第3話 『LRSの始まり』



 しばらくNERVでエヴァの訓練に集中していたシンジ君が初めて学校にやって来た。転校生が来ると言うことで学校中は大騒ぎだ。おかげで俺は大変困っている。

 「洞木さん……誰も俺の授業聞いてくれねぇよ……」

 「困ったモンですね。でも、みんなセカンドインパクトの話には飽きてますし。前の担任の根堀先生に耳がタコになるほど聞いてるんです。あの先生、数学の時間でもセカンドインパクトの事を話すんですよ」

 なるほど。あの人意外に、熱血先生なわけね。

 「……飽きてるって言いながら変ですけど、前原先生もセカンドインパクトの時は大変だったんですか?」

 「……」

 思わず沈黙してしまった。俺の頭の中で蘇るのは、そこそこ生活が苦しかった高校時代と結構お気楽に過ごした大学時代の記憶だけ……。

 思い出せない。何も何も思い出せない。頭の中は真っ白だ。

 「どうしたんです。……聞いちゃいけなかったんでしょうか?」

 「いや、覚えてないんだ何も。俺は記憶がない」

 地獄、セカンドインパクトの地獄。隕石の落下から始まった悲劇……いや、本当の原因は隕石ではないらしが。

 人口減少、津波、飢餓、紛争、犯罪……様々なものをセカンドインパクトは引き起こした。だが、俺は知らない。暗黒の時代を経験したはずなのに、その闇の世界は記憶の彼方へと消えてしまっている。

 「……私の家は幸い、姉と妹も生きてますけど、お母さんは死んでしまいました。お父さんは仕事の関係でほとんど家にいませんので、事実上、子供だけの3人暮らしです」

 「じゃあ、まだまだ治安も悪いし、色々気をつけないとな」

 ちょっと気取って教師らしい事を言ってみた。俺の性格(ガラ)じゃないのに。

 「ええ。そうしてます」



 昼食の時間、俺は先生のくせに教室で弁当を食うことにした。どんな時でもレイの観察をするのが俺の仕事だからな。

 さて、既にシンジ君はエヴァのパイロットだと言うことがバレてしまい、すっかり彼はクラスの注目の的になってしまった。だが、ここに既に1年以上学校に通い続けながら、まったくその事が クラスメイトに知られてない少女がいる。

 「レイ、お前本当に人付き合いないな。……男でも作ったらどうだ?」

 「男……彼氏ですか?」

 「それは命令ですか?」

 「また出たな。ええい、命令だ、命令! あくまで中学生のモラルを守って、できるだけ早く彼氏を作ること。最初のうちはうまくいかなくてもしょうがないけど、自分から積極的に人と会話していくんだぞ 。例えば、同僚のシンジ君とかいいんじゃないか。わかったなレイ!」

 「はい、了解しました」

 おいおい、レイ、本当に意味わかってるんだろうな?



 ……俺はこの時、想像もしていなかった、軽い気持ちで言ったこの言葉が、後に人類の運命も左右するきっかけをつくる事になるとは。






 休日の日曜日、レイと一緒に、ブラブラと公園に散歩している時に、偶然シンジ君と出くわした。

 「あれ、前原先生と綾波さん」

 「ああ、シンジ君か。どうだ、学校には慣れたか」

 「人付き合いうまくないんで、まだまだですけど、思ったよりはうまくいってるかな」

 「そうか。まぁ学校だけじゃなくて、エヴァの訓練もあるから大変だとは思うが頑張ってくれ」

 「……ええ。でも学校やエヴァの訓練よりも家事が疲れます。ミサトさん、家事と名のつくものを、な〜んにもやってくれないんだから」

 俺はこの時、きっとあの人も忙しいからだろうと思っていたが、そういう問題ではなかったことを後日しみじみと思い知らされる事になる。

 さて、まったく会話に加わろうとしないレイに対して俺はポンと方を叩いてから、ちょっと鋭い目で睨み、彼女に何でもいいからしゃべるように催促する。

 「……」

 「……」

 「……」

 レイは何かを必死に話そうとするが、普段、命令に関すること以外は一切口にしないため、いざ普通の話をしようとすると何を言えばいいのかまったくわからなくなっている。

 無言の沈黙タイムが1分近く経過した。さすがに俺も沈黙を切らして、無理やりにでも話をするようにレイを誘導させることにした。

 「レイ、まず挨拶でもしろ」

 「……こんにちわ」

 「あ、綾波……こんにちわ」

 なんだかとてもぎこちない、2人の挨拶である。普通なら出会ってすぐに終わる事なのだが、異様に長い時間が掛かっている。

 「……」

 次の話題が出てこずに、また固まるレイ。まったくしょうがない奴だ。

 「ほら、勉強の成績の事とか聞いてみろ。来月にはもう中間テストもあるんだぞ」

 「……は、はい。あ、あの碇君、勉強の方はどう?」

 「あんまり進んでないよ。勉強以外にやる事多すぎでさ。綾波さんはどう?」

 「国語が全然出来ないわ。他の教科は問題ないけれど」

 「そっか。あっ、前原さん、僕これからエヴァの訓練あるんで失礼します」

 「おお、大変だな。じゃぁな」

  レイは無表情で去っていくシンジ君を目で追っていた。……やれやれ、コイツが普通の女の子のように会話ができるようになる日は遠そうだな。







 第3使徒戦から三週間。今まで学校を休んでいた鈴原トウジと言う生徒が学校に登校してきた。

 「そうか今までずっと妹さんの看病をしてたのか。それは大変だったな」

 「ええ、ホンマはいつまた急変するかわからんのですが、いつまでも病院につきっきりと言うわけにもいきまへんし」

 あの戦闘、一般市民の大半はシェルターに逃げて無事だったはずだが、やはり逃げ遅れてしまった人もいたのか。この前、生徒達が『あれだけの事件、死者がいないわけがない』と噂していたが、案外当たっているかもな。



 昼放課、鈴原君は友人らしい相田ケンスケと2人で雑談をしていた。

 「なに〜、ケンスケ、あの転校生がロボットのパイロットやて」

 「ああ、間違いないよ。問い詰めたら本人も認めたし」

 トウジ君は急に凄まじい形相になり、つかつかとシンジ君の前に歩いていく。ただならぬ鈴原君の様子に唖然とするシンジ君。ちなみに近くにいるレイはそれをボケ〜ッと見ている。

 「転校生、今から屋上についてこいや!」

 「……う、うん、まぁいいけど」

 鈴原君の勢いに押され、たじたじになりながらシンジ君は屋上へと引っ張られていった。……ちょっとこれはヤバイかもしれないな。

 「レイ、俺について来てくれ」

 「はい、わかりました」

 仲介役が必要になるかもしれないので、女の子であるレイをつれて俺達は2人の後を追っていった。



 

 


 2人に気づかれないように屋上のドアをちょっと開けて様子をみると、鈴原君がシンジ君の服を思いっきり引っ張っていた。

 「あの人……どうして碇君を?」

 珍しくレイの方から俺に発言してくる。……しかしこいつ、鈴原君の名前もまともに覚えてないんだな。

 「転校生、わしはお前を殴らなあかんのや」

 強烈な右ストレートがシンジ君の顔面を襲い掛かる。それを避けようともしないシンジ君。その結果、当然パンチをまともにくらう。さらに激しい衝撃で体は地面へと崩れ落ちる。

 シンジ君からぽたぽたと赤い血が流れ出す。一瞬、これはさすがにやばいので止めに行こうかとも思ったが、よく見るとただの鼻血らしい。鈴原君の気持ちも分かるし、あんまり先生面して出シャバリたくはない、もうちょっと静観していよう。

 「おまえの下手くそな操縦のせいで妹が瓦礫の下敷きになったんや! 今もずっと入院中で、いつあの世にいってもおかしくない状態なんやぞ。いったいどうしてくれるねん!」

 「……僕だって乗りたくて乗ってるんじゃないのに」

 その言葉にカッときたのか、もう一発トウジ君はシンジ君を殴る。再びシンジ君の体は崩れ落ちる。……それにしてもシンジ君はまったく抵抗をしない。普通の子なら絶対に殴り返して大喧嘩になるのに。

 俺の隣にいたレイが屋上のドアを完全に開いて、仰向けになって倒れているシンジ君の前へと駆け寄る。そしてボケットからテイッシュを取り出す。

 「鼻血……拭いたほうがいいわ」

 「……ありがとう綾波」

 へぇっ〜、レイのやつが自分から、ちょっと意外だな。

 さすがに女の子が出てきてやりにくくなったのか、トウジ君はぺっとつばを吐くと、屋上を離れようとする。当然、途中で屋上にある唯一のドアのそばにいる俺と出くわす。

 「……まさか、先生、見とったんですか」

 「ああ、最初から全部」

 「これからお説教タイムですか。まぁわいは全然かまいまへんけどな」

 妹の件が原因だから、長々と叱っても無駄であろう。むしろ反発を覚えるだけかもしれない。ここは手短に済ませる事にしよう。

 「トウジ君、これだけは言っておこう。あの化け物が攻めてきた日、シンジ君はあの巨大ロボットに乗ってから1週間しか経ってなかった。彼はそれまであの巨大ロボットは見たことも聞いたこともなかったんだよ。でもエヴァに乗れる特殊な素質を持つ人間はシンジ君だけだったから 、半分強制的にエヴァに乗せられたんだ」

 「……それはホンマですか?」

 「ああ、本当だ。一応秘密事項だから外には漏らすなよ。俺の話はそれだけだ」

 俺の小言に効果があったかどうかはわからないが、トウジ君は黙って教室へと戻っていった。それからしばらくして、シンジ君の鼻血も止まった様なので、そろそろ俺も職員室へと戻ろうと思っていたところに携帯電話が鳴った。

 「はい、前原ですが」

 「緊急事態よ、また使徒が攻めてきたわ。今すぐエヴァパイロットをNERV本部へと向かわせて」

 なに〜、今きっとシンジ君は精神的に動揺しているぞ。わずかな精神状態がシンクロ率へ多大な影響を及ばすエヴァの特性を考えると、相当やばいぞこれは」

 「わかりました。パイロットには俺からすぐに伝えます」



 使徒、第3新東京市を破滅へと向かわせる謎に包まれた使者。その脅威に立ち向かうのは14歳の少年と少女。






後書き

  トウジの関西弁はまったく自信がありません。間違った関西弁だらけだと思いますがご了承ください。またストーリーの展開上、シンジとレイがいきなりラブラブにはなりませんので、それも勘弁してください 。なんか謝ってばっかりだ(汗)こんないい加減な作品ですが感想メール待ってます。



次回予告 (声:碇シンジ)

 「第4の使徒は2本の鞭で攻撃をしてくる強敵であった。接近戦でも長距離戦でも勝つことが出来ず成すすべがないシンジ。零号機も動かすことはできない。全員が絶望する中、前原の心の中で謎の声が響き渡る。綾波成長計画、第4話『謎の声』、次回は僕の出番が多いらしいです 。






綾吉 :というわけでトマトさんからの投稿作品「綾波成長計画」第3話でした!
レイ  :心配ないわ、碇君は私が守るもの・・・フフフ(いっちゃった笑顔で)
綾吉 :・・・・あの〜レイさん
レイ  :何?
綾吉 :次回のことより今回の感想をお願いしたいんですが・・・?
レイ  :ふふ、倒れた碇君を甲斐甲斐しく介抱する私。好感度アップね
綾吉 :確かにね、良かったねLRSな展開になりつつあって
レイ  :当然よその為に・・・いえ何でもないわ
綾吉 :ちょっと待て!何をしたっ?
レイ  :おかしなこと言うわね、何もしてないわよ(ニヤリ)
綾吉 :・・・・・・・・・ガタガタブルブル
レイ  :皆さん、読み終わったら感想をお願いしますね。作者さんの一番の活力剤ですから


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