私の彼氏の碇シンジはとってもかっこいい。エヴァンゲリオンのパイロット仲間なんだけど、使徒と呼ばれる地球を侵略する謎の生物ををどんどん倒していく。

 今は葛城ミサトっていう30女のコブはついけるけど、現在私とシンジは同居中なの。シンジは家事も万能で、本当に頼れる男の子よ。でもシンジ、何か隠し事があるみたいなのとっても大事な事みたいなのに、彼女の私にも教えてくれないの。






 『LAS短編小説 〜時間逆行〜』






 私はこのごろ、ネットで二次創作小説って呼ばれる小説にはまっている。二次創作ってのは、要するに商業雑誌のアニメや漫画なんかをオタクの人間が勝手に利用して、原作の世界観を利用して作った同人誌やWEB上の小説の事ね。

 その二次創作小説の中に私がとっても気になる内容の小説があるの。『逆行物』っていうジャンルの小説なんだけど、原作で不幸なラストシーンを迎えた主人公がタイムスリップして、物語の第一話に戻って、悲惨な未来を変えていこうって言う展開なの。

 なんだが、『逆行物』の主人公を私、誰かさんに重ねてみちゃうの。バカよね、タイムスリップだなんてドラマやアニメの中だけの話なのに、現実にあるわけないのに。







 また今日も私達チルドレンに、生命の危機が迫っていた。使徒襲来、大きな目玉を3つも持った変な形の敵が衛星上に現れたのだ。

 ミサトの説明によると、使徒は自分自身が巨大爆弾みたいなもので、上空と言うよりも宇宙から一気に降下して、爆心地200KMの地上を消滅させてしまうんだって。

 第一弾は中国の田舎に落下して、その影響で2000人以上の人が死んでしまったそうだ。第二弾、第三弾は太平洋上に落ちて、誤差を確実に修正。次の第四弾はほぼ確実に、NERV本部に来るらしい。



 「シンジ、私達今度こそダメよ」

 「大丈夫だよアスカ。そんなに心配しなくたって。僕がなんとかするから」

 シンジと出会った頃は、使徒相手に強がっていた私だけど、今では素直に恐怖を表現さぜるを得ない。だって、もしシンジがいなかったら、私は今まで何度死んだ事やら。

 でも今回はさすがにダメだと思う。作戦は落下する使徒をエヴァ全機で受け止めると言う無謀なものだった。しかも成功確率は0,00001%なんて言う、万に一つもない絶望的な数値だ。

 いくらなんでも、勝てないよシンジ。絶対勝てっこないよ。



 私達の乗るエヴァンゲリオンは、スーパーコンピューターMAGIによって、使徒が落下されると予想される中心地点の周囲に、均等に三角形状で配置された。

 そう言えばシンジとまだキスもしてなかった。ああ、やっぱりそういう事は男の子の方からなんて意地張らずに、私の方から頼んでやってもらえばよかったわ。


 そんな事を考えて10分ほどエヴァの中でぼんやりしていたけど、オペレーターの日向さんの報告が、静かだった周囲の雰囲気を一変させる。

 「目標を最大望遠鏡で確認! 距離およそ2万5千!」

 来た、いよいよ来た。MAGIによる落下予測地点はエリアB-2。私達はMAGIの誘導に従って使徒をキャッチする作戦だった。でも、突然シンジの乗った初号機が誘導とは正反対の方向へ走り始めた。

 「シンジ、違うわよ。そっちじゃないわよシンジ」

 私は必死に叫んだけれど、シンジは疾走する方向を変えない。通信機器を通じて私の言葉は通じているはずなのに、どうして、どうしてなのシンジ。







 ?第7使徒 イスラフェル戦?



 今日は日本での私のデビュー戦。こんなひ弱そうな奴、私の手に掛かれば楽勝。シンジ見てなさいよほら、私に任せればこんなものよ。見事に敵は真っ二つでしょ。

 「アスカ、逃げろ!」

 あいつ、何わけわかんない事言ってるのよ。もう戦いは私の華麗な活躍で終わっちゃったじゃない。えっ、何アレ? 使徒が二つに分裂してく? げっ、アメーバみたいに完全に分離したわ。うわぁ、2体同時に襲い掛かってくるわ。

 !! 嘘、後ろから捕まれた。後方へ引っ張られていくわ。そんなバカな後方に敵がもう一体いたの? あれ、初号機。シンジ、勝手な行動した私を助けてくれたの?

 「大丈夫、アスカ」

 「う、うん」

 もし、あの時シンジが事前に危機を察知して私を助けてくれなかったら2体の使徒による同時攻撃で私はどんな目に遭っていた事やら。







 ?第8使徒 サンダルフォン戦?



 私は今、超高温のマグマの中で使徒と戦っている。唯一の武器であるプログナイフによる攻撃が使徒に通じない。ダメだ、このままじゃやられる。 でも、シンジが使徒に対する有効な攻撃方法を教えてくれた。

 「アスカ、熱膨張だ!」

 そうだ、これだけ高温に耐えて生活が出来る生物。熱膨張の原理で冷やせば、どんどん萎んでいくし、生物的にも低温は大の苦手のはずだ。私は弐号機右手の循環パイプを切った。そのパイプを使徒の口の中へ力づく出無理やり突っ込む。

 冷却液の圧力が全て自分が切った循環パイプに回っていく。もがき苦しむ使徒は口から必死に冷却液を吐き出そうとするが、水の勢いに耐え切れずに飲み込んでいく。

 しばらくすると、敵の激しい抵抗は徐々に弱まっていく。そして2、3分ほど時間が経過すると、使徒は完全に動きが止まり固まった。でも、私が乗っている弐号機も命綱のケーブルが切れて使徒と共倒れになってしまった。

 「ヤダな、ここまでなの」

 弐号機はゆっくりと落下を始めた。私はこの時、完全に死を覚悟した。でも、そうじゃなかった。

 「そんなことないよ、アスカ」

 いつの間にか初号機が通常装備のままマグマの中に飛び込んでいた。手をつかまれた感覚。私は地獄の底から地上へとシンジによって引っ張り上げられていく。私はまたシンジに助けられた。







 走馬灯のように私の頭に流れた過去。進んでいった時は今の時間へ引き戻された。

 使徒が地上へと急降下。ついに肉眼で確認できる位置にまで来た。なんと使徒は命令違反をしてMAGIの誘導に従わなかったシンジに向かって一直線に落ちてくる。

 どうして、どうしてわかったのよシンジ。何でそこに落ちると確信ができたのよシンジ。使徒の落下地点の完全な予測なんて誰にもできるわけないのに。

 私は慌てて方向転換をして使徒の落下位置に向かって走るが、まるっきり正反対の方向にいたので、もう間に合うわけがない。使徒を受け止められる位置にいるのはシンジだけだ。

 「ATフィールド全開!」

 リツコから、最低でもエヴァ2機の力がないと受け止められないと言っていた使徒を初号機は単独であっさりと片手でキャッチしてしまった。それもそのはず初号機のシンクロ率は96%と表示されていたのだ。私なんて60%が自己最高記録にも関わらず。

 使徒の弱点である赤いコアに向かってプログナイフを突き刺すシンジ。敵は力を失い、初号機と衝突していた際に発生していた光も消えてなくなる。そして、使徒は力を失い地上20Mの地点から地面へ叩きつけられ爆発する。

 しかし爆発したと言っても戦闘のダメージによって、威力は極めて小規模なものだった。初号機にもダメージを与えられず、犠牲者もゼロ。戦いは私達の圧勝だった。







 絶対絶命の危機を万に一以上の奇跡で乗り越えたとは私にはどうしても思えなかった。この勝利はシンジの力による必然だと考えざるをえなかった。

 そして、私は今日の戦いでますます疑いを深めた。やっぱりシンジは未来を知っているんじゃないかって。シンジの使徒戦での行動はいくらなんでも的確すぎるもの。

 シンジの秘密を本当に聞いていいんだろうかって、すごく迷ったんだけど、家に帰って2人きりになった時に私は思い切ってシンジを尋問した。

 「ねぇ、シンジ」

 「何、アスカ」

 「そのシンジってさ未来知ってるんでしょ?」

 言ってしまった、ついに言ってしまった。シンジは驚きのあまり一瞬ぽかんと口を開いたが、すぐに苦笑をする。

 「えっ、それ何のギャグ? それとも、TVドラマや漫画の話?」

 やっぱり私には何も教えてくれないんだろうか。適当にごまかして同居人である私にも重大な秘密を隠し続けるんだろうか。

 イヤだ、そんなのイヤだ。私とシンジはただ家族ごっこしているだけの仲じゃない! 私もう決めてるの、将来は絶対にシンジのお嫁さんになるんだって!

 「嘘はやめてよ。だったらどうして、使徒の落下地点がどんぴしゃりでわかったのよ。絶対おかしいじゃない。あんな事誰にもできるわけない。今日だけじゃない、シンジは使徒と戦う時、いつもいつも私達の行動を先回りしてるわ」

 大好きなシンジに私はあえてきつい口調で迫った。シンジはおろおろと戸惑っている。

 「お願い。本当の事、話してよシンジ」

 私は涙があふれ出てきたのを感じた。女の涙なんて卑怯かもしれない、でも私にそれを止めることはできなかった。それを見てシンジは『はぁ〜っ』とため息をつきながら重い口を開いてくれた。

 「今まで隠していてゴメン。実は僕は」







 シンジは全てを私に教えてくれた。やっぱりシンジは未来を知っていた。サードインパクトが起きてしまった世界から、今私達がいる時代へタイムスリップしたんだって。

 とにかくシンジの話は驚きの連続だった。出会って最初の頃はともかく、世界が終わる最後の最後までエヴァのパイロットとして、私がシンジの事をずっ〜と一方的にライバル視してたなんて。

 シンジのシンクロ率が私の数字を上回った結果、私はすっかり精神不安定の状態に陥ってしまったそうだ。さらに、そんな心が弱っている時に第15使徒の精神攻撃を受けた私は、過去のトラウマが再発して完全に精神病になっただなんて。

 さらにシンジが私にレイプ同然の事をしたと聞いたときには驚きのあまり声もでなかった。本当は前のアスカに謝らなきゃいけないんだけど、もうそれは今となっては不可能だからと言ってシンジは何度も何度も今の私に謝罪してきた。



 私とシンジは前の世界じゃ家族ごっこをしていただけの関係だったのかもしれないが、現在は恋人同士。私を襲ったことに罪悪感なんて持ってはいけない。だから私は

 「じゃあ、シンジ、今日は私の方からシンジの事を襲っちゃうわね。逆レイプって奴よ。これでおあいこでしょ」

 さすがに本当に最後までやっちゃう勇気はまだなかったので、私はシンジの背中に腕を回すと、唇にチュっとキスをした。もちろんこれが私のファーストキスだった。

 でも後で聞いたら、シンジの方は前の私に一度だけ『暇つぶし』と言う理由でキスされた事があるんだって。ううっ、なんか悔しい。





 後書き

 始めましての方も、そうじゃない人もこんにちわトマトです。この作品は私としては始めての典型的(?)LASです。いつもは強気なアスカを書く私ですが、今回はあえて、可愛らしいアスカに挑戦してみました。

 それにしても今までの私のSSと全然作風ちがうわコレ。こんな事言っても一部の人にしかわからないと思いますが。最後に感想メールをお待ちしております。『新世紀ヤナイの巣』の他の作者さんはわかりませんが、私の場合は批判的なコメントもOKです。




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