夕下がりの公園。
そこのベンチに二人並んで腰掛けている少年と少女がいた。
「そういえばさ、マナ。
どうして今日は僕を呼んだの?」
「…………」
「ねえ、マナぁ?」
「その……言いにくいんだけど…
…別れて、くれない?」
「……え?」
「その、別に深い意味はないの…
ただ、飽きちゃったから……」
「……そう。」
「あ、でも、いままでどおり、仲のいい友達同士でいましょうね!」
「……うん。」
その振られた少年、碇シンジはとぼとぼと帰っていった。
噂の転校生
シンジはとぼとぼと帰路に就く。
と、もうすぐ家に入ろうかというそのとき、後ろから思いっきり小突かれる。
「ったく、バカシンジ!
なんでいつもそういう陰気くさいのよ!」
その声の主はそれだけ言うともう一発シンジを小突いた。
「ったく、アスカ……
よしてくれよ、元気ないんだから…」
が、そのアスカと呼ばれた少女は遠慮しない。
「そこまで元気ないとは、さしずめマナにでも振られたってところじゃないの?」
「………」
さらにシンジは沈み込む。
さすがにアスカもまずいと思ったのか、一応フォローしようとする。
「え、ままままさか、本当に振られたの?
……ま、まあ、アンタとマナじゃ不釣り合いだったものね…
やっぱりアンタには…」
「いいよ、どうせ僕なんかはマナととても釣り合わないよ…」
結局フォローにならず、さらにシンジは落ち込む。
「まあ、まず家に入ったら?
風邪引くわよ?」
「……」
嫌そうに入っていくシンジ。
そんなシンジを見て、アスカはある重大なことを思い出した。
シンジにとって最強の敵、碇夫妻の存在があったことを。
次の日。
あの熾烈な拷問をくぐり抜けて、いくらか気分が楽になったのであろうシンジと並んでアスカは登校していた。
そのシンジの横顔を見て、アスカはため息を漏らす。
≪ったく、あたしの気持ちがわかんないのかしら…この馬鹿シンジは…≫
しかし、落ち込んでばかりでもいられない。
アスカはシンジに対し口を開いた。
「あのさ、シンジ。
今日、転校生が来るらしいって、ヒカリが言ってたケド。
なんでも、女の子らしいってさ…」
「そうなんだ……
可愛い子だといいなぁ…」
「……」
「本気で殺してやろうか」、そのときアスカはそう思ったという。
教室に入るシンジとアスカ。
その二人をいきなり茶化す二人がいた。
ジャージとメガネ、他ならぬトウジとケンスケである。
「おっ、センセら、今日も夫婦で登校か。」
「羨ましいよ、ホント。」
「じゃがわしい!」
芝居がかかった仕草をするケンスケをキック一発でノックアウトするアスカ。
と、後ろからお下げ髪の影が接近し、トウジを一発で殴り飛ばす。
「す・ず・は・らぁ〜〜〜〜〜」
「い、委員長か!?」
トウジは殴られた後頭部をさする。
それはそう、2年A組の委員長ことヒカリだった。
「もう、鈴原!
今日日直なんだから、人をからかってないで働く、働く!」
「へ〜い…」
文字通りヒカリに引きずられるようにしてトウジは去っていく。
その光景を見てケンスケがボソッと呟く。
「トウジ…完璧に尻に敷かれてるな…」
ガラガラガラッ
教室の戸を開けて、担任のミサトが入ってくる。
「すでに話を聞いている人もいると思うけれど、本日、この2年A組に転校生が来ることになりました。」
そこで言葉を切ると、その年の割に幼そうにも見える瞳で生徒全員を見回した。
驚く者、別に何とも反応しない者、顔に「やっぱり」と書いてある者。
「そして〜、喜べ男子生徒諸君!
その転校生は美少女だっ!」
「『「おぉ〜〜〜〜」』」
期待に満ちた声を漏らす男子生徒達。
「じゃ、入ってきて、綾波さん!」
「は〜〜い!」
ドアの向こうから、蒼銀の髪に深紅の瞳、そしてその神秘的な外見に似合わないような溌剌とした雰囲気を携えて、その転校生は飛び込んできた。
「綾波レイです。
前は第弐新東京の方にいました。
まだ彼氏もいないし、分からないことも多いので、よろしくお願いします!」
ぺこっと礼をすると、にっこりと微笑むレイ。
その笑顔のせいで、前の方に座っていた男子生徒は四、五人失神した。
「んじゃあ、空いている席は…と、シンちゃんの隣ね。
綾波さん、あそこの頼りなさそうな男の子、碇君の隣ね。」
「は〜い」
レイはシンジの隣の席に座ると、さっきよりもさらに綺麗な微笑みをシンジに向けた。
そのままシンジは幸せそうな顔をして倒れてしまう。
「あれ? 碇君?
碇く〜ん……」
「ちょっと、転校生!
何シンジをたぶらかしてんのよ!」
「ふ〜ん………」
レイは面白くなさそうな目でアスカを見た。
「そういうこと。」
「違うわよ!
アタシとシンジはなんでもない!ただの幼なじみ!
ただ、アンタみたいな変なのがまとわりついたら、シンジんとこのおばさまとおじさまが困るでしょ!」
とたんにレイの目が輝く。
「つまり、ユイお義母様とゲンドウお義父様に、正当な恋愛であることをお見せしてこそ、真に結ばれし者になれると言うことなのね。そうね。」
「はあ?
なんでアンタがシンジの両親の名前知ってるの?
それ以前に、『お義母様とお義父様』とは何様のつもりなの?」
「あなたには関係ないわ。」
一言で切り捨てる。
そして、心の中でこっそりと呟く。
「ユイお義母様、これがあなたのおっしゃっていた『シンちゃん攻略の際の最初で最後、そして最大の敵』なんですね。」
そのころ、碇邸では。
「それにしてもユイ。シンジにはアスカ君が居るんだぞ。
わざわざ許嫁を用意してやらんでも……」
「あら、両手に花というのは男の理想ではなくて?」
「…………」
自分の伴侶はこんな人間じゃなかったはずだと、心の底で思ったゲンドウだった。
後書き(という名の言い訳)
遅くなってごめんなさい!
ゲンドウ「他に言いたいことはないか」
ミレア「問題ない。」