Memories AYANAMI REI ── その存在の記憶

Written by 柳井ミレア


STAGE.1


 レイは特に何の感情を持つわけでなく、エヴァのエントリープラグに座っていた。
 既にエヴァとのシンクロもおおよそ安定し、データ収集を目的とした今回のシンクロテストはたいしたものではない。
 それでも、モニタの向こうではオペレーターたちがせわしなく点検をしている。
 レイはそれを眺めながら、起動の時を待った。


 いつものように、頭に流れ込んでくる感覚。
 しかし、その片隅に、どこか違和感を感じる。
 その違和感はやがて、もっと具体的なカタチになってレイの脳を襲った。


──ワタシハ消エテシマウノ?
──何モナイ虚空ヘト消エテシマウノ?
──ソシテ、世界モ。

「あなた、何が言いたいの?」

──アナタハ消エルコトガ怖クナイノ?

「それが定めだから」

──デモ、怖イノヨ。

「ワタシはそのために作られたわ」

──ソレデイイノ?
──ソレデイイノ?
──ソレデイイノ?

「…………」


「パルス逆流! 中枢神経素子にも拒絶が始まっています!」


 正常を保っていたかのように見えた零号機が、突如小刻みに震え始めた。
 そして次の瞬間には、拘束具を突き破り、中に乗るレイの一瞬の葛藤を増幅させ苦悩の様相を見せ、そして暴走する。


「コンタクト停止! 6番までの回路開いて!」
「神経拒絶、ダメです! 零号機、制御不能!」
「実験中止! 電源を落とせ!」
「零号機、予備電源に切り替わりました! 活動停止まで、後35秒!」


 アンビリカルケーブルが切り離され、内部電源に切り替わった。
 それでもまだ零号機は動き続ける。
 そして拳を、ガラスの向こうにいるゲンドウの方へと向ける。
 しかし彼は何を思うのか、一歩たりとも下がらない。


「司令、危険ですので下がってください!」
「オートイジェクション作動!」
「いかん!」


 レイの乗ったエントリープラグが強制排出される。
 それを見るとゲンドウは、掛けていた眼鏡が落ちるのも構わず脱兎のごとく掛けだした。


「レイッ!」
「ワイヤーケージ、特殊ベークライト急いで!!」


 加熱したエントリープラグのハッチを素手でこじ開けたゲンドウは、レイの方を見て少し表情を緩ませた。
 しかしレイは僅かながら、自分にも気付かないほど僅かながら、一つのことを確かめていた。
 彼が本当に心配しているのは自分ではないと。


「レイ! 大丈夫か、レイ!」
「はい……」
「そうか、よかった……」


 そう掛けられた安堵の声すら、自分に向けられてはいないことに………

STAGE.2
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新世紀エヴァンゲリオンは(株)GAINAXの作品です