今日、3月30日。
 シンジは突然夜中に目を覚ました。
 シンジにとっての大きな試練を思い出した。
 そう、他ならぬ愛しの人、レイの誕生日……

真心を、君に…


 ここ数日は、いろいろと立て込んでいて忙しく、レイの誕生日プレゼントなんて全く用意していなかった。
 レイは誕生日を毎年心待ちにしている。
 去年は一ヶ月前からしつこく言われ続けた。
 もうシンジに残された時間は僅か。
 低血圧の彼女が起きてくるまでの数時間が勝負だ。
 シンジは急いで台所に走る。
 彼女を食べ物で誤魔化せるとは思えないが、とにかく何か無いかと探す。

「ないかぁ〜〜」

 何も見つからず、落ち込むシンジ。
 「忘れた」と言ったときのレイの落ち込みよう、それがありありと目の前に浮かんでくる。
 今までにあったわけではないが、彼女が、日頃少しでも悲しそうなそぶりをするごとにシンジの心は痛む。
 もしレイに素直に「忘れた」と言ってレイを悲しませようモノなら、シンジの心も崩壊してしまうであろう。
 約束の時まではもう間近だ。

「もう…ダメなのか……」

 絶望的な気分に浸るシンジ。
 と、電話のベルが鳴る。

「はい、碇です……」
『私だ。』
「と、父さん?」
『そうだ。』

 受話器の向こうでにやりと笑うゲンドウ。

『レイの誕生日のプレゼントがないと、困っているだろう?』
「な、何故それを!?」
『ふっ、やはり困っていたか。』

 何故かこのことを知っているゲンドウ。
 シンジはとっさに、『最近忙しかったのは、父さんのせいか。』と悟る。

『もしプレゼントに困っているのなら、私が指輪を買っておいたぞ。』
「指輪……?」

 若干嫌な予感がするシンジ。
 が、この際贅沢はいっていられない。

「父さん、譲ってくれない?」
『……2万円だ。』
「……は?」
『2万円で譲ってやろうというのだ。』
「……非道い、非道いよ……」
『問題ない。』

 結局、シンジが払うことで折れた。

『ふっ、幸せにな…』
「??」

 意味ありげなゲンドウのセリフに困惑するシンジ。
 程なくして玄関のベルが鳴る。

「シンジく〜ん、参上よ〜ん!」
「ミミミ、ミサトさん!?」

 指輪を届けに来たのはミサトだった。

「はい、これ。
 で、はい、2万円いただき〜〜」

 よく飲み込めないままに指輪らしき箱を受け取るシンジ。
 その箱は綺麗に包装されており、開けるわけにはいかない。
 若干不安に思いながらも、とりあえず布団に潜り込むシンジ。


 そして、夜が明ける。
 今日の朝食当番はレイ。
 いつものように少し軽い朝食。

「綾波……」
「碇君…?」

 シンジは意を決すると、ゲンドウから買った小箱を差し出す。

「ハッピーバースデー!」

 不思議そうに包みを取り、箱を開けるレイ。
 と、箱を開けたとたんに真っ赤になって固まるレイ。

「どうしたの、綾波?」

 猛烈に嫌な予感のするシンジ。
 レイは一転して明るい表情に変わる。

「そうね……碇君…やっと決心が付いたのね……」
「え?何を言っているの?僕には分からないよ?」
「とぼけても無駄よ……」

 とたんにレイの持っている紙をひったくるシンジ。
 その紙を一目見るなり、一気に固まるシンジ。
 それは、「婚姻届」だった。
 シンジとレイの名前も入り、シンジの分に至ってはサインまでしてある……

「ねぇ、シンジぃ?」

 あえて『シンジ』と呼ぶレイ。

「あああ、その、これは、父さんが勝手に……」

 どもるシンジ。
 しかし、すでに同棲生活をして3年になるレイの前では通用しない。
 とたんに悲しそうな顔をするレイ。

「そうなのね…
 私となんて、所詮、うっ、碇君は、私が嫌いなのね……」
「そ、そんな、そんなことないよ!
 僕は、綾波のこと、嫌いなんかじゃない!
 ……
 好きだよ。」

 真っ赤になるシンジ。
 レイは心の中で真っ赤な舌を出す。

≪碇君…単純すぎるわ…≫

「ハハハハハハハハハ!!」

 こらえきれなくなって笑い出すレイ。

「非道い、非道いよみんな……」
「何を言っているの、碇君。
 式は6月がいいわ。
 やっぱり教会でやるに限るわね……」

 妄想モードに突入するレイ。
 シンジもシンジでもはや壊れきっていた。

「綾波と僕が、結婚?
 そんな、早すぎるよ……
 ……
 でも、悪くないかもしれない……
 ……」


 その後、ゲンドウがモニター画面を見ながら「フッ」と不気味に笑っていたらしい。


あとがき
遂に公開しました。
1日で書いたため、穴だらけかも…(爆
tambさんのところに投稿したホワイトデー記念同様、ゲンドウがお茶目です(爆

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