NERVに就職したばかりの前原進(まえはらすすむ)は突然、上司の赤木リツコに呼び出された。 「お久しぶりです。赤木博士」 「来たわね。仕事の方はどう?」 「一段落させて頂きました。今後の配置換えの事もありますので」 「本当のところを言うと一人でもスタッフを失うのは痛いんだけど、マギにシュミレーションさせたらあなたの名前が出てきたのよ」 「光栄です。と言っていいのかどうか。まだ新しい任務の内容も知らないですし」 リツコが机の上にあった資料を手に取る。 「あなた教員免許とカウンセラーの資格を持っているんですって。どうして教職関係に就かずにNERVに就職したの」 「……教師をするより、世界を救うと言うNERVの仕事にやりがいを感じたからです」 前原はまるで面接試験の時のような模範的な解答をした。だが、まんざら嘘をついているつもりはない、大学では教職免許を取るために学校に通っていた。 しかしNERVの就職案内の募集を見てそれは変わった。募集紙を見ていた時の前原は霊にでも取り付かれたようになってしまった。わずか一枚のぺらぺらの紙を一時間も二時間も食い入るように見つめていた。 それが何故だったかは今でもわからない、しかし俺は何故かNERVに就職しなければいけないと強烈に思った。今まで大学受験ですらいい加減に済ませてしまった自分がNERVに入るために猛勉強を開始した。 「まぁ、いいでしょう」 居住まいを正して、赤木博士は本題に入った。 「これからあなたをある人物から引き合わせます。その人物を教育することが、新しい任務です」 「……教育ですか?」 いくら教職やカウンセラーの資格を持っていると言っても、俺はまだ実際の現場に立ったことは一度もない。 「教育、と言うよりも保護者代理と言った方が正確かもしれないわね。とりあえず私についてらっしゃい」 赤木リツコと前原進はNERV本部の最上部『総司令公務室』へと向かった。 「司令、赤木リツコです。例の件でやって来ました」 「入りたまえ」 彼らは、自動ドアを開き、中に入った。 広々とした公務室の中には、NERVの最大権限者である碇ゲンドウ総司令と見知らぬ少女がいた。少女の年は中学生くらい。左目に眼帯をつけ、体中に包帯が巻かれた痛々しい姿だった。砂浜のように白い肌。海を連想させる髪の色。そして血のように赤い瞳。 「赤木博士。もしかして、この子を教育しろって事ですか?」 「ええ。保護者代理としてファーストチルドレン綾波レイに健全な育成を施すことがあなたの任務です前原3尉」 「了解しました。赤木博士」 綾波レイと前原進の対面、ここから物語は始まる。 〜綾波成長計画〜 よう、俺は前原進(まえはらすすむ)。国連指揮下にある秘密組織NERVの新入職員だ。 今は、上司である赤木博士から貰ったファーストチルドレン綾波レイの資料を見ている。それにしても大変な過酷なスケジュールだなあの子。昼間は学校、夜はNERVの訓練。全然遊ぶ暇ないじゃん。 幼い頃からず〜っと、NERVに暮らしていて、なんとあの碇司令が、つい昨日まで保護者をしていたらしい。おいおいあの何者も寄せ付けない恐ろしいオーラを漂わせている男に『教育』なんてできるわけないだろ? その保護者に加え、軍事組織で育ってきた影響なのか言われたことだけを忠実にこなす……そんな性格に彼女はなってしまったらしい。そんな子を『普通の人』に戻せとは大変な任務だな、こりゃ。 とりあえず、今日はレイの家を訪ねて、明日からのスケジュールの打ち合わせをする事になった。レイの部屋の中に入った、俺は呆然となった。コ、コンクリートがむき出しの壁。そして物は生活必需品の家具と道具しかない。 ここには、女の子らしさどころか、人間味が感じられない。たとえお金がなくて物が買えなかったとしても、普通ならこうもっと生活感があるはずである。これはとても中学2年の部屋じゃないぞ。 そして、その部屋の主である、綾波レイ本人は無機質な冷たい表情で俺を見ていた。 「……レイ、今後のスケジュールの打ち合わせを始めたいんだけど、いいかな」 思わず、その態度に尻込み気味に話してしまう俺。 「はい」 やっぱり返事も軍隊的と言うか、無機質的と言うか……子供らしさがまったくない。はぁっ〜、いったいこの子を今までどんな風に育てたんだよ、碇司令は。 「レイ、とりあえず今日は『東京ハンズ』に行くぞ。すぐ支度しろ」 「とうきょう、はんず……」 「とえあえず、この無機質な部屋をなんとかしなきゃあかんだろ。ほら、行くぞ」 「それは命令ですか?」 その言葉に俺は思わず、ガクッときてしまった。なんでそういう発想が出て来るんだよ、コイツは。 「とにかく行くぞ、レイ」 この調子じゃ『命令じゃないよ』とか言っても、レイはその本当の意味はわからず困惑するだけだろう。だから俺はあえて、レイの答えにまとめな返答をしなかった。 「……はい、わかりました。前原3尉」 とりあえず、予算の関係上、それほど大規模な物は買えないので、ウサギのベットのシーツと水色の壁紙だけを購入した。さっそく飾りつけを行ったが、うん、これだけでもさっきの無機質な空間よりはぐっと良くなった。 雑貨を買った東京ハンズでもレイは相変わらずで、普通の女の子なら興味を示すであろう、ブランド物のバックや化粧品にも一切関心を示さなかった。 できる限りレイの気に入った物を購入させようとしたのだが、彼女には買いたいものなど何もないようだ。仕方なく俺は自分の判断で適当に買い物を済ませる他なかった。 この日の夜、俺はレイの学習面での教育係りも任されているので、彼女の成績をチェックするために一通りテストをやらせてみた。 「な、なんだ、なんだこの点数は!?」 お、俺が教えられる事なんて何もないぞ。英語100点、理科97点、数学98点、社会96点。おいおい、結構難しい問題用意したのに。 「レイ、お前、頭いいな。碇司令に勉強は相当やらされたのか?」 「はい」 だが、国語の採点をした時は別の意味で俺は驚きの渦に巻き込まれた。……他のテストであれだけ素晴らしい成績なのに8……8点しかねぇなのか!? って言うかこれ、漢字以外、全部不正解じゃねぇか。 どうも感情表現が混ざる問題になると、まったく回答ができなくなるらしい。俺は、今後の勉強は普通の中学生がやるような事はさせずに、大学の心理学やボランティア活動のレポート、読書感想文のような感性に磨きをかけるものをやらせる事にした。 その後、2人で夕食を食べることになった。レイがテストをやっている間に張り切って料理をしていたのだ。 ふふふ、今日は自慢の手羽先だ。コラーゲンがたっぷり入っていて、お肌にもいいんだぞ。 「ほら、レイ召し上がれ」 自信満々で料理を出した俺だったのだが、その自信はあっさりと消滅する。 「嫌い、肉……嫌い」 ガ〜ン、出会って始めて示してくれた感情表現がそれかよ! 手間暇かけて作った俺の手羽先はなんだったんだ〜!! 「好き嫌いせずに食べるんだ、レイ!」 「……命令なら、命令なら従います」 レイ、お前声が震えているぞ。この子がこんなに激しく動揺するなんて、そんなに肉が嫌いなのか。はぁっ〜。 「わかった。そこまで苦手なのに食べさせるのは酷だろう。レイ、お前食べたい物はなんだ?」 「……なんでもいい。でも肉は嫌い……」 結局、俺は買い物に行き、仕方がなく肉が入っていないコンビ二弁当を購入することになった。自慢の料理作ったって言うのに、何が嬉しくてコンビニ弁当なんて食わないかんのだ、くそっ。 『トゥルルル、トゥルルル』 電話か・・・・・・こんな時間に一体誰だ? すぐに席を立って、受話器を取る。 「前原3尉ね」 「あっ、はい」 赤木博士だ、あの忙しい人がわざわざ電話するなんて、どんな用件だ? 「あなたは明日の始業式から第3新東京市中学校の2−B組の担任になってもらうわ」 「はっ、はぁ〜!?」 おいおい、なんでいきなり学校の先生になるんだよ俺が。 「レイのクラスの担任よ。学校側にはNERVから頼んで承諾をもらっているわ。教員免許は持っているんだし問題ないでしょ」 「でも、いきなりそんな事言われても授業の準備とか間に合いませんよ」 「大丈夫よ。授業担当の方はあなたが得意な社会科だけでいいから」 はぁ〜っ、簡単に言ってくれるぜ。たかが中学校と言えども教えるのは結構大変なんだぞ。政経は最新の知識が必要だし、歴史も生徒の質問に答えるためには膨大な知識が必要だしな。 「まぁ、NERVを止めない限り、命令拒否はできないから頑張って教師やりなさい。詳しい事は今度書類で渡すから」 あ〜あ、やっぱり断れてないって事か。 「了解しました」 前原進と綾波レイの新生活が始まった。今年中に使徒の襲来も予想されている・・・・・・果たして2人は今後どうなっていくのだろうか。その長い物語の開始のチャイムが鳴っている。 今日からレイの学校生活が再開された。俺も担任の教師として教育実習以外では生まれて始めての教壇に立つ。まずは生徒達に自己紹介だ。 「おはよう。2−B組の担任をする事になった前原進だ。新任教師なので何かと不慣れだが、みんなよろしく!」 『ざわざわざわ』 って、クラスの奴全員おしゃべりに夢中で全然聞いていねぇぞ。はぁっ〜、まぁ学校なんてこんなもんか。そんなクラスの賑やかな盛り上がりの中でレイはぽつんと運動場の方を見ていた。 仕方のねぇ奴だ・・・・・・ひとつ話し掛けにいくとするか。 「おい、レイ。なんだ一人しけた顔でぽつんといやがって」 「前原3尉・・・・・・」 「少しは友達と会話とかしろ、お前は。暗い、暗すぎるぞ綾波レイ!」 「それは命令ですか」 「言うと思ったぜ。命令だ、命令。とりあえず今日中に一人友達作れ、わかったな」 上の指示にはひたすら忠実に従う彼女のことだ・・・・・・命令と言う事にしておけばなんとか友達を作ろうとするだろう。 ひとりの女の子がひょっこりと顔を出してきた。 「あれ、あなた誰ですか? 教室内に部外者は立入り禁止ですよ」 おかしなポーズでガクっと倒れていく俺。真面目そうなニキビ顔の少女だが、さっきの俺の自己紹介は聞いてなかったようだ。 「部外者じゃなくて、俺は新担任の前原進だ!」 「あっ、そうだったんですか。すいません。私また根堀先生が担任になるかと思ったもので」 「ああ、その先生が担任になるはずだったんだけど、NERVの通達でレイのクラスは俺が担当するように言われたんだ」 「えっ、と言うことはNERVの関係者なんですか」 「ああ、そうだ。ところで君、名前は」 「私、洞木ヒカリと言います。みんなには委員長って呼ばれてます。よろしくお願いします」 その時、ふとレイを見ると、顔がうろうろと、あっち向いたり、こっち向いたりしていた。命令遂行のために何をどうしたらいいのかさっぱりわからないんだなアレは。 仕方がない・・・・・・俺はレイの手をとり、洞木さんの前に引っ張っていく。 「洞木さん。この根暗女の事、知っているか?」 「根、根暗女って先生それはあんまりじゃ。レイさんなら1年生の時も同じクラスでしたよ」 「だったら悪いけど、こいつの事、ちったぁかまってくれ。ちとわけありで、昨日からレイの保護者になったんだが、レイはコミュニケーションと言う言葉をまったく知らねぇんだ」 「あっ、はいわかりました」 「そういうわけだから、レイ、挨拶しろ」 「・・・・・・こんばんわ」 「ええこんばんわ。じゃ、改めて自己紹介。洞木ヒカリです。趣味は料理と音楽鑑賞よ」 ・・・・・・趣味か。そう言えば、レイの奴って趣味もなさそうだな。まったく今までどんな風に育ったんだかこいつは。果たしてレイはヒカリさんを始めての友達にできるのであろうか? とっても不安である 後書き どうも、始めまして(?)こんばんわ。トマトです。このSSはタイトル名を見ても分かる通り「綾波育成計画」をベースに書いています。ただ、かなり我流のアレンジを施しているため、ゲームとは違う設定がたくさんあります。 主人公の前原進(まえはらすすむ)は完全なオリキャラです。彼とレイ以外のキャラは全員脇役になると思います。使徒戦もレイにばかり負担が掛かる可能性あり。次回どうなるかは作者にもわかりません(苦笑)。 次回予告 (声:前原進) 「ついに未知の生物使徒が、第3新東京市に姿を現した。戦自の最新兵器も通じない使徒に対抗するため、人類の切り札『エヴァンゲリオン』が出撃する。果たしてエヴァは使徒に対抗する力を持っているのだろうか? 『綾波成長計画』、第2話使徒対決。次回もお楽しみに。えっ、つまらないからもう見ない!? ちょっと待てよ!」 |