波の音が聞こえる。



紅い波。
紅い海。
紅い空。
紅い虹。
赤い少女。

僕は、そんな世界で覚醒した。


聞こえるのは波の音だけ。

さっきまで騒がしかったのに、みんないたのに。

僕は“独り”ぼっちだ。

でも、不思議と寂しさはなかった。


――――ん


何?

声が聞こえた。
よく知ってる、愛しい人の声。

でも、
僕の周りにいるのは赤い少女だけだ。


彼女がこの光景をみたらなんて言うだろう?

………ああ

“アスカ”は壊れてるんだった。
いまの彼女は“アスカ”ではない、“アスカ”とよく似た“イレモノ”。
僕はそう感じた。

だから、この光景を見ても何も言わないだろう。
それどころか、僕の顔すら見ないだろう。


……もう、どうでもいい。

聞こえるのは波の音だけ。





怖い

もしアスカが元に戻ってなかったら…




怖い

もしアスカが元に戻っていたら…




怖い

アスカ

怖い

アスカ

怖い

アスカ

アスカ

怖い

アスカ

怖い

アスカ
怖い

怖い
アスカ

怖い
怖い怖い
怖い怖い怖い
怖い怖い怖い怖い
怖い怖い怖い怖い怖い
怖い怖い怖い怖い怖い怖い



……気が付いたら、僕は彼女の首に手をかけていた。
手が締まる。

―――くん

またか。

君はいつも僕を悩ませる。
もう一度君に会いたい。


願わくは、
その白い頬に触れたい。
その青い髪を撫でたい。
そして、その可憐な唇を、自分だけの物にしたい。


――りくん


しかし、僕の手は
赤い。

ヒトが“使徒”と呼んでいた者達の体液の赤と、たった今殺した、アスカの血の赤。
罪の紅。


僕には、君に触る資格など
……無い。


――かりくん


そして、僕の唇は
黒い。

今まで吐いた嘘の黒と、今まで吐いた愚痴の黒。
僕の唇は、君に美しい言葉を紡ぐ事はできない。
罪の黒。


僕は、君に触れる資格など
……無い。


―かりくん


嗚呼、綾波…

お願いだ…

君のその紅い瞳で、僕を射殺してくれ
君に殺されるなら、僕は本望だ


いかりくん


嗚呼、迎えに来てくれたんだね…綾波…


いかりくん


さあ、行こう。
僕たちの国へ…

そして、永遠に結ばれよう…



いかりくん……朝よ……


朝………?







はっ………

目を開けると、紅い世界だった。

不思議な感覚だ。

上が下で、下が上のような感じだ。
いいにおい…あのにおい……

「ここは…LCL…?」

「いいえ、違うわ」

声が聞こえた。

あれ?
何かおかしい。
LCLの中にしては、体が重い。
それに、何やら柔らかい感触が…

僕は目線を引いてみた。

紅い世界はだんだん小さくなり、白い世界に飲み込まれた。
二つの赤い世界が見えた。
そして、上方に青い世界が……

「あやなみ…?」
世界が、口を利いた。
「おはよう、碇くん」





碇くんの1日  朝

written by タピオカ  



「ね〜ちょっとレ〜イ。まだシンジ起きないの?」

アスカはシンジの部屋のドアを開けた…

そこでアスカは沈黙した。
彼女だけではない。

シンジも沈黙した。

だが、二人の沈黙理由は根本的に違う。


アスカは、目の前の光景に驚き沈黙した。
シンジは、これから起こる惨劇に絶望し沈黙した。

時は止まったままだ。

二人は一ミリも動かない。

………しかし時は動き出す。


「朝から何やってんのよバカシンジ!!」
「ち、ちが…これには訳が…」
「うるさい!!問答無用!!」

パパパパパパパパン!!……

※※※

「おじさま〜シンジ起きましたよ!」
「うむ。ご苦労」


そんなやり取りがキッチンから聞こえる。
何故解るかというと、司令は朝、いつもそこにいるからだ。

私がこの碇家にお世話になり始めてから、二週間が経った。
それはつまり、世界が新しくなってから二週間経ったということだ。

碇くんの願いによって、ヒトは還り、ネルフやゼーレは無くなった。
その代わり、ネルフは学校となり、「学業機関NERV」と改名された。ネルフは学業機関であると同時に、今までネルフだけが独占していたオーバーテクノロジーを世界に広めるための機関でもあった。そのため、今ではエヴァや使徒を街中で見かける事も多くなった。ただし、ミニチュアサイズで、エヴァなら人間と同じくらいだ。使徒は“フレンズ”と呼ばれ、攻撃能力は健在だが、一般人にも扱えるように低くされている。それに、エヴァはれっきとしたライセンスが必要で、一般人には扱えない。“チルドレン”だけだ。今は総勢100人程のチルドレンがいるが、その大半が十代だ。使徒も“飼う”時には国に届けなければならない。しかも、それぞれの個体にはICタグが埋め込まれており、管理は厳重だ。

そしてゼーレは喫茶店となった…らしい。聞いた話しでは、外見は普通だが、店員は居らず、12のモノリスが浮いているのだそうだ。私は噂を聞いただけだから、今度碇くんに連れて行ってもらおう。

今碇家でお世話になっているのは私とアスカ、それと…
「シンジ君はまだ起きないのかい?」

何故か渚カヲルも。

「アスカに気絶させられたの。ユイ博士に診せるから、連れていくの手伝って」「おや、君が僕に助けを求めるとはね。驚きだよ」

そんな事はどうでもいいじゃないか。
そう思ったが、敢えて言わなかった。

今は碇くんが心配だ。

※※※

「大体、アンタらが朝から元気だからいけないのよ!」
「だから誤解だってば!!」
さっきから何度このやり取りをしただろう。
本当にあれはイレギュラーな“事故”だったのだ。
僕の寝相がわるいばかりに、時々ああいう事がある。それは、胸を触っている時もあれば、顔が物凄く近づいていたりする時もある。そして、レイはそれの“事故”を楽しんでいるかの様に、毎朝僕を起こしに来て、添い寝する。
こんな環境の中、まだ僕は一線を越えていない。それはそれで凄い事なのだが、自慢には、できない。
「アスカちゃん、もうそのくらいにしてあげたら?シンジには下心はあっても悪気はないみたいだし」
母さんが朝食を持ってやってきた。
下心って………
「おば様…でも…」
「まぁ、いいじゃない。貴女にはちゃんとしたフィアンセがいるじゃない?」
途端にアスカの顔が赤くなる。
「べ、別にあんなヤツ、フィアンセなんかじゃありません!!私とカヲルは、ただの同居人ってだけで…」「あら?私が何時、カヲル君だって言ったの?」
「う゛……」
アスカは思わずうつむいた。顔が真っ赤だ。
母さんはそんなアスカを見て、ゲンドウそっくりのニヤリ笑いを浮かべる。
この二人は似たもの夫婦だ、と言われる事がある。
だか、僕はこのニヤリ笑い以外は似てないと思った。

※※※

「レイ、醤油を取ってくれ」
「はい。どうぞ、司令」
ゲンドウは醤油を受け取ると今まで読んでいた新聞をたたみ、レイを見据えた。「レイ」
「何ですか、司令」
「……私の事を“司令”と呼ぶのは止めろ」
そうして“ゲンドウポーズ”をとる。
「お前はもう、ネルフの職員ではない。確かにお前は今でもネルフに通っているが、それはネルフが学校だからだ。エヴァやリリスの鎖は解き放たれ、元チルドレンは自由の身となったのだ。故に、お前も自由の身だ。私を“司令”と呼ぶ必要はない。お前は自分の道を歩け。司令は、もういない。私はただのこの家の主だ」
そして、少し笑った。


シンジは感動していた。
『今までずっと、僕は父さんを非情でロリコンなクソオヤジだと思っていた。でも、それは間違いだったんだね……父さん!』


アスカは驚いていた。
『へぇ、あのグラサン手袋がこんな事言うなんて……気持ち悪い……」


ユイは呆れていた。
『夕べ何を書いているのかと思えば、これの予行演習をしていたの……後でお仕置きね…』


カヲルは……
『カンペはリリンの文化の極みだよ……』
……であった。


全員の視線がレイに集まる。レイは暫く考え込んでいた。
『なんて呼んだらいいのかしら……?やっぱり“髭”はダメかしら……?うん……ダメかもしれない……。確かそう言ってクビになった人がいたわ……。じゃあ“グラサン手袋はダメかしら……?うん……ダメかもしれない……。冬月副司令は司令の前では言うなって言ってたし……確かアスカもそう呼んでたわね……でも被るのは嫌だわ…… 』
レイは色々考えたがいい考えはこれしか浮かばなかった。
「……ではなんと呼べはいいですか?」
「うむ」
ゲンドウはこの言葉を待っていたようだった。赤いサングラスの奥で目が光る。
「私の事は…………」
嫌な予感がした。
それは皆共通だったようだ。
アスカとユイはハリソンを構え、カヲルはATフィールドの準備をし、シンジは納豆を持って振りかぶった。
そして、その言葉が紡がれた。

「……パパと」

パパヴォンべちゃっ……

「……お義父さんでいい……」
「はい、お義父さん」
シンジは呼吸を整えて言った。
「でも“お義父さん”はおかしいんじゃないの?」
「問題ない。計画通りだ」
「何の事?」
「……なんだシンジ、まだレイに手を出してないのか?」
「ば……な、何馬鹿な事言ってんだよ!」
「……ふん……お前には失望した……」
「そんな事、納豆オヤジに言われたくないよ!」
「な、納豆オヤジ……」


「「…馬鹿父子……」」
アスカとユイは揃って溜め息をついた。
途端にアスカが絶叫した。
「ああーーーーー学校!!」
「ヤバイ!!」
シンジ、アスカ、レイは急いで朝食を掻き込み、家を飛び出した。

「おはよう、サキエル!」家の庭にいた第一使徒、サキエル。シンジのフレンズだ。彼女はシンジを見ると、目を輝かせ飛び付いてきた。
「わっ、サキエル!今はダメだよ。早く学校に行こう!」
彼女は少し残念そうに離れた。シンジがその背中に飛び乗ると、サキエルはアスカ、レイと、それぞれのマスターを背に乗せたフレンズのゼルエル、ラミエルの方へ向かった。
「お待たせ!」
「もう、早くしなさいよ!」
「行くわよ、ラミエル」
そう言われたラミエルは、レイを背に乗せ飛び出した。
「あ、待ちなさいよ、レイ!」
続いてアスカとゼルエルも飛び出した。
「じゃあ行って来るね!」
「いってらっしゃい。ほら、あなた急がないとまた冬月先生に叱られますよ!」
「問題ない。校長出勤だ」
「問題あります!早くしなさい!!」
「う、うむ……」

ばたん……

ドアが閉められた。

「さあ、行こう!」

サキエルはシンジを乗せ駆け出した。



《続く…かも?》



《あとがき》
どーも。はじめまして。
タピオカと言います。
今回の作品は僕の処女作という事で書かせていただきました。
後から見直して見れば、あんまりLRSっぽくなかったですね。(汗)
もう笑ってください。(笑)

こちらのサイト様には、tambさんをはじめ、JUNさん、色椅子さん、ののさんなど、ここには書ききれない程の素晴らしい作家さんが居られます。こんなところに、僕という素人が書いた作品を投稿する事はとても無礼な事かと思っております。
しかし、これからも素晴らしい小説を書けるように日々精進してゆくつもりです。無理な設定、稚拙な文章表現、間違った文法など、ミスは沢山あると思いますが、どうか、暖かい目で見守って下さい。

宜しくお願いします。

ぜひあなたの感想を

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