恋心


カララン♪

ドアベルの鳴る音に僕は振り返る

喫茶店の入り口には思った通り、レモンティー色の髪を持つ少女が

僕は微笑みながら

「いらっしゃい」

少女に声を掛ける

「店の前を通りかかったら暇そうだったから、来てやったわよ」

屈託の無い笑顔でそう言いながらカウンターの席に座る少女

「おいおい、暇そうは無いんじゃないか?」

この店のマスターが、少女の言葉に苦笑しながらそう言うが

「本当の事じゃない」

少女は笑いながら尚も言い募る

マスターと少女の掛け合い漫才を聞きながら、僕は少女の為に紅茶を淹れる

彼女の好みに合わせた、ロイヤルミルクティー

彼女は味に煩くて、ちょっとでもミルクが多かったり、紅茶が濃かったりするとすぐに文句を言ってくる

それに、温度にも煩い

紅茶の最適温度は70度

それよりも熱くても温くても駄目

そんな彼女に

「美味しい」

そう言って貰うと、とても嬉しくて

だから彼女の為に一生懸命に紅茶の勉強をした

その、一生懸命勉強した紅茶を

「どうぞ」

彼女に差し出す

「有難う」

少女は軽く微笑むと、優雅にカップに口をつける

僕が一番緊張する瞬間

紅茶が少女の喉を通っていき、しばしの沈黙

やがて少女は僕のほうを見ると

「また腕上げたんじゃない?美味しいわよ」

ニッコリと笑ってそう言ってくれた

小躍りしたくなるのを何とか堪える僕

彼女の微笑をこの瞬間だけは僕だけのモノに出来たのだから

それでも、それだけじゃ満足できない

僕は彼女が好きだから

彼女の全てを僕のものにしたいと思う

でも、僕は彼女に告白なんか出来ない

彼女とのこの関係を壊したくないから

いや、それ以上に、拒絶されるのが怖いから・・・・・





カララン♪

ドアをあけた瞬間鳴るドアベル

その音に気がついた少年が、私の方に振り返り、笑顔で声を掛けてくれる

そんなに美少年ってわけじゃないけど

その顔に浮かぶ笑みはとても優しくて

だから、私はこの喫茶店に入る瞬間が一番好き

今、その笑顔を向けられているのはアタシだけなんだと思って・・・・・

でも、それを悟られるのが悔しいから、ワザと軽口を叩きながら席に座る

マスターはアタシの気持ちに気がついてるんだと思う

軽口に乗って、アタシの前まで移動してくる

そうなると、飲み物を作るのは彼の役割になるのだから

マスターと話している間も、チラチラと彼の顔を盗み見てしまうアタシ

そんなアタシを、からかうような笑顔で見るマスター・・・・・

思わず照れ隠しに、マスターに突っかかってしまう

それを大人の余裕で避わすマスター

なんだか、漫才をしている気分になってしまう

その間に彼はコンロの前に移動すると、牛乳を沸かし始める

牛乳が十分に温まったところで、その中にダージリンの茶葉を淹れ、蒸らす

紅茶にミルクを入れるのではなく、温めた牛乳で煮出すロイヤルミルクティー

彼の作るこの紅茶が今のアタシのお気に入り

彼が、アタシの為だけに作ってくれるのが嬉しくて、恥ずかしくて

だからついつい文句を言ってしまう

すると彼は文句も言わず作り直す

申し訳ない気もするけど、アタシ好みの味になっていくのが嬉しくて、ついつい文句がまた出てしまう

でも、最近文句が言えなくなってきた

だって、本当に美味しいんですもの

なんだか、悔しい

それでも美味しいって彼に笑顔で伝える

彼の心を掴み取りたくて

でも、アタシから告白する勇気なんて無い

アタシは必要とされてないかもしれないから

アタシを見てくれてないかも知れないから・・・・・





カララン♪

ドアベルが鳴り

「いらっしゃいませ」

今日もシンジ君の明るい声が店内に響く

「今日も来たわよ」

最近よく来るようになった少女、アスカちゃんがシンジ君に笑顔で声を掛けている

こう見ると、お似合いな二人なんだがな・・・・・

俺はそう思う

だが、二人は今のぬるま湯な状況に満足してしまっている

それでは駄目だ

俺の中のお節介が首をもたげ

如何しようかと思った俺の頭に、あるアイディアが閃いた

「済まんがシンジ君。ちょっとお店頼むよ」

俺はそうシンジ君に声を掛けると、奥に引っ込む

コレで二人っきり

俺はほくそえみながらも、最後の詰めに取り掛かる

掛け慣れた電話番号をプッシュしていき・・・・・

Prrrrr・・・・・Prrrrr・・・・・

『もしも〜し』

色気とかけ離れた女性の声が電話先に出た

「おっ!葛城、俺だ俺!実はちょっと相談があってな」

俺の言葉に

『なんだ、加持君か。で、相談って何?』

眠そうに答える葛城

「済まんが、今度一緒に行く予定にしてた映画なんだが・・・・・キャンセルさせて貰えないか?」

そう言うと、俺は素早く受話器から耳を離す

予想通り、受話器から

『ぬわぁんですって〜!!ちょっと加持!如何いうつもりよ!?』

ミサトの大声が聞こえてきた

「そう興奮するな、葛城。何もお前と行きたくないとは言ってない。ただ、今回だけは他の人間に譲りたいんだよ」

俺は受話器を耳に当てなおすとそう言う

俺の言葉にピ〜ンときたのだろう

『他の人間?ははぁん。ひょっとして加持君、よく話してくれる、あの二人?』

と聞いてくる

まったく、他人のこういう事にだけ嗅覚が鋭くなりやがる

俺が何回遠まわしにとは言え、プロポーズしたと思ってるんだ、こいつは

そんな事を思って心の中でさめざめと涙を流しながら

「そう、あの二人だ」

と返す俺

『ふ〜ん、それなら良いわよ』

あっさりと了解してくれるミサト

よし、これで詰めもばっちりだ

「そうか、サンキュウな葛城」

俺はそう言うと、電話を切る

早速店に戻るが、入る前に二人の様子を確認する

楽しそうに会話している二人が目に入る

よし、良い感じだ

「シンジ君、ちょっと相談があるんだがな」

話が一段落ついたであろう時に声を掛ける

「何です?加持さん」

シンジ君とアスカちゃんが不思議そうに俺の方に向く

「実は、今度葛城と一緒に映画見に行く予定にしてたんだが、向こうの予定が狂ってね、行けなくなったんだ。で、シンジ君行かないか?」

俺は適当な理由をつけてシンジ君に映画のチケットを見せる

「え、でも、余り映画見ないんですよね」

と言いつつもチケットを受け取るシンジ君

「か、加持さん!コレ、恋愛物じゃないですか?」

焦るシンジ君

「何言ってるんだシンジ君、当たり前だろ?俺の彼女と行こうとしてた映画なんだから」

そんなシンジ君の様子を楽しみながら、しれっと答えてみせる

「え、で、でも僕、一緒に行く相手居ないですよ?」

あたふたしているシンジ君を見て、俺は心の中でニヤリと笑うと

「アスカちゃん、空いてない?」

少女に話を振る

「え?あ、空いてますけど・・・・・」

チラッとシンジ君の方を見て答える少女

「じゃあ、シンジ君。アスカちゃんと行って来たらどうだい?アスカちゃん、迷惑かな?」

シンジ君が

「そんなの迷惑に決まってるじゃないですか」

と言うのは分かっているから、先に確認する

「い、いえ、別に迷惑ってことは・・・・・」

顔を赤くして俯きながら答えるアスカちゃん

俺の先制と、アスカちゃんの答えに

「あ、あう。そ、それじゃあ、一緒に行って貰えますか」

俯きながら、片方のチケットを差し出すシンジ君

「は、ハイ」

アスカちゃんも、真っ赤になって俯きながらも、しっかりと受け取ってたし、めでたしめでたしだな





「あ、あの、お、面白かったね」

映画を見終わった二人は、何気に手を繋いで映画館から出てくる

「う、うん」

二人の顔はこれでもかというほど真っ赤に染まってしまっていて、微笑ましい

それでも繋いだ手を離さないのは、二人の心が近付いた証拠

「ふっ、上手くいった様だな」

そんな二人を眺める影が二つ

「わっかいわねー」

女性がそう言うと

「お前は若くないからな、早く何処かに落ち着かないとな」

男性がそう返す

「あら、落ち着き先は決まってるのよ。ただ、誰かさんが何時まで経っても遠まわしにしかプロポーズしないからはぐらかしてるだけで」

そう言って、チシャ猫のような笑顔を見せる女性

「まいったな」

男性は、頭を掻くと

「それじゃ、今度のデートの時にでも、正式に申し込ませてもらうよ」

と、男臭い笑顔を浮かべて宣言する

「ふふふ、待ってるわ」

女性はそう答えると

「あの二人は、まだまだこれからでしょうね」

視線の先に居る、初々しい二人を眩しそうに、でも優しい眼差しで眺めた





後書き

ども、タッチです

7777HIT記念競作作品完成です

こんな形のSSもありですかね?(笑

それでは





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