使徒との戦いから既に四年の月日が流れた
高校生活最後のヴァレンタインデー
レイはその日、一つの覚悟を持って望む事にしていた
そう、このヴァレンタインデーでシンジにキスをすると言う覚悟を持って
レイは今のシンジに少し不満を持っていた
アレから四年経つというのに、シンジは未だに人との一次的接触を恐れている
その為、公認の恋人同士だと言うのに、未だにキスどころか、手を繋いだ事さえない
自分に何か悲しい事、辛い事があれば抱き締めて、護り暖めてくれると言うのに
普段の生活ではそのような様子を一つも見せないのだ
手を繋ごうと、そっと伸ばしてみると
パッと手を引っ込めて顔を真っ赤にして「御免」と謝る
少し剥れてシンジを見てみるが、ただ慌てるだけで
何故自分が不機嫌になったのか判ろうともしない
そんなシンジに流石のレイも業を煮やしたのだ
だからこそ、待っているのではなく、自分から動こうとレイは覚悟を決めた
レイはチョコレートを買ってくると、湯煎してゆっくりと掻き回しながらチョコレートを溶かす
リツコに何か怪しげな薬を渡されたが、副作用で大変な事になっても困るので、その薬はゲンドウの方にだけ混ぜておいた
大きすぎず、小さすぎないハートの形をした型にゆっくりと空気が混ざらない様にチョコレートを流し込むレイ
チョコレートで満たされた型をゆっくりと冷蔵庫に入れ、固まった所で、少し固めに溶かしたホワイトチョコでデコレートし、メッセージを書く
この四年間で、レイはかなり家事が出来るようになっていた
未だシンジに追いつけていないが、十分一般レベルの域に達している
それも、ユイの特訓の賜物であろう
完成したチョコレートを見ながら、レイは明日の事を夢想して楽しげな笑みを浮かべていた
最初は下駄箱にでも入れておこうかと思っていたレイ
だが、それでは意味が無い事に気づき、直接手渡しすることに決めた
だからと言って、人目が有るところで渡すのは恥ずかしい
登校中はアスカもいるので恐らく渡せない
なら、休憩時間中にシンジを呼び出し、何処かで待ち合わせをしてそこで渡せば良い
レイは案が纏まった所で布団に入り、眠りに就く
明日、シンジとキスをする場面を空想しながら
四人で登校中、予測できたような、出来なかったような事態が起こる
「シンジ君。僕の気持ちだよ、受け取っておくれ」
そう言いながら、シンジに綺麗にラッピングされた四角い物を手渡そうとするカヲル
だが、シンジがそれを受け取ろうとした瞬間、何か紅いものと蒼いものがシンジの傍に駆け寄ってきた
そう思った瞬間、何かに突き飛ばされたかのように飛んでいき、空の星と化すカヲル
シンジの傍には荒い息を吐き、思いっきり拳を突き上げているアスカとレイの姿が・・・・・
シンジは飛んでいったカヲルに心の中で合掌していた
教室に入った瞬間、待ってましたとばかりに
「はい」
そう言ってシンジにチョコレートを渡すアスカ
それを囃し立てるクラスメート達
顔を真っ赤にしながら受け取るシンジ
それをレイは悔しそうにみつめる
だが、自分には計画がある
そう思ってレイは、今回何とか我慢をする事が出来た
何とか休憩時間中に次の休憩時間の約束を取りつけようとするレイ
まるでそれを邪魔しているかのように毎時間、シンジに寄って来る悪友二人
それを憎らしげに見るレイだが、二人は気がつかない
シンジに視線を送るが、こちらも気が付かない
そうこうする内に学校での時間が終わりを迎え、帰りの時間となる
折角一生懸命に計画を立てたというのに、全てが水泡に帰してしまった事にレイはショックを受ける
シンジ、アスカと共に帰路に着くレイ
だが、ショックを受けているレイの歩みはトボトボといった感じになってしまっていた
「如何したの?レイ」
そんなレイを心配したシンジが声を掛ける
「ううん、何でも無い」
首を振って答えるレイ
「・・・・・そう」
釈然としないまでも、シンジはそれ以上追求しなかった
重たい雰囲気のまま家路を進む三人
それがレイには酷く長い時間に感じられていた
家に帰りつくと、レイはベッドの上に座り、折角作ったチョコレートをじっとみつめていた
家で渡しても良いようなものなのに、レイは計画が失敗した事にショックをうけて、そこまで頭が廻らない
ポツリポツリとレイの手の甲に涙が落ちる
トントン
レイの部屋のドアがノックされる
レイは顔をあげ、涙を拭くとドアを開ける
そこには心配そうな顔をしたシンジが立っていた
「如何したの?レイ。何がそんなに悲しいの?」
レイの顔を見るなり、シンジはレイを抱きしめて聞く
そのシンジの暖かさに、レイはやっと正常に頭が廻り出す
今すぐ、シンジにチョコレートを渡そうとも思う
だが、シンジの暖かさにこのままでいたいとも思う
ゆっくりと優しく自分の髪を梳くシンジの手の動きに、レイは気持ち良さそうに目を瞑る
ふとレイは気付いた
今が絶好のチャンスであることに
レイは顔を上げようとシンジの胸の中でゴソゴソと動く
「如何したの?レイ」
今まで大人しかったレイが動き出した事で、シンジは覗きこむ様にレイの顔を見る
その瞬間、重なる二人の唇
そう、シンジが覗きこむ事で、更にレイにとって最高の状態を作り出したのだ
口付けたまま、固まるシンジ
レイは恥ずかしさにパッと離れると、ベッドまで行き
そこに置いてあったチョコレートを手に取るとシンジに渡す
レイの余りの行動に固まっていたシンジだったが、チョコレートを渡された事で、やっと我に返る
不意のキスに何か言いたそうなシンジだったが、レイの幸せそうな顔を見ると文句を言う事が出来ず
「有難う」
チョコレートのお礼を言っただけで部屋を出ていった
そんなシンジに気付かず、レイは幸せの海を一人、漂っていた
後書き
ヴァレンタインSSです(笑
何か、ヴァレンタインで考えてたら、何処からとも無く「ヴァレンタインキス♪」何て歌が頭の中に流れてきた物で(笑
正に災い転じて福と成す(笑
いや、電波な作品な分、電波な仕上がりとなりました(笑
いかがでしたでしょうか?
タッチでした