希望さえあれば、未来は手の届くところにある 「Kimiの名は」解説/文責・tamb 解説を書くのはこの作品で三作目になる。 解説などと言っても、私に文芸評論家の如き解説を求めるのはそもそも間違いであると いうのは過去の事例からも明らかなのであるが、やはり肩に力が入る。無駄に力を入れて みても書けないものは書けないという確認は終えたので(これが三回目のリライトだった りする)、脱力系で書いてみたい。しかしこの文章、意味はあるのだろうか? なぜこんなにも無駄に力を入れてしまうのかといえば、そもそも私が解説を書こうかな と思ったのはSeven Sisters氏の「I wish」がきっかけだったからである。そして、私が 度々書いている「私より明らかに上手い人」の一人はSeven Sisters氏なのである。最初 に氏の作品を読んだ時の衝撃は忘れ難い。 当時の私は仲間意識が強く、などと書き出すとまた力が入って収拾がつかなくなるので 割愛するが、ひとつだけ書かせて頂きたい。最初にSeven Sisters氏から投稿作品を受け 取った後の掲載までのメールのやり取りの中に、なぜここに投稿しようと思ったかが書い てあって、いたく感激したことを覚えている。 氏の作品は、とにかく文章が丁寧だと感じる。誤解を恐れずに書けば、これは文字によ る物語のみで語ろうという意志と思われ、非常に好感が持てた。同列に語るのは申し訳な いのだが、私も基本的に方向性は同じである。ある意味では古いタイプと言えるのかもし れない。ここ10年〜20年くらいの間に出版された作品を読むと、実に屈託なく極太ゴチッ クやら巨大フォントやらが使われている。個人的にはこんなことしなくてもいいのにと思 うのだが、そんなことにこだわるのは意味がないのかもしれない。使える武器は使えばい い。だが基本となる物語があってこそ武器は生きるのであるから、個人的にはこだわって いきたいと思う。まぁ私の話はどうでもいいんだが。 さて「Kimiの名は」である。この文章を書くにあたって再読したのだが、やはり面白かっ た。連載再開時にも読み直しているので、読んだのはこれが二回や三回ではない。それで も面白い。思わずにやりとゲンドウの如く笑ってしまうのである。これだけの再読に耐え る作品は、商業出版物でもそうそう多くない。 あえて書くが、この物語にはストーリー的に画期的なアイディアがあるわけではない。 だが面白いものは面白い。この理由としては、まず展開が良く練ってあるということが上 げられると思う。つまり行き当たりばったりの勢いで書いているわけではないということ である。これは物語を書こうという以上は当然のことなのだが、言うは易く行うは難しで ある。やってみればわかる。ニンジンだの肉だのというほのぼのした前半から怒濤の後半 に至る引き込み方は、展開の早さもあいまって実に凄まじいものがあった。連載を追って いた方はおわかりかと思うが、二度にわたる中断、特に第九話後の二回目の中断によるス トレスは尋常ではなかった(笑)。 そしてもうひとつ、人物が実に丁寧に描かれている。 今回は決定的なネタバレは無しの方向で書こうとしているので実に隔靴掻痒であるが、 例えば第一話冒頭のお気楽シンジがどういうプロセスを経て「決意」するに至るか、ある いは本編系のレイが実にナチュラルにああなってこうなって……。書けない(笑)。 だが一点だけ書いておこう。キミちゃんはレイに似ている(笑)。 あとは作品を読んで下さい。 不満もいくつかある。ほとんどラストの方はやや展開が早すぎるような気もするし、重 要なキャストであるゲンドウ、リツコ、ミサト、アスカの出番ももう少し欲しかった。ゲ ンドウの反応は楽しかったし、アスカのブチ切れ具合も、それでいて優しいところも良かっ た。この辺は外伝で書かれるそうなので、そちらに期待したい。 最後になるが、目次に素晴らしいイラストを付けて下さったtama氏に感謝したい。 これは、目次作成にあたり、遙か昔に送って頂いたイラスト(03年12月の話である)を 引っ張り出して使用許可を求めたところ、描き直させてくれ、という話になり、贈って頂 いたイラストである。まぁリテイクはかけたんだが(爆)。 つまり何が言いたいかというと、おねだりをしたわけではないということである。誰か にイラストを描いて欲しいと思う方は、イラストを描きたいと思わせるような作品を書け るように努力して頂きたいと、かように思う次第である。 それから、この作品はサイト開設二周年記念短期集中連載だったという噂があるが、そ れは嘘である。当初より50万ヒット記念を目指して執筆されていたのである。たぶん(爆)。 そうですよね、Seven Sistersさん?(笑) 今後のSeven Sisters氏には、「Kimiの名は」の外伝ももちろんだが、長らく中断して いる「I wish」の続きも激しく期待したいところである。 なにはともあれ、作品をお読み下さい。 |