新たな家族
〜綾波レイの幸せシリーズ Vol.12〜
「ねえ、お母さん。レイおばちゃんどこか痛い痛いなの?」
四歳くらいの少女が病院の待合席に腰を掛けている母親に首を傾げながらそう聞いた
すると、母親は少女を抱き上げ自分の膝の上に座らせると、少女の身体を後から抱きしめる
「ううん、違うのよ。レイおばちゃんはこれから新しい家族となる子供を迎える為の準備をしているの」
優しい笑顔で少女の問いに答える母親
少女は母親の言葉に頷くと、レイが居るであろう部屋のドアが開くのじっと待った
少女を抱きしめている母親も同じようにドアを眺めていたが
馴染み深い男性の声が聞こえ、そちらに顔を向けた
「あ、洞木さん。来てくれてたんだ」
「こんにちは、碇君」
ヒカリはシンジに微笑み、軽く会釈する
「こんにちは、奈々ちゃん」
シンジはヒカリに会釈をし返すと、腰を屈め、ヒカリとトウジの娘、奈々に挨拶をした
「あ!シンジおじちゃん!こんにちは」
奈々はシンジに気がつくと嬉しそうに挨拶を返す
「こんにちは、ヒカリおばちゃん、奈々ちゃん」
シンジの後ろに居た聖夜も奈々達の前に行くと挨拶をした
「こんにちは」
ヒカリは聖夜に微笑みながら返す
「あ!聖夜おにいちゃんだ!おにいちゃん、遊ぼ!」
奈々はそう言ってヒカリの膝から降りると、聖夜の手を引っ張った
困ったような顔をシンジに向ける聖夜
するとシンジは微笑んで頷く
「良いよ、行っておいで」
「うん」
聖夜はシンジの言葉に嬉しそうに答えると、奈々の手を引いて病院の外へと向かった
そんな聖夜と奈々を見送った後、ヒカリの隣に腰を下ろすシンジ
「ありがとう」
「ううん、良いのよ。私は碇君とレイさんの友達なんだし」
シンジの感謝の言葉に微笑んで答えるヒカリ
「そう言えば、トウジは?」
ヒカリの答えにシンジは微笑むとトウジの事を訊ねた
「なんでも
『いくら友達やゆうても女房やないおなごの出産に男のワイが立ち会うのもなんか変やろ?家(うち)でおとなしゅう待っとるわ』
だそうよ」
苦笑しながらのヒカリの言葉に同じく苦笑するシンジ
「なんだか、トウジらしいな」
「そうね」
そんなシンジの言葉に返されるヒカリとは違う女性の声
二人が振り返ると、そこに居たのは・・・・・
「アスカ!」
揃って驚いた声を出すシンジとヒカリ
「ボクも居るんだけどね」
苦笑しつつ、小声で訴えるカヲル
「何よ!?アタシだってシンジとレイの友達なのよ?来たっておかしくないでしょ?」
だが、そんなカヲルのことなど無視して二人の反応に憮然とした表情で答えるアスカ
その胸には赤ん坊が・・・・・
「いや、アスカも子供が出来たから、子守が大変で来れないんじゃないのかなって思ってたから」
シンジが済まなさそうに言うと
「アンタバカ〜?アタシを誰だと思ってンのよ!アタシはそんな事くらいで来れなくなるほどヤワじゃないわよ!」
と返すアスカ
「確かに」
アスカの言葉にまたもや揃って頷くヒカリとシンジそして、二人に混じるカヲル
そんな三人を見て、アスカは自分で言った事なのに微妙な笑みを浮かべるのだった
おぎゃ〜〜〜!
分娩室前の廊下に響く、元気な赤ちゃんの泣き声
シンジは、ガタッと立ち上がると、ドアの前に駆け寄った
「お父さんですね?どうぞ」
ドアが開き、一瞬直ぐ目の前にいたシンジに驚いたものの、看護師はシンジに微笑みかけ、中に招き入れた
中に入ると、薄っすらと笑みを浮かべてベッドに横たわりつつ、自分の方を見ているレイと、赤ん坊を抱いているユイの姿があった
「お疲れ様、レイ」
シンジはレイにねぎらいの言葉をかけつつ、そっと髪を撫でる
「この娘の名前、考えてくれた?」
レイがシンジの行動を気持ち良さそうに受け入れつつ訊ねると
シンジはゆっくりと頷く
「うん、女の子だよね?
だから、今日この、2月14日という日を表すのにぴったりな言葉で
使徒戦の時、一番護りたかったレイとアスカの名前の一文字ずつを貰った・・・・・
『愛(アイ)』って名づけようと思うんだ」
「良い名前ね」
レイは口の中で何度も娘の名前を復唱した後そう言ってシンジに微笑んだ
シンジもレイに微笑み返す
しばらく微笑みあっていた二人だったが
「それじゃ、病室に移動しますね」
会話が一区切りついたと判断した看護師に声をかけられて、顔を真っ赤にして俯いてしまった
そんな二人を微笑ましそうに見つつ、三人の看護師のうち、二人はレイを移動用のストレッチャーに乗せ
もう一人はシンジからアイを受け取ると、新生児室へと連れて行った
分娩室を出た所で、アスカとヒカリに声を掛けられるレイ
レイはそんな二人に笑みを向ける
病室まで一緒に移動し、ベッドに移された所で三人は姦しくならない程度に賑やかに話し始めた
尽きる事が無いのではないかと思うほどに話は何時まで経っても終わる事が無かったが、やがて
スゥー、スゥー
レイの寝息が聞こえ始めた
出産という大仕事をこなした後なのだ、その大変さは子持ちである二人も良く知っている
だから二人は、そっとレイの傍を離れると、病室を出た
病室の前ではシンジとカヲルが楽しそうに会話をしていた
「何の話をしてるの?」
アスカが二人に声を掛ける
「まだ教えてもらってなかったから、カヲル君にアスカとの子供の名前聞こうと思ったんだけど、教えてくれないんだ」
苦笑しつつ、肩をすくめて答えるシンジ
「あら?決まってたかしら?」
アスカはおどけてカヲルに顔を向ける
「如何だったかな?」
アスカに応える様にいつものアルカイックスマイルを浮かべてとぼけるカヲル
「何で隠すのさ?」
「ひ・み・つ」
シンジが不思議そうに聞くとぴったり息のあった答えを返す二人
それは今ではよく見かける光景であり、平和の象徴のようなもの
そんな三人の掛け合いを、あの苦しかった時期を知っているヒカリは、ただ優しげな眼差しで見ているだけだった
「アイちゃ〜ん、じ〜じでしゅよ〜」
夕方になってやってきたゲンドウがガラス越しに二人目の孫に声を掛けている
その顔は相好が崩れる等と言う生温いものではなく、既に蕩けきってしまっていて・・・・・
「・・・・・」
その余りの崩れっぷりに普段のゲンドウを知るヒカリとアスカ、カヲルは呆然としてしまっている
ユイとリツコはそんなゲンドウをただ穏やかな笑みと共に眺め
聖夜は・・・・・
頬を膨らませて怒っていた
妹が生まれた事で父や母は妹に付きっきりになってしまう
ソレを子供らしい本能で感じ取っている聖夜としては、ゲンドウは自分のものだという意識があるのだ
それほど、ゲンドウは聖夜に懐かれていると言える
そんな聖夜の様子を敏感に感じ取ったユイが笑いながらゲンドウに声を掛けた
「ゲンドウさん、聖夜が拗ねてますよ」
ユイの言葉にゲンドウが聖夜のほうに振り向くと、頬を膨らませ、上目遣いに見ている聖夜の姿が
「おお、如何したんだ、聖夜?」
ゲンドウは慌てて聖夜を抱き上げた
その途端に機嫌が直る聖夜
「何だ聖夜、じ〜じが妹に取られると心配したのか?」
ゲンドウが優しく微笑みながら聖夜に問うと、こっくりと頷く
「大丈夫だよ。確かに聖夜だけというわけにはいかないがな」
微笑んだままそう言うゲンドウに
キュッ
聖夜はきつく抱きついた
レイは目が覚めると、面会時間が終わるまで、家族や友人に囲まれ、楽しい一時を過ごした
聖夜が生まれたときにも思ったことなのだが、生まれた子供が皆に受け入れられるのはやはり嬉しい
暖かな家族や友人の気持ちに触れ、レイはただ幸せを感じていた
後書き
ども、タッチです
このシリーズも始めて遂に12作目となりました
そろそろ幕を下ろそうかとも思ったのですが
「聖夜が結婚するまで書き続けなさい」
というtambさんの一言を受けて、コレ以降の幸せシリーズは聖夜達がメインのお話に変える事にしました(爆
一応、その為の新しいキャラを三人、今回出したのですが・・・・・
アスカとカヲルの子供の名前はまだ内緒です(爆
と言っても次のWD辺りで出すつもりではあるのですが・・・・・
皆さんでこの一ヶ月間で、二人の子供の名前を予想してみてください(笑
まあ、当たったからと言って何かあるわけでもないのですが
それでは
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