超絶怒級大発明家リツコさん番外変?

リツコさんの『おもてなし』




消毒液の匂いのするメディカルルームでリツコは手に持った血圧計のポンプをペコペコと握り空気を送り込む。
今時電動ではないレトロチックなこの道具をリツコはとても気に入っており愛用している。
一方、空気で圧迫された右腕を気にするふうも無くレイはちらちら横目で時計の針を覗き見ていた。

「レイ、落ち着きなさい。正確な数値が測れないでしょ」

「・・・・ごめんなさい・・・・」

「謝るほどじゃないけど・・・だいたい血圧は許容範囲内、少し脈拍が速いわね。どこか具合が悪いの?」

「・・・どこも悪く無いの・・・・」

そう言ってレイはふるふると頭を振ってみせる。
最近は表情を見せる様になったが、今日は何時も通りの無表情なのに態度がそわそわと落ち着きが無い。

今日は何かあったかしら?。少し考えてから手元のカルテの日付を見てリツコは納得した。
6月6日、サードチルドレン『碇シンジ』の誕生日。
レイとシンジが付き合い始めたのは周知の事実でリツコとしても二人の関係を歓迎している。
なによりもレイ自身がかなりの詳細を報告(惚気?)を嬉しそうに語ってくれるのだ。

「・・・・で、落ち着きの無いレイちゃんは午後からシンジ君とお出かけする・・っと」

カルテの備考欄に『本日サードチルドレンとデート』と書き込んでチラっと様子を伺う。
図星だった様だ。ほんのり桜色に染まった顔が可愛らしい。
こんなからかいにも反応する様になったのも心が成長した証拠だ。
レイの心を開いてくれたシンジに深く感謝する。
切っ掛けはシンジだがレイを素敵なレディーに仕上げるのは自分の仕事だとリツコは思う。
『まったく、姉冥利につきるわ』
リツコの弁である。


ふいに来客者を継げるインターフォンが鳴る。
外部カメラに写しだされたのは予想通りの人物。

『こんにちわリツコさん、シンジです』

「こんにちわ。どうぞ中に入ってちょうだい」

シュンと自動ドアが開き、白いTシャツと紺のカペンターパンツを着込んだシンジが入ってくる。

「綾波、検査終わった」

「・・・ううん、もう少し」

レイが満開の笑みを浮かべる。お迎えが嬉しかったらしい。
ここで待ち合わせするはずも無く、待ちきれなかったのはシンジも同じであったらしい。

「あっ。その服着てくれたんだ・・」

「うん・・・この服で碇君とお出かけしたかったから・・・・」

今日の服装はレイの誕生日にシンジがプレゼントした淡いブルーのワンピース。
涼しげな色合いがとてもレイに似合っていた。

「オホンッ・・」

二人だけの世界が出来つつあるに耐え切れなくなったリツコがわざとらしく咳払い。
パッとこちらを向いた二人の顔が赤くなっていて、とても微笑ましかった。

「まだ診察中なんだけど。私はすでに眼中外のお邪魔虫かしら」

「いやそんな事は・・・・むしろ邪魔してるのは僕の方で・・・・あの・・・」

赤顔でしどろもどろに言い訳するシンジが可笑しくて。
なるほど、彼は本当にからかい甲斐がある。ミサトの気持ちがよくわかったとリツコは心の中で嘆いた。

「うふふふっ。そう慌てなくていいから。じきにあなたのお姫様を解放してあげるわ」

「え・・う・・・あう」

リツコの『お姫様』発言にシンジは『はい』とも返事できず、訳の分からない音を喉から絞り出すのが精一杯だった。
俯いているレイにいたっては頭から湯気が出ているのではないかと思うほど赤くなっている。
二人をからかうのが病み付きなりそうなリツコであった。





「・・・・どこも異常無し。検査終了、ご苦労様」

「・・・・はい・・」

カルテを机の角に追い遣り一息つく。
シンジの来訪で何時もより時間がかかったのは確かだ。

「それと、シンジ君。誕生日おめでとう。何も用意してないけどね」

「有難う御座います。お祝いの言葉だけでも嬉しいです」

この部屋に来るまでにすれ違った職員からおめでとうと声をかけて貰っている。
彼の人生の中でこれほど自分の誕生を祝って貰った事は無いはずだ。
よくも捻くれずに優しい子に育ったもんだと関心する。

「それでレイ、シンジ君へのプレゼントは決めてるの」

イスのキャスターを滑らせてレイににじり寄る。

「いえ、まだ決めてない・・・これからデパートに出かけて碇君に選んでもらうの・・・」

リツコは肩をすくめて手の平を上に向け、わざとらしくフーと息を吐く。

「レイ。自分では決められないからって、相手に選んで貰うのは長い付き合いになった恋人同士がするものよ」

「・・・そうなの?・・・」

「ええ、そうよ。シンジ君が考えて選んでくれたプレゼントと自分で選ぶプレゼントではどっちが貰って嬉しい?」

「考えてくれた方・・・」

「でしょ。それに・・・・贈る方も贈られる方もワクワクして楽しいでしょ」

コクリとレイがうなずく。
この子もあの環境で素直、別の言い方をすれば天然娘に育ったものだ。
それほどシンジの存在影響は大きいと改めて思う。

「じゃあ、まだ考えてないのね。なら『女の子の大切なモノ』をあげるってのはどうかしら」

リツコが口元にニヤリ笑いを浮かべてシンジを横目で見る。
レイはリツコが言った事の意味を理解すると頬に手を当てて真っ赤になって俯いてしまう。
シンジは意味が分からずキョトンとしていたがレイの態度を見てなんとなく察しが付いてひどく慌てた。

「なな、なに言ってんですか!そんなのダメに決まってるじゃないですか!」

「そう、レイの純潔がいらないの。ううっ、可哀想なレイ・・・。シンジ君に拒否されるなんて・・・」

リツコがレイの肩を抱いてよよよっと泣き崩れる。

「・・・・碇君は私の事が嫌いなのね・・・・」

レイが酷く傷ついた様子で俯いてしまい表情が見えなくなってしまった。

「違う、誤解だよ!。綾波を拒否とか嫌いじゃなくてこうゆう大事な事は心の準備とかムードも大切であの・・・だから・・」

とても混乱したシンジは身振り手振りで言い訳を始める。その姿は酷く滑稽だ。



クスッ


誰かが小さく笑う。
シンジが笑いの発信元を見る。それはレイだった。
それが合図となってリツコが大笑いを始める。

「え?あ・・・まさか・・・」

この時になってシンジはからかわれた事に気が付いて顔を真っ赤にした。
短時間の間になんの打ち合わせもなく見事なコンビネーションでシンジを翻弄してみせたのだ。

「ひどいよ二人とも」

からかわれて気分を害してシンジは憮然とした顔で拗ねる。

「・・ごめんなさい碇君・・・」

少し目蓋に溜まった笑い涙をふき取りながらレイが謝罪する。
リツコは気にする事なく大笑いを続けている。

「あー久しぶりに大笑いさせてもらったわ。ごめんなさいねシンジ君」

一息笑って謝るリツコ。更にぶー垂れるシンジであった。

「うふふっ、お詫びにお茶を入れるからそれ飲んで機嫌を直してくれないかしら」

チロっと横目で様子を伺う。レイもリツコも優しい笑みを浮かべている。
大きくため息を吐いて降参して二人の謝罪を受け入れた。

「でコーヒーか紅茶か、日本茶もあるわよ」

「じゃあコーヒーで。あっ、生クリームありますか?ウインナーコーヒーにしようかと思うんです」

「・・・ういんなーコーヒー?・・」

「生クリームが乗ったコーヒーよ。それをくるくる回して溶かして飲むのよ」

「クリームが泡になって美味しいよ」

「・・・・私もそれがいい・・・」

「そう、ウインナーコーヒーが二つね」

リツコが内線の受話器をとって短縮番号を押す。

「マヤ注文よ。ウインナーコーヒー二つ」

「『了解、ただちに配置に付きます』」

使徒襲来時の様に警報が鳴り職員が慌ただしく走る

「なな何が始まるんですか」

「何って、コーヒーを煎れるのよ」

「え!?」

スピーカーからマヤの全館内伝達が流れる

『全所員、配置に付きました。これよりジオフロントをフォーメーションBに移行します』

ゴンゴンゴンゴンゴン
振動が始まり薬棚の容器がガタガタと震える。

「わわわ、何事ですか。た、建物が揺れてますよ」

「今コーヒー豆を挽いてるとこよ。あなた達は座って待ってればいいわ」

「そそ、そうですかぁ。あ・・・なるほど。一度にまとめて挽いてるんですね。これだけの揺れだとそれは沢山の・・・」

『先輩、コーヒー豆。二人前挽き終わりました』

「をい!二人前かよ!」

「・・・碇君、この揺れ結構気持ち良いわ・・・」

「そ、そう」(汗

「よし。マヤ、コーヒーメーカー接続」

『はい、コーヒーメーカーを接続します』

ズガーン

爆発音が響き大きな振動が走る。

「うわあぁぁぁ、ななんだぁー」

「すみません。タイミングが0.3秒ズレました。接続ユニットが大破、小規模の火災が発生」

「な〜にをやってるの。レイとシンジ君が笑ってるわよ」

「別に笑ってませんよ。それより火災が発生って・・・」

「Bブロック閉鎖、Cブロックのユニットに切替えて!。こんどはちゃんとやりなさい!」

「は、はい。落ち着くのよマヤぴょん・・・あなたになら出来るわ・・・・、『コーヒーメーカー接続、3・2・1・ゼロ』」

コキン
  

「コーヒーメーカー接続完了しました」

レイがシンジの袖をクイクイと引っ張て耳元で囁く。

「・・・・今のコキンって小さな音がそうなの?」

「た、たぶんね・・・はははは・・・」

「よ〜しコーヒー豆投入」

「あ、あの〜大げさ過ぎやしませんか」

「なにが大げさなもんですか、私のスペシャルブレンドの滑らかな味と香りは絶対環境下における分子レベルの綿密な作業工程によって初めて獲られるのよ!」

「コーヒーポット所定位置に」

「よーし回路開け」

「計器類オールグリーンすべて順調です。コーヒーメーカー始動」

グオングオンとパイプを何かが通る音がする。

「おかしい、部屋の中が熱くなってきましたが・・・」

「ええ、コーヒーを抽出するのに富士火山帯のマグマエネルギーを利用してるからね」

「え、え━━━!」

プァーンプァーン
警告が鳴りアラートの文字が発令所のディスプレイに並びオペレーター達が慌ただしくキーボードを叩く。

「出力低下、このままではコーヒーが逆流してしまいます!」

「いかーん、予備圧力緊急始動」

「接続パイプ過熱。限界まで・・・後30秒!」

ドカーン

「地下パイプラインで爆発事故発生、死傷者多数」

「なんとか持ちこたえて。シンジ君、生クリームの量はどうするの」

「あのー・・・、僕もういいです・・・」

「な〜にを言ってるの。みんなあなた達の為にがんばってるのよ」

「じゃ、じゃあ少し多めに・・・」

「よーし、生クリーム注入バルブを開けー!」

「赤木博士危険でーす!」

そこかしこの壁にひびが入り蒸気を伴った黒い液体が噴き出す。

「きゃーこんな所からコーヒーが噴出して来たわ」

「綾波、無事ここから生きて帰れたら僕と結婚してください」

「・・・そんな行き成り・・・私たちはまだ中学生・・・」

「法律なんて関係ないよ!愛の力でなんとかなる」

「・・・そうね。有難う・・きっと素敵なお嫁さんになるわ・・・」

「うん、絶対に幸せにするから」

ヒシと抱き合いお互いの温もりを確かめ合う。
シンジとレイは現実逃避モードに突入した(笑)。

「いちかばちか全バルブ開放後、0.4秒後に第一・第二非常装置の圧力弁を閉じる。奇跡よ起これ━━」

「駄目です、もう間に合いませ━━━ん」

ワーだのキャーだの悲鳴と崩壊の阿鼻叫喚の地獄絵図。
使徒の攻撃など比べ様もないほどコーヒーメーカーの暴走はネルフ本部を破壊していった。












「先輩・・・・・ネルフ本部が・・・・・」

「損傷率・・・・62%・・・なんとか全壊は間逃れましたが・・・」

「ええ・・・」

「しかし・・しかし・・コーヒーメーカーが・・・」

「一杯分が出来ただけでも良しとしましょう・・・・。シンジ君・・・飲んでくれるかしら・・・」

「はい・・・みんなの血と涙の結晶・・・いただきます」

カップを手に取りスプーンを回して生クリームを溶かしていく。
レイはその様子を興味深々いった感じでじっと見つめる。
程なくして生クリームがコーヒーと混ざり合い、茶色のホイップクリーム状に変化する。
出来がったウインナーコーヒーをレイがもの欲しそうにシンジの顔を見る。

「綾波・・・飲みたいの」

「・・・・うん・・・」

「なんか色んなモノが入ってそうで怖いだけど・・」

「・・・いい。・・・碇君、飲ませて・・・」

レイが自分から欲しがるなど滅多に無いからシンジは飲ませる事にした。本当に色んな意味で何か入ってそうで嫌だったが・・・。

「熱いから気を付けて」

レイが口を付け、小さく小さく飲んでいく。
カップから口を離し、顔を上げたレイの上唇にコーヒーの泡が付いていた。
白い肌に似合わない茶色の髭は滑稽でとても可笑しかった。

「綾波、泡が付いて髭になってるよ」

「・・・・えっ・・」

レイが寄り目で泡を確認する顔が普段と違い幼っぽく見えて可愛いい。
ずっと眺めていてもいいのだが何時までもその状態でいそうなのでシンジはポケットからハンカチを取り出して泡をふき取る。
目が合うと、結婚の約束をしたのを思い出して二人で照れた。
その頃リツコはコーヒーメーカーが大破したのがショックなのかしょぼーんとしていた。

「ごめんなさい、シンジ君の分が無くなったわ・・・・インスタントなら有るけれど・・飲む?」

「そうですね、折角だからいただきます」

「・・・・マヤ・・・インスタントコーヒーの準備をして・・・」

「はい!ジオフロント、フォーメーションDに変形します」

グオングオングオン
ユニットが動きだしコーヒーの抽出を開始する。

「今度こそへまするんぢゃ無いわよ!」

「「「「「「「「「「「「「了解」」」」」」」」」」」」」

「綾波!今すぐ君を抱きたい!」

「・・・ええ、いいわ・・・・来て・・・」

「第三圧縮弁から火災発生!」

「キャー、フォースチルドレンの腕がびろ〜〜〜んと伸びてピンク色の粘液が━━━」

「イヤーッ!!、碇司令が笑ってる━」
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 劇終






あとがき

投稿先の「歌声に魅せられて」(黒いハーピィーさん主催)が引越しって話があってから音沙汰がないので暫定公開です
転載にあたり、この作品を正式に「超絶怒級大発明家リツコさん」の番外編と認定(笑
タイトルを「おもてなし」から「リツコさんのおもてなし」にかえますた
だからって赤幸が更新してるわけでは無いのであしからず(更新しろってば(ビシッ


ぜひあなたの感想をパッケラさんまでお送りください >[kiiro-00@zb.ztv.ne.jp]

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*この作品は「闇に射す光」「突発的シンジ君誕生日記念企画」参加作品です。

この作品は、当初は「歌声に魅せられて」にて公開されていましたが、サイトが一時的に消滅しているため、当サイトにて暫定公開しています。ということで、「突発的シンジ君誕生日記念企画」のリンクからおいでの皆様、ここは「歌声に魅せられて」ではなく「綾波レイの幸せ」という辺境サイトです(笑)。せっかくなので他の作品も見ていって下さい。パッケラさんの作品もたくさんありますんで。