あなたは私とは違う。
私はあなたのように気高く高貴に生きることなんてできない。
私には誇れるものなど無いから。
私はあなたのようにあふれる光と輝きを纏うことなんてできない
私には煌くものなど無いから。
私はあなたように回りを気にせず自分の気持ちをそのまま表すなんてできない。
私には表現すべき感情など無いから。
私はあなたのようにはなれない。
私には何も無いから。
“自分には他に何も無いなんてそんな悲しいこというなよ”
彼は私にそういってくれた。
言われて初めて、私は自分には本当に何も無いのだということに気付いた。
私はあの人の道具だった。
あの人の目的を遂げるためだけに生かされ
たとえ死んでも替わりがいて
役目が終るそのときまで何度でも蘇る。
自分で死ぬことも生きることも出来ない
ただの、道具。
だから、私は“私”を生きる必要が無い。
くりかえされる指示と命令とにしたがっていればいい。
ずっとそうやってただ存在してきた私の心に、彼の言葉は一滴の欠片を落とした。
それは、静かにゆっくりと私の心に波紋を広げていく
その時から私の心は今までにはない何かを感じはじめる。
やがて、私は知る。
私にも“私”を生きることが出来るかもしれないという希望と
私には“私”を生きられるだけの何かをもってはいないという絶望を。
初めて感じることのできた弱々しくとも暖かい光をともす確かな灯火。
気付かなければ知らずにすんだ何もかも真っ黒に塗りつぶしてしまう恐ろしい暗闇。
私の中に同時に生まれた二つの相反するもの。
それらを強く感じるようになって、
私は、私には無いものをもっているあなたがとてもまぶしく思えた。
「・・・なによ、ファースト」
プラグスーツを身に纏ったアスカが私を振り返る。
また、気がつけばアスカのことを見つめてしまう私がいた。
「別に。・・・なんでもないわ・・・・」
自分でも、どうして見つめてしまうのわからない。
たとえば、彼を見つめている時。
私の心は、不思議な昂揚感に包まれる。
それは、決して嫌な気持ちじゃない。
だけど。
アスカを見つめてている時、
私の心はひどく痛む。
何か鋭利なものでえぐられるような、力いっぱい握り掴まれるような
ちぎれんばかりに張り詰めるような、それでいて、そのどれでもないような鈍い痛み。
そんな痛みを感じながら、それでも、アスカを見つめてしまう。
「・・・別にって、アンタ、アタシのこと見つめてたじゃない。言いたいことがあるならはっきりいいなさいよ!」
そう・・・私だって、アスカのように自分の気持ちをはっきりと表現してみたい。
思ってみても、私はまだ、言葉をしらない。
だから、私は黙ることしかできない。
「・・・っとにもう・・・またダンマリ?・・・あんたって、ほっっんとに人形みたいね!!」
そして。
アスカの言葉は、私の一番深い暗闇に響いた。
“アンタッテホントニニンギョウミタイネ”
“今更何を哀しむの?”
私・・・私はニンギョウじゃない。
“本当に、そう思っているの?”
彼は言ってくれた・・・・他に何もないなんて言うなって・・・
私は絆をつくることができる・・・・だから、私はニンギョウじゃない・・・
“・・・目的をとげるための道具でしかないとしても”
・・・・道具・・・・?
“解っているんでしょう?あなたは道具。生も死も存在しないただの道具”
私・・・私はやっぱり道具なの?・・・
“そう、あなたは道具よ”
“ただの道具・・・ただの人形・・・それが、あなたの存在じゃないの・・・”
「レイ、時間よ。」
赤木博士の声がスピーカーから聞こえる。
それは、命令。
私がもっとも優先すべきこと。
私は、行かなければならない。
極端に緊張していた肉体は、自分のものではないみたいだった。
「・・・あっ・・・・」
私が更衣室の出ようとすると、アスカが声をあげた。
ドアがしまる間際に見たアスカの顔はいつもと違ってなんだか自信なさげに見えた。
いつもと同じシンクロテスト。
LCLにつかりながら、私の心は、深い闇に包まれていた。
今の私にはその闇に抗うことなんて出来なかった。
あらためて知ってしまったから。
私は、道具でしかないということを。
テストが終り、更衣室に戻ると、なぜかそこにはアスカがいた。
私はなるべくアスカを見ないように着替えて、更衣室を出ようとした。
「・・・まった。」
ふいに、アスカが私を呼びとめる。
私は、ゆっくりと振り向く。
やっぱり、アスカはいつもと違う感じがした。
「・・・・ごめん・・・悪かったわ。」
瞬間、私はなんの事だかわからなかった。
「・・・さっきのことよ・・・アンタのこと人形っていったこと。言いすぎたわ・・・」
少し目線を斜めに下げながらつぶやくようにアスカはいった。
「・・・・・」
あやまって・・・くれるの・・・?
また、私は何も言えない。
「アンタは人形なんかじゃないわ。」
そして、再び。
アスカの言葉は、今度は私の心に一番明るい光を燈した。
“アンタは人形なんかじゃないわ”
“私は・・・人形じゃないの・・・?私は、絆を求めていいの・・・?”
私の心が少しずつ暖かい光につつまれていく。
嬉しい。
そう、これは、喜び。
彼が教えてくれたもっとも大切なものの一つ
こんなとき、私はなんて言えばいいか知っている。
それも、彼が教えてくれたから。
「ありがとう、弐号機パイロット・・・・」
私は笑った。
不器用だけど、ちゃんと、私の心が伝わるように。
いわれたアスカは、少しびっくりしたみたいだった。
けどすぐに怪訝そうな顔になる。
私の心、伝えられなかった・・・・?
私にはうまく自分の心を伝えられないの?
「・・・ちょっとまって、もう一度いってみて。」
「??」
アスカの心がわからずに、私はただただ目の前の蒼い目を見つめ返すだけ。
「もう一度言ってほしいのよ。」
「・・・ありがとう、弐号機パイロット・・・」
真剣なアスカの雰囲気におされて繰り返した私の言葉は、なんだかひどく不恰好な感じがした。
「・・・・・・・」
そのまま、アスカはしばらくの間黙っていた。
・・・どうしたのだろう・・・・?
私は、まだこんなときどうしたらいいかわからない。
「・・・ねぇ、ファースト、これからは、私のこと、アスカって呼びなさい。そのかわり私もあなたのことレイって呼ぶから。わかった?」
突然のアスカの提案。
そう、これは提案。命令じゃない。
命令じゃないから、従う必要は無い。
従う必要はないのだけれど、私はなぜかそのアスカの提案に心がざわめくのを感じる。
「・・・・なぜ?」
思わず、口を出た言葉。
私には自分の気持ちが良くわからない。
「いいから、そうしなさいな。その方がいいって私が言ってんだからいいでしょ?それとも、レイは私にレイって呼ばれるのが嫌なの?」
私は首を横に振る。
イヤじゃない・・・・それだけは、はっきりとわかる。
「じゃあ、問題無いじゃない?ね、そうしましょ!」
そう言ったアスカは、堂々としていて、お日様のように美しくて、笑っている蒼い目には意思の強さを感じた。
それらは、私には無いもの。
私とは全く違うもの。
だから、
これが、アスカなのね。
自分との違いを強く感じているのに、不思議と今まで感じていた心の痛みはなかった。
「ね、レイ、いいでしょ?」
何時の間にか、私の迷いは消えている。
「・・・わかったわ、アスカ。」
そういって、私はもう一度笑った。
さっきより、もっともっと心をこめて。
今度は、伝わっている。伝わっているのを感じる。
「Gut!!」
それを証明するかのように、アスカは私に微笑んでくれた。
私にとって、また一つ大切なものが増えた瞬間だった。
<コメント>
私のデビュー作を読んでくださった方、2度目まして(笑い)。
そして、読んでないという大方のみなさん、はじめまして。
tomoと申します。
えっと、今回、初めてレイのお話を書いてみました。
難しかったです。ほんと。(壊)
こんなに時間がかかるとは思いせんでした。
それでも、なんとか書き上げたのですが・・・うみゅう〜という感じです。
なんだか、tambさんはじめ、アヤナミストの方々にお見せするのが非常に申し訳ない
気もします・・・(汗)
ともあれ、私の中のレイはこんな感じでした。
あと、タイトルですけど、「Term」は名詞だと普通、「限界」とか「期限」とかの意味ですが、実は、動詞だと名付けるという意味があります。そこで、それの名詞系ということで、まぁ、「名付けること」ぐらいの意味を意図してます。(こんな使い方するのかどうかわかりませんが。)
それでは、最後まで読んでくださって、ほんとうにありがとうございました♪