第4話 『謎の声』



  使徒が日本の領海内に進入してきた。そして、そのまま第3進東京市に進行中。使徒は2本の光の鞭のようなものを武器にして戦いに挑む様子である。

 「前は15年のブランク、今回はたったの3週間、まさに女性に嫌われるタイプね」

 ……ミサトさんがぼやいている。

 さて、エヴァが動く前にはなんとか使徒をやっつけてしまおうと、戦略自衛隊はその面子と意地に賭けて、核兵器と生物兵器を除くありとあらゆる攻撃を仕掛けるがまったくの無駄。使徒へのダメージはゼロ。

 前回同様、国連の指示で使徒殲滅に対する作戦権限はすぐにNERVへと移行される。

 この戦い、零号機は今だに修理が完全には終了していないためか、とりあえずシンジ君だけで単独出撃することになった。

 「シンジ君、準備はいいわね」

 「……はい」

 高速エレベータで地上へと向かう初号機。その中に搭乗しているシンジ君は何やらぶつぶつと独り言を繰り返している。

 出撃直後に本格的な戦闘はすぐに始まる。戦いは接近戦になるが、使徒の長い鞭に翻弄され初号機はプログナイフを突き刺すことが出来る至近距離には近づけない。

 「敵と距離をとって。長距離戦に切り替えるわよ」

 ミサトさんの指示でさっと後方に退くシンジ君。前回の戦いよりもかなり軽快な動きである。

 「シンジ君、パレットガンで攻撃よ」
 
 初号機は背中についていたパレットガンを構え持つ。使徒は様子を見ているのかまったく動こうとしない。そんな使徒に対して初号機は銃を連射する。




 「……碇君、撃ち過ぎね」

 うわっ、驚いた。いつの間にか俺の隣にいたレイがぼそっとつぶやく。しかし俺としてはこのままどんどんパレットガンを撃ちまくって攻撃すればよさそうに思えるんだが……。どういう事だ?




 『はぁっ〜、はぁっ〜、はぁっ〜、はぁっ〜』

 モニターを通してシンジ君の荒い息が聞こえてきた。銃の引き金をカチャカチャと引いているものの弾が発射されない。どうやら弾切れのようだ。

 パレットガンを連射した影響で戦場にはものすごい煙幕が立ち上がっている。特に初号機の前方は一面真っ白な世界になっており、何も見えない。

 「あのバカ……」

 ミサトさんの言葉とほぼ同時に初号機が使徒の腕に掴まれる。煙幕のせいでシンジ君も含めた全員が敵の接近にまったく気づかなかった。

 そして、使徒は初号機を上空へと思いっきり投げ飛ばした。

 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 受身をとることもできず、空中へと大激突する初号機。そのダメージは大きいらしい。シンジ君は初号機を再び戦闘態勢へと戻すためにかなり時間を掛けてしまった。

 ただ、その間に使徒が積極的な行動に出なかったのが幸運だった。もし使徒があの鞭を初号機に向かって振り回されていたとしたら、すぐに敗北は確定してしまった事だろう。

 しかし、接近戦も遠距離戦もダメとなると打つ手がない。ここはもう……。

 「私を出してください。お願いします」

 青い髪の少女が自分が出撃すればよいと堂々と主張する。

 「そうね、それしかなさそうね。リツコ、エヴァ零号機の調整は済んでいるわよね?」

 「ええ。まだ85%ほどしか修理は済んでないけど。強行出撃できないことはないわ。外国にいる碇司令に許可貰うからちょっと待ってて」

 そうだ、もうレイが出るしか手はないだろう。

 「ダメだ。出撃は許可しない」

 「し、司令しかし……」

 おいおい、この状況でいったいどうやってシンジ君一人で敵を倒せっていうんだ?

 「引き続き初号機単独で使徒の殲滅にあたれ。以上だ」

 そして司令はガチャと電話を切ってしまったらしい。マ、マジかよ! いったいどういうつもりなんだよあの男は!



 その後、初号機は使徒に対して防戦一方の展開になる。なんとか素早い鞭の攻撃をかわし続け致命的なダメージは受けていない。戦いは長期戦になってきた。

 こうなってくるとスタミナの勝負だ。いったい使徒とシンジ君、どちらが体力的に持つんだろうか。

 「まさか使徒には疲労と言うものがない……って言う事はないわよね」

 まるで勢いが衰えない使徒にミサトさんは焦り始めている。

 「相手は未知の生物、残念ながら完全には否定できないわね。まぁそれよりも今はシンジ君の心拍数が極端に上がってきているのが問題だけど。もうすぐ頭の動きが鈍くなってくるでしょうね、彼」

 こんな状況でも冷静そのものの赤木博士。でもそれって相当やばい状況なんじゃ……。



 赤木博士の予想は的中し、だんだんとシンジ君に疲労の色が見えてきた。 だんだんと息が激しくなってきており、顔から大量の汗が出ているのが確認できる。もちろんこれは疲れが出ている証拠である。

 そんなスタミナ切れしている感があるシンジ君に向かって使徒はとんだ。

 「あのエヴァの巨体の頭上を超えた。とんでもないジャンプ力だわ」

 そして上空から急降下。エヴァに向かって落下の勢いも加えて鞭を突き刺そうとする。なんとかこれをよけるシンジ君。だが、アンビリカブルケーブルが切断されてしまった。

 「初号機、内部電源に切り替わりました。活動限界まであと4分54秒」
  
 ま、まずい。これでもう長期戦に持ち込む作戦もとれなくなった。ここは玉砕を覚悟の上で攻撃をするしかない。

 もちろんそんな無謀な攻撃が使徒へ通じるはずもない。疲れも見え始めたシンジ君は使徒にボコボコにやられてしまう。しまいには2本の鞭で体を持ち上げられ山の中へと投げつけられてしまう有様だ。

 「いてててぇ……!!……えっ、さっきの奴、一体どうして?」

 「民間人じゃない!」

 あっ、あれは鈴原君と相田君。おいおいなんでこんな所にいるんだよ! まずい、この状況で初号機が下手に戦ったらあの2人を踏み潰してしまうぞ。



 「ケンスケ、どないすんねん」

 「ううっ、そう言われても、ええと、うんと……」



 どうするんだよ一体。まさかあいつら見殺しにするわけにもいかないし。……だがNERVならそれをやりかねないか?

 対処に迷う作戦部長を無視して現場にいるシンジ君が独断で行動に移る。2人をエヴァの中に乗せるためにエントリープラグを地上に降ろしたのだ。

 「シンジ君、勝手な行動は止めなさい」

 ミサトさんの言葉は使徒殲滅を優先するならもっともな言葉だ。だが、俺は自分自身でも驚くべき発言をしてしまった。



 「いや、シンジ君それでいい。2人をエントリープラグに入れろ!」

 な、なにを言ってるだ俺は?

 発令所のメンバー全員から唖然とした視線が俺に集まる。当然の事だ。いったい何を言っているんだ俺は?
 
 ……作戦権限がある葛城さんは、俺の言葉を当然無視した。




 さて、現場の方はシンジ君がミサトさんの命令に従わずエヴァの中に2人を無許可で収容してしまった。その影響で初号機のシンクロ率は20%台にまで低下する。

 使徒は再度攻撃を仕掛けるためにじりじりと初号機に迫ってくる。シンジ君にはこれに対抗する方法がない。

 「初号機活動可能時間、残り1分20秒」

 まずい、もう時間もないぞ。

 「退却よシンジ君。S−23地点から訓練通りに脱出してちょうだい」

 だが、なんとシンジ君はこの命令にも従わない。刻々と活動限界時間が迫る初号機。

 「もう1分切ってるよ」

 「なぁ転校生! 逃げろ言うとるで」

 ダメだ、もう今から逃げてもS−23地点にたどり着く前にエヴァは制限時間をオーバーしてしまう。だからと言って使徒に無理やり突撃しても……勝てるわけが……ない???




 (これで使徒を倒せる。…………と同じようにな)

 えっ!? 誰だ!?

               




 「逃げちゃダメだ! 逃げちゃダメだ! 逃げちゃダメだ! うおぉぉぉぉぉぉぉぉ」

 使徒に向かって無謀にも突進する初号機。この自殺同然の行為に発令所は大混乱だ。

 「シンジ君、やめなさい!」

 使徒の鞭が伸びてくる。それをかわす事ができず、モロにどてっぱらにくらう初号機。シンクロシステムと通してダメージはシンジ君にも伝わっているようで痛そうに腹を押さえている。

 「あのバカ!」

 ミサトさんの言うとおり自業自得である。



 (本当に何もわかってないよな、ミサトさんって)

 どういう意味だよ!!





  しかし、なんと初号機は腹に敵の鞭が突き刺さったまま敵に突進していった。ダメージなどまるでないかのような凄いスピードだ。

 得意の鞭攻撃が通用しないとあっては使徒もなすすべがない。同時に動揺も大きいのか防御の姿勢すら取れていない。チャンスだ、まさか勝てるのか?

 ここがチャンスとばかりに初号機はエントリープラグを抜き出し攻撃の構えにはいった。

 「でいやぁぁぁぁぁぁぁ!」

 使徒の弱点であるコアにプログイフを突き刺す初号機。狙いは見事に命中し急所の真ん中にプログナイフは刺さった。

 『ぎゃぉぉぉぉぉぉ〜〜〜〜』

  奇妙な嬌声を上げ、人間で言えばまるで肺に刃物が刺さったかのようにもがき苦しむ使徒。

 「活動時間残り15秒」

 戦いは完全に時間との勝負になっていた。なんとしても時間内に使徒のコアを完全に破壊しなければならない。発令所の全員がその戦いの様子を心配そうに見守る中……俺には心のどこかで確信があった。

 この戦い勝てると、絶対に勝てると。

 「5、4、3、2、1、0……初号機活動停止」

 「同時にパターン青消滅。使徒殲滅です」

 発令所のみんなから大きな喜びの歓声が上がった。俺の隣にいたレイもにっこりと笑顔を見せてくれた。コイツのこんな良い顔を見るのは初めてだ。



 でも、なんだったんだろう。俺の中で聞こえてきたあの声は一体……なんだったんだろう。





後書き

  前回に引き続き今回の使徒戦もほとんど原作をそのまま書いただけです(汗) さて、前原の過去は彼自身も記憶喪失のために覚えていないんですが、その失われた記憶が物語の重要な鍵を握ります。まぁ詳しいことは物語の続編をお楽しみに。感想メールを送ると執筆速度UPするよ♪(爆) 



次回予告 (声:葛城ミサト)

 「葛城ミサトの命令により一緒に仲良く禁固刑にになってしまったシンジと前原。そこで暇つぶしに色々な話をする事になった2人。牢屋の中で彼らには先の戦いで奇妙な共通点があったことが発覚する。次回、綾波成長計画『共通点』うう〜、なんか私って嫌な女みたいに書かれてるじゃない。これじゃサービスできないわ」






 綾吉 :トマトさんからの投稿作品「綾波成長計画」4話を公開しました〜
 レイ  :・・・まともな判断の出来ない司令は用済み・・司令交代ね
 綾吉 :(無視)しかし、あの謎の声は一体何だろうね?
 レイ  :興味ないわ。それより碇君が独房って何故?
 綾吉 :命令違反だからでしょ?
 レイ  :使徒は倒したわ
 綾吉 :倒せばいいと言うものでもないのでは?ミサトさんにとっては
 レイ  :あの無能指揮官と無能科学者・・・まともな作戦も立てられないくせに、零号機も修理できないくせに碇君を独房に・・・許せないわ。司令もろとも殲滅ね
 綾吉 :・・・いってらっさい。皆さん、SSを読んだら感想を送りましょうね〜。では!
 



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