約束

〜レイ誕生日記念SS〜



レイは自分の左の薬指にある指輪を、じっと見つめる

銀色に鈍く光るそれは、ある少年から誕生日のお祝いに貰ったもの

だが、それを送った少年は、レイを置いて遠くドイツへと旅発ってしまった

その日から四年の月日が流れた

「必ず帰ってくるから」

その一言を信じて、レイは今日まで少年の帰りをずっと待っていた

だが、少年からこの四年間一度たりとも連絡が来ない

積もりに積もった不安

それは遂にレイにある決断をさせる





荷物を纏め始めるレイ

パスポートも取得して、飛行機も予約をし、後は出発するのみ

だが、そこで思わぬ邪魔が入る

「レイ、済まんがお前をドイツにやる訳にはいかん」

ゲンドウの言葉に驚くレイ

「それは命令ですか?」

内心の動揺を抑えて、極めて冷静に聞き返すレイ

それに対して、ゲンドウも簡潔に答えを返す

「・・・そうだ・・・」



「納得できません」

意思の強さを瞳に宿して、じっとゲンドウを凝視しつつ、レイは初めて命令に対して反抗する

「・・・ふぅ・・・」

ゲンドウはそんなレイの態度に溜息を吐く

「・・・そうか・・・・。だが・・・やはりお前をドイツにやる訳にはいかんのだ・・・。許せ、レイ」

そう言うと、ゲンドウは携帯を取り出し何処かに指示を出す

その途端、レイの部屋に踏み込んでくる保安部

有無も言えず拘束されるレイ

そのままネルフへと連行されると、拘置所に放り込まれる

扉を必死の思いで叩き続けるレイ

どうして自分がこんな目に遭わなければならないのかと自問しつつ

拘置所の中と言う寂しい場所が、レイに孤独感を募らせる

自分の部屋なら、少年からの贈り物に囲まれている為何とか寂しさを堪える事が出来る

だが、この部屋には本当に何も無いのだ

少年との絆を何も感じさせるものが無い、その寂しさにレイは打ちひしがれる

少しずつ、昔の、人形のようだった自分に戻っていくのを感じるレイ

心に広がる闇に、冷たさに沈み込んでいく





目の前でゆっくりと扉が開かれていく

それを無表情に見つめるレイ

その深紅の瞳に飛び込んでくる人影

暗闇に慣れていたレイの瞳にはちょっとした光でさえも眩しすぎて

その人影が誰であるか判別出来ない

光度を何とか調節しようと目を細めるレイに、その人影は手を差し出す

その行為に、遂その手を掴んでしまうレイ

その掌に感じるのは火傷の跡のようなもの

レイは思わず、その手を払いのける

自分と少年を引き離したゲンドウだと思って

そんなレイの耳に届く声

「如何したの?綾波」

それは、この四年間、聞きたくてしょうがなかった少年の声

レイは驚いて振り返る

そこには、優しい笑顔を浮かべるシンジの姿が

レイの目に溢れ出す涙

レイはそのままシンジの胸に飛び込む

「御免ね、綾波。随分待たせちゃったね」

そんなシンジの言葉にかぶりを振るレイ

そのまま爪先立ちになると、シンジの唇に自分の唇を重ねる

どれくらいの時間が経ったのだろう、やがて二人は離れる

お互いの想いを伝えあった満足感を表情に浮かべながら

「良かったよ、行き違いにならなくて。父さんから綾波がドイツに来ようとしてるって聞いて、父さんに綾波を引き止めるようにお願いしたんだ」

笑顔で話すシンジ

「まさか、拘置所に入れてしまうなんて思わなかったけどね」

最後に苦笑しつつそう付け加える

そして

「綾波、お誕生日おめでとう。今年は、コレを受け取ってくれないか?」

シンジがそう言ってレイに見せたのは指輪

「有難う。でも、もう指輪は貰ってるもの。コレを外したくない」

感謝しつつも、新しい指輪を受け取るのを拒否するレイ

今の指輪に絆を感じているし、何より、四年間つけていた愛着がある

「それはこれからもつけていて欲しい。コレはね、レイ」

初めてレイの名前を呼ぶシンジ

バッと言う音が聞こえそうなほどの勢いでシンジを見上げるレイ

その顔には、驚きと嬉しさが等分に交じり合ったような表情が浮かんでいる

「コレは、結婚指輪なんだ・・・・・。レイ・・・・・結婚しよう」

シンジのプロポーズに、レイの瞳から大粒の涙が溢れ出す

ただただ、無言で首を縦に振り続けるレイ

シンジは、そんなレイを愛しそうに抱き締めた





辺りに響き渡る鐘の音

扉が開き、純白のタキシードとドレスに身を包んだ二人が現れる

ライスシャワーが降り注ぎ、紙吹雪が舞う中、ゆっくりと階段を下る二人

階段の中段辺りで、新婦が手に持っていたブーケを投げると、それを手に入れようと群がる女性達

そんな女性達を見ながら、レイは笑顔を向ける

シンジに向かって、彼に初めて見せたあの笑顔を・・・


後書き


レイの誕生日記念SSです

最初は痛かったですけど、最後には幸せになったんで良いですよね?

次の短編は何を書こうかな?

それでは

タッチでした




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