第十六使徒アルミサエルが、零号機を侵食していた。レイの体も侵食されていく、あまりの苦痛に苦悶の表情のレイ。
「シンジ君、A.T.フィールド展開、レイの救出急いで!」
「はい!」
「A.T.フィールド反転、一気に侵蝕されます!」
「使徒を押え込むつもり!?」
「レイ、機体は捨てて、逃げて!」
「だめ、私がいなくなったらA.T.フィールドが消えてしまう。だから、だめ…」
「レイ、死ぬ気?」
「コアが潰れます、臨界突破!」
レイは、パイロットシートの座席を空け、赤いレバーを握った。



「始めて碇君に出会った頃、私には何も無かった…心さえも」
《―――私の心は凍っていた―――》

「学校では、何時も碇君が笑顔で挨拶してくれたの…」
『綾波、おはよう』
「いつしか、私も笑顔で挨拶を言える様になってた…」
 『おはよう、碇君』
《―――凍てた私の心が融け始めた―――》

「碇君は、休み時間に何時も私のそばに来てくれて、色んなお話をしてくれる…」
「読書ばかりだった、意味の無い時間が、いつの間にか碇君との会話の時間になってた。私も、笑顔でお話できるなんて…」
《―――私の心の氷が、どんどん、どんどん、融けていく―――》

「第五使徒戦の時、覚えてる?」
「手に妬けどしてまで、私を助けてくれたこと…そして、私にかけてくれた言葉…」
『自分には…自分にはほかに何も無いなんて、そんなこと言うなよ…』
『別れ際にさよならなんて、悲しいこと言うなよ…』
《―――私の心が暖かくなった―――》

「碇君…始めて二人でお出かけした日の事、私絶対に忘れない」
「お互いの手が触れ合った時、碇君、真っ赤になって照れていたわ、そして私も…」
「私もドキドキしてた、心臓の音が聞こえるんじゃないかって心配してた…だって恥ずかしいもん」
《―――私の心に恥ずかしいと言う感情が芽生えた―――》

「碇君の誕生日、碇君から教わりながら、始めてお料理をした」
 『綾波、はいエプロン、僕のお古でごめんね』
 『綾波、覚えるの早いね、とっても上手だよ』
「私に誕生日が無いのを、碇君しってて大きなケーキのロウソク…」
 『綾波、一緒に消さない?ふ〜って吹いて消すんだよ』
《―――私の心に碇君が住み始めた―――》

「ずっと一人で住んでいる私の部屋、以前は何も感じなかった…でも今はさみしい…一人だから…碇君が居ないから…」
《―――碇君、碇君、碇君―――》

「葛城三佐の昇進パーティー、碇君、惣流さん、洞木さん、加持さん、赤木博士、鈴原君、相田君、みんな集まった」
「碇君の隣に座って、お話沢山して、初めて食べたピザ、碇君が、お野菜だけのピザを頼んでくれてた…」
 『綾波、食べたい物を言って、とってあげるよ』
「みんなでゲームをした。始めての事ばかり、とっても楽しかった」
《―――碇君、碇君、碇君―――》

「碇君とのデート、おしゃれを覚えた。お洋服、靴、リップクリーム…」
「碇君と映画を観て、お食事した時、碇君が告白してくれた…嬉しい、とっても嬉しい、涙が出た…」
「こんなに嬉しいのに、どうして涙が出るの?」
 『あ、綾波……あのさ…あの…あ、綾波の事、好き…なんだ、ぼ、僕の彼女になってくれない?』
「……私も碇君の事……好き」
《―――好き、好き、好き、大好き―――》

「碇君、クリスマスの時の事、覚えてる?」
「ちょっぴり背伸びして、レストランでお食事したね」
 『綾波、わ、渡したい物があるんだけど…受け取ってもらえるかな?』
 『何?』
 『これ、なんだけど…』
「碇君からのプレゼント、うれしかった。中身を見たら、もっとうれしかった」
「だってペアの指輪だったんですもの」
 『つけてあげるね』
 『うん…ありがとう』
 『じゃ、私も碇君に…』
 『ありがとう、綾波』
「私、とっても幸せ」
 『二人の絆だね』
《―――ずっと、ずっと碇君と―――》



レイは、赤いレバーを引いた。
ドーーーーーーーーーン!
シンジの目の前で、零号機が光の球体の中に消えていく。
遅れて、爆風と轟音が走り抜ける。
「綾波―――――!」
「目標、消失…」
「綾波…嘘だろ…嘘だーーー! 綾波! 綾波! 返事してよ! 綾波!」
シンジが狂ったように叫ぶ、涙がとめどなく溢れ、心が張り裂けそうになる。
「綾波…」
 …
《碇君》
「は! 綾波? どこ? 綾波!」
シンジはレイの声を聞いたような気がして、捜し求める。
すると、初号機の頭上に透き通ったレイが見えた。
「あやなみ?」
透き通ったレイは、シンジに微笑むと、弾ける様に消えていった。
沢山の光る羽が、大空から振り落ちる。
シンジは初号機の右腕でそっと受け止めるが、光る羽はしばし留まった後、初号機の手の平に吸い込まれるように消えていった。
その瞬間、シンジの右手の手の平に、確かにレイの温もりを感じた。
「綾波…僕達は一つになったんだね…綾波…」



《ありがとう、碇君》




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