、ない」
少しだけ戸惑いながらレイは目を逸らせる。少しだけ照れているような顔は、今までに一度、見たことがあるかないかだった。
同時に、あの時はこんな顔をしていなかったような気がした。いくらレイでも裸で押し倒されて冷静でいられるだろうか。いや、実際冷静というか、無関心そのものだったのだが。ではなぜ今、照れるような素振りを見せるのか。
さっきの表情が「照れ」であることは感じ取れた。他人が恐いシンジだからこそかもしれない。微細な声と表情の変化にもそういうものに一番強く反応してしまうからわかったのかもしれない。
(なんだろう……)
前とは、変わったのかな。
(それとも、僕がそうあって欲しいと思っているだけか。って言っても、こういう状況、照れるのもヘンな話じゃないはずなんだよな、本当は)
でも綾波に限って、そんなことないか。シンジは自分の考えが妥当だと判断し、そして少しがっかりする。
「碇くん」
停留所で止まり、再び動き始めると、レイが口を開いた。
「どうして……あんなこと、言ったの?」
「あんなこと、って?」
「……カレー」
「ああ、アレ?だって、綾波は肉が嫌いだろ?」
「ええ」
「上野さんは知らなかっただろうし……それだけだよ」
「よく、わからない」
「つまり、その……肉が嫌いだってわかってるのに、そういうのを作ろうって提案する気になれなかっただけだよ」
本当に、ただそれだけのことだ。
「別に、特別なことじゃないだろ?きっとトウジが肉を嫌いだったら、同じこと言ってただろうし」
こんなことは言わなくてよかった。しまった、と思うシンジ。
「……そう」
レイが顔を落とした。なにかを考えているのだろうか。シンジは戸惑いながらつづける。
「綾波にも、おいしいって言ってほしいからさ」
(ってなに言ってるんだ、僕は…!)
かなり恥ずかしいことを言っているような気がする。別に嘘偽りの気持ちではないが。
「なにを、言うのよ」
顔を赤くしてそっぽ向くレイの心情が掴めず、この後シンジはただ黙って駅に着くのを待った。泥沼の中で敵が去るのを待つ武士のように、ただひたすら。レイもそれ以上はなにも言わず、俯いたままだった。
降りる駅が近づいて、ボタンを押す。運転手がかすかにこっちに首を向け、すぐに前を向いた。中学生の男女が夜に二人で帰る光景に興味を引かれたのだろうか。シンジは停留所が見えるなり立ち上がった。
「あの、それじゃあ、また……」
通路側のレイが立ち上がり、シンジに道を譲る。それだけでも十分申し訳ない気持ちになってしまい、シンジは歩き出した。なにかそれ以上を言う勇気は見つからなかった。
「また、明日……」
後ろの方で静かな声が聞こえた。急いで振り向いて、
「あ……また、明日」
バスが止まった。
翌日、午後五時。
「それじゃ、行ってくるよ」
この日に限って私服で登校することを許されていた。さすがにサンダルで学校に行くのはためらいがあったから、きちんとスニーカーを履いた。
「行ってらっしゃい」
アスカはぶすっとした顔で見送ってくれた。じきに彼女も出なくてはならないだろう。学校ではなく、ネルフに。
(さすがにかわいそうになってくるよな……)
こういうイベントにまで「ネルフがらみで」出られないとなるとさすがのシンジでも苛立つだろう。ましてやアスカだから、その苛立ちたるや尋常ではない。
「それじゃ」
シンジはそれ以上刺激しないよう、そそくさと家を出ていった。
学校が近づくにつれて、段々と楽しみになってくる。それはシンジも例外ではなく、たまたま校門で出くわしたクラスメートも笑顔が浮かんでいた。
家庭科室に入ると、すでに半分近くが来ていた。何人かは部活が終わってそのまま学校に残っていたらしい。
「綾波は、まだ来てないのか」
斜向かいの席に座る空色の髪の少女の姿は、まだ見えなかった。
これで何度目になるのだろう、ため息は。綾波レイは何度目になるかわからないため息をつき、葛藤と戦っていた。
公園のブランコに座って、もうどれくらいになるだろう。携帯電話の時計を見ると、時刻は五時半になったところだった。もう学校にいなくてはならない時間だ。
(でも)
二十分前にかかってきた電話。着信履歴をなんとなく見てみる。一番上にある「碇ゲンドウ」の文字。
「食事にしよう、レイ。迎えをよこす。今、どこにいる?家か?」
もうじきネルフの車がやって来るだろうことは予想できた。食事は六時ごろはじまることが多いから。ここからよく行くレストランまで車で五分ほどだ。しかし五分前には到着するように取り計らうだろうから、もうあと十五分以内にやってくる。
(わたし……)
ゲンドウからの、誘いを断ったことは一度もなかった。本当に、たったの一度も。どんなことでもやってきたし、いつだって首を縦に振ってきた。
でも、今度もそうすると――
(碇くん)
裏切ることになる。彼と、彼の優しさを。
(嫌)
しかし、ゲンドウが「食事にしよう」と言っている。それを断ることなどしたことがない。していいはずがない。自分の存在は、あの人に許されているからあるようなものだから。
(でも……)
碇くん。
碇くん。
碇くんが……。
結論が出ないまま、五分がすぎた。そしてまた、ため息をつく。
「……なにやってんの?優等生」
後ろから、耳慣れた声がした。考え込んでいた彼女は驚いて振り返ると、
「ビックリした。あんたが戦闘以外で驚くとこなんて、はじめて見たわ。そういえば」
「弐号機……パイロット」
「ところでまた訊くけど、アンタ、なにやってんの?」
「……」
「確か、アンタは今日の特別授業参加するんでしょうが。なにも予定ないし」
「……」
「違うの?」
「……碇、司令が」
アスカが思ってもないような単語が飛び出してきた。いきなり碇司令とは、どういう話よまったく……。予想外というか、想像以上の次元の話だ。
「食事をしよう、って電話があったの」
「それで、待ってるってワケ?」
アスカの視線が鋭くなった。まるでレイを射貫くかのように。
「アンタ、ほんとに司令のお気に入りね」
「……」
「んで?学校には行かないの」
「……」
いやに歯切れが悪い。さっさと頷きそうなものだが、様子がどう見てもおかしい。そもそも声をかけられて驚くこと自体、レイらしくないのだから。
アスカはレイの正面に移動して、柵に寄りかかった。
「シンジが、アンタのために肉を入れないカレーを作るって言ってたけど」
女の勘――と言ってしまうと極端だが、直感で言ってみた。
すると、レイはぴくりと反応して、俯き、押し黙ってしまった。
(なによまったく……意外にわかりやすいっつーか、なんつーか)
要するに迷っているワケ、この子は。
……でも、碇司令の約束破るなんて、しそうにないけど。
でも、ここと学校はすぐ近くだし。
要するに、天秤グラグラなわけね。
「アンタはじゃあ、どうしたいのよ」
「命令には、従うわ。今まで、どんなことだってしてきた」
「じゃあ、シンジは?シンジと食事するのは、どうでもいいわけ」
そうだとしたら、どうしてくれよう。アスカは内心そんなことを考えながら問う。と同時に、こんな普通に話したことがないのに、今日はどうしてだろうと思った。いやにスムーズに話ができている自分が不思議で仕方がない。
「……碇くん」
レイは視線を左右に何度か動かし、さらに肩を落とす。
(わたしは……)
「……行きたい」
「なら行きなさいよ」
まったく、なにを悩んでるのよこの子は。シンジと同じで、意外にはっきりしない性格なのね……。
「でも、司令が」
「司令のとこには「行かなきゃいけない」けど、シンジは「行きたい」んでしょ?自分で言ってるじゃない。どっちにしろ用事はご飯食べるってことよ。誰と食べるかってことよ。誰と食べたいか、ってことでしょうが。誰と食べなくちゃいけないなんて、馬鹿馬鹿しいわ。アメリカのビジネスマンじゃあるまいし」
「でも」
「あー、うっさいわねえ、あんたなんでそんなとこはシンジみたいなのよ!」
レイの手を強引に引っ張って、引き寄せた。前髪が触れ合うほど近づくと、
「いい?このアタシが助け船出すなんてほとんどないんだからね。人の好意、ムダにすんじゃないわよ」
「……」
「ホラ、なにしてんのよ!もう始まっちゃってるわよ!」
(わたし――)
「……ごめんなさい」
(碇くん……)
行きたい。
会いたい。
「謝んないでよ。ホラ、さっさと行きなさいって」
頷いたレイは、走って公園を出ていった。見えなくなる瞬間、携帯電話を取りだす姿が見えた。きっとゲンドウに断りの連絡を入れるためだろう。
「ったく…」
家を出てみれば、こんなことになるとはね――アスカは苦笑いをこぼし、それから一人でくすくすと笑った。
あのファーストがあんなに狼狽する姿見たの、あたしがはじめてかもね。
「ったく、これじゃドラマみたいじゃない」
あたしはふっ切れた大人の女役か。
決して、主人公には振り向かれないヒロインのライバル。
「ま、ベツに相手がシンジだから、いいんだけどさ」
少し、強がってみた。
五時五十分。授業開始から三十分たってもレイは姿を見せなかった。
「綾波さん、どうかしたのかな」
タマネギを茶色になるまで炒めている同じ班の女子が不思議そうな声で言った。欠席はいくらでもあったが、一度出ると言ったのに欠席というのは意外なのだろう。実際、シンジも同じだ。
(また明日、って言ってたのに)
何度目かのため息をついて、魚介類の下ごしらえを済ませる。
「それじゃあ、小麦粉を――」
と、教室の扉が開いた。
――綾波。
「あら、綾波さん。今日はどうしたの?」
優しいので評判の家庭科の教師が心配そうな顔で近づいてきたが、レイは一言「すみません」と言っただけで、言葉を切った。肩で息をしているのが奥にいるシンジにもわかった。
「まあ、いいわ。手を洗って、ちゃんとやってくれれば。忘れ物はないわね?」
「はい」
レイは呼吸を整えながらシンジたちの方へ近づいてきた。ケンスケがようやくレイに気づき、あれ、と間の抜けた声を出した。
「綾波、来たんだ」
「ごめんなさい」
表情をひどく歪めて、うな垂れるように頭を下げた。
「い、いいよそんな」
(結局、来たんだし)
「じゃあ来て早速だけど綾波、手を洗ったらお米を研いでくれる?」
「ええ」
ホッとしたように肩の力を抜いたレイは、申し訳なさそうに――しかし、確かに柔らかい表情で、作業に取りかかった。
シーフードカレーは大成功だった。シンジは満足げに後片づけをはじめた。ケンスケも皿を流しに持っていく時、「サンキュー、うまかったぜ」と言ってくれた。
レイも立ち上がって、後片づけをはじめる。
シンジにとって意外だったのは、レイが料理がそれなりにできたということだ。レイのアパートに行ったときはほとんど台所が使われた様子がなかったから、てっきりできないものだと思っていたが、包丁の使い方など他の女子よりよっぽどちゃんとしていた。
聞いてみると、リツコに教わったという答えが返ってきた。色々と仕込まれたらしい。一人だと食材を余らせてしまうからどんどんやらなくなっていたとも言っていたが。
「そうだったんだ」
頷きながら皿を洗う。レイはきれいになくなったカレーの鍋を持ってきた。
「ありがとう」
鍋にお湯を入れる。それからまた皿を洗うと、レイの白い指がとんとん、とシンジの腕に優しく触れた。
「なに?」
「……言い忘れてたから」
「ええーと……なにを?」
と首をかしげると、レイは、いつだったか見せた笑みを浮かべて、
「…ごちそうさま」
「うん……どういたしまして」
シンジも笑った。
「それじゃあ星の観察です。場所は特に指定しませんが、配った紙にきちんと星を書いていったください。では、九時半に屋上に戻ってきてください」
と教師が言うと、それぞれ仲のいいグループができていって、散り散りになっていった。ほとんどがおしゃべりに費やされるだろうことは教師も承知なのか、さっさと職員室に戻っていった。このイベントは元から半分遊びなのだ。
「ほなシンジ、わしらコンビニ寄ってなんか買うてくるわ」
「まだ食べるの?」
「うるさい、ええやないか別に」
「いや、いいけどさ…」
「三十分くらいしたら戻るから、よさそうな場所取っといてや」
勝手だなあ、とは思ったが、頷いて別れた。大方甘いものでも買ってくるのだろう。トウジはけっこう甘党なのだ。
「さて、と」
いい場所ったってねえ……。すでに教室に入ってしまっている女子や、校庭に出ている人もいた。四十人に満たないクラスに校舎全体はあまりに広く、どこもかしこも「よさそうな場所」に思える。屋上にはなぜか一人もいなくなっていた。
屋上を一周してみた。柵にもたれかかる人も、座っている人もいない。
(あれ…?)
屋上の隅に設けられた大きなプランターがいくつもある「プチ植物園」の用具室の壁によりかかって、座っている人影を見た。暗くてよく見えないが、おそらく…
「綾波」
声をかけられ、ゆっくり振り向く。やっぱり、と口の中で呟き、隣に座った。いつもなら躊躇しただろうが、今はなぜかすんなりそういうことができた。
「あ、もう書けたの?」
まだはじまって二十分とたっていないが、レイの膝の上には星が書き込まれたプリントがあった。
「すごいね、ちゃんとわかるんだ」
夏の大三角形などがていねいに描かれている。
「星、か…そういえば、九番目の使徒を倒したときに見た星は、すごかったよね」
街中の電気が消えて、その代わりいつも以上に星が見えた。
「何万年も昔に輝いた光がこうして到達しているなんて、なんだか、途方もない話だけど」
ピンと来ないんだ、とつけ加えた。
「でも爆発して、無くなってしまうんだから……星だって無くなっちゃうんだから、僕たちがいくらエヴァに乗って使徒と戦っても、星とか、そういう宇宙全体から見たらちっぽけな争いなのかな」
サードインパクトで地球がなくなったって、単に一つの惑星が消えたにすぎない。シンジは自分の言ったことがあまりに真実味がありすぎて、ぞっとする。自分がいつもよりずっと小さく感じた。
「……でも、輝けるから、いいわ」
「え?」
「星は、輝ける。自分にしかない輝きを、放つことができるもの」
「……そうだね」
「でも、わたしは違う。わたしが死んでも替わりはいくらでもいる」
「そんな、そんなことないよ!」
「……いいの、本当の事だから。だから、死んでも、消えてもかまわない」
「そんな…」
なに言ってるんだよ、と言おうとしたが、レイの言葉にさえぎられた。
「でも」
(そう、わたしはいなくなってもいい。でも……)
「碇くんがいなくなるのは……嫌」
「わからないの。こんな気持ち、はじめてだから、よく、わからない。けど……」
碇くんには、いなくなってほしくない。
「綾波……」
「僕は、なんて言ったらいいのか、よくわからないけど」
そんなこと言われたの、はじめてだから。でも……。
「これだけは、言える。確かに言えるよ」
シンジはゆっくり自分の左手をレイの右手に重ねた。
なぜそんなことをしたのかも、よくわからない。ただ、そうしなければならないような気がした。
レイの手に緊張が伝わるのがわかる。しかし、すぐに緊張は解けて、指がゆっくりと絡み合った。
「僕はこうして、綾波といられて、すごく嬉しいよ」
「うん………わたしも」
後悔はない。
碇シンジを選んだことに、後悔は微塵もなかった。
だって、嬉しい。
一緒に星を眺めることができて。
自分の手を、しっかり握ってくれていることが。
(満月…)
ヤシマ作戦の時と同じ。
でも、あの時とは違う。今度は自分の意志で誓おうと思った。
(わたしが……守るもの)
あとがき
お久しぶりです。ののです。
えーと、最後に投稿したのは9月の終わりでしたっけ。
じゃあ7ヶ月以上投稿できませんでしたか。わはは(笑えない)
いやはや色々ありました。
過去の競作企画ものでシンレイを書くつもりが頓挫、スランプ、他サイトへの投稿がありまして伸ばし伸ばしになってしまいました。すいませんほんと。
さて、どうでしょう?EM復帰第1弾「YOU ARE MY STAR」です。
甘くしよう、と思ったらかなりバランスの悪い話になってしまいました。
以前書いた「Life Work」は「d.i.VIRUS」というサイトの優れた短編に感激して書いたもので、なぜか一話でもらう感想メールは「ヒトと異質なるモノとの狭間で」の最終回よりも多かったという評判のよさだったんですが、今回の短編は「FLY ME TO THE MOON」の管理人shin氏が書いた短編に感激してその勢いで書いたものです。
ただ「Life Work」に比べてどう考えても完成度が低いですね(汗
アレは自分の中でもかなり改心の出来(ただ元ネタありだったんでとても誇れんのですが)でしたが、今回は…うーん。
こんなに長いエヴァSSははじめて(連載は別にして)なので、というのは言い訳か。
とにかく「書きたいものを書いた」SSです。書いててすごい楽しかった(笑
実は本作は連作予定です。
終わってからでないとエラそうなことは言えませんが。
「YOU ARE MY STAR」
「シェスタ」
「Couple Days」
「Diary」
の四つを書きたいと思ってます。
自信はあんまりないけど。
これからも高いモチベーションでやっていきたいと思います。
では。
追伸:感想メールお待ちしてます。すごい待ってます。
再掲載のためのあとがき
ども、ののです。
現在Eternal Momentが消失してしまっているため、 tambさんの好意によりサルベージとなりました。パチパチパチ。
今回のために手直しをちょこちょこしてます。
三点リーダーの使い方とか、行間とか。
日記シリーズ読んでなかった方、こんな調子で第二話「FEVER」につづきます。
気に入ってもらえたら嬉しいです。
では、また。